ポンコツ機械がフリーナの英雄になる話   作:ルヴレ

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長編の息抜きに書いてたやつが完結したので投稿します。
作者が曇らせ好きなので、無自覚に曇らせっぽいところがあるかもしれないです。地雷の方は注意。


保護される自称英雄

 

 スメールに、頭のおかしな……けれど優秀な学者がいた。その学者は、技術はあれど、発明や論文のアイデアが思いつかず、名はなかった。

 名がないせいで、実力を信用してもらえなかった学者は偶然にも「栄誉騎士」の噂を耳にした。

 どうやら、モンドの方で英雄のような旅人が現れたらしい。

 

 そして、学者はふと思いついたのだ。

 

 自分の作ったロボットが、英雄レベルの武功を立てたら、自分は有名になるのではないか、と。

 それに気づいた学者は、一心不乱にロボットを作った。そして、一つの作品が完成した。

 

 けれど、その作品はすぐに致命的な弱点が見当たった。

 とてつもなく、バカだったのだ。その作品は。あまりにも英雄を突き詰めすぎて、口を開いたら「悪者はぶっ倒すです」しか、言わない始末。それに、人間の感情なんて、微塵も理解できていなかった。こんなもの、使い物にならない。

 しかも、耐久性に大きな難もあった。英雄という名前を手に入れるには、強い敵から人間を守る必要がある。それなのに、大きな衝撃があれば、木っ端微塵に壊れてしまうときた。

 もう、どうしようもない。

 学者はその失敗作を、仕方なく電源を消して、砂漠に捨てた。

 

 

 ……その致命的なミスのある作品が、まさか雷に打たれて動き出し、「英雄になる」という目的を達成しようとしているなど、つゆにも思わず。

 

 そして、学者はすっかり忘れていた。教令院は、機械生命体を生み出すことを禁止していることを。

 失敗作が捨てられて三日後、学者はマハマトラによって逮捕される。そして、学者が生み出した失敗作の機械人形は、いつのまにか消えていたので、指名手配されたのだった。

 そして、誰もまさか人形がフォンテーヌに行ったなんて、考えもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 フリーナは、ベンチに腰をかけて、大きなため息をついた。今は夜だから、こんなところに来る人もいない。けれど、悩みが口に出ることはなかった。

 ただ、一人で静かに星を眺めていた。

 

「どうしたんですか」

 

 とてとて、と拙い歩き方で、小さな影が近寄ってくる。どうやら、小さな先客がいたらしい。フリーナはぱちぱちと瞬きを繰り返した。

 フリーナがため息をついていたから、心配をかけてしまったのだろうか。フリーナは、「心配することはないさ、僕は水神だからね!」と安心させるように言おうとしたけれど、子供はフリーナの言葉を遮ってこう言った。

 

「何か困ったことがあったら言ってください。私は英雄なので、人を助けます」

「えぇ……」

 

 まさに、ドン引き。

 そんな声が、フリーナの口から意図せず漏れる。目の前の少年か少女か、見分けのつかない子供は槍を堂々と構えて、表情を一切変えずに言った。

 

「悪いやつがいたら言って欲しいです。全員ぶったおすです」

「いや、そ、そもそも! キミは何者なんだい? 僕に名を名乗らないなんて、不敬だぞ!」

「なるほど、名乗り忘れました。英雄失格ですね」

 

 中性的な子供は、姿勢を正した。相変わらず、無表情で目は調理された後の魚のように死んでいる。

 フリーナは、一瞬人形のような子供の姿に怯えて体を震えさせたが、それを表に出さないように、咳払いをした。

 人間相手に人形のようだ、と怯えるのは失礼なことだ。

 

「私は機械製英雄です。名前はないので英雄と呼んでくれて結構ですよ。悪い奴をぶったおすのが私の役目です」

 

 ……前言撤回。目の前の子供は機械だった。

 フリーナは唖然としながら子供を見る。表情以外、人形らしいところは見当たらない。滑らかな肌も、自然な関節も、まるで本物の人間のようだった。

 フリーナが興味深げに見ていたのがわかったのか、子供は自分の手を前に突き出した。

 

「私の手はクールです。とっても」

「クール……? 冷たいってことかい?」

 

 まるで翻訳を失敗したかのような、表現だ。機械らしい、といえばそうかもしれない。

 フリーナは、恐る恐る子供の手を握る。

 確かに、子供の言うとおり、肌はひんやりと冷たかった。ビスクドールのそれに近い。陶器で出来ているのだろう。

 フリーナが子供の肌に触れていると、子供は無表情のまま、フリーナに尋ねてきた。

 

「何かお困りごとでもあるんですか。ため息を吐くのは困ったときだというデータがあります。私は英雄ですからね。あなたの手助けをするです」

「安心してくれ、困っていることなんて、ないさ! ……いや、でもこの子は機械だから、ちょっとくらいならいいのか……?」

 

 フリーナはいつも通りのセリフを口に出したが、果たして機械に気を使う必要はあるのか、と考え直す。

 自称英雄の子供は、無表情でフリーナの目をじっと見つめてくる。……あまりに目が死んでいるから、まるで調理された後の魚を見ているみたいで、ちょっと気まずい。

 

「ちょっと疲れたんだ。いつまでもこの役を演じるのは、疲れるよ……。僕は、いつになったら解放されるんだい?」

「……? よくわからないですが、疲れをぶっ倒せばいいですか?」

「ふふっ、疲れは倒せないよ?」

 

 どうやら、目の前の子供は疲れを倒せるものだと思っているらしい。

 フリーナは、面白くてつい小さく笑ってしまった。子供は、こてんと首を大袈裟なほどに傾げた。

 

「私、わからないです。悪者を倒すのは英雄のはずです。それで、疲れを倒すのは、英雄じゃないんですか?」

「疲れっていうのはね、好きなことをしたり、楽しいことをしたり、休憩したりして、なくなるんだよ」

 

 フリーナがそう説明してあげても、子供は余計に不思議そうに首をかしげる角度を深くするばかりだった。

 

「楽しい? 好きなこと? それって美味しいですか?」

「えぇっ! キミ、そんなことも知らないのかい!?」

「人間の感情は、とっても難しいです。私はよくわからないですが、この顔が楽しいって知ってます」

 

 子供は、口角を無理矢理上げた。

 ……普通だと笑みを浮かべているはずなのに、この笑顔を見ると震えが込み上げてくるのは何故だろうか。目が少しも笑っていないせいか? 

 

「それ、暗黒微笑ってやつじゃないか……?」

「そうですか?」

 

 子供はすん、と無表情に戻った。フリーナは、元の顔に戻ったことに安堵した。

 

「よくわからないので、楽しいをみんなに聞いてみます。あなたの悩みの楽しいが分かったら解決するです。ありがとでした」

 

 子供はフリーナにぺこりとお辞儀をしてから、また拙い歩き方で去っていく。

 まるで嵐のようだったから、フリーナは唖然としたまましばらくフリーズした。そして、頬をそっとつねってみる。……痛い。

 手の中には、まだほんのりと陶器の冷たさも残っている。

 どうやら、現実だったらしい。フリーナは、他人事のようにそう思ったのだった。

 

 

 

 

 そのおかしな機械に出会ってから、数日後。

 フリーナがまた同じ場所で休んでいたら、またその子供は現れた。

 

「お久しぶりです。楽しいが分かったのでここにきました」

「あぁ、そうかい……って、どうしたんだい!? その傷!」

 

 子供は、顔に大きなひびを作っていた。子供は無表情でその傷を撫でる。そして、言った。

 

「一回私を殴ってください。そしたら楽しくなれます」

「……ちょ、ちょっと待ってくれ! 何があったんだい!?」

 

 もしかして、壊れちゃったのだろうか? フリーナは困って子供にペタペタと触れるが、顔以外の傷はないらしい。

 子供はまた不思議そうに、首を大袈裟に傾げた。

 

「大人の人に楽しいを聞いてみたら、私を楽しいが分かる場所に連れて行ってくれました。そしたら、私を殴ってきたです。殴るのが楽しいのか聞いたら、そうって言ってました。殴るって楽しいんですね」

「違う……! それは、楽しいって感情じゃない!」

 

 誘拐されてるじゃないか! フリーナはそう気づいて、頭を抱えた。まさか、自分のせいでこの子供が本当に周りに聞きに行き、連れ去られるなんて思ってもいなかった。

 とりあえず、犯人を特定しなくては、とフリーナは何とか切り替える。

 

「キミを連れて行った人からは、どうやって逃げたんだい?」

「ぶっ殺しました」

「え?」

 

 思ったよりも逞しい言葉が飛び出してきて、フリーナは硬直した。

 子供は首を傾げたまま、無表情で言う。

 

「その場にいた子供が、その人のこと悪い人って言いました。悪い人はぶっ倒すべきです。

 でも、ぶっ倒したら、次は私のことを悪い人って言いました。でも、私は英雄です。悪い人なんかじゃなくて、悪い人は英雄に倒されるべきで、でも私は英雄で……」

 

 首を傾げたままの顔についている目が、ひどく不安定に揺れていることに、フリーナは気づいた。まるで、目の下に入ったヒビが、涙のように見える。

 フリーナは、そっと子供の頭に手を乗せた。そして、不慣れな動作で、優しく撫でる。

 子供は、目だけを上に動かして、フリーナを見上げた。

 

「それは、何ですか?」

「これは、悲しそうにしている時にやるんだよ。そうしたら、疲れが取れる感じ、するだろう?」

「……悲しいとき? 私は今、悲しいんですか?」

 

 子供はこてんとフリーナに撫でられたまま、首をかしげる。フリーナは何といえばいいか迷って、言葉を選んでから言った。

 

「本当の感情って、他人にはわからないものだよ? でも、僕にはキミが悲しそうに見えた。だから、撫でてるのさ! この僕に撫でられること、光栄に思うといい!」

「…………うん」

 

 また敬語が出てくるのかと思ったら、返事は小さい子供のような話し方だった。

 フリーナは、しばらく子供の頭を撫でて、一つの考えが思い浮かんだ。

 機械とはいえ、やはり中身は見た目と違いない。自分の感情を理解できてない、子供だ。

 このまま、放っておくのは危険だと、強く思う。この子供は騙されやすい。今回の誘拐も、誘拐と気づいていないくらいには。

 

「ねぇ、キミさえよければ、僕の護衛にならないかい? キミは強いみたいだし、僕の護衛くらいはできそうだからね! それにこのまま放っておくのも危険だよ」

「護衛……? それは英雄になれますか? なれるなら、やります」

「あー……そ、それは、えっと……」

 

 護衛と英雄……フリーナはうまく結びつかせられず、しばらく考えた。子供はじっとフリーナの返事を待っている。

 

「あ、そ、そうだ! 僕の英雄! 僕の英雄になれるよ! 僕を守ってくれるなら、キミは僕専用の英雄とも言えるだろう!」

「あなたの英雄? あなた専用の英雄? 

 …………うん。いいです! すごく、いいです! とっても、いいです!」

 

 子供はぴょこんと元気よくジャンプして、何度も首を縦に振った。フリーナは、子供が納得してくれたことに安心して、ふぅ、と小さく息を吐いた。

 

 そして、フリーナは子供の機械を、連れて帰ったのだった。




六話完結です。最後まで書き終えているので、毎日投稿します。
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