CODE:BREAKER CROSS EVIL   作:メンマ46号

1 / 1
事件CODE:01 賭博黙示録カイジ

 帝愛グループ。それは国内随一と言って良い金融企業である。金融業だけではなく、カジノやホテルなど多角的な経営を行っている巨大企業でもあり、その社員数は1000人を超える。

 

 しかしその実態は途轍もない高利の闇金融。明らかな違法の金利で金融業を行い、その凄まじい暴利からとても返済のできない金額の返金を要求し、債務者が金を払えないのであれば強制労働や臓器売買などこれまた違法な取り立てを行う。最悪の場合の一つとして、逃げ道を失くした上で殺人に発展するようなギャンブル、ゲームに参加させてそれを見世物にして金を稼ぐ。

 

 社員に対しても劣悪な環境や条件を強いるブラック企業。碌な福利厚生もなく、ストレスチェックも意味を成さず、労働組合も本来の意味では機能しない。

 

 彼らの食い物にされた犠牲者は数知れない。厄介な事に警察や政界などの人間を一部掌握しており、自分達の悪事を揉み消して表沙汰にはさせない。正しく法で裁けぬ悪そのもの。

 

 だがそのような法で裁けぬ悪を裁く者達がいた。

 

「あんな暴利で荒稼ぎして、こんだけ豪遊してる上に脱税もめっちゃしてるし、挙句に地下に国作って王サマになりたいって……アンタら本当にお金が好きなんだねぇ……」

 

 この日の夜、帝愛グループのトップに立つ者達は襲撃を受けていた。外部との連絡の一切は遮断され、全ての扉が全く開かず、本社の外に出る事もできない。

 

 ただ閉じ込められたのではない。ここにいる者達を誰一人逃さない為に、退路を絶たれたのだ。自分達がやってきた横暴に対する死の裁きを受けさせる為にやって来た襲撃者……否、執行者に。

 

 先程の呆れたような呟きを口にした金髪の青年に対して帝愛の会長、兵頭和尊のボディガードと思われる黒服が拳銃を構える。だが、その手は、身体は明確に震えており、顔色も悪い。目の前の執行者への恐怖が拭い切れていないからだ。

 

 外見は普通の高校生。外国人のような容貌と金髪。そして左右で色の違う金銀妖眼(ヘテロクロミア)が特徴的な、偏差値70超えの進学校、閉成学院高校の制服を着崩しただけの高校生なのに。

 

 『コード:ブレイカー』コード:04、刻。

 

 異能『磁力』を駆使し、その力で悪を滅殺する事を許された六人の『コード:ブレイカー』の一人、コード:04。それが彼だ。

 

「橋爪サンはアンタらの都合に合わせてくれたみたいだケド、藤原総理はそうはいかないヨ?」

 

 兵頭は歯軋りをして、忌々しそうに刻を睨む。こうならない為にも、あの低脳な政治家に自分が欲しいのに渡したくもない金を出し、地下帝国入りまで認めたのに全てが水の泡だ。

 

「話が違う!橋爪前首相との取引で帝愛には『コード:ブレイカー』が差し向けられる事は無いはずだ!!」

 

 そう叫んだのは名も知らぬ黒服の一人。気まぐれなのか刻は親切にも彼等の後ろ盾となっていた元『エデン』上層部の人間の末路を語る。

 

「橋爪サンにはもうとっくに『エデン』から裁きが下って燃えカスだヨ。……それにしてもそんな裏取引までしてたワケ?どーりで今の今までのうのうとあんな悪事してられたハズだよネ」

 

 拳銃を構える黒服には刻の言葉は届いていない。先程目の当たりにした現象に、それを起こした刻に、恐怖しか感じておらず、助かりたい一心から何度も引き金を引く。

 

「うああああーーっ!!」

 

「……碌に聞いちゃいないカ。まぁいいや」

 

 ヤケクソで撃たれた幾つもの弾丸はその強力な磁力を前に停止され、刻には届かないばかりか斥力によって遥かに速い速度で跳ね返され、直撃どころから貫かれて絶命する。

 

「どっち道、お前ら悪人(ゴミ)に法の裁きじゃ生温いんだヨ」

 

 刻の異能『磁力』は金属類や電子機器の探知や破壊は勿論、その磁力を介して金属類を自在に動かせる。銃器のような飛び道具はまず通用しないし、反発現象で銃弾を送り返されるので撃てば撃つだけ自分に返ってくる。

 

 直接殴って仕留めようとしても磁力そのものか、金属類をぶつけられておしまいだ。

 

 銃器も武力行使も意味を為さない事を理解した兵頭は口を開く。何とかして言い逃れようと長年この世界で陰謀を巡らせてきた頭脳をフル回転させる。一方で刻は何処までも冷めた目だ。兵頭の話に耳を傾けているのも気まぐれでしかない。

 

「儂らを悪を呼び、裁こうと言うが、儂らは金利については包み隠さず全て話しておる…!借りる側はその金利について十分承知の上、借りていっておる…!命を賭けたギャンブルについても同じじゃ……!奴らは皆、納得して金を借り、ギャンブルに参加した……!」

 

「……」

 

「本当の悪人とは約束を守らず、金を返さなかった者達じゃ……!奴らは借りる時は『命に替えても必ず返す』などと宣うくせに、いざ返す段になると、平然と踏み倒してくるのだ……!」

 

「だとしても拉致って地下で強制労働させて良い理由にはならねーし、命懸けのギャンブルが制裁の一環だとしてもそんな事する権利なんかアンタらには無いヨ」

 

 方便はバッサリと切り捨てられる。だがこの程度は予想済み。それが通じるのであれば最初から『コード:ブレイカー』など差し向けられてはいないと兵頭は分かっていた。

 

「人より金持ってんだから、暴利なんかしないでそこで満足してりゃ良かったのに。ま、欲を掻いた結果だから受け入れなヨ?」

 

「確かに儂は金を持っておる……!この中の誰よりも……!」

 

「何?自慢?」

 

「では聞くが金持ちの定義とは何だ……?」

 

 ニヤリと邪悪な笑みを浮かべて兵頭は続ける。

 

「金持ちの最低条件……必須条件とは何か。1億や10億金があろうともその程度では守れぬ。我が命を……!」

 

「……ハァ?」

 

 金持ちの定義から自分の命を守るという話に飛んだ。正直(クズ)の詭弁に興味など無いが、どう足掻くつもりなのかは興味が沸いた。故に刻は手を出さずに続けさせる。

 

「今の状況は上の政治家共に生殺与奪を握られている状況……!今この瞬間など正にそうだ!!」

 

 法で裁けぬ悪を裁く。法の網目を潜り抜けて悪事働く者達に死を与える。それが『コード:ブレイカー』。「法律を破ってないから構わないだろう」と主張する者達を物理的に黙らせる行為でもある。実際にそこまで巧妙にやれている者など数える程度しかいないが。

 だがそれはつまり法を犯さずとも政府に都合の悪い者は問答無用に殺すと言っているに等しい。

 

 その事を言っているのかと思ったが、『コード:ブレイカー』に関する事だけでは兵頭の主張には繋がらない。

 

「だがそれだけではない!奴らが交渉をしくじればあっさりと核が我が頭上で炸裂するだろう……!」

 

「……」

 

 この国はスパイ天国とすら呼ばれる事もある。日本は世界的な観点から見れば様々な規制が緩く、東西からスパイや兵士崩れなどの危険分子が渡り、潜伏するには絶好の国。その数は世界トップクラスと言っても過言ではない。

 そのような連中を始末するのも『存在しない者(コード:ブレイカー)』の仕事の内。だが、それでも全てを一掃出来る訳ではない。表の政治による抉れから戦争に発展すれば裏の存在である『存在しない者(コード:ブレイカー)』ではどうしても手が出せない事態だって起こり得る。勿論そうならないように先に手を回しはするが。

 他国との戦争による核の危険性という兵頭の危惧も強ち的外れでもないだろう。

 

「その為の地下シェルター…!本来ならば国が配備すべき物!!その責任において、全ての国民に配備しなければならぬ物なのだ……!」

 

 実際にそれを配備している国防意識の高い国はある。日本にもそれをしろという主張は強ち間違ってはいない。

 

「なのにくだらぬ公共事業に大金を流し込んで全く懲りない低能ぶり……!誰がどう考えたって橋やダムより命が優先じゃろうが……!その上あろう事かお前達のような人殺しを使う為に金を割く始末……!それら事態に対応できずして何が金持ちじゃ……!」

 

「……言いたい事は分かったケドさぁ、だからって流石にあの地下労働は不味いでショ。てゆーか脱税してる奴が国の責任がどうとか言う資格ねぇし、それ以前に娯楽で人死なせるゲームやってる時点でアウトだけどネ」

 

 成程、戦争や核兵器から身を守る為の地下シェルター。先を見据えている。先見性はある。だが兵頭の言い分は決してその所業を正当化できるようなものではない。

 刻の言う通り、他人の命を玩具にして苦しみ、もがき死ぬ様を大笑いして見ているような連中に己の命を守ろうなんて資格はない。

 

 好き勝手やってきた結果がこうして『エデン』より死の裁きが下る結果に繋がったのだ。自業自得でしかない。聞く価値などなく時間の無駄だったと刻は断じた。

 

「会長サンの話も飽きたし、そろそろ全員沈みなヨ?」

 

 飛ばした鉄が黒服の一人に直撃し、即死させる。次々とこのフロアにある金属を飛ばして黒服達を仕留めていく。抵抗の為に銃を撃った者も先程同様、反発現象で銃弾を跳ね返されて逆に自分が撃たれて死んでいく。

 

「ぐぬ……!」

 

「後はアンタ一人だけだヨ。何か言い残す事はあるならもうちょい聞いてあげるケド」

 

 周りは血の海。幹部達やボディガードは全員殺された。それでも兵頭は自分一人だけは助かる事を諦めない。

 

「……強力なシェルターと私兵を持つ者が最も強者となる。それを成し遂げてこそ、富豪……!金持ちというものだ……!」

 

「その私兵も今俺が沈めちゃったし、ここにいないのも今頃青い炎でみ〜んな燃え散らされちゃってるヨ?勿論シェルターに避難なんてする時間はもう無い。アンタおしまいだヨ」

 

 サッサと裁いて帰ろうと考える刻に対し、兵頭は悍ましい笑みと眼光を向ける。

 

「お前が儂の私兵にならんか?」

 

「……ハァ?」

 

 ここからが兵頭の交渉。正に生きるか死ぬかの大博打。

 

「悪を裁きたいのなら、何も『コード:ブレイカー』である必要はなかろう……!我が帝愛の資金と情報源を持ってすればいくらでも悪人など見つかる……!国の犬として人生を使い潰す事もない……!今の特権が霞む程の報酬もくれてやる……!」

 

 兵頭の狙い……それは金の力で『コード:ブレイカー』という私兵を手に入れる事。もっと言えば政府から『エデン』の指揮権を奪い取る事。後ろ盾にできないのであれば組織そのものを下に付けるしかない。

 

 いや、むしろ初めからこうするべきだった。『エデン』を帝愛のものにできれば日本を牛耳れるも同然。まずは強力な異能者達という戦力を手に入れて『エデン』を相手に武力で戦えるようにしなければならない。

 

 それを成し遂げてこそ、真の金持ち……!!

 

 まずは目の前の死の裁きを下そうとする刻を丸め込み、他の『コード:ブレイカー』達への交渉の場を作らせなければならない。

 兵頭はこの交渉が上手くいくと確信していた。所詮は金や特権の為に化け物の力を振るい、人を殺す連中。帝愛の持つ金と勢力も知っているのであればより好条件を出せば寝返るのは自明の理……!

 

「バッカだなぁ、お前」

 

 そんな兵頭の戯言を刻は鼻で嗤って一蹴した。

 

「お前みたいな悪党、『コード:ブレイカー』だから見つけられるんジャン」

 

 何しろ親方日の丸だからネ…と続けて磁力で止めて手元に残していた銃弾を斥力で飛ばして、兵頭の足を撃ち抜いた。

 

「がああああああぁっ……!!」

 

 兵頭の講釈は最初から博打でも何でもない。そもそも標的(ターゲット)となった悪が『コード:ブレイカー』を相手に交渉などできる訳がなかった。刻は兵頭の立場も資金も罪も何もかもを知った上で兵頭を殺しに来たのだ。兵頭の持つ何もかもが交渉の手札になど最初からなり得なかったのだ。

 

 『コード:ブレイカー』は過去を捨てた者。あらゆる特権を得る代わりに全ての個人データが抹消される。それはどんな理由であれ他者と関わる事ができなくなるという事。それが例え家族であろうとも。

 

 死ぬまで、一生。

 

 それ程の代償を払ってまで成し遂げる目的があり、その為に悪を裁く(人を殺す)。十字架を背負っていく。その覚悟の重さを兵頭は何も理解していなかった。

 

 汚い呻き声が耳に響く。だが足を怪我すればもう逃げ回る事はできない。痛みに悶える兵頭は死の恐怖に染まりながら己の所業を棚に上げて刻を糾弾する。

 

「何が正義じゃ……!お前だって…お前だって所詮人殺しの悪党でしかないわ!!」

 

「違うネ…これは悪を滅する正義。世の中で言う正義のヒーローってのはさ、正義の為なら悪い奴ブッ殺すからそう呼ばれるんだよネ」

 

 身も蓋もない事を言っているが刻の言っている事は真理でもあった。無駄話が長過ぎたと思いながら刻は仕事(バイト)の仕上げに入る。

 

「待て!自首する!儂は心を入れ替えた……!今から警察に言って帝愛グループの全てを話す……!」

 

「それはもう最初に選ばせてあげたでショ?出頭して法に裁かれるか、ここで死ぬか。出頭を拒否したのはアンタの方だ。その決断の道連れでさっきまでいた黒服サン達は死んだんだヨ?それを今更……都合良すぎナイ?」

 

 今更になって法の裁きを受けると宣う兵頭。だがそんな段階はとっくに過ぎているし、この老耄がそんな事を言っても信じる要素など何処にも無い。

 

(クズ)はやっぱり(クズ)だネ」

 

 典型的な自分良ければ全て良しの思考。確か人が痛み、苦しむギャンブルを観る事を楽しみにしているのも自分は痛まず、人が苦しむ様を見るのが好きだから……だったか。だから他者が自分のせいで死のうとも自分だけは何としても生き残ろうと考え、少したりとも彼らについて考えはしない。

 ここまで腐った奴も珍しい。刻は悪を裁く仕事(バイト)としてこの手の悪人と相対する事を割り切ってはいるが、普段片手でスマートに悪を裁く彼としては珍しく嫌悪を隠さない侮蔑の視線を兵頭に向けていた。

 

「世の中には死んで良い奴もいるって言うケド、それってお前の事だよナ」

 

 兵頭に生きられる道などないと告げ、右手を翳す。

 

「さて、そろそろお別れの時間だヨ?大丈夫、アンタ一人で死なせやしない。死ぬのは帝愛のお仲間全員一緒に…ネ」

 

 蹲り、這いつくばって匍匐前進して、逃げ延びようともがく。だが『コード:ブレイカー』は決して悪を逃がさない。生かしてはおかない。

 

「誰か……誰かおらんのかぁー!!利根川……!黒崎……!誰でも良い!儂を助けろ!!こいつを殺せぇーーー!!」

 

 這う這うの状態で錯乱して縋り付く相手はもう死んでいる。そしてここでも兵頭の本質が浮き彫りになる。自首するから命を助けろと言ったそばから刻を殺せと叫ぶ。この男の本心などそんなものだ。

 

 刻の翳した右手から磁力が発せられ、周囲の金属全てが宙に浮かび上がり、這いつくばって逃げようとする兵頭を取り囲む。

 

「目には目を」

 

「歯には歯を」

 

「悪には正義の鉄槌を」

 

 金の亡者の断末魔が、高層ビルの中で大きく響いたが、それを気に留める者はいなかった。

 

 

 

 

 

仕事(バイト)お疲れ様です。刻君」

 

 翌朝、歩道のど真ん中で豪華なお茶会のセットを展開して優雅にお茶を飲む学ランの青年は携帯電話で受けたエージェントからの報告を元に今回のジャッジを下す。長々と標的の無駄話に付き合った点は減点対象だが、仕事自体はキッチリとこなしたと評価する。

 

「さて、()()()の方もジャッジは済みましたが……」

 

 彼は今朝の朝刊の新聞を取り出して、小さく記載された記事に目を通す。『エデン』がどのように後処理をしたのかを確認する為に。

 

『闇金業者・遠藤金融、大火事で会社全焼。従業員全員焼死』

 

「……おや?」

 

 見出しだけ確認したタイミングで彼の視界の端で成人は迎えているであろう男性に二人ほどの警官が話しかけるのを捉える。

 

「伊藤カイジさんですね?」

 

「こちらのお車に見覚えは?」

 

 写真を提示した警官の質問を受けた男性の顔色は真っ青になり、数秒固まった後に脱兎の如く逃げ出し、すぐに警官に取り押さえられた。みっともなく泣きながら暴れるがすぐに応援に来た他の警官の協力の元、パトカーに乗せられて連行されていった。

 

 その様子を見ていた青年は紅茶を飲みながら連行された男性に向けて言葉を紡ぐ。例え彼に届いていなくても。

 

「感謝しなければいけませんよ?貴方にはまだ罪を償う場所がある事に」

 

 そう呟き、何故か青年はそのままSM官能小説の朗読を始めるのだった。




カイジシリーズは沼編までしか詳しく知らないので兵頭会長にコレジャナイ感があったらすいません。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。