ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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73、マドリーへの旅路

 

 

 

 

 

 

「ではお父様、行って参ります」

 

「行くがよい。ナギ殿。娘をくれぐれも頼んだぞ」

 

「勿論です。何かありましたら帰還石ですぐさまこちらに戻ります故、ご安心ください」

 

 

 

 旅立ちのメンバーは、ナギ、フロウ、マリア、ミシェル、エル、サラ、そしてマリウス組にパリスの白金級(プラチナクラス)ヴァネッサが付き従った。彼女は、今回は付いていかないリュシーの補佐役として付けられ、全権大使の手助けと護衛をするようになっていた。リュシーは現在アンリに尽きっきりで鍛冶の補佐を行っており、そちらに専念して貰うためにそうしたのだが、その枠にヴァネッサが必死にアピールして付いてきたのだ。彼女はミシェルとは面識も深く、宰相の親族だったためこの人事も通った。今現在はマリウスと親しげに会話している。模擬戦でボコられ続けて親しくなったようだ。

 

 

 ともかく、そうして彼ら一行は再び旅立った。その際には、大勢の市民が詰めかけ、英雄達を見送った。彼らは、英雄達がまた必ずこの街に来てくれる事を祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここからだいたい232レグア(約1276キロ)か…先は長いな」

 

「そうだね。だから、ちょっとズルするよ」

 

 

 彼は、収納袋の中から半分になった帰還石を取り出した。それは、1年前に開放された街、エスポワールへと続く帰還石である。

 

「あ、そうか。それで大分距離が縮みますね。それでも少しでしょうが」

 

「その少しをケチっちゃいけない。意外と後に響くものだからな」

 

 

 そうして、彼らは帰還石でエスポワールへと飛んだ。出立してから僅か5分の事である。

 

 

「……ヨシ。変わりないな」

 

「1年経っても健在とは……凄まじい」

 

「どうだ、ミシェル。少し希望が見えて来ただろ?」

 

「それはもう。やはり私の目は正しかったと。マリアさんなんか絶頂しそうですよ?」

 

「あっ(察し)……とりあえずアレはほっといて、まずは【アーク】の確認だ。みんなついてきてくれ」

 

 

 彼とミシェルは先頭に立ち、彼らを案内する。複雑に入り組んだ道のりは初見だと迷いそうになるからだ。やがて彼らは【アーク】の元へ辿り着く。

 

 

「……問題なさそうね」

 

 

 フロウが呟いたが、彼女が言うように【アーク】は眩しくて目も開けられぬ程の出力を誇っていた。

 

『387日6時間27分前と比較して、霊力100パーセント、光の霊力総量97パーセント。出力は安定しています。ほぼ変化無しですね。あるとすれば、ほんの僅かに光が減っている事でしょうか』

 

「ラブやんが言うならそうなんだろうな」

 

「有り得ない。マドリーの【アーク】は精々半年しか保たなかったのに」

 

「流石使徒様ですね!」

 

『回答、この【アーク】は特別性です。周辺の機器が土地から溢れる龍脈エネルギーを反映し、増幅する機能がついています。よって、無限に近い出力を誇る訳ですね。光の分の減少だけで済んだようです。概算ですが、この出力は18,250日程保ちますし、そこからも通常の出力は相当長いと予測できます』

 

「おっそろしい程保つんだな…」

 

「確かにコレは革命的だわ」

 

 

 エルとサラも呆然としながら呟いている。他の面々も似たようなものだ。街を支える【アーク】の凄まじさは伊達ではなかったという事だ。

 彼らはそれを確認して地上へと戻った。

 

 

「おい、こっからどうすんだ?」

 

「ん? そりゃ普通に出発するんだけど? まだ俺たち全然歩いてないし。出来れば1日10レグア(約55キロ)は進みたいな」

 

「そうかい。そろそろ暴れたくなってきたからそりゃよかった」

 

「オッサン、それ危険人物の発言だぞ」

 

「マリウス殿の言いたい事は私も分かるぞ。そろそろ出ないか?」

 

「おっと援護射撃…OK OK。じゃあ行くか!」

 

 

 

 

 

 そうして、彼らはエスポワールを後にした。マドリーまで大体180レグア(約1000㎞)。ナギ達は、またエスポワールへと訪れることを願って、帰還石を再びセットした。

 

 

 街を出て、しばらくは浅層になっていて、程なく中層へ。その後深層へと変わる。この間2レグア(約11㎞)である。街の【アーク】強化復活が周囲に影響を及ぼしているとも言えるだろう。

 深層は通常であれば上級のダイバーですらあまり潜りたがらないこの場所は、その瘴気の影響によって大幅にその姿を変えている。今も進んでいる場所は、巨大な黒い柱が縦横斜めに交錯する場所だ。それぞれが蟲の巣になっており、触れば大量に飛び出してくるというアホ仕様だが、それに気付いたナギが見える範囲のものを全てロケットランチャーでぶっ飛ばした。

 運良くそれから逃れた蟲も、控えているダイバー達に粉微塵にされた。ただでさえ過剰戦力なのに、光の霊力も持っている。そうなるのは当然だった。

 

 

 その地帯を抜ければ、今度はビル群の残骸のコンクリート荒野だ。例によって深層なので所々で景観がおかしい。気色悪い菌類に覆われ、極彩色の蔦が蔓延り、人間の3倍程の花があちこちに咲き乱れてる。

 

 

「……こんな場所はまず探索では避けます。霊力が切れた瞬間にあの植物や菌類の胞子に汚染されますから。そうでなくてもかなりの害を与えてきます。今は光がそれを100%弾いているから大丈夫ですが」

 

「マリア殿に同意だ。森に次いで探索したくない場所の筆頭だろうな」

 

「まぁ、こんなトコには強ぇ奴らがワンサカいるから一長一短ではあるな」

 

 

 以前からの白金級(プラチナクラス)による深層談義だ。色々と意見はあるが、面倒な場所だという事に変わりはない。光の霊力で悪影響をカットしているから相当マシにはなっているが。

 

 

 敵はと言えば──

 

 

「オラァ!」

 

「お逝きなさい」

 

「潰れよ!」

 

 

 上記の3人が張り切って仮面の巨人軍団を討伐している。他の面々はあふれ出てくる双頭のブツブツ巨大ネズミの集団をシバいてるところだ。深層ともなれば人間より大きいサイズになるが、それが大群で出てくる。並みのダイバーではあっという間に飲み込まれるだろう。しかし、彼らは並ではないため、それぞれが危なげなく対処している。

 しばらくして、全滅が確認されたら有用なものだけ剥ぎ取り先へと進む。今は採集よりも進む方が大事だ。

 

 

 そうして彼らはそのビル群を抜け、沼地へとたどり着く。

 

 

「うげぇ、沼地か……」

 

 

 エルがぼやく。実際、深層の沼地は森と同等に厄介だ。何が出てくるか分からないという意味で。そして、足場があると思ったら底なし沼だったりはざらにあるし、いきなり巨大な魚類生物が飛び出してくる危険性もある。また、足元が見えないため、いつの間にか毒を注入される危険性もある。

 

 

「まぁ、こういうところは俺の出番だな」

 

『あぁ、あれですね』

 

「そうそう、これだよ。よくわかってんじゃん」

 

『マスターの思考パターンは大体読めてきたので』

 

 

 ラブやんが指摘したのは火炎放射器である。

 

 

「あのですね? 基本こういったところは土属性か氷属性で足場を作って移動するのがセオリーなんですが…まさかとは思いますが、ソレで焼き払おうとしてますか?」

 

 

 ヴァネッサが心配そうに尋ねるが、それが大正解だった。

 

 

「いっくぞー!」

 

 

 

 

 ゴオオォォォォ!!!

 

 

 

 すさまじい火炎の噴射により、前方の沼地がたちまち蒸発していく。蒸発せずとも水温は沸騰寸前まで上昇し、そこに潜んでいた魔物、巨大半魚人や三つ首のワニ、巨大ピラニアや蠢くツタ植物などがたまらず飛び上がって苦しんだ。もちろん飛び上がった魔物は火炎放射の餌食だ。たちまち丸焦げにされていった。

 1分ほどの噴射でこれである。深淵産の兵器の凄まじさを端的に物語っているといえよう。

 

 

「良し! じゃあ氷か土よろしく!」

 

 

 呆然としているヴァネッサを促して、土の道を作らせて地獄の茹で釜となった沼地を急いで渡る。その間も火炎放射は周囲を燃やし続けた。

 そうして進むうちに彼らは沼地を無事に通り抜けた。一息ついてマリウスが呆れ顔でナギに話しかける。

 

 

「呆れたもんだな。その兵器は」

 

「使えるもんは使うさ。そうやって闘ってきたしな」

 

「ちなみにそれが無かったらどうした?」

 

「超級魔術ぶち込んで同じ結果にさせたかな。ただ、コスパと周囲の影響考えてこっちがいいって判断だな」

 

「へっ。属性いっぱいある奴は選択肢があって羨ましいぜ。俺は全身に霊力かためて突っ切るぐらいだからな」

 

「マリウスのオッサンも魔術をもう少し覚えりゃ良いと思うぜ? でもまぁ、その選択肢をとらないからこその強さなんだろうけどな」

 

「そういうことだ。自分に枷を付ければより強くなる。俺はそうしてここまで来た」

 

「霊力は奥が深いって事だな……」

 

 

 

 その後、瘴気が中層まで戻り、更に旅は順調に進んだ。現在エスポワールから9レグア(約50㎞)ほど進んだところだ。一応民間人のミシェルには無理させられないと、しばらく前から浮遊する盾に乗ってもらって移動している。

 

 平野部や中層の森、そして手つかずの遺跡地帯を抜けて更に進むと、瘴気は再び深層へと戻った。しかし、その場所はどうやら街の遺跡のようだ。

 

 

「行き当たりばったりだったが、人間の街の遺跡に着くとは」

 

「エスポワールと同じ感じね。もしかしたら【アーク】があるかも」

 

「よし。じゃあここからは手分けして【アーク】への地下道探しと、休める場所さがしだな」

 

 

 

 ホラーゲームのゾンビ村のような場所を探索し、実際に巨大ゾンビや頭から謎触手を出すゾンビ、身体が破裂して、中からキモい生物が出てくるゾンビや、壁に貼り付けて酸を飛ばしてくるゾンビなど…もうそれゾンビじゃないじゃんっていう敵とそれぞれ戦い、ヒヤッとすることもあったが、無事に街の中央地下深くにある【アーク】を発見。それを浄化したのち修理して光の霊力を込めた太陽石をはめ込んだ。この間、少なくとも映画並みの紆余曲折と戦いがあったが割愛する。

 

 

 

 

「いや~こりゃすげぇ!」

 

「私は二回目ですが、何回見ても素晴らしいですね。瘴気が完全に晴れて、汚染されていた物も完全に浄化されています。魔物も同様に浄化されて無害化していますね」

 

「あのボス戦は楽しかった。またやりたいな」

 

「フロウさん、ちょっと前出過ぎじゃないかな…? 俺、心配」

 

「それが彼女のスタイルですから。ちなみに私が教えました」

 

「エレーナもコツは教えた」

 

「うん、そっか。でも無茶は本当にしないでくれ」

 

「// ……分かった」

 

「あっ! ズルいですよフロウさん! 私も頑張りました!」

 

「使徒様、今回のキルスコアは私が一番でしたわ」

 

「だ~わかった!! 今夜は覚悟しろよ!!」

 

「ヒュ~ヒュ~! もてる男は辛いねぇ!」 

 

「うっせえぞエル! お前らもどうせそうだろ! ホラ、安全確認してサッサと寝る準備するぞ!」

 

 

 

 

 時間的には深夜に近いが、彼らは安全を徹底的に確認した後就寝した。一応寝ず番を立ててはいたが、今回は魔人の襲撃は無かったので空振りに終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そのようにして、2日目~10日目も彼らは順調に進み、時には遺跡を簡易【アーク】で浄化して遺跡で就寝したり、テントを張って交代で寝たりしながら着実に歩みを進めていった。時には深奥層に差し掛かりそうになるときもあったが、それは回避しながら進んだ。深奥層は時間や空間が捻れる事もあるし、羅針盤が通用しにくくなるからだ。

 

 

 そうして10日目ともなると、彼らは3つ目の街を開放していた。それぞれがレーヴェ、アモール、アミと名付けられた。彼らは、そのアミの街で久しぶりの宿泊をしようとしていた。

 

 

「残り140レグア(約770㎞)か…むう……少し予定より遅れがちだなぁ」

 

「それは仕方ないよナギ。むしろ60レグア(約330㎞)近く進んだだけでも上等だと思うよ?」

 

「そうですわね。流石の私もこれほど長くダイブしたことはありませんし、未知の領域です」

 

「私はダイバーとしての常識は無いですが、それでもこれは異常だって事は分かってるつもりです」

 

「ミシェルお嬢、私もそう思ってはいるが口には出すのはいかがなものかと」

 

 

 

 ナギ組がそのように話ながらくつろぐ傍ら、マリウス組はというと──

 

 

 

「こんな快適なダイブがあるとは驚き」

 

「そうだな。霊力の消費が極小で済む。というか、【暗黒領域】で宿泊を経験することになる事自体がもう常識外だ」

 

「ふん。昔からこうなってりゃもっと戦えたんだがな」

 

「またまたー! そうじゃなくてもマリウスはずっと戦ってたよー?」

 

「ルチア師範代、その辺で……」

 

「あぁ!? ルチア、テメェ俺が戦闘馬鹿だって言いてぇのか!?」

 

「実際そーでしょー? でもそれがマリウスの良いところだよねー?」

 

「ぐっ……ま、まぁそういうことにしといてやろう」

 

「マリウス師匠……チョロすぎ問題」

 

「仕方ないよエル。師匠はルチアさん大事にしてるし」

 

 

 

 

 とまあこのように、彼らは戯れつつも、この常識外れの旅に驚きを感じながら過ごしていたようだ。ただ、もう10日にもなるのである程度は慣れたようだが。最初の頃はレーヴェの街でダイバー組は(ほぼ全員)一睡もできなかった。それは、昔からすり込まれているものであるため、中々その常識を外すことは難しかったが、この街に到達する頃には全員慣れ、見張りを立てながら就寝することができた。それでも瞬時に事に反応するぐらいは警戒していたが。実際にアモールの街で魔人達の集団に襲撃を受けたが、全員即応して瞬時に決着を付けた。魔人は光溢れる街中だとほぼほぼ人間と変わらなくなるので、ダイバーからすると雑魚以外の何物でも無かった。だからこそ魔人は寝込みを襲ったわけだが、それは彼らの見当違いであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこから1日休憩を挟んで11日目の日。探索を続けていた彼らの前に障害が立ちはだかる──

 

 

 

 

 

「……おいおいおい。ナギ、どーすんだコレ」

 

「…………マジかぁ~」

 

 

 エルがナギへと困惑しながら言う。それもそのはず。見上げれば、ある意味深層に似つかわしいと言える程の雄大な山。そして、それが見渡す限りに広がっている。回り道が不可能であるぐらいにだ。ここに辿り着く前に半日ほどアホみたいな森を苦労しながら踏破したばかりなのに、これである。

 

 

「……登る、しかないな」

 

「げえっ、マジかよ……」

 

「文句言わないのエル。仕方ないじゃない」

 

『これはデータ上の地図で言えば、ピレネー山脈ですね。旧フランス、スペインをまたぐ雄大な山脈で、全長は430㎞にも及び、標高約3400mとあります』

 

「聞けば聞くほど嫌な情報だな。有意義だけど。しゃーない。行くしかないか…」

 

「厳しいね。見る限り上は深層ではなさそうだけど、魔物対処しながら登山は正直かなり消耗しそうだし」

 

「かといって森のど真ん中でテントはできねぇしなぁ。やっぱり行くしかねぇんだよな……」

 

 

 ナギは、仕方なく全員に行くことを提案しようとした。しかし、そこに待ったを掛けた人物が2人いた。

 

 

「お待ちください。今マリアと話していましたが、貴方達が倒したという公爵級魔人は、どのようにこの山の向こうからダイバーを引き寄せたのでしょうか」

 

「ミシェルの言うとおり、【暗黒嘯(ダークネスタイド)】だけでは難しいと思われます。なにがしかの仕掛けがあるはず。少なくともこの山を越えられる何かが」

 

「っ! そうか! 確かにそうだ! いや、待てよ……そしたらどうなる? いやいやそれは……有り、か?」

 

 

 その言葉を受けて、ナギは急速に頭をフル回転させる。そして周囲を見回しながらブツブツと呟いて周囲を改めて探索し始めた。今度は蟻一匹逃さぬような、徹底的な探索である。周囲の者達はしばらく同じように違和感が無いか手分けして探し始めたが、その前にナギが結論を出した。

 

 

「やっぱりこれだ! みんなちょっと来てくれ!!」

 

 

 そうして全員が集まると、ナギはある方向を指さした。それは、目の前に見える山脈のある一点を差していた。

 

 

「ちょっとよく見えねぇんだけど……あっちの方向がどうしたんだ? ナギ」

 

「いや、確かに暗くて見えづらくて分かりにくいか。もう少し近寄ると分かりやすいんだが、あの辺の瘴気がかなり流動してるんだよな」

 

「!? なるほど、見えました。確かにアレは不自然ですね」

 

「先に見付けられたか。無念」

 

「それがどう関係が?」

 

「いや、【暗黒嘯(ダークネスタイド)】でもねぇのに普通は瘴気はあんなに動かないんだ。瘴気は基本的に澱んで沈むからな。だが、風より重く、水よりもある意味重いって程度だから一応流動はする。【暗黒嘯(ダークネスタイド)】って形が一番有名だな。で、そんな瘴気があんなに動き回っているって事は、あの辺は何か異常が起きていると考えられる。深淵まで見てきた俺が言うんだから間違いない」

 

「私も長いダイブであんなのは殆ど見たことは無いですね」

 

「ま、俺もそうだわな」

 

「私もです」

 

 

 

 ベテラン白金組が彼に同意する。その場所は現在地から2レグア(約11㎞)程度の所に見えているので、彼らはそちらへと向かった。そして、近づいてみれば、その山脈の麓から見上げて100m付近に相当大きな穴が空いているのが見えた。

 

 

 

 

 

「ナギくん、どう?」

 

「ん~……まぁ大体検討は付いてんだけどな……ラブやん、どう見る?」

 

『何故私に振るかは分かりませんが……まぁ、回答すれば、計測上は瘴気が絶えずあの穴から出入りしていますね。それで瘴気の変動が起こっている。地形と沈殿している瘴気と流れ込む瘴気が丁度抜け穴であるこちらに集中して同じ効果を生み出しているという所でしょうか』

 

「ん、大体俺と同じ意見をありがとう。多分だが、コルテスの野郎は()()()()()()()を幾つか設定していたんじゃないかな。コレもその一つだろう。自然現象か人工物かはよく分からんが、そうじゃなけりゃ200レグア以上離れた場所に狙った人間を運ぶってのは難しいからな。とりあえずもっと近寄ってみるか。その前に、ちょっと全員ハーネスでそれぞれを結んでからな」

 

 

 彼らはナギの言った通りにそれぞれの身体を繋げて、万が一飛ばされても離れないようにした。そうして近寄ってみれば……。

 

 

「おぉ! これは凄ぇ! このクソデカ横穴だけ深奥クラスだ! んで、絶えず【暗黒嘯(ダークネスタイド)】クラスの瘴気の流動が起きてる!」

 

『これは深淵の魔物の瘴気術に近いですね。規模的に』

 

「ホントにアイツらには散々苦労させられたからな。奴等は動くだけでこのレベルの瘴気の動きを発生させやがるからマジで大変だったぜ」

 

『彼らは移動手段としても使いますからね。だから超巨体であっても機動力は尋常じゃないのですが』

 

「それで、どうするの?」

 

「そりゃ勿論、ここに飛び込むよ!」

 

「……マジ?」

 

「おおマジ。上手いこと向こう側に行けりゃ万々歳。仮になんらかのアクシデントがあっても帰還石でアミの街まで戻るからな」

 

「いやぁ、流石にコレは…どうなんだろ」

 

『マスターの言う通り、コレに飛び込めば向こう側まで行ける可能性は高いですね。先程はこちら側に瘴気が流れ込んでいましたが、今はこちら側の瘴気が吸い込まれています。どうやら周期があるようですね』

 

「ホラな! 今がチャンスだぜ。とりあえず行けば分かるさ! 最悪やり直せるからな。じゃ、いっくぞー!」

 

「あっ、ちょっ! 待って!」

 

 

 ナギはハーネスを引っ張って、その巨大な横穴へと吸い込まれていった。繋がっている彼らもなし崩しに引っ張られ、そしてその穴の吸引力に逆らえずに次々と飲み込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼らが吸い込まれてしばらく後。

 

 

 

 山脈の反対側から人間大の物体が11、飛び出した。

 

 

「うおぉぉぉ!! 成功だーーっ!!」

 

『マスター、現在かなりの上空まで飛ばされていて、更に止まる見込みがないのですがいかがいたしますか?』

 

「えっ、どのぐらい?」

 

『現在高度約1000mです。あ、でもようやく自由落下が始まりますね』

 

「げっ、やっべ! とりあえず俺が飛ぶぜ! みんな! 風魔術か属性使える人はゆっくり着地できる様に準備してくれ!」

 

 

 それを聞いていた仲間たちは、慌てて風魔術や風属性で全員の落下速度を減衰する。尚、使えるのはフロウ、エル、ルチア、ミシェルである。ナギを含めて5人で11人を支える形だが、それは流石に厳しかった。落下は止まらず、しかし辛うじて威力が減衰し、何とか着地できるような落下速度になった。

 

 

 下を見ればそこは深層のようで、大勢の巨大なの魔物達が今か今かと待ち構えているのが見えた。ナギは叫ぶ。

 

 

「風持ってない人! ()()()の奴等に対処してくれ!」

 

 

 すぐさま複数の攻撃が飛んでいき、深層級達は粉微塵に、途中からマシンガンも加わり、敵を爆砕していった。そうこうしていると、地表がいつの間にか近づいており、全員が無事に着地できた。深層故に羅針盤は機能していたので計測してみれば、あの大穴から数えて10レグア(約55㎞)も飛んだところだった。そうしてしばらく周辺の地域を敵を倒しながら探索し、街の遺跡を見つけてそこに入った。これまでの様に街の【アーク】を探す一向。例によって紆余曲折を経て、遂にそれらしい施設を見つけたと思ったが──

 

 

 

「………ない、ね」

 

「綺麗に抜き取られてやがるな。丁度【アーク】だけ」

 

「恐らくフェルナンドでしょう。推察ですが、彼はここを起点に【暗黒嘯(ダークネスタイド)】を起こしていたと考えられます」

 

 

 マリアがそう考えるのも当然だ。これまで見てきた街の浄化されない【アーク】は、龍脈エネルギーを塞いで瘴気を吸い取り、それを増幅していたからだ。だからこそ浄化されていない【アーク】周辺は深奥レベルの瘴気になっている事が多かった。

 

 

『【アーク】を抜き取り、瘴気を込めて【暗黒嘯(ダークネスタイド)】を人為的に起こしていた、と。なるほどありそうな仮説ですね。公爵級魔人の瘴気量ならばいけるかもしれません』

 

「んで、【暗黒嘯(ダークネスタイド)】がこちらに戻ってきて、大量の瘴気と共にあの穴に飛び込む。するとあの穴で更に加速して飛び出し、研究所近くまで運ばれると……コスパに見合うか? これ」

 

「コルテスは分身作れたからね。案外やってみたかったっていう理由じゃない?」

 

「フェルナンドのやりそうな事ですわね。本人は死んだから永遠に分からないけど」

 

「…………」

 

「どうしたの? ナギくん」

 

「……ん? あぁ、いや何でもない。とりあえずここを清浄化して今日は終了だな。オーバーワークもいけねぇし。ここに無くてもアンリに貰った【アーク】のガワがあるからな。じゃ、セットするぜ。離れてくれ」

 

 

 

 一同は離れ、ナギは【アーク】をセットして発動させた。よそから持って来たモノでも無事に使えた様だ。それから最後の確認をして、彼らは就寝した。あと100レグア(約550㎞)。そして、旧地図で言えばスペインに入った。旅は折り返しを過ぎ、いよいよマドリーへの帰還も現実味を帯びてきた。ここからが勝負どころである。

 

 

 

 マドリー組は、懐かしのマドリーを前にそわそわし、非マドリー組は初めて見るパリス以外の街はどんな街かとワクワクしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…………コルテスは確かに本体だった。だが、こんな仕掛けを作ることができるヤツが本当に滅びたのか? クソ魔人ならともかく、あんなに用心深そうなヤツが? 俺がヤツの立場なら、必ず安全牌を仕込んでおく。それができる力もあったはずだ。それにヤツの研究所には成果と言える物が何一つ残っていなかった。今考えても不自然すぎる。つまり、ヤツは──)

 

「使徒様。ご心配ですか?」

 

「うおっ! マリア! 君か……」

 

 

 街の建物の大きめの一軒家のリビングでナギが思索にふけっていたとき、マリアがベッドを設置した階から降りてきた。裸にシーツを纏ったマリアは扇情的ではあったが、彼らは既に何回戦かを終えて落ち着いているところだ。ミシェルとフロウは流石に疲れて寝てしまっている。

 

 

「貴方様のお考えの通り、フェルナンドは恐らく生きているでしょう。ですが、彼はもう手を出してはこないと私は考えています」

 

「!! 確かに俺はそれを心配していたが……その心は?」

 

「単純です。彼は貴方に完膚なきまでに敗北しました。彼にとったら運命にすら欺かれて。ですから、彼は待つでしょう。機が来ることを」

 

「……機、とは?」

 

「貴方がその活動を終えて、世界が変わるまで」

 

「……ようするに、今後はしばらく大人しくするってか? そもそも生きてるのか? あのコルテスは間違いなく本体の気配がしたぞ?」

 

「根拠はありませんが、私なら万が一に備えて何らかの手立てを取る、ということです。それは最後のコルテスを見たときに感じましたし、基本的にフェルナンドの思考回路は私と若干似ているので」

 

「なるほどな。じゃあしばらくはいらない心配かな?」

 

「少なくともいたずらに広めて心配させる必要はないかと……これは私と使徒様だけの秘密、ですよ」

 

「ふふ……そっか。俺達の秘密、ね。いいじゃん。ならばもっと秘密にできるように可愛がってやるよ」

 

「きゃっ、使徒様ったら…仕方ないですねぇ」

 

「そういいつつもノリノリじゃんか。まだまだ夜は長い。楽しもうぜ」

 

 

 

 

 

 そうして、11日目の夜も無事に更けていった──

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