ティエラの地より 〜転生少年、深淵に挑む〜 作:エアロダイナミクス
こうなった原因は何なのか分からない。偶然、なのだろう。
最初から話せば、まず浅層に入った我々は、ドニさんが先頭で奥を目指してズンズン進んでいった。今回は浅層から少し奥に行くということで、本格的なダイバーの狩り場が見られると最初は思ったものだ。しかし、奥に行くにつれて霊力の削られ具合も増しており、瘴気の濃さがどんどん増していく。最初は暗めの霧がかかったような景色も、だんだんとその様相を変え、植物を含む地面が黒くなりだした。ここにきて、オレは最初の冒険気分は吹き飛んだ。もうここは人間のいるべき所では無い、とはっきり感じられるようになったからだ。幸いなことに太陽は上空で照っているらしく、薄暗くはなるが、真っ暗にはなっていない。ありがたいことだ。真っ暗なら本当に何も見えず一方的にやられそうだ。逆に言えば夜は本当に危険なのだろう。だからこそダイバーは朝早くに発ち、夕方までには戻ってくるのだ。
道中、当然魔物は襲ってくるが、ドニさんが一刀両断にしていった。結構進んでいるように思えるが、ここまで進んでもどうやら浅層らしい。どこまで行くのだろうか? まさか、中層まで行かないよな?
そう思っていたのがいけなかったらしい。いわゆるフラグという奴だ。ドニさんが突然立ち止まった。
「マズいな……
「えっ、何が?」
「【
「ダークネス…何?」
「走れるか? 今すぐ私についてこい」
ドニさんはオレの質問に答えず、それだけ確認したら反対方向に走り始めた。確かにドニさんの言う通り、何やら瘴気が前方に引き込まれている。これは…津波の前の水が引くような感じだ。素人のオレでさえもヤバそうな気配を感じ、ドニさんに慌ててついていく。
ドニさんはオレを気遣いながらも凄いスピードで走る。途中でちょっかいをかけてきた魔物は一刀のもとに斬り伏せながら、スピードは落とさない。オレはついていくのがやっとだ。
だが、感じる。もうそこまで来てる! 大規模な瘴気の波が!!
「ガウアアアッ!」
「ぐっ!」
「ナギ!!」
そんな時に限って、オレの近くから魔物が飛び出してきた。ジャバリだ。咄嗟にガードしたが、オレは足をもつれさせて転んでしまった。前を行くドニさんもそれに気づいた様で、引き返してきてオレに迫ったジャバリを斬り伏せた。だが、その時にはもう遅かった。眼前まで迫る瘴気の波。
「チッ、仕方ない! 掴まれ!!」
ドニさんが手を伸ばす! その手を掴もうと必死で手を伸ばすオレ。コンマ一秒、すんでの所でオレはドニさんの手を掴むことに成功した。そして、直後にオレ達は瘴気の渦に飲み込まれた。
「うっ……」
「……目が覚めたか。あまり動くなよ。声も立てるな」
どうやらオレは気を失っていたらしい。辺りを見回すと、先ほどとは周りの景色が異なっていた。今まではまだ薄暗いとは言え、森的な風景を保っていた。しかし、今は……それとは全く異なった恐ろしげな風景に切り替わっていた。そして、その瘴気の量は先ほどとは比較にならないほどだ。
「……ドニさん。コレは一体どういう事?」
「シッ。喋るな。私にも予想外だ。しかし、暗黒領域ではこういうことが起こりうる。今回はそこまで遠くに
「さっきのでどこか別の所へ飛ばされたの!?」
「静かにしろ。魔物に見つかったら面倒だ。ここは瘴気の濃さと、景観から考えると深層……だと思う」
「!!!」
思わず大声で叫びそうになった。危ないところだった。しかし、気持ちは察して欲しい。ルーキーがラストダンジョンみたいな所まで行ってるようなもんだ。そして、現在進行形でガリガリと霊力を削られている。そりゃ焦るわ。
この【暗黒領域】は、瘴気の濃さと、その景観によって階層が分けられる。まずは、浅層。これは人間の生存圏から少し離れたところに位置する、瘴気の薄い場所である。ここはあまり人間世界と景色に変化は無く、瘴気が漂うだけである。しかし、そこを超えると中層になる。ここは瘴気が大地に影響を及ぼし初め、植物がねじ曲がったり、地面が黒くなったりする。この辺が目安だそうだ。
そして、深層になると話が変わってくる。その景色は一変し、常識ではあり得ないような奇妙な植物や、悪夢の中に出てくるような建造物が混じり出すらしい。そう。今のように。現在確認されている中では、
おっと、話を戻そう。で、どうするんだろうか。今も遠くのビルっぽい建物の近くに、同じぐらいの大きさの巨人が見える。巨人というか、巨大な石像というか。瘴気にまみれていてよく分からないが、手に持ってるこれまた巨大な鉈みたいな剣を持って徘徊している。その近くには超巨大なゴキブリっぽい奴が複数体いる。あ、巨人に挑んで蹴散らされた。蹴散らされたゴキブリを地面から巨大なワームみたいなのが飛び出して美味しくいただいている。というかサイズ感おかしい。人間が勝てる相手じゃ無いだろ、あれ。
「ドニさん……どうすんの?」
あまりの光景に衝撃を覚えながらも、オレはドニさんを振り返って聞いてみたら、ドニさんは、懐からいつの間にか地図と謎の羅針盤を出して眺めていた。そして、しばらく考えていたが、顔を上げた。
「うむ。やはり深層だ。そして、まだ歩いて帰れる距離だな。良かった。日が暮れる前に何とか中層までにはたどり着けそうか」
「……その道具で分かったの?」
「そうだ。これは特別製でな。マドリーを登録しておけば、その距離と方角、そして現在の位置がわかるというものだ」
「なにそれすごい」
「これも暗黒領域の恩恵ではあるがな。さて、急ごう。お前も見ただろう。あんなのに絡まれたら命がいくつあっても足りん。とりあえず中層まであと約18レグア(※1レグア=5.5キロ)だ。急ぐぞ」
「18レグア…? マジで?」
「マジだ。そして、出来るだけ隠密行動だ。さぁ、付いてこい」
そう言うと、素早く道具を片付けて背をかがめながらドニさんは動き出した。約100キロかぁ……霊力、保つかな……。
◇
【SIDE:ドミニク】
ドミニク=シュトルバーンは悩んでいた。まさか【
帰還石は貴重だ。しかし、逆に言えば今この状況ならいつでも使える。ならば本当にギリギリまで取っておいても良いのでは無いだろうか。それこそ、ナギの真の実力を見ることが出来る良い機会だと。そして、自分の捜し物も見つかるかもしれない。ならばこのまま行こう。できる限り。
彼のナギに対する感情は複雑だ。長年共に生活していれば多少は情が湧く。しかし、街の安寧のためには野放しに出来るようなものでもない。だからこそ、これまで彼が監視という形で見続けてきたのだ。組合長などは彼を哀れがっているようだが、自分もそう言う気持ちが無いわけでもない。それこそ、彼だって出来るならばナギを殺したくはない。だからこそ、今回で見極めなければならなかった。そうしなければ、冷徹な判断を下せそうに無いからだ。これは良い機会だ。そう自分に言い聞かせながら、帰還の道をひたすら走る。できる限り、ナギが自分にその本質を見せてくれることを信じて。
◇
【SIDE:ナギ】
道中はかなり厳しいものだった。想像を絶するような景観、そして魔物達。ホラーステージのようなと言ったが、まさにそのものだった。今現在は謎の遺跡風な場所で気配をなるべく隠しながら突っ切っているところだが、鳥のような顔面をした二足歩行の謎生物があちこちに徘徊しており、全く油断が出来ない。少なくともオレは間違いなくソイツが持っている長い包丁のようなモノで両断させられるだろう。隠密にも命がけだ。それでも遭遇してしまう時がある。そんなときはドニさんが変換して練った冷気を顔面に不意打ちして凍らせ、相当な霊力を纏わせた剣で核を突き刺して殺していた。逆に言えばドニさんでも全力の不意打ちが最適解と言うことだ。でなければ、あっという間に囲まれてゲームオーバーだからだ。少なくともオレはコイツ等に一瞬でも抵抗できる気がしない。
ドニさんは、倒した魔物の身につけていた鎧や武器などの装備は残らず回収していた。なんでもこういった装備は浄化して整備すれば一級品になるかららしい。さすが深層である。本当はダイブの時はこのような遺跡は宝の宝庫らしいが、今はそれどころではない。死ねばそこまでだからな。仕方あるまい。
さて、そんなこんなで石造りの謎遺跡を何とか脱出した我々だったが、ここで問題が発生した。我々というよりはドニさんに、だが。
相変わらず昏い荒野をひたすらに歩いていると、そこに壁が現れた。我々の街にあるものと同じモノだ。しかし、ここはまだ深層だ。門は無惨に破壊され、中は濃厚な瘴気に支配されている。
……つまりここは、滅びた街だ。そして、なんとも言えない気分で見ているオレをよそに、ドニさんは固まっていた。そして、再起動した後、言う。
「……見つけた。
【暗黒領域】内部のランク
・浅層…ほぼ普通の世界と変わらない。周囲に薄い瘴気が漂う。
↓
・中層…瘴気濃度が増す。地面や植物は影響を受けて黒く染まる。
↓
・深層…瘴気濃度が相当濃い。周囲の景観はグロく一変する。
↓
・深奥層…人類の到達限界点。景観は想像を絶するものとなり、時空間すら歪む。
↓
・深淵…一切が謎に包まれている。しかし、その存在を示唆した者がいる。