ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
ヴェルサイユ宮殿跡地。そこはかつては豪華な宮殿が建てられ、時代を超えて愛された。しかし、今ではその面影が少しだけ残るばかりである。
ただ、そんな宮殿も今は瓦礫が撤去され、大きな柱などの宮殿の遺構が比較的綺麗に残っている。その姿は一種の物悲しさを覚えるが、見方によってはそれはそれで風情がある遺跡なのかもしれない。実際に、作業員達対象の屋台や露店がそこかしこに並び、まるで観光地の様な錯覚を覚える。
今でも地下のダンジョンの様な遺構をどのように利用するかを街では検討中だという。
そんな広大な敷地の中庭に、ナギとフロウはいた。昔のように、屋台で買った食べものを片手に、それをほおばりながら腰掛け、働く人々を眺めながらとりとめもない話をしていた。
「もうすぐ出発だね」
「あぁ。ようやく帰れるぜ。俺達の街にな」
「最初はどうなるのかと思ったけどね。マドリーとはいろんな意味で違ったから」
「そうだな……ここも随分と変わったなぁ。勿論いい意味で」
「活気がでたね。人々の顔に笑顔と希望が見られる。人はまだまだ負けないって、そう思えるよ。マドリーもそうだった。いや、もっと凄かったね」
「そっか…そりゃあ帰った時が楽しみだなぁ。……こうしていると思い出すな。覚えているか? 装備を更新した時の事」
「勿論、忘れるわけないよ…。あの思い出は私大切なものだから」
「嬉しいねぇ。俺もそうだったさ。特に深淵で彷徨ってた時はな」
「……大変、だったんだね。ごめんね、あの時は…」
「あぁいや、そりゃいいんだ! 落ち込まないでくれ……おかげで俺も気持ちが固まったんだから」
ナギが話のトーンを変える。そしてフロウへと向き直ってそういった。その表情は真剣で、普段の明るくおちゃらけた様子は消えていた。
「えっ…それって…」
「あぁ。待たせて済まなかったな。俺は君を好きだ。一緒になって欲しい」
「……! 本当に…? 嬉しい……」
「……少し、俺の昔話を聞いてくれないか」
彼は語り出す。自分の前世の話を。家族がいて、幸せだった時代。そして、それを唐突に失い、地獄へと落とされた事。その時、最後まで一緒に戦っていた盟友が裏切り、自分は再びこの世界へと落とされた事を。
「──だから、俺はいずれ行かなければならない。奴を止めて、この不幸の連鎖を終わらせるために」
「…………」
「正直に言えば、俺は君を幸せにすると胸を張っては言えない。それに、俺は前世とは言え家族がいた身だ。最早人間とは言いがたい身体にもなっている可能性すらある……だけど、俺のこの気持ちは止めようも無い。だから、その時が来るまでは一緒にいて欲しい」
「……一緒には行けないの?」
「あぁ。君は、君達は俺にとっての〝希望〟だ。俺の因縁やドロドロに巻き込みたくない。それに、それで君達が酷い目に遭ったら俺は耐えられそうにない。だから、行くときは俺1人だ」
「…………勝手な人」
フロウは絞り出すようにそう言った。しかし、ナギは笑いながら返す。
「そうさ。身勝手の極みな人間なんだ俺は。ただ、俺以上に君も大事だからな。だからこそ俺の一番の秘密を話した。それでダメなら諦めるさ。どうだ?」
「……私、は、貴方を失ったときに気付いた。私にとって貴方は大切な人だったと。だからここまで努力したし、もう手放さないって誓った……でも、一緒になったとしてもいずれ失うの?」
「はは、俺は死なねぇし、必ず戻ってくるさ。ただ、少しばかり時間が掛かりそうだけどな。だから、コイツを託すぜ」
そう言ってナギは懐から箱に入った小さな指輪を取りだした。それは純度の高い帰還石。それが加工されて埋め込まれた指輪だった。
「俺は必ず帰ってくる。だから、君にそれを持っていて欲しい。他ならぬ君にだけは。俺達の道が交わらなくても、それだけは頼むぜ」
「……誰が交わらないって?」
「うん? 君の口ぶりだとそうだったんだけど?」
「馬鹿ね、そんな事一言も言ってないじゃない。私の答えは最初から決まってるの。私は、それでも貴方と共に居たい! たとえそれが少しの時間だったとしても」
「!! そっか……正直フラれたかと思ってた。ありがとう、フロウ。嬉しいぜ。これからよろしくな!」
「うん…うん。こっちこそよろしくね、ナギ…………ありがとう。生きていてくれて」
そうして、2人は中庭の中央でお互いを抱き合った。穏やかな風が吹き抜ける中、彼らはお互いの気持ちを確かめ合い、遠くからそれを見ていた者達も静かに彼らを祝福した。
その夜、彼らは一つになった。
◇
「使徒様、昨夜はお楽しみだったようですね」
その日、教会を訪れマリアと打ち合わせをしていたナギだったが、話が一段落した後でマリアが突っ込んできた。
「な…何の話かな…?」
「我が愛弟子のフロウと
「…………っはぁ~。マリアさんには何もかもお見通し、か」
「使徒様、マリアとお呼びくださいと何度も申し上げた筈ですが。それに、私を誰だと思っているのです? 使徒様の事ならどんな変化でも見逃しませんよ」
「冗談に聞こえないから怖いんだよなぁ…。まぁ冗談はさておき、確かにそうさ。俺は昨日フロウに告白して、フロウは受けてくれた。それだけの事さ」
「なぜこのタイミングなのか…は分かっています。しかし、随分と長く感じました」
「悪いコトしたなぁとは思ってるし反省はしてる。だけど、今じゃなきゃダメだったんだよ」
「この街に根を張ってしまわないように、ですね?」
「そうさ。俺たちはまだまだやるべき事がある。その前に立ち止まりたくなかった。……勝手だろ?」
「いえ。私は微塵もそうは思いませんね。むしろ〝救世主〟としては正しい在り方だと思います」
「いやいや…前からそう思ってたけど〝救世主〟って大げさなんだよなぁ」
「使徒様! 御自分の価値を正しく認識することも時には必要ですよ! 貴方はこの世界にとって正しく〝希望〟なのですから。……私は、そんな貴方を随分と長く、長い時を待ち焦がれていました」
「…………」
「この世界には絶望に満ちていて、そして人類は滅びる運命にある。それを覆したくて必死に努力しました。でも、現実はどこまでも残酷で、私も一度は諦めた……でも、漸く、漸く見つかったのです」
「……それが、俺ってか」
「そうですよ。でも、それもまた奪われた。それでも貴方は帰ってきてくれた。私は、運命に勝ったのです。それもこれもあの娘のおかげと思っていますけどね。あの娘と貴方は数奇な、しかし強力な運命で結ばれている。だから私ももう自重はしないと誓いました」
「それは、俺に対してって意味で?」
「そうですよ。いけませんか?」
そうして彼女はナギにしなだれかかる。普段は拒絶するナギも、その時は受け入れた。
「いや? 俺は据え膳は頂くタイプだ。フロウも認めてたしな。だが、一つ聞いておいて欲しい。コレはフロウにも言った事だが──」
彼はマリアにも自らの事を語った。自らの過去、現在、そしていずれ彼は去らねばならない事を。それを聞いたあと、マリアは感極まってこう言った。
「あぁ! やはり貴方はこの世界を救うべきお方なのですね! 私の目に狂いはなかった!! 私はそんな貴方の一助になれる! 素晴らしいことです!!」
「いや、それがだな……」
彼は、その戦いには1人で行くことを告げた。マリアは相当渋ったが、最後には納得した。それでも〝救世主〟の助けにはなれる。少しでも慰めになる。それが自分の役割だと。
「私は貴方に出合うために産まれてきた。そう感じるのです。ですから、私は貴方に例え嫌われようともこうして貴方に尽くします。どんなことでも致します。だからどうか、貴方のお情けを私にください……」
「……アンタほどの人がそう言ってくれるのは嬉しい限りだ。ただ、自分も大事にしてくれ。それが俺の願いだ。それを守ってくれるなら、コレを渡しておく」
彼はフロウにもあげた帰還石の指輪をマリアにも授けた。
「おぉ……これは…」
「俺の本気の証明さ。必ず帰ってくると言う誓いでもある。だからな、コレを受け取ってくれないか? そして、少しの間だけでも俺と一緒にいて欲しい」
「あぁ…あぁ、ありがとうございます。このマリア、身命を賭して貴方と共に歩みましょう。それがたとえ苦難の道でも、そしていずれ別れてしまう道だとしても」
「その点はすまないと思っている。だが、受け入れてくれて嬉しいぜ。これでお前も俺の女だ。
「!! ようやくそう呼んでくれましたね……貴方の仕事を少しでも楽にできるように手伝いたい。それが私のこれからの生きる意味。これからよろしくお願い致します。ナギ様」
「あぁ。よろしくな!」
「つきましては、そちらの部屋に寝台がございます。使徒様も昨日楽しんだとは言え若い身。お溜まりになっていることでしょう。初めてではございますが、私がその身を賭して慰めさせて頂きます。少しの間お付き合いくださいませ」
マリアが上気した顔でシスター服をはだけながら平然と彼をベッドに誘う。ナギは、「ここって教会だよな…いいのか?」と思いつつも、マリアのあまりのエロさにどうでも良くなり、その誘いに乗った。
そして、ナギはマリアとそのベッドで一晩中戦いを行った。勝者がどちらだったかは想像にお任せする。
◇
出発前夜、領主の館でパーティーが開かれた。エントランスはダンスホールになり、組合の長らとその家族、そして街の有力者が一斉に集まって盛大な立食パーティーが開かれていた。
普段は服に無頓着なナギも、その日ばかりは高そうな服をオーダーして着ており、他の面々も着飾っていた。特に女性陣は素晴らしい意匠のドレスを纏い、会場に華やかさをもたらしていた。無論、英雄達がその中でも群を抜いていたことは言うまでもない。彼女達はそれぞれが密かにファンクラブができるほどの人気を街でも誇っていたのだ。
その中でも一際目立つ華が、領主に次いで挨拶をする。それを合図にパーティーは始まった。楽器を演奏する楽団が華やかな音楽を奏で、人々はそれに合わせてダンスを踊り出す。その中で、英雄達は静かに壁の花になったり、一緒にダンスしたりと、それぞれで楽しんでいた。
「よぉ、アンリ。いいダンスだったぜ」
リュシーとのダンスを終え、優雅に戻ってきたアンリ達にナギは揶揄った。
「えぇ、良かったでしょう? 僕と彼女の相性はバッチリみたいです」
「なんだ、揶揄いも効かねーか。リュシーも幸せそうで何より」
「ありがとうございます! 私、人生で今が1番充実してるっス!」
彼女は、アンリの鍛治補助に加えてミシェルの護衛や補佐も行っている。それはそれは忙しい身ではあるが、それに見合った給金と共に才能ある地位の高く若い男の伴侶ポジションに収まって、彼女は現在人生の絶頂にあると言えた。彼女は文字通りシンデレラストーリーを歩んでおり、街の人々からは羨まれる存在となっていた。
「しかし、お前ともしばらくのお別れだな」
「えぇ、随分と長い事一緒にいた気がしますが早いものですね……でも、またこちらにも来てくれるんでしょう?」
「あったり前だ。俺達の装備はお前以外には任せられねーからな! 頼りにしてるぜ?」
「そう言って貰えると鍛冶屋冥利に尽きますね。ナギさん達の装備は最優先にしますから、いつでも寄ってくださいね」
「あぁ。必ずまた頼みに来るからな……ところで、本当に良かったのか?」
ナギはアンリに顔を寄せてコソコソと話す。内容は勿論ミシェルの事だ。しかしアンリはキッパリと答えた。
「その話は結論が出た筈ですよ。
「……そうか。悪かったな」
「いえいえ、いいって事ですよ。僕としては2人とも尊敬する人達ですからね。あの闇を共に歩いた仲でもある。だから純粋に嬉しいです……ほら、噂をすれば来ましたよ」
振り返れば、光輝く様な美貌のミシェルがこちらに歩いて来ていた。彼女は会場の人々の視線を独り占めしていた。そんな彼女は2人(とリュシー)の前まで来て止まる。
「あら、楽しそうな会話をしているわね。私も混ぜてくれない?」
「ミシェル、挨拶はいいのか?」
「程々に切り上げてきたわ。だって息子の紹介とか自己アピールばっかりでつまらないんだもん」
補足しておくが、普段の彼女はこんな砕けた喋り方はしない。彼らとリュシーにだけはそれを見せるのである。それは彼女なりの信頼の表れであった。
「ミシェル……君は主催者だろ? いいのかい?」
「いいのいいの。むしろ貴方達が主役なんだからこんな所にいないで、もっとお話ししましょう?」
「じゃあ僕たちはこれで…」
「待ちなさい、アンリ。リュシーもそんなにコソコソしないの」
「お、お嬢! コレには深いわけが……」
「良いわよ別に。貴女にはしばらく
「えっ……お嬢、それはどういう…」
「私は欲しいモノは必ず手に入れる主義なの。貴女もそうなのでしょう? だから咎めるとかないし、むしろ祝福するわ。ねぇアンリ」
「あーそうだね。でもまぁ、まずは君の優先を選ぶんでしょ? 今は僕との道は分かたれているからね」
「よく分かってるじゃない。その通りよ。それでナギくん」
「……なんだい?」
「貴方は、フロウさんとマリアさんと
「おう、そうだぜ」
「このタイミングでということは、狙ってましたね?」
「まぁ、そういう意図がなかった訳じゃないけどな。全ては俺の身勝手故さ」
「ふふ…2人だなんて剛毅ね。さすがは英雄だわ」
「茶化すな。俺にとっては大事な事だ」
「茶化してなんかいないわ。私も随分待った。もう良いでしょう?」
「そうさなぁ……完全に俺の身勝手で待たせちまった悪かった。で、まずは──」
「まずは?」
「踊ってくれますか? お嬢様」
「……喜んで!」
◇
2人は中央に進み出て、手を取り合う。ナギの衣装はタキシード。馬子にも衣装とは言ったものだ。その隠れ筋肉質な肉体に非常にマッチしている。対するミシェルは赤のドレス。ちなみにフロウが水色、マリアが青だ。
ミシェルは、ナギにエスコートをせがむ。それに合わせて、彼は彼女の手を取り、抱き寄せた。そして、音楽に合わせて優雅に踊り出す。
それは、パリスの至宝と言われたミシェルと勇者という絵になる共演であり、周りにいた者はフロアから離れてその様子を見守った。彼らのダンスが完璧で、美しかったことも影響しているようだ。
「英雄である貴方がダンスまでマスターしているとは思いませんでしたわ」
「大昔にとった杵柄でね。基礎の基礎は知っていれば問題ないだろ?」
「私がリードしようと思ってたのに、残念」
「リードは俺がするさ。これからもな」
「あら、ならばこの後も期待してよろしくて?」
「あぁ、任せな」
その音楽は次第に激しいリズムへと変わっていったが、彼らはそれさえも優雅に、美しいステップで顔色一つ変えずに行った。その様子に会場からは溜め息が漏れていた。その段になって、エルとサラも乱入し、そして、アイヴァンとエレーナも入ってきた。人外の身体能力を持つ者は、どんな状況でも対応出来るのだ。
そして、音楽が一通り終わり、ナギはミシェルに礼をするが、ミシェルはナギへと耳打ちする。ナギは驚いた顔をしたが、その後いつも通りの表情へと戻った。
ミシェルが主催者席へ立ち去った後、フロウが次の相手となり、そしてマリアと彼は順番に相手をした。周りの者からは彼女らの美しさもあって、嫉妬の炎が渦巻いたが、流石に彼へと直接文句を言える者はいなかった。
そんな彼だが、フロウからもマリアからもなにやら耳打ちを受けており、それに真剣な表情で頷いていた。尚、マリウスとルチアと何故かヴァネッサは、仲良くずっとご飯を楽しんでいた。
パーティーも佳境に入り、いよいよ締めの挨拶の段になった。そこでは、何かと目立つ【
周囲の期待を一身に受け、彼は壇上へと立った。
「あ~パリスの皆さん。ナギ=シュトルバーンです」
周囲が湧いて、また、それをからかう声も聞こえてきたが彼はそれを押しとどめて続けた。
「まずは、『人類に希望を』プロジェクトに協力してくれてありがとう! おかげでこの街は、人類は大きな一歩を踏み出すことができたと思う」
再びの歓声、そして拍手が巻き起こる。
「ありがとう。さて、名残惜しいが、俺達はまだ自分たちの街へと帰ることができていない。よって、明日この街を出立する! この街の人々には大変世話になった。俺はまずそこを感謝したい。本当にありがとう。さて、ここで皆へ言いたいことがある。ミシェル!」
「はい」
ミシェルが頬を染めながら彼の側まで進み出る。それを見て、周囲の者達はこの時が遂に来てしまったかと戦々恐々としだした。
「俺はこれからマドリーへと戻る。しかし君は連れて行けない。君はこの街の宝だから。でだ、俺は必ず戻ってくる。そうしたら俺と結婚してくれ!」
ナギは懐から指輪を出し、ミシェルへと差し出した。ミシェルは何かを考えているような表情で思案した後、いい笑顔でそれを受け取り、薬指へとはめ込んだ。
「えぇ。喜んで!」
周囲が爆発したように沸いた。それは祝福半分、悲しみ半分と行った所だ。分かっていたこととは言え、攫われた姫を助けた英雄。何も無いはずが無く。むしろ何かあったら街の市民に袋だたきにされかねない。だが、英雄には既に2人も恋人がいるという情報もあり、英雄の功績と比較してどちらが良いのか真剣に悩む者もいた。ミシェルはパリスの至宝なのだ。人々は分かっていても喪失感が大きい。それはミシェルの表情から見ても一目瞭然だったから。
「おめでとう!」
「お嬢様、おめでとうございます!」
「おめでとうッス!」
「ナギ、テメェ綺麗処3人とかもげちまえ!」
「そーだそーだ! お前だけズルいぞ!」
「何がズルいの? アイヴァン」
「ヒェッ…」
一部口さがない者達もいるが、ナギは笑顔で受け止めた。最早吹っ切れたこの男にとっては何を言われても平気だったのだ。その歓声が一段落するころ、後ろで控えていた領主が前へと進み出た。
「ナギ殿、おめでとう! 無論私も反対は無い。むしろ親として嬉しく思う。さて! この度英雄達はマドリーという街へと帰還する! そこで、私から一つ決定したことがある!」
ナギは驚いて領主を見る。そんな話は無かったからだ。そして、ミシェルを見ても頬を赤らめて微笑むだけであった。
「我が娘、ミシェルだが…我が街の代表としてマドリーへと派遣する事を決定した!」
えぇ~!!!? という声。それは、寝耳に水の提案だった。ナギも驚いている。
「彼らのような英雄がいる場所だ。そこと連携を取ることはこの街にとって非常に有意義なことだと考えている。だからこそ、ミシェルを全権大使として派遣し、かの街と提携できるように交渉する! これはミシェルも同意している……本来はその街の有力者と婚姻を結ぶべきかもしれんが、それはこの街の勇者殿で十分できると判断した! むしろ有象無象と婚姻させるよりはいくらか有意義だ。だからこそ私も此度の婚姻を許可したのだ。是非とも2人にはこの街とマドリーの架け橋になって欲しい」
流石のナギもこれには苦笑いを浮かべた。しかし、そうと決まれば話も早い。すぐさま切り替えて領主に答える。
「わかりました。まずは身命を賭してお嬢様をお守りします。卑賤の身ではありますが、お嬢様と婚姻を結べたこと、嬉しく思います」
「うむ。君には実績があるから大丈夫だとは思うが、しっかりと守ってやってくれ。彼女は将来この街を背負っていく人材なのだからな。そして、必ずこの街へと戻ってくるように」
「約束致しましょう。この命に賭けて」
「よろしい。ここに婚姻は成った! 皆の者、祝福せよ! この街の明るい未来に!!」
大き祝福の声が巻き起こる。それは、パリスの街を象徴するミシェルと、闇を祓った英雄の婚姻の成立を祝福する声であった。それは、パーティーがお開きになっても、いつまでも響き渡っていた。
──後の世に残った歴史書にはこう記載されている。「英雄、色を好む。しかしこの日とそれ以降、誰もが彼らを祝福した。それは、後の世に2国間の永劫の友情を結ぶ婚姻だったからであり、英雄と女王は最後の時まで仲睦まじかったからである。それは歴史上で見ても大きな転換点の一つであった」と──