ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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65、出立

 

 

 

 

 

「ここは封印だな」

 

 

 

 ナギは、深淵へと続く地下空洞の部屋を見下ろしながら呟いた。深淵にはトラウマに近い思いがあるからこそ、そこは塞いでおきたかった。しかし、最適な資材も無いので、結局は扉を破壊し、開かない様に厳重に閉じた。いずれ、誰かがここに来ても容易には入れない様に。

 また、くまなく研究所内を探索して、コルテスの研究を調べようとしたが、不自然なぐらいに資料が残っていなかった。

 

 

 

 雑魚寝から早く起きてそんな事をやっていてナギだが、そんな事をしていたらかなり長い時間寝ていたマリア組も漸く起き出し、全員で朝食と相成った。マリアがお祈りをして、全員で食べる。その祈りの聖句は、ナギにドミニクを思い出させた。

 それぞれが深層とは思えないほどのリラックスした様子で、和やかな朝食をとった。食事が済んで、水の湧く鉱石から水を出し、それを湧かした湯をまったりと飲んでいると、マリアがナギに改まって話しかけた。

 

 

 何用かとナギは身構えたが、マリアの願いはエリクサーだった。自分の全ての財産を譲渡する代わりに、エリクサーの使用を許可して欲しい、とのこと。

 ナギはその太っ腹に驚いたが、理由を聞けば、マリアの肉体も相当無理して若返りをしていたが、流石に年齢には勝てずガタが来ているために今一度アンチエイジングをしたいらしい。ナギは流石に全財産はもらえないと突っぱねようとしたが、地上に戻ったときにそれぐらいの価値はあるとのこと。むしろ、それ以上になるらしく、戻ったら安易には出さないようにお願いされた。ただ、どうしても今だけはお願いしたいとのことだった。

 

 

 そこまで言われたらナギも否とは言いづらく、結局一本分を譲渡することになった。ただし全財産の8割に減額し、追加でこの薬を使用したと言うことは絶対に秘匿すると言うことで合意した。それを聞いていたサラも欲しそうにしていたので、彼女にも出生払いということで譲渡した。女性の美に賭ける執念は、前世でも怖いほど知っていたために彼はそうした。先に服用しているミシェルを筆頭に、リュシー、ルチア、アイヴァン、エレーナ、そしてフロウが光り輝くほどの美しさを手にしていたから。その様子を見れば、自分も服用したくなるのは女性の性というもだろう。それは、現在の全財産をはたいても欲しくなる程の効果があるから。

 その顛末を聞いて、先に服用した者も、ナギに同等の財産を譲渡する流れとなった。マリウス組は、それでも満面の笑みで合意したし、フロウに至っては、「ナギくんに借金を返さなきゃいけないから、ずっと側にいたほうが効率がいいね」と、ちょっとドキッとするような事を言ってきた。すぐにミシェルとマリアが似たようなことを言ってきたためうやむやになったが。

 

 

 肝心の量についてだが、ミシェルに在庫を聞いてみると、あと100本ぐらいは作れる量はあるし、問題ないとのことだった。よって、サラとマリアの2人は、これから副作用対策の準備をしてから、服用する流れとなった。

 

 

 その間、ヒマになる男性陣だが、浴びるほど酒を飲んで気絶するように寝てた癖に、2日酔いの気配を微塵もさせないアンリが、この場所を安定させたいと言い出した。どういうことかと聞いてみれば、【アーク】を設置できないかとの事だった。しかし、肝心の【アーク】の装置はここには無い。どうするのかと更に問いただせば、前回のエスポワールで構造は覚えたため、作れるかもしれないと言い出したのだ。

 

 

「えっ。アレで覚えたの?」

 

「そんなに複雑な構造じゃなかったし。あれぐらいならすぐできそうだよ」

 

「なにそれこわい」

 

 

 製作時間は1日もあれば十分とのこと。なので、材料を提供し、アイヴァンに手伝って貰いつつ、彼は【アーク】の製作に取り掛かった。その間、マリウスは日課だという正拳突きをしていたので、エルと共にその鍛錬に参加した。その後、3人で模擬戦を含めた合同鍛錬に発展し、サラとマリアの世話役(フロウとミシェル)以外の女性陣もその模擬戦に加わって、大規模な戦いへと発展した。具体的には、ナギVS他の全員。熾烈な削り合いに発展するかと思われたが、その実、蓋を開けてみればナギが全員を叩きのめすという結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 朝食から3時間程経って、昼食をとった。いやぁ、運動後の飯は美味いねぇ! マリウスのオッサンが悔しがってるが、俺って勝負事は何でも全力でやるタイプだからさ。悪いけど、こちとら戦いの年季が違うんよ。少なくとも100年単位だし、死亡回数は数えたくもないけど。

 

 サラは副作用が終わったらしく、ツヤツヤしたダイナマイトバディ委員長という属性過多超美少女に生まれ変わっていた。それを見たエルが真っ赤になり、いそいそと、サラを別の部屋に連れ込もうとして殴られてた。うん。気持ちは分かる。でも、ヤる事ヤる前に、とりあえず飯食わせなきゃね。後でベッド用意するからさ。

 

 マリアはと聞いたら、なんでもサラの倍以上の副作用に苦しんでるとか。弟子のフロウが甲斐甲斐しく世話しているらしい。

 それにしても、あの人マジで何歳なんだろ。多く見積もっても30代前半にしか見えんのだけど、コルテスの弟子だったらしいし、それが40年前なんだよね…。つまり、少なくとも50超えて60近く……ヤバ。美魔女過ぎるわ。それで全財産はたいてでも、副作用に超絶苦しんでも、美の為なら惜しくないとか、げに恐ろしきは女性の美の執念って事か。

 

 

 サラが猛烈な勢いで昼飯を食べ尽くし、一息付いた所で、エルが辛抱堪らんとサラを連れ出した。別室にちゃあんとベッド用意しといたからな! 近い内子供できそうだな! と、エルをこっそり揶揄ったら、今はまだ考えてないという回答だった。んじゃ避妊どうすんのと聞けば、副作用がほぼ無い避妊薬はちゃんとあるらしい。適齢期の女性ダイバーは常備してるのだとか。それを聞いて、フロウは持ってるのかなと益体もない事を考えそうになり、慌ててそれを振り払った。……3年経ってるからなぁ。いい男とそういう関係になってもおかしくは無いか……。

 

 俺の表情を察したのか、エルに連れ込まれる寸前のサラが俺に耳打ちした。

 

 

「安心して。あの娘、死ぬ程訓練漬けだったから、そんな暇無かったわよ♡ それに、今も昔もあの娘に男の影は無いわ♡」

 

 

 それを聞いて俄かに元気になる俺。やっぱり男って単純だなぁと自分でも思った。

 

 

 

 そこから2時間経過しただろうか。副作用に苦しんでいたマリアも漸くそれが終わり、再び俺たちの前に姿を現した。

 

 恐ろしい程の美女に変身して。

 

 ゆったりした修道服を模したものに身を包んでいるが、それでも明らかに分かるナイスバディは、漫画のキャラかというほどのものだった。いや、元からあったはあったが、目立たなかったというか……。それが物凄く強調されている。偏っていた比率が黄金比になったとかそんな感じ。頭巾から覗く銀髪は、それ以前はくすんでいたが、今はキラキラ輝く銀髪だ

 というか、見た目の変化がヤバい。下手したら10代だ。ただでさえ(見た目詐欺の)綺麗なOL的なお姉さんが、完全無欠のお嬢様に近いお姉様へと変身していた。そのあまりの変わり様に揶揄おうと待ち構えていたマリウスも唖然として腰を抜かさんばかりだ。

 彼女が事実上マドリーの街の最強だったらしいのだが、霊力も倍増してないかコレ? 今までは若い子にしか使ってなかったから分かりづらかったけど、ここまで劇的な変化を齎すとは……この薬は人間社会にはまだ早過ぎる。この時ばかりは言葉だけでなく魂で実感してしまった。

 

 

「これで私も使徒様にお仕えする事ができます」

 

 

 開口一番にそう宣ったマリアに対して「あ、ハイ」としかレス出来なかった俺を誰が責められようか。

 いい女を見て不埒な考えが沸かない男だけが俺に石を投げなさい。

 

 

 御奉仕(意味深)とか、側仕え(意味深)とかの不埒な単語を頭の中から追い払う為に、後から出て来た美少女フロウを見て心を鎮める………ヨシ!

 

 別ベクトルで元気になりそうだったので、慌てて頭からそれらを追い出した。つか、今エルサラコンビはお楽しみの真っ最中だからな……。いや、全然羨ましくなんてないんだからね! 俺ってそもそも前世で妻子いたし。俺がフロウに惹かれるのも、その影響が強いのかもしれない。似てるんだよな。最愛だった妻にさ。

 

 

『マスター。そろそろ【アーク】が完成しそうですよ』

 

 

 ラブやんが俺に伝えてくれたのを幸いに動き出す。とりあえずマリアには腹が減っているだろうし、昼飯の残りを提供し、そちらの様子を見に行った。

 

 

 

「あ、ナギさん。丁度今出来ましたよ」

 

「思ったより早かったな。なんかここ数日でかなり腕上がってない?」

 

「そりゃそうでしょう。普通はこんな最上の素材で最高の環境下で製作はできないです。下っ端は基本ずっと下働きですからね」

 

「職人の世界も世知辛いんだな…まぁそれで雇用を守ってるんだろうけどさ。とりあえず見せてくれ」

 

「えぇ、どうぞ」

 

 

 

 見る限り、マドリーやエスポワールで見た【アーク】のガワと変わりない。違いがあるとすれば、より頑丈で精密っぽい所か。

 

 

「ラブやん、どうだ?」

 

『今、解析してます…………問題ないですね。むしろ、あの街の物よりも変換効率がいいかもしれません』

 

「そりゃ凄ぇ! アンリ、ありがとよ! 畑違いだろうによくやってくれた」

 

「モノづくりはどこも目指す場所は同じですからね。楽しくやれましたよ」

 

 

 

 そうして、アンリから受け取ったアークに太陽石をセットして、光の霊力を流し込む。すると、エスポワールと同じ規模の光が溢れて、上空まで達した。

 もう、しばらくここは安全だ。外へ出てみれば、この研究所を含んだ周囲1レグア(約5.5キロ)四方が光によって浄化された。凄まじい浄化力だ。ただ、森の方面は若干しぶとかったらしく、その半分の規模に留まった。

 

 所謂ボーナスタイムの発生である為、ダイバー達(お楽しみ中のエルとサラ除く)は皆森に入って資源採集となった。そこで上の事実が分かった。しかし、それでも効果範囲外の周辺の瘴気は浅層程度に激減していたらしい。特に女性陣の鼻息は荒い。多分借金返済の為だ。いや、別にここにいる人達なら踏み倒しても構わないんだけどね。でも、ケジメは大事か。

 

 

 ホクホクで収納袋をパンパンにしたリュシーが、満面の笑みで「これでウチも食いっぱぐれないッス!」って言うのを聞いてほっこりした。

 

 

 夕方、夕食の時間に漸く出てきたエルサラコンビは、サラが更に艶々になってかなりエロくなり、エルは搾られてフラフラだったけど大・満・足! な顔してたし、むしろもっとヤリたい的な雰囲気を醸し出してた。こりゃ夜もヤる気だな。何回ヤるんだい君達。そのドエロな雰囲気に当てられてエレーナがアイヴァンを熱い視線で見てるし。そしてルチアもなんかマリウスのオッサン見てない? ベッド足りない問題が本格的に発生しそう……何? もう作った? 【アーク】製作の合間に? アンリ……君、有能過ぎない? いくら力仕事兼何でも器用にできるアイヴァンゴーレムがいたとしてもそれはヤバいわ。これでベッド問題解決、と。今夜は色々部屋分けしないと(使命感)。まぁ、死ぬ覚悟で臨んだ作戦で死を意識した後だから、仕方ないっちゃ仕方ない。

 今回の功労者のアンリは、近くにいたリュシーに酒を注がれて豪快に飲んでる。最早誰もなにも言わなくなったぐらいナチュラルに飲んでる彼は、やはりドワーフなのだろう。つか、そんなリュシーは胸の谷間見せながらお酌してるもんだから、アンリも若干前屈みになってんじゃん。リュシーちゃん…流石にショタも犯罪ですよ…? こっちも明らかに妖しい雰囲気が漂ってる。こりゃ、いくつ部屋分ければいいんだ……?

 

 そして、俺。うん。分かっちゃいた。分かっちゃいたんだが、いくら何でも3人はヤバいて。1人は14歳なんですよ……? え? もう15歳になる? そして15歳は成人扱いで結婚するのが普通? マジで? それに他2人は年齢的な問題余裕でクリアしてんじゃん!

 

 右隣のフロウ1人でもマジでヤバいのに、左隣のミシェルと、正面のマリアお姉様に囲まれた俺の明日はどっちだ!

 

 こっちはKENZENな16歳なんですよ! そんな顔して迫られたらアカンて。辛抱たまらんってなっちゃうよ?

 

 

 

 ……まぁ、冗談はほどほどにして、実際なし崩しはダメだと思う。俺も血を吐くほど惜しいが、今はダメだ。こういうのはケジメが大事なんだ。俺にも、彼女達にも。 

 

 

 だからね? 頼むから今は辛抱して…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何とか乗り切った。恐ろしい戦いだった。もうダメかと何度も思ったが、無事に乗り切ったぜ! とりあえず今晩はエル・サラコンビ、エレーナ・アイヴァンコンビ、ルチア・マリウスコンビ、アンリ・リュシーコンビ、そしてマリア・ミシェル・フロウ、最後に俺! という合計6部屋で別れて就寝となった。

 

 元研究所だから防音しっかりしてて良かったね! そうじゃなかったら即死だぜ!

 

 フロウ達とは、夜にちょっとOHANASHIして、ケジメ、大事。ということを蕩々と語り、納得して貰った。でも、あの猛禽類のような目はちょっとゾクゾクした。

 でもね、俺って喰われるよりも喰うほうが好きなの。このままだとなし崩しで喰われそうだけど、その時は俺が喰ってやるからな。覚悟しとけよ。

 

 

 つか、3人セットでくるからか、いつの間にか感覚がバグってる気がしてならない。普通1人じゃね? いつの間にこうなったんだ…? そりゃ、俺もフロウとは()()()()仲になりたいし、ミシェルはマジで可愛いし、マリアはガチでエロいんだけどさ……。それがまとめてくると混乱するわ。でもなぁ……俺、多分ずっと一緒にはいられないしなぁ。

 

 

 

「どう思う? ラブやん」

 

 

 ベッドに寝転がり、ラブやんを目の前に持ってきて語りかける。コイツも随分と長いこと一緒にいる気がする。

 

 

『どうもこうも。私は元NR-FISH03ですよ? 人間の機微まで分かるわけないです。データが不足しています』

 

「そーね…まぁ、贅沢な愚痴だからさ。ただ聞いてくれや」

 

『聞くだけでよければいくらでも。そのデータの集積が人間理解に繋がりますし』

 

 

 なんだかんだで辛辣だが、それでも聞いてくれるラブやんは本当にありがたい。深奥層ではコイツがいたからこそ乗り切れた感がある。本当に深淵でもいて欲しかったぐらいに。俺もちょっと語りたくなったし、遠慮無く言ってみよう。

 

 

「ありがとよ。じゃあ言うが……俺ってさ、コルテスが言ったとおり、多分いずれ深淵の先に向かわにゃならんのよ」

 

『ふむ。私はマスターが特異個体だと認識していますが、それが関係していると?』

 

「そうだな。俺の出生の秘密に関わることだ。そして、()()()()()()にいる奴の事を、俺は多分知っている」

 

『!? それは……。魔王、ではなく?』

 

 

 ラブやんが驚いている気配がした。機械でも驚くんだな。

 

 

()()()。こっちの言い方で言えば、魔神、ってことになるのかな?」

 

『……深刻なデータ不足故、理解出来ません。深淵でも相当な瘴気濃度です。その先の奈落に魔王が存在する事はデータ上知っていますが……更にその先があるとは、最早どうなっているか予測不可能です。マスター、貴方の言っているのは、つまり【原点】の事ですね?』

 

「そうさね。そこに俺の目的がある。俺はそこに行かなきゃいけないんだろうな」

 

『理由を聞いても?』

 

「さっきも言ったろ? 俺の出生の秘密に関わるって。ざっくり言えば、俺は正体不明の訳の分からない邪神に拐かされて、永い年月拷問に近いデスゲームをさせられたんだ。そして、そこで俺は漸く死に、そしてこの世界へと生まれ変わった……多分」

 

『言語が曖昧です。マスターの異常な戦闘能力の理由は、それで説明が出来るようになりますが……確定はしていないので?』

 

「最後の最後の記憶だけが曖昧なんでな。ともかく、そこまでの記憶で言えば、俺は一緒に攫われた奴と共闘して地獄を乗り越えていったんだが、最後の最後で裏切られた。そして、奴は手に入れた莫大な力で、恐らくこの世界に降臨した。【原点】としてな」

 

『……それはこの世界の根幹を揺るがす情報ですね。真実であれば』

 

「そうさ、誰も証明できない。だが、瘴気はある。そして、【原点】も間違いなくある。そうだろう? お前は考えたことは無かったか? 何故、〝光〟は俺が来るまで顕れなかったか。それは恐らく、俺が奴のカウンターだからだろう。誰が俺を復活か転生かさせてくれたか知らねーけど、それはきっとこの世界を正すためだ。この世界は歪すぎるんだ。だから俺が呼ばれたんだ」

 

『……憶測が多すぎます。現時点の情報を統合しても、マスターの言うことは英雄的な願望に過ぎません』

 

 

 客観的な意見をありがとう。ラブやんの言うとおりだ。それはただの英雄願望かもしれない。しかし、同時にどうしても行かなければならないという焦燥にも似た気持ちが俺の中にあることも確かだ。夢を見始めてからも、そして特に記憶を取りもどしてからも。放っておくことは出来ないんだよ。

 

 

「厳しいこと言うね。でも、しばらくは俺も大人しくはするさ。人類はあまりにも追い詰められすぎた。ここいらで希望を見せないと、本当に絶滅しちまう。お前の元上司も30年以内って言ってたんだろ? それを少しでもひっくり返してからってことになるな」

 

『深淵の先の先に行くことには変わりない、と。マスターは自殺願望が強いのですね。少なくとも深淵生物だけでもこの辺の土地もろとも蒸発させるほどのエネルギーの持ち主です。魔王は言うに及ばず。その先の【原点】の魔神とやらはどうなっているのやら』

 

 

 問題があるとすればそこ。少なくとも今の俺じゃ太刀打ちできん。よって少々誤魔化す。

 

 

「さてな。それを確かめに行くんだぜ」

 

『処置無し、ですね。まぁ、その時は私も連れて行ってくださいよ。興味が湧きました』

 

「そりゃ、お前さんには最後まで付き合って貰うぜ。俺の相棒だからな!」

 

 

 フロウ達はダメだ。俺は彼女達を犠牲にはできん。あの娘達は俺の〝希望〟なんだ。俺の中で人間を賛美する為の〝太陽〟なんだ。だから連れて行けない。深淵の先の先という、人間に絶望をもたらすモノが濃縮した場所なんかには。

 

 だけど、ラブやん、お前さんは地獄の果てでも付き合って貰うぜ。

 

 

『それは重畳。そして最初の話に戻るわけですね。私から言わせて貰えば、短い人間の人生、好きにしたらいいのでは?』

 

「そうだな! 俺もそう思ってたんだ」

 

『私に相談した意味』

 

「愚痴っていったろ? 愚痴ってのはそういうモンだぜ! おかげでやる事がすっきりしたな! ありがとよ」

 

『なるほど……言葉に吐いて、自身の行動予測を確定させる行為を愚痴と言うのですね。又一つ人間理解が深まりました』

 

「マジで言ってるのか皮肉で言ってるのか分からねーけど、そりゃ良かったな! 俺もお前の役に立てたようで何よりだ」

 

『処置無し。では、スリープモードに入ります。邪魔しないでくださいね』

 

 

 コイツ、ふて腐れて寝やがった。ますます人間くさくなりやがって……。でもな、感謝しているのは本当なんだ。お前が産まれたときから変わらぬ皮肉の応酬。それが俺にとっては心地よいし、皮肉にも俺に人間性を思い出させてくれる。

 

 だからこそ、その時が来たらお前だけは連れて行く。深淵で産まれ、人間の心を持たない機械として生を受けたお前だけは。

 

 

 そして、できれば目撃者となって欲しい。俺がこの激詰み世界で生きた意味、それを証明する為の記録として。

 

 

 

 ──それが、俺の望む事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日、実に4組のカップルが寝坊した。ほぼ全員だ。どうやら遅くまで頑張ったようだ。女性陣は艶々しているし、男性陣は一片の悔い無しな顔してる。ともかく、今日は流石に出発だ。特にやる事も無いしね。いや、ほっとけば何泊でもヤる事ヤるだろうけどさぁ。流石に人間の街に行こ?

 

 ということで、朝食を摂ったら出発だ。恐らくだが、ラブやんによれば、パリスの街までおよそ10レグア(約55キロ)の道のりだ。余裕だぜ! 深層っつってもそんなに離れてないのね。いや、マドリーまではたぶんその10倍以上あるけど。

 

 全員で片付けをして、持ち物を確認してから出る。収納袋、ヨシ! 装備、ヨシ! 忘れ物、ナシ! 

 

 

 道案内のリュシーを先頭に、全員が非戦闘員を囲むようにして陣を組んで研究所を出る。まぁ、非戦闘員なんてアンリぐらいしかいないけど。

 ところで、男達さぁ。しっかりしてくれよ? 昨日ナニがあったか知らんけど、非常にだらしない顔してるぞ。これから行くのは深層だからな? その代わり女性陣がバリバリに張り切ってるから大丈夫だろうけど。

 

 

 それにしても、ようやくだ! ようやく人類生存圏まで行ける!! 長かったー!!

 

 

 ついたら、とりあえず色々あるだろうけど俺は寝るからな! 何がなんでも寝るから!! 2~3日ぐらいはダラダラしたってバチは当たらんと思う。それぐらいは許して。

 

 

「多分無理だと思います……」

 

 

 俺の表情から考えを読んだミシェルが何か言ってるが、俺には何も聞こえない。聞こえないったら聞こえない!

 

 

 

 

 

 

 さぁ、希望の人類の街へ、いざ出発! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元研究所のより数レグア。深層の〝森〟にひっそりと建てられた監視塔にて、彼等を見守る影が一つ。その影は、静かに、そして闇へと溶け込みながら彼等を祝福する。

 

 

 

 

 

「──行くがよい、英雄殿。はるけき彼方を。貴様の拓く未知なる世界を知り、吾輩は更なる()()へと上る」

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