「それじゃあ話を戻そう。体が汚染される事の危険性は多分理解してくれただろうし」
「はい」
「体が完全汚染された場合、何が起こるか分からない。安定して終わるのかも、記憶と自我が無くなって暴れるのかも、何も分からない。だからこそ完全な汚染を防ぐ対策を考える必要がある」
「そうみたいですね」
『何か起こる』事はほぼ確定していて、それが『良い事』である可能性はほぼない。それなら何も起こさないのが正解だろう
「神霊になるのは前例があるからアリだとは思うんだけど、そんな事出来たら苦労しないしねぇ。菅原道真だって、もともと有名人だった訳だし」
まぁ、よくよく考えればそうだ。菅原道真も死後怨霊として暴れた事によって注意を引き、その後に生前を評価された事によって神霊になってる
実績・知名度・力・時間。全てない状態で私が成し遂げるのは不可能だろう
「何か、対策があるんですか?」
『考える』とは言っていたが、既にある事に期待する
「いやぁー、ないねぇ。多分そのうち確実に勝手に汚染されるだろうねぇ」
「どうすればいいんですか……」
少し間が空く
「とりあえず、他の怨霊とは絶対に関わらないことが1番じゃないかなぁ」
「何も知らない私でも分かるような内容ですね……」
普通に考えて、『毒に侵されてる!まずい!』という状況で『毒の匂いだけなら大丈夫でしょ!』とはならない。例えその毒が飲まないと作用しない毒であってもやらない方がいいのは確実だ
「そういえばどこに向かってるんですか?地獄の入口といえば外の世界の六道の辻ですけど、出口に関しては知らなくて」
「そういえば言ってなかったや、目標は旧地獄。そこから地上の間欠泉センターに出て、あんたは人里を目指してもらうよ」
間欠泉センターから人里までは1人か…怖いな……
「本来の地獄の出入口から案内するのも良かったんだけど、人里からちょっと遠いからねぇ」
「なるほど。わざわざありがとうございます」
それから何十分…いや、何時間と歩き続けた。体の汚染は体感5%程度、このペースだと3日間耐えられるか分からない。神霊になるという甘すぎる期待はもう無くなった
この苦痛が私に対しての罰なのだと思いこみ、怨霊となった自分の本能で幸福感に変わるが、苦痛では無くなる事によってすぐに元に戻る。…いつからこんなMになったのだろうか
そんな鬱々とした気持ちで歩いていると小町さんが腕を私の前に突き出し、歩く私を静止させる
「どうしたんです…ん!」
最後まで言い終わる前にその理由を理解した。20mほど先に大量に霊が集まっている。おそらくは怨霊だろう
「集合霊と化した怨霊さ。幽霊には気質っていう性格みたいな存在があるんだけど、それは周りに影響を与える。明るい性格の人間の中に暗い性格の人間が入ると後者の人間まで明るくなるみたいな感じ」
なんとなく分かる。あの集団から説明の難しい圧を感じるからだ。洗脳というより暗示に近い、十人十色であるはずが同じ真っ黒な色だけを持った集団。私の頭は危険だと言い、私の本能は中に混ざりたがっている
「説明はここまで。気付かれた、早く逃げようか」
小町さんがそう言って走り出す。それを見て私もすぐに追いかける
幸い怨霊達は遅く、距離は開いていく
「避けろ!」
振り向いた小町さんが声を荒らげる
「…っ!」
振り向くと同時に入るふくらはぎへの痛み、視界を写る無数の白色くて小さな弾。それらを認識した直後、私は姿勢を崩して倒れていた。こけるのなんて何年ぶりだろうか
「じゃない!まずい!」
地面を転がって弾を避ける。起き上がると被弾し、転がってるままだと追いつかれる。どうしよ
「頭を上げるな!「霊符『何処にでもいる浮遊霊』」」
青白い霊のような物が弾を吸いながら上を抜けて行く。怨霊の一部は飛ばされたが、もう怨霊は数メートルまで近付いている
前にいた小町さんが居なくなっている
「すぐに立って走って!」
後ろから声が聞こえる。振り返ると小町さんが怨霊の目の前にいる。場所が入れ替わった?
そんな事を考えてる時間はない。小町さんがマズイ
怨霊に取り憑かれた場合、人間なら人間同士を恨むようになるとは知っているが死神がどうなるかは知らない
『何か起こる』事はほぼ確定していて、それが『良い事』である可能性はほぼない。それなら何も起こさないのが正解だろう
状況を変える方法をほんの今さっき聞いた。幽霊の性質について。集合霊が気質を同じ色に染めた集まりなら、その色を一瞬だけでも私色に染める
黒の中に白が一滴でも入った場合その黒は完全な黒から離れ、黒い灰色になる。集合意識を妨害出来るのだ
もちろん怨霊に干渉した私の汚染は進む上にそもそも成功する保証もないのだが、大丈夫だと本能が言っている。都合がいい
「邪魔するね、『動くな』」
汚染が一気に進んでいるであろう気持ち悪い感覚が伝わってきた