「…これってさ……」
「ええ…」
お腹から落ちてそのまま動けない中、二人分の声が聞こえる。片方は博麗の巫女だろう、祭事で聞いた事があるし……
「アリス、だいぶまずくね?ちょっと様子見てくる」
「あ、ちょっと……」
ヒューっと風を切る音が聞こえる。アリスさんの援護ならめちゃくちゃありがたい
「あんた、起きなさい」
体を起こしたいのは山々なんだけどなぁ
「…妖気を感じるし、何かに取り憑かれてるのかしら?」
正解では無いけど、一目見ただけで分かる巫女ってすごい。他人に「察して行動してくれ」とは普段思わないけど、今回に関しては早く祓って欲しい。さっきから入り続けている霊力のせいでいつ汚染が終わるのか分からないのだ。さっきは落ちた衝撃で声が出たが、既に全身が完全に動かない
「この感じ、なんかの幽霊っぽいけど……」
話せないのがもどかしい。「怨霊ですお願いします」と言いたいのに……
「早く来い霊夢!想像よりまずいぞ!」
あ、まずい。これ後回しにされるやつだ
「結界だけ張ってそっち行くわ、『お願い』ってのが祓う事か守る事か分からないし」
終わった…もう汚染は90前半に入っている。博麗の巫女が私の周りに白線を引いてるのが見え、祓われる事は無いのだと分かってしまう
だいたい2分後、行ってしまった……
そのまただいたい5分後、少し体が動くようになってきた。どう考えても遅い…
完全に汚染した後に自由に私の体を動けるようにするためだと思う。それか純粋に慣れてきたか。合ってるのならどっちであろうともう時間が無い
さっき博麗の巫女が張っていた結界を見ると、私の周りを白い線で囲っただけに見える。昔やってた『はいここ私の陣地ー』みたいなヤツを思い出す
いや、あれも物理的な効力がなかろうが境界を作り出す物ではあるし似ているのではなく同じなのかもしれない
「…何か、できる事は無いかな……」
汚染が終わるまでに、あと1つだけでも何か出来ないか。早く考えないと
◇ ◆ ◇
「恋符『マスタースパーク』」
軌道上にいた怨霊全てが破壊されるが、それでも減った様子はない
「加勢助かるわ」
「どうなってんだよこの数」
正面を埋め尽くす数の怨霊。気質に敏感な怨霊である黄泉には感覚で数が分かったが、種族魔法使いのアリスや人間の魔理沙には分からなかった
「悪いけど私、そろそろ魔力切れするわ」
「すぐ霊夢も合流するからちょっと間休んでろよな」
魔法使いは長期戦が苦手だと言われている。魔力切れだけでなく、もともと体の弱い者が多い事も理由の1つだ
普段の弾幕ごっこではスペルカードルールによって中遠距離戦かつ時間制限付きなので気にはならないのだが、スペルカードルールが適応されていない今の状況ではその弱点が明確に浮き出てしまっている
「魔符『スターダストレヴァリエ』」
魔理沙を中心に4つの魔法陣が描かれ、渦を巻くように星型弾を張りながら動き出す
マスタースパークと比べると殲滅力が高いとは言えないが、1人で前線を維持するために広範囲な物にしたのだろう
また同時に通常弾幕のレーザー弾を発射し続け、少しでも処理速度を上げている
「コイツら、反撃してこないでただただ幽霊とは思えん速度で移動してるだけなんだよな……」
大量の怨霊が何も無い空をまっすぐに進む。その最中に怨霊らしき行動は見られない
「これは…異変だな!」
自然現象ではなく妖怪に外部から干渉されているのだと推測し、異変だと認定する
異変を災害やテロではなく、遊戯程度に考えている魔理沙は少し嬉しそうに見える
(怨霊達の向かってる方向は博麗神社だし、狙いは博麗の大結界かさっきの子かどっちかっぽいな、どちらかと言えばさっきの子だけど。それか目標もなく動いてるだけか)
人間に友好的なアリスが異変の主犯の目的であろう場所に避難させる訳無いし、黄泉狙いだろう。と予想したらしい。過程は違っているが結果は合ってる
「恋符『マスタースパーク』」
ミニ八卦炉がある程度冷めたのか、再び発射する。範囲と火力を両立出来るマスタースパークだが、総数が大幅に減っているように感じない
「とりあえずさっきの子は結界で囲ったわ。なんか取り憑かれてそうだったから霊魂の出入りを防ぐタイプのヤツ」
「まぁそれがベストだろうな、コイツら全く攻撃してこないし」
霊夢がお祓い棒から大きめの陰陽玉を作り、怨霊の群れに放り込む。軌道上の怨霊は全て破壊されるが、総量では大差無いように見える
アリスが潰し初めてから約40分。既に半分くらいは居なくなってるのだが、そんな希望を本人達には知る手段が無かった
◇ ◆ ◇
「…この力、私自身には使えないのか……」
自分に能力を使い、動けなくしようとしたが失敗。私自身を人間として認識してるせいだと思うけど、完全に怨霊と化した後はどうなるのやら……
「それなら、覚悟を決めないとね」
私の能力の影響を受けた怨霊を全て破壊する。怨霊にはアリスさんみたいに弾を撃てるのが分かっているし、それを使って同士討ちさせるのだ
汚染が終わった私の事は博麗の巫女に何とかしてもらおう。手駒さえ居なくなれば危険度は下がるだろうしね
「……」
少し、虚しくなってきた
親友を刺しても私が裁かれる事は無かった
自殺までしたのに私は裁かれなかった。親友は人であると言ってやりたかった!
だけど、何も出来なかった。墓参りも、償いも、祓われる事すらも何も出来なかった
妥協に妥協を重ねても何も出来なかったのだ
「ごめんなさい、アリスさん。博麗の巫女。声しか知らない人」
迷惑をかけただけだ。私のせいで
「小町さんも、もっと話したかったしな……」
たった半日。だけど楽しかった
「頑張るね」
覚悟はもう決めたはずだ。なのに、足が震える
覚悟はもう決めたはずだ。だけど、躊躇してしまう
『潰し合って』。心の中でそう呟いた
意識が薄れてくる。今の最後の足掻きで体は汚染され尽くしたのだろう
考えると、死んでから何度か謎に行動力が高くなる瞬間があった。多分私自身の魂が汚染を進めようとしていたのだろう
小町さんに呼ばれた瞬間の反応やら、能力の初使用やら。まぁ、そんな事はどうでもいいか
「さようなら」