ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜   作:エアロダイナミクス

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77、新世界にむけて

 

 

 

 

 

「くっくっくっ。野郎共! 先日はい〜いライブだったなぁ! だが残念! 3人とも俺の嫁なんだ!」

 

 

 ナギが開幕そう告げた瞬間、会場全体から凄まじいブーイングが巻き起こる。特に男性ダイバーから多いが、残念ながら当然である。

 

 

「テメーこの野郎! あの3人が嫁とかふざけんなよ!!」

 

「オレ達のミシェルちゃんを汚すなー!!!」

 

「マリア様は俺の嫁だーッ!」

 

「フロウちゃんを解き放てーッ!!」

 

「ぶっ殺すぞー!!!」

 

 

「うんうん、いー感じに温まってんなぁ! よし! じゃあ掛かってきな!」

 

 

 観衆のヤジに対して平然と観衆を挑発するナギ。その挑発にまんまと乗せられ、数十人のダイバー達が一斉に霊力を開放し、武器を構える。

 

 

「この人数で掛かればいくらテメーでもひとたまりもねぇだろ! オレ達の怒り、その身に刻め!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やべ、速えぇ!! ぐわっ!」

 

「そっち行ったぞ!! 捕まえろ!」

 

「いや無理!! ぶへぇ!」

 

「ロ、ロベルトー!!」

 

「囲め囲め!!」

 

「あっ、いつの間に…うごぉ!」

 

「な、なんて奴だ…笑ってやがる…!」

 

「おのれ…せめて一矢報いてぐわぁ!」

 

「マルセルーッ!!」

 

 

 

 

 

 死屍累々、阿鼻叫喚の図が新闘技場内で繰り広げられていた。この日は数十人のダイバー対ナギ。タイマンだと埒が明かず、複数パーティーでの挑戦であったが、このざまである。その体たらくに外野から野次が飛ぶ。

 

 

「おらーーっ! だらしねぇぞーっ!! ミシェルちゃんを取り戻すっつー意気込みはどうしたーっ!!」

 

「うるせーっ!! じゃあテメーがやってみろっつーんだ!! マジでヤベーんだからなーっ!!」

 

「いいのか? 隙だらけだぜ!」

 

「し、しまっ…へぶうっ!!」

 

「そこまで! ……ったく、こりゃ1からコイツら鍛え直さにゃなぁ…」

 

 

 最後の1人が倒れ、本日も試合終了。開始から実に5分の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ビト】

 

 

 

「よーし、この街の野郎共は大体ぶっ飛ばしたな!」

 

「アホ。やりすぎなんだよテメェは。ちったぁ手加減しやがれ」

 

 

 ダイバー組合の横にひっそり建つカウンターバー。そこでナギはビトと軽い打ち上げを行なっていた。打ち上げと言っても、実態は主にビトが愚痴を言う会に近いが。

 

 

「残念ながら俺の辞書には手加減って載ってねーんだわ。大体あの3人を嫁にしてる現状で変に拗らせた奴が出てくるよりゃ、こうやってぶっ飛ばしたな方がいいって言ったのはアンタだぞ?」

 

「それにしても加減しろっつってんだよ! 奴等スッカリしょげちまってるじゃねーか!」

 

「けっ。この街のダイバーやってる連中がそんなタマかよ。明日にはピンピンしてまた挑んでくるだろ」

 

「アイツら泣きながらオレに愚痴ってくるから面倒くせぇんだぞ? 今日もオレに一頻り愚痴ってから酒場に向かったからな。今頃反省会だろなぁ…」

 

「楽しそうじゃん。俺に絡んでないでそっち行ったら?」

 

「バカ言え。誰が行くかよクソ面倒くせぇ」

 

「あ、やっぱり?」

 

「たりめーだバカ。アイツら相手にしてりゃ夜が明けちまうからな……ま、お前さんの言う通り、奴等はアホだから明日にゃ忘れてんだろうけどな」

 

「…………」

 

 

 グラスの酒を煽り、ナギは笑う。

 

 

「……んだよ、気持ち悪ぃなぁ」

 

「いやね。アンタの言う通りさ。なんだかんだ言って、この街の人たちゃいい奴等ばっかだぜ。陰険な事をしてこねぇ。俺は、だからこそこの街が好きなんだ。それは誰も彼もが陽気で希望に満ちてるからこそさ。パリスを見たから、よりそう思うぜ?」

 

「……そりゃ単純にアホだからだろ」

 

「それでいいんだよ。アホだろうが前向いて生きてんだから。こんな暗い世界で、それでもどっこい陽気に生きてる。それってすげぇ事なんだ」

 

「ふーん……オレには分からんな。興味もねぇ」

 

「ま、その雰囲気を作り出してるのは紛れもなくアンタなんだけどな」

 

「……何だ急に。気持ち悪りぃな」

 

「たまに褒めりゃすぐそーやって捻くれる。コレだからハゲは……」

 

「あ”? テメェハゲは関係ねぇだろ! 大体コレは剃ってるって前言ったよな!?」

 

「まぁまぁ落ち着けよ……とにかく、俺はこの街が好きなんだ。だから全力でこの街に恩を返したい」

 

「……チッ。まぁいい。で? どうやって返すってんだ? ちなみにテメェは例の功績と3人の嫁で評価はトントンだからな!」

 

「そりゃ手厳しいな! でもそんぐらいで丁度いいわ。俺もあんまり崇められるのもアレだしな! それに、心配しなくてもコレからありとあらゆる方面で度肝抜いてやるからよ」

 

 

 その発言を聞いて苦い表情をするビト。明らかに厄介事や面倒事が急増するフラグが立っていた。それを尻拭いするのは大抵自分含む組合長である。

 

 

「……ほどほどにしとけよ」

 

「大丈夫大丈夫! アンタも大船に乗った気持ちで構えときな!」

 

 

 そこはかとなく不安である。しかし、もうこの流れは止められないだろう。なんとなくそんな予感がする。だからこそ、上に立つ者の責任として最後まで面倒は見てやろう。そうビトは心の中で誓った。

 目の前の男は、もう哀れな小僧でも、ドニの弟子でも、ワンダーボーイでも、ヒヨッコルーキーでもない。まごう事なき英雄だ。だが、そんな奴でもこの街の愛すべきアホな事には変わりない。

 

 

「……ふん。尻拭いはちゃんとやってやるさ」

 

「ん? どーした急に」

 

「何でもねぇ。とりあえずテメェが生きてて良かったぜ。もう勝手にいなくなるんじゃねぇぞ。乾杯」

 

 

 一瞬ナギの雰囲気が変わった。ビトは顔を伏せていて見なかったが、その気配に気付いて顔を上げた時にはもう陽気なナギに戻っていた。

 だが、ビトはそこで察してしまった。ナギがいずれいなくなってしまう事を。お互いがそれぞれ察し合い、しばし沈黙が訪れる。

 しかしずっとそうするわけにもいかず、苦笑しながらナギが口火を切った。

 

 

「……そうだな。乾杯」

 

 

 

 グラスを合わせる。この件に関してビトがいくら問いただしても、ナギは決して教えてくれないだろう。それはナギの穏やかな、しかし強い意志を秘めた表情から察する事ができた。だからこそ、ビトはため息を吐き、一息に酒を煽る。結局のところ、見守るしかないのだ。ドミニクもそうだった。それが英雄の努めとやらなのだろう。だが、せめて──

 

 

「──()()()が来たらアンタには伝えるさ。他ならぬアンタには、必ずな」

 

「……!?」

 

「……へっ。なんつー顔してんだよ! 楽しく飲もうぜ! コレからもっと楽しくなるんだからよ!」

 

 

 

 ビトの飲んだ杯に、ナギが酒を注ぐ。ナギも自分のグラスを煽り、空の杯をビトに向けた。

 ビトはしばし固まっていたが、フッとその固まりを吐き出し、苦笑いを浮かべながらナギへと注ぎ返す。

 

 

「ふっ……死ぬんじゃねぇぞ。小僧」

 

「誰に言ってやがる。アンタこそ長生きしろよ」

 

 

 2人の夜は、そうして静かに更けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからというもの、ナギは挑戦者を捌きつつ精力的に活動をはじめた。彼は様々な組合に顔を出し、街の活性化に努めた。

 最初に訪れたのは霊開研である。所長のエンリケと機械類の調査と改良を依頼した。深淵や深奥で拾ったものに漸く陽の目が当たる。エンリケも職員と共に狂喜乱舞しながら調査に励み、その過程で様々な発明がなされていった。

 それが後に世紀の大発明のきっかけになるのだが、この時は想像すら出来ていなかった。

 

 尚、ラブやんは頑なに分解される事を嫌がり、エンリケとの熾烈な取り引きの末、機械知識を共有して共同研究をする事を約束させられていた。

 

 

 

 次に薬師組合。こればかりは流石のナギもかなり慎重に慎重を期して調査を依頼した。具体的には、深淵産は出さず、深奥や深層の植物のみを提供した。ナギ以外のダイバーが取れる可能性のあるものだけという括りである。しかし、それでもかなりの革命的な薬が開発され、傷病に大きな革命を齎した。幾つかは領主権限で流通を絞る必要があるほどの物だった。

 ナギは、許可が降りた物は気前よく豪快に卸し、必要な分が確実に民衆へと届く様に領主と相談しながら手配した。

 

 ちなみに、薬師組合は相変わらずラリっているかの様な形相で取り組んでいた為に、流石のナギもドン引きしていた事を記しておく。

 

 

 そのように、領主立ち合いや了承の元、それぞれの組合へと接触しながら素材をばら撒き、調査を依頼しつつ流通させていった。その過程で得た金や、エリクサーの件でマリア達から得た財産の殆どを福祉や公共事業へと投資し、マドリーの生活の質をより向上させていった。それについては領主も再三いいのか? と聞いていたが、ナギとしては殆ど使わないから有効に使いたいと言ってそのまま続けていた。

 実際、彼は稼ごうと思えばいくらでも稼げたし、いざ金を使うとなっても使い道も全く浮かばなかったからだ。その辺は根が小市民な男であると言えよう。

 擁護すれば、彼としてはマドリー全体を発展させて、その福祉を享受する方が有用だと判断していたという理由もある。娯楽もへったくれもほぼ無い世界で金だけ持っていても仕方ないからだ。ただ、世間から見れば、そのスタイルは彼の師であるドミニク=シュトルバーンと同じように映っており、英雄とは清貧であるというイメージが市井に出回り始めていた。

 

 話は変わるが、福祉といえば、あれから再三の要望を受けて「光の恩寵(グレースオブライト)」の公演が再度開催され、民衆は彼女達に再び熱狂した。

  最終的には、彼女達の公演回数は10回にも及び、ミシェルが解散宣言を出した事で漸く落ち着いた。そんな3人を嫁にしているナギに野郎達のヘイトが再び向かったのは言うまでもないし、その度にボコボコに伸して高笑いするナギはまごう事なきヒールであったため、無事に彼の清貧で高潔な英雄などと言うイメージは吹っ飛んだ。

 

 

 マリアはそれから新たに芸能に関する組合を立ち上げ、教会のシスターや娼婦、引退したダイバーなどを集めてはプロデュースするという事業を試験的に始めた。パリスという芸能に関しては先進的な街出身のミシェルも、外部アドバイザーとして内容については監修していた。そうしてパリスに普及している歌劇を練習して披露できるようにしたり、吟遊詩人を育成して路上や酒場でライブさせたりと、着実に娯楽を浸透させていった。近々、歌劇団による演劇をコロッセオで行うらしく、ナギや霊開研に演出を発注していた。

 

 ミシェルはというと、領主肝入りの魔術学校が創設され、そこの特別講師としてダイバー達に魔術についての教鞭をとった。これまたパリスと同じように、ミシェルの美しさに魅了されたダイバー達がこぞって詰め掛け、連日大盛況を誇った。そのおかげもあってか、ダイバー達の魔術普及率は驚異的と言っていい程高まり、魔術文化の発展の兆しが早くも見え始めていた。また、ミシェルの講義を受ける為に霊力を発現しようとする若者が爆増し、万年人手不足のダイバー人口が向上するきっかけになった。

 

 

 その一方で、フロウはその様に他2人が忙しく過ごしているのを陰ながら手伝いつつ、ナギのサポートをするというポジションに収まった。主に組合訪問する時のアポイントを取ったり、予定を調整したりと、ナギの秘書的なポジションである。これは、マリアの弟子であった時に身に付けた技能であり、ナギもまた彼女を重宝していた。また、それだけではなく、業務の合間を縫ってマリウスはじめ、エルやサラ達とダイバーの育成をするなど、目立ちはしないが多岐に亘る活躍をしていた。

 

 

 そんな忙しい日々を過ごしていたある日、ナギとフロウはある場所へと赴いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぅ、小僧。オメーもちょっと見ねぇ内にデカくなりやがったな」

 

 

 この日、ナギとフロウは鍛治組合の長、アレハンドロの店を訪れていた。

 

 

「久しぶりだな。その説は世話になったよ。来るのが遅くなって悪かった」

 

「あれから寄れなくてゴメンね?」

 

「おぅ、気にすんなチビガキ。あんときゃ堅苦しくてロクに話せなかったからな。お前らも相当忙しいんだろうから良いってことよ。で、今日はしばらくは大丈夫なんだろ? ちっとは話を聞かせろや。特にオメーの装備の事をな」

 

 

 なんだかんだで彼らも忙しく、中々鍛治組合まで顔を出せなかった事を詫び、アレハンドロもそれを快く許した。店番のメルが出した茶を啜りながら、これまでの経緯を話す。特に装備についての事を重点的に。アレハンドロは静かに、しかし熱心に話を聞いていた。

 

 

「──そうか…パリスには天才がいたか」

 

「あぁ。本当にアイツはすげぇ奴だよ」

 

「ふん。一目見て分かったぜ。確かにすげぇ腕だ。それで13歳とは恐れ入る」

 

「私も驚いたわ。作る物が悉く伝説級の性能してるんだもん」

 

「………ナギ、すまんがオレにその装備をよく見せてくれるか?」

 

 

 アレハンドロに促され、ナギも大人しく装備を外してアレハンドロに渡す。それをしばらく鬼気迫る目でじっくりと触りながら観察するアレハンドロ。その間かなりの沈黙の時間があったが、ナギとフロウはじっと待っていた。

 

 やがて、ため息を吐いて顔を上げたアレハンドロは、賞賛を口にする。

 

 

「──見事だ。いくら性能のいい材料が豊富にあっても、それに溺れず真摯に向き合い、信念をもって完成させる。コレは並大抵の事じゃねぇ。鍛治の腕は既に超一流と言っていいだろう」

 

 

 ナギも、懇意にしているアンリを手放しに褒められて思わず顔が緩んだ。しかし、ニヤリと不敵に笑いアレハンドロは続ける。

 

 

「──だがな。まだまだ若造だな。造りが甘ぇ」

 

 

 ナギとフロウはその発言に耳を疑った。どう見てもナギの剣と鎧は極限の性能を有している様に感じたからだ。

 

 

「ククク……疑ってるか? ならばオレにコレを預けてみな。奴はどれぐらいで作った? ……なるほど、ならば5日だ。5日で仕上げてやるぜ。材料? いらんいらん。ついでにチビガキ、オメーのもな」

 

 

 ナギはその提案に迷いを見せたが、アレハンドロの表情、特にその燃え上がる様な目を見てそのまま装備を彼に託した。その目は、鍛治に挑むアンリの目と同じであったからこそ。

 フロウもその気迫を感じ取ったからか、何も言わず大人しく装備を渡した。

 

 

「鍛治は奥が深い。まだまだ前途ある若者に()を見せてやるのも年長者の努めよ。鍛治の真髄、見せてやるぜ」

 

 

 

 

 

 

 それからきっかり5日後、彼らは再びアレハンドロの店に赴き、新しくなった装備を受け取った。形は殆ど変化が無い。だが、細かい所で更に洗練されたデザインへと変化していたし、武具そのものの存在感も増していた。

 

 

『マスター……使用してみない事には正確な性能は分かりかねますが、恐らく各種性能が30%以上向上している様に見受けられます』

 

「!?」

 

「30!? マジで!?」

 

「久しぶりに楽しい仕事だったぜ。ソイツにも言っとけ。まだまだ負ける気はねぇぞってな!」

 

 

 

 謝礼としてナギは様々な貴重な鉱石を彼に託した。そもそもが始めからそうするつもりだったのだが、あれよあれよと上記の流れになってしまった。だからこそ、気兼ねなく彼に渡せたのもあるが。

 

 

「おいおい。マドリー全体でもこんなには使いきれねーからいらねーよ。謝礼にしても余りあるぜ」

 

「いや、研究用として頼むよ。それに、武具の性能向上は急務だ。それ以外でも使い道は多岐に亘るだろうし。あと、パリスでも同じように渡してるからな」

 

 

 その言葉にアレハンドロがピクリと反応する。

 

 

 

「ほう? 奴も研究と普及を進めてるか…なるほどなるほど。ならばオレも負けらんねぇなぁ」

 

「……あと、追加でお願いしたい事がある。謝礼は別にするからさ、()()、打ってくれない?」

 

 

 ナギが指差した先、そこにはドミニク=シュトルバーンの鎧のレプリカがあった。それはかつて、初めてこの店を訪れた時に見た鎧。材料不足で未完成の作品だ。

 

 

「ふむ、なるほど。確かにテメェは足りねぇ材料取れるぐらいの英雄にはなったな。いいだろう。謝礼は素材分でトントンにしといてやる。チビガキ、お前も後は何も無いか?」

 

「無いけど…いい加減チビガキはやめてよね! もう私も20よ!」

 

「けっ。ちっとデカくなったってチビガキはチビガキなんだよ。……じゃあオレは早速取り掛かるし、しばらく忙しくなるからな。出来たら人使って呼ぶから、また取りに来い」

 

 

 ムキーっとなってるフロウを宥めて店を辞する。アレハンドロは終始顰めっ面をしていたが、内心ウキウキしている事が分かった。アンリの存在もいい刺激になった様だ。それに武具の性能が向上すれば、ダイバーの生存率も増やせる。結果的には最良であったと言えよう。問題は、パリスに再び行った時にアンリがどういうリアクションを取るか、である。彼も若いとは言え鍛治師としてのプライドもあろう。落ち込まなければいいが、とナギはどういう風に説明しようかと迷っていた。

 

 

 ──先に結果から言えば、全く問題無かった。定期報告でパリスへと飛んだ時、会って早々のアンリの一言目が

 

 

「コレは……素晴らしい! やはり上には上がいますか…!」

 

 

 である。ナギが恐る恐る経緯を説明しようとするのを遮って、アンリはナギの装備に触れながら観察し、その上で自らの甘いところを補完するほどの腕前を持つ鍛冶師がいる事に喜びを全身で表していた。

 

「あー、アンリ。すまん」

 

「何を謝ることが? 意匠はそのままだし、僕の甘かったところが完全に直されてます。つまり僕が打った物はまだ未完成だったということ。それを完璧な物に仕上げてくれた鍛冶師に対して怒る事なんてできないですよ。むしろあのままだったら後世にまで僕の失敗に近い作品が残るところでした。ですからどちらかと言えば感謝してます」

 

 

 

 そんなわけで、アッサリとアンリは自分の不出来を認め、更にこれを為したアレハンドロに会いたがった。後年、彼らが邂逅したときに、年齢差があるにも関わらず一瞬で意気投合し、2人してパリスの街を飲み歩きながら鍛冶談義する彼らの姿が見られた。若年の孤高の天才と超熟練の鍛冶組合長。2人はそれから竹馬の友として交流し、お互いの街で切磋琢磨を繰り返したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【SIDE:ナギ】

 

 

 

 

 

 

「は? なんて?」

 

「じゃから、転移ポータルの試作品ができた、と言っとる」

 

「……は?」

 

 

 

 そこは霊開研。マッド科学者のエンリケの本拠地であり、彼の研究室へとナギがお邪魔したときの一幕である。彼はあれから度々霊開研を訪れて進捗を確認していた。エンリケとは一蓮托生の部分もあり、半分は公務だが、マッドで特異点に近いエンリケからどんなビックリが飛び出すのかを楽しみにしている部分もある。事実、霊話機とか霊動車とか意味の分からないシロモノを次々と開発していくエンリケは、ナギの好奇心を常に刺激してくれる貴重な存在だからだ。

 

 だが、流石のナギも、その発言には度肝を抜かれた。

 

 

「あの~話が読めないけど。またおじいちゃん変な発明したの?」

 

 

 固まったナギに変わってフロウがエンリケを問いただす。

 

 

「こら! 変な発明とは心外じゃ! これは今までの常識を一変させる夢の発明じゃぞ!」

 

「ふ~ん……ナギ、私には分からないけど、すごいの?」

 

 

 凄いなんてもんじゃない。ナギは内心、このジジイ、遂に現代技術すら飛び越しやがったと驚愕しすぎて固まってしまった。詳しいスペックは聞いていないが、それが想像通りの物なら前世の科学技術すらも飛び越えるシロモノだからだ。

 

 

「ふっふっふっ…鍵はやはり光……光は全てを解決する……!」

 

「いやまてジジイ! いくら何でもそりゃ頭おかしいぞ? 何がどうなってそうなった!?」

 

「まずはお主が持ち込んだ機械の解析から始めたんじゃがな? お主が言っとった深淵の機械仕立ての敵のパーツじゃ」

 

「あぁ、髑髏魚ね……ラブやんから聞いたか」

 

「そうじゃ。何でも瞬間移動してたらしいの。それを聞いて何とか再現できんかと考えとったわけじゃが、お主の持ち込んだパーツに丁度その機能を持っていたと思わしき箇所があってな。解析して改造した結果、光の霊力でいけそうなんじゃ」

 

 

 いけそうなんじゃ、じゃねーんだよ。それ、流通革命起きるヤツだからな? いやまて、慌てるのはまだ早い、まだまだ課題は沢山あるはず、とナギは呆れながらも冷静になってエンリケにいくつか質問をぶつける。

 

 

「まず、詳しいスペック教えてくれるか? 今までみたいに貴重な帰還石をその度消費します、じゃ意味ねーからな」

 

「当たり前じゃ。いやまぁ、帰還石とかお主が持ち込んだ貴重な鉱石は原料として多少は必要じゃなが。それは初期投資だけじゃ。後は光の霊力だけじゃな」

 

 

 初期投資だけで後は霊力のみ。これは破格の性能である。

 

 

「ふ、ふ~ん……で、距離とかの制限は?」

 

「恐らく無い。それぞれの場所に機器を設置すればいつでもいけるぞい」

 

「……事故の心配は」

 

「それも無かろうて。そもそも帰還石でもその問題は解決されとるしの」

 

「」

 

「あ、また固まった……おーい、ナギー」

 

 

 それから、その発明は迅速に領主へと報告が挙げられ、その1ヶ月後にはパリスの街とマドリーの街に正式な転移ポータルが設置された。流石に移動できる量には制限があったが、それでもかなりの人員と物資を簡単に運搬できるようになり、更には移動も楽々とできるようになったことは、正に革命的と言っても良かった。これにて、正式に領主間での会談が可能になり、言語の問題があったとしてもミシェルという通訳を通して2つの都市の交流と流通が一気に進んだ。その恩恵は人々にももたらされ、マドリーの街で流行(はや)り出しているアイドル文化を堪能しにパリスの住人が訪れたり、逆に成熟した文化を持つパリスの演劇を見にマドリーの住人が訪れたりと、言語の壁を越えながら一般での交流が深まった。無論、仕事上での交流は言うに及ばずであり、マドリーとパリス、双方のダイバーが協力しながら暗黒領域の交流に乗り出したり、各組合の技術交流が盛んに行われるようになった。

 

 

 

 

 ナギは、ここに来ていよいよと準備が整ったことを感じ取った。それは勿論双方の領主も含めて、である。

 

 即ち──

 

 

 

「いよいよだな……【再征服(レコンキスタ)計画】、発動だぜ!!」

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