ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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74、凱旋

 

 

 

 

「よし、行くか! あと100レグアだぜ!」

 

「随分と進んだなぁ。半分切ったか」

 

「いや、ちょっとコレまでの事考えるとげんなりするからそんな事言わないでよエル」

 

「えー。でも100レグアって聞くとやる気でるよー?」

 

『正確には98.6レグアですね。これまでの進行速度から考えると、あと11日といったところでしょうか』

 

「まだ半分あるのか……お嬢、大丈夫か?」

 

「少し疲れはあるけどまだまだ大丈夫。いざって時は特性ドリンクもあるからね! ヴァネッサも今度飲ませてあげる」

 

「? そうか。期待しておこう」

 

 

 

 

 準備をして、有用そうな物は拾っておく。そして、出る前に帰還石を仕込むことは忘れない。いずれは必要になることだし、あっても損は無いからだ。

 

  そうして、彼らは再び旅立った。

 

 

 

 

 その後、様々な【暗黒領域】のロケーションを踏破しながら順調に旅を続け、11日目~18日目で街で一日休養し、22日目まで再び進んだ。大体90レグア(約500㎞)もの道のりを1週間程度で踏破し、その間5つの街を発見し、順に解放していった。例によって【アーク】は同じように抜き取られていたが、それでも予備の【アーク】をはめ込んで対処した。それぞれの街をスエモ、アミスタッド、コンフィナンザ、エスティマド、デサローリョと呼称した。

 

 

 

 

 その晩、最後の街デサローリョで宿泊しつつ次の日の予定を計画するために彼らは中世の城ような場所のエントランスに集まって話し合いをしていた。

 

 

「いや~みんなお疲れさん。いよいよマドリーが現実味を帯びてきたな! ラブやん、あとどれぐらいだっけ?」

 

『レグアで言えば10レグア。㎞で言えば約50㎞といったところですね。全行程の96%を終えています』

 

「長かった……もう流石にしんどいな…」

 

「普通はこんなに長くは潜らねぇからな。疲れもたまるだろうよ。ナギの野郎の弱回復ドリンクで何とかなってるようなもんだ。それがなかったらもっと遅かっただろ」

 

「マリウス師匠の言う通りね。ただ、肉体的なものはともかく、精神的にはかなりクるものがあるわ。もうそろそろ辿り着きたいわね」

 

「まぁ、大事を取って明日一日休養。その後出発って感じだな。上手くいけばその日中に着くが……」

 

「使徒様、実はそれはもうほぼほぼ距離は無いんです。今、我々は使徒様の言うことが正しいのであればナバセラーダ峠から2レグア(約11㎞)ほど先の廃墟を復活させたばかりですから」

 

「あっ、そっか。ナギは知らないんだった」

 

「えっ、どゆこと?」

 

「実はもうナバセラーダ砦までは開放されてるの。こっち側で開発した【アーク】でね。つまり、ここはあと少し行けば中層から浅層に変わってマドリーまで辿り着くね」

 

「マジ!? そりゃすげぇな! じゃあ出発したらハイキング気分で行けるな!」

 

「そういうこと。だから休憩して万全の状態で行きましょ?」

 

 

 

 

 彼らはその後、休憩も兼ねて一泊した。彼らの表情は明るい。長い旅路もようやく終わりを迎えるからだ。そんな中、ナギは驚いていた。ナバスラーダ峠と言えば、中層の名物だったからだ。それが解放されているとは、マドリーも変わったものだ。3年の月日は相当な変化を齎していたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1日の休養を経て、次の日の朝。彼らは出発の為に動き出した。

 

 

フロウの言うとおり、深層は早々に中層へと転じた。つまり、ここから人類生存圏が近いということだ。自然と皆の足も早まる。もうすぐだ。もうすぐでマドリーへと辿り着ける。

 中層を1レグア程進めば浅層へと変わる。長いこと深層を探索してきた彼らからすれば、浅層の瘴気などは最早ないも同然だ。勿論警戒は怠らないが、それでも普段の2倍くらいの速度で進む。ナバスラーダ峠に至る頃には、遂に瘴気はなくなった。流石に山や丘陵辺りに門を作るのは難しかったのだろう。一同もピクニック気分である。

 そして、昼を過ぎて夕方に差し掛かる頃に、大きな壁が目に付いた。それはまさしく人類の建造物であり、マドリーへの扉であった。

 

 

 

「マリウス、ここからならもう少し壁に沿って西側へ行く必要があるかしら?」

 

「そうだな。そっちの方が近いだろ」

 

 

 マリアとマリウスの2人がそれについて話し合い、彼らが率先して案内してくれることとなった。そうして壁沿いに歩き出すこと1時間。ようやく大きな門へと辿り着く。比較的新しい作りの壁と門。それは、人類の底力を端的に表していた。

 

 

「アイヴァンが相当頑張った」

 

「アレは大変だったな……」

 

 

 重機担当としてのアイヴァンは相当活躍したようだ。本人はそれで精密性やパワーや持続性が増したと言ってはいるが、それはそうだろう。しかし、これほどの大工事を3年程度でやり遂げる人々の底力は本当に大したものだ。

 マリアが門に据え付けられた大きな鐘を鳴らす。

 

 

「開門を願います!」

 

 

 しばらくして、向こう側から声が聞こえた。

 

 

「……階級と名を告げよ」

 

白金級(プラチナクラス)マリア=エローラ、同じくマリウス=ゲオルギアス含め11名。コルテス討伐作戦より只今帰還しました。疲労もかなりあるので素早い対応を願います」

 

「なっ! 1年前の…! 分かりました、ただちに確認します! しばしお待ちを!」

 

 

 

 門番がバタバタと慌てて動き出した。この辺はパリスと変わらない。しかし、彼は何やら誰かと会話しているようだ。だが、当の相手の声は聞こえない。

 

 

「……? 誰と話してるんだ?」

 

「あぁ、そっか。アレは『霊力通信』。通称『霊話機』だよ。離れた場所でも会話できるんだ。光の霊力に満ちている所じゃないと通じないらしいけどね。私達が出る前ぐらいにエンリケが開発してた。無事に普及したみたいね」

 

「マジで!? そんな事になってんの!?」

 

「他にも色々開発してたよ。多分驚くと思う」

 

「ヤベェなあのマッドジジイ……」

 

 

 そうこうしていると、霊話を終えたのか門向こうの兵士が声を掛けてきた。

 

 

「お待たせしました! 組合長が直々にいらっしゃるとの事なので、しばしお待ちください。と言っても、長くて30分程度です。どうかご容赦を」

 

 

 門番の言う事に従い、30分門外で待つ。とは言えそこも瘴気が全くない場所なので、苦痛などはほぼない。

 

 

 

 約束通りの30分後、門の内側から()()()()()が聞こえてきて、止まる。一同は何の音か分からずに警戒したが、ナギだけは呆れた顔をしていた。そして、ドアが閉まる音がしたかと思えば門がいきなり開き始めた。

 

 

 

 ギィィィィオオオオン……

 

 

 

 

 外開きに開いた門の内側で、複数のダイバーの集団と懐かしい顔ぶれが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

 おいおいおい! あのマッドジジイ、電話まで開発しやがったのかよ! おかしーだろ! 都合の良い中世風(ナーロッパ)はどこに行ったんだよ! いきなり産業革命飛び越すんじゃねぇよ! しかも今度は今度はエンジン音だと!?

 流石に頭がおかしくなりそうだ…いや、頭がおかしいのはエンリケとか言うマッドジジイだ。アイツ、本当にアホなのか天才なのか、はたまた天災なのか。もう俺には判断が付かない。まぁ人類の危機的状況だからしゃーないのかな? むしろこれぐらいの速度で進歩しないと簡単に詰むだろうし。つまりあのジジイは特異点だった…?

 

 

 門が開く。そこにいたのは何組かの完全武装しているダイバーの集団。そして、その中心に堂々と立っているハゲは、我等がマドリーの組合長、ビト=コルネオだ。相変わらず光の霊力に負けないぐらい光ってやがる。えっ、このハゲ、光の霊力を! くっ、やめろよそういうの! 物凄く真剣な表情しながら自分で光るって…やば、顔が変になる…! フロウ! 俺をこっそりつねってくれ! マジでヤバいんだ。この状況で噴き出そうもんなら確実にシリアスが崩壊だ! えっ、我慢しろ? そんなご無体な…!

 

 マリアと真剣な話をしながら光っているハゲを見ないようにしていたのに、ハゲがこっち向いた。あっ…あっ…。だめ、見るな…っ。

 

 

 !! 語気の度に光強めるなっ! もうダメ…表情保たない!!

 

 

「坊主! 生きとったんかワレ!」

 

 

 限界を迎えた俺は、無事に噴き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門が開き、複数のダイバーと組合長が進み出る。彼らは一様に驚いた表情をした。まず、女性メンバーが物凄く綺麗になっている。

 

 

「確認もせずにすぐ開けるなんて、セキュリティーがなってないのでは?」

 

「ふん。いーんだよマリア。どーせ魔人だったらそのまま殲滅すんだからよ」

 

「それで、どうかしら?」

 

「見りゃわかる。人間だぁな。良かったぜ。見ねえ顔もいるし、くたばったと思った奴もいるが…まずは、奴をぶっ殺したんだろうな?」

 

「もちろん無事討伐完了ですよ。我々は全員無事です。私達だけではなく、使徒様含む彼らも深く関わっているけれど」

 

「そりゃあ良かった! それにテメェらも全員無事と来た! こりゃ〝祭り〟だな。で、そいつらの事も教えてくれるか?」

 

「えぇ。まずは使徒さ…ナギ君ね。コルテス討伐作戦中に()()かち合って、一緒に討伐したわ。いや、むしろ殆ど彼一人で討伐したようなものね」

 

「ほう! そうか! 色々と聞きたいが…」

 

 

 そこで、ビトはナギの方に振り返る。何故か彼は泣き出しそうな顔をしていたが、それは感極まったからだろうとビトは結論付けた。彼はしんみりするのは性に合わない。なので、努めて明るい声で久しぶりに見た少年に声を掛けた。

 

 

「坊主! 生きとったんかワレ!」

 

 

 

 次の瞬間、ナギ少年は爆笑し始めた。そのあまりの笑いっぷりにビトは呆気に取られていたが、次第にそのハゲ頭に青筋を立て始め、笑い転げるナギの元へツカツカと歩み寄ると、渾身の霊力を込めたパンチを彼の頭に振り下ろした。

 

 

 ガイン! という激しい音を立ててナギの頭に直撃した拳は、彼が今だに現役にも劣らぬ力を維持している事が伺えた。

 

 

「いって〜! 何しやがんだこのハゲ!!」

 

「あ”あ”!? こちとらテメェが久しぶりに生きて帰った事を喜んでたのに人の頭見て爆笑するたぁどういう了見だ!!」

 

「うるせぇ! こんなシリアスな場面でピカピカ光らすのが悪いんだろ…ププッ…反省しやがれ!!」

 

「あっ、テメェまた笑ったな!? どうやら一発じゃ足りなかった様だなぁ! 覚悟しろ小僧!」

 

「ケッ、さっきは甘んじて喰らってやったけど、いつまでも前の俺と同じと思うなよ! 返り討ちにしてそのハゲ頭をボコボコにしてやらぁ!!」

 

 

 両者が腕まくりをし、今正に殴り合いが始まろうとしたタイミングで、鈴の音の様な可憐な声がそこに割り込んだ。

 

 

 

「はいはいナギくん、嬉しいのは分かるけどじゃれるのはそこまで。貴方がダイバー組合の長とお見受けしますが、合っていますか?」

 

 

 その声の主を見れば、見た事もない様な美少女であった。後方にいる男性ダイバー達も彼女に目が釘付けだ。

 流石のビトも毒気を抜かれたらしく、頭の青筋は見る間に減っていった。

 

 

「お、おう…俺がマドリーのダイバー組合長、ビト=コルネオだ。お嬢ちゃんは?」

 

「私はミシェル=ユベール。遠方の街パリスから来ましたが、そこの領主の娘です。公爵級魔人に攫われかけた所をこのナギくんに助けられて、その後皆さんと合流してここまで来ました。後ろにいるのがパリスの街の白金級(プラチナクラス)で、護衛のヴァネッサ=レンブラントです」

 

「これはこれは、貴い身分のお方か。そんな方がわざわざこちらまで来られたとは」

 

 

 ビトは相手の素性を聞いて心底驚いた。そんな事があるのかとすらも思ったが、目の前にいる小僧が関わっていると聞いて妙に納得した。恐らくナギは〝完成〟したのだ。そして、〝救世主〟的な存在になった。それはナギの雰囲気から分かる。ガブリエラとの試合でごく僅かに見せた雰囲気とそっくりだし、何より髪の毛と瞳が黒色になっているから。

 

 

「私は領主であるセドリック=ユベールから全権大使として派遣されました。委任状と手紙も持参しています。旅の疲れを癒した後、こちらの街の領主様との謁見を望みます」

 

 

 そんな事を考えていたビトは、続け様に放たれた全権大使という言葉に一瞬戸惑う。しかし、内心の動揺を何とか立て直してミシェルに答える。

 

 

「……分かった。俺の権限で領主と謁見出来る様にすぐ調整しよう。まずは用意するから旅の疲れを癒していただきたい。その間に準備したり色々と聞かせてくれ」

 

「それは助かりますわ。ではよしなに」

 

 

 ニコッと笑ったミシェルの笑顔の破壊力に、ビトですらもやられそうになった。それでも彼は表面上は耐え切った。だが、後ろのダイバー達は駄目だった。目がハートになってしまっている。恋人がいるダイバーはその場でしばかれていた。

 

 ともあれ、彼らをビトは中に入れ、大型の霊力車複数に別れて乗り込み、マドリーの街中心へと出発した。ビトはマリアとフロウ、ナギとミシェルとヴァネッサと護衛のダイバーで乗り込み、車内にて簡単な事情を聞いた。なお、この車内に乗り込む際に誰が一緒に同乗するかでダイバー達は激しく争った事は言うまでもない。そして、その座を勝ち取った【一刀両断】のロベルトが速攻でミシェルに話しかけて口説こうとしたが、ミシェルがニコニコしながら左手の薬指を見せた事で、車内のダイバー達諸共に無事撃沈した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なるほどなぁ…そりゃすげぇな…」

 

「ふっふっふ、ようやく俺の凄さが分かったか?」

 

「やかましい! テメェは黙ってろ」

 

「あんだとこのハゲ!」

 

「それよりもビト、予定についての打ち合わせを」

 

「あぁ、すまんな。まずはダイバー組合で簡単に手続きをした後でそれぞれの家で一泊してもらう。客人はすまんがダイバー組合の用意する宿舎に逗留してほしい。丁度空きがあるからな。その間にオレが領主へと連絡して、上手くいけば明日の朝には面会できるはずだ」

 

「なるほど…ビト、私たちの新設した教会はまだありますか?」

 

「あるが……そこにするか?」

 

「ダイバー組合の宿舎よりはよいでしょう。彼女達が有象無象に絡まれても面倒です」

 

「むぅ……奴等も気は良いし、かなりお行儀は良いとは思うが…まぁ、その可能性もなくはないか。じゃあ頼めるか?」

 

「勿論。いいですか? 使徒様」

 

「あぁいいぜ。ただ、俺は久しぶりにドニさんの家に泊まるわ。あそこが俺の原点だからな」

 

「それならば私も……」

 

「ミシェル、すまんが今日だけはその家で1人にしてくれ。少し思い出に浸りたい」

 

 

 

 普段は適当なナギが、珍しく1人になりたいと申し出た。そこまで言われたら他の面々も強く主張できず、結局はそのような流れになった。

 彼らを乗せた車もマドリーの街に入り、そこで彼らはそれぞれの拠点へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

 暗く、何も無い質素な室内。そこは、ドミニクと10年近く暮らした思い出の場所。全てはここから始まった。この質素で何も無い納屋の様な家が好きだった。ボロボロの柱の一つ一つの傷まで覚えている。ドミニクは表面上は冷たくても、自分の事をしっかりと見て、育ててくれた。たとえ警戒しながらだとしても、そこには確かに情があった。その思い出に浸りながら、ナギは1人、佇む。

 

 

 

「ドニさん……帰ってきたぜ。アンタが俺を助けてくれたから全てが始まった。アンタはもう逝ってしまったが、アンタの思いは必ず俺が引き継ぐ。だから安心して眠ってくれ」

 

 

『……ドミニク=シュトルバーン。マスターを育てた人物ですね』

 

「そうさ。凄い人だった。決して報われるような人生じゃなかったかもしれないけど、最後まで自らの意志を貫いた人だ。せめて彼のやり残した仕事ぐらいは引き継いでやりたいな」

 

『そうですか。できれば見てみたかったのですがね』

 

「お前に会ったときにどんなリアクション取ったかね。まぁ、きっと変わらないんだろうけどな」

 

『……マスターの大目標の一つは達成されました。それで、これからどうするんです?』

 

「そうさな。まずは会った事もねぇ領主サマとの会談だろうな。そこである程度の方針をミシェルと一緒に話すだろう。んで、どっちに転ぶにせよこの町の発展に協力するって感じかな。落ち着いたらグラナドとかの復興にも手を付けていきたいがな」

 

『なるほど…やる事は目白押しですね。退屈しないですみそうです』

 

「お前にも協力して貰うぜ。とりあえずお前の製造元で色々と、な」

 

『なにやら不穏な気配がしますが……』

 

「大丈夫大丈夫! ちょっと変態ジジイがいるだけだから」

 

『全く大丈夫じゃない感じですね。分かりました。いざというときは自衛します』

 

「心配性だなぁ。アレもお前の好きな特異点かもしれねぇんだぞ?」

 

『……一応楽しみにしておきますよ』

 

 

 

 ラブやんのぼやきを聞きながら就寝の準備をする。ここで寝るのはいつぶりだろうか。時間的にはさほど立っていないかもしれないが、もう遠い昔のような気分もする。様々な思い出に浸りながら床に着く。今日ばかりは夢も見ずに眠れそうだ。明日からまた激動の日々が始まる。だからこそ、少しでも休息を。そしていつものように元気いっぱい動き出すのだ。それが自分に課せられた使命なのだから──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、ダイバー組合に集合した討伐隊とパリス組は、その足で領主館へと向かった。ミシェルはセドリックからの書状を手に、全権大使として正式に赴く。

 

 領主館に集まるのは彼らだけではない。昨日のうちにビトが領主へと打診し、謁見まで取り付けたが、領主のレオノールはそれを受けて全組合長を招集することを決定した。レオノールとしては他の大きな街からの大使が来たということを重く受け止めていたのだ。

 

 また、公爵級魔人撃破という偉大な功績をねぎらう為もある。それは人類が未だ為し得なかった偉業であり、しかもそれを為したのは自分たちの街の誇るダイバーであるという。1年間音沙汰なく、生存は絶望的かと思われていた特級戦力の帰還は大いなる朗報である。そのためレオノールはそれを大々的に発表しようという意図もあった。

 それだけではなく、かの〝光〟の霊力を持つ少年も帰還しているという情報もある。マドリーは今大きな躍進を遂げている最中だ。そのきっかけになった少年が帰還したとなれば、更なる発展も望めるだろう。人々に希望をもたらした少年が帰還したとなれば、これはもうこの街にとっては大いなる喜びである。

 

 そして、そうなったらまた協議することが山の様に増える事は想像に難くない。だからこそ、組合長の緊急招集なのだ。

 

 

 

 

 霊力車が館に到着した。迎えるのは近衛兵を引き連れた近衛長のアーロンである。これだけでも領主がこの謁見主を特別視しているのが分かるだろう。

 

 

 アーロンが霊力車の扉を開け、全権大使の手を取ろうとして固まった。中から出てきたのはこの世の者とは思えないほどの絶世の美少女だったからである。しかし、そこは領主の近衛長である。瞬時の内に立て直し、手を震わせながら彼女の手をとり、彼女を下ろす。後ろに控えていた近衛兵達も彼女の登場に目を奪われていた。如何に厳しい訓練を受けた彼らとは言え、次々と現れる絶世の美女達の登場に彼らの目尻も下がりそうになる。それを先導していたアーロンが一睨みして元に戻すという光景が見られた。

 

 

 最後にナギが降りて、彼らはアーロンの先導の元、領主の謁見室へと向かう。彼らは正面の玄関ホールを通り、廊下を経て、謁見室に到着した。

 

 

 そこには、領主レオノール=デ=マドリーが堂々と立っていた。背後には、それぞれの組合長達が同じように控えて立っていた。その中には神妙な顔をしているアレハンドロもいた。正装をしているが、これほど似合わない人種はいないだろう。それは霊開研のエンリケにも言えるかもしれないが、彼は年の功か意外とそういう服装を着こなしていた。

 

 

 

「ようこそ、全権大使殿。そして、前代未聞の偉業を達成した英雄達よ! まずは全権大使殿、遠いところからよくお越しくださった。私がこの街の代表兼領主、レオノール=デ=マドリーだ」

 

「こちらこそ、このように盛大にお迎えいただきありがたく存じます。私はパリス領主セドリック=ユベールの娘、そして今回の会談に於いて全権を任されました、ミシェル=ユベールと申します。この度、私は領主セドリックから、この街との友好を築くようにとの厳命を受けました。そのため、パリスからここまで馳せ参じた次第です」

 

 

 

 レオノールが大使のミシェルに向かって声を掛け、ミシェルが礼式に沿って挨拶をする。それに対してレオノールも返答を返す。

 

 

「これはご丁寧に。大使殿、この【暗黒領域】を経ての旅はさぞかし過酷なものだったであろう。しかし、そこまでしてもこの街と友好を築きたいというその情熱に、私は最大の敬意と感謝を表する。それに対して、このような形でしか貴殿を迎えることのできぬ事を申し訳無く思う」

 

「ご心配には及びません。私はそもそもそちらの街の英雄殿に救われた身。私も領主もそのことについては最大の感謝をしています。その経緯については、こちらの書状にしたためております故、ご覧ください」

 

「アーロン」

 

「はっ」

 

 

 アーロンがミシェルの側に控えるヴァネッサから書状を恭しく受け取り、それをレオノールに手渡す。彼はその書状を開いて一読し、それを手にミシェルへと礼を述べた。

 

 

「確かに受け取った。内容についても確認できた。詳しい事柄についてはこの後詰めていこう。しかし、この場で気になったことが幾つかあるので確認したい。よろしいか?」

 

「なんなりと」

 

「ありがたい。ではまず、我が街の1人に貴殿が救われたとあった。また、その人物は此度の公爵級魔人の討伐にも大きく貢献したと書いてある。相違ないだろうか?」

 

「はい。その内容で間違いありません」

 

「そして、その人物はご領主殿から【光を齎す者(ライトブリンガー)】の称号を賜り、かつ、ダイバーとしての最上級の称号を2つ超えた階級である【勇者級(ブレイブクラス)】に認定された。他にも、討伐隊への白金級(プラチナクラス)認定や、新設された幻魔金剛石級(アダマンタイトクラス)日緋神金級(オリハルコンクラス)へと認定された。それについては?」

 

「相違ありません。我が街は彼によって滅びかねない危機的な状況を救われ、またその後の街の発展に彼らは多大に貢献していただきました。故に我が領主はそうしました。一つ補足するならば、彼らは報償にあたって名誉や地位、そして金品を固辞しました。よって、我が街から与える物がそれしかなかったのです」

 

 

 その問答に、他の組合長達からも驚きの声が上がる。特にビトは驚きのあまり間抜けな顔を晒していた。そしてナギを睨みつけるが、ナギは知らん顔で無視した。

 

 

「ふむ……なるほどな。私からも彼らには報償を与えようと思っていたが…そちらのご領主殿を参考にするしかあるまいな」

 

「それはあくまで我が街の中でのことです。我々としては決してこちらの街に内政干渉をしようなどとは思っておりませんので、誤解なさらぬよう」

 

「うむ。それについてはご領主殿からの書状に丁寧に書いてある。すまない、少し気になってな。さて…本来こういった場では立って話をするのが基本だろうが、旅の疲れもあろう。書状も受け取った。これからは座って話をしないか?」

 

「それは良い提案ですね。では、お言葉に甘えましょう」

 

「すまないな。英雄達もぜひ座り給え。組合長達も席に着くがいい」

 

 

 そのように促され、全員で大きなテーブルに用意された席へと着く。これは御前会議などで使用される豪華なテーブルで、円卓となっている。形式上レオノールとミシェルが全員の中心になるように座り、それを囲んで組合長達と英雄達が座った。

 

 

 

「我が街からこういった場合の礼法が失われて久しい。何か無礼があったら遠慮なく言ってくれ」

 

「ありがとうございます。我が街パリスでも似たような状況ですので、お気になさらず」

 

「そう言ってくれると助かるな。私もこのような場は苦手でな。大使殿はまだお若いのに作法が完璧で気後れしてしまう」

 

「まぁ、お上手ですのね。ですが領主様、私だけではなく、かの英雄達もお忘れなく」

 

「うむ。そうだったな。すまない、英雄達よ。この度の公爵級魔人の討伐、ご苦労であった。しかも、相手は40年近隣の街を苦しめてきた悪名高きフェルナンド=コルテスだ。これは前人未踏の快挙である。私から礼を述べたい。ありがとう」

 

 

 領主がマリア達の方を向いてねぎらいの言葉を掛ける。その言葉に反応して、組合長達も一斉に頭を下げ、それに合わせてダイバー達も一様に頭を下げた。

 

 

「……顔を上げてくれ。君達への報償は追って授与することになるが、まずは私から言わせて貰った。組合長達よ、彼らには大々的に褒賞授与の場を設定したい。これは近年にも稀に見る朗報だ。協力を願いたい」

 

 

 その言葉に組合長達は軽く頭を下げて了承の意を示す。レオノールはそれを確認して再び話を続ける。

 

 

「そして、この中で一番私が労わねばならん人物がいる──ナギ=シュトルバーン殿」

 

 

 レオノールがとある人物の方を向いて話しかけた。その人物は、豪華絢爛なメンバーの中では地味な方で、黒目黒髪の青年。しかし組合長達は、ミシェルと同様にその青年が一番気になっていた。そんな彼が短く返事を返し、領主の方を向いた。それを確認し、レオナールは続けた。

 

 

 

「私は貴殿とは以前から会いたかった。我が街、いや、人類で初めての〝光〟の霊力を発現した人物だったからな。しかしそれも叶わぬまま貴殿は恐ろしい魔王に攫われてしまった。しかし、こうして貴殿は帰ってきた。それだけでも奇跡的だ。貴殿の残した物で、我が街はこれだけ発展したのだからな。だがそれだけではなく、貴殿は大きな街の姫を救い、討伐隊をも救い、そしてその街の発展に多大なる貢献をしたという。そして、こうしてその街との繋がりを齎してくれた。君はまさしく我々人類に〝希望〟、いや、〝光〟を齎したのだ。我が街の誇りである。そんな貴殿に私から最大級の賛辞を。そうであるからこそ、貴殿には私から最高の報酬を考えている。何か希望はあるかね?」

 

 

 

 それは、領主からの最大の賛辞であるとともに、最高の労いの言葉であった。しかし、内容からすればそれも納得のものだ。魔王の手から逃れ、深淵から帰還するついでに他国の姫を助け、公爵級魔人を2体も撃破し、そしてその他国から友好の証を引き連れてきた。このどれか一つだけでも英雄として称賛されるべき物である。

 一部の事情を先に入手できた組合長はともかく、初めてそれを聞いた組合長達はそのあまりの内容に絶句していた。そんな組合長達のカオスな顔芸を横目に、その英雄は口を開いた。

 

 

 

「……まずは、お目にかかれて光栄です。そして、そのように評価を頂きありがたく存じます。私は私のできることをしたまでですし、生きるために必死でした。ですから、そのように賛辞を頂くことを大変恐縮に思います。恐れながら申し上げれば、私はその言葉でもう十分報酬を頂きました。もし領主様がこれ以上私に何かを与えると仰るならば、これからも私は私にできることを取り組んでいきたいので、その許可を頂ければ、と思います」

 

「ほう、無欲なものだ。本当にそれだけで良いのか? 他の者はどうだ?」

 

 

 レオノールはマリアやマリウス、そしてフロウ、エル、サラへと目線を映すが、彼らも同じように返した。

 

 

 

「ふむ……なるほどな。ミシェル殿、貴殿の言うことも今何となく理解出来た。これは確かに領主としては困るものだな!」

 

 

 カカカと豪快に笑いながらミシェルへと話を振る領主に、ミシェルも苦笑しながらその表情でそうでしょうと返す。この辺は為政者じゃないと分からない感覚だろう。ひとしきり笑い終え、彼は再びナギ達へと向き直る。

 

 

「分かった。確かに貴殿達にはその方が良いようだ。今日は良き日だ。我が街マドリーはこのように気持ちの良い英雄が沢山いることが分かった! そして、彼らのおかげで我が街も更なる発展が望めそうだし、大きな街とも友好を深められそうだ。それを齎してくれた英雄達と、ここまではるばる来てくれた大使殿に、この街を代表して改めて感謝を申し上げる。ありがとう!」

 

 

 

 その言葉と同時に、彼らに対して組合長達から大きな拍手が送られた。その拍手は、長いこと彼らを労い、そしていつまでも謁見室に鳴り響いた。








すみません、昨日は急用で投稿出来ませんでした…。
そして、そろそろ書き溜めが尽きそうです。しばし投稿が滞るかもしれませんが、どうかお許しをm(_ _)m
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