チヤホヤされたかった。
呪術師の名家に落ちこぼれとして生まれて、罵倒されて。
いつ死ぬかわからない状況で、何かに満たされたかった。
初めは出来心で、その後は泥沼だった。
でも、ついにパパ活がバレてしまったらしい。
私は、夏油先生に呼び出されていた。
「美穂。今日呼ばれた理由はわかってるね。同級生が心配してる」
私は逆ギレした。綺麗事を言うな、イライラする。綺麗なものの分際で!
「っ夏油先生は良いですよね! 優等生で、優秀で、恋人がいて、完璧な人生を歩んでて! 挫折なんて味わったこともないんでしょ!」
先生は、困ったように笑った。
「君が、私に理想を抱いてくれるのは嬉しいよ。でも、私はそんな立派な人間じゃないよ。誰だって、どこか欠けている。それを見せないようにしてるだけで。違うかな?」
「先生の何処が欠けてるっていうんですか!」
「男運かな?」
私はびっくりするような事を言われて、ちょっと威勢を削がれた。
「お、とこ、運? 先生、そっちの趣味があったんですか?」
「そう、だね。性別は関係ないと思ってるけど、やっぱり包容力は男の人の方が大きいよね。そう受け取ってもらっても良いかな? 私の事はいいんだよ。君が援助交際をしてるのは、寂しいから? 自分を見てほしいから? 素の自分を認めてほしいから? 仮面をかぶるのに疲れちゃった? 全部かな? 気持ちはわかるよ。でも、不特定多数との交際は色々な面でとても危ないんだ。君を心配してる。自分でわかってると思うけど、其の飢えは、その方法じゃあくまでその場凌ぎにしかならない。今のことを続けていても本当の意味で満たされる事はないよ。ま、私みたいに貢ぐよりはマシかもだけどね」
言及されて、そうだよ悪いかよ、あんたに私の気持ちがわかるかよ、と思ったけど。また爆弾発言。
「先生、男に貢いでんの?」
「お金を渡すと喜んでくれるからね。運がいいと抱きしめてくれる」
抱擁一回にいくら払ってるわけ? それでいいの? あろうことか、私の方がたじろいでいた。
「先生はそれで満たされるの?」
「一時的には満たされるよ。そりゃね。君の援助交際と同じ。でも、一時的なものだね。一応、向こうは恋人って言ってくれてるけど、8人目だからね、私」
さらに衝撃的な言葉。
「はちにん。一週間日替わりにしても余るじゃん」
「そうだよ、余り物なんだ、私。だから滅多に会えない。集金の時は別だけど」
「そんなにその人が好きなの?」
私は担がれてるのだろうか。夏油先生はとてもそんなタイプには見えない。
そうだ、嘘に違いない。
「初めは誰でも良かったんだと思う。君と同じで、チヤホヤしてくれる人がいれば」
「だれでも。されてるじゃん、チヤホヤ」
いや、取り合うぐらいの勢いだと思っていたが。誰が1番モテるか? 夏油先生だ。
誰が1番ちやほやされているか? 夏油先生だ。
ストーカー一歩手前を何人生み出したと思ってるんだ、この男。
「そうだね。その時は気づかなかったけど。君も、いい友達を持ってる。今はわからないかもだけど」
そうして、目を細めて何かを懐かしむように笑う。
「本命がいたけど、私なんかとは住んでる世界が違うしね。告白も出来なかったよ。しても迷惑だろうしね。気晴らしのライブで誘われて、そこからもう真っ逆さま。今はその人の事が好きだし、その人はたまにとはいえ私の欲しい物をくれる。だからそれでいいよ。でも、友人やその本命とは、それこそ世界を違えちゃったって言えるほど汚れちゃったけどね。もう二度と触れられもしないっていうか。いや、触れるんだけど、ただ握手するにも罪悪感を感じるようになるっていうか。こんなに汚れてるって知ったら離れてく癖にって、優しくされてもそう思っちゃうっていうか」
私は夏油先生に激しく共感していた。なんで庶民でとはいえエリートと共感できてるのかわけがわからない。いや、なんで夏油先生、そんな惨めな恋愛してんのよ。親友の五条先生がこれ知ったら怒り狂うんじゃない? えっ 親友なんだよね、この2人。
「あの時。勝手な話だけど、堕ちていく私の手を握って引き戻してくれる人がいたら、とも思うんだよ。君の友人は、気づいてくれたんだ。それって、とっても凄いことだよ」
「……夏油先生」
「君は強い。いい友達もいる。きっとまだ、戻れるよ。日陰にいても幸せになれない。そこに住んでる私が保証するよ。ああ、君だから言ったんだ。これは皆には内緒だよ」
そういう夏油先生は、とても儚げで。
「先生。私、日当たりのいい所は干からびそうだし殺菌されちゃいそうで嫌いです。今更そんなとこに穢れた身でいくなんて無理寄りの無理です」
「美穂……」
「でも、夏油先生が心配してくれるなら、援助交際は辞めます。代わりに先生が付き合ってください」
「私は……」
「汚れてるっていうなら、お互い様です。男女は関係なくて、誰もいいなら、私でも良くないですか?」
「でも、私は」
「私も先生に貢ぎます。先生の好きなその八岐大蛇さんに貢げる金額増えますよ? 2番目でも全然いいし」
「私は、その、抱くのは無理だと思うのだけど」
「本当に欲しいのはえっちじゃないって、先生ならわかるでしょ?」
「私は卑怯だよ?」
「私も同じです」
私達は、ぎゅうっと抱き合った。
私はこの日、何故か産まれてから今までずっと比べられ続けた(比べる方が頭おかしいと思う)五条先生にぶっちぎりで勝利した。
「あんたなんか、誰でもいいくせに、なんで先生に手ェ出してんだよ、このビッチ!」
ああ、まあ、揉めるよね。
私は補助監督の女の子に水ぶっかけられて遠い目をするのだった。
死ぬかもわからんね。