ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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59、決戦

 

 

 

 

 

「……本当にあるのか?」

 

 

 全身をフル装備で包んだマリウスが暗黒嘯(ダークネスタイド)が起きるかを訊ねる。彼も今だに半信半疑だが、無理もない。根拠は全てマリアの勘という曖昧なものであるから。

 

 しかし、マリアは力強く肯定した。

 

 

「必ず起きます。貴方達はむしろはぐれない事を心配しなさい」

 

 

 そう断言されては、マリウスもそれ以上は何も言えない。微かに舌打ちをし、改めて装備や仲間を繋ぐハーネスの再確認を始めた。

 彼らはマンサナレス市街跡地に来ていた。ここは、新しいマドリーから北へ4レグア(約22キロ)程の地点だ。

 かつては中層で、平坦ではあるが古城跡地区や、市街地跡地などの遺跡が並び、生息する魔物もかなり強かった。故にリターンも大きく、ベテランダイバーの狩場でもあったが、現在では浅層程度の瘴気に収まっており中層の魔物は逃げ出していた。その代わりに浅層の魔物が入って来た為、ダイバー達にとってはリターンが強くてローリスクな場所として絶大な人気を誇っている。

 他の場所も美味しいのだが、ここは格段に旨みが強い。ダイバーが集まるスポットでもあったが、そこで暗黒嘯(ダークネスタイド)が最近多発していた。

 偶然人が集まる所に起きる。それは偶然と言うにはあまりにもわざとらしかった。

 

 マリアは、それこそコルテスが誘っているのだと確信していた。

 

 

「エル、サラ。また貴方達と組めて嬉しい」

 

「あぁ! こっちこそな! お前も元気そうで何よりだ。派手に活躍してるみたいだな」

 

「アンタの噂はこっちまで届いてたよ。頑張ったね」

 

「ありがとう。でもそれは貴方達もそうでしょ?」

 

 

 フロウは、久しぶりに会う友人達に言葉を掛けたが、かつての仲間からは労いの言葉が返ってきた。しかし、それを言うのはフロウの方だ。まさか、この決戦で再び共闘できるとは思っていなかった。エルとサラは、マリウスの元で同じく過酷な訓練を受けていることは知っていた。しかし、その実力が大いに伸びて、現在では彼等は金剛石級(ダイアモンドクラス)に匹敵するほどになっていた。ダイバーで言えばベテランの域だ。しかし、暗黒領域の動き方として言えば絶対的に経験不足ではあるため、単純な戦闘能力を比較した結果ではあるが。

 何故彼等が選ばれたのかと言えば、彼等がごく稀に発現した光を抜いた3属性使いだったからだ。2属性を開眼した人員の中に彼等が入っていた。エルは雷と風を、サラは火と土を。そして、めきめきと実力を伸ばし、今に至る。

 

 彼等も彼等で血の滲むような努力を重ねてきたのだ。だからこそここにいる。3年前の悲劇を繰り返さないために。彼等は人生を生き急ぐような勢いで模擬戦や鍛錬をこなし、他のダイバーから一目置かれるようになった。それは、彼等に二つ名が付いたことからも伺える。

 エルは【熱血(サングイン)】、サラは【情熱(パシオン)】だ。この2人は似ていて、しかも合っているから面白い。ちなみに、フロウは【希望(エスペランサ)】だそうだ。もはや属性が関係ないが、6属性を持つフロウらしい称号と言えるかもしれない。

 

 

「……公爵級魔人。常識の通じる相手ではない」

 

「あぁ。しかしあの魔王ほどじゃないはずだ。ならば勝ちの目はある。今の俺達には〝光〟がついてる故な」

 

「そーだよー。気楽に、そして情熱的に行こうねー」

 

 

 白金級(プラチナクラス)のパーティーにして、自身も金剛石級(ダイアモンドクラス)の3名、【幻影(イルージオ)】エレーナ、【傀儡(マリオネッタ)】アイヴァン、【雷霆(トルメンタ)】ルチアがそれぞれ闘志を燃やす。彼等もあれから鍛え直し、それぞれが白金級(プラチナクラス)に迫る程の実力を手にしている。そして彼等はベテランだ。文句なしの人選と言えよう。

 

 

 

「……来ましたね」

 

 

 

 突然、マリアが声を上げる。即座に反応する全員。そして、彼等は瞬時に察知した。瘴気が後方に引き始めていることに。

 これは、暗黒嘯(ダークネスタイド)の前兆。つまり、数十秒以内に暗黒嘯(ダークネスタイド)が来るということだ。

 

 

「……マジで来やがった。ババアの妄想かと思ったが、割と正解だったって事か……腕が鳴るぜ」

 

「次にその単語を発したら処しますよ? それにマリウス、生半可な相手ではありませんからね」

 

「分かってんだよ、んなことはよぉ! だが、俺は公爵級魔人の相手は初めてなんだ。魔王には太刀打ちできなかったが、コイツにはどれぐらい通じるか、試してみてぇんだ。俺が俺であるためにな!!」

 

「……はぁ。貴方はその方がいいのかしらね。頼むから初手で撃沈しないでね」

 

「うるせぇ! 誰に言ってやがる!」

 

「脳筋の貴方によ」

 

 

 

 

 

 白金級(プラチナクラス)の2人は、瘴気の大波が近づいてきても余裕があった。他の者達は流石に緊張を隠せず、身体同士を繋ぐハーネスを確認していたが、その2人の様子を見て、少し緊張が和らいだ。

 

 

 

 

「来るわ。備えなさい」

 

 

 

 

 マリアが冷静に言った一秒後、凄まじい勢いの瘴気の大波が来て、彼等は瘴気の渦に飲み込まれていった。フロウはその時、渦巻き、上下左右も分からぬ瘴気の渦の中で、光の霊力を保ちつつ、一緒に巻き込まれている岩などを砕きながら必死に耐えた。これが暗黒嘯(ダークネスタイド)か、と。恐ろしい状況なのにも冷静に分析している自分もいた。

 

 大波は容赦なく周辺の岩などを巻き込みながら、彼等を押し流し、そして急速に引いていった。その瘴気の波を起こした発生地点へと向かって──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着きましたよ。サッサと起きなさい。喰われるわよ?」

 

 

 

 フロウがその言葉を聞いてハッと目覚める。いつの間にか気絶してしまったようだ。頭から血が出ていたので、レクペラ草の軟膏を塗り込む。どうやら小さな欠片が掠ってしまったようだ。危なかった。他の面々はといえば……。

 

 

「うっ…う~ん……はっ! ヤベ!」

 

「目が回って気絶しちゃった……危なかったわ…」

 

 

 エルとサラは、自分と同じく気絶していたようだ。自分だけでなくてホッとした。しかし、上級ダイバー達は平気な顔をして起きている。そこにベテランとの違いを見せつけられたような気がした。

 

 辺りを見渡せば、恐ろしい景色の森。いや、これは最早森と言うよりは地獄の入り口の様なものだ。木々の様なモノは菌糸にまみれ、枝の所々から人面のようなモノがせり出している。色はピンクや紫でおよそ通常の植物には見えない。木々の間には蜘蛛の巣のような灰色の糸が隈無く張り巡らされ、そこから無数の糸に包まれた球体が垂れ下がっている。地面は腐り果てたようなモノに覆われ、黒ずみ、吹き出物のような穴が無数に空いている。

 

 

「ここが……深層?」

 

「そーねー。深層でもかなりの危険地帯ね。通常のダイバーじゃあっという間にエサだねぇ」

 

 

 【雷霆(トルメンタ)】ルチアが、エルの疑問に答えてくれた。自分たちだけだと本当に危なかった。何故なら、そこかしこに気持ち悪い生物がひしめいているからだ。気絶している人間など格好の餌食だろう。

 

 

「かなり長い時間流された。ここは私たちの街からは恐ろしく遠い地点でしょう。20レグア(約110キロ)では到底利かない距離でしょうね」

 

「警戒。相当数の深層級に取り囲まれている」

 

 

 【傀儡(マリオネッタ)】アイヴァンと、【幻影(イルージオ)】エレーナが状況を解説し、警戒を促している。既に臨戦態勢だ。アイヴァンはゴーレムを出し、エレーナは水属性でうっすらと姿が見え辛くなっていってる。しかし、それをマリアが止めた。

 

 

「貴方達、決戦までは無駄な霊力を使わないで節約してくださいな。()()()()ならば、私が引き受けます」

 

 

 マリアが言うと同時に、両袖からギミック剣を取り出す。二振りのこの剣は、特殊な鋼と構造で出来ている。どんな構造かと言えば……。

 

 

 

 シュパッ!

 

 

 

 マリアの両腕がしなって見えなくなった。それと同時に、両手から鞭の様にしなる長い剣が複数の敵を斬り刻み、核ごと両断していた。

 

 

「ひゅ~やるねぇ。さすがはマドリー最強の女だな!」

 

「くだらないことを言っていないで、先に進みますよ。恐らくこの近辺にコルテスが待っているはず。雑魚敵に消耗させられたくない」

 

 

 マリアは、伸ばしていた剣を一振りし、元の長剣へと戻す、それは、蛇腹剣と呼ばれるマリア専用の武器である。これは、深奥から彼女が持ち帰った貴重な隕鉄を、当代1の鍛冶屋に製作を依頼し、完成させた物だ。この剣は構造が弱いことが弱点とされるが、それも過去の度重なる遠征や激闘によりバージョンアップを重ねており、不壊に近い強度を獲得している。これを両手に持ち、攻撃するのが彼女のスタイルだ。この蛇腹剣を操るマリアの攻撃をかいくぐることは容易ではなく、近寄ろうとする敵は軒並みバラバラにされてしまう。武器も凄いが、何よりも操る本人の性能も高く、最高戦果が単独での侯爵級魔人の撃破という偉業を達成している。

 

 

 付近一帯は、マリアの攻撃に沈められた気持ち悪い敵の死骸が散乱しているが、その死骸を目指して近づいてくる気配もある。故に、マリアは進むことを提案した。その意見には一同も反対する余地は無かったので従う。

 

 

「マリア、進む方向は分かっているの?」

 

「当然です。私がどれほどこの状況を頭の中でシミュレーションしてきたか。コルテスはこの森を抜けた先にいます。少なくとも魔物が跋扈するこの危険地帯にはいないでしょう。しかし、それ程離れてはいない。折角集めた〝材料〟を確保するために。そして、よく見れば未踏の地に見えて、ヒト型の生物が通る道のような物が整備されている。この道を辿ればたどり着けるでしょう」

 

「……違ったら? その道も魔物のものかもよ?」

 

「魔物ならばもっと無秩序です。これは明らかに人為的なもので、理性もある。よく見なさいな。靴跡がある」

 

 

 フロウが尋ねると、即座に答えを返すマリア。そして、マリアの言うとおり、僅かではあるが靴の跡が見て取れた。これは魔物ではありえない。よってかなり高い確率で魔人に準ずる痕跡である。フロウはその瞬時の観察力と決断力に舌を巻いた。

 

 

 マリアはこの闘いに全てを賭けている。今までよりも精神を研ぎ澄まし、僅かな変化も見逃さない。張り詰めているようで、それでいて静かだ。まるで落雷の直前の様に。その張り詰めた精神が漲る霊力となって周囲に溢れ出している。それは、かつての白金級(プラチナクラス)最強のダイバーが、本気を出した姿であった。

 

 

「よーし。じゃあ行こうぜ。いけ好かねぇ糞野郎をブチ殺しにな」

 

 

 同じように霊力が溢れているマリウスが気炎をあげる。この2人はやはり人類の最上位である。こんな深層の危険地帯でもそれは変わらず、頼もしい。彼等に導かれるように、パーティーメンバーは森の奥へと歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出てくる魔物は悉くマリアが瞬殺し、たまにマリウスがその拳で敵を粉砕する。倒した敵や、自生している植物などの採集は行わない。それよりも先を急ぐ事を優先している。そのため、驚くべきスピードで彼等は行軍を進めていた。

 

 

 

「……やっぱヤベぇな、あの人達はよ…」

 

「さすが人類の最高峰ってとこね。まだまだ壁は高いわ」

 

「まーねー。あの人、更に強くなってっし。ヤバいわ」

 

「私はマリアの方が興味ある。あの力、やはり尋常じゃ無い。長年ブランクがあった人間とは思えない」

 

「凄まじい研鑽の跡が見て取れる……まだまだ我々も頑張らねばならぬ」

 

「そりゃさー、この闘いに生き残ってからの話っしょ!」

 

「違いない」

 

 

 

 エル、サラが人類の最高峰に感嘆する会話に、【天上天下】のメンバーが乗ってきた。彼等は弟子同士として良好な関係を築けているようだ。しかし、警戒しながらではあるが、こんなに暢気に会話が出来るのには理由がある。

 

 

「しっかし、探索も楽になったもんだねー」

 

「あぁ。こんなに気持ちや身体が楽な状態で動けるなど、今までは無かった。ましてやここは深層だからな」

 

「光の霊力……これからはダイバーに取っては必須」

 

 

 そう、光の霊力の効果だ。光の霊力は、出していさえすれば、瘴気によって削られることが無い。自然消費量のみである。これによって、当然ながらダイバーの活動時間は大幅に上がった。戦闘に於いても、今まではダイバー達は常に霊力の消費に注意を向けながら闘わなければならなかったが、それが無くなったことで余裕を持って相手できるようになった。そして、光の霊力持ちは浄化の必要もない。それは大きな進歩だった。これまでは非常に大きなハンデを背負いながら活動しているようなものだったのだから、それが改善されるとなれば喜びは大きいだろう。

 

 

 

「貴方達。無駄話はそこまでよ」

 

「テメエら余裕だな。そろそろだからしっかり働けよ?」

 

 

 白金級(プラチナクラス)の2人が同時に声を上げる。2人の言うとおり、辺りは木々が減り、森の切れ目が見えてきていた。いよいよだ。恐らくこの先に、フェルナンド=コルテスはいる。他のメンバーはより一層気を引き締めた。

 

 

 

 

 そして、遂に──

 

 

 

 

 森が、開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは、アラン平原のような、なだらかな丘陵地帯だった。辺りには気持ちの悪い紫の雲が漂い、所々で奇妙な人面の巨石が埋もれている。草は相変わらず黒く染まっており、重苦しい瘴気は変わらない。ただし、森に比べれば、深層にもかかわらず平和な場所のように見える。少し進んだ先にある、どす黒い瘴気を放つ四角形で構成された未来的な建造物さえ無ければ。

 

 

 

「…………」

 

 

 

 マリアが厳しい顔でその建物を睨む。その場所は、明らかに瘴気の段階が一段階上だったからだ。

 

 

 

「……どうする?」

 

 

 

 マリウスが問う。高い確率で建物内にコルテスはいるだろう。しかし、出来るならばそれは避けたかった。この場所にさえも罠がありそうなのに、建物内などもってのほかだったからだ。ならばどうするか。

 

 

 

「……そうね。出て来ないのであれば、出て来ざるを得ないようにしてあげましょう」

 

 

 マリアが霊力を高める。その掌には、複数の属性が莫大な量で形を成していた。マリアの新たな属性は、火、土、雷である。そこに、元から存在した水が加わる。まずマリアは大きな土の円錐を作った。その中に、普通の霊力を込めて。そして、その円錐の土を雷と共に射出した。

 

 

 土の弾丸とも呼べるその円錐は、真っ直ぐ進んで建物に突き刺さる。その瞬間、マリアは土の中に詰めていた霊力を火と水へと最大出力で変換。その瞬間、円錐ごと大爆発を起こし、建物の一画が崩壊した。マリアが開発した新技である。大きく霊力を消費するが、その威力は莫大。そして、速度も尋常ではない為避けることも難しい。深奥級の魔物にも通じるであろう攻撃で、マリアが今使える全ての属性を活用した、恐ろしい技である。

 

 

 マリアはこれを挨拶代わりとした。必ずリアクションがあるだろうと信じて。なければ何発でもお見舞いして、そこから突入するだけだ。この拠点はコルテスの研究所だろう。ならば、それを破壊するのは彼への嫌がらせに他ならない。

 

 

 しばらくしてアクションが無かったため、続けてもう1発を放とうとした、その時

 

 

 

 

「あー流石にそれ以上壊されるのは困るな。吾輩が長年丹精込めて研究してきた結晶が中には詰まっているのでな」

 

 

 

 !!!

 

 

 

「出やがったな…!」

 

「先程の攻撃は複合属性かね? 素晴らしい! 君なら到達出来るのでは、とは思っていたが……それも光の影響か?」

 

「フェルナンド……」

 

 

 

 

 

 マリウスとマリアが反応し、全員が声のした方に振り返れば、まるで最初からそこにいたような雰囲気で、10メートルほど後方に総髪で壮年の、スーツの上に白衣を着た男が佇んでいた。 

 

 

 

「フェルナンド、久しぶりですね」

 

「これはこれはマリアよ。久しいな。貴様とはもう少し早くに会いたかったのだぞ?」

 

「どうせ研究材料としてでしょう? 昔から貴方は変わらない」

 

「貴様は変わった様だな。まぁ吾輩にとっては今の貴様の方がより魅力があるが」

 

「本当に変わらないわね。そんな貴方の目的は、コレ、でしょう?」

 

 

 マリアがその腕を掲げる。そして見せつける様にその光の霊力を強めた。

 

 

「そうそう! それだ! ……貴様は昔から気の利く弟子だったが、今もそうだったとはなぁ! 本当に師匠思いのいい弟子だ…」

 

「そうね。そんな師匠思いの最後の弟子が、貴方に最後の奉公をしにわざわざ来たわ。嬉しくて涙が出るでしょう?」

 

「そうさなぁ。1、2……7人も連れてくるとは大したものだ! お前たちの尊い献身を以て、吾輩は更なる高みへと昇る。喜ばしきことだ」

 

 

 俄に目の前の公爵級から瘴気が溢れ出す。やはり公爵級とは一般的な魔人とは一線を画している。その瘴気量は、人間の最高峰であるマリアの優に3倍はあった。戦闘していないでそれである。本気になればもっと出るだろう。しかしマリアも一歩も引かない。

 

 

「見解の違いね。私は貴方の犠牲によって、人類を平穏な世界に導くわ」

 

「ふむ……違うだろうマリア。貴様と私は目指すところは同じはず。ただ、その道筋が違うだけでな。貴様は結局は吾輩と変わらぬ」

 

「同じにしないで欲しいわね。貴方は結局人間から逃げただけの敗北者なのだから」

 

「進化と言いたまえ。人間のままでは不便が過ぎるでな」

 

「私は逃げなかった。おかげで貴方が絶対手にできない力を手に入れた」

 

 

 マリアも莫大な霊力を全身から滲ませる。それは人類の最高峰。例え深奥層でも通用するほどの圧倒的な霊力。

 

 

「ほう! 吾輩にその力が本気で扱えないと思うのかね? ならば、貴公らの身体を解体して研究して、手にして見せよう」

 

「話はもーいーか? サッサと始めようぜ!」

 

 

 舌戦を続ける2人にしびれを切らしたマリウスが、闘志を全開にして割り込んだ。彼は今にも飛びかかりそうだ。その様子に魔人は苦笑する。

 

 

 

「……貴公もなかなかなものだな。しかし、吾輩にとっては有象無象に過ぎん。貴様もマリアの後で丁寧に解体してやるから待っておれ」

 

「ケッ。魔人風情が……だったら、その前にテメェをブチ殺してやるぜぇ!!」

 

「マリウス。同時に行くわよ! 皆、打ち合わせ通りに!!」

 

 

 全員が戦闘態勢を完了させた。光の使者たちと、闇の魔人。その激しい激突が始まろうとしていた。

 

 

 

 

「来るがいい……吾輩はフェルナンド=コルテス。いずれ『神の座』に至る者の名だ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一般的に、人間は魔人に対しては圧倒的に不利である。そもそも魔人とは、人間が瘴気に染められ、その肉体は人間とはまるで異なり、強靭で無尽蔵のエネルギーを持つからである。肉体がより強靭な分、通常の人間相手よりもタチが悪い。ほぼ本能で動く魔物とは違い、人間の知恵を働かせて攻撃してくる為だ。また、彼等は奥の手として変身する能力がある。より力強く、より残虐に。魔物に近い姿へと変わる。魔物化へのリスクはあるが、それを差し置いても何段階もの力の向上が起きるために、より厄介になる。

 低級魔人ですらそれだ。これが中級(子爵〜伯爵級)になれば、それに加えて霊力の属性攻撃に匹敵する瘴気術を使用してくる。それは、人間がダイバー時代に習得していた術が主であるが、彼らはそれを瘴気で代用している。つまり、瘴気術と呼べるものである。伯爵級の上位になれば、自身の瘴気だけでなく、周囲の瘴気を活用して術を行うために、実質消費エネルギーは無限である。よって、伯爵級ともなれば、人間にとって非常に対処が難しい存在となる。

 そして、上級魔人(侯爵~公爵級)ともなれば、その脅威は災害に等しい。もともと上級のダイバーの成れ果てともいわれる彼等は、瘴気を手足のように扱えるようになり、攻撃に転用してくる。そして、上記の瘴気術に加え、肉体の再生・復元能力、部分変身、様々な特殊能力など、中級魔人とは一線を画す能力がある。彼等はその気になれば、周囲の瘴気だけで人間を潰すことが出来るのだ。彼らに万が一遭遇してしまったダイバーは、即座に逃げるか死ねと言われる存在なのである。ただし、彼等は深層以上には滅多に出てくることがない為、階級の低いダイバーにはあまり関係の無い話かもしれないが。

 

 

 つまるところ、ダイバーは彼等と常に絶対的な不利な状況で相対せざるを得ないのである。瘴気に霊力を削られ、周囲の魔物や環境に警戒しながら対処しなければならない。だからこそ、暗黒領域で魔人と対峙するのは圧倒的に不利なのだ。

 

 

 

 

 

 しかし今、公爵級魔人のフェルナンド=コルテスと相対するダイバー達は、そのような絶対的な不利な状況ではなく、かなり対等に近い状況で向かい合っていた。それは光の霊力によるもの。その恩恵は、圧倒的に有利な環境を覆した。深層という悪環境ではあるが、不利をかなり軽減できているのである。

 

 

 それでも、暗黒領域内で向かい合う公爵級という存在は伊達では無い。かつて、ダイバーの中では頂点だった存在。それが魔人になり、更にたゆまぬ研究や研鑽を重ねてきた存在。それが弱いはずが無い。むしろ、人間にとって出合っただけで死が確定する相手であり、それ以上となれば、深淵生物か、魔王ぐらいしかいない。

 同じく近隣に公爵級魔人がいたが、その魔人は圧倒的な力により向上心というものがまるで無かった。そんな事をしなくても圧倒的に強いが故に。

 しかし、コルテスは力を欲した。それが「神の座」に至ると確信していたからこそ。つまりコルテスは、公爵級の中でも抜きんでて強いのだ。自ら深淵に突入し、魔王へと謁見できるほどに。

 

 

 

 

 

 

 そんな災害にも等しい彼は、現在人間の最高峰、最強のダイバー2人の攻撃を悠々と躱しながら余裕の笑みを浮かべていた。彼は得物という得物を持っていない。しかし、その背中から射出する8本もの蛇腹剣が自由自在に動き回り、彼等を翻弄していた。マリアの師、コルテスは、その発想をかつてマリアから得ていた。そして、それを惜しげも無く活用している。その姿はまるで蜘蛛のようだ。

 

 

「……なるほど。あの時と同じというわけにはいきませんか」

 

「ククク……強えぇ! 相手にとって不足なしだぜぇ」

 

 

 幾度となく攻撃を弾かれた2人がぼやきに似たつぶやきを発する。拮抗しているように見えて、その実かなり押されている。単純な武器攻撃ですらそれだ。彼等の攻撃速度は音の衝撃を発するほどであるにも関わらず、余裕で迎撃され、反撃されている。

 

 

 しかし、このような事態は当然想定されていた。

 

 

 

 衝撃音。

 

 

 

 コルテスの周囲に光る霊力の塊が集まり、それが次々と属性へと変化して破裂した。続けて雷や炎の嵐が吹き荒れ、氷の弾丸が彼のいた辺りへと集中する。

 それらは全て、光の属性を帯びていた。

 

 

 

 一通りの攻撃を終え、再び吶喊する白金級(プラチナクラス)。公爵級魔人がその程度で死ぬはずが無いという確信をもっていたからこそ。而して、その懸念は当たる。

 

 

 

 シュパパパパン!

 

 

 

 無数の斬撃が破裂音と共に飛んでくる。それを慌てて防御する2人。しかし、その斬撃は先ほどのものとは速度も威力も桁違いのものだった。それにより、2人は複数箇所に傷を負った。特にマリウスは脇腹の傷が酷く、内蔵がはみ出しそうになっていた。

 

 

「くっ……いくら何でも少しはダメージねぇのかよ!」

 

 

 後方からフロウが飛び込み、水属性でマリウス中心に傷をふさぐ。水属性は極めれば、回復属性へと転じる。人体における細胞の7割が水分で出来ているが故に。それはマリアから教わった奥義である。それにより、致命傷に近かったマリウスも多少の怪我に収まり、更に後からエルとサラに軟膏を塗られ、傷口が完全に塞がった。

 

 その間、追撃をしてこなかったコルテスは、その様子をニヤニヤと観察していた。

 

 

「複数属性の配合。君達もその可能性に気付いたようだね。それに、サポート役の君も、水属性の使い方がよい。かなり極まっていると言えるだろう。君はマリアの弟子かね? 中々やるじゃないか。君の脳を開くのが楽しみだ」

 

「生憎、貴方にはあげないわ。その娘は私の弟子だもの」

 

「貴様の弟子ならば吾輩の弟子でもあるぞ? まぁ、拒否権は無いのだ。さて、貴公らの力はそんなものかね? だとすれば、光とは意外とたいしたものではないのだな」

 

 

 

 その言葉にマリウスが反応する前に、【幻影(イルージオ)】エレーナが叫ぶ。

 

 

「アレは幻影! あの姿に攻撃しても意味無い!!」

 

「ご名答」

 

 

 前面に立っていた幻影の姿が消え、背後から姿を表したコルテスは、8つの剣が背後のパーティーに襲いかかる。しかし、その剣の内2本はマリア、1本はマリウスが弾いた。残りの5本はそれぞれのダイバーへと向かった。エレーナとルチアは、それぞれの属性同調でやり過ごし、アイヴァンはゴーレムを貫かれながらも逸らした、しかし、残りの3本、エルは双剣で弾こうとしたが、肩に。サラは雷のスピードで躱そうとしたが脚をそれぞれ貫かれた。そして、フロウは無防備で立っていてその左胸の心臓を貫かれた──

 

 

 

「フロウ!!」

 

 

 エルが叫ぶ。しかし、貫かれたフロウはその場で微動だにしない。むしろ、その傷口からは一切の血も出てはおらず──

 

 

 

「!」

 

 

 

 弾かれた3本の蛇腹剣をコルテスがある地点に差し向けるも、その剣を流れるような動きで躱し、掠った部分は水の属性同調で無効化して接近し、その逆手剣をコルテスの核と思わしき部分に突き刺した。

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