ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
ヒロイン(暗黒領域)がアップを始めました。
オレは、初勝利のあの日から似たような訓練をたびたび行い、何度もボコボコになった。ドニさんはとにかく容赦が無い。殺す気か!? と思う事は一度や二度とではなかった。あまり考えたく無いが、どうもオレを観察しながらどこまで追い詰められるか観察している様に思われる。
一通りボコられたら、魔物退治だ。ジャバリの他にも、リモと呼ばれるスライムっぽい謎魔物や、コルミロという狼型の魔物を相手にし、追い詰められながらも何とか倒した。回を追うにつれてギリギリ具合を増している。これもドニさんがオレの追い込みを増やしていっている為だ。
だが、その効果もあって、極限の集中力とでも言うべき物が働き、勝利を収めている。毎回終わった後は倒れるが。
とにかく、お陰で少しずつドニさんの攻撃にも対応できる様になってきた。最近は霊力の扱い方にも慣れてきて、石を霊力の手で触って転がす事ができる様になってきた。事象変化の方はやっぱりからっきしだ。畜生め。だから、実戦で戦うという域には到底達していない。ドニさん曰く、それでも強い奴は強いとの事だった。今はそれを信じて頑張るしかないか…。
そして、それ以外の時間の訓練も追加されるようになった。基本的な筋トレや走り込み、そして剣を振ることだ。これは霊力を発現しているから常人よりはマシだが、キツいモノはキツい。特に走り込み。マドリーの街の壁付近を延々と走る。ひたすら走る。壁の中では霊力は使わない限り衰えることは無いが、体力は別だ。
オレには基本的な筋力や持久力が足りないらしいから、それを言われればぐうの音も出ないし、生き残る為にはやらなければならない事だと思って我慢する。
今は下積みだ。こんな世界で、鍛える事が出来る環境にいるだけでも感謝しなければならないだろう。
◇
【SIDE:組合長】
「どうだ? 最近の坊主は」
ビト組合長がいつものように尋ねる。この会話も久しぶりだ。
「まあまあだな。霊力に関しては文句なしに優秀だ。ただ、肉体的にはからっきしと言っていい。あれで何故魔物を倒せるか理解に苦しむな」
「あぁ、だから今は走り回ってんのか。相変わらず順序がバラバラだなぁ。今度ウチの訓練生と合同でやるか?」
その言葉にドミニクは少し悩んだようだ。しかし、しばらくして彼は結論を出した。
「いや……やめておこう。少なくとも今はな。お互いにとっても良くないだろう」
「うーん……。ま、お前さんがいるからいいんだがな。確かにお前の補助が有るとはいえ、戦果が新人レベルではあるしな。訓練生共も嫉妬するか」
「それもあるな。だが、私はナギの本質を見ない事にはどうしても安心が出来ん。片鱗は見え隠れするが、まだまだ全貌が見えない。やはり極限の状況というのが鍵の様だ」
ドミニクは淡々と答える。しかし、淡々と答えると言うことは彼にとってはこの事はあまり気が進んでいないことを意味しているのを組合長は知っていた。だから敢えてドニに問いかける。
「だからあんな過酷な訓練をやってるって事か……。仕方ないとは言え、もう少し何とかならんのか?」
「……私も出来るならそうしたい。だから、もうすぐやる」
「どうすんだ?」
「ナギを
この発言にビトは驚愕する。しばらくドニの発言の内容が理解できなかったほどに。
「!? 中層って……お前、ベテランのダイバーでも油断すればヤバい場所じゃねーか! そんなトコに連れてったら確実に死ぬぞ!?」
「分かっている。それが最後だ。そこで私はナギを見極め、必要があれば処理する。逆に言えばそこが私の限界だ。それ以上になると私の方が器を超えてしまうからな」
ドミニクはやると決めたらやる。そういう男だ。だからいくら反対しても無駄だろう。ビトは深い溜め息と共に、組合長としてドニにどうするかの確認をする。
「……いつ、やる?」
「言ったろう。もうすぐだ。具体的にはある程度の身体能力が身についてから、だな」
「そうか……お前、大丈夫か?」
「あぁ。覚悟は出来ている。【帰還石】もこのために取っておいてあるからな」
「!!!」
その言葉と共に、ドミニクは収納袋からキラキラとした七色に光る宝石を取り出す。これが帰還石だ。二つに割って使用するが、この石は霊力を片方に送れば、その送った人物を含めて瞬時にもう片方の石へと呼び寄せる。どういう原理かは説明が付かないが、テレポート出来るのだ。その代わり、一度使えば壊れて使用できなくなる。当然だが、この帰還石は超高級品だ。それもそのはずで、基本的には中層以上でしか見つからない。ベテランでも念のために一つ程度しか持たないし、持てないのだ。領主クラスならば話は別だが、それでも絶対数が少ないし、一度しか使えない。おいそれと使える様な物ではない。
逆に言えば、これを使うという事はよっぽどの生命の危機か、緊急事態であると言えるだろう。だからこそ、それを見たビトは驚いた。
「それ程か……。いや、分かった。オレはお前の判断を尊重する」
「ありがとう。では、また」
「うむ。朗報を待っているぞ」
◇
【SIDE:ナギ】
初勝利の日から半年が経った。最近はオレもこの過酷な訓練は慣れてきた。朝は筋トレと走り込みを繰り返し、朝飯をたらふく食べてから素振り。そして霊力訓練。これを昼まで。休憩後、壁の外に出て手合わせし、寄ってきた魔物を狩る。そして気絶し、いつの間にか家にいて、夕食をたらふく食べて寝る。
これが最近のルーティーンである。人間はどんなに過酷な状況でも慣れる生き物だと実感している。最近は魔物相手も複数対応できる様になった。相変わらずギリギリだが。
おかげで大分オレも力がついてきたように思う。すぐ近くに超絶強い人間がいるから何とも言えないが、わりかし街の近郊ならば1人でもいけるんじゃないかってぐらいには。まぁ、暗黒領域は魔物だけが脅威じゃないからもっともっと「力」は必要だとは思うが。だからこそ、訓練は真剣に、死ぬ気で取り掛かっている。
そんなある日の朝、ドニさんはオレに出かける事を告げた。どこに行くのかと聞いたら、少し暗黒領域の奥まで行くと言われた。不安に思い尋ねたら、自分が付いているから大丈夫だと言われた。まぁ、彼がいるなら万が一と言うことも無いだろう。なぜなら彼はこの街でトップクラスのダイバーだからだ。彼は
さて、準備だ。オレは相変わらず例の重い剣を持っている。その他、ダイバー協会からのお下がりの革の胸当てとマントを貰っているので、それを装着する。なんでも組合長が好意でくれたそうだ。買うなら結構な値段がするとのこと。今までは冠頭衣とズボンという出で立ちだったのでコレは本当に嬉しかった。貰った日はずっと着っぱなしで、寝る時以外は付けていたぐらいだ。最初は着付け方が分からずドニさんに教えて貰ったが、今は自分で丹念に手入れまでしている。そもそもドニさんの鎧もオレが手入れをしていたので慣れたものだ。むしろオレだけの装備が手に入ったことでより丹念に手入れをするようになった。背中にベルトで鞘を取り付け、そこに剣をしまう。そうしたら、オレはどこからどう見ても冒険者だ。これはテンションが上がる。漸くスタートラインに立てた気分だ。さぁ、暗黒領域もなんのその! 行くぞ! オレの冒険が待っている!!
「……ドニさん。コレは一体どういう事?」
「シッ。喋るな。私にも予想外だ。しかし、暗黒領域ではこういうことが起こりうる。今回はそこまで
オレ達は、今、日食が起きたかような、太陽が紅く陰る昏い荒野にいた。時おり、遠方に廃ビルのような建物が散見している。地面は乾燥しており、黒めの灰のような砂地である。周りには奇妙な、そして気色の悪い菌類だかなんだか分からない、ブツブツの珊瑚のようなモノが沢山生えている。はっきり言って、ホラーゲームのステージみたいだ。気色悪い系の。そして、その瘴気の漂う量は、浅層とは比較にならないほど濃厚だ。
そう。ここは……
──あれは忘れもしない。
ちょっと前に出たフロム待望の新作の某大作RPG(しかもオープンワールド)を出た瞬間に購入。
最序盤にテンション上げ上げで探索中。当然貧弱装備(むしろ裸)でレベル一桁。
オープンワールドの洗礼か、はたまたフロム恒例の洗礼か、クソ強ドラゴンに遭遇し、そっから逃げた先の廃墟にて、宝箱をウッキウキで開けたら煙。
気付いたら明らかにレベルが違うキモい蟲がワンサカいる坑道。そこを死ぬ気で抜けたら(むしろ何回も死んだ。それでも戻れない絶望感)、世界の終わりの様な空。キモい菌類とオレンジ色の地面。敵はドラゴンより強く感じる腐りかけのクソデカ犬とクソデカカラス。
あ、詰んだわ。っていう新鮮な衝撃を、私は今でも忘れない。
……まぁケイリッドって言うんですけどね! 深層はそんなケイリッドの雰囲気にかなり近いイメージです。