ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
──運命の分岐点はどこだったのか。後の研究でもそれは議論されることが多い。それは英雄が武具製作のために何日か出発をずらした時だったか。それとも、現在は大都市であるエスポワールに彼らが初めて到達した時だったか。いや、それを言うならばそもそも、魔王から逃げ仰せた英雄が、姫を攫った魔人の城に到達してタイミングがかち合った時か。
いずれにせよ、マドリーの英雄達は、絶望的な討伐作戦中に、
時、場所、全てのタイミングがまるで物語に導かれたように彼等は邂逅を果たした。それが1日、いや、数時間ずれていただけでも、後の運命は大きく変わってしまっていただろう。
そう考えれば、なにやら大いなる力が働いていたのではと考える者も多い。中には、この地のどこかにおわす、光の神によるものであると主張する者もいて、それを支持する層が一定数いる。
あまりにも重なる
◇
「!? ば、馬鹿な…! お前は!!」
流石のコルテス達もその邂逅に驚き、自身の認識を疑った。しかし、その英雄にとってはその逡巡がまさに最大の隙を晒しているに他ならなかった。
驚き戸惑うコルテスの分体達に無慈悲な弾丸が降り注ぐ。それは一発一発がマリアの最大火力の複合魔術にも匹敵し、コルテスは防御態勢を慌てて取るも、その防御ごと削り取られて、形を保てずに爆散していく。
その間、凄まじい光を纏った英雄は、マリアとマリウスを拘束していた蛇腹剣を左手の大剣で破壊し、彼等を受け止める。そして、彼等を優しく下ろしたときには、コルテスの分体は物言わぬ肉塊へと変わり、そして光によって溶けていった。ただ1人、分体達を盾にしたコルテス1体のみが辛うじて生き残っていた。英雄は、コルテスに情報を吐かせるためにわざと残していた。
「おつかれさん。後は任せときな!」
「………運命。私は、賭けに、勝った……」
万感の思いを言葉に乗せ、マリアは言葉を紡ぎ出した。もう大丈夫。何故なら彼女は運命を掴み取ったのだから。それは、魔王に攫われて行方不明になっていた〝光を齎す者〟。生存は絶望的。ましてやこんな場所で遭遇するなどどれだけの確立だっただろうか。マリアも流石にコレは想定外だったし、計算には入れていなかった。正直に言えば、生き残る確率は非常に低いと踏んでいた。しかし、若年組、特にフロウは、その奇特な運命力により、その低い確率を覆すのではと考えていた。そして、マリアはそれに賭けていたのだ。
想定外だったのは、その運命の力が並のパワーでは無かったということ。この広い、どことも分からぬ深層で、このタイミングで彼が来るとは。それは、一切合切のシナリオをいい意味でブチ壊す。正に〝
「おっと、2人ともヤベェな! ミシェル! 治療を頼む!」
遅れて来た仲間に彼は声を掛ける。しかし、マリアは最後の力を振り絞って、〝光を齎す者〟に情報を伝える。
「まだ……中に本体が…。私の弟子、フロウ達がそこに……」
「な、なんだと……!? フロウ!? おい! 今フロウって言ったか!?」
しかし、それを伝え終わった瞬間、マリアは気絶した。というよりも、血を失いすぎて失神してしまったのだ。そのすぐ後に駆けつけたミシェルも慌てて2人の治療に当たる。急いで彼女の収納袋(エスポワール魔人の戦利品)から、上レクペラ草の抽出液(深層産)を2人の口に含ませた。その時、生き延びていたコルテスの分体が声を上げる。
「おい……おいおいおいおいおい!! 何故だ! 何故貴様がここにいる!!!」
「あ”あ”!? テメェには聞きたいことが山ほどあんだ。大人しく情報を吐いて貰うぜ!」
「くっ……まさか魔王を倒したか!? これもまた神の思し召しだとでもいうのか!?」
今、コルテスの脳裏では様々な可能性が浮かび、そして消えていった。しかし、どれも現実的では無い。まさに彼の思ったとおり、神の思し召しとしか思えない事象が起きてしまったのだ。
「そうだぜ? 俺としては都合が良かったな。まさかこんなところでテメェに会えて、しかも人助けまで出来るとはな! コルテス、テメェは必ず滅ぼすって言ったな。これから有言実行してやるぜ」
「まて! 吾輩を殺していいのか? 吾輩は貴様の知り合いを捕らえて、いつでも殺せる状態だぞ!!」
「……テメェの言ってる人質ってどんな奴だ?」
「フロウとかいう小娘と、エルとサラと呼ばれる同年代の仲間。此奴等は以前も貴様と共に会ったな。そして、アイヴァン、ルチア、エレーナだ。どうだ? 知っておるか?」
「エルとサラもか! …………あぁ。よーく知ってるぜ。だがな、そいつらは今中で元気に闘ってる最中だ。そうだろう?」
「何を根拠に!」
「俺が知ってるそいつらは、おめおめとテメェに捕まるような奴らじゃねぇ。これは俺の信頼ってやつだ」
「それは貴様の憶測にすぎ……ハッ、ま、まさか……」
「遅いんだよバーカ。もう大体の情報は手に入った。お前さんは用済みだぜ。じゃあな」
いつの間にかコルテスの目の前まで迫っていた彼に対し、コルテスは8本の剣を全て向けたが、時既に遅く、彼の背中から1本の光が生えた。そして、そのまま彼はそれを縦に引き上げて完全に消滅させた。
◆
【SIDE:ミシェル】
「ここからは時間との勝負だ」
ナギくんが宣言する。コルテスの分体は倒した。上級ダイバーと思わしき2人も助けた。しかし、彼らによればまだ本体がいるらしい。そしてそれを倒す為にナギの知り合いも含めたがあの施設の中にいる。彼はこれから単独で突入し、全てを救ってくると言った。それは彼の中で確定している事であるかのようだった。
……その知り合いは、彼にとって大切な人。私は分かってしまった。その表情と驚き方を見た時に。恐らく、だけど、彼が故郷を目指す意味の大部分はそのフロウって人の為ではないだろうか。そんな人が今、ピンチだ。私とは別のベクトルで危険な状況なのだろう。あんな経験をした私だけど、だからこそ助けたいし、彼は必ずそうする。でも、ほんの少しだけ、私だけを見てほしいという欲望が鎌首をもたげる。それはいけない事だ。
私は欲しいモノは手に入れたいし、これからは我が儘に生きる。ならばどうするか。
──こうする。
「待ってナギくん。この魔人は分体と言った。ならばもしかすると無限に湧いてくる可能性すらある。ナギくんが先行して、私達が背後から襲われる事にもなりかねないわ」
「む……確かにそうか…」
「私達もそれはごめんだわ。そこで代替案があるの」
「……まさか一緒に行くとかか?」
「正解。私達も決して邪魔にはならない様にするから!」
「う〜ん……確かに助けに行って新しく人質取られちゃ目も当てられないか……よし! みんなで行くぜ! ラブやん、怪我人を盾とマシンガンに乗っけて動かせるか?」
『無論可能ですが、霊力はその分消費しますよ?』
「へーきへーき。そのぐらい無いのと一緒。じゃあ時間もねぇ。ついて来てくれ!」
思惑通り、一緒に行くことになった。その人を見るまでは、どういう関係なのかは分からない。だけど、私は諦めない。必ずや……。
◇
【SIDE:天上天下】
激しい攻防が続く。ルチア、アイヴァン、エレーナの3名は、元
しかし、そんな戦闘を行っていたある瞬間。魔人の動きが止まる。
その隙を突いて、それぞれが回復薬を取りだして煽るが、魔人は止まったまま戦闘を開始する事も無い。3人は警戒しながらもその様子をうかがう。向こうから止まってくれるのであれば、それはこちらの狙いにも沿っているからだ。
しばらくして、魔人は狂ったように笑い出した。
「くくく…くはははは!! そんな、そんな事があろうとはな!!! 流石の吾輩も見通せなんだ! これは一体何なのだ!?」
「なにアイツ……遂にイカれた?」
「そんなタマではなかろう。何か不測の事態が起きたと見た」
「上? それとも下?」
3人が怪訝に思う中、笑いを止めたコルテスの雰囲気が圧倒的に増した。それは、瘴気という形で表れ、そしてその雰囲気も恐ろしく鋭くなる。これまでがまるで児戯だったと言わんばかりの様相である。
「……マズい。多分
「マジ~!? そうだったら流石にあの人達ヤバくない?」
「あの人達ならやりかねんが……それにしては雰囲気がおかしくないか?」
3人が戸惑う中。コルテスは背中の蛇腹剣を1本にまとめ、背中から切り離す。そして、それを瘴気で包み圧縮した。そこには一つのレイピアが完成していた。それは、今ではマリアしか知らないだろうが、コルテスが人間時代から愛用してきた武器種である。これまでの全方位を襲撃できるほどの汎用性は無いが、一点突破という点に於いては他者を寄せ付けないほどの極みまで到達したコルテス本来のスタイルである。
「……遊びは終いだ。これも『神』のシナリオ通りというのなら、吾輩はそれに反逆する。まずは貴公らだ」
「やっべ。ガチで今までとは比較になんないかも……」
「来る! アイヴァン!!」
「任せろ!!」
すぐさま金属ゴーレムを配置し、防御態勢を取る。その間エレーナが水蒸気をまき散らし、更に光を乱反射させることで濃霧と幻影が形成される。しかし──
ギィン!
金属音。そしてアイヴァンの金属ゴーレムが一体砕け散る。
「吾輩を舐めるなよ……吾輩こそは〝深淵の探求者〟にして、〝神への道を拓く者〟! 貴公ら人間如きには及びも付かぬ程存在の核が違うのだ!!」
コルテスの身体がブレ、次の瞬間には金属ゴーレム3体が同時に崩れ落ちた。
「幻惑が効いてない!?」
「馬鹿な……速すぎる!」
慌てて次のゴーレムを生成しようとしたが、コルテスが既にアイヴァンの眼前まで迫っており、緊急で鉄の盾を生成。しかし、それすら貫通してコルテスのレイピアはアイヴァンの身体を瞬時に6カ所穿った。
「がっ……!」
「アイヴァン!!」
エレーナが崩れ落ちる彼へと向かうが、幻影を駆使したエレーナの短剣がコルテスを貫いたと思った瞬間、コルテスの身体が煙の様に崩れ、そして背後からエレーナも何度も串刺しにされた。彼等は倒れこんだそばから、肉の壁へと取り込まれていった。
「な……! 2人共!?」
「安心するがいい……すぐには殺さん。だが、それなりの痛みは受けてもらうぞ」
「……ッ!」
バチッ!
ルチアは全身を雷属性へと転ずる。それは属性同化。雷属性最大の奥義にして最高の防御。そうなってしまえば、物理的に手を出すことも難しい。しかし……。
「これなら……アンタには手を出せまい!」
「ふむ。やはり、最高峰の使い手だ。マリアも奮発したものだ。こんな状況で無ければ吾輩も歓喜に震えていたであろう」
コルテスは、瘴気を漏らし、そこから雷を生じさせ、更にそれを全身へと広げる。
「ま、まさか……」
「出来ないと本気で思ったかね? 苦手な属性ではあるが、これぐらいは吾輩にとって容易いのだ」
コルテスは、そのまま雷の属性同調状態へと移行した。瘴気でどのような原理で行っているかは分からないが、少なくとも見た目は完全にルチアと同じ状態だ。
「さぁ、同じステージだ。逃げ切れると思わぬ事だ」
「くっ……同じなら…私にも一日の長がある。アンタには私は捕まえきれない!」
「よかろう…では、始めるか。勝ちの決まった鬼ごっこをな……」
◇
【SIDE:フロウ】
暗闇の中を落ちる。瘴気の濃さは限度を超え、その重さで全身が締め付けらる様な錯覚さえ覚える。彼らは知らないが、その濃度は深淵と同等の重さにまで達していた。彼らが光を習得していなければ、たちまち霊力は削られて魔人化するか死に至るだろう。
風属性により、ゆっくり降り立った3人。そこは静謐でひたすらに昏い。自分の立つ地面すら見えぬ程に。
「ここが…?」
「なんて濃度……これはもう人間の来る所じゃない」
「間違いない。ここに敵の本体がいる」
フロウは早速太陽石を取り出して、そこに光の霊力を流し込んだ。たちまち暗闇を光が切り裂き、辺りの状況が顕になる。そこは、天井も見えない程の広大な空間。巨大な柱が見える範囲で何本も立ち並び、上部は足場は所々崩れ、その下は更に何も見えない真の暗闇が続いている。
──気をつけ給え。そこから落ちれば深淵に真っ逆様だからな──
「コルテス!!」
「えっ、どこに…!?」
──よくぞここまで辿り着いた。だがここまでだ。お前たちは吾輩の礎となるのだ──
「ッ! 前!!」
フロウが前方を指す。すると、薄暗がりの奥から巨大な気配が蠢いていた。
「なっ! なんじゃこりゃ〜!!」
それは、ヒトガタではあった。しかし、サイズがおかしい。頭だけでも人間を一口で丸呑み出来そうなサイズ。全身が現れれば50メートルは優に越すだろう。そして、その姿は血に塗れ、人間から皮を剥いだ様な見た目であり、筋繊維が見てとれる。こめかみから羊や山羊の様な捻くれた角が幾本も生え、背中には悪魔の様な翼が3対ある。
それは、正に伝承にある悪魔の見た目そのものであった。
──吾輩を倒す? 威勢の良い事だ。しかし、お前たちは真の闇を知らぬ。その報いをその身に刻め!──
コルテスが雄叫びを上げる。それだけで瘴気の奔流が巻き起こる。それは最早軽い
「こっ、これは!」
「みんな! 寄って! エル、サラ、炎を!!」
太陽石で辛うじてその凍てつく瘴気を減衰し、エルとサラが周囲に光の炎を出す。それで辛うじてやり過ごしたが、周囲はあまりの低温にダイヤモンドダストが発生していた。
──吾輩の人間時代の属性は氷。氷は良いぞ。様々な可能性を秘めておる。優秀なダイバーは氷属性が多かった──
氷の巨人が複数体発生し、更に周囲は猛吹雪が吹き荒れる。そして、そのあまりの濃度の氷属性に、周囲の気温は絶対零度まで下がり、氷の概念、即ち原子の運動が止まり、時間の流れを低下させるという現象まで引き起こしていた。
「こ、こんなのどうやって攻略すんだよ!!」
「落ち着いて!! ともかく、エルとサラは炎同調を維持! 私は太陽石で周囲の影響から逃れてる! あの巨人がコルテスの本体! 核はあの胸の部分!! ならばそこに光を叩き込めば勝てる!!」
「だからどうやってあそこまで行くっての!!」
「私が隙を作る! エルもサラも協力して! まずは敵の攻撃を回避して! エルは攪乱!!」
そこへ、恐ろしい程鋭い巨大な金属の杭が襲ってくる。それを辛うじて躱した3人。嘆いている時間は無い。作戦会議の時間も無い。だからこそ、やれることをやるしか無い。エルは炎を維持しながら迫り来る氷のゴーレムの間をすり抜け、攪乱し、時には膝関節などを破壊して行動不能にする。しかし、氷の巨人は何事も無いかのように復活してきた。それを見てエルはうんざりするが、当初の目的の氷ゴーレムを攪乱するという事は最低限クリアしたので、それを維持しようと気合いを入れる。少しでも気を抜けば氷の属性に囚われて動きが鈍り、たちまち捕まってしまうだろう。炎同調を維持しながら行うのはかなりの難易度だが、やらねばやられる。エルネスト=ガルシア一世一代の勝負が幕を開けた。
フロウは、サラに抱えられて金属の杭を躱したが、その杭は続けて2人を襲う。それは、よく見れば巨大化したレイピアだった。エルを差し置いてもこの2人が狙われる理由は、コルテスがフロウこそがこの戦いの要であると理解しているに他ならない。
──思ったよりも素早いな。これだから生粋の雷相手は苦手なのだ。しかし、それがいつまで続くかな──
「フロウ! このままじゃジリ貧だよ! どうすんの!!」
「避け続けて! 出来ればギリギリで!!」
「くっ……信じるわよ!」
凄まじい速度の巨大なレイピアの連撃を、サラは辛うじて雷の同調で躱す。その間にも襲ってくる氷の礫をフロウは同じ氷属性で迎撃する。しかし、そのままでは確かにジリ貧だ。どうするのかとサラは焦り始めたが、8度目の鋭い突きを躱した時に、フロウは瞬時に左手を水同調して、巨大レイピアの金属部分に触れた。
「な! アンタ何やって……ッ!」
フロウの手がたちまち凍り始める。水属性は氷と似ている。しかし、水属性は氷属性に影響を受けやすい。コルテスほどの使い手が氷属性を本気で使えば、水属性はたちまち支配されて凍ってしまう。フロウは氷属性も使える。しかし、属性同調までは使えない。よって、水属性を選んだ。そして、それは正解だった。
フロウの凍った手が金属部分と癒着し、レイピアの動きに応じて引き寄せられる。引き戻された瞬間、フロウはその左腕の凍った部分を爆破した。
「バ、バカ!! なんてことを!!」
「ぐっ…これでいい。この程度は承知の上! 肝心なのは奴に近づくこと…!」
しかし、勢いは止められないし、これが千載一遇のチャンスでもある。フロウを案じながらもサラは慣性に従って、コルテスの懐まで一気に跳躍する。
しかし、コルテスはその動きを読んでいた。吹き荒れる雹の嵐や氷のゴーレムを一旦止め、その巨大な口から瘴気の奔流を放とうとした。
──人間風情がよく頑張った。だがここまでだ──
その瞬間、フロウは持っていた太陽石を掲げた。そこに自身の霊力を全て光に変換し、ありったけを込める。すると、太陽石の許容量を超え、オーバーフローを起こす。そして、何が起きるかといえば。
キイイィィィン!!
恐ろしい程の光がその手から溢れる! それは、中規模の【アーク】に匹敵し、その奔流はコルテスの瘴気の渦をも跳ね返す。
──な、なにっ! ば、馬鹿な……! うっ、ぐああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!──
巨大な雄叫びを上げてコルテスが悶絶する。それはナギが「光爆弾」と呼んだ攻撃手段そのものであり、その威力は深淵級すらも撃退するほどの威力を誇る。それを至近距離で直に喰らったコルテスも無事ではいられなかった。
「はあっ、はあっ、フ、フロウ…無事?」
「何とか…エルは?」
「アイツは…無事ね。良かった……」
「安心しないで。まだ終わりじゃ無い」
反動で少し離れた場所に降り立ったフロウ達は、駆け寄ってくるエルを確認しながらも眼前の相手を見やる。その姿はどろどろに溶け始め、見るも無惨だ。しかし、フロウはまだ終わっていないと断じた。相手は活動を停止している。ドンドン溶けていく巨大なコルテス。左手を失いながらも、氷で止血を確認し、フロウはどこに核があるかを冷静に見極めていた。コルテスの氷の属性はまだ完全に解除されていない。ならば、まだどこかに核があるはずだ。太陽石は失われた。辺りもかなり浄化された。それでもまだトドメをささねばならない。
「……動きがねぇぜ? 終わったんじゃねーのか?」
「………次のアクションが無い…そして核も今のところ見当たらない…何を考えてる?」
駆けつけたエルが辺りを警戒しながらも倒したのではと希望を漏らす。流石のエルも綱渡りの連続で、死の一歩手前をずっと踊っていたのだ。その消耗具合は見るだけで分かるほどだ。フロウもサラも終わったと思いたかったが、あのコルテスがこのまま終わるはずも無いと、気を抜かないようにしばらくして、どろどろに溶けた巨人の中から1人の男が姿を現した。ボロボロで、普通のサイズに戻っているが、まごう事なきコルテスだ。
「よくも……よくもやってくれたな。久方ぶりに肝を冷やしたぞ…」
「……やっぱり」
「そして……運命とはよく言ったモノだ。誰がこのシナリオを描いた? マリアか? それともお前か?」
「何故それを聞く? この期に及んで何が知りたいの?」
「まぁ、どちらでも良い。お前たちはこのまま殺してやろう。その方が奴の鼻を明かせそうだ」
「……奴? やはり私たち以外の介入者がいるのね?」
「……勘の鋭いガキは嫌いだ。ご託はここまで。お前たちは最大の切り札を切った。そのまま死ね」
普通のサイズになったレイピアを構え、佇むコルテス。その構えからは一切の隙を見出せない。凄まじい威圧感と共に、圧倒的な強者の風格が漂っている。しかし、その彼の異変にフロウは気付いていた。
「そちらから来ないの? それとも来られない? まぁ、そうでしょうね。貴方は今、相当弱体化している。今この場は光によって浄化されている。それは高位魔人にとっては、猛毒にも等しい筈」
「ん? だとしたら、今のコイツは…」
「ほぼ人間のスペックと変わらない。魔人と人間の関係はここに逆転した。今が最大のチャンス」
「くくく……ならば来るがいい。お前達に格の違いを教えてやろう。それにお前たちも先の戦いで随分消耗しているようだが、回復しなくて良いのか? それぐらいの猶予は与えてやるぞ?」
「それはいいわね! だったらじっくりと攻めなきゃね!」
「そう悠長にはいかないわ。今でも地面の下から超濃厚な瘴気が流れ込んでる。この空間が再び瘴気で満たされるのも時間の問題よ。そうなれば勝ち目は無い」
「ヤバ、急がなきゃマズいじゃん!」
「そうね。だからオーダーは、速攻、且つ、慎重に」
「くそ……いつもそうだが無茶ぶりが過ぎるぞ! でもコレで最後だ! 気張るぜ!!」