……疲れた、体が痛い。終わった瞬間、耐えていた余計な感覚が騒いでいる
もう邪魔にはならないから好きなだけ言わせておくとして、これからどうするか。目の前の問題をただ見つめることしかできない
「あら、攻撃してこないのね」
「前の私達は悪あがきに失敗したからね、どうせ私も失敗するよ」
ラストスペルを切り、私の前に現れた紫。外の世界に送るのはどうせ紫だろうけど、抵抗なんてできないよね
「最後に教えてくれない?なんで私を追い出したがるか。隠してる理由を」
これは勝って吐かせたかったことなんだけどね
質問に対し、紫は少し悩む素振りを見せてこういった
「……まぁいいわ。疑っていたのよ、あなたの事」
疑われること…思いつかないな
「何を?」
「あなたが本当に2人目のあなたと別人なのか、よ」
2人目の私、霊夢に負けた私だね。そして記憶が無くなる前の私
私に記憶が残ってるのか、疑ってるであろう発言はあった。数日前に霊夢に負けた私が怨霊由来の霊力をばら蒔いてるのは故意であるっていう感じで
「それは私しか分からないことじゃないの?疑ってもキリがないと思うけど」
「だから期間を設けて単純な加点、減点方式で判別したのよ。類似点と相違点の比較で」
えっ、こわ……
人伝にしか知らない前の私と似てるかで決められたの?
「言いたいことはいろいろあるけど、結果は?」
「『記憶は無い』という結論になったわ。大きかったのは古明地さとりの発言ね」
さとりの発言…なんか言ってたっけ?
「想起『恐怖催眠術』は相手の記憶にある最も恐怖を覚えた光景を再現するスペル。催眠効果のある光で恐怖を感じたシーンを思い出させ、彼女の能力でそれを読む。仕組みはこれだけよ。あとは彼女の技術で再現するだけ」
そういえばあったね。その時は霊夢が博麗の巫女って言った時の事を思い出したんだっけ
「その時彼女は『目覚める前の記憶は出てこない』と言った。彼女に感謝しておきなさい」
私以外から見て、私に記憶があるのかどうかの判別はつかない。それこそ紫の言ってた加点減点で考えるしかないだろう
そんな中、部分的とはいえ私の記憶を覗いたさとり
もし仮に私に記憶があったとすると、最も恐怖を感じた部分が霊夢が巫女であると知ったシーンなのはおかしい。だって既に霊夢が巫女だと知った上で戦った後なのだから
今まで記憶の有無について両方有り得たのがさとりによって記憶がある事を否定する材料が生まれた
って事なら確かに感謝だね
「……いや、なんで決定的な理由が出ておきながら放置されてたの?昨日の話じゃん」
「期間を設けてたのだから、『都合のいい証拠が出たから結論付けます』っというのは非合理的でしょう?」
「まぁ確かに」
弾幕ごっこをラストにして結論付けたのは、前の私が弾幕しかやらなかったからかな?
「そういえば、結論がそれなら私は幻想郷から出なくてすむんじゃない?」「それはダメよ」「なんで?」
もう理由は解決したと思うけど
「あなたの邪魔な霊力、落としてもらわないと勝手に気質に干渉されては困るわ」
「あー、そもそも霊夢の不調って気質への干渉によるものだったんだ」
怨霊の性質って怖いなぁ
「だから、最低でも3日。外の世界で霊力を落としてもらうわ」
「時間を指定したってことはもしや!」
「当然、3日すれば迎えに行くわよ?」「やったー!」
頑張って戦った意味が無くなったけど幻想郷にいられるぞー!
「って言っても、もともとは旧地獄のなんだからそこで落とすのは?」
「人間判定をくらって地獄から追い出されたのは誰かしら?」
「ぅ……」
じゃあ諦めるかぁ。高望みは良くないよね
「ちなみにあなたが記憶が残っていると結論付けた場合、追い出して放置してたわ。ヒントは残したから自力で戻って来なさいってね」
「……なんだかんだ優しいんだね」
多分再思の道の事かな?自殺しようとした外の世界の人が来る場所らしいし
「あと、これ持っときなさい」「何これ」
紫が渡してきたのは5000と女性が描かれた薄い紙と地名っぽい漢字や数字の羅列が書かれた花札と同じくらいのサイズの折れない紙。本当に何これ
「外の世界の通貨と外の世界で私が拠点にしてる場所のメモよ。住んでる所を聞かれたら出しなさい」
「またしっかり返すね」
5000銭かぁ。50円…大金だなぁ…そんな大金を紙切れ一枚で大丈夫なの?
「お金の方は物価が上がった外の世界なら半日働けば稼げる金額よ。あまり気にしないでいいわ」
「ものすごく助かるよ」
何気に初めてお金を触るな…
「従業人への軽い投資よ、気にしないでちょうだい」
「そういえば私、紫から仕事もらってたね」
一人暮らし始めて生活出来るようになったら始めるつもりだったけど……
「あと、外の世界で気を付ける事ってある?」
私は幻想郷の人里の常識しか知らないからね、外の世界なんか前の私も行ったことないだろうし
「まぁ『飛行を含めた能力を使わない』『値引き交渉をしない』『面倒事に正義感を振りかざさない』くらいかしら?」
「2つ目のについて詳しく」
1は分かる。外の世界には妖怪とかいないらしいし、能力とか認知されてない可能性がある
3も分かる。私だって妖怪に食われてる人間見つけても無視する。助けるとしたら知り合いだった場合か人里に近い場合だろう
まぁ、助けれるような力は無いんだけどね
「単純な理由よ、値引きする文化が無い。それに商人は原価から計算して値段を決めてるから値引きされると困るのよ」
「なるほどね」
逆に言えば人里では利益から計算してるから値引きの文化があるって事かな?
「夕方くらいに大きめの店に行けば食料品に割引のシールが貼られてる事が多いわよ?」
「ほへー」
普通に山菜採ろうと思ってるけどまぁ頭に残しとこう
「それと……」
紫がスキマに手を突っ込んでガサガサしてる
そして取り出してきたのは畳まれた白い装束、魔理沙がくれたヤツだ
「着替えておきなさい、破けてるし血まみれよ」
「破ったの誰だっけ?」
弾幕ごっこしてたら服が破けるのは普通らしいし、そのせいか霊夢とか同じ服大量に持ってたんだよね
「今の状態で着替えても綺麗な方に血が付くだけじゃない?」
「あら?もう怪我は治ってるでしょう?」
「んな馬鹿な……?」
傷口を探してみたが、無い。さっきまで痛みに苦しんでたはずなのに無い
「追魂体質の恩恵よ。魂を追いかけ、魂に適応する。傷ついてない魂に適応すると肉体の傷もなくなるのでしょうね」
「トンデモ理論だねー」
単に『適応』という言葉で表すのが間違ってただけだろうけど
「前のあなたが霊夢のスペルを耐え続けたのも、それによる恩恵も大きかったんじゃないかしら」
「なるほどね」
とりあえず着替える
一回やった経験があるんだから、今回は早めに終わった
「あと、これも羽織っておきなさい。外の世界の人から『日本に来てはしゃいでいる外国人』って思われるから」
紫が出したのは黒い生地に彼岸花が描かれた法被。着てみるとサイズもピッタリだ
「ありがとう」
露出していた肩が覆われ、少し温かい
「私から渡す物は以上よ、行ってきなさい」
「はーい」
私の前にスキマが開く。多分外の世界に繋がっているのだろう
「3日後、楽しみにしてなさい。驚かせるつもりでいるつもりよ」
「バラしちゃっていいの?」
まぁいいか
「んじゃ、行ってきまーす」
そのまままっすぐ進み、スキマへ入る