ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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69、愚者の剣

 

 

 

 

 ──翌朝。いや、昼まで寝てた俺達は、メイドさんに起こされた。いや、俺は自分で起きたけどね? 主にお楽しみだった連中の事よ。なんかマークいっぱい付いてるけど、特にアンリはそれエリダ草辺りで消しときなよ? 

 

 

 

 食堂に向かえば、どうやら領主セドリックも遅れて目覚めたらしく、若干焦っている感が僅かに滲み出ていた。こちらには悟られない様にしていたが、流石に分かってしまった。しかし、なんとか取り繕い、我々へと挨拶をし、昼食を共にした。そこでは、しばらく当たり障りのない会話を行う。昨夜の事は完全にスルーしてら。まぁ顔色も良いし、気分転換にはなったようだ。

 

 

「アンリよ。お前は折角の婚約を蹴ってまであのような勝負を申し出た。負ければかなりの痛手だが、そこに勝算はあるのか?」

 

 

 食事が一段落したところで、領主がアンリに話を振る。その懸念は当然のものだ。それに対し、アンリは泰然と返す。

 

 

「領主様、私は負けません。たとえどのような者が相手でも」

 

「しかしだな……勝負に絶対は無い。それに、裁定方法はどうするつもりだ?」

 

「据物斬りで良いかと。それで結果は出ます」

 

「……相手はバチストだぞ?」

 

「誰が相手でも同じです。この勝負を受けた時点で」

 

 

 そうなんだよな。実は勝負は始まる前から決まっていた。問題は──

 

 

「で、()()()()()()のだ? ヴァネッサか?」

 

 

 それだ。我々サイドでは不正の疑いがかかる。かと言って、向こうサイドだと逆にそれをやられる可能性がある。極論、誰がやっても同じなのだ。それをどう解決するつもりなんだろうか。だが、その疑問を受けてもアンリは動じてない。何か名案があるのかな?

 

 

「それについては案があります。それは──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おま、コレ……」

 

「いいでしょう? ただ振り下ろす。それだけのカラクリです。簡単でしたよ」

 

「いつの間に作ったんだよ…」

 

「んーと、大体構想含めるとちょこちょこ作業の合間にやってましたけど…1番は【アーク】の時ですかね。アレが早く終わったからついでに作って、収納袋にパーツごと入れときました」

 

 

 清々しい顔で言うコイツだが、ほぼ人間大のカラクリがかなりの強度で剣を持つことができ、それをかなりの強度で振り下ろせる。これは簡単に見えて相当難しい筈なんだが。

 

 

「【アーク】に比べればなんてことはなかったので。これぐらい大きい方がむしろやりやすいですね。構造も単純ですし。あ、材料を勝手に使いました。ごめんなさい」

 

「いや、そりゃいいけどさ。確かにこれならいけそうだが……」

 

「……確かにこれなら問題は無い。後はお前の腕次第、という訳だな?」

 

 

 領主もいきなり出てきた機械にビックリしてる。だが、その有用性は認めたようだ。レンブラント爺によれば、バチストはもうすぐ登庁するらしいので、そこでこの勝負方法について提案するという。さて、どうなるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「勝負方法は、3日だ。3日使って私の剣を造れ。当然、鞘付きでだ。完成した品物はこの庁舎の庭で、このカラクリをもって試斬を行う。その成果にて決着を付ける。よいな?」

 

 

 

 本館兼庁舎のエントランスホールにて、領主とレンブラント爺、ミシェル、そして複数の組合長の立ち会いのもと、勝負の概要が2名に話された。

 

 

 

「お待ちください! 3日ですと!? せめて1週間は欲しいぐらいだ!」

 

「しかし、この期限はアンリが提案したのだが?」

 

「馬鹿な! 鍛冶のイロハも知らん小僧め!!」

 

「父さん、僕は3日で造れる。それが無理ならば勝負を降りたら?」

 

「~~~~!! ええぃ! 良かろう! 3日だな!? それで持ってきてやる! 後で間に合わなかったなどと言う戯れ言は聞かんからな!!」

 

「いいですよ。では、その条件で合意と言うことで。あぁそれと、負けたときに父さんばかり条件を付けてますから、僕からも1つ条件を付けさせてください。父さんは、この勝負、負けたら隠居してください。鍛冶組合の長は僕が引き継ぎます。いいですね?」

 

「」

 

 

 バチストの顔が凄まじいことになってる。そうだね。ヤバいね。でもさ、34の馬鹿息子をミシェルに嫁がせようとか阿呆なこと言ってたんだ。それぐらいはいいよなぁ? 聞いたぞ? その長男、馬鹿すぎて女の所に入り浸って飲む買う打つしかやってないらしいじゃん。そんなのをミシェルにやるなんてふざけたこと抜かすとは大したもんだ。その分のリスクは負えよ?

 

 

「バチスト。私もその条件には賛成だ。流石にこれまでの条件(アンリ廃嫡、鍛冶禁止)ではアンリに不利すぎる。その条件をお前が付けるならば、前もそれなりのリスクを負うがいい」

 

 

 領主サマも、ギリギリ口には出さないが、可愛いミシェルをそんな奴の所にはやりたくないとありありと顔に出してる。当たり前だよな。ミシェルの願いじゃなかったら即蹴ってる案件だぞ。それにたいしてバチストは怒りが頂点に達したらしい。

 

 

「こ……この…どこまでも……!! アンリ、貴様は許さんぞ…!! 必ずや貴様を負かしてこの街で這いつくばらせてやる!!」

 

 

「……では、材料だが……」

 

 

 お、俺の出番。じゃあ出すよ~。

 

 

 ゴトゴトゴト

 

 

「ほい、これがオリハルコン、アダマンタイト、ミスリル、あとは、普通の鉄鉱石と、金、銀、銅。そして鞘用の木材だね。スーパーミスリルも少し付けとくよ。これでいいかい?」

 

 

「……!! ……これが……!」

 

 

 今まで怒り狂ってた親父が、目を輝かせて材料に飛びついた。まぁ、鍛冶師なら一度は触ってみたいよね。下手に政治に手を出さずに、その情熱をもっと前面に出してれば良かったのに。

 

 

「2人とも、同じ量、同じ数、同じ素材だ。この中から造る。材料は余らしても構わん。だが、余った場合は必ず持ってくるように。よいな」

 

「おう!」

 

「承りました」

 

 

「では、これより勝負を開始する! 3日後のこの時間だ!! 各々、取り掛かるが良い!」

 

 

 

 

 バチストは、表面上は怒りながらも、ほくほくした気分で庁舎を出て行った。気分が良さそうで何より。それにしても、立ち会いの組合長数人がなにやら物欲しそうな目で俺を見てるな。どうやって巻き上げようか考えてる顔だが、お前達にはあげねーよ。まったく、泥棒みたいな奴等しかいないのか? ここ。

 

 

 さて、解散ではあるが、アンリは離れの前の土蔵の空きスペースを使いたいと申し出て、許可を貰った。そこで行うらしい。一応俺は手助けしないことになっているから、後はお任せだ。ただし、彼用の窯を出してからな。別に窯についての指定は無かったからな。どうせ向こうも複数人でやったり、一番良い窯借り切ったりしてるだろうから、これぐらいは良いだろう。アンリと共に土蔵に行き、そこで窯を袋から取り出す。

 

 

「さて、こっからはガチ勝負だぞ。アンリ、本当に大丈夫なんだな?」

 

「えぇ。任せてください。今日父さんを見て確信しました。僕は勝ちます」

 

「……いい表情だ。頼んだぜ。ミシェルをそんな糞野郎にくれてやるなよ? 万が一そうなったら俺はなにもかもほったらかしてミシェルだけ攫ってくからな?」

 

「分かってますって。僕もそれは絶対に許さないので。あのカス兄貴にも痛い目を合わせてやりますよ」

 

 

 

 アンリの気合いはバッチリだ。本当にコイツは天才だ。それは、コレまでのアンリが造ってきた物を見れば分かるし、その製作過程を見れば一目瞭然だ。それでも不安にはなる。しかし、当人が絶対の自信を持っているからには大丈夫だろう。リュシーは心配そうに彼に付いているが、彼女は風を送る担当として最後まで付き合うらしい。この3日は誘惑するなって厳命しといたから大丈夫だろうけど…大丈夫だよね? まぁ、信じよう。

 

 

 

 

 

 さて、3日か~。何すっかなぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日目、とりあえず領主セドリックはあの後、民衆へと正式に布告を行った。ミシェルとアンリが帰ってきたこと、光の勇者(俺らしい)が彼女達を間一髪で救い、公爵級魔人を打ち倒したこと。そして、堂々と凱旋して帰ってきた事などだ。道中でマドリーの英雄達とも合流して更にもう一体の公爵級と、複数の魔人達を殲滅し、しばらくの安全が約束されたことも追って報じられた。

 

 この布告を受け、民衆は沸き立った。実際に見た者や、それを噂で聞いた者から街中にそのニュースは広がっており、その事実については殆どの者が知っていた。俺達が宴会したように、民衆も飲めや歌えの大騒ぎだったようだ。むしろ、なぜか布告よりも詳しい情報を持つ者もいて、訳知り顔で酒場で語っていたらしい。ダイバー組合長の話とかね。気の早い者はその場面を歌にして歌い出すし、吟遊詩人は早速光の勇者の話を作って酒場で歌っているらしい。ほんと勘弁して…。

 

 その後、ミシェルとアンリとの婚約破棄の噂が流れ、民衆に不安が走るが、どういう経緯かアンリと鍛冶組合長の鍛冶勝負になったという布告を聞いて、一部の者は賭け事の対象にしはじめた。たくましいね、ほんと。

 

 

 まぁ、俺もあんまり顔割れてないし、普通にそれらは市井で話し好きのおばちゃんに聞いたんだけどさ。マリアが認識阻害の装備を複数持ってたから、それを借りて俺達は3日後までは街をぶらぶらして遊んでたんだよね。

 

 だってやることないし。ぶっちゃけ俺がやろうとしてる事って、アンリの力がマジで大きいんだよね。だからこそ、彼の勝負が終わらないと動けないし、この勝負で勝ってくれれば、より動きやすい。それまでは自由に過ごさせて貰うぜ。マリアとフロウとミシェルは俺にピッタリとくっついて離れないが。おい、ミシェルはいいのかよ。

 

 でも、吟遊詩人の歌とか聞いてるとマジで恥ずかしいけど面白かった。俺の美化されすぎ問題とか。こっそりラブやんが爆笑してたからな。俺達はそれを肴に市井の食べ物を楽しんだ。

 

 マリウス組や、エルサラコンビも、それぞれ市井で楽しんでいるようだ。

 

 まぁ、絡まれても絶対負けないだろうし、それぞれ楽しむのはいいことだ。生きてるって実感できるよな!

 

 

 色々と見て回る中、フロウが呟いた。

 

 

「……この街は、武具全般が高い」

 

「そうね。同じ性能のモノでもマドリーの相場の2倍以上はあるわね」

 

 マリアもそれに同意する。それは俺も思った事だ。

 

「そうなんですか? 貴重な装備品ですから高いのかと……」

 

「物価が高いから…ってわけでもなさそうだなぁ」

 

「それを含めてもって事。貴女は比較対象がないから分かりづらいかもしれないけど、明らかに暴利よ。この街のダイバーが育ってない原因の一つかもしれないわね」

 

「大方あの親父のせいだろう。がめつそうだったしな」

 

「ナギの言う通り、間違いなく彼が原因。この勝負はこの街にとっていい機会かもしれないね」

 

「そうさ。その辺も含めて丸っと解決できるかもしれないんだよ。アンリが勝てばな」

 

「使徒様のやる事に間違いはありませんわ。きっと望み通りの結果となるでしょう」

 

 

 マリアの盲目っぷりは心配になるが、スルーしてと。フロウの言う通り、これはいい機会だ。この街に蔓延る悪徳を排除し、人類の力を取り戻す。その一歩としてこの勝負は刻まれる事になるだろう。あまりにも目に余る権力者が多い事を考えれば、マドリーって本当に恵まれてたんだなぁ。だからこそ、俺が出てから急速に発展したらしいじゃない。今のこの街では無理な芸当だよな。だから、頼むぜアンリ。

 

 

 

 2日目も同じように過ごし、時折アンリの様子を見にいったり、バチストの様子をこっそり視察しにいったりした。バチストはやっぱり複数人でめっちゃデカい窯のところでやってた。まぁ、それはそうだよね。んで、新しい素材に四苦八苦してら。そりゃそうよ。あのアンリでも四苦八苦したからな。残当。

 

 欲をかきすぎちゃいかんって教訓にはなっただろう。それでも彼らは仕上げてきそうではあるな。さすがはプロってところだ。

 

 ちなみに、ブガロッティ一味の取り調べも順調に進んでいるらしい。ダイバー組合の本部、奴の秘密の書斎から次々と証拠が見つかったという。子飼いどももやらかしまくっているらしい。殺人件数は少なくとも10人は下回らないとか。ヤバすぎじゃない? 

 

 関連した組合の長も、贈賄、脱税などの疑惑で次々と逮捕されているという。まぁ、あんな感じ悪いんじゃ、そうなんだろうなぁとしか。ダイバー組合ってかなり権力強そうだから、今までメス入れ出来なかったんだろう。それが崩れればそうなるよ。まぁ、ツケが回ってきたんだから大人しく受け入れな。

 

 

 

 3日目、同じように視察する。アンリも鬼気迫る表情。あと12時間だもんね。仕上げに入っている。この表情したアンリは、正に機械のような正確で精密な動きをする。それでいて繊細な作業もこなせる。普通疲れて精度落ちるのに、コイツは逆なんだよな。すげぇ。バチストの方は、流石に疲れが見える。歳だろうからな。仕上げは若手のできる奴に任せるっぽい。それ流石に反則じゃね? まあいいけど。寝不足すぎて寝てるし。見てなくていいのかよ。

 

 

 

 そこから更に3時間経ち、6時間経ち、10時間経ち、そして11時間50分が経過した。2人はギリギリまで現れなかったが、流石に10分前には姿を現した。一振りの鞘に入った剣を持って。領主の土蔵では流石に妨害もできなかったようだな。

 

 

 場所は、領主の庁舎の中庭。

 

 

 

 ここは普段、一般の民主は入れないが、関係者含む民衆の代表とかもいて、結構な人だかりになっている。彼らは我々を一目見ようと押し合いへし合いしているが、兵士がそれを押し留めていた。まるでアイドルのコンサート会場みたいだな。あ、最前列にいるあの男。ブクブク肥えてミシェルにいやらしい視線を送ってるが、アレが例の長男か。バチストに似てるし。

 

 いや〜クソ魔人に比べりゃ10倍はマシだろうけど、俺がミシェルだったらやだな。だらしない格好してるし、無精髭ぐらい剃っといてほしい。なんか全体的に汚いし、いかにも品がなさそう。結婚したら無能の癖に威張り散らしそうなソウルを感じる……本気であんなのと結婚させる気なの? 嫌がらせ? でも、本人は勝つ気満々だし、馬鹿息子もそんな感じだね…なんつーか、領主様達って大変だよね。心労的な意味で。

 

 

「期限の3日が、現時点をもって過ぎた! これより! 鍛治勝負を始める!」

 

 

 領主の宣言に、周りの群衆がワッと沸く。その様子は、まるでお祭り気分だ。領主が続ける。

 

 

「勝者は私の専属鍛治師とする。また、負けた者は事実上の引退となる。双方合意の上だ。よいな!」

 

「「はっ」」

 

 

 辺りがざわめく。想像以上に厳しいペナルティだったからだ。そして、対するは実の親子、しかも一方は鍛治組合の長だ。側から見れば何の冗談かと思う所だろう。しかし、それに異議を唱える暇もなく勝負は始まってしまった。

 

 

「では、バチストよ。その剣を見せてみよ」

 

 

 セドリックは、バチストから恭しく差し出された剣を両手で握り、ギャラリーへとかざす。その装飾は豪華絢爛。正に支配者の剣というに相応しい鞘と鍔の誂えだった。見せられた民衆も、その素晴らしさに溜め息をついている。

 

 そのまま持ち方を変え、すらり、と鞘から本身を引き抜けば、そこには黄金に輝く、流麗な剣身が姿を見せた。太陽に反射してキラキラと輝くその剣に、セドリックも思わず見惚れたようだ。確かに業物の類いではあるだろう。

 

 

「……流石だな、バチストよ」

 

「光栄ですな。しかし、ワシ自ら造り、しかも材料は最高級。当然でしょう。ところでセドリック殿、約束は守っていただけるのでしょうな?」

 

「私は言った事は守る。内容は、専属鍛治師に加えて、ミシェルをそこにいる其方の長男を婚姻させる、だったな?」

 

 

 民衆に驚きの声。そして、非難混じりのざわめきが大きくなる。それをどう勘違いしたか、馬鹿息子は偉そうに踏ん反り返り、ドヤ顔をしていた。

 

 

「……まさか約定は破りますまい。そちらから提案された事ですからな!」

 

「その条件は其方が出したのだがな。それと、アンリは材料を返したが、其方はどうしたのだ? 剣1本には確実に余る量だと思ったのだが」

 

「そっ、それは……恥ずかしながら、失敗を繰り返し、廃棄、しましたので、残念ながら無いですな。申し訳ない」

 

「ふむ……其方は失敗を重ねた、と」

 

「! 初めての素材ですぞ! それは当然の事! アンリはこれらを使った事があるから失敗せんのです!!」

 

 

 アンリは最初から失敗しなかったけどね。つか、材料の殆どはポッケかお友達配りなんだよなぁ。こういう人達ってなんでそうなるんだろね。前世の上の奴らも酷かったよな。真面目に勝負すりゃいいのに。

 

 

「結果が全て! 剣の性能、斬れ味! それによって決まるはず! セドリック殿、どうか裁定をお願いしたい!」

 

 

 強引に押し切って、彼は試斬を促す。それを受け、セドリックは兵士長に剣を預け、兵士長はそれをカラクリへとセットした。このカラクリは、霊力を流すと振り下ろし、それを止めるとゆっくり振り上げる仕組みになっている。俺にはどういう構造になってるかはある程度分かるが、初見だとチンプンカンプンだろう。

 

 先にデモンストレーションで木の棒を持って振らせてたが、その鋭い振りで観衆を沸かせてた。余興としてはかなり盛り上がった。試斬の対象はデカい頑丈そうな丸太。太さが3メートルはある。これなら結構いい感じかもしれない。ちなみにデモンストレーションの木の棒はバラバラに砕け散ってた。

 

 

 

 

 

 さて、準備も完了し、いよいよ試斬だ。バチストの剣がセットされる。そして、セドリックが自らカラクリ君(仮)へと霊力を注ぎ、カラクリ君(仮)がその剣を振り上げ──

 

 

 スパン!

 

 

 一気に振り下ろすと同時に、3メートルもの丸太は分割され、バチストの剣は乗っている台座まで到達した。

 観衆からはおお〜! という声があがる。流石はこの街の組合長だ。良い切れ味してる…っていうか、試し斬りとしては最高の結果を出してしまった。これ以下ならアウトだ。この時点で引き分け以下が確定してしまったがために、領主も流石に渋い顔をしている。

 

 

「あれだけの物を使ってあの程度、ね。アレと比べればウチのアレハンドロの方が腕は段違いにいい。同じ組合長でも差が出るものね。アレハンドロはまだ真摯だからかしら」

 

「そのようだ。だが、あれでも中々の線はいってそうだぞ。大丈夫か?」

 

 

 観戦していたマリアとマリウスがひそひそと感想を述べている。彼らは流石に目が肥えている。ところでそのアレハンドロって、マドリーの偏屈爺さん? あの人組合長だったの!? てっきり組合からハブられぎみの一匹狼系かと思ってたんだけど。

 

 

 周りの観衆も諦めムードが漂っている中、アンリが気にせず前に進み出てそんな領主に剣を差しだした。

 

 

「次は私の剣です。お確かめあれ」

 

「馬鹿め! 結果を見なかったのか!? もうお前の勝ちの目は無くなった! 今土下座して許しを請うならワシの元で一生雑用ぐらいなら許してやるぞ!」

 

「……セドリック様、どうぞ」

 

 

 勝ち誇ってうるさいバチストを無視しながら、アンリは領主に剣を渡した。その設えは質実剛健。華美では無いが、確かな上品さを感じさせるし、これはこれで悪くない一品だ。装飾品としても、実用品としても使えるものだ。すらりと鞘を引き抜けば、そこに現れたのは白銀の刀身。それは決して派手ではないが、洗練の極み、機能美の極限というものだろうか、とにかく斬るということに特化した剣という印象を受ける。しかし、そこに少しばかりの儚さを感じるのは何故だろうか。

 

 

 それは、剣と言うにはあまりにも美しい。

 

 

 だからこそ、剣なれど剣にしておくのは惜しい。そう感じさせる剣であった。

 

 

 大勢の観衆達は、バチストほどの華麗で実用性もある剣をでは無いことにがっかりしたようだが、領主始め、目の肥えた人々はその剣をひと目見てその剣のポテンシャルに気付いたようだ。だが、見た目だけでは判断が付かない。よって、その剣をもってこれから試斬するのだ。

 

 

 

 バチストの物と同じようにセットされるアンリの剣。そして──

 

 

 

 

 

 スッ

 

 

 

 

 観衆達は、しっかりと見ていたはずだった。しかし、その刀身はいつの間にか消えていた。観衆がざわめく。まさか、すっぽ抜けたのか、と。馬鹿息子はそれを聞いて腹を揺らして笑っていたが、しかし真実はそうではない。よく見れば、丸太が斬れている。あまりの切れ味に音が消えていたようだ。そして、数秒後に丸太はゆっくりと2つに分かれて転がった。

 

 

「なっ……! 馬鹿な…引き分け……だと…?」

 

 

 思わず声を上げるバチスト。だがな、()()()()()()()()んだよ。

 

 

「……バチスト、よく見ろ。剣が今どこにあるかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 領主が促した先、それは……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()アンリの剣であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!

 

 

 

 観衆達は熱狂をあげる。この日一番の歓声が庁舎の中庭を揺るがす。すでに領主館の周りは人だかりで満載だ。その彼らも見えないながらに歓声に同調して声をあげる。

 

 そんな歓声の中、バチストは必死に抗議していた。

 

 

「不正だ!! そのカラクリの出力を調整しただろう!!」

 

「あれは父さんも見て確かめたはず。出力は一定。それ以外にはなりません」

 

「な、ならばそこの英雄殿に追加で素材を貰ったな!? そうとしか考えられん!!」

 

「誓って言いますが、僕はあれ以上は貰ってないですよ? というか、アレすら殆ど使ってません。むしろ鋼の方の割合が多いぐらいだ」

 

「馬鹿を言うな!! あの剣はアダマンタイトをふんだんに使い、オリハルコンを芯にしてあるのだ! そんな鉄主体の剣などに負ける筈が無い!!」

 

 

 

 

 アンリが呆れたような顔で、バチストに向かって言う。

  

 

「馬鹿ですねぇ。()()()()()()()()っていうのに」

 

「…………は?」

 

「アダマンタイトとオリハルコン。どちらも素晴らしい素材です。しかし、それぞれの我が強すぎる。慎重に、金属と向き合いながらやらなければそれぞれが干渉して齟齬が起きてしまうというのに、やたらめったら使ったらそりゃそれぞれがケンカしますよ。だから僕は、芯は柔らかい鋼にオリハルコンとミスリルを少々。そして、剛性を持つアダマンタイトはほんの少し鋼鉄との合金にして芯の周りに織り込み、打ったんです。それだけで凄まじい効果が発揮される。少なくとも斬る、ということに関しては。ダイバーでは無い領主様の剣としてはそれが最上です。……貴方はあの素材を使わない方が良かった。使うにしてもほんの少しにすれば良かった。でも、貴方は素材の効果に目を眩ませて、豪華に、ふんだんに使い尽くした。貴方が真摯に剣造りに向き合っていればその選択肢はとらなかったはずなのに」

 

「……くっ…卑怯だぞ……ワシの見たこと無い素材で勝負するなぞ……こんな勝負は無効だ!!」

 

 

 

 そのあまりの往生際の悪さに、ついに領主が口を挟む。

 

 

「バチスト…お前は若干12歳の少年と真剣勝負をして、それで負けたら勝負は無効だと言うのか…そんな者が組合長だったとは、私は悲しいぞ」

 

「い、いえ! しかし、私は嵌められたのです!!」

 

「誰にだ? アンリか? ミシェルか? それとも英雄殿か? ……まさか私などとは言うなよ?」

 

「うっ……ですが!」

 

「くどい! お前は負けたのだ! お前もこの勝負は吟味した上で了承したはずだ! よって勝敗は決した! これよりアンリは我が専属鍛冶師となってもらう! そして、バチストは隠居し、アンリに組合長を譲れ! これは決定事項だ!!」

 

 

 

 口をパクパクとさせていたバチストは、その宣告を聞き、膝から地面へと崩れ落ちた。これまでの権勢の全てを失った男の姿がそこにはあった。

 後ろの方で、「ボクのお嫁さんは!?」と騒いでいるデブがいたが、彼は暴れ始めたために兵士に取り押さえられた。

 

 

「あぁ、それとバチスト。この勝負に負け、隠居したお前だから言うが……お前には数々の不正の疑惑が上がっている。不当に値段をつり上げたり、個人商店に圧力を掛けて潰したり、贈賄したり……やりたい放題だったようだな。我が子の親族になると目を瞑っては来たが、もう関係あるまい。モリス。この男を詰め所へ連れて行け。そこで色々と吐かせろ」

 

「はっ」

 

 

 そうして、彼は後ろにいる馬鹿息子共々連れて行かれた。

 

 

 全てを失った男は、その後の取り調べによって更に全てを失い、後年廃人のように牢で過ごすことになったという。

 

 

 

 

 

 その顛末を全て目撃した人々の熱狂は凄まじく、この出来事はこの街の伝説として残ることとなった。時にはこの場面だけでも路上芝居の内容となり、やがては人々の教訓として、記憶に残ることとなった。子供達が寝る前に話してもらう寓話やおとぎ話として。

 

 また、バチストの打った剣は、鍛治組合の本部に非売品の売り物として展示された。新しく門を叩く者や、古くからいるものまで、全ての鍛治師の戒めとして、この剣の教訓と初心を忘れないように。

 

 

 

 

 ──その剣には、後の世に銘が付けられた。

 

 

 

 

 「愚者の剣」、と。

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