ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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56、エスポワール

 

 

 

 

 盾を改良していた男子2人は、一段落付いた頃に合流してきた2人の女子を見て驚愕した。明らかに、そして段違いに美しさのレベルが上がっていたのである。それは最早別人と言ってもよいものであった。元から超絶美少女のミシェルは更にその美しさに磨きが掛かり、もう1人のリュシー=ブランも、運び込まれた時はボコボコの姿しか分からなかったが、現在では怪我も完全に回復しており、健康そのものでスタイル抜群な女子に生まれ変わっていて、溌剌とした健康美の化身と化していた。その少し癖のあるショートの赤毛と相まって、ドラマに出てくる部活の後輩系女子のような雰囲気を感じさせた。

 

 

「リュシー=ブランっす! このたびはありがとうございました!! 貴女がナギ=シュトルバーンさんッスね! 話は大方聞かせて貰いました!」

 

「お、おう…どういたしまして?」

 

「そして貴方がアンリ=ルフェーブル君っすね! お噂はかねがね! いやぁ、かーわいいッスね!」

 

「は、はぁ……」

 

 

 

 男子2人は困惑しながらも、積極的に親密に接してくる彼女を受け入れた。アンリが若干女慣れしてない童貞の反応そのものだったが、それを見て見ぬ振りをするほどの情けがそこにいた人々にはあった。

 ともあれ、異常に男子2人に好感度が高い彼女だったが、それは見捨てられた反動だという。どうやら、彼女は普段からいじめまではいかないものの、かなりぞんざいに扱われていたらしい。そこに、例の魔人達が襲撃をかけてきて、囮にされたとの事。しかし、そんないじめられてきたパーティーも一目散に逃げるような相手を一方的に下したナギと、凄まじい装備の製作者であるアンリの話を散々聞かされて、会う前から好感度が爆上げになったとの事だ。

 ライトブリンガーが珍しくぼやいていた。話が終わらなかった、と。

 

 

 

 挨拶が終わり、リュシーはかなりの空腹を訴えていたので、ナギとアンリの2人は一旦作業を終了して、料理に取りかかった。最近はアンリもかなり役に立っていた。というか主力になりつつあった。そもそも鍛冶組合の後継者として英才教育を施されていたアンリだが、料理についても叩き込まれていたし、その材料の選定眼も確かな物であったため、料理のグレードも上がっていた。使っている材料が深淵~深奥級の材料であるため、味については言うまでもないし、食べれば食べるほど全員の肉体レベルや霊力が限界を超えて上昇している事に皆気づいてはいたが、そこに言及はしなかった。

 美味ければヨシであるし、それで成長できるならば言うこともナシである。

 

 

 そうして出来上がった料理に飛びつかんばかりに手を付けたリュシー。そして、ミシェル。何故か2人共恐ろしい程に空腹だったようであり、リュシーは貪らんばかりの勢いで料理を消費し始めた。泣きながら「うめ……うめ……」と、どこかで見たような光景をみせながら食べる姿は同情を誘った。ちなみにミシェルもいつも通りマナーは完璧ながら、そのスピードが凄まじく。気付けばいつの間にか皿が空になっていた。

 

 

 食事を終えた4人は、今後の事を話し合う。とりあえず、怪我をしていたリュシーは疲れもあるだろうということで、この場所でもう1泊する事となった。盾の改良などの作業が途中だった男子2人も、それは願ったり叶ったりだったので快諾した。

 

 

 そして、その夜──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:女子会】

 

 

 

「へ~。ミシェルさんって、どっかで聞いたことあるような名前と見た目だったっすけど、私の街のお姫様だったんすねぇ……こりゃ、とんだご無礼な態度をしてしまって申し訳ねぇっす」

 

 

 深夜。それぞれの部屋をあてがわれた女子2人は、こっそりと合流して女子会を開いていた。リュシーは今日一日に起きた怒濤のような出来事に興奮して。そして、ミシェルは久方ぶりの気兼ねしなくてもよい同年代の女子仲間と話せることを楽しみにして。彼女達は、2時間では到底話し尽くせないことが山ほどあった。ここにラブやんがいたら、呆れてスリープモードになっていただろう。

 

 

「いや、本当に気にしないで。私もあそこを出たらただの一般人だから」

 

「よく言うっすよ! そんな見た目して頭も良くて、霊力もダイバーより高いって、詐欺に近いっす! 一般人詐欺っす!」

 

「詐欺って貴女……。まぁ、確かに私は何でも出来たけど、それでもこの瘴気の中じゃちっぽけな存在だったわ。……そんな中で、彼は本当に輝いてたけど」

 

「あ~ね。思いました。アレはしょうが無いっす。確かに超絶イケメンって程じゃ無いけど、妙に人を引きつけるパワーが強いんすよね。いや、一般人の私から見たらマジでイケメンなんですけど。それで、この絶望を覆す存在、英雄ってなったら。それに超ピンチだったところを救ってくれたんすよね? マジで英雄譚じゃないっすか! とらわれの姫を助け出す騎士そのものっす!! そりゃ惚れちゃうし、アンリ君も振っちゃいますよ」

 

 

 唐突に始まる恋愛話。ミシェルはその初めての経験を誰かに話したくてたまらなかったのだ。しかし、今までは状況が許さなかったため出来なかった。そこに、政治も男も関係の無い女子が来たらそうなるのは当然の事だった。普段なら絶対に触れ合うことも無い2人だが、この異常な状況がそれを可能にしていた。

 

 

「もう…! お願いだからその話は内緒よ! 私が報告する前にバレたら、いくら貴女でも打ち首にでもされかねないわ」

 

「ゲッ……絶対に黙っときやす! いやでも、アンリ君はアンリ君で超有望株っすよね? ちょーカワイイし」

 

「……そうなのよね……あの子、今までは弟としか見れてなかったんだけど、この一連の騒動で、私を一部でも追い抜かすほどに成長したわ。そして本当にいい男になっちゃった。正直今のあの子ならいいって思ってたんだけどね。実は私から振ったんじゃ無くて、あの子から私を振ったのよ?」

 

「マジすか……貴女を振るような、そんな男いるんすか…?」

 

「だから、いい男なの。あの子は自分の一番大事な物を見付けた。そして、その信念を貫こうとした。私と対等になるために。だから、婚約者という取引じゃ無く、私と対等に渡り合えるためにそれを解消したのよ。正直その信念に殉じた眼を見た時はドキッとしたわ……。でもね、ナギくんはナギくんで、おそらく世界を救うような使命がある。だから、私と平和に添い遂げようという気はないんじゃないかしらね」

 

「っは~~もったいな! それなら私が食べちゃいたいくらいっすよ! いや、冗談っすけどね! 経験も無いし! でも、それじゃ貴女は……」

 

「ふふ……私が諦めるわけないじゃない。私はね、あんなにいい男達を絶対にほっとかない。有象無象にくれてやるわけにはいかないの。欲しいモノは必ず手に入れる主義でね」

 

「おぉ! 領主っぽくなってきたっす! でも、いいなぁ~。私もそんないい男達と恋愛の駆け引きできるような人生送りたかったっす……」

 

 

 そのリュシーの言葉に、ミシェルは絶句する。この娘だって、今ではかなりの美少女だ。男なんて引く手あまただろう。そして、今の価値観のままでは悪い男に食い物にされるだろう。高確率で、見捨てたパーティーが擦り寄ってくると見た。そして、そのツテを辿って恐らく自分にも接触してくる。そんな未来がありありと見えた。

 

 

「何言ってるの。貴女、自分の変化に気付いてないの? ……まぁいいわ。確か貴女、パーティーでぞんざいに扱われて見捨てられたって言ってたわよね?」

 

「えぇ……暴力までは無かったっすけど、それに近いイジメはありましたし」

 

「ならば、私が拾っても問題ないわよね。貴女、私の従者になりなさい」

 

「えぇっ! そんな、無理っす!」

 

「大丈夫、こき使ったりなんかしないわ。それに、私と色々なことを学べば、貴女もより強くなれる。……見返したいでしょう? 貴女を見捨てた人たちを」

 

 

 ミシェルはリュシーを煽る。そして、その反応を確かめようとした。

 

 

「いえ……別にそこまでは…世話にもなってるし。ただ、見捨てられたときは流石に悲しかったっすけど」

 

 

 やはりそうだ。この娘はフローレスなのだ。純粋すぎて、人を憎めない。よく今まで無事だったものだ。聞いた話では、セクハラもかなりあったようだし。ならば、それを利用しよう、とミシェルは決意した。そうしなければ、この娘は高確率で不幸になる。知り合って、ここまで胸襟を開いて語り合った友人と呼べるべき人物を不幸にしたくなかった。

 

 

「そう。ならば尚更私の所に来なさい。貴女次第だけど、今のままじゃ貴女の状況は変わらない。むしろ悪化するわ。私なら貴女を救える。こんなチャンスは今だけなのよ? それに、私の秘密の話も聞いた。ならば、私の側に仕えるのが筋ってものじゃないかしら」

 

「えぇ…そりゃズルいっすよ! ……でもまぁ、確かにお世話にはなったから恩返ししなきゃとは思ってたっすけどね。ん~……」

 

 

 かなり迷ってる。ならば畳みかける、とばかりにミシェルは追撃する。

 

「私はね……こんなに話が出来たのは初めてなの。幼い頃から婚約者を付けられて、友達と呼べる者もいない。馬鹿な話をしたり、恋バナをしたりすることなんて出来なかった……。だからね、私はこれからもずっとこんなくだらない話をしたいの。一緒になって笑って泣いて、沢山思い出を作りたいの。貴女に願うのは、たったそれだけなの。だから……お願い」

 

「うっ……そのお顔でそんなお願いされちゃ…あーもう! わかったっす!! でも私は底辺産まれで、なんの取り柄もないっすよ!? それでもいいっすか?」

 

 

 密かに思い通りの展開になったとほくそ笑むミシェル。そんな自分に若干辟易したが、それでも彼女の言葉は嘘では無かった。ただし、かなり誘導している部分はあったが。そして、今、願いが叶ってリュシーは陥落した。今回の事件は、彼女の中で様々な出逢いと変化をもたらしたが、このことは、ナギの事を抜けばかなり大きな成果だろう。願いが叶い、花のような笑みを浮かべ、ミシェルはリュシーに言った。

 

 

「もちろんよ! ありがとう!」

 

 

 

 何でも出来る少女は、欲しいモノは絶対に手に入れる。そのためならばどんな手を使ってでもやり遂げる。果たして、彼女に狙われたら逃れる術はあるのだろうか。

 少女達の夜は更けて、それでも尚、止まらない語り合いは続いていく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:男子会】

 

 

 

 

「なぁ、あの盾をどういじくったら吸収率が上がるってんだ?」

 

「だから、素材の比率ですって。ナギさんの提案だと、最高の素材同士がケンカしちゃうんですよ。それじゃあ吸収率が上がるわけが無い。上手く混じらせて調和しないと」

 

「じゃあ何か? 素材の比率を落とせってか?」

 

「そう言ってます」

 

『なるほど…その視点はありませんでした。では、アダマンタイトの比率を30%ほど落とすでいかがでしょう?』

 

「もっとだね。むしろアダマンタイトはいらないんじゃないかなぁ。アレって結構我が強いんだよね。配合に相当苦労するし」

 

「げっ、そうしたら防御に不安がでねぇか?」

 

「どのような使い方をするかですよ。ナギさんは基本避けるか斬り払うかじゃないですか。だったら吸収機能一択に絞ってもいいんじゃないですか?」

 

『ほうほう。それはいい考えかもしれません。ただ、どうしてもの場面があったら苦しいのでは?』

 

「それ以外の素材の防御力でも相当だからね。僕がやるならほぼ絶対な防御力になると思う。それに、再生機能が付いてるならば万が一の時でも問題ないんじゃない?」

 

 

 彼等は盾の比率についての激論を遅くまで交わしていた。アンリがナギの部屋に相談しに来たときからずっとその話だ。アンリは自分の技術に確固たる自信がついてからというもの、物怖じをしなくなった。そして、機能についてラブやんと意見を交わし合うほどの理論を持つことができていた。

 もう彼はいっぱしの匠だ。ナギも、今は彼の意見を最重要にして作成に当たるほどだ。最高の素材と存分に対話し、実践的な武具の作成を恐ろしいほど濃密にこなして成功させてきた彼は、むしろこの世界でも指折りのマイスターだろう。

 

 

「う~む…アンリがそう言うなら、俺も使い方の概念を変えていかなきゃなぁ。だけど、お前さんはもう一つ作るんだろ? そっちはどうすんだ?」

 

「お嬢様のですか? そうですね……そっちは逆に防御面を強化しますね。お嬢様は貴方ほど強力な相手と闘うことは、これからはほぼ無いでしょう。どうしてもあるとしたら低級魔人か、人か。暗黒領域で言えば精々中層です。あの蜘蛛は例外でしたけど。だから、不意打ちに反応できるように軽く、そこそこの属性攻撃ならば吸収し、それでも全身をカバーできる大きさ。そして美麗な装飾。これが求められる事かと思っています」

 

『今の意見を参照すれば、全体の重さを40%カットして、その中から吸収石30%、オリハルコン20%、アダマンタイト20%、ミスリル30%、といった所ですかね?』

 

「うん。おおむねそうかな。ただ、やっぱりアダマンタイトは10でオリハルコン30かな。その方が魔術使いのお嬢様をサポートできるし、吸収効率も上がる」

 

「【悲報】アダマンタイト君、避けられがち」

 

「いや、別にアダマンタイトはアダマンタイトで想像を絶する程の良素材だと思うんです。鍛冶屋垂涎ですね。だからこそ貴方の鎧にもふんだんに使いましたし、一つの大剣はむしろそれがメインでしょう? でもね、この素材は1つ、かなりの難点があって」

 

「あぁ、それか。確かにな」

 

『? 何でしょうか』

 

「物理的に重いんだよ。相当な。お前風に言うならば、一般の鉄素材より50パーセント以上重い。持つ方は大変だ。俺はともかくな。だからミシェルには少しキツイ素材かもしれん。俺の盾みたいに自動で浮遊する機能は難しいからな」

 

『ははぁ、なるほど。持ち手の筋力も想定に入れなければなりませんでしたか。それを考慮すれば確かにそうですね。というか、貴方の盾は自動では無く私が制御してるのですが』

 

 

 この3人は、ナギの鎧だけで無く、ミシェルの盾まで作ろうと画策していた。この街の地下でミシェルがあわや寄生されそうになって、その必要性を全員が強く感じたのがきっかけだ。ミシェルは片手剣使いで、両手持ちはしない。だからこそ、空いた片手に盾を持てば、攻防そろう。

 

 

「そういや、新しく来たあの娘、装備が貧弱だったな。ろくな装備も無く深層近くまで来たのか」

 

「……ちょっと可哀想ですよね。本人も言ってましたけど、ぞんざいな扱いを受けてたからでしょうけれど」

 

「お? 目移りしたか? あの子も可愛かったからなぁ」

 

「ちょっと! そんなんじゃありませんってば。僕としては、あんな貧相な禄に鍛えてもいないような装備でこの状況下に置かれたのが許せないって事ですよ。何のために鍛冶屋がいるのかと」

 

「まぁなぁ…じゃあ作ってみっか?」

 

「えぇ……? それが出来るのが一番ですが、また時間掛かりますよ?」

 

「そこは説得だろうよ。どうやらあの2人も仲良くくっちゃべってるみたいだし、しばらくは許してくれんだろ」

 

「そりゃ、それができれば一番ですけどね…。まぁ、できればと言うことで。優先はお嬢様の装備、そして貴方の装備です」

 

「ま、そりゃそうだ。そこにもし追加できればって事だな。……そういや、あのリュシーって娘の属性聞いてないな」

 

「そう言えば……ただ、装備の内容、剣の使い方から見て僕は何となく分かりますけどね」

 

「!? マジ? いや、俺は別の方法で何となく分かるんだが。じゃあいっせーので言ってみようか?」

 

「いいですよ。違ったら面白いですね」

 

「そんときゃ、メシかなんかで賭けでもやるか。いくぞ! いっせーのーで」

 

 

 

 

「「風」」

 

 

 

 そうして、彼等の夜も更けていく。彼等はその後恋バナに移行し、ミシェルの昔の話や、ナギの昔の話などに花を咲かせた。アンリは思春期と言うことも有り、当然シモの話にもなり、馬鹿笑いしながら男子トークを楽しんだ。それを聞いていたラブやんも、後半は呆れていた。

 

 

 

 

 

 

『何をやっているのだか……女性と違って、こっちはまた別方向で変ですね……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の朝、盛大に寝坊した4人は、昼頃になって活動を再開。遅めの朝食をとると、今後の話をし始めた。だが、寝坊したこともあり、出発は延期となった。

 その後すぐに、盾の作成やリュシーの装備の更新の交渉をナギがミシェルに行ったが、早く帰りたいはずのミシェルは意外にも快諾し、5日の猶予を得た。その間、ミシェルはリュシーとやる事があるらしい。それもまた男子達は気になったが、期限が決められているため、急いで取りかかった。実質4日で完成を目指す。それはかなりの突貫作業になる事を意味していた。

 

 

 

 男子組は、全力でまず盾作成に取り組んだ。概要は散々話し合ったため、設計はすぐにできた。そして、炉も完成して持ち運びしていたため、比較的簡単に取り組むことができた。取り組んでしまえば、後はやるだけだ。流れるように槌を打ち、鍛えるアンリ。その間、機械パーツを整備するナギ。事前に取り決めした比率で、正確に型に嵌めてつくるアンリの手際は、ナギにプレッシャーを掛けた。負けじとナギも作業を早め、僅か半日でナギの盾は完成した。無骨な機械仕立ての盾は、流麗な装飾付きで、美しく輝くメカニカルな盾に生まれ変わり、その性能も格段に向上した。

 それが終われば次はミシェルの盾だ。機械パーツがない分、アンリの1人作業となるが、ナギも手伝えるところは極力手伝う。しかし、いくつもの伝説級装備を製作してきたアンリは、作業に慣れ始め、その効率もかなり上がっていた。予想完成日数を2日に設定していたが、僅か1日で装飾まですべて完成させ、2つの伝説級の盾を合計一日半で完成させる結果となった。流石にアンリも疲労困憊となり、半日寝込んでしまったが。

 

 3日目。リュシーの装備にいよいよ取りかかる。

 リュシーはこの3日間のミシェルとの特訓と、超豪華な食事により、その基本性能を大幅に上げていた。そのため、使う材料も奮発しようとなったし、ミシェルから豪華な装飾を付けてくれとの依頼があったので、遠慮無く取り掛かった。

 

 

 鎧は胸当てと手甲、腰当てに草擦り、膝甲と軽装備だ。よって、ミシェルの鎧ほどは時間が掛からない。とは言え、重労働であるのは間違いないため、気合いを入れて臨む。2人の推察通り、リュシーは風属性だったため、なるべくそれを邪魔しない構造が求められた。また、軽戦士として機敏に動くためにオリハルコンを中心とした比率で打ち始めた。今回は元の装備は型として使い、使い回さなかったため、一からの作業だったが、むしろその方が早く作成が進んだ。また、今回は服の部分が多かったため、深奥の城で見付けた衣装をミシェルが縫い直してくれた。また、どうしてもマントを着けて欲しいとナギが強く主張したため、風受け用のマントもミシェルが縫うことになった。

 2日後、装飾まで豪華に、そして、最高の素材を用いた鎧が完成し、更にそこから剣の製作に入った。帰りの準備の事を考えると1日オーバーだが、それでも最高の装備を作りたいとアンリが交渉し、承諾された。

 剣については、レイピアなためにそこまで時間が掛からない。しかし、最高の装備を作らんとする匠が手を抜く事などありえず、変わらず真剣な、魂すら込めそうな気迫で剣を打った結果、これまた伝説級のレイピアが完成した。完成した武具はナギが受け取り、アンリがやったように深層の濃い瘴気に晒して浄化を繰り返して鍛えた。

 

 その結果、ミシェルの物とは方向性が違うが、軽戦士の鎧としては伝説級の、これまた恐ろしい機能を搭載した装備が完成し、リュシーはその性能に震え上がった。

 

「いや、こんな凄い装備受け取れねぇっす! 値段考えただけでも目眩しそうっす!」

 

 と、ビビりちらしながら拒否しようとするリュシーだったが、ミシェルが何やら耳打ちしてリュシーは諦めた顔になり、最終的にはありがたく受け取っていた。

 しかし、その分の対価は払うとそこは譲らなかったため、それならミシェルがその分を俺たちに立て替えて、リュシーは労働の対価としてミシェルに支払う事となった。……何やら陰謀の匂いが微かにしたが、リュシー以外の全員はそこをスルーする事にした。

 

 

 

 その後、結局疲労困憊で再びアンリが1日寝込み、最終的にはリュシーを助けてから6日後に旅立つ事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここももうお別れね……」

 

「なんか、街よりも過ごしやすかったっす。また来たいっすね」

 

「私達の街も、貴女がもっと過ごしやすいように努力しなきゃね」

 

「や! そんな意味じゃなくて! ここは人が居なくて、あの街にはいろんな人が居るから……」

 

「ふふ…分かってるわ。冗談よ。でも、私もやるべき事が見つかって良かったわ」

 

「しっかし、確かにここは住みやすいな。その内人が来れる様に整備しなきゃならんな」

 

「……ここは思い出深いです。初めて解放した人間の街だからかな。ところで、ここの街の名前ってなんだったんでしょうね」

 

 

 俺たちは顔を見合わせた。確かに、「ここ」とか、「この街」としか呼んでなかった。

 

 

「……エスポワール」

 

 

 ミシェルが呟いた。エスポワール……希望? 

 

 

「この街は、私達人類が初めて解放した街。希望の象徴。だからエスポワール。どう?」

 

 

 なるほど。それはいい。他の2人も文句無さそうだ。代表して、俺が答えよう。

 

 

「いいね、それ。よし、ここはエスポワールだ!」

 

「また来ましょうね。出来ればみんなで」

 

「そうだな。きっとそうしような」

 

「さようなら、エスポワール」

 

「おいおい、ミシェル。それじゃこれでお別れみてぇじゃんか。そーいう時は、こう言うんだぜ?」

 

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

またな(アスタ・ラ・ビスタ)!」

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