ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
「クソ! 遅かったか!!」
ナギがそこへ到達したとき、ルチアのその姿が取り込まれた直後であった。その前に1人佇むコルテスは、舌打ちをしながらナギ達へと対峙する。
「もう来たか……しかし、ここにいた者は捕らえたぞ。もう生殺与奪は吾輩の手の中だ」
「で? それで俺に何を言いたい?」
「吾輩に協力せよ。貴様は深淵の先を覗いたはずだ。『神への道』はそこにある。その代わり、吾輩は貴様の仲間には手をださん」
「ふ~ん……閉心術か。学習したな」
「2度と同じ手は喰わんよ。それで、どうするかね?」
「拒否すれば?」
「貴様の仲間は死ぬ。全てだ」
「その割にはフロウ達は捕らえきれてないだろ」
「それはご想像にお任せする。しかし貴様は今度は分からない。そうだろう?」
「そうだな。だがな、基本的に俺はお前ら魔人を信用しない主義でね」
「ほう、そうかね。吾輩はまだ理性的な方だと思うが?」
「人間から逃げ出した奴なんざ信用できるかっての」
「では、交渉決裂。貴様は大切な仲間を見殺しにする薄汚い英雄ということだ」
「別に俺は英雄じゃねぇし。……それにな、俺がここから全部、一切合切をひっくり返す手が無いって……本気で思ってる?」
「……は? いや、待て。いくら貴様でもそれは……」
すると、ナギは自分の収納袋から
「な!? それは!!」
「ん? お前コレ知ってる? そっか~。説明が省けるな! そう! これぞデカい太陽石の塊~!!」
『まんまですね』
「うるせー。で、だ。これにちょちょいと俺の溢れる情熱を注ぎまくるとどうなるか……わかるね?」
「ば、馬鹿者! いくらなんでもそれはやめろ!!」
彼が普段使いしている太陽石は大きくても精々掌大だ。しかし、彼は深淵探索で手に入れたこの鉱石を巨大な塊でいくつも採集していた。使える物は何だって拾う。貧乏性極まれりであるが、それが役に立った。普段はその塊から砕いて使用しているのだ。それを、今回奮発して砕かない塊のまま出していた。
「ざ~んねん! 俺、お前らみたいな魔人を焦らすのだーい好き! ということではい注入~」
とってもいい顔でフルパワーの光を注ぎ始めるナギ。流石に焦ったコルテスは、ナギが注入している隙を見計らって突撃し、始末しようとした。しかし──
ギィン!
「くっ! マリアめ!! おのれ!! そこをどけぇぇぇ!!!」
「貴方の負けです、フェルナンド。使徒様には私が指一本触れさせません」
傷を回復し、気絶から復帰したマリアが双剣となった蛇腹剣でコルテスのレイピアを弾く。制御が集中し、極まったコルテスの分体でも、恐ろしい巨大さの太陽石のオーバーフローという攻撃の大きさを想像し、焦りによってその剣技は見る影も無くなっている。ナギは知らないことだが、コルテスはその直前に、地下で掌大の太陽石のオーバーフローの攻撃を喰らってしまったが故に、その想像はリアルであった。そんな状態であれば、マリアが彼を防ぎ留めることは容易い。そして、コルテスの絶望のカウントダウンは終了した。
「みんな~ちょっと目ー閉じてね~いっくぞ~!!」
『みなさん。衝撃に備えてください。少し、いや、かなりの波動がきます』
その台詞に全員が目を瞑る。その直後
カッ!!!!!!
目を開けていれば、その光によって潰れてしまったであろう程の光の波動が研究施設、いや、周辺の場所までを照らし出す。その爆心地ともなれば本来質量が無いはずの光に衝撃波が伴っているかのようなレベルの凄まじい明るさをもたらした。周りの者は、あまりの明るさに目を閉じていても目が潰れそうな程の明るさでとっさに防御態勢を取るほどだった。コルテスの最後の分体はどうなったかと言えば、物も言わずに瞬時に消滅した。瘴気によって変形していた施設はそのままだが、気色の悪い肉塊はどこにも見当たらなくなっており、ただの現代的な研究施設へと変わっていた。
ナギはすかさず太陽石のトーチを出して、物理的に暗い研究施設の廊下を照らす。
「みんな無事か?」
「……ナギさん。流石に僕は目が潰れるかと思いましたよ…」
「同じく……」
「こいつ……無茶苦茶しやがるな」
「とんでもねぇ事平気でやるんすね……いまだに目がくらくらするッス」
「流石使徒様です!」
「いや、その感想もどうなの?」
1人だけ感想がおかしい人物がいるが、スルーして辺りを見渡せば、取り込まれそうになっていた3人が通路に転がっていた。
「アイヴァン! エレーナ! ルチア!」
同じく気絶から復帰してついてきていたマリウスが駆け寄る。かなりボロボロで、肉塊に侵入されかかっていた彼等は瀕死ではあったが、それでもまだ浅く呼吸をしていた。
「まだ助かる!! マリア! 回復薬を!」
「オッサン、俺のが多分かなりいいやつだからそれ使いな! ミシェル、頼む」
ミシェルが急ぎ、リュシーを回復させた超レクペラ草(仮)の液体を3人に呑ませる。緊急事態故に、超レクペラ草(仮)を惜しみなく彼等に与えた。マリア達も緊急ではあったが、こちらの方がよりヤバいと判断したためだ。なぜなら、人間としての肉体が変質しかかっていたからだ。
投与した直後、微かだった呼吸も寝息へと変わり、その損傷も急速に回復していった。アイヴァンに至っては失った片手も復元しだした。
「ば、馬鹿な…これは……欠損をも回復するレベルの効能! こんな伝承にしか無いほどの薬が存在するなんて…」
「深淵から拾ってきた奴だからな! 超! 苦労した! 褒めて」
「ナギくんは本当に偉いと思います!」
「流石は使徒様です!」
『はいはいえらいえらい』
「ミシェルありがとう! マリア? さんはさっきと感想変わらないかんね? あとラブやんはミシェルをもうちょっと見習ってどうぞ。まぁ、それはいいとして、フロウ達も助けにゃならんから急ごう」
ナギは傷の回復を見届け、すぐに行こうとした。それをミシェルが止める。
「ナギくん。流石に回復中の彼等はここで少し休ませた方が良いです。今飲ませたのは薬効が強すぎて
「そ、そう? わかった。じゃあオッサン! 頼んだ!!」
「ちょっとまて! どういうことだ!?」
そこに、ミシェルがマリウスに近づき、詳細を耳打ちする。超レクペラ草の
「そういうことで、パーティーである貴方なら大丈夫でしょう。よろしくお願いします」
「お、おう……まぁ…コイツらだからな…しゃーねーか」
「話はつきました! 行きましょう!」
「ねぇ、君達最後まで来るの? 残っててもいいんだよ?」
「何を今更。最後までお供します!」
「ウチもッス!」
「僕も、できればお願い」
「私は貴方の神話を見届けます!」
「だから1人おかしいって…まぁ、それならこっからはダッシュで行くからな! 遅れんなよ!!」
そうして、彼等は怒濤の様に去って行った。そのあまりにも速すぎる展開の連続に、情緒の行方を失っていたマリウスは呆然としながら見送った。そして、ミシェルのあまりの可憐さを思い出しそうになり、何発か自分の頭を殴り付けていたが、ミシェルの言うとおりに3人の容態が変化し、直後に目覚めてそれぞれがトイレを所望し、マリウスはとりあえず考えることを放棄して彼等に指示を出して、そこから起こるであろう事態の準備を始めた。
◇
ガギィン! キン!
エルとサラは、コルテスの流れるようなレイピア捌きを何とかエルの双剣でガードし、槍で責め立てるも、リーチの差があるにも関わらず弾かれて届かない。それどころか、一瞬の隙を突かれて大小の傷をいくつも負っていた。
その間、フロウは爆発や水レーザー、複合ミサイル、幻惑など、多彩な攻撃を仕掛けるも、その悉くがレイピア型の剣一本で捌かれ、斬られ、受け流され、払われた。その技量は正に神業と言っても申し分なかった。そして、コルテスは氷の術を周囲に放ち、冷気で覆いながら妨害したり、つららや礫を放ったりして、こちらを苦しめる。
「く、くそ……本当にコイツ、人間とほぼ同じなのか!? まるで俺達とは性能が違うぞ!」
「リーチ差あるはずなのに届く気がしない……3対1なのに!」
「今の彼は間違いなく人間と同じ筈……彼の技量が並の人間とは一線を画すというだけ……!」
「分かったかね? お前たちはまだまだだということだ。だが、ここまで保たせられるとは驚いた。吾輩も本気なのだがね…………!!?」
その時、コルテスが驚いた表情をして、その動きが止まる。いや、正確にはより威圧感が増した。そして、その状態で構えながら彼は固まってた。
「……? どうした?」
「上でなにかあった……とか?」
「どうやらそのよう……でも、多分今安易に掛かったら簡単に打ちのめされる。気を付けて」
しばらくして、コルテスは構えを解いた。
「!? どういうこと?」
「……吾輩の、負けだ」
「な! ……では、大人しく私たちに殺されるとでも?」
「お前たちにでは断じてない! もし来るのならば迷わず殺してやる。……これから、吾輩を真に打ち破った英雄がここに来る。吾輩は其奴に最後の戦いを挑む。お前たちは黙ってそこにいろ」
「な、nモガモガ……」
「エル、黙って。その英雄と一騎打ちすると。そういうことね? 私たちを人質にもせずに?」
「ふん……しようとしたが、思った以上にお前たちが奮戦した。それだけのことだ。誇れ。お前たちは吾輩の目論見を打ち破ったぞ……吾輩も久方ぶりに人間の感覚を思い出したな」
「……貴方は信用できない。そうして時間稼ぎをする魂胆かもしれない」
「ならば勝手に疑い給え。ただ、吾輩の邪魔をするなら容赦せんがね……ほら、来たぞ」
コルテスが上を見上げる。釣られて上を警戒しながら見れば、確かに何かが降りてきた。それは、光り輝く羽を生やし、数多の見たことも無い装置に人々を乗せてゆっくりと降りていている。その姿は天使と見まがう様相をしていた。
「あ、あれは……まさか……」
その中にマリアがいた。ボロボロだが、確かに生きていた。しかし、フロウは他の人物達に目を引かれた。快活な美少女、線の細い少年、そして、恐ろしい程の美少女。いずれもこの場にいるはずの無い人々である。魔人かと疑ったが、瘴気の欠片も感じない。であるからには、確実に人間だ。それだけでも驚くべき事だが、更に驚くべきは、中心にいた光の翼の少年であった。はじめは幻かと思った。しかし、見間違いようが無い。幾度となく彼を想った。彼を助けるために、この3年の地獄を乗り越えてきた。そして、死ぬ確率が高いこの作戦にも参加した。全ては、彼に再び逢うため。
フロウは、こみ上げる想いにつまりそうになりながらも、思わずその人物にむかってその名を叫んだ。すると、思った通りの声で、もしかしたら2度と聞けないかと思っていたその声で、返事が返ってきた。
「ナギくん!!!!」
「フロウ!!!! 無事か!!?」
フロウの想いは、今、報われた。
◇
【SIDE:ナギ】
『制御が大変なんですよね……』
ぼやくラブやんをなだめながら、俺達は大穴を下る。深淵を思い出して嫌だが、そうも言ってられない。フロウ達を探してここに辿り着いた。他にいないということは、彼女達は確実にこの穴を降りたのだ。常人ならビビる。ビビって行けない。しかし、フロウ達はここに飛び込んだ。今は肉塊も何も無いが、周囲を気色悪い肉に覆われ、不気味に蠕動する通路に空いた大穴を行けるというのだから、覚悟がキマりきってる。普通は無理だ。だから、俺も臆してはいられないし、そんな事を考える事さえダサい。フロウ達の勇気に敬意を表して、俺達も行くのだ。
ミシェル、リュシー、アンリ、マリアは、それぞれマシンガン、火炎放射器、盾、スナイパーライフルにそれぞれ(無理矢理)搭乗し、ラブやんの制御の元、浮きながら下る。その制御が大変とぼやいているのだが、ここは一つ諦めて貰おう。霊力、いっぱいあげるからね?
俺はといえば、あのクソ魔人の時開発した飛行魔術で浮いて、ゆっくり降りてる。時々風魔術の制御間違えそうになって不安定になったが、なんとか持ちこたえた。流石に飛行ミスって壁に激突はあまりにもダサいし、コルテスに隙を突かれかねない。
そんな俺の姿をみたマリアとかいう妙齢のシスターっぽい女性が、目を爛々と輝かせている。ちょっと怖いんだけどこの人。あまりの狂信っぷりにちょっと引くわ。ミシェルも彼女に対してかなり警戒している。ありがとうミシェル! つか、この人最初気付かなかったけど、「教会」の長じゃね? あの時は目元隠してたから分からなかったけど。狂信具合で気付いちまった。ホントなんでこんな所にいるん? マジで。
そんなことをつらつらと考えながら降りていき、しばらくすると、下が見えてきた。そこには4人の人物が立っていた。ん? コルテス? 何で普通に立ってんのコイツ。まぁいい。他の3人は見知った顔だ。その表情を見て、俺も不覚にも泣きそうになった。エル……デカくなったな。傷だらけだけど、そのガタイは俺より強そうだ。サラ……相変わらず凜としてて、委員長キャラは健在だな。サラはエルとは別方向でデカくなったな。何がとは言わないけど。
そして……フロウ。エルもサラもそうだけど、お前さんには本当に、本当に逢いたかった。ますます可愛くなったなぁ。でも、もう俺より年上に見える。それだけ長い間心配掛けちまったようだ。すまなかった。あぁ、泣くなよ。俺も泣きそうになる……ってフロウ! お前、その左腕……!! その時、頭が沸騰して、叫んじまった。でも、その前にフロウが呼んでくれたんだ。俺の名を。それでお互いの声がかぶっちまった。
「ナギくん!!!!」
「フロウ!!!! 無事か!!?」
◆
無事に降り立った俺は、フロウ達に熱い抱擁を受けた。若干身長で負けてるからなんとも言いがたい絵面になってしまったが、俺はこの瞬間の為に頑張ってきたんだ。若干泣いちまったけど、そこは触れないで欲しい。
だが、再会の喜びを噛みしめるその前に、やらなきゃならん事がある。泣きながら抱きついてくるフロウを、優しく引きはがし、ソイツと対峙する。俺達が熱い抱擁を交わす間は、マリアが睨みをきかせてくれていたようだ。
「よう。俺を待ってたんだろ? 何か言いたいことがあるなら言ってみ」
「……此度、吾輩は貴様に完全に負けた。言い訳の効かぬ大敗北だ。貴様が来なければ、吾輩もマリア達を手に入れ、『神の座』への道を拓いただろう。しかし、まるでその『神』にでも導かれたかのように貴様が来た。よって吾輩は敗れた……納得はいかんがね」
「禄でもねーこと考えたりやったりするからバチが当たったんじゃねーの? で、言いたいことはそれだけか?」
「ふむ……そうかもしれんな。いずれにせよ、吾輩はここで終わりだ。しかし、吾輩は納得したいのだ。このあまりにも吾輩に理不尽な運命に、意味があったと」
「いや、お前こそ理不尽の極みみたいな奴じゃん。バカじゃねーの? お前の犠牲者にその台詞言ってみろや。……ま、いいぜ。その剣でやりたいんだろ? お前のプライドごとへし折るのも有りだな」
ホントコイツ等魔人って自己中の極みだよね。自己中過ぎるから人間をオモチャにしやがる。だからこそ生かしちゃおけない。まぁ、何の心変わりか知らんけど、コイツが間違いなく本体。深淵に近いここが何故か浄化されて、こいつ自身もかなり弱体化してるけど、コイツを殺せば完全に決着だ。
俺は、ドニ剣(剛剣)一本を背中から取り出して構える。今のコイツにはこれ一本で十分。
「恩に着る」
何を勘違いしたか分からんけど、礼を言われてもリアクションに困る。俺は武士道とか騎士道とかで提案に乗ったわけじゃ無いから。コルテスは半身になり、レイピアを右手に持ち、切っ先をこちらに向けて構える。その姿は堂に入っていた。構えだけで相当な達人だと言うことが分かる。……分かっちゃいたが、高名なダイバーだったんだなぁって。でも人類の脅威になっちまった。だからダメだ。お前は、俺がこの場で滅する。
奴との間に緊張が高まる。
今、俺たちは動きはしないが激しく鎬を削っている。先の取り合い。ミリ単位のフェイントをお互い交わしながら、先の先、先、後の先、後の先の先を狙い合う。驚いた。本当にコイツは真の達人だ。前に闘ったクソ魔人とは天と地程の差がある。そんな相手に3対1とは言え、良くぞ生き残ってくれた。今彼らはミシェルとアンリとリュシーに応急手当てを受けながら固唾を飲んで見守ってくれている。
さて……こうして対峙していると、コイツの様々な面が見たくもないのに透けて見える。コイツは求道者だ。目的の為ならば一切の躊躇も無く倫理観の無い事を平気で行える狂人。それがフェルナンド=コルテスだ。同時に徹底的な合理主義者。リアリストでありロマンチスト。矛盾しているが、瘴気の先を見てみたいというただそれだけの理由で人間を捨てた男。それはロマンチストの極みと言える。やり方に是非があろうが、コイツにはクソ程にどうでもいい事なんだろうな。
俺がもっと早くにコイツに会っていれば、魔人になる事も無かったのか? ……いや、コイツはそれでも非道な実験とかしてきそうだな。そういう奴だ。
つらつら考えてるけど、向こうも俺の事を見てるんだろう。まぁいい。幾らでも見るがいい。俺がお前を滅ぼす事に変わりはない。
……随分と長い事対峙している。いや、他者から見ればほんの少しの時間かもしれない。だけど、俺も飽きた。そろそろ本格的に仕掛け──
◇
ナギが動こうとした瞬間、その意識の間隙を縫って、コルテスは鋭く踏み込んだ。ナギの大脳からの指令を身体に反映するまでの0.2秒。コルテスはその瞬間の先を奪う事に成功した。
その切っ先は狙い違わずナギの左胸に向かって突き進む。その先端がナギの身体に触れる瞬間、ナギは漸く身体の反応を起こした。それは、
そして、正眼から若干下に下がって構えてあったナギの大剣が、突きの姿勢のままのコルテスを両断せんと斜め上に振り上げられる。それに対してコルテスは突きの姿勢からレイピアを瞬時に引き戻し、大剣の威力を上に受け流しながら逸らした。自身はその威力を流すために低い姿勢になり、レイピアを持つ右手の甲が下向きから上向きへと切り替わる、受け流した反動を利用して、今度は片手一本突きの姿勢へと変化した。その流れるようなフォームチェンジは芸術的ですらあった。彼はそのまま、剣を振り上げて受け流された直後のナギの顔面に向かって、レイピアを突き込む。
今度こそ決まった。そうコルテスは確信したが、その先端は両手持ちだった筈のナギの左手にいつの間にか掴まれ、突きの威力をそのまま利用されてナギの頭上へと逸らされた。コルテスは思わずレイピアを引き戻して指ごと引き斬ろうとしたが、凄まじい握力で掴まれたレイピアは一瞬拮抗し、その直後にナギはその手を敢えて放した。そこまでが1.3秒。
それにより、コルテスが引き戻した力が過剰になり、瞬間、彼はたたらを踏む。一方ナギは、コルテスの引く力すらも利用し、て右手一本で振り上げた大剣を再び両手で握り込み、振り下ろした。
姿勢を崩されたコルテスが気付いた時には、眼前にナギの大剣が迫っており、回避不可能の斬撃が襲い来る。咄嗟にコルテスは剣を斜めに戻し、自身は身を捩り受け流す体勢を取るも、その威力を殺しきれず、レイピアごと彼は斜めに両断された。
それは、彼らが動いてから実に2.0秒の出来事であった。