Mt.レディ2周目!! 作:Mt.レディ
かつて、世界総人口の8割が何らかの特異体質とった超人社会。
生まれ持った超常的な力、“個性”を悪用する犯罪者・
誰もが空想し憧れるヒーローがかつては存在していた。だが、今は誰もそんなものは信じない。ヒーローは敗北したのだ。
「けど、私は……。諦めない。」
かくて、平和の象徴として秩序を支えた男がいた。彼を讃え、作られた銅像は、既に膝より上は存在しない。いや、銅像だけではない、
しかし、彼女には今でもハッキリとその姿がわかる。
「………………。ただの承認欲求だったんだけどなぁ」
はじまりはキラキラしてる世界に憧れだった。チヤホヤされたい承認欲求がメインだった。それだけだった。自分には本来、今は亡き
「無かったはずなんだけどなぁ」
空を見上げると綺麗な星空が見えた。10年ほど前では街の明かりで見えなかったごく僅かな星も見て取れる。
確かに綺麗だが、それは秩序は崩壊した証拠でもある。
「けど、今度こそは……。」
星空の中にの中にうっすらと黒い渦のようなものが見える。目視では分からないが、それは少しずつ確実に近づいてきている。
かつて恐れられた魔王は
意味もなく世界中を移動しただ破壊の限りを尽くす化身、それが今の彼だ。
小さくため息を吐いて夜の街を歩き出した。
「……… 死柄木がすまない」
彼女は荒廃した街道を歩いていると1人の男がいた。トカゲのような容姿を持つ彼は酷く疲れていた。
「けど、これはあなたの責任でもあるのよ。」
「分かっている。だが…………。俺には……。」
そう言い、泣き崩れた彼にかけられる言葉は彼女には無い。秩序が崩壊したこの世界でヒーローだの
「………。」
「お姉ちゃん。私も連れてって!」
高校生くらいの少女が駆け寄ってきた。しかし、女性は首を横に振る。
「無理よ。ルミリオン。あなたは最後の希望。その"個性"があるから今まで耐えられてきた。」
「けど!もう!みんな居なくなった!!デクさんだって!ミリオさんだって!コータくんも!!……私は!」
そう叫ぶ少女に彼女は頷いた。
この10年で多くのものを失った。魔王に挑んだヒーロー達のほとんどは命を落とし、残されたヒーロー達は数えられるほどだ。
日本はまだマシだ。アメリカは消失し、ユーラシア大陸は半分になった。すでに人類は負けている。
それでも彼女の"個性"は貴重だ。
「………辛いけど、ごめん。耐えて生きて。」
「……っ」
泣きそうな顔で俯く少女を残して彼女は歩き出す。暫く行くと、松葉杖をついたペンギンのような見た目をした男が立っていた。
「先生、来ていたのですか……。」
「先生か、僕はもうそう呼ばれる資格は無いよ。少女を切り分け、ヒーロー達を改造し、殺してきた。僕はもう医者なんかじゃ無い。それでも、殺す相手の最後を見届けるのは僕の責任だ。」
「けど、そのおかげで日本は耐えている。あなたのおかげで、私はヒーローとして戦える。今までの犠牲の為にもこれからもよろしくお願いします。」
女性はコブのように膨らんだ額を指差した。その行為に男は拳を握りしめて頷いた。
「恨みますよヒーロー。」
「ええ、そうして頂戴。」
男を後にして女性は進む。暫くすると何も無い更地に出た。空き地なんて言えるものでは無い、本当に何も無い真っさらな土地が地平線まで続いている。不気味なことに後ろを振り返ると荒れた街があり、ある一線を越えると何も無い真っさらなセメントで固められた土地に変わる。
ここは数年前、"崩壊"が起きた跡地でプロヒーローのセメントスによって整えられた場所だ。
「近づいてきたわね。」
星空に浮かぶ黒い渦を見上げる。先ほどよりも明らかに大きくなっており、渦の中に人がいることが分かるレベルだ。確実にこちらへと近づいてきている。
「さぁ、耐えてよね!私の身体!」
黒い薬を服用する。"個性"因子増強剤、いわば"個性"を強化する違法薬物だ。それを飲み込み、通常より強力となった"個性"を発動させながら、走る。
身体はみるみるうちに巨大化し、100メートルを超える。薬の副作用で全身に痛みが走るが無視して黒い渦を目指し、何も無い土地を駆ける。現在、日本の殆どを占める何も無いセメントの地平線。多くの人、暮らしが崩壊した結果なのに、皮肉にもそんな土地は彼女に取って驚くほど走りやすかった。
本来あり得ない巨体だから出せる速度で駆け抜け、街から十分な距離を離れると、何も無い地面を素手で抉り、地面をの一部を手に取る。そして、それを投げた。
「こっちを!見なさい!」
100メートルを越える巨人による岩石の投擲だ。本来なら必殺の一撃となる威力を誇るが、黒い渦により防がれる。だが、それにより渦の中にいる人影が彼女を認識した。
「ハハ!」
恐怖からか巨人は笑う。
人影、死柄木弔には既に目的も自我もない。特異点を超えた二つの"個性"、
それにより彼の脳と心は耐えられずに壊れてしまった。
その結果、彼は手当たり次第に破壊を繰りかえし、意味も目的もなく移動する存在に成り下がってしまった。突然現れ、ひとしきり暴れた規則性は無く去っていく、まさに災害だ。
「さぁ!来なさい!」
巨人は笑う。
今の人類には死柄木弔を倒す術はない。しかし、地上には街が、地下にはシェルターが存在している。生きている人がいるのだ。彼らを守る為に戦わなければならない。
だから、街に行かないように気を惹き続ける。死柄木弔がこの場から去るまでサンドバッグとなる。それだけが今出来ることである。
「————-っ!」
死柄木弔は大気を蹴り、巨人に向けて加速した。それに対して巨人も拳を振り上げ、力任せに殴りつける。衝突のタイミングで死柄木弔は拳を掌で受けとめた。
ニヤリと死柄木弔は笑う。瞬間、巨人の拳にヒビが入り瞬く間に崩壊し始めた。だが、それも一瞬だ。瞬く間に時間が巻き戻ったかのように身体は元に戻る。
その様子に死柄木弔は驚いたかのように目を見開き静止する。その隙に巨人は反対の手で死柄木弔をはたき落とした。
「………。昨日のことすら覚えられない。人間らしい思考もない、今のあなたは同情はするけど、容赦はしないわ!」
地面に叩きつけられた死柄木をすぐさま踏みつける。骨が砕ける感触を足の裏で感じ、巨人は眉間に皺を寄せる。だが、その程度で勝てる訳がない。
次の瞬間、右足が崩壊した。
「ハハハハハハハハ!」
死柄木の笑い声とともに地面も崩壊し始め、そこから伝播し巨人の肉体全てが崩壊し始める。だが、それを上回るスピードで肉体は巻き戻る。崩壊と巻き戻りが同時に起きる中、巨人は死柄木を右手で掴む。
「跳んでけぇ。」
全力の投擲。
死柄木は崩壊を辞め、上空に浮遊し、巨人を見下ろした。
「………身体が軽くなってきた。」
対して巨人も死柄木を見上げる。
その肉体には傷はなく綺麗なままである。
(……まだ、戦える)
額にあるコブを触る。
これはとある医者により移植された、エリという少女の肉体の一部だ。壊理の"個性"は対象を過去のものへと時間を巻き戻す。それを移植したのだ。
本来、"個性"の移植なんてあり得ない。だが、あのペンギン顔の医者。かつて異形系"個性"の前に立ちはだかった男は不完全ながらもやり遂げた。やり遂げてしまったのだ。
「戦える!」
巨人は死柄木の足止めをする。
彼が飽きて帰るまで戦い続ける。どんなに攻撃を喰らっても巻き戻る。周囲には守るべきものは居ない。ただのサンドバッグだ。
だが、この作戦にも欠点はある。巻き戻りが起きれば傷は治る。しかし、それと同時に肉体は若返ってしまうのだ。
本来、30歳を超えているはずの彼女は攻撃を受けるごとに若返り、すでに20代前半になってしまった。
さらに、巻き戻しの"個性"はエネルギーを貯める必要があり、移植された彼女ではチャージすることができない。エリかは貰った分が切れれば回復は終わる。
時間制限付きなのだ。
数十分、いや、数時間にも及ぶ戦闘。
巨人が殴り、死柄木が崩壊させる。そして、巻き戻る。その繰り返しは続く。
そして、時間制限が切れてしまった。
肉体年齢で言うと12歳まで若返ったタイミングでコブは消失。回復はしなくなる。そして、下半身が崩壊し、残されたのは上半身だけとなった。
「まっ……て」
"個性"が切れて肉体の大きさも元に戻る。少女まで若返った上半身が何も無い大地に倒れ込んだ。そらを見て死柄木は興味を無くしたのか、街の方を目指して移動を開始した。
「……そんな」
負けた。無意味だった。
エンデヴァーも、ホークスも、ミルコも、みんなが残された街を守ってきた。その戦いを間近で見てきた。
なのに、行かせてしまった。ここで行かせたらみんなの頑張りが犠牲が無駄になってしまう。自分は死んでも良い、せめて、街は守らないと。地下にあるシェルターは死守しないと!
腕を伸ばす。だが、力は入らない。
立とうと足を動かす。しかし、そもそも足が無い。
「………え?」
絶望の中、意識が遠のく。
しかし、その最中、1人の少女が現れた。
「ーーー?」
巨人は声を出したつもりだが、出たのはうめき声だけだった。しかし、少女は今にも泣きそうな顔で頷いた。
「Mt.レディさん。ごめんなさい。嫌な予感がしたから……」
少女は語る。
嫌な予感がして勝手に来てしまったこと、その謝罪。
そして、今から起きる最悪な結末を……。
「さっき、死柄木弔とすれ違いました。きっと、あの街は、シェルターはもう……。」
「……」
「けど、まだ、負けてません。Mt.レディさん!あなたは最後のヒーローです!お願いです。こんな結末を変えて下さい!」
少女の額にあるコブはみるみるうちに巨大化していく。
あのコブには膨大なエネルギーが蓄えられていて、そのエネルギーを貯めるには長い時間を要する。それを自分の命と引き換えに無理やり生み出しているのだ。
「……え?」
気がつくと下半身は治っていた。身体を起こして少女に向き直る。瞬間、少女の角が輝き、その光が世界を包んだ。
「エリちゃん!何をしようとしてるの?!」
世界が白く染まっていき、何も見えなくなる。そんな中、少女の声だけが響く。
「ごめん、Mt.レディ。本当ならみんなで行った方が良いんだけど、1人しかダメみたい。…………世界をお願い。」
そして、何も見えなく、感じなくなった。
◆
まず初めに彼女は冷たい感触を覚えた。それが地面だと気がつくと急速に意識が浮上する。
「ここは?」
目を開いて身体を起こす。そこはどこかのオフィスのようだった。しかし、あるものはデスクと電話などの最低限のものだけだ。周囲を見渡すとどこか見覚えがあった。
(死柄木と戦って……。それからエリちゃんが……。)
今の状況を落ち着いて整理をしつつ立ち上がる。身長はかなり縮んでおり体型も幼い。およそ12歳はどまで若返ったままだ。そして額を触るがすでに全て使い切ってしまったためコブは無くなっている。
「この服は……。」
今着ている服はヒーローコスチュームでは無く、タイトスカートタイプのリクルートスーツである。しかし、サイズはあっておらずブカブカである。そして、スーツをまじまじと見てようやく気がついた。
「まさか……!」
オフィスの窓に駆け寄り開ける。そこには平穏な街並みが広がっていた。壊れていない街、行き交う人々、当たり前の日常が広がっている。
そして、スーツのポケットからスマホを取り出して今日の日付を確認する。
(間違いない。今日は事務所を借りた日で、ここは私の事務所だ!)
思い出深い、自分の事務所を借りた日。正確には事務所を借りて、そこに最低限のオフィス用品を運び入れた日である。これから事務員等を探して、活動に関して色々な書類を申請したりとヒーローの裏側の仕事が本格的に始まるのだが、
あり得ない考えが浮かぶ。たが、超常社会を超え特異点を迎えた者たちを見てきた彼女は否定できない。それどころか確信があった。
「………エリちゃんが、時間を