ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
「──以上をもって、ナギ=シュトルバーン殿には私から改めて最大の感謝の意を示す」
エキシビジョンマッチの興奮冷めやらぬ中、表彰式兼論功行賞が行われた。領主自ら用意された壇上に立ち、向かい側に並んでいるナギ達の功績を褒めまくった。
それについては街の誰もがそう感じていたので、盛大に彼らを祝い感謝した。しかし、民衆の関心は彼らにどのような報酬が齎されるか、そこに尽きた。彼らにとってもパリスの名誉が掛かっているため、その部分に関心が集まるのは当然の事と言えよう。
街の重要人物救出、それだけでなく近隣に蔓延る公爵級魔人2体の討伐。そしてその他魔人達の殲滅など、どれか1つでも一生遊べる程の報酬が約束されるだろう。それをどうするか、領主の器が試されようとしていた。
「さて……これ程の恩恵を齎した彼だが、私から報酬を打診した所、そんな金があったら街の復興に使えと怒られてしまってね」
厳格な領主からいきなりのあまりにもぶっちゃけた語りに、観衆も思わず笑いが漏れた。それが治まるのを待ち、領主は続けた。
「それで私も真剣に頭を悩ませ考えた。まさか娘が救われて尚、こんなに悩むとは思わなかったがね……結論から言えば、まずは彼らに特別市民権を与える!」
観衆からのざわめきが大きくなるが、領主は大きく手を広げてそれを押し留めながら続ける。
「まぁまぁ、それは当たり前で当然の事だ。無論それだけではない。まずは彼らに新しくダイバーの等級を付与する。エル殿、サラ殿、アイヴァン殿、ルチア殿、エレーナ殿の5名には、【
そこでようやくおお〜と歓声が上がった。これは長い歴史の中でも初めての事である。そもそも人外認定に近い白金級より上のクラスが増設されるという事はよほどのことだ。しかし、両名ともそれに相応しいだけの実力を要していることは間違いないので納得の決定である。問題は
「今回の決定はダイバー組合とも協議を重ねての決定だ。そして、英雄ナギ=シュトルバーン殿には特別なクラスを用意した。【
一般の観衆もこれには驚いた。ただでさえ白金級は人外の領域で、街の運営にも口を挟むほどの力を持つこともあるが、その更に3つも上の階級なのだ。今まで金属の階級で表された階級が、そこだけ何故か概念になってしまっている事もそれに拍車をかける。
しかし、英雄が金銭などを欲しがらず、それに見合う報酬となればこうなるのかも知れないと、観衆達は妙に納得してしまった。
「以上をもって、此度の報酬とする。私としては、
恭しく頭を下げていたナギが、再び顔を上げる。その顔はとても期待に満ちたもので、それを見た観衆はこれはガチなのだと悟った。ワクワクが抑えきれない様子のナギに対し、領主は苦笑いしながらも、堂々とその称号を発表する。
「彼の二つ名、そして【称号】、それは──」
誰も彼もがナギの表情を見て期待に満ちる。彼ほどの英雄の称号とは一体どんなものなのか。
「【
観衆達は、何度目かとなる盛大な歓声と拍手をもって、新たな【称号】を讃え、新たな英雄の正式な誕生を祝った。
◇
【SIDE:ナギ】
『あ~~笑いました。くくく…! マスターもよく耐えきりましたね!』
馬鹿笑いしてようやく落ち着いたラブやんと、それを聞きながら憮然とした表情をする俺。いや、あの場では超嬉しい顔したよ? でもね、他の皆は気付いてたから笑い堪えてやんの。絶対、おまw それ剣と一緒やんwwww みたいな表情だったぜアレ。
「うるせーやい。あの場で落ち込んだ顔見せられっかよ……しかし、本当にお前も人間くさくなったなぁ」
「人間が期待していた所を外されると、そこにある種の齟齬が発生して滑稽さが生まれる。特にマスターの表情の差違は素晴らしかったです。そして今回は誰も傷つかない。これぞ人間の笑いなのだと実感しましたね」
「解説すんじゃねぇ! 第一俺が傷ついてんですけどー!? まったく……まぁ、いっか。【
『呆れるほどのポジティブさ。やっぱりマスターはこうでないと』
「それが取り柄の一つなんでな。さて、漸く準備が整ったぜぇ! 領主サマも婚姻の話を出すかどうかヒヤヒヤしたけど、そこは配慮してくれて良かったわ」
『そこなんですが、別に婚姻しても良くないですか? 支障はないでしょう。むしろ、これからマスターと彼女は権力者からの取り込みが激しくなると思いますが?』
「それは分かってる。だが、今はタイミングじゃねぇんだ。それをやっちまうと、俺がこの街に固定されちまって逆に動きにくくなる恐れがある。俺はまだマドリーに辿り着けてねぇからな。まぁその辺はちゃんとタイミング考えてっから心配すんな」
『ふむ……そうなんですね。ヘタレて逃げてるだけかと思ってました』
「オメーなぁ…流石にここまで来たらもう腹くくってるっての。とにかく明日からは忙しくなるからな! 休めるウチに休んどくぜ。オメーもこれからも引き続きよろしくな! ラブやん」
『いや、マスターもラブやん……いえ、何でもないです。まぁ、彼女達に我慢の限界を迎えられて喰われないように気を付けてくださいね。それではお休みなさい』
そうしてスリープモードに入るラブやん。まったく、この剣と同じ称号になるなんてなぁ。まぁ一蓮托生っぷりが加速したと考えれば悪くないけどね。愛剣が自身の称号と同じっていいよね。特別感増す。コイツには言わないけど。さーて、明日からバリバリ人類に希望見せちゃうぞー! お休みー!!
◇
それからというもの、ナギ達は精力的に活動を開始した。最初のアクションは、ナギ達が街の根幹部分の【アーク】に立ち入り、そこに光の霊力を注入したことだ。これによって、龍脈のパワーに加えて光の力が増幅され、凄まじい程の威力が立ち上った。その日は曇りだったにも関わらず、その光のパワーが強すぎて天まで届き、その雲を追い払って晴れになってしまったほどだ。それによって、民衆はナギの言った事は事実であると確信し、お祭り騒ぎになった。
次のアクションは、アンリだった。
アンリは精力的に活動し、素材開発研究所(マドリーで言う霊開研)と連携し、【アーク】の量産に踏み切った。その有用性は、光の英雄が、街の中心の【アーク】に光の霊力を込めた事で明らかになっていたし、マドリーの実績もあった為に、領主肝入りの大プロジェクトとして取り組まれた。それまでの実績でアンリが組合を掌握していたし、その計画はスムーズに進行した。
そして、試作品としてできた【アーク】に太陽石をセットして、そこに光を込めたモノを近隣の浅層に持ち込んだところ、その近辺が一気に瘴気が浄化された。それは、人々にとっては驚愕の事態だった。
【暗黒領域】が駆逐され、人類生存圏が広がる。それは、彼らにとっては朗報以外の何物でも無く、まさしく希望として人々に喜びをもたらした。
同時進行で、フロウはエル・サラコンビを護衛兼指南役として付けながら、パリスのダイバー達に光の霊力発現の為のアドバイス講座を行った。試作品【アーク】が設置されたセルジー遺跡を整備し、住めるようにするために働きつつ、濃厚な【アーク】から溢れる光をその身に浴びて生活する。そして、発現できるように信じること。それをフロウは彼らと共同生活しながら教えていった。
尚、フロウはその容姿故にパリスのダイバーから何度も口説かれたが、そのたびにどこからともなく【
一方、マリアは引き続き教会の整備に精を出していた。彼女自身が【
マリウス組は、ダイバー組合の鍛錬と称して日々彼らをボコっていた(アイヴァンだけは重機担当としてセルジー遺跡の方にいたが)。
しかし、彼の強さを少しでも学びたいとするダイバー達も気合いを入れて掛かってきて、マリウスは大変ご満悦だった。彼自身の修行にもなるということで、彼含むメンバーはコツを教えながらもひたすら自己を高める修行に明け暮れた。
ミシェルは、ナギから借りたレオナルドの研究書を写本して大事な要素だけ抜き出し、編集した。それが新しく生まれた「魔術理論概要」著者:レオナルド=コルテス、編集:ミシェル=ユベールである。その本を教科書として、彼女はダイバー達に魔術の基礎を教える教室を開いた。彼女の人間離れした美しさも相まって、その教室はたちまち大人気となり、整理券を発行しても連日立ち見で受ける者が出るほどとなった。流石にフロウのように粉を掛ける者はいなかったが、彼女の覚えをめでたくしようと特に男性ダイバーは必死でその魔術を覚えていった。無論女性ダイバーもそんな男性ダイバーから彼女を守るべく、必死に授業に付いていった。
最後に、我等がライトブリンガー達はというと……領主や宰相レンブラントと綿密な打ち合わせやスケジュールの確認を幾度となく行い、更には他の組合長等に指示を出すという事を行っていた。ここから状況は加速していく。今までのような他人の横取りや中抜きを平気でするような体制では到底追いつかない時代が到来する。そのために少しでも腐敗した組合を洗い出し、そこを是正していく作業に追われていた。今はセルジー遺跡だけだが、今後活動域は広がっていく。そこで全ての組合が一丸となって働くことができるように整えていかねばならなかったのだ。
そうして、パリスの街の組合は綱紀粛正を為し、これまでの様な横領や中抜き、賄賂が出来にくい仕組みが作られていった。一般には中々恩恵が感じづらい事ではあったが、それこそが最も市民の生活に影響を及ぼしていた。
そこまで彼らがスムーズに事を運べたのも、帰還時に既得権益の象徴とも言えるダイバー組合や鍛治組合を崩す事ができたのが大きい。それによって芋蔓式に不正が見つかり、次々と悪の芽は潰されていった。
中には【
ともかく、そのようにして英雄達は街での活動を精力的に行っていった。
最終的には、彼らはマドリーへと帰還する。それまでにこの街が独り立ちできるように準備しなければならない。そして、今後を見据えて、マドリーの街とパリスの街が連携できるようにしていく必要がある、とナギは考えていた。
◇
あれよあれよという間に1年が経った。街は大きく変貌しており、新たな領域を獲得して、その整備に忙しかった。ダイバー達の実力の底上げも相当捗り、共同生活をしていた者の大部分が〝光〟を獲得して、探索に復帰していった。
また【魔術】の普及率も目覚ましく、ミシェルが編集した本は写本を繰り返され、「魔術理論概要」は最早ダイバーの1人に1冊は持っているという必携本となった。
ミシェルは領主に働きかけ、パリスの街に大学を設立した。そこで引退したダイバーや浄化担当を呼び込み、理論を教えて魔術講師として雇わせ、自らは初代学長として立つ事になった。しかし彼女は他にも沢山やる事があり、名だけ置いている状態であった。よって、基本的に運営は他の者が行っていた。
やがてミシェルが直接教えた者達が教鞭をとったり、探索で使える程習熟したりするのを確認してミシェルは安心して他の仕事に専念した。それでも偶に呼び出されて相談を受ける事があるが、それは彼女が魔術研究の第一人者であり、誰よりも魔術理論の造詣が深かったからである。ともかくそれによって魔術理論は日々、ゆっくりとではあるが確実に進歩し始めたのである。
開放地区も、セルジー遺跡に加えて近場の最大の狩場兼パリスの悩みの種であったヴェルサイユ宮殿跡地も開放された。半分ダンジョン化していたヴェルサイユ宮殿跡地は、深部は浅層を超えて中層に至る程の巨大な建造物だったが、【
こういった英雄達の活躍により、パリスの街は俄かに忙しくなった。大工組合はフル稼働で建築を行い、鍛治組合もそれに追随した。そのフォローに様々な組合が協力し、正に街全体が一丸となって自らのやるべき事をこなしていった。これは、それまでの体制では不可能な事であったが、新しく生まれ変わったパリスはそれを可能にした。
むしろ働ける者が足りず、老人から子供まで動員しながら忙しく事に当たってはいたが、それでも働いた分以上の成果は出るし、何よりもマドリーと同じく人々の顔には希望が浮かんでいた。
その結果、この1年でパリスの街の環境は大幅に変化した。英雄達はいよいよマドリーへの帰還を計画し始めた。領主他、住民からも相当な引き留めがそれぞれあったが、それでも彼らは帰る事を譲らなかった。その代わり、帰った後に必ずパリスにも戻るという事をパリスの人々に約束した。
──そして、彼らが帰還する日が決まった。