ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
遅くなってすみません。現在鋭意執筆中です。最後までエタらず走り続ける所存ですので、よろしければ最後までお付き合い頂けると幸いです。
「みんなーーッ! ありがとーーッ!!!」
「「「「うおおおおおぉぉおぉぉぉぉぉ!!!!」」」」
アラン平原に地面が鳴動するような雄叫びが木霊する。とにかくだだっ広い平原のかなりの部分を使って建設された新闘技場、通称新コロッセオは、およそ最大2万人を収容する巨大ドーム型の闘技場である。これらは新しいマドリーの壁を作り終えた大工組合と鍛冶組合が、余りの建材を活用してダイバー組合の修練のために建てた巨大建造物である。その収容人数は実に2万人と、ある意味マドリー最大の建築物と言っていい。ただ、石造りで屋根もないためにその姿は質素と言えば質素ではある。とにかく広い修練場を求めたダイバー組合と、老朽化した旧闘技場の変わりを求めた領民の意見を領主が拾い上げて、実用に重きを置いて建設されたという経緯があった。
「随分観客の様子も温まってきたわね!」
「えぇ…まさかここまでとは思いもしませんでしたわ」
「やっぱりちょっと恥ずかしい……」
彼女達は一様にあるアイテムを装備している。それはピンマイクだ。霊開研のエンリケが1週間で開発した新作で、風の魔術を応用したものを周囲に拡散するという謎技術の産物である。霊力を流せば使えるし、霊力のない者でも霊力を補充しさえすれば使用可能というスグレモノだ。
「ミシェルちゅあ~~ん!! 俺と結婚してくれーッ!!!」
「マリアお姉様ーーー!!!」
「フロウちゃん可愛いよハァハァ…」
様々な野郎達の黄色い声援が飛び交う、正にアイドルライブといった風情である。もはや熱狂の渦にいる観客達は、男性も女性もまとめてこのライブを楽しんでいた──
◇
──ライブ直前
「ねぇ…フロウさん? これはあまりにもアレなんじゃないかしら…」
「今更ですよマリアさん。もうここまで来たら後戻りはできないわ」
「そうそう。やるからには全力でってマリアも言ってたじゃない」
控え室にて。そこで派手派手な衣装に着替えた3人は、ライブが始まる前の衣装チェックをしていた。それぞれが色違いのフリフリの衣装を身に纏い、髪をセットしてメイクもバッチリ決め、ピンマイクを取り付けている。後は出るだけだ。
「はぁ…
「エレオノーラさん、結構ノリノリでしたね」
「ここからでも観客の熱狂が聞こえるわ。上手くいったようね」
そう。彼女達の前座として、教会のシスター有志による前座が行われていたのだ。総勢48名の見目麗しいシスター達による歌と踊り。それは例え彼女達の技術が多少稚拙でも盛り上がる材料にはなる。そこへきて、ナギの新魔術による演出である。会場は今や割れんばかりの歓声に包まれていた。
「それにしてもあのビジョンには驚きましたね。遠く離れた観客にもハッキリと見えるようになるなんて…」
「使徒様の光の権能ですね。あれは知らなかったら奇跡に近いでしょう」
「魔術と技術でどうにかして再現できないか霊開研も必死になってるみたい」
「それにしても、ナギくんはこんなに豊富な楽曲の数々をこの短期間で提供するなんて…やはり彼は前世があるというのも間違いないんでしょうね」
「流石使徒様、というところですね」
「おっ、2人とも。出番みたいだよ」
どやどやとステージから捌けたシスター達が上気した顔で控え室に戻ってきた。その表情からは大満足、という顔が浮かんでいた。
「マリア様! この取り組みは良いですね!! 神の奉納ということで定期的に開催しましょう!」
「落ち着きなさい、エレオノーラ。それこそが使徒様の思し召しなのです。これからも是非とも続けていきなさいな」
「勿論です! いよいよマリア様の番ですね。頑張ってください!」
「えぇ。私たちが後続に続くように魅せてあげます」
「マリア、行くよ」
3人はステージへと向かう。久しく失われたライブを復活させる。その先鋒を努めに──
◇
「しかしなぁ…ビックリしたぜ。あのナギが
「まぁ確かに驚いたが…ヤツは人類初の〝光〟の発現者だろ? それに、あの恐ろしい魔王から逃げおおせて、更に魔術っつー特大のネタをひっさげてきたとくりゃ、納得だぜ」
「付け加えるなら、異国の要人救出と公爵級魔人単独討伐だっけか? ヤベぇだろ。その要人が俺でも惚れるわ」
「ミシェルちゃん……ワンチャンねぇかなぁ…」
「ねぇよアホ。もし欲しけりゃ公爵級魔人を討伐できる力がありゃいけるかもだけどな? それに向こうの領主の娘って話だろ? オレ等とは身分が違いますわ」
「くっ…その話もホントかどうか怪しいぞ? フカシこいてんじゃねぇのか?」
「諦めろって。つか、お前も昔のガブリエラ戦見ただろ。常にアレならマジで勝ち目ねぇわな」
「だがよぅ、アイツ、ミシェルちゃんだけに留まらず、マリア様とフロウちゃんとも結婚してんだぜ!? 許せるか!?」
「むっ……そりゃそう考えると確かにイラつくわな…マリア様も妙に若返ってるし、クソ美人だからな。フロウちゃんもいつの間にか超絶美人になっちまいやがって……」
「いいか、これは羨ましいんじゃあない。美人を独占する不届者に対する漢の怒りだ」
「つってもオメー、どうすることもできんだろ」
「この街にいりゃヤツはいずれ模擬戦とかするだろ。そこでヤツに挑む! ヤツに勝てば彼女達も目が覚めるはずだぜ」
「えぇ…オレはパスだぜ。行くならお前1人で行けよな」
そんな益体もない会話をしていると、どこからともなく破裂音が轟いた。驚いて顔を見上げると、色とりどりの火花が空中に美しく散っていた。ナギの花火である。
「はぇ〜。こりゃすげぇ!」
「綺麗だな…これが魔術ってヤツか?」
そんな彼らに、会場から声が響き渡る。どんなに小さな声でも大きく拡大して響かせるこの現象も彼らには初の体験だった。そんな会場中に聞こえる領主の声が、次の演目を紹介する。
『諸君、楽しんで頂けただろうか。これは先ほど表彰を受けたナギ=シュトルバーン殿の魔術によるものだ。堪能して頂けたかね? さて、式典は終わった。マドリーの民よ』
そこで言葉を切る領主。そんな領主に何があったかと不安になる観衆。領主はそのまま2秒ほど溜めを造ってから再び語り出した。
『これまで苦しい世の中に耐えてきた皆の者に、少しばかりの慰めとなるような余興を追加で用意した! 皆、存分に楽しんで行ってくれ!!』
その言葉と同時に盛大に花火が打ち上がり、その花を咲かせた。それに乗じて領主はコロセウムから主賓席へと戻っていったが、同時に会場の空中に4面の長方形の半透明な板が浮かび上がり、そこに会場中央の様子が拡大して映し出された。
「な…なんだありゃ……」
「おいおいおい……こんなの見たことねぇぞ…」
「一体何を魅せてくれるってんだ…?」
困惑する観客達を尻目に、今度はコロッセウムの入り口から見目麗しいシスターの軍団が姿を現した。
「シスター? なんでだ?」
「新教会長もいるぞ!」
「な、なんだ…お祈りでもすんのか?」
『敬虔なマドリーの皆様、教会長エレオノーラです。此度は、この素晴らしい式典に際し、この場をお借りして、英雄達の帰還と神のご加護に感謝申し上げます。そこで、私たちはこのめでたい運命を神に感謝するべく、神への賛美を歌で奉納したいと思います』
「「「!?」」」
困惑する観衆をよそに、ぞろぞろと後ろから楽団が出てきて楽器を構える。会場が静かになったのを見計らって、指揮者が指揮棒を振る。始めは厳かな賛美歌から始まった。それが風の魔術のピンマイクで増幅され、2万人の観客に正確に届く。それは、今までにない体験であり、敬虔な老人などは観客席から思わず口ずさんだりしていた。
だが、徐々にその音楽がアップテンポになっていく。それは今までにない賛美歌であり、音楽。それはゴスペルと呼ばれるものへと変化していた。歌詞は讃美歌の内容そのままなのだ。しかし、その曲調がノリのいい、ポップへと変わり、今度は若者達がマネして足踏みして口ずさみ始める。
シスター達も音楽に合わせて体を動かし、ノリノリで踊り始めた。観客達も遂には立ち上がって踊りに合わせて身体を揺らし、手拍子を鳴らし始める。
ソロパートで入れ替わったり、簡単なダンスを交代で行ったりととにかくアップテンポで展開されるその賛美歌は、今までの讃美歌の概念を粉々に破壊してしまった。
あっという間に一曲が終わる。盛大な拍手が会場内を包み、シスター達の余興は多大なる歓迎を持って迎え入れられた。しかし、観客達はそのあまりの衝撃と楽しさに、もっと見たいとアンコールを要求し出す。
最初は不安そうな顔で登場したエレオノーラだったが、隣のシスターと顔を見合わせてうなずき、2曲目に入った。
観客達は再び興奮の渦へと巻き込まれていった──
「っはーー! すげぇ!! こんなのってアリかよ!」
「やべぇな…なにかに目覚めそうだ…!」
「エレオノーラちゃん……未婚なんだよな…」
「そこはエルサちゃんだろ常識的に考えて。ソロパートでも一番上手かったぞ」
ハッキリクッキリと見えるビジョンのおかげで、それぞれの顔もクッキリと見え、更にマイクでそれぞれの歌声もハッキリと聞こえるために、観客の一部からは早くも推し文化の芽生えが起ころうとしていた。
「いやぁ、しかし…こんなの見ちまったらどうでも良くなったな…」
「ちょっと洗礼受けてくる」
「待て、まだなんかあるみたいだぞ?」
領主が再び貴賓席から降りてきて、観衆に語りかける。
『余興はいかがだったかな? 諸君』
大歓声が領主へと返される。それを受けて、領主は満足したように頷き、更に続ける。
『ありがとう。しかし、だ。実は最後に一つ、
「「「!?」」」
『ふふ…驚いているようだな。私もリハーサルを見たときに驚いた。
呆然とする観衆を尻目に、サッサと貴賓席に戻るレオノール。突如、広大なコロッセオ内にスモークが発生し、地面を覆ってしまった。一体何が起こるというのか。
その時、煙の下から重低音が鳴り響き、煙と共に地面が円形に盛り上がった。その中に3人の人影が薄っすらと見える。
観衆達がその人影に気付いた時、シュパッという音と共に煙が切り裂かれ、1人の姿が浮かび上がる。
「ま、マリア様!?」
「何だあの衣装は…!」
続けて一部の煙が吸い込まれ、もう1人の姿が顕になった。
「フロウちゃん!?」
「という事はまさか…!」
最後、中心にいた影が右手を挙げ、振り下ろした。その瞬間、3人の周囲にあった煙が吹き飛び、上空から3人だけを照らす光が差し込んだ。
「み、ミシェルちゃん!!!」
「あの3人が何をやるってんだ…」
観衆が戸惑う中、中央のミシェルがマイクで自己紹介から語り始めた。観衆達はその鈴の音の様な声に魅了され、一言も聞き漏らすまいとしていた。
『皆さま、ご機嫌よう。我々はこの【
舞台の下にいる楽団がアップテンポな伴奏を鳴らす。それに合わせて、ミシェルから天上の声の様な甘美な歌声が紡ぎ出された──。
◇
【SIDE:ナギ】
今現在、俺とラブやんは必死こいて魔術での演出を担当している。上空のビジョンや、スポットライト、派手な花火などなど…兎に角多岐に渡り、ヒーヒー言いながら何とか維持している状態だ。勿論見えない裏側でな! 出来るのが俺ぐらいしかいないからしゃーないんだけど。あ、でもスモークとかはエレーナで舞台はヴァネッサに手伝ってもらってるからまだマシっちゃましか。
ただ、その甲斐もあって会場は大盛り上がりだ。前座のシスター軍団の段階で既にヤバかった。信じられるか? アレ、僅か1週間弱でマリアとフロウがあそこまで仕上げたんだぜ…? 前世での大ヒットしたミュージカルや、ゴスペルを参考に作らせて貰ったが、それを更にアレンジしてあのクオリティ! マジ半端ないわ。確かに曲もいいが、それを歌う彼女たちもヤバい。そりゃあの盛り上がりも納得だわ。今回の成功を受けて、恒例にしていければいいけどな。
まぁ、前世で一世を風靡したグループアイドル+普段は清楚なシスター達が歌うゴスペルが受けないわけないんだよなぁ。
聞いてる観客はさぞかし衝撃だったろう。老人とかショックでポックリ逝かなきゃいいけど。
さて、そうこうしてるとミシェルの歌声が響き始めた。うん。いつ聴いても中毒性のある歌声だ。ミシェルってホントに出来ない事がないんじゃないかな。この歌含めて3曲あるけど、歌とダンス2日で完璧にマスターしたし。ミシェルだけじゃなくてマリアもフロウもダンスのみだけど、速攻で覚えてアレンジまでする始末だ。それが早く済んだから前座の指導に集中できた部分もあるし。シスターさん達にも悪いことしたが、大絶賛だったから本人達も報われたんじゃないかな。まぁ、今回1番大変だったのは楽団の皆さんだけど。今度絶対差し入れ持って行かなきゃなぁ。
兎に角、1曲目から異常な盛り上がりだ。舞台演出にも力が入る。
それにしても、客観的に見てヤバいクオリティだ。見た目も歌もダンスも。だからこそ若干後悔してる。この後にアイドル文化続くかなって…。まぁ、3人は今回限りの出演だし、なんだかんだで続くだろう。むしろ続け。
お、1曲目終了! ミシェル達のMCだ。つか、もう合いの手入ってる…。やっぱり俺の嫁達は最強だな!
さ、2曲目の演出しよ。
◇
新闘技場は熱狂の渦にあった。男のみならず、女も、果ては老若男女を魅了するミシェルの容姿と歌声。それに負けず劣らず人気のマリアとフロウの超絶ダンス。更に楽曲も今まで聴いたこともないようなアップテンポのポップスで、観衆の情緒は完全に破壊された。
皆、彼女達のパフォーマンスに熱狂し、全員が座席から身を乗り出して熱狂する。誰かが歌声の合間に合いの手を入れれば、それに合わせて会場中が同じ言葉を叫ぶ。
今や、2万人の観衆は1つとなって舞台中央の彼女達を応援していた。1曲目はアップテンポの曲、2曲目はバラード、3曲目は再びポップスに戻り、更にダンス担当かと思われていたマリアとフロウも歌に参加する。
そもそもが、単体でもアイドルとして現代でもトップを張れる程の人材なのだ。それが3人、そして全く見た事も聴いた事もないような未知のパフォーマンスに、娯楽に飢えていたマドリー市民が太刀打ち出来るわけもないのだ。
あっという間に3曲目が終わり、観客は鳴り止まぬ拍手で彼女達を祝福する。それは、彼女達が舞台から降りて控え室に戻ってもずっと鳴り響いていた。
◇
「……あー……」
「終わっちまった、なぁ……」
「あぁ……すげぇモン見たなぁ」
「オレもう…これだけで10年闘えるわ…」
「お…? 領主様じゃん…つーことは余興は終わりかな?」
このように観客達は、一様に虚脱した状態となっていた。無理もない。娯楽もへったくれもない所に、いきなり現代でもトップクラスのクオリティのものを連続で見せつけられたのだ。情緒も破壊されるだろう。
そこに、領主が再び現れて、引っ込んだ彼女達を労った。
『──知っている通り、彼女はパリスの街の全権大使殿だ。またマリア殿もフロウ殿も、公爵級魔人討伐の功労者だ。それにも関わらず、このように素晴らしいパフォーマンスを披露してくれた事に最大限の感謝の意を表したい』
うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!
観客席から地響きの様な雄叫びが上がる。それはマドリー史上例を見ない歓声だった。
『さて、名残惜しいが本日はここまで。だが、領主としてはこの様な催しは今後も続けていきたいものだ。……さて、式典の終わりに際して蛇足ではあるが、男性諸君! 君達も色々と言いたい事はあろう! なので! 此度の英雄、ナギ=シュトルバーン君はいつでも君達の挑戦を待っているとの事だ! 彼曰く、「いつ、何時、誰の挑戦でも受ける」と言っている。よっていつでも彼に挑戦したまえ! 私もその試合は楽しみにしているからな!!』
うおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!
その日1番の雄叫びが会場に響き渡り、式典という名のライブは幕を閉じた。
シスター達の演目は「天使にラブソ◯グを」からインスパイアされております。まさかの3が制作されると聞いて、1から見直したらどハマりしてしまった…!