えんじょいマスター腐れ風味   作:桂剥き

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すれ違いホラ

 □ アルター王国 とある洞窟

 

 「あ?」

 

 鉈を振り下ろす直前、暗く乾いた洞窟に一陣の風が吹き込んだ。  

 その風は、天井に吊った魔法式のランプを巻き込んで奥へと流れ、風についていけなかったランプは、ガキが全力出したブランコみてえに揺れる。

 

 「おい、手元見えねえじゃねぇか」

 

 俺の手元と、鉈を向けてた獲物を乗せた解体台を照らしていた光は今や、真っ暗と一瞬の輝きを繰り返す有様。

 しっかり見えなきゃ解体なんてやってられねぇってんで、俺は持ってた鉈の峰を肩に乗せ、ぶっ通しでやってた作業の手を止めた。

 

 「ったくよぉー、まぁ、休憩ってのも悪くねぇかー」

 

 明滅する洞窟のなか、手探りで作業台の近くから適当に取ったぼろ布で、返り血対策に被ってた愛用の面やら、着てるローブやらを適当にゴシゴシと拭うと、たちまちの内に、血と臓物でグロいマーブル模様に染まった。

 

 興が乗ったとはいえ連続で三体も解体し続けりゃこうもなる。

 布を変えて今度は鉈の手入れを始めつつ、光が落ち着くのを待つ。

 

 「しっかし、なんで風なんて吹いて来たんだぁ? 封鎖してんだぞ?」

 

 ふらり自由な一人旅の途中、俺はちょっとしたことで数々の獲物を手に入れた。

 その獲物の利用に幅を持たせたかった俺は、親切な人から教えてもらったそこそこの広さの洞窟で、誰にも邪魔されずに解体作業に励むべく、入り口を塞いでいたんだが、どうにもそれを壊されたみてぇだ。

 

 急ごしらえの仮拠点だからって、防衛装置も見張りも護衛も置かなかったのは失敗だった。

 そのせいでデカいモンスターでも来やがったか……もしくはこの近くでマスターが魔法でもぶっ放したか。

 迷惑なこったと呟いて頭を軽く掻いた。

 

 「あー、ってか来るか?こっちに?」

  

 入口からは距離がある。

 とはいえ、こっちに来ねぇとも限らねぇなら様子でも見に行くべきかぁと、顔を入口の方へ向けたその時。

 

 ガッチャガッチャと金属同士が細かくぶつかる音と、荒れた洞窟の足場を蹴立てて進む足音が入口の方からいくつも俺のいる方へ響いて来た。

 

 金属音ってかこれは鎧の音か。

 鎧を着るモンスターってのは居ないでもねぇが、ここまで音がするってんなら兜まで被った全身鎧。

 ゴブリンとかのあるもんを適当に拾うようなモンスターじゃ、サイズだのなんだの合わねぇだろうし、ティアン上がりの鎧着たアンデットも、この辺の環境的に出るような怨念溜まりも曰く付きの戦場もねぇとそういうもんの専門家な俺には分かる。

 つまりは大変面倒なことに、ティアンかマスターってこったろう。

 その予想の答え合わせは、すぐに来た。

 

 「頼もう!! 我らアルター王国所属!【へぶん騎士団】!」

 「私たちはここ最近多発しているティアン失踪被害について調査しているわ!」

 

 ぴっかぴっかに磨かれた白い全身鎧を纏ったやつらが6人位。

 手甲のせいで紋章が見えねえ。

 だが、筆に似た剣を持ってるやつが居たり、羽の生えた人形が近くを飛んでる上に、こっちのティアンが付けそうにねぇクラン名を堂々名乗るんならまあマスターって事でいいだろ。 

 

 しっかし、作業終わってねえのにだるいのが来たな……。

 なんか面倒くさそうな匂いがしやがる。  

 

 「お前はそこで、何をしている!」

 

 【へぶん騎士団】とやらの一人が、うるさい声を出して喚く。

 興奮してるとはいえ、武器の先を俺に向けんのはどうかと思うが逆らってもまた面倒くさそうだ。

 

 「見えねえ? 解体やってんの解体ー」

 

 未だ赤黒さが残る鉈を向けてやった先で、揺れが幾分かマシになったランプの光が、作業台の上で解体を待つそれを照らし出す。

 

 「っ!??」

 

 それを目の当たりにした騎士団のやつらが、何故だかしらねぇが息を飲でフリーズした。

 

 ? 自分で聞いといて変な反応しやがるな?

 首を傾げながら、俺は言葉を続けた。

 

 「鮮度がいいうちにバラしとこうと思ってんの、なんか聞きたいことあったら答えっからとっとと聞いてくれん?」

 「お……オマエ!!それが何か分かって言ってるのか!?」

 「? あったりまえじゃん?」

 

 なにもかも説明してやった上に、何でも答えると言ってやった。

 それなのに騎士団のやつらの反応がおかしい。

 カタカタと細かく鎧が震えるちっせぇ音を立てながら、各々が携えた武器を構えてこちらに突き付けて来た。

 

 どいつもこいつも兜のヘルムを降ろしてるせいで表情見えねー。

 けど、声震えてるから怒ってるっぽい。

 

 あれま……なんでだ? ……だってこれ。

 

 「ティアンの死体だぞそれは!!」

 

 どいつが出したのか走らねぇが、これまででいっちばんでかい怒鳴り声が洞窟中に響き渡った。

 

 うんまぁええと……

 

 

 「それが?」

 

 

 思わずポロっと口から疑問が零れる。

 何せ、俺的にはそれしか言えなかったからだ。

 

 アイテム化しない死体だからこそ、とっとと分けないといけないんだが……

 

 なんて思ってたらようやくランプの揺れが収まり、死体と俺の手元がきれいに照らし出された。

 

 話の続きは解体しながらでもいいだろと、騎士団の奴らに向けていた目を死体に向け直し、鉈を手に持ち直して使いたい部位を見ていく。

 

 肩口から腰へ一文字に走ったでっかい致命の傷から中身の肉と臓物が覗いてる。

 とりあえずモツ抜いて保存したい。

 生気を失って白っぽい眼も取り出して使いたい。

 引き出したわけでもないのにでろんと口からはみ出ててる舌も、まあなんかに使えるだろう。

 

 「おっと」

 

 なんて考えてたらなんか《危険察知》に反応。

 その場から一歩飛びのいたら、俺の頭があった場所を騎士の剣が通り過ぎた所だった。

 

 おい、いきなりなんで攻撃してきてんの? コワっ。

 

 飛びのいた先で鉈の峰で肩をトントンと叩きながら首を傾げてる俺に、あいつらの剣やら槍が薄い光の軌跡を描いて殺到する。

 

 すわ【聖騎士】かと《看破》で見た所大体がまだ下級職の【騎士】とか【司祭】なもんで《聖別の銀光》ではないことにホッとした。

 

 俺【聖騎士】天敵なのよね…… 

 

 「質問もなしで切りかかるとかマナー悪くない?! 聞きたいことあったら答えるって言ってんじゃん!!?」

 「ふざけた態度を!!ティアンに手を出した時点でお前は犯罪者として扱う、拘束されるかデスペナされるか選べ!!」

 

 手ぇ出したって……

 

 「あ、出してるわ」

 

 まあこいつら殺したのは俺だもんな。

 手は出してる。 

 

 「この! どこまでもふざけやがって! 《黒筆一閃》!」

 「力を見せてもらう! 《あなたはだあれ?》」

 

 騎士の野郎が振った剣から黒いインク……いや墨が大量に飛んで俺の視界を塞いだその時、あいつらの一人が連れてた天使から矢が飛んだ。

 辛くも体を掠める程度で済んだが、その矢は巻き戻しのように射ったやつの手元に戻っていく。

 完全に手元に矢が戻ったその時、あいつら一人一人の前にハート型のウィンドウが出現して、それを見た奴らの動きが一瞬止まった。

 

 「【大死霊】しかも合計レベル500……カンスト勢か!」

 「あれま、お面の《隠蔽》抜かれたか」

 

 結構高位の《隠蔽》スキルとレベル差もあったのに、俺のメインジョブがバレた。

 力を見せてもらうとか言ってたから攻撃を当てる事が条件の看破強化スキルかなんかだったんだろうか?

 

 「なら総員!《アンデット切り》!」

 「《聖なる御業》」

 

 俺の種族を把握した途端、エンブリオの能力かなんかで各々が輝くオーラを纏った騎士どもが、俺へと種族特効攻撃を繰り出してくる。 

 

 面倒、面倒、面倒。

 

 特に敵対する気もなかったし、レベル差あるから適当に相手してから話そうかと思ってたけどもう面倒くせー。  

 これ以上暴れて死体が傷ついても嫌なんで、奴らには出てってもらおう。

 

 ってことで。

 

 俺はエンブリオを展開した。

 ただでさえ暗い洞窟の地面が、俺の展開したエンブリオで黒一色に染まる。

 

 「《奈落(ダウンロード)》」

 「死体が!?」

 

 固有スキルの宣言と同時に、ティアンの死体がずるりと解体台から落ちると、そのまま地面一杯に広がった俺のテリトリーの中に吸い込まれて消えた。

 

 傷付くのやだったから先に仕舞わなきゃな。んで。

 

  「《奈落(アップロード)》《ネクロオーラ》」

  

 道幅いっぱいの体格を持つ何かが、突撃してくる奴らを遮る形で足元から出現する。

 突如現れたそれに臆さず騎士の奴らは武器を一閃させるも、奴らの武器はそれに食い込んで光と勢いを失った。

 

 肉の壁に見えるそれには九つの頭が並んでおり、20対を超える足がその壁を支えている。

 

 横並びにした体格のいい男の遺体を肩を組ませた上で腕と胴体を縫い合わせて一塊とし、さらに背にあたる部分にも足を追加して、抜群の安定感を持たせた特別性。

 

 屈強な9人分の死体と他から持ってきた足を繋げて作ったそのアンデッドを、俺はラグビーで見た押し合いの様子から【スクラムナイン】と名を付けた。

 

 デカくてタフ、しかもこういう微妙に狭い洞窟だと良い壁になってくれる使える奴。

 そいつにバフをちょいとかけて。

 

 「いっけー」

 「おわぁ!!」

 「ちょっと! きゃぁっ!!」

 

 突撃させるとあら不思議。

 【スクラムナイン】は体に刺さる騎士の剣なんて物ともせずに連中6人全員を押し込むと、その圧力と推進力に負けた奴らは吹っ飛ばされて地面に転がった。

 

 相手がカンストとかだったらあっさりやられてるだろうが所詮相手は下級職。

 レベルが足りんわ、レベルが。

 

 きれーだった鎧をキズまみれにしながら、連中が【スクラムナイン】にゴロンゴロンと転がされていく。

 その後をわざとゆっくり歩いて追っていくうちに洞窟の入口へとたどり着いた。

 

 入口から先はちょっとした傾斜になってて、その下は開けた平地があった筈だ。

 そこら辺まで転がしとけばいいか。

 

 「あー!!こんにゃろーどもー、入り口に置いといた壁壊れてんじゃねぇか、べんしょーしろー」

 

 入口に着くと同時に【スクラムナイン】渾身の体当たりで外へ吹っ飛んでいった奴らの周りに無数の骨が散らばっている。

 

 侵入避けに色んな骨混ぜて作ったバリケードと扉置いといたのに、こいつら壊して中に入りやがったな?

 

 「この……っ!!」

 「いい加減にしなさいっ……!!」

 

 顔も鎧も土まみれになりながらも、騎士たちが武器を支えに立ち上がり、こちらを睨む。

 

 遊ばれてることもわかってないのかね?

 それとも分かってて起き上がって来てんのか。

 

 入口で停止している【スクラムナイン】を再起動させて俺の隣に移動させ、ついでにあいつらの足元に転がってる骨の中に仕込んどいた骨のアンデッドたちを《ウェイクアップ・アンデッド》で起動し、奴らを囲う。

 

 まあ相性悪いけど、こんだけレベル差あるなら数で攻めてりゃ全滅させられる筈。

 とりあえずこいつら無礼すぎるからデスペナさせようと全軍一斉攻撃の指示を出そうとしたその瞬間。

 

 飛び込んで来た十字の光が俺の目を灼いた。

 

 さっきの六人とは比較にならんデカさの光を纏った十字架が、手裏剣みてえに回転しながら骨たちの頭を砕いて光の塵にしていく。

 

 「あ?」

 「この攻撃は!!」

 

 骨たちを全滅させた十字架がその勢いのままこちらへと向かってくるのを見て、思わず【スクラムナイン】の後ろへと飛んだ。

 

 【スクラムナイン】なら何とか……

 

 そんな俺の浅い考えは、その肉を莫大な光と共に貫いた十字架を見て霧散する。

 

 「……くっそがぁ!」 

 

 だが【スクラムナイン】の肉の厚みは、十字架の速度を弱める助けにはなったみてえで、光を見たその時に飛びのいた俺のローブ前面を掠める結果に終わった十字架が元来たとこへ飛んでいく。

 

 「あっぶねえなぁ!」

 

 俺の傷は浅く済んだがHPはそれでも三割を失った。

 【スクラムナイン】は……と目をやるとその広い体が地面にぶっ倒れている。

 脚はもうピクリとも動いてねぇし、貫通したデケエ傷口から煙を上げて体が崩れ始めてやがる。

 

 治らない傷に手を当てながら、十字架が戻って行った先を睨んだ。

 

 六人がいる平地に上がってくる道の途中。

 そこに、戻ってきた十字架をその手に掴む、でっけぇ鎧の騎士がいた。

 

 凝った鳥の意匠が彫り込まれ黄金に輝くその鎧は、さっきのやつらと比べるのがあほらしいほどの存在感。

 《鑑定》してねぇけど分かる。

 高けぇんだろうし、バカみてぇに性能も良いんだろう。

 

 んなもんが下級職のステータスで着られるわけがねぇ。

 

 「【聖騎士】かよぉ……」

 「団長!!」

 

 《看破》で見破れた、ってか隠してねえんだろうそいつのジョブ名に俺は歯噛みした。

 

 よりにもよって天敵様のお出ましとは……面倒だなぁ!! 

 

 「攻撃して済まないが、話を聞きたい」

 

 十字架を再度投擲できる構えをとりつつ、黄金鎧の騎士が鎧とおんなじくらい重そうな低音のイイ声をこっちにかけてきた。 

 

 鎧のせいでツラは見えねえけど鎧と十字架から立ち昇ってるオーラでわかるぞ!

 何か下手な事言ったら俺の命獲る気だろ!!

 

 ふざけんなー!!

 

 「聞きたいことがあったら答えるって何回も言ってるって―の!! こいつらが聞かねーだけだっつーの!!!」

 

 黄金鎧に怒鳴る。

 

 「俺はそいつらが襲ってきたから追い出しただけだし、拠点のバリケード壊された上に攻撃止めねえからデスペナさせようとしただけだー!!」

 

 黄金鎧の動きが止まった。

 構えはそのまま、鎧の首を六人に向けて本当なのかと言いたげに首を傾げる。

 

 「入口にティアンの死体を使ったと思しきバリケードを作ってました!!」

 「洞窟内でこいつが殺したティアンの死体も確認済みです!!」

 「殺害の自供もありました!! 《真偽判定》済みです!!」

 

 団長様へあいつらは口々に見ただろう事を報告する。

 

 うん、間違ってはねえな。

 

 それには頷く。

 

 「団長! きっとこいつがティアン誘拐事件の犯人です!!」

 

 は?

 

 「なにそれ?」

 

 思わず言ってしまった。

 いやまあしょうがねえだろう、んなことやってねえんだから。

 

 「こいつ!! シラを切る気か!!」

 

 なんか騎士がヒートアップしてる。

 そんな騎士の様子とは裏腹に、黄金鎧は構えを解いて腕を組むと十字架をヘルムのアゴへ当てて考える姿勢をとった。

 

 「うむ……? 何かすれ違いがあるようだな……」

 

 重々しく言った団長様の言葉に騎士たちがおろおろしてやがる。

 

 え……話せる奴だった? 惚れそう。

 

 「ついては少し話を聞きたいのだがな……村人殿」

 

 黄金鎧が首を少し後ろへ向けると、そのでっかい図体の後ろから一人の女が現れた。

 手の甲に何も無いってことはティアンか……ん? あれこいつどっかで……あ!

 

 「なんかさらわれかけてたおじょーさんじゃーん!!元気―!?」

 

 解体しようとしてた死体の元である、居合わせた俺を殺そうとしてきたクソティアン。      

 そいつに誘拐されかけてたおじょーさんにご挨拶したらなんか空気が凍った。

 

 六人の騎士がなんか完全に動き止めてやがるし。

 女の方もなんかおずおず頭下げてるし。

 

 何がなんだか分かんなくて首を傾げる俺を見て、黄金鎧の男がでっかいため息をついていた。

 

 なんなの……?

 




 Q何があったの?
 Aすれ違いました。主人公がアレだったせいです。

 【大死霊】のマスター
 ・主役。
 ・デンドロエンジョイ勢の遊戯派。
 ・言動は素。
 ・死体の扱いが軽いのはティアンの死体をモンスター素材とかと同率に考えてるから。
 ・エンブリオは死体の収納(アンデッド含む)

 【へぶん騎士団】
 ・六人は新人、金鎧の人はその上司。
 ・ティアン誘拐事件を調査しようとしたら明らかに怪しい【大死霊】を見つけた。
 ・明らかにアウトに見えるティアンの解体やってるし、自供もあったんで攻撃。
 ・正直誰でも怪しく思うし、【大死霊】の受け答えがアホ過ぎた。
 ・団長は村人から【大死霊】の事を聞いて洞窟に向かったが新人たちが攻撃されていたから救った。

 【大死霊】って就いたら指名手配とかされないだろうかと思ってますが(禁術とかデッドマンズバインドとかは駄目らしい)この話は就くだけならセーフと言う世界でお願いします。

 お読みいただきありがとうございました。
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