無職転生二次小説 「はじめての冒険~グレイラットの子ども達」 作:(店`ω´)@てんちょっぷ
──我輩は聖獣である。名前はレオ。
世界を破滅から救う、救世主様を守護する為に生まれた存在である。
……ん? 何故そんな事を知っているかだと?
うぬら人族は命令が来ていないのか? 我輩は生まれ落ちし時、命令が来たぞ?
……ふむ。ただの人であるうぬらには、栓のない話であったな。まぁ、よい。
我輩が生まれ落ちた地は、ここより遥か遠く、大森林と呼ばれる場所だ。
字のごとく、まさに大森林。魔物も多く徘徊する危険な地域である。
そこに住まう、ドルディアと呼ばれる獣人族に、我は崇め奉られていた。
蝶よ花よと育まれてはいたが、いかんせん、刺激に乏しい場所だった。
それに、我輩には重大な使命もある。
我輩は焦れていた。一刻も早く、我が宿命の主と出会い、守護せねばと。
そんなある日、どこからか、我輩を呼ぶ声が聞こえた気がした。
──そして、光だ。
気が付けば、七色の光の洪水が我輩を包んでいた。
誰かが、我輩を呼んでいる。必要としている。
我輩はその声に導かれるまま、光の指し示す方に向かって吠えた。
力強き腕に抱き寄せられるように、我輩の意識は光に飲み込まれていった。
──気が付けば、そこは見慣れぬ場所。
周囲には若い女や子どもが、いち に さん
……よん? とにかく、たくさんだ。
しかし、ふと見れば、目の前にボンヤリ佇立する男。
茶色い髪に、人懐っこい顔。目元の泣きボクロ。
──この男には、見覚えがある。……いや、匂いに覚えがあった。
男はやや呆然としつつも、我輩に向けて、いくつか質問をしてきた。
『もしかして、聖獣様ですか?』
『然り!』
挨拶がわりに、男の顔を舐めてやる。うむ、苦しぅない。
男は顔をしかめつつも、更に言葉を重ねる。
『聖獣様、あなたにうちの家族を災厄から守る力、あるんですか?』
『愚問である! 我輩は聖獣。世界を災厄から救う救世主様の守護者なり!』
──我輩の力をもってすれば、なんの人族の五人や十人。守ってみせようぞ。
なんか、さっきから妙に頭の隅っこで変な強制力がビンビンくるが、キニシナイ!
我輩は、寛大であるからな! うむ!
……しかし、この男、まだ我輩を信用していないようだ。
仕方あるまい、我輩はまだ幼獣。完全覚醒はまだまだ先の話なのだ。
だがこの男は結局、我輩の威光に感じ入ったのか、契約をする事と相成った。
そして、我輩に名を付けた。
名を貰ったからには、この男にも忠義を尽くさねばなるまい。
異世界には、命尽きるまで主の帰りを待って、伝説にまでなった聖獣もいるとの事だし。
名前がセブン……? エイト……? 髭ダンディーな主だったらしいな。羨ましい。
そういえば、この召喚者の男には囚われの身を助けて貰った事もあったな。
そこで、我輩は気づいた。この男の纏っていた匂いの元を。
──むぅ、この甘くかぐわしい芳醇な香りは……!?
我輩は周囲を探る。どこだ、この香りの元は……!
そして、我輩を呼ぶ、声にもならない微かな声を聞いた気がした。
我輩はその声の方を向く。
──女だ。杖を持った、青い髪の女がいた。
──違う、この女では無い。だが……。
我輩は女の腰を覆う布の中に鼻を差し入れ、嗅いでみた。スンスンスーン。
──ぬおおおおおおおおお! キタコレ!!
歓喜が総身に走る。
これだ、この香りだ! これこそ我が主の芳香である!
我輩が陶然としていると、頭を杖でポカリと殴られるが、キニシナイ!
我輩の守護すべき存在が、ここにいる! この女の腹の中に!
みれば、周囲にいる存在は、この女の家族であるらしい。
よかろう! ならば、まとめて我輩が守護してしんぜよう!
決意を新たに、我輩は天空に向けて感謝を捧げる。
──この命、尽き果てるとも、救世主様に捧げ尽くそう。
……それから暫くして。
救世主様は、この世に生誕なされた。
その日、世界はかぐわしき芳香に包まれた。
笑顔と、愛によって、この世に生まれたことを言祝がれた。
──我が救世主は「ララ・グレイラット」と命名された。
木枠の中の布団に寝かされたララ様は、目が開くようになると、我輩をじっと見た。
そして『──れお』と、吾輩の名を念じられた。
吾輩の心は誇らしさに包まれた。
思わず遠吠えを上げ、赤い髪の女王様に怖い顔で頭を叩かれた。
少々漏らしてしまったかもしれない。……本当に怖かったのだ。
ララ様はその様子をご覧になられ、初めてお笑いになられた。
そのご尊顔は、まるで天使のようだった……。
*
以来、我輩は片時たりとも救世主様のお側を離れることなく、ずっとお守りしている。
今日も、朝早くから我が背中に乗り、遠出をされている。
目的は、初めての冒険。
弟君のアルス様とジーク様がコソコソとされていたのは、皆気がついていた。
それで姉君のルーシー様と共謀され、後ろから追跡したのだ。
非常に楽しそうな顔のララ様を見るのは、我輩としても喜ばしい。
普段はいつも何かに悩まれているご様子。
臣下としても、主のそのお悩みの深さは計り知れない。
この遠出で、主の機嫌が良くなるのであればと願う。
……あとは、赤い奥様に怒られないように、何事もなく終わってくれれば。
我輩としては、それで満足なのである。
──しかし、目的地とは、一体どこなのであろうか。
追いついてからというもの、さっぱり進展が無い。
陽はまだ頭上にすら達してはいないが、この調子では家に戻る頃には夜であろう。
先頭のアルス様は自信満々の顔をしているが、ジーク様は不安そうである。
ルーシー様は笑顔で景色を楽しまれているご様子。
『ララ様。差し出がましいようですが、我輩が全員を乗せてひとっぱしり……』
念話にて、提言をしてみる。我が主はチラと頭上を見て、首を振る。
『……今は、アルスに任せる』
──あの子は、すぐヘソを曲げるから。
主はそう付け加えた。
確かに、アルス様は気分屋である。ちょっとした事で一喜一憂される。
図に乗った時は、棒っきれを振り回し、我輩やジローを追い掛け回す。
その癖、赤い奥様に叱られると涙目で我輩にぎゅっと抱きついてくる。
我輩としては、幼子のする事だ。主のご家族でもある。涙をペロペロと舐めてやったり、枕替わりになる事くらい造作もない。大奥様からも、アルスをよろしくと念を押されている。
つまり、そこそこではあるが、我が主と比較すると大変使えないお子様なのである。
『……ララ様が、そう仰るのなら』
我輩は、黙って馬になっていればいいのだ。
それから少しして、景色が変わっていく。
野原の街道から、道なき草原に。
木々が目立つようになり、今はもう、すっかり森の中だ。
途中、何度か魔物が出現した。
人族の定めるランクで言えば、最下級程度。
街の近辺は定期的に人の手で掃討されているが、森まで来れば流石に出現するのだろう。
もっとも、大森林に出没する魔物に比べれば、羽虫に等しい存在だ。
最下級とは言っても、魔物は魔物。油断は禁物である。
現れたのは、虫とトカゲの間の子のような、奇怪な生物。
ララ様によれば「甲虫蜥蜴(ビートル・リザード)」という魔物らしい。
大きさは、大人が一抱えする程度。性質は臆病で、雑食性。
放っておけば無害な生物だ。
──ところがである。
ただ歩いている事に飽きていたアルス様が、待ってましたとばかりに持っていた木の枝を「甲虫蜥蜴」に投げつけたのだ。
臆病な性質とはいえ、魔物は魔物。急に攻撃を加えられて、青い目が真っ赤に変色し、クワーッという警戒音を出して身構える。
それを見て、アルス様は腰に佩く「魔剣・指折」をシャラッと抜く。
なんとも見事な手際と言わざるを得ない──悪い意味でも、だ。
ところが、である。
赤い髪の少年が、今にも魔物に駆け出そうとした瞬間。
少年の顔の真横を、恐ろしく疾い何かの塊が通り過ぎ、魔物は爆発四散した。
……ルーシー様の、無詠唱・岩砲弾である。
彼女は、アルス様の無茶を見てとった瞬間、即座に父君譲りの魔術を放ったのだ。
恐らく、弟君の暴走を予想なされていたのだろう。はてさて、賢い少女である。
アルス様は当然、怒っている。魔剣を振り回し、キーキー叫んでいた。
それを理路整然とした言葉でいなす姉君。ジーク様は怯えて硬直中。
──結局、幾度か現れた魔物はルーシー様の魔術で全て蹴散らされ、アルス様は自慢の剣技を試す機会を失った。
更に、悪いことにアルス様は道に迷ってしまった。元々、適当に進んでいたらしい。
ルーシー様よりお小言を頂戴して、涙目の少年剣士。
そこで、我が主が一言「……道なら、わかる」と言うかと思えば、ルーシー様も「ボクも、最近噂のダンジョンなら、先輩達から聞いてたからね」との事。
この姉二人は、弟君の暴走と迷走を予見して、各々で噂を仕入れて確認していたのだ。
ルーシー様は、大学の冒険者志望の先輩たちより。
ララ様は、父君のルーデウス様やザノバ様たちの会話から察せられたとの事。
またここ数年、シャリーア近隣の微量な魔力の変移を感じておられたとか。流石である。
どうやら、シャリーアより少し離れた場所に、新しい「迷宮」が生まれたらしい。
「迷宮」とは、魔物の住処だった洞窟や、放置された建造物に魔力が溜まり、その魔力が結晶化して、命を持った「迷宮」という魔物に生まれ変わる事を言うらしい。
命を持った魔力生命体であるから、成長もするし、知恵もつけてゆく。
年を経れば経る程、階層は深くなり、罠も複雑になる。強い魔物も棲むようになる。
シャリーアで噂に上るその「迷宮」は、まだまだ生まれたてのようだった。
なので、年経た著名な「迷宮」とは違い、階層も浅く、宝物などもありはしない。
また、街より遠く、人の踏み入る地域にある訳でもない。
以上の理由から、魔法大学も、ラノア王国も、定期的に様子を見るだけに留めているようだ。
それを小耳に入れたアルス様が、ジーク様に話して、今回の「冒険」の火付け役となった訳であるが。アルス様自身は噂を聞いただけで舞い上がり、正確な場所までは調べていなかったのである。まったく、無鉄砲にも程があると言いたい。
「……方向は、多分、あっち」
ララ様は、とある方向を指し示す。
「……魔力密度が、少し、違う」
「うん、ララの言うとおりみたいだね。地図にもそっちにマーク付けてあるし」
バサリと地図を広げるルーシー様。大学より借りてきたようだ。魔力を感じる羅針盤を見て、チェックしてもいる。
ララ様は父君のルーデウス様と母君のロキシー様に連れられて、大森林に赴いたり、魔大陸に渡られる事もしばしばであったし。
ルーシー様は、大学でのフィールドワークなどで、シャリーア近辺の森を探索したり、ルード傭兵団の魔物退治に参加したりしている。要は、この二人、旅慣れているのだ。
結局のところ、この姉君二人がいなければ、今日の冒険は頓挫していた訳である。
世間を知らない幼いアルス様は、真っ赤な顔をしつつ唸っていた。
それから、距離的にも、草の深さ的にも、これ以上子供の足では難しいので、我輩の背に全員乗って移動する事になった。
さしものアルス様も、自分の計画性の無さ、森の不気味さに怖気付いたのもあり。
ルーシー様とララ様の提案を、不承不承ながら受け入れた結果である。
我輩は背中に乗る、宝物に等しい存在たちを振り落とさぬよう、それでいて速度を保ちつつ草深い森の中を疾走した。
途中飛びかかってきた低級の魔物はルーシー様の魔術で全て撃墜された。
また、ジーク様も、姉君に促されて、魔術の体験学習として何度か「水弾」や「風壁」の初級魔術を使っていた。流石は世界最強の魔術師の子ども達である。我輩の背中に乗っている安心感もあるのだろう。慣れてくると、遊び感覚で魔術を行使していた。
……アルス様は魔術が苦手なようで、ブスッとした顔をしてそっぽを向いていたが。
ララ様は、生き物を殺す事を忌避されているのか、ご姉弟の様子を見るだけに留めていた。
──それから、少しして。
目的地であった「生まれたての迷宮」にたどり着いた。
陽は、まだ昼前。時間はまだ余裕がある。
中で少し様子を見て、すぐに帰れば夕方になる前には自宅に戻れるだろう。
我々は「迷宮」に入る前に、持ってきたお弁当を食べ、腹ごしらえをする。
これも、ルーシー様がこっそりリーリャ様に頼んでいたモノらしい。
姉弟みんなでピクニックに行くからと。
チラリ、とリーリャ様は我輩を見たが、何も言わず彼女は頷いた。
翌朝、キッチンには、全員分+我輩用のお弁当がこしらえられていた。感謝である。
しっかり食べ。腹がくちくなる頃には、アルス様の機嫌も直っていた。
「──さ~って! それじゃ、「迷宮」の探検、始めますか!」
赤い髪の少年は、さも自分がパーティのリーダーの様に言い放った。
ジーク様が、オドオドしつつも握りこぶしを固めたり。
ルーシー様が「アルス、おしっこは今しておきなよ?」と言ったり。
ララ様は神妙な顔で深呼吸をしている。
──さぁ、「初めての冒険」は、どうなるであろうか。
我輩はこっそり苦笑しつつ、姉弟達の後ろから、ゆっくりとついていった……。
ーその3につづきますー
それでは、また。(店`ω´)ノシ
(-_-;)更新が大変遅くなりました……