(折角、霊 黄泉に触れれたというのにキャパオーバー?ふざけるな)
豊布都はものすごく焦っていた。なぜなら黄泉に取り憑く事が出来なかったから
考えてみれば当然だが、現在黄泉の肉体には無縁塚で回収した分も含めて25万体ほどの怨霊の核が眠っている
そんなの普通の体が収容出来る訳もなく、出来てるのは追魂体質による怨霊の魂への適応があるからだ
なら、神霊である豊布都神はそこに混ざれるのか?
答えは否だ
豊布都は黄泉に肉薄するために残った右足を強化し、脆弱な御仏の体は負傷した
そんな状態で怨霊が処理されなければ強いスペル
その場で防御に徹する以外無かったのだ
(7、8、9、10、11…今!)
魔理沙が黄泉の弾幕を斬っている豊布都に黒い筒を投げる
「また煙幕か!」
自身にそれなりのダメージを与えるきっかけとなった青い煙幕。自分の近くで発生させてはいけないと、剣を持っていない左手で弾こうとする
「……ッ!」
左手に強い痛みが走ったかと思うと、左手と筒を貫通しているかなり大きな針。霊夢のサブウェポンだ
それによって一瞬で広がった煙幕が豊布都の視界を奪う
「時間だ霊夢!」
「分かるってるわよ『無想天生』」
──その瞬間、霊夢がブレた
◇ ◆ ◇
スペルカードルールが何故生まれたのか。一言で表すなら『霊夢が強すぎたから』だ
スペルカードルールが生まれる前、博麗の巫女の役割は妖怪退治(殺傷)
まぁ、霊夢はサボってたようだが……
霊夢の能力である『空を飛ぶ程度の能力』は解釈の拡大だか何だか知らんが、ありとあらゆる物から浮く事が出来る
『浮く』とは要は干渉の拒絶だ。宙を浮くのは重力などの引力からの干渉を拒絶した結果
では、ありとあらゆる物を拒絶するとどうなる?
答えは無敵だ
制限なく無敵になれる博麗の巫女がいる時代で妖怪が異変を起こすには相当の度胸がいるだろう
吸血鬼異変に繋がる話は一旦置いておくとして、スペルカードルールは誰もが対等に戦えるようにするルール
目的の一つは無想天生を弱体化させる事
その結果永遠の無敵がわずか36秒の無敵になった
だがその36秒間は無敵である事は変わらず、スペルカードの原点であるスペルとして未だに最強であろう
◇ ◆ ◇
黄泉の流れ弾を無想天生で誤魔化し、自動で攻撃。そして手動で魔理沙のサポートに動く
「星符『メテオニックシャワー』」
魔理沙は両手を向け、星の渦を発射する
先程ファイナルスパークを当てるために利用したスペルだが、今回は違う
今は黄泉と霊夢がスペルを使っており、すでに2対1。そこに加わってシンプルな物量でゴリ押すのが目的だ
(さすがに厳しいか…)
移動出来ない、煙幕、理不尽な数の弾幕
剣の神の技術でもその条件では厳しいようで、少しずつ被弾していく
無想天生の発動から30秒。受ける体制は完全に崩れ、一発でも多く攻撃を防ごうと躍起になっていた時だった
「『ブレイジングスター』」
マスタースパークを推進力にして加速し、殴る。ただそれだけのスペル
ただその速度は凄まじく、黄泉と霊夢の弾幕から煙幕の中の豊布都の場所を割り出て一直線に進む
(被弾は確実、ならば相打ちに……)
煙の中で高速で突撃する魔理沙を確認した直後に他の弾幕を切るのではなく、魔理沙への攻撃に切り替える
「残念だったな!」
両者がぶつかる瞬間、豊布都は剣で魔理沙を切ろうとしたがそれは叶わなかった
何もない所で止まる剣
「結界か」
それに気付いた瞬間にはもう遅い。ブレイジングスターによる打撃が命中し、剣を落としてしまった
先程の魔理沙の『合わせろ』という発言一つで霊夢のサポート。そして魔理沙もこれを前提に動いていたあたり、信頼を感じる
(次は受けるか流すか……)
武器が無くなってもまだ両手は問題ない。ブレイジングスターの2回目の突撃をどうするか
弾幕を耐えながら構えている内に見えた人影
(受けるしか無さそうだな)
両足が潰れたため受け止める事は出来ないが、ダメージを最低限にしてぶっ飛ばされれば煙幕から逃れる事が出来る
「来い」
気合いを入れて構えたが、魔理沙は横を通り過ぎて行った
(ミスか?…いや違う、やられたのか)
煙幕が原因でよく見えないため確認する事は出来ないが、何が起こったのかは理解出来てしまった
直後。霊夢と黄泉のスペルが同時に時間切れになり、放たれていた弾幕が消える
「降参だ」
最後に響いたのは最強の武神の貴重な言葉だった