ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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68、館にて

 

 

 

 

 

 

 ようやく館に着いた……あんな経験普通ないから緊張したわ。緊張し過ぎて引き攣った顔がまだぎこちない。

 

 大きめの門をくぐり、大きな中庭を経て大きな玄関まで辿り着く。そこに馬車は止まり、俺たちはゾロゾロと兵士達の案内で中へ入る。ミシェルによれば、ここは領主の政務兼、庁舎の役割がある建物らしい。つまり、仕事場だ。領主家族の寝泊まりは離れがあるとのこと。

 

 玄関から中に入って驚いたのは、かなり洗練された内装をしているという事だ。エントランスホールは、そのまま中世の舞踏会でも使えそう。豪華絢爛とまではいかないが、かなり凝った装飾と調度品だ。式典とかで使う為もあるんだろうな。

 

 

 そんな所にずらっと大勢のオッサンが整列してた。……うん。分かるよ、領主様指示飛ばしてたもんね。でもなんかこう…ムサいんだわ。折角のエントランスホールが泣くよ? 多分この人達組合長なんだろうなぁ。

 

 で、何が嫌かって、この人達、全然喜びの感情無い。むしろ逆。全員じゃないけど、いらん事考えてる気配がプンプンする。読まなくてもわかるぐらいに。大丈夫か? この街。

 

 

「レンブラント、ご苦労だった」

 

「お帰りなさいませ、セドリック様。そして、お嬢様……よくぞご無事で…!」

 

「レンブラント…心配をかけましたね。ただいま帰りました」

 

 

 その中で比較的、というか珍しい部類のまともなお爺さんが進み出る。この人が領主の右腕か。なんだか苦労人っぽい。

 

 そして、領主は進み出て、その全員にミシェルの帰還を報告する。

 

 

「皆の者! それぞれが多用な中、よく集まってくれた! もう分かっている者も多いと思うが、改めて報告する。3週間前に攫われた我が娘、ミシェルと、その婚約者アンリが、この度奇跡が起きて無事に帰還する事ができた!!」

 

「数々のご心配とご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。ミシェル=ユベール、只今帰還いたしました」

 

「同じく、アンリ=ルフェーブル、無事に帰還できました」

 

 

 その言葉に合わせてミシェルとアンリがペコリと頭を下げる。その瞬間、ワッと広間が沸いた。流石にこの朗報にケチを付ける様な無粋な奴はいないらしい。何人かはコソコソと話をしているが、それに構わず領主は続ける。

 

 

「同時に、俄には信じがたい事だろうが、例の魔人は滅びた! 今こちらにおわす英雄殿によって!!」

 

 

 うわ、ここで振るか。まぁ頭下げとこ。

 

 

「そ、その、領主様…それは誠ですか?」

 

「私は信じるよ。こうして見るからに無事に帰って来たのだからな…………最後まで疑って、殺そうとした者もいたようだがね」

 

 

 俄かにざわめいていた広間からピタッと音が止まる。みんな気にしてはいるんだね。1人いないのを。

 

 

「それは……どういう事でしょうか? ブガロッティがこの場にいないのと何か関係があるので?」

 

「そうだ。奴は捕縛した。子飼いどもも含めてな。現在地下牢で尋問待ちだ。奴め、我が娘とお客人達をよく調べもせずに暗殺しようとしたのだ。許されるものではない」

 

「そ、それは誤解ではないでしょうか!? 外から人が来たら先ずは魔人を疑うのが常道。彼は職務を果たしただけであるはずです!」

 

「なんだ貴様? よく知りもしないのに奴を庇うか? 私は現場を見たのだが?」

 

「い、いぇ……」

 

「貴様に問うが、彼らが魔人に見えるか? ん?」

 

「そ、そんな事は……」

 

 領主が凄惨な笑みを浮かべて威圧する。あれは…薬師組合かな? 美味い汁を一緒に吸ってたんだろうなぁ。領主が喜びの中、ブチ切れまくっている事がこれで分かり、彼らの中に緊張感が走る。

 

 

 

「奴は()()()の罪状が、ダイバー規定違反。確かに、魔人の中には偽装して入り込もうとする奴がいるかもしれん。だが、本職から見たらすぐに分かる。浄化すればいいだけだからな。それを奴らは、武器を取り上げ、道具を取り上げ、霊力封じを取り付け、その上で調べもせず魔人と断定して殺そうとしたのだ! 我が娘を! 英雄達を!! 大人しく従ったのに!! 英雄達が、その凄まじい実力で跳ね返したから良かったものの……最初から殺害を目的としていたとしか思えん。客人達の証言もある……これが、どういう事か、分かるか?」

 

「「「「…………」」」」

 

「我が! 街の! 恥だと言う事だ!! 娘を救ってくださった英雄様に!!! とんだ無礼を働きおった!!! 更に言えば、私の命令を無視した時点でこれは反逆に等しい!! ……許せん。八つ裂きにしても足らん……だがな、安心しろ。領主としてはきちんと法に基づき、裁定を下す。今、組合に緊急立ち入り捜査中だ。奴の私室、自宅も含めてな。奴は似たような事を随分とやっていたようだから証拠はいくらでも出るだろう。殺人は死刑だ。また、関わっていた者も厳しく罰する……私が何を言いたいか、分かるな?」

 

 

 再びの問いに、周りの組合長は沈黙で返す。何人かは顔が青白い。ヤバい空気を悟ったか。ジジイ繋がりでバレそうだもんね。不正が。ん? その中で平気そうな奴がいるな。アレは鍛治組合、アンリの親父か! また悪そうな顔してんなぁ! あんなのが親父だったら大変そう(小並感)。

 

 

「この街には、どうやら悪徳が蔓延っていたらしい。これを機に、一気に綱紀粛正を図る! 諸君らには、各々が誠実に職務に励む事を期待する」

 

 

「「「「はっ!!!」」」」

 

 

 

 その後、それぞれが解散し、館内の各部署に戻る者もいれば、外の仕事場へと向かう者もいる。青白くなってた奴らは、泡を食ったようにでていき、領主はレンブラントの爺さんに目配せして、兵士を付けさせてた。目星はついてるんだろうね。彼らが三々五々に散って行くのを見送りながら、領主セドリックは俺たちに声をかけた。

 

 

「お見苦しい所を見せてしまった。すまない。では、お疲れだろうから、応接室へと案内しよう」

 

「お待ちください、お父様。バチスト様も少しだけお待ちを」

 

 

 ミシェルが動き出そうとする父親と、バチストと呼ばれた鍛治組合の長である、アンリの親父を引き留める。

 

 

「どうした? ミシェル」

 

「大事なお話があります。今、この場で必要な事です」

 

「そうか。それはこのバチストとも関係ある話なのだな?」

 

「えぇ。ここにいるアンリについてですが……このたび婚約を解消することにしました」

 

「「!!?」」

 

 

 驚いてるな。そりゃそうだ。しかし、いち早く顔を真っ赤にしたバチストというアンリの親父が噛み付く。

 

 

「な…どういうことですか! お嬢様!! 我が息子ともども、折角助かったのに!! アンリ! どういうことだ!!」

 

「ま、まて。流石に私もどういうことか説明して欲しい」

 

「落ち着いて聞いてください。アンリ、説明できますね」

 

 

 ミシェルがアンリに振る。アンリはこんな状況でも落ち着き払って堂々と答えた。

 

 

「はい。それは僕…いや、私の方からお願いしました。この度の失態で私はお嬢様に多大なご迷惑をおかけしました。最早婚約者という地位に甘んじてはいられないほどの失態です。よって、今の私ではお嬢様には相応しくないと判断しました」

 

「馬鹿者!!! 貴様…! そもそも婚約とは家の取り決め!! それを当人同士で勝手に決められるわけが無かろう!!」

 

「……それについては私も同意見だが…どういうつもりだ?」

 

「そうだぞ!! 説明しろ! 今なら貴様の戯れ言で済まされるから、な?」

 

「では、こう言いましょう。私は父さ…父上のように政治のゲームなどには興味がありません。そもそも私は鍛冶師です。ですから、これからはそちらに専念したいのです。お嬢様と婚約し、結婚するとなればそれは叶わなくなります。それは嫌なのでどうか認めてください」

 

「お父様。アンリはこう言っていますし、私もその意見には賛成です。家の事ですが、この度の事件により、家同士の関係も気まずくなるでしょうし、世間も噂するでしょう。それに、アンリの鍛冶の腕は一級品であると考えます。その方が街にとっても良いでしょう」

 

「いや、しかしだな……」

 

「そうですぞ! いくら何でもそれはおかしい!! 大体アンリが一級ですと!? 笑わせるのも大概になさってください!! アンリ、ワシは絶対に認めんからな!!!」

 

 

 

 しぶる領主とバチスト。それはそうだろう。流石に領主クラスの婚約は当人同士で勝手に決められるものではない。しかし、ミシェルが領主にそっと近づいて耳打ちする。すると、領主は驚いた顔をして、しばし考え込んだ後、我々に向き直ってこう言った。

 

 

「……よかろう。婚約破棄に件について、認めよう」

 

「!? な、何ですと!! セドリック殿! いくら何でもそれは横暴ですぞ!!」

 

「当人達がこの様子なのだ。我々大人は認めねばなるまい」

 

 

 この件に関して、領主本人が認めてしまった。そうなると、いくら頑固親父でもNOとは言いづらい。ミシェルは一体何を言ったのやら。そして、いよいよキレやすく見える頑固親父が本格的にキレてしまったようだ。

 

 

「~~~~!! ふ、ふざけるな……! アンリ! 貴様…貴様とは絶縁だ!! そして、このワシにたてついた事、絶対に許さん! 貴様は今後この先、この街で槌が握れると思うなよ!!」

 

「……そうなるだろうな。どうするつもりだ?」

 

「それについてですが、まずはこちらをご覧ください」

 

 

 そうしてミシェルはその腰に佩いている剣をセドリックとバチストに鞘ごと渡した。

 

 

「これは……」

 

「先ほどお父様にも言いましたが、これはアンリが打ち直した剣です。他にもこの鎧、盾全てをアンリが製作しました。どれも素晴らしい一品です」

 

「な……! ちょっと見せてみろ!!」

 

 

 強引にその剣を奪い取り、じっくりと観察しだすバチスト。最早礼儀とか吹っ飛んでいるがいいのか? 彼は、その剣を眺めているうちに、その剣の凄まじさに気付いたようだ。腐っても鍛冶組合の長。鍛冶に関しての見聞はちゃんと持っているようだ。最初は状況も忘れて見惚れ、その後青くなり、そして真っ赤になった。分かりやすいなおい。

 

 

「こ、こんな…これほどの物が作れるわけが……!」

 

「正真正銘、彼が打った物です。材料は英雄様に提供して頂きましたが」

 

「そ、そうだ! 素材が良いのだ! それに、その英雄殿が殆ど作ったのであろう! でなければ、これほどの物が作れるはずが無い!!」

 

「いや、俺は殆ど材料提供だけですよ。そもそも鍛冶は素人だし」

 

 

 俺もその会話に混ざる。間違いなくアンリが打った物だし、それを横取りしたくない。

 

 

「これほどの物が作れる者を遊ばせておくのは勿体ないと思いませんか? なので、お父様に提案なのですが、アンリは鍛冶組合から絶縁されたようですし、領主の専属鍛冶師として雇うことを提案します」

 

「馬鹿な! それは鍛冶組合のトップであるワシの仕事だ!!」

 

「バチストは組合の運営で忙しいでしょう。ならば、そちらに専念して頂いて、アンリに任せるのも手だと思いますが。それに、アンリにはこの装備の報酬を渡さねばなりません。それをうちの専属鍛冶師に任命するということでいかがでしょう」

 

「ふむ……」

 

「認めん! 認めん認めん認めん!! そんな事などこのワシが許さん!! そもそもアンリがワシより優れてるなどあるはずが無い!!」

 

「それは、間違いないですか?」

 

「当たり前だ!! 何年やってきたと思ってる!!」

 

「ならば、比べてみましょう。そして、その成果によって決めれば良い。代々腕の良さで決めてきたのならば問題ないはずです。そうでしょう? お父様」

 

「うむ。たしかにそれはそうだな。ではそうしよう。私もネレイスの形見の恩がある。そこに報いなければならん」

 

「~~~ッ!! ならばこうしろ! このワシが相手をして勝った場合!! ワシはそのまま継続で専属! そして、アンリは廃嫡! 更に、お嬢様には年が離れているが34のワシの長兄と再び婚姻させる!! それでよろしいか!!!」

 

「盛りすぎじゃね? 馬鹿なの?」

 

「あぁ!?」

 

 

 思わず突っ込みを入れてしまった。ちょっとこの親父、強欲すぎじゃね? 34とかは流石に犯罪ですよ? それに、34の長兄で結婚してないって……もしかしてヤベー奴じゃないの?

 

 

 

「……ミシェル、本当に大丈夫か?」

 

「構いませんよ。ねぇ、アンリ」

 

「はい。これぞ私とお嬢様の間で交わした報酬ですので」

 

 

 心配になったセドリックがミシェルに確認を入れるが、ミシェルとアンリは自信満々に答えた。アンリはガンギマリしてるからそう言うだろう。彼はあの最初の仕事の後からコレを望んでいたのだ。心配ではあるが、俺も彼らを信じるしか無い。それにアンリの腕を考えれば、負ける筈もないしな。

 

 

「では、勝負としよう。課題は、新しい我が剣とする。材料は鍛冶組合から──」

 

「平等に俺が提供しますよ。アンタも使ってみたいでしょう? 神秘の鉱石を」

 

 

 ごくり、とバチストの喉が鳴る。彼にとっても、絶対に一度は扱ってみたい垂涎の素材だろう。しかし、()()()()()。実直な仕事を信条とするならば引っかからないはずだが……。

 

 

「よろしい! それならば平等だ! 同じ条件で同じ素材ならばワシは絶対に負けはせん! 英雄殿もまさか素材に差を付けることはあるまいな!!」

 

「もちろん。必要な分は平等に渡すさ。俺の最高の素材を双方に提供しよう」

 

「……話は決まったな。では、バチストよ、詳細は追って知らせる。それまでしばし待つが良い」

 

 

 そうして、肩をいからせながら了承したバチストは去って行った。本当に大丈夫かな? まぁ、信じよう。

 

 

「さて……これで面倒な話はとりあえず終わったな。では、応接室へとご案内しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 我々は館内を案内され、豪華な応接室へとたどり着いた。そこでは広めのテーブルがあり、優に20人以上が座れるようになっていた。普段このテーブルで会議とかしてるのかな?

 我々が座ると、メイドさんが複数現れて我々に紅茶を注いでくれた。生メイドさん! しかもガチなやつ! 昔の記憶では秋葉原ぐらいでしか見た事ないアレ! 密かにテンションが上がってたら、フロウに「ああいうのがいいの?」と言われて少し冷静になった。ちゃうねん、メイドさんはロマンなんよ。ともあれ、貴重なはずの紅茶と菓子まで提供してくれるとは、ありがたい事だ。マリアとかは慣れてるのか、優雅に飲んでる。つくづく絵になる人だ。これで戦闘時は【処刑者】とか言われるのだから、見た目だけじゃ分からないな。

 逆にリュシーはオドオドしてる。分かる。一般人じゃ領主の館でおもてなしとかは普通受けないからな。前世で言えばいきなり皇族のパーティーに呼ばれる様なもんかな? そりゃ焦るわな。

 

 

 さて、それで一息ついたとき、ミシェルがこれまでの経緯を再び話し始めた。彼女視点の、領主からすれば数奇で驚愕の顛末を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──そうか……英雄殿、一つ聞いてもよいか? ……我が妻、ネレイスは……苦しまずに逝ったか?」

 

「……えぇ。申し訳ありません」

 

「いや、それはよいのだ。むしろありがたい……私も肩の荷が降りた」

 

 

 

 涙を堪えながら俯くセドリック。その姿は領主ではなく、1人の妻を亡くした父親の姿だった。これ以上彼を苦しめないように詳細はぼかした。それでよいのだ。

 

 

「貴方の街を苦しめ続けた魔人は徹底的に断罪しました。すぐには殺さず、永遠に苦しめるように。ミシェル」

 

 

 そう言うと、ミシェルは収納袋から封印石を取りだした。例のクソ魔人を封じた石だ。

 

 

「コレに霊力を流せば、この中の魔人に激烈な痛みが走るようになっています。相当な強さの霊力を流さない限り死なないし壊れません。そして、私以外の物にはそれ以外の方法でコイツを取り出すことはできません。全てはコイツがいたおかげで起きた悲劇。これで少しは溜飲も下げられるのではないでしょうか」

 

「これが……この中の者が……!」

 

 

 領主がおそるおそるその石を受け取る。そして──

 

 

 ギャァァァァ!!

 

 

 おぉ、領主サマも霊力を使えるか。流石は街を統括する立場だ。確かに街を預かる上で、緊急時に帰還石が必要になる場面もあるだろうしな。それはいい。しばらくは存分にやって欲しい。それで少しでも悲しみが癒えるのなら。

 

 何度も何度も取り憑かれたように霊力を流すセドリック。その顔は鬼気迫るものであり、復讐の炎を燃やすものであった。俺も彼の立場ならそーする。誰だってそーする。そこで話は中断し、ただただ魔人の汚い悲鳴が流れることとなったが、誰1人止める者はいなかった。むしろ、もっとやれと皆で思って見守っていた。

 

 この野郎は本当に下衆だから残当。

 

 しばらくして一息ついたのか、セドリックがその石をテーブルに置いた。まだまだやりたそうだったが、我々を待たせているという事に気付いたのだろう。そのぐらいの理性は戻ってきたようだ。

 

 

「……ゴホン、すまない。これは後で使うとしよう。ありがとう。君は本当に我が街の英雄だ! 私からも改めて感謝を。また、私すら知らなかった街の英雄達よ。感謝する。結果的に、公爵級魔人2体、侯爵級1体、伯爵級15体、子爵級18体、男爵級15体……その他、苦しめられていた魔人化した人々3000体規模、か……凄まじいな。近隣の主要な魔人はほぼ壊滅したかもしれんな…。これほどの戦果をどのように報いたら良いのだろうか……」

 

「あーその辺はお気になさらず──」

 

「お父様、私たちが受けたこれほどの大恩をお返しできないないなど、あってはなりません。まずは金銭で、そして、彼らの為に私たちにできることは何でもする、というのが正しいでしょう」

 

「うむ。当然だな。して、英雄殿、何か望みはあるか? そも、英雄殿は目的があるのだろう?」

 

「え、えぇ。そうですね……我々は先ほども言ったように、マドリーという街の出身です。目標としてはまずそこに帰還したい。他の面々もそうでしょう。ただ、私個人としては、あまりに削がれた人類の力を取りもどしたいと考えているので、金銭は不要です。それに、少しばかりここもテコ入れしてから行きたいので、そちらにもご協力頂ければ幸いですね」

 

「な、何と無欲な……そんな事であればいくらでも協力しよう! 費用も惜しまぬ!」

 

「いや、こちらも復興とかで予算カツカツでしょ? そんなところで無理は言いたくないです。ただまぁ、我々が不便なくこちらで活動できるようにはして欲しいですね」

 

「承った! 必ずやそなたが十全に動けるように整えよう……しかし、それでは我々に都合が良すぎると思うのだが…」

 

「本来取引とはそうあるべきですよ。足を引っ張るだけが駆け引きじゃあなにも発展しません。お互い得があってこそ物事は進む。そういうものだと思いませんか?」

 

「……そういう事ができなくなってどれぐらいが経つものかな…いつしか我々は絶望に慣れきってしまった……」

 

 

 彼の言いたいことは分かる。だからこそ、俺はこの世界に希望をもたらしたいのだ。こんな激詰みで、夢も希望も無いような世界で、それでもどっこい頑張って生きている人たちの為に。だから、俺はどこでもそうする。それでいいのだ。ぶっちゃけお金とかそんなにあっても使わんし。

 

 

 そうして、マドリー組とも領主は話し合い、結局その日は別館の領主の館へと向かった。それまでいたところは本館だが、仕事場がメインであるために、寝泊まりには向かないという。尚、アンリも同じように連れてこられた。なんでも婚約者として以前からこちらで寝泊まりしていたようで、彼の部屋もあるという。恵まれてんなおい。

 

 

「だから僕は腐ったんですよ。一刻も早く独立できるようにしなきゃならないですね」

 

 

 うん。それが良いと思う。その前に、君の腕にべったりとくっついたリュシーをなんとかするべきだと思うよ? それに、彼は人生を賭けた鍛冶勝負が待っている。ここで負ければ全てを失うというのに平然としているコイツは本当に肝が据わった奴だ。それは確かな自信に裏付けられているのだろう。

 

 

 ひとっ風呂浴びるときに、あわやミシェルとマリアとフロウが乱入してきそうになったが、慌てて回避した。危ねぇ。流石に俺も我慢できなくなるから。マジで。

 

 というか、セドリック氏ってその辺気付いてるよね? 彼も考えが読めない人種ではあるからな。バチストとか読みやすかったけど、そこはさすが領主サマ。だから不安。大丈夫? 俺、怒られない? 俺も昔娘がいたけど、娘がそんな事してたらドン引きするよ? 

 

 

 まぁ、そんなこんなをしながら夕食。久しぶりに人間の食べ物食べた。泣いた。帰って来られたんだなぁって。それを見て心底哀れそうな顔で見られたが、気にしないでほしい。特にアンリとかリュシーとかマリウスとか。お前らも以前同じ顔して喰ったり飲んだりしてただろ!

 

 

 

 

 ちなみに領主サマには俺の超絶スーパー果実酒を振る舞った。こちらは振る舞われる立場だろうが知ったこっちゃねぇ! 娘が助かった記念だ! 今日は飲め! 

 

 ……最初は遠慮してた領主サマも、毒味してたレンブラント爺ががばがば美味そうに飲むもんだから、辛抱たまらず飲んでしまった。ふっふっふ…1回飲んだらもうアウトよ。これ、美味すぎてやめらんねぇからな!

 

 

 

 結局その夕食会は大宴会へと変貌した。側仕えの人々も交えて飲めや歌えやの大騒ぎ。うん。いままでかたっ苦しかったからね! これでいいのだ(暴論)。

 

 領主セドリックは、しまいにはおいおい泣きながらミシェルを抱きしめて奥さんを思い出して泣いてるし、レンブラント爺は大笑いしながらバシバシその背中を叩いてる……あ、やべ、こっち来た。何? ミシェルをやる? いや、その辺の事情はちょっと落ち着いてから…いや、決して娘さん可愛くないわけじゃないっすよ? むしろ超絶美少女です! 超! 好みです! ……でもアレっす。俺、好きな娘いるんで…え、ソイツも含めて嫁にしろ? またまたぁ…マジ? うん、分かった分かったから! その辺は素面でまた話しましょうや! とりあえず飲んで! おーいいっすねぇ! ……ヨシ!

 ん? フロウ? 君、結構飲んでたよね? 何でまた復活してんの? ミシェルは未成年だから分かるけど、がばがば飲んでたマリアまで…え? 好きな娘って誰って? え~と…それはですねぇ…お! アンリがまた阿呆みたいに飲んでるぞ! リュシー! そーやってソイツに飲ますんじゃあない! お前らまた爛れた感じになるだろ! あっ、言っちゃった! まぁ、みんな酔っ払ってるからいいか…。え? 誤魔化すな? うん。そうだね。分かった。それはちゃんと言うよ。ただし! こんな宴会でムードもクソも無いような所で言いたくない! ハイ、この話は終了! え~とか言わない! ほら! 楽しもうぜ! こんな愉快なことは無いんだからよ! みんなで人間世界に帰れた! 今日はそれでいいじゃねぇか!! ヒャッホウ! さぁ、とことん飲むぞ~! メイド諸君! 君達もた~んとお食べ! これめちゃ美味いから! えっ、それは出すな? そんな~。

 

 

 

 

 

 ──メチャクチャ盛り上がった。

 

 

 

 マリウスは相変わらず泣いてるし、それをルチアに慰められてる。アイヴァンとエレーナは平気な顔でがばがば飲んでる。アイツらザルだわ。アンリは目が据わってそれまでめっちゃお酌してたリュシーをひっつかんで自室へと連れ込んだ。うん……若いっていいね! エルもサラもちびちび飲んでたけど、それ見て同じようにそそくさと引っ込んだ。アイツら、ヤりますねぇ。そうこうしているうちにミシェル含む美女3人組は、領主サマの面倒を見始め、最終的にはミシェルが部屋へと連れて行った。マリアとフロウもそれぞれ酔いつぶれてる人々を介抱して部屋へと連れて行き、俺も手伝う傍らしれっとあてがわれた部屋へと戻った。まぁ、結論から言えば楽しかった! 俺がやらかしたようなもんだけど、こんな夜があってもいいじゃない。帰ってきたんだもの。領主サマも少しは気晴らしできたやろ。

 

 

 ……さて、そろそろ攻防も激しくなってきたな。いい加減決着つけんと。とりあえず、この街での活動ができるようになってからだな。じゃないとそろそろ俺も辛抱たまらん。いやぁしかし、3人って…いいのかね? バチあたらん? というかコレ考えるの何回目かね。そりゃラブやんも呆れるわな。

 ま、結局は俺が楽しく、皆楽しくなれればそれでいい。悲しませたくはない。その方針でいくって決めたから。

 

 

 だから、悪いけどもう少し待っててくれ。必ず答えは出すからな。

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