無職転生二次小説 「はじめての冒険~グレイラットの子ども達」   作:(店`ω´)@てんちょっぷ

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・これは原作終了直後の2015年4月に発表した作品を加筆修正したものです。

・蛇足編も無い頃ですので、キャラ設定が微妙に違います。


無職転生二次小説 「はじめての冒険」 その1

 

 

 

 

 

「──早く来いよ~! 置いてっちゃうぞ~!」

 

 

 甲高い声が、初夏の野原に響く。

 まだ声変わりも来ていない、幼い少年の声だ。

 少年は大手を振るい、ずんずん街道を歩いていく。

 

 気の強そうな目と眉。手にはそこらで拾った木の枝。

 クセの強い赤い髪を持ち、背中にはその幼さに不似合いな小剣を背負っていた。

 華美な装飾を施されており、見るものが見れば、強力な魔剣であるのが知れただろう。

 

 

 少年の名は、アルス。アルス・グレイラット。

 シャリーアの街に居を構える魔術師、ルーデウス・グレイラットの長男である。

 今年で9歳になるわんぱく坊主だ。

 

 容姿や性格は、母親のエリス譲り。

 年齢の割に体格も大きく、近所でも有名なイタズラ小僧でもある。

 ただし、弱いものイジメはしない。正義感の強い男の子だった。

 

 夢は、母親のように強い剣士になり、世界中を冒険して回る事。

 そして、父親のように強い魔王を倒し、救い出した美少女達と恋に落ちる──。

 

 そんな夢見る少年は、手にした枝を振り回し、上機嫌で緑の野原を闊歩している。

 その目的はひとつ、生まれてはじめての冒険だ。

 

 

「……待ってよぉ、お兄ちゃぁん」

 

 

 後ろの方から、蚊の鳴くような声が聞こえてくる。

 振り向けば、ヨロヨロとした足取りの少年だった。

 

 

 アルスよりも小さく、か細い。ふわふわとした、やわらかい緑色の髪の毛。

 整った美しい顔立ちに、やや長い耳。

 

 

 ──グレイラット家の次男坊、ジークハルト・サラディン・グレイラットである。

 

 

 7歳になる彼は、母親であるシルフィエットの幼い頃に瓜二つだった。

 気の弱いところも、緑色の髪も、なにもかもがよく似ていた。

 今も、ベソ泣きをしつつ、兄のあとを追っている。

 

 ジークは、ちょっと乱暴だが、逞しい腕白坊主の兄・アルスが大好きだった。

 どこへ行くにも、ひよこのように後を付いて回るのが、彼の日課だった。

 

 ──と、思ったら、石に躓いて転んでしまった。

 

 

「きゃんっ! ……うぇーん」

 

 

 転んだ姿勢のまま、泣き出してしまう弟を見て、アルスは大仰に溜息をついた。

 

 

「もう! お前が付いてくるって言ったんだぞ! なに泣いてんだよ!」

 

 

 両手を組み、足は肩幅に開いて、顎をくっと上げた姿勢で、アルスは怒鳴った。

 そのポーズと大声は、母親であるエリス譲りだ。ボレアスの血を引いているのが判る。

 

 だが緑髪の少年は、大好きな兄から怒鳴られると更にメソメソ泣き出してしまう。

 アルスもそれを見て、ヤレヤレと呟く。

 

 

「アルス! そんな言い方ダメでしょ! ジークは年下なんだから!」

 

 

 アルスはその声にギクリとした。

 ジークの後ろから、彼とよく似た容姿の少女が、足早に走って来るのが見えた。

 ベソ泣きをする少年を宥めつつ、茶色の髪の少女は、アルスを睨みつける。

 

 

 ──ルーシー・グレイラット。長女であり、グレイラット姉弟のトップである。

 

 

 もうすぐ13歳になる彼女は、既にラノア国立魔法大学の五年生。

 父ルーデウスと母親シルフィエット譲りの魔術の才能は大学でもトップクラスであり、久々に現れた天才児とまで呼ばれていた。

 

 現在、大学唯一の無詠唱魔術師でもあり、全属性魔術を上級まで修めている。

 治癒魔術や解毒魔術も習得しており、今はすべての魔術を聖級にすべく励んでいる。

 

 体育学科の剣神流剣技においても、優秀な成績で中級上位の認可を受けていた。

 更には生徒会・副会長の役職も担っている。

 文武両道を地で行く超少女なのである。

 

 しかし、生まれた時から、周囲に驚異的な能力を持つ人物に囲まれてきた彼女自身は、まだまだ自分は努力も才能も足りないと思っていた。天才なんておこがましいと。

 

 父親のルーデウスは、三歳にして中級魔術を使えたと巷では言われている。

 母親のシルフィエットも、「無言のフィッツ」の異名をとる、アスラ王宮きっての腕利き魔術師だった。数え切れない暗殺者と渡り合い、幾度もの死線をくぐり抜けた、超実戦派魔術師なのである。

 

 ルーシー本人は、この非凡な父や母に比べれば、自分は凡才であると思い込んでいた。

 ただ、ちょっと人より器用なだけなのだと。

 

 ところがどっこい、である。

 ひとつの魔術系統を、上級まで修めれば優秀とされている大学で、実のところルーシーのこの成績は驚異的なのだ。まして、まだ彼女は13歳。先々を嘱望される逸材だった。

 

 長い大学の歴史でも、彼女に比する成績を残したのは、それほどいない。

 近年でいうと、ほんの数人。

 母・シルフィエットはいうに及ばず。

 父の親友であり、ミリス教団の司祭長であるクリフ・グリモル。

 そして、妹のララ・グレイラットの母親、水王級魔術師ロキシー・グレイラットの三人だ。

 

 クリフ・グリモルは入学当初より、天才の名を欲しいままにした人物である。

 大学で学べるものほぼ全てを、優秀な成績で修了した。

 ただ、同時代にルーデウスが在籍していたので、やや陰に隠れた人物でもある。

 しかし、彼は魔術の才以上に、魔道具を考案・創造する術に長けていた。

 さらに現在でも、「呪いの解術」に関する第一人者である。

 

 ロキシーは魔大陸出身の魔族とはいえ、その魔術の才能は傑出していた。

 在学中に全属性上級魔術を習得、さらに水聖級魔術までをも修めた。

 当時の師であるジーナス・ハルファス(現・魔法大学校長)は「己を超える逸材である」と公言して憚らなかったが、些細な諍いが原因で、袂を分かった。

 後に関係を修復し、彼女は大学の指導教員に採用されている。

 

 現在、ロキシーは同大学の教務主任であり、ゆくゆくはジーナスの後任となるであろうと言われている。

 

 そんな傑出した人物達を見て育ったルーシーは、努力には天井が無いと思っている。

 何かを達成したとしても、上には上がいる。まだまだ足りないと自らを叱咤していた。

 もちろん、彼女自身も気がついてはいないが、努力に見合った成長をしている。

 

 だが、彼女の視線の先には、世界一ともいわれる大魔術師ルーデウスがいた。

 誰に評価されるよりも、あの偉大なる父に褒めて欲しい。認められたい。

 小さな、しかし大事に大事に心に秘めた願いが、彼女を努力の鬼にしたのである。

 

 そして、そんな彼女を一番恐れているのが、上の弟のアルスなのである。

 

 

 アルスは、この優等生な姉を尊敬する一方で、物凄く苦手としていた。

 彼女が何気なく──ルーシーから言わせると、血のにじむような思いで──こなしている事、それは、アルスが一番大嫌いな「努力」なのだ。

 

 学業優秀、容姿端麗、家事万能、性格も良い、とくれば、まさに"完璧超人"。

 真面目で努力家の上に才気溢れる姉は、やりにくい事この上ない存在だった。

 

 

 勿論、アルスが非才な訳ではない。むしろ、天才児と言えなくもない。

 彼も9歳という年齢で、既に剣神流・狂犬派の中級上位認可である。

 

 闘気の完全制御と、無音の太刀が安定して撃てれば、即座に上級認可されるレベルではある。

 ただ、問題がひとつあった。致命的な大きな問題が、である。

 

 

 ──アルスは、飽きっぽい性格だった。

 

 

 彼の師であり、母親であるエリス・グレイラットは、剣神流の王級剣士である。

 世界でも僅か数人しかいない「剣王」の一人なのだ。

 剣士としての強さだけで言えば、世界でも十指に入る実力の持ち主。

 その彼女の口癖が「納得いくまで、剣を振るい続けなさい」だった。

 エリス自身、飽く事なく日々剣を振るい続けているし、いまだ成長を続けている。

 弟子達はそんな師を見て、己が鍛錬の甘さを自覚し、さらに励むのである。

 

 

 ──しかして、その息子は、何事にもムラっ気が強かった。

 

 

 剣を振るえば、同世代どころか、上の世代も相手にならない。

 だが、そこで彼は調子に乗ってしまった。天狗になったのである。

 言いつけられた稽古をサボったり、基礎体力作りを誤魔化したり。

 姉達が毎日実直にやっている事を、彼は要領よく逃げている。

 

 エリス自身はそれに気づいているが、知らない顔である。

 

 

「それでダメになるなら、その程度の子だっただけよ」

 

 

 そう嘯くように言い放つ。

 そして、エリス自身は恐るべき量の鍛錬を、黙々とこなしている。

 彼女が強さに貪欲な理由は、その生い立ちや成長過程にあった。

 強くなければ生き延びられない。それ以上に大切な存在を守護れない。

 そこに気が付かないのであれば、そこまでだと割り切っていた。

 

 父親であるルーデウスは困った顔を一応するが、子供の教育に関しては口を出さない。

 子供に無関心という訳では無い。むしろ誰よりも子供に関わりたい方といえる。

 しかし、どう関わればいいのかが、引き籠りの前世を持つルーデウスにはわからない。

 うっかり余計な口を出して、三人の母親達から怒られることも何度かあった。

 故に、子供達の教育方針に関しては、グレイラット家の女性陣に一任している。

 まぁ、忙し過ぎる身の上というのもあるのだが。

 

 そして、アルスはそんな両親たちの気持ちを知ることもなく、いつも遊び惚けていた。

 

 

 ──要するに、まだアルスは幼いのである。

 

 人の振りを見て、自らを鑑みる事は、まだ出来ないクソガキなのであった。

 

 

「……ちぇっ。ルー姉は、い~っつも怒ってば~っか」

 

 

 赤髪の少年は、口を尖らせ、トボトボと、元来た道を引き返す。

 それから、ベソベソと泣いている弟の頭を乱暴に撫でる。

 

 

「ほら! ……痛いの痛いの、飛んでけー!」

 

 

 おどけるように、手を振ってそう言い放つ。

 

 これは、実のところ、ルーデウスの口癖、おまじないである。

 彼は、自分の子供達が転んで泣き出すと、いつも必ずこう言って慰めていた。

 いつしか、そのおまじないはルーシーや他の子供達にも伝染していた。

 本当は痛くても、こう言われると、なんだか我慢できる気がしてくるのだ。

 

 

「おっし! もう痛くないだろ!」

 

 

 渾身のドヤ顔ボレアス・ポージング。

 ジークはと見れば、スンスンと鼻を鳴らしているが、泣き止みはした。

 

 

「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」

 

 

 鼻は赤いが、ほやっとした顔で微笑むジーク。

 それを見て、うんうんと得意げな顔のアルス。

 

 

(やれやれ……)

 

 

 ルーシーは二人を見て内心ため息をつくが、このやり取りも慣れた日常だった。

 いつも無鉄砲なアルス。それに引っ付いて回ってはぴぃぴぃ泣く気弱なジーク。

 凸凹コンビだが、不思議と気が合っている兄弟なのだ。

 

 

「……はいはい。ねぇジーク、無理しないで、レオに乗せてもらえば?」

 

 

 ジークの服についた砂をポンポンと払い、ルーシーは声をかける。

 擦りむいた膝は、こっそり無詠唱治癒魔術で治しておいた。

 

 姉弟達の最後尾には、巨大な獣とその背に乗る青髪の少女が付いてきていた。

 聖獣レオと、次女であり二番目の姉であるララ・グレイラットが付いて来ていた。

 

 聖獣レオは銀色の体毛をした、牛ほどに大きい犬や狼に似た巨獣だ。

 身体は大きいが、顔立ちが可愛らしいのであまり怖くは無い。

 その背に乗るララは茫洋とした表情であり、眠そうでもある。

 

 

「わふ?」

 

 

 レオはのっそりとジークに近寄ると、ペロリとその頬を舐める。

 

 

「……乗る? って聞いてる」

 

 

 ボソリと呟くように、ララが言う。

 

 ララは、言葉をしゃべれないレオと意思疎通を図ることが出来る。

 それは、彼女にしか出来ない能力。

 ミグルド族特有の念話能力である。

 

 彼女自身は、人族とミグルド族とのハーフであるが、生まれつき念話能力を持っていた。

 赤子の頃からレオや、言葉を失った祖母ゼニスとも思念で会話をしていた。

 それゆえ、言葉を喋る時期が遅れ、今だに恐るべき寡黙な性格である。

 ……単に、コミュニケーションが面倒で怠惰なだけの可能性もあるが。

 

 

 ララは母親譲りの青い髪の持ち主で、それを一本のおさげで纏めている。

 常にアルカイックスマイル。世の中を俯瞰したような表情でいた。

 

 

 アルスは、この姉も苦手としていた。

 イタズラをしたり、鍛錬をサボると、一番上の姉ルーシーは理路整然とした言葉や態度で自分を責めるのだが。

 

 ──ララは、そのすべてを見透かしたかのような半眼で、ただじっと見てくる。

 

 その目で見られると、訳もなくソワソワし、謝りたくなってくるのだ。

 まぁ、素直に謝ると「……よろしい」と言って、撫でてくれるのは好きなのだが。

 

 年齢でいうと、年子に近い10歳。その癖、もっと年上のように思える時がある。

 チラっと小耳に挟んだところ、どうやら彼女は「救世主」とやららしい。

 あまり勉強もしないアルスには、その言葉が何を意味しているかは解らない。

 しかし、解らないなりに、なんとなくこの姉は凄いんだ、という思いがある。

 

 家族同然に育った巨大な犬? と意思疎通をしたり。

 じっと空を見ていたかと思うと、明日の天気をズバリ当ててみたり。

 魔族嫌いの、お空の偉そうな王様から妙に気に入られていたり。

 とにかく、身に纏う雰囲気が普通ではないのが、アルスにも感じられた。

 

 そんな二番目の姉は、外出時は常に銀毛の巨獣レオに跨っている。そこは彼女の特等席だ。

 頼めばレオは嫌がりもせず、兄弟全員をその大きな背に乗せてくれる。

 ララは言うに及ばず、ルーシーもジークもアルスも、更に二人の妹も、全員この聖なる獣の背に乗り、遊び、共に育ったのだ。

 

 ジークは少しだけ、銀色の獣の優しい瞳を見つめる。それから、首を振った。

 

 

「……ううん。自分で歩く」

 

 

 先程までベソ泣きをしていた癖に、意を決したかのようにシャキンと立ち上がる。

 それから「お兄ちゃん、行こう!」とアルスに声をかける。

 その眼差しは、実母のシルフィに生き写しだった。

 

 アルスはそんな弟を見て、強く頷いた。

 

 

「おっしゃ! 疲れたら言えよな! 俺がおんぶしてやるから!」

 

 

 誰が見ても頼もしくなるような顔で、赤い髪の少年は己が胸を叩いた。

 そして、シャリンと鋭い刃音を立てて、背中の魔剣を引き抜く。

 

 

「さぁ! これより、我らルーデウス一家の伝説の幕が開くのだ! いざ行かん!」

 

 

 頭上に掲げられた「魔剣・指折」は陽光を浴びて、黄金色に輝く魔力を迸らせる。

 慌てたように、緑髪の少年は腰に差していた小さな魔杖を真似して天に掲げる。

 

 吟遊詩人が居合わせれば、長く語り継がれるであろう伝説の序章を奏でたであろう光景。

 しかし、それを眺めていたのは、少年達を誰よりも知悉している姉二人と聖獣だけだった。

 

 

「……その剣、赤ママのだよね。無断で持ってきたんだ」

 

 

 ルーシーがやや非難めいた口調で言う。

 

 

「……白ママの大事にしてる魔杖も」

 

 

 レオの背から、ララの眠たげな半眼が降り注ぐ。

 くぅーん、とレオも鼻を鳴らす。

 

 

「ボク、知ーらない。ママ達に怒られても、庇ってあげないからね」

 

 

「……自業自得。わたしも知らない」

 

 

 二人の姉は、白けた声で、異口同音に呟いた。

 

 姉二人にそう指摘を受け、少年二人は呻いた。

 だが、アルスは澄まし顔の長女に向けて指を突きつける。

 

 

「ルー姉だって! その背中の杖はなんだよ!!」

 

 

 ルーシーはきょとんとした顔。

 それから、指摘の意味に気がつく。

 

 

「ああ、コレ? 格好いいでしょ。パパの杖だよ」

 

 

 そう無邪気に言って、背中から長大な魔杖をクルンと取り回す。

 

 

 ──「傲慢なる水竜王(アクアハーティア)」と銘打たれた、強力な魔杖である。

 

 父親のルーデウスが十歳の誕生日に、少女だった母エリスから贈られたものだ。

 長年彼が愛用していたものだったが、最近は研究室の壁に懸下して絶賛放置中。

 ──の、筈だった物である。

 

 

「自分だって! 父様の杖を勝手に持ってきてるじゃないか!」

 

 

 アルスは地団駄を踏みながら、喚き散らした。ジークもコクコクと頷いている。

 赤髪の少年は、怒られるぞ~叱られるぞ~と何度も嘯く。

 しかし、当のルーシーはどこ吹く風。

 

 

「えー、だってこの杖、凄い性能いいし。パパ、全然怒らないし」

 

「ボクが魔術の練習用に借りたって言えば、多分、許してくれると思うし」

 

 

 悪びれもせずそう言ってから、ルーシーは頬をぽりぽり指で掻く。

 

 

「……それより、絶対、ママ達の方が怖いって」

 

 

 そう、姉弟達の父親であるルーデウスは、怒るのが苦手な人だった。

 勿論、悪いことをしたら叱る。だがきちんと謝れば、それ以上責めたりはしない。

 むしろ、三人の母親や、メイドであり二人目の祖母リーリャの方が、追求に容赦がない。

 

 例えば白い母は、正座をさせて、淡々と理詰めで叱ってきたり。

 青い母は、切々と正しい道を説きつつ、その後、課題を大量に出したり。

 赤い母は、怒鳴りながらお尻が真っ赤になるまで引っ叩いてきたり。

 家事万能な二人目の祖母は、ご飯抜きの刑に処してきたりする。

 それでも反省が足りなければ、家の外に放り出されたりもする。

 

 それを思い出したのか、ジークは元から白い顔を、紙のような白さにし。

 アルスはアルスで「ずるい! ずるい!」と半泣きで地団太を踏んでいる。

 長女はそんな弟二人の頭を、勝ち誇ったようにグシャグシャと撫で回していた。

 

 

 ──ところで。

 

 

 そんな三人を、遠巻きに見ていた一人と一頭。

 ララとレオ。

 このコンビは、途中から話に参加しなくなっていた。

 チラチラと、レオは己の背中に乗る幼い主人に視線を向ける。

 ララはその視線に気がついていた……が、無視していた。

 

 

『──あの、ララ様』

 

 

 堪えきれず、レオが念話で語りかける。ララは知らん顔。

 レオは困った顔をして、スンスン鼻を鳴らす。

 

 

『あの、大丈夫でしょうか。我輩たちも──』

 

『……レオ、うるさい』

 

 

 ララは冷たく切り返す。勿論、念話で。

 

 聡明な彼女は、この自分に忠実な守護聖獣が何を言いたいか、理解していた。

 理解した上で──考えないようにしていた。

 

 

『……いい、レオ。何事も無かったように振る舞うの』

 

 

 重ねて言い聞かせる。それは、自分に対して向けた言葉とも言えた。

 

 

『……すべて、万事終わった後で、こっそり元に戻せば良い』

 

 

『そうすれば、最初から何もなかった事になる。つまりは、そういう事……』

 

 

 感情を一切排除した透明な表情で、ララは空の彼方を見ていた。

 その視線の先には──もちろん何も無かった。

 

 

 世界を破滅から救う救世主。

 それを守護する聖なる獣であるレオは、己が主を見て、それからまだ喚いている三人の子ども達を見て。

 

 

『我輩の、晩ご飯が抜かれない事を、切に祈る……』

 

 

 と、一人(一頭?)ごちた……。

 

 

 

 

 

 

 

 ──甲龍歴436年 とある夏の某日。

 

 

 

 

 幼い姉弟達の「はじめての冒険」は、こうして、まだ始まってすらいなかった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

          ーその2につづきますー

 

 

 

 

 

 

 

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