ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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66、帰還

 

 

 

 

 彼らは歩く。

 

 深層の道のりを。

 

 

 基本的にはなだらかな丘ではあるが、そこは深層。ねじくれた奇妙な人面樹の集合体や、巨大な手が地面から生えていたり、ブツブツの珊瑚の様な物があったり、髑髏が埋まってたり……。そもそもが薄暗く、太陽は赤く染まり、薄っすらと霧がかかっている。平均的な深層と言えよう。敵の例を挙げれば、仮面をつけた上半身のみの巨人や、5メートル級の人面ナナフシ、顔の複数着いた象型の化け目、巨大な触手を生やした蝉、デカい蠅と蛆虫の集団など、多種多彩な魔物達が襲い来る。

 

 通常のダイバーであれば、相当な準備をして一体倒すので精一杯だ。しかし、彼らは違う。それぞれが一騎当千の強者どもであるゆえ、巨人はマリウスに粉砕され、ナナフシはマリアに細切れにされ、象はフロウに爆破され、蝉はエルとサラに燃やされ、蠅軍団はアイヴァン、ルチア、エレーナに蹂躙された。

 

 最上級のダイバーが複数揃っているのだ。しかも、太陽石をそれぞれが常備しているために、その力は最大に発揮される。回復したマリウスの弟子たちや、女性陣は張り切って魔物を討伐する。しかし、男性陣も負けじとそれに対抗する。特にマリウスやアイヴァンはそれ以前とは段違いの動きになっていた。彼らの中で何か心境の変化でもあったのだろうか。

 

 ナギは先頭で頑張ろうとしていたが、その迫力に押されて、獲物を彼らに譲っていた。本人は、申し訳ないけれどこんなに楽でいいのかと感激していた。

 

 

 

 そうして順調に歩みを進め、4レグア(約22キロ)も進んだ頃には、瘴気が格段に薄くなった。

 

 

 

 

 ──中層である。

 

 

 

 

 気色の悪い建造物や植物は影を潜め、まっとうな世界に見える。ようやくここまで来たかとナギは感動していた。中層とは言え、草木が黒く染まっているだけでおどろおどろしい変化をしていない。通常のダイバーの狩り場でもある中層は、比較的人間でも活動しやすい場所である。オブジェクトのような建造物が変化したり、土中から無数の蟲が湧いてきたりはしない。それでも警戒しなければならない場所ではあるが、そんなものは彼等にとっては誤差のようなものであった。

 

 

 そこで、見晴らしのいい丘で一旦休憩をする一向。出発する前に用意していた弁当を食べ、水で喉を潤した。最年少のアンリの体力が心配されたが、彼はまだまだ元気で、むしろやる気に満ちあふれていたため、そのまま続けて歩くこととなった。

 

 

 中層では、魔物として、いわゆるゴブリンやオークやリザードマンなどの亜人種がメインとなる。彼等も魔人の慣れはてであると推測されるが、浅層が獣メインであるため、討伐難度は多少上がる。群れを作り、簡易的な武器を操るからだ。なぜこの中層がそういったスタンダードな敵がメインなのかは謎だが、深層になると彼等の上位種どころか、生理的嫌悪を齎す様な敵へと変貌していくので、まだ常識的な範疇と言える。彼らの中でもヒエラルキーはあるようだが、浅層より脅威となるのはその集団戦法と、多少発達した知能である。

 

 

「状況終了。敵殲滅確認」

 

 

 【幻影(イルージオ)】エレーナが、その幻惑作用を利用して敵グループの核を根こそぎ貫く。30体はいたオークの群れは、その暗殺殺法により全滅した。「幻影」はマリアもフロウも使えるが、一日の長があるエレーナの「幻影」の精度は群を抜いている。いつの間にか気付かれない程接近し、一瞬で敵の核を貫くその体術や戦法と相まって、敵が気付いたときにはもう核を貫かれてしまっている。

 

 ここまで来れば、メンバーの1人で敵を対処することが増えた。道中に接敵すれば、交代で出陣し、敵を屠る。それがスタンダードになっていった。

 

 

「いやぁ、みんなすげーな!」

 

『私は人間についてはあまり詳しくないですが、データ上の人間の数値と皆さんとでは大きな齟齬があります。そこから考えるに、皆さんは人間の中でも上位1%以下の人材が集まっていると言っても過言ではないでしょう』

 

「中層なら間違いなく過剰戦力だな。これは下手したら今日中に街に着くぞ」

 

「漸く……漸くお父様に会える…心配をかけてしまった」

 

「帰れば万々歳だぜミシェル。あと少しだ。気張ろうや」

 

 

 

 小高い丘陵地帯や、湖付近を抜け、中層を4レグア(約22キロ)ほど行軍した。すると、不意に景観がまた切り替わる。具体的には、黒く染まった植物なども、普通の色を取りもどし、薄暗いだけの普通の草原へと切り替わったのである。

 

 

「こ、これは……!」

 

『この瘴気量。いよいよ浅層ですか』

 

 

 浅層。それは、初心者ダイバーの狩り場。そして、それがあると言うことは、街が近いという証である。

 

 

「やったッス! ここはセルジー遺跡! 初心者の狩り場っす!! ここまで来たらもう安心ッスよ!!」

 

 

 リュシーが興奮する。確かにそこは遺跡というに相応しい石の壁が散乱した場所だった。よく見れば、中規模のアパートが崩壊したような遺構が見て取れる。ただし、蔦植物や雑草に覆われ、かつての栄華は見る影も無いが。おそらく【大破壊】以前は、普通に人が住む場所だったのだろう。栄枯盛衰の悲哀を感じる。しかし、ナギにとっては、ここまで瘴気が薄いと殆どないような物だ。

 

 

「ラブやん、今の時間がどのぐらいか分かるか?」

 

「太陽の位置から計算して、日没直前といったところでしょうか。もうすぐ夜が来ますね」

 

「OK。よし、みんな。今日はここで一泊しよう」

 

 

 その提案に、一刻も早く辿り着きたいミシェルは若干渋ったが、このまま行けば夜中に到着してしまう。ここは見晴らしも良く、浅層としては比較的安全だ。丁度良い屋根付きの遺跡もあるため、休むのであればここが最適だとナギは判断し、ミシェルもそれに納得した。帰るならば、門の前で待たされるよりは、堂々と人の活動時間に凱旋するのが良いだろうとの判断もあった。一歩間違えば魔人と間違われて攻撃を受ける可能性もあるため、その措置でもある。

 他のメンバーも特に意見はなく、案内役のリュシーも、泊まり込みは初めてだが、ここでなら問題は無いだろうと太鼓判を押した。ここは普段から初心者ダイバーの修練場としても使われるとのことで、危険な魔物などはほぼ出ないらしい。

 

 

 

 長い距離を歩き、疲れが見えていたアンリの事もあり、早急に簡単な夕食を摂り、夜の見張りを交代で行う事で、夜の間の仮眠をとる。全員分のベッドはあるため、贅沢なキャンプと行った所だろうか。無論、太陽石のトーチを各所に設置することは忘れない。これにより、一時的に周辺が浄化され、小さい魔物も近づけなくなった。

 なお、色を覚えた面々は、ムラムラしながらも流石にこの場所でコトに及ぶことはしなかった。

 

 

 翌朝、太陽が再び大地を照らし、何事も無く朝を迎えた。ここでまさかの暗黒嘯(ダークネスタイド)がくるかとナギは内心ヒヤヒヤしていたが、そんな事も無く無事に夜は過ぎ去った。そもそも彼がここを選んだのは、暗黒嘯(ダークネスタイド)対策というのが多分にあった。これ以上【暗黒領域】に逆戻りにされると、流石の彼も気が狂いそうになるだろうから必死ではあった。

 

 全員身体の疲れも取れたということで、朝食を摂って出発した。距離としてはあと2レグア(約11キロ)といったところ。到着まで約2時間もあれば十分だ。なんなら、急げば1時間でも可能だが、そこは慎重に行こうということになった。

 

 

 

「もうすぐ帰れる……あの時は想像も出来なかったけど。本当にありがとうね、ナギさん」

 

「どういたしまして。というか、俺もありがとうだぜアンリ。お前さんの鍛冶の腕には正直かなり助けられた。またちょくちょく頼みたいんだが……可能か?」

 

「まぁ、それはミシェル次第かな。僕の()()がきっちり支払われたらいけるよ」

 

「それはそれは。ミシェル、頼むぜ!」

 

「勿論。必ずや要望に応えられるようにしますから。というか、貴方の功績を考えたら割とどんなことも可能ですけどね」

 

「まーちょっと融通効かせてくれれば問題ないから。とりあえず、帰ったら親父さんには挨拶しとくか」

 

「お願いしますね。いよいよ私の出番ですから任せてください」

 

 

 ミシェルは一応非戦闘員ということで、戦闘には殆ど参加しなかった。彼女は帰還してからのあれこれがあるため、体力を温存しておけという全員の判断だ。ミシェルはありがたくその行為に甘え、そして、帰還してからのシミュレーションを念入りに行っていた。

 

 

 

 ──如何に、彼の活躍を劇的に演出できるかを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:宰相レンブラント】

 

 

 

 

「………レンブラント。状況を報告してくれ」

 

「お館様、少し休まれてはいかがですか? その…あまりにも体調が優れないように見受けられます」

 

「気遣いありがとう。しかし私としては動いていた方が気が紛れるのだよ。それで、どうだ?」

 

 

 宰相であるレンブラントは密かに溜め息をつく。お嬢様が攫われてから1か月以上が経った。今頃はお嬢様はあの魔人に暴虐の限りを尽くされているだろうし、人間ではなくなっているだろう。自分ですらそれを思えば辛くなってしまうのに、その親であるセドリック様はどれほどの心労を抱えているのだろうか。しかし、その傷も少しずつ癒えるのを待つしかない。彼の椅子を巡って様々なギルドの長が暗躍しているが、彼ほど街の運営が出来るとは到底思えないから。特に鍛冶組合の長バチストは、この襲撃を機に弾劾を狙っている節がある。強欲な彼は、領主の座を手に入れたら、すかさずあの手この手を使い、自分の利益の為に動くだろう。それは街としてはあってはならない事だ。蝕を乗り越え、復興を目指すこの街にとって、まだまだセドリック様は必要なのだ。

 

 

「……復興は思わしくありません。幸い蝕の直後なので時間的な余裕はありますし、このところ魔人の目撃情報もありません。最低限の浄化を終え、何とか住民も仮住まいに転居出来ましたが、大工組合も予算が厳しく、立て替えの目処が付かない状況です。ダイバーの絶対数もかなり減ってしまい、ダイブも出来ていません。また、合同慰霊祭の準備も、教会が渋って頓挫したままです……」

 

「はは。ここまで来ると悲惨だな……しかし、我々はそれでも前に進まねばならん。残された人々のためにもな。大工組合には追加で予算を出す。特別会計からな。ダイバーについては地道にダイバー組合と協調して育成を進めていくしかあるまい。慰霊祭については……そうだな。私から教会長にお願いしてみよう」

 

「少なくとも、彼等はまたカネをねだるでしょうね。本当に度しがたい。この街全体で協力しなければならないという状況なのに……」

 

「それが人間というものだ。何も慈善でやっているわけではない。彼等にも生活があるからな。人が集まればその分派閥はできるし、それを調整するのが私の仕事でもある。だからこそ、私も休んではおれんのだ」

 

「……少しでもご自愛ください。午後からバチストが面談を所望していますが、断りますか?」

 

「あぁ、またアイツか。同じ子を失った同士だが、こうもあからさまだと笑えてくるな。用件は同じだろう?」

 

「えぇ。今回自分の後継者兼、領主補佐候補を失った責任の所在を明らかにしたいとのことです。アレは彼の先走りでもあるのは目撃した者全員が証言しているのに……」

 

「折角の約束された地位を不意にされたのだ。彼もその憤懣はやるかたないだろうさ。その情熱を少しでも運営に向けてくれと思わなくもないがね。彼とは会うよ。少しでも協調路線をとってくれるようにね」

 

「……私も出来ることはやりますので。何かあったらお申し付けください」

 

 

 

 彼としてはそう言うのが限界だった。そうして、数少ない良心である領主の元を彼は退出した。領主の顔色を案じながら。そんな権力闘争の腹の探り合いをしている場合ではないというのに。レンブラントはバチストに激しい怒りを覚えていた。確かに息子を失ったのは察するに余りある。しかし、それを笠に着て領主を責めるのはお門違いもいいところだし、領主も同じ立場なのだ。更に、バチストには醜い考えが透けて見えており、その行動の全てが胡散臭い。大方、息子の喪失を機に世間を味方に付けて、領主を引きずり下ろそうという魂胆だろう。なにやら他の組合の者と談合しているとの報告も上がっている。大工組合が復興の為の予算をねだるのもその一貫だろう。

 

 どこまでも醜い者達だ。考えれば考えるほど、この街は終わっている。復興に全力を尽くさねばならないその時に、高い地位にいる者はそれぞれの足を引っ張り合う。その調整に有能な領主は追われ、やがては倒れるだろう。そして、我の強い者が残り、真に街の事を考える為政者はいなくなる。

 

 

 

 この街の行く末は暗い。

 

 

 

 暗澹たる気持ちで、領主の館の廊下を歩く。すると、前方から街の兵士長モリスが急ぎで駈けてきた。普段はこの館でそのような駆け足などはしない。しかし、モリスの様子を見れば、よっぽどの緊急事態であろう事が伺えた。予想できる範囲には無く、またも危機的状況が起きたのかと暗い気持ちに成りそうな所をぐっと堪え、レンブラントは急ぐモリスを呼び止めた。

 

 

 

「モリス、どうした! 何か緊急事態でも起きたか?」

 

「レ、レンブラント様…! 大変です!! 西門にて、【暗黒領域】から人が…人が大勢…!!」

 

「何! 魔人か!?」

 

「報告では、そのような気配は無かったと……今ダイバー組合が来て精査中です! しかし、驚くべき事に、その中に我々が見知った顔が……!!」

 

「見知った顔…? 一体誰が……行方不明になったダイバーか?」

 

 

 

 

「それが……ミシェルお嬢様と、アンリ様です!!」

 

 

 

 

 

 悲劇の街に劇的な変化の風が流れ込もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:セドリック】

 

 

 

 

 

「そ、それは真か!?」

 

 

 

 流石の領主も、その報告に耳を疑った。しかし、領主直属の兵士がミシェルを見間違うはずも無い。セドリックは、その報告をどう扱うか真剣に迷っていた。そんな事は想像したくも無かったが、一番濃厚なのは、魔人の尖兵と化したミシェルが、再び街を襲いに来たという流れだ。人間に見えるという報告者の所感を信じたいところだが、魔人が人間に偽装して潜入しようとしているのかもしれない。

 モリスはしかし、その考えを否定した。どう見ても人間であるし、対応しているダイバー組合の相手に大人しく従っているらしい。その上、なにやら光り輝く物品を持っており、瘴気をまるで感じないどころか、瘴気が離れていくという。

 

 もしかしたら……。

 

 

 一縷の望みを掛けて、彼は自らその旅人達を詳しく精査することを決定した。彼は後悔していた。最愛を失い、希望を全て断たれたと思っていた。しかし、偽物であるにしても、娘にもう一度、ひと目でもいいから逢いたかった。

 

 後から組合長達にはごちゃごちゃと言われるだろうが、そんな事はどうでも良かった。今回だけは、領主では無く、親として行動させてもらう。そういう決意の元、彼はレンブラントに後を任せ、久しぶりに出した鎧具足に身を通し、剣を佩き、マントを羽織って西門までを馬車で急ぐ。

 

 

 その途中で、ダイバー組合とその者達が一触即発になっているという報告も上がってきており、まずはダイバー組合に時間を稼ぐように厳命した。しかし、刻一刻と状況が悪くなってきているという報告を受けて、流石のセドリックも最後の方では珍しく怒号をあげながら馬車を急がせていた。魔人の疑いがある中で、その対応は分からなくもないが、これが万が一高名なダイバーだったら、このパリスにとって大きな損失となる。いずれにせよ、慎重に対応しなければならない場面なのに、何故そうなるのかと、後から対応に当たったダイバー組合長に怒りを覚えた。彼が対応し出してからそうなったという情報も入っており、その無能さに頭を抱えたくもなっていた。何はともあれ、自分が見ればよい。さすれば全て明らかになる。

 

 

 

 あぁ、叶うのであれば、娘が人間のままでありますように──

 

 

 人間で無くとも、少しでも自分を覚えていてくれますように──

 

 

 もし、そうであれば、自らの手で処断できますように──

 

 

 

 

 

 もうすぐ、到着する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おぉ……とうとう着いたな。それで、どうするんだ?」

 

「ダイバーの狩りから帰ったときは、門の呼び出し口から声を掛けますが……」

 

「その辺はマドリーとそうは変わらないわね」

 

「では、リュシー。手はず通りに」

 

 

 ミシェルにそう促されたリュシーが、門の近くまで赴き、目線の高さにある小窓を横にスライドさせ、格子状になっている向こう側に大声で呼びかけた。

 

 

銀級(シルバークラス)ダイバーのリュシー=ブランッス! 遅くなりましたがただいま帰還しました!! 御開門願います!」

 

 

 しばらく待っていれば、向こう側からバタバタと走り回る音が聞こえ、その扉の向こう側から大柄の兵士が顔を覗かせて台帳をめくりながら返事をくれた。

 

 

「ちょっと待て……リュシー=ブラン……。リュシー=ブラン…リュシー=ブラン!? 一週間以上前に行方不明になったはずだぞ!? 貴様は何者だ!?」

 

 

 それはそうなる。当然の事だ。しかし、そこでミシェルがインターセプトする。

 

 

「同じく、ミシェル=ユベールです。アンリ=ルフェーブルもいます。魔人の手から逃れ、こうして帰還できました。話せる方を呼んでください」

 

 

 

「!? な……なんだって……!! た、ただいま隊長をお呼びします!! 今しばらくお待ちください!」

 

 

 そうして、ドタドタと慌てながらその兵士は離れていった。しばらくすると、隊長と思わしき人物が格子戸から顔を覗かせ、こちらを確認する。実直そうな男だ。

 

 

「!!?……こ、これは……! いや、失礼。まず、貴殿は何者で、どういった経緯でここまで来られたかを教えてください」

 

「分かりました。まず──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 ミシェルは簡潔に経緯を説明した。攫われた先で、光の英雄に救われた事。そして、帰還する途中で公爵級魔人と交戦していたダイバーと遭遇し、それを撃破した事。最後に合流して、帰還した事。そうやって聞けば本当に荒唐無稽だが、事実である以上、仕方ない。

 

 

「そ、そんな事が……お嬢様、申し訳無いのですが、私にはその話が本当で、あなたが本物であるかどうかの判断が付きません。兵士長を通して領主様に報告致しますので、今しばらくお待ち願いますか?」

 

「分かりました。当然の事です。そこで安易に門を開けるなどもってのほかですからね。私たちは待ちます。どうかお父様にお伝えくださいね、シモン。モリスにもよろしくと」

 

「!! やはり、お嬢様……! いえ、分かりました! では、今しばらくお待ちください」

 

 

 

 そう言って、彼は去っていった。ミシェルによれば、しばらく間が開くらしい。しかし、この後が問題だという。

 

 

「この後、ダイバー組合が来ます。その時、みなさん大変不快な思いをされるかと思いますが、私が良いと合図するまでどうか堪えてください」

 

「俄に信じがたいわね……貴女の街の組合長はそんなにアレなのですか?」

 

「一言で言えば……愚物です。この際一掃しようかと」

 

「貴女も中々やるものね。しかし、ビトはまだマシな方なのね。処さなくて正解だったわ」

 

 

 などと、マリアとミシェルが物騒な会話を続けていた所、門からまた別の声が聞こえてきた。

 

 

 

「お前たちか! 不審な魔人と言うのは! 領主の娘に上手く化けたようだが、我々の目は誤魔化せんぞ! 今ダイバー達をそちらに派遣しておるから大人しく待つがよい! それとも尻尾を巻いて逃げても構わんのだぞ!」

 

「お待ちください! 流石に決め付けるのは……」

 

「喧しい! 領主の娘が攫われたのは1か月も前だぞ? 生きていたとしてもとっくに魔人だ! 兵士如きが口を出すな! それにこちらはもう我々の管轄だ。さっさと貴様は持ち場を引き渡せ!」

 

「し、しかし…」

 

「なんだ貴様……自分の立場が分かっていないようだな。門外の事はダイバー組合の管轄。貴様ら領主の犬でも口出しはできんのだぞ? 分かってるのか? ん?」

 

「くっ……分かりました。この場はお任せします……しかし、御領主様の判断までは、どうかお待ちください」

 

「いいからさっさと去ね! ……馬鹿者めが。領主領主と」

 

 

 門の内側でダイバー組合のお偉いさんらしき人物とさっきの隊長さんが諍いをしている声が聞こえた。いやぁ……人間もアレな人はアレだね。こりゃミシェルの言う通りになりそう。はぁ、めんど。

 

 

「随分と横柄ね」

 

 

 マリアも思わず口にする。それに対して、ミシェルがこっそりとこの向こうの人物こそが組合長のブガロッティだと教えてくれた。こんなのが組合長か……マリアの言う通り、マドリーは恵まれてたんだなって。そう考えると、無性にあのハゲに会いたくなった。まだ彼は元気にハゲ散らかしてるだろうか。

 

 

「お待ちください。私は正真正銘人間です。調べてくだされば分かります」

 

「ほ〜う。ならば調べてやろう。徹底的になぁ……!」

 

 

 う〜ん、この悪代官臭! こんなベタベタな奴がいるんだね……まぁ、俺は打ち合わせ通りにやるんだけどさ。先に手が出ちまいそう。マリウスとかエルとか大丈夫かな?

 

 

 そうこうしてしばらく待っていると、別門から駆け付けたのか、ダイバーが30人程こちらに向かってくるのが見えた。ミシェルによれば、組合長の子飼いらしい。奮発したな! 人数的に大体俺たちの3倍と。だが、質はあんまり良くなさそうだ。精々よくて金級(ゴールドクラス)、真ん中の奴がかろうじて金剛石級(ダイアモンドクラス)とみた。

 

 

 

「テメェら止まれ! くくく……領主の娘を騙ってるのは貴様だな?」

 

「騙ってはいません。私がミシェル=ユベールです」

 

「ウヒョー! 女はどいつもこいつも超マブいぜ!! こりゃ役得だぜぇ…!」

 

「テメェらは黙ってろ! で、貴様が人間ならこちらの要望にも答えてくれるんだろうな?」

 

「……可能な限りはそうしましょう。それで疑いが晴れるなら」

 

 

 うわぁ、ヤル気満々じゃん。どちらの意味でも。ちっとは隠せよ。ミシェルもあからさま過ぎて流石に引いてるぞ。そこに、門の中からジジイが喚く。

 

 

 

「ガエタン! 手筈通りにしろ!」

 

「へっへっへっ…了解。じゃあまず武装解除だ。当然だよなぁ?」

 

「……分かりました。皆さん、言う通りに」

 

 

 あーあ。まぁしゃあない。俺達は一斉に武具を外し、彼らに渡す…おい! テメェのじゃねぇんだぞ! もっと丁寧に扱いやがれ!

 

 

 

「いーい武器使ってるじゃねぇか! こりゃ俺が貰うぜ」

 

「こっちはどうなってんだ? 売っ払えばいいか…」

 

「おい! この石光ってて瘴気が減らねぇぞ! すげぇお宝じゃねぇか!」

 

「テメェズルいぞ! 俺にも寄越せ!」

 

 

 あちこちで俺たちの武器や太陽石を奪い合う輩ども。そろそろ手が出そう。我慢我慢…。

 

 

「ガエタン!」

 

「はいはい、分かってますよ。おい、推定魔人ども。疑われたくなくばその収納袋も寄越せ」

 

「……それは流石に横暴ではありませんか? そもそも武器だけで十分のはず」

 

「喧しい! そこに武器隠してるかもしれねぇだろ!? いいからさっさと寄越せ!」

 

「……分かりました。みなさん」

 

 

 ……腹立つわぁ。この感情、俺だけじゃないはず。マリウスは我慢し過ぎて顔真っ赤だし、エルは血管浮き出てる。それを見て何とか冷静を保つ俺。こいつら…覚えてろよ?

 

 

「その袋はワシに渡せ」

 

「……チッ。あとで分け前寄越せよ」

 

 

 もう奪った気でいやがる。クソジジイが。

 

 

「……疑いが晴れたら当然返して貰えるのですよね?」

 

「ん? あぁ、そりゃそうだぜ? 疑いが晴れりゃあな。さ、最後だ。お前ら全員これ付けろ」

 

 

 そう言ってガエタンが取り出したのは、小さな封印石が嵌められた首輪だ。これアレか。霊力封じか。そこまでやる? コイツらチキンすぎん? これにはミシェルも激しく抗議し、一触即発の空気が流れた。だが、俺がミシェルに目配せして止めた。

  

 

 ──大丈夫。この程度なら余裕。

 

 

 そう表情で示しながら。見れば、マリウス達も、マリアもオッケーみたいだ。それなら余裕過ぎるわ。

 

 

 そうして、全員が首輪を装着した。すかさずそこでブガロッティがこちらに指示を飛ばす。

 

 

 

「よし、お前ら、後は好きにしていいぞ。ただし、死体は奥の方で処理しろ」

 

「な! 話が違います! 私達はもう無力のはず! 少なくとも中に入れて尋問が普通でしょう! それがダイバー組合の規定の筈です!」

 

「あー? 聞こえんなぁ。そもそもワシが組合長だ。そんな規定は知らん。安心しろ。お前たちの成果はワシらが有効に使ってやる」

 

「まさか……噂ではありましたが、本当に貴方たちは逃げて来たダイバー達をこのように殺していたのですか…!」

 

「さて? こんなご時世だ。街に迷い込む人間などは存在せんよ。いたとしたらそいつは魔人だからなぁ」

 

「どこまでも腐ってますね……」

 

「ガエタン! さっさとこの魔人達を連れて行け! 領主が来るらしいからな。何、ワシがこいつらは魔人で、辛うじて撃退したとでも報告しておくからな」

 

「へっへ……ようやくお楽しみタイムだぜぇ! 野郎ども! 連れてけ! 女はなるべく傷つけるなよ! お嬢様は俺が頂くからな!」

 

「「「おう!!」」」

 

 

 

 最早ダイバーというより、盗賊団です。本当にありがとうございました。

 

 

 

 

 さて……もう、いいよね?

 

 

 

 ミシェルが頷いてるし。

 

 

 

 やっちゃうよ?

 

 

 

 

 

 いいんだね?

 

 

 

 

 

 ……ヨシ!

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