ポンコツ機械がフリーナの英雄になる話   作:ルヴレ

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今回フリーナは出てきません!


悪い人は倒すのは正しいです、だから私は悪人じゃないです、そうでしょう?

 

 

「……ここは何処ですか」

「ようやく起きたのかい?」

 

 パチリ、とジゼットは人間では考えられない速さで、目を開ける。

 瞬時に、フォンテーヌの自室ではない、と理解して、ジゼットは体を動かそうとした。

 けれど、何かに遮られて、動くことができない。ジゼットは手足の機能を停止させられているのだ、としばらく暴れてから気づいた。今は、頭や目を動かすことしか出来ない。

 そして、頭の機能がようやく忙しなく動き出し、セノにスメールへ連れて行かれたのだ、と思い出す。

 本当は隙を見て逃げ出すつもりだった。フリーナに、帰ってくる、と約束したから。約束を破るのは、英雄らしくない。

 けれど、セノは人間が見せるような隙を、全く見せなかった。そのせいで、普通にスメールシティまで連れて行かれたのである。けれど、そこで記憶が途切れていた。

 

「そういえば、あなたは誰ですか」

「どうして僕が名乗らないとダメなんだい?」

「それもそうですね。無意味に深追いしないのが、英雄です」

「はぁ?」

 

 目の前の人間……? いや、スキャン結果が人形だったの少年は、意味がわからない、と眉を顰めた。たくさんの機械に、少年は繋がれている。何かの改造でも受けているのだろうか? 

 眉を顰めている少年に、ジゼットは大袈裟に首を傾げる。何か不明な点でもあっただろうか。

 

「そういえば、私は処分されますか。だとしたら、なぜまだ意識の維持をしたままなんでしょう?」

「あらら……殺されるのが、怖くなったかい? 君は僕のパーツにされるんだ。つまり、じきに処分されるよ」

「怖い? それっておいしいですか?」

 

 ジゼットは、フリーナから怖いと言う感情は教えてもらっていない。フリーナは、よく怖がっているのだが、自分から怖いと言うことはなかったからである。

 少年は、一瞬イラついた顔をしたが、それから面倒だとばかりに、ため息をついた。

 

「君、馬鹿だね? それもとてつもなく」

「私は試作品のようなものですから。少しデータ残量が足りなくて、全て戦闘面に振られてます。ただ、それだけではダメだったみたいです。

 捨てられましたが、私は目標を達成してます。データが不足しても、問題はないです」

 

 ジゼットは、英雄になるために生まれてきた。そして、その目標は、フリーナに「英雄だ」と言ってもらったことで、達成できているのである。

 ちょっとばかしアホでも特に問題はなかった。けれど、少年が反応を示したのは、その部分ではなかった。

 

「捨てられた」とジゼットは言った。それも、自分と同じような人形が。

 

「君は」

 

 少年は、一度言葉を止めてから、また声を出す。ジゼットは、前よりも少し死んでいない目で、不思議そうに首を傾げた。

 

「捨てられても、何も思わないのかい?」

「思わなかったです」

 

 ジゼットは、無表情で即答した。

 

「ただ、捨てられたのだ、とは思いました。でも、それだけでした。それ以上でも、それ以下でもなかったです。私は感情がほとんどありませんから。

 でも、あなたがそう聞くってことは、同じ人形でも、感情はあるんですね」

 

 少年は黙っている。それは肯定と同じだった。

 

「私、せめてあなたみたいに中身だけでも、人間になれたらよかったです」

「僕を……人間だって? そんなものと同じにするな」

 

 ジゼットは、不快そうな少年に気づいていない。ただ、羨ましそうな目で、じっと見ている。

 ──ジゼットは、フリーナに嫌われている、と思っている。そして、なぜ嫌われているかは、人間じゃないから理解できないのだ、とすっかり思っていた。

 人間だったら、もっとフリーナのことを知れたのかもしれない。もっと、フリーナのことを、知りたかった。……人間になりたかった。

 

 そう、心の底で感じていることに、ジゼットは気づいていない。

 

「なんでですか? 感情を理解できるって、とっても素敵なことです」

「感情? そんなもの、必要ない。君はそのままでいいよ」

 

 吐き捨てるように言った少年に、ジゼットは首を激しく左右に振った。長い金髪が、振り回されてべちゃりと顔に張り付く。けれど、手は動かさないようなので、ジゼットはそのまま話し出した。

 

「でも、私は善悪がわからんのです。それってきっと、感情がわからないからです。自分で善悪の判別くらいできないとダメって、フリーナに言われました」

「へぇ、じゃあ僕は君にとって、いい人に見えているのかい?」

 

 面白そうに、目の前の少年はニヤついた。ジゼットは、うんうんと唸りながら考えて、こくりと首を縦に振った。

 

「いい人だと思います。殴ってくるのが悪い人ってフリーナが言ってました。あなたは殴ってこないので、多分いい人です。人じゃないですが」

 

 ……ジゼットの中では、「殴ってくる」=悪い人である。それか、周りが「あの人は悪い人だ!」と示した相手も、悪い人になる。

 他人に頼った考え方だ。少年は、ジゼットに呆れた。

 

「それなら、ファデュイもいい人に見えているのかい?」

「いえ、ファデュイは悪い人です。もしかしてあなたもファデュイですか? ぶっ倒すです」

 

 逆にすっきりするくらい、意見を反転させた。そもそも、ぶっ倒すなんて言いつつ、ジゼットの手足は機能を停止されている。倒すことなんて、できるわけがない。

 無表情の碧眼と、少年の目がかちりと合う。お互いの目には、殺意はこもっていなかった。

 先に目を逸らしたのは、ジゼットだった。その碧眼を、一度大きく伏せた。長いまつ毛が、目を完全に覆い隠す。

 

「……なんて、言ってみたですが。

 私はファデュイだとしても、もう無意味に殴りかかることはないですよ。善悪はよくわからんですが、人を傷つけると、こころがとってもクールになりますから」

「はっ、偽善者だね」

「いえ、英雄です」

 

 断固として、そこは譲らなかったジゼットは、初めて、軽く挑発的に笑った。陶器でできているはずなのに、その頰はなぜか柔らかそうに見える。

 少年は、偽善者の人形を嘲笑った。どうせ、自分のように──この人形はまともな結末を送れないだろう。

 けれど、ほんの少し興味を抱いた。この人形は、一体どんなふうに絶望していくのか。その偽善の皮が剥がれていくのか。

 

「すぐにパーツにしてやろうと思っていたけど……少しだけ待ってやる。僕をがっかりさせないでくれよ?」

 

 少年は、不穏な笑みを浮かべたのだった。ジゼットは、「悪い顔をしてるな」と珍しく的の得たことを考えた。

 

 

 

 

 

 ──そう、少年は決して、ジゼットと仲良くするつもりはなかったのである。そう、断じて。

 けれど、ジゼットは数週間一緒に居ただけで、たちまちのうちに警戒をすっかり無くしてしまった。それどころか、少年に馴れ馴れしくなった。

 

「スカラマシュ、釣りしたいです」

「君、自分が閉じ込められているって自覚がないのかい? へなちょこだね」

「いえ、私はへなちょこじゃなくて英雄です。あと、閉じ込められてるんですか? それはびっくりです」

 

 手足の機能を停止させられている時点で、気づくべきである。ジゼットは、何週間も経った後に、ようやく閉じ込められてることに気づいたらしい。頭がかなり残念である。

 少年──スカラマシュは、この数週間でジゼットにいつのまにか呼び名を知られた挙句、なぜか自分より人間に近い、と言う謎の理由で尊敬されてしまった。

 

「知ってますか。釣りをすると、こころがぽかぽかほかほか暖かくなります。とても博識でしょう?」

「はぁ? それ、ただ楽しいだけじゃないかい? あと博識は君から最も遠い言葉だと思うけど?」

「……え」

 

 ジゼットは、いろんな意味で固まった。

 

 楽しいって、このほかほかのことだったのか。それに、自分が博識から遠い? それはない。戦闘面だけなら、間違いなく博識である。

 ジゼットは、不満そうにスカラマシュを見上げた。スカラマシュは、創神計画によって、大きな機械に繋がれているので、必然的にかなり見上げる必要があった。

 

「私は、戦闘面の知識は完璧です。片手剣、両手剣、槍、弓……法器以外ならなんでも使用可能です。特に槍は得意です。大マハマトラの技術のコピーですから」

「……ふむ。今、なんと言ったかな」

「──アザールですか」

 

 ジゼットは、無表情で振り向いた。いつのまにか、ジゼットの後ろには大賢者のアザールが立っていた。

 この数週間、アザールも時折ここを訪れていた。が、ここまでジゼットに興味を示したのは初めてだった。

 

「どの部分が聞きたいですか」

「大マハマトラのコピー、と言う点だ」

「あぁ……それですか。確かに私は大マハマトラのコピーの技術を持ってます。ほとんど本物と遜色はないでしょう」

 

 ジゼットはなんの警戒もせず、あっさりと話した。セノがせっかく、利用されないよう、その部分は報告していなかったのに。ジゼットには善悪の区別をつけられない。アザールやスカラマシュが悪い人であることも、当然わかっていない。そして、自分が悪い方向に利用されようとしていることも。

 アザールは、セノのコピーだ、とジゼットが言った途端悪い顔で笑った。目がギラギラと輝いている。

 

「あぁ……そうだ、ジゼット。フリーナ、という人物と仲がよい、と言う認識で合っているかな」

「──? えぇ、そうです。フリーナは、私の英雄で、優しくて、みんなに人気なすごい人ですから」

「なるほど。ありがとう、今日は用事があるから、帰らせて貰おう」

 

 すたすたと去っていくアザールに、ジゼットは不思議そうに首を傾げた。スカラマシュは、ただ背後でニヤリと笑った。

 そんなスカラマシュに気づかず、ジゼットは無表情でスカラマシュに言った。

 

「さっき、釣りに行きたいって言いましたが、いつか一人でもいいので、行った方がいいです」

 

 ただ……そう、きっとジゼットにとっての善意で、ジゼットは言う。その証拠に、ほんの少しだけ、けれど優しい顔で笑っていた。

 

「釣りに行くと、楽しいらしいので。楽しいと、あなたの悲しいも、なくなります。私は悲しいは知らないので、本当かは知らないですが」

「……くだらないね」

 

 スカラマシュは、吐き捨てるように言った。ジゼットは、変なところで鋭い。自分の感情は分かってない癖に、人の感情にはなぜか鋭いのだ。

 

「感情がよく分かってないから、君はそう言えるんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 ジゼットは、暇だった。アザールが最後に訪れてから三日ほど経つ。その間、ジゼットは話したいことをすっかりスカラマシュに、話し尽くしてしまった。

 手も足も動かせないような状況では、何もやることはなかった。

 

「久しぶりだな、ジゼット」

「……アザール。そんなに久しぶりではないような気がします」

 

 ナチュラルにアザールに反論したせいで、アザールはこめかみに一瞬青筋を立てたが、すぐに取り繕った。

 随分と上機嫌だ、とスカラマシュは思ったが、面倒なので口には出さなかった。

 

「手足の機能を、復活させてやろう。少し、二人で話したいことがあるのでね」

「そうですか」

 

 特に、ジゼットが喜ぶような様子もなかった。アザールは、予想内だと内心頷いた。

 アザールが、何か装置のようなものを、操作する。途端に、ジゼットの手足がまた動くようになった。

 ジゼットは、手を開いたり閉じたりして、動作を確認した。しばらく動かしていないが、問題なさそうだった。

 

「ついて来い」

「うん」

 

 幼い返事と歩き方で、ジゼットはアザールの後ろをついて行った。けれど、途中で他の方向へ歩き出す。

 逃げようとしているのか。そう思ったアザールは慌てて機能を停止させようとしたが、ジゼットが向かった先は、出口と真反対の場所だった。

 

 スカラマシュに、拙い歩き方で近づいて、それからじっと見つめた。

 

「あのね、ありがとでした」

 

 ジゼットは、機械に繋がれているスカラマシュに抱きついた。まるで、フリーナにされたときのように。それしか、感謝の伝え方がわからなかったから。

 スカラマシュは、驚きとイラつきで、ピクリと体を動かした。

 けれど、ジゼットはすぐに抱きつくのをやめて、アザールの方へ向かって行った。

 ジゼットとアザールが、スカラマシュのいる部屋から、遠ざかっていく。

 スカラマシュは、ほんの少し残ったジゼットの肌の冷たさに、舌打ちをした。

 

「……くだらない。本当に、くだらない」

 

 

 

 

 

 

 

「さて、ジゼット。大切な話をしてやろう」

「なんでしょう」

「これだ」

 

 アザールは、ジゼットに一枚の写真を見せた。

 

 それを見せた途端、ジゼットの様子が目に見えて変わった。

 基本的に表情を変えない碧眼が、これ以上とないくらい、見開かれる。その目は、ジゼットが焦燥感に満たされていることを明らかにしていた。

 

「フリー……ナ」

 

 フリーナの、死体。写真の内容は、それだけだった。刺し傷が、死因なのだろう。剣が突き刺さっていて、そこから多量に出血していた。

 

「こんなのうそ……です! フリーナは……フリーナは、水神なんです。死ぬわけがない。こんな簡単に死ぬだなんて、そんなこと……」

「モンドの栄誉騎士は知っているか?」

 

 アザールの問いに、ジゼットは頷いた。

 ジゼットの、オリジナルだ。旅人のようになるよう、ジゼットは作られた。栄誉騎士のような英雄を目指して、ジゼットは過ごしている。

 

「彼女の死因は、栄誉騎士だ。フォンテーヌに現れた旅人に、殺されたのだよ。水神は、国民を、騙していたらしい」

「……えいよ……きしが。でも、確かに栄誉騎士なら、きっとフリーナも……殺せてしまう」

 

 間違いなく、おかしな話だった。そもそも旅人はまだ、フォンテーヌに辿り着いてすらいないのだ。けれど、無知で素直なジゼットは全て鵜呑みにして、信じてしまう。

 栄誉騎士は、雷神を倒したのだと、ジゼットがフォンテーヌにいたとき、話題になっていた。それならきっと、フリーナを倒すことも簡単だろう。ジゼットは、きっと本当のことだ、と思ってしまった。

 フリーナを殺して旅人にメリットは……? とかは、全く思いつかない。既にジゼットは、アザールの思い通りになっていた。

 

「……それは、間違い……ないんですか」

「あぁ、もちろんだよ。今まで、私が嘘をついたことはあったか? 

 これからは、好きにするといい。────旅人を殺しても、いいのだよ」

 

 嘘をついたことはない。今以外は、と言う言葉も付け足す必要があるが。と言う言葉を、アザールは飲み込んだ。けれど、ジゼットの瞳が、アザールの望み通りにどんどんとどす黒いものに染まっていく。

 フリーナと最初に出会ったときのような、無表情な瞳ではない。そんなものではない。

 まるで──悪者のような、そんな憎悪に染められていく。本人は、全くの無意識だった。

 

「…………何が、英雄ですか」

 

 口からこぼれ落ちた言葉は、今までにないほどの憎悪と悲しみに染まっていた。

 それは、自分に向けられた言葉でもあり、旅人に向けられた言葉でもあった。フリーナの英雄なんて言ったくせに、フリーナが殺された。ただの役立たずだ、とジゼットは自分にも憎悪を向ける。

 それに、自分が信じて憧れていた旅人に、裏切られたなら、もう英雄が正しいと盲目的に言うこともできない。

 

「何が、栄誉騎士ですか。何が、憧れですか」

 

 怒りのあまり、ピキピキと、せっかく治された割れ目がまたヒビを作っていく。

 誘拐されて、殴られたときにできた、フリーナの護衛になるきっかけとなった傷跡だった。フリーナが呼んだ職人によってきれいに直されたはずのそれは、涙のように目から徐々に割れ目を大きくさせていく。

 

「……私は、私を……栄誉騎士を」

 

 無表情なのに、全身から憎悪が漂うような、そんな立ち方で、ジゼットは立ち上がる。

 

「許さない……許さない、許さない……。絶対に、殺す。殺してやる。

 悪い人は……倒す。それの何が悪い。いや、悪くなんかない。」

 

 まるで、自分を説得させるように、ジゼットはつぶやく。繰り返し、繰り返しまるで覚えるように、許さないと、ジゼットは唱えた。それは今の憎悪や喪失感を忘れないようにするためだった。

 

 守れなかった自分に罰を与えるように、ジゼットは憎悪と悲しみで頭をいっぱいにさせる。フリーナと共に過ごして、微かに感じた良い感情も、全て怒りの感情の渦に呑まれていく。

 

「私が、殺す。殺します。それが、フリーナの英雄として最後にできることです。栄誉騎士は……いや、悪い人は、ぶっ殺す。それがあなたの正義なんでしょう、栄誉騎士。

 それなら自分に返ってきても、文句は言えないはずです。あぁ、それなら私もそうです。じゃあ、栄誉騎士を殺して私も死にます。そうしたらフリーナと会えるかもしれませんね。でも私は機械だから死も何もないですね。フリーナとは会えないです。

 

 ……あぁ、人間になれたらよかったのに」

 

 ペラペラと、一人でぶつぶつとジゼットはつぶやく。最後の一言には、ジゼットがずっと思っていた願望が詰め込まれていた。

 機械とは思えないほどの憎悪と復讐心を抱いたジゼットの前に、何かが落ちてくる。

 青い、宝石のような神の目。皮肉にも、それは水元素だった。

 ジゼットは、それを奪い取るように拾い上げ、強く握りしめる。──神の目とは、必ずしも良い思いを抱いた時にもらえるわけではない。

 強く何かを願ったり、窮地や苦境を乗り越えた時にもらえることが多い。そして、ジゼットが願ったことは、「旅人を、殺すこと」だった。

 

 神の目をもらったジゼットは、無表情で歩き出す。前は感情を知らないから、無表情だった。けれど、今はただ、感情が大きすぎて表情を作り出せないから、無表情になっているだけにすぎない。唯一目だけが冷たく鋭い眼光を放ち、ジゼットの感情を表していた。

 

 正に、自分が「悪い人」のようにしか見えないことに、ジゼットは気づかない。

 ジゼットは、部屋から出て行った。その足取りは、前のように拙く頼りないものではない。

 まるで突然大人になったような、力強いがどこか違和感を与える……歪な歩き方だった。

 

 

 

「憎しみを知らぬものは、自らその感情を制御できない。

 善悪を知らぬものは、目の前の悪にすら気づけない。

 お前は、私の最強の武器になるだろう。

 

 あぁ、馬鹿なことだ。こんな簡単な嘘に引っ掛かるとは」

 

 アザールは、一人になった途端に、蔑むような笑みを浮かべた。きっと旅人には敵わないだろうが、足止めくらいはしてくれることだろう。それで十分だ。きっと、創神計画は、ジゼットのおかげで旅人が現れる前に完成する。

 あの適当に作った写真に騙されてくれるとは、ジゼットは本当に馬鹿らしい。

 

「きっと、三日もあれば、旅人を探し出して立ち向かうことだろう」

 

 ……ただ、アザールも一つ誤算があった。

 

 それは、ジゼットが思っていたよりも、賢かったことだった。

 ジゼットは、旅人に敵わないと、既に予測していた。だからこそ、三日なんかで旅人に立ち向かわない。

 絶対に、確実に、何があっても殺すために。ジゼットは一年以上かけて旅人のデータを分析しようとしているのだが、そんなことをアザールは知るはずもない。

 

 




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