えんじょいマスター腐れ風味   作:桂剥き

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 トリノベ君の昔のお話です。


おれはゆうぎは

 ◇ 

 

 俺が<Infinite Dendrogram>を始めた理由。

 それはまあスゲェゲームだと聞いたからっていう単純なもんだ。

 

 生きてるみたいな挙動のキャラクターや、味も匂いも感じる圧倒的なリアリティ。

 そしてその人だけのオンリーワンであるエンブリオ。

 

 開発責任者が「<Infinite Dendrogram>は新世界とあなただけの可能性を提供いたします」なんて言った通り、新世界に行った奴ら(ゲームプレイヤー)からは

 

 「こんなゲームやった事ねえ!」 

 「これはゲームじゃねえ! 一つの世界だ!!」

 「こんな体験したことねえ!! 普通に生きてたんじゃ味わえねえ!!」

 

 なんていう熱烈なお褒めのレビューが山のようにSNSに溢れていて、そんなすげえ体験できんなら俺もやってみっか、って感じでこのゲームを始めたわけだ。

 

 リアルベースでアバター作って、とりあえずリアル視点とやらでゲームはじめて空から落ちて。

 確かな土の味に空気の美味さとか石畳の冷たさとかのリアルさにテンション上がってはしゃいだな。

 

 そんなテンションでゲームを始めて数時間。

 

 

 俺は目の前にいる血塗れのティアンの喉元に、剣をぶっ刺していた。

 

 

 なんでこうなった?

 

 【戦士】についてレベル上げしようとしたら、初心者狩場が他のマスターで一杯だったからか?

 

 狩場探してうろうろしてたら適正レベル外の森まで行けちまったからか?

 

 そこでたまたまモンスターに会えずに奥の方まで行っちまったからか?

 

 その森に、取り分でトラブって刃傷沙汰になって逃げた【盗賊】のティアンがいたからか?

 

 そいつが、俺を追手と間違えて襲い掛かってきたからか?

 

 咄嗟に出した初心者用の剣が、ジョブのアシストで弱ってたその男の喉元に滑り込んじまったことか?

 

 

 ……ふざけんな

 

 喉から剣を生やした男が呻く。

 

 声も出ねえ筈なのに、刺した剣から伝わる震えで、そいつが何を言ったか分かっちまう。

 

 なんでだ? どうしておれがしぬんだ……ってよ。

 

 その言葉を言い終えると、光が消えてく目の中に呆然とする俺を映しながら、男から全身の力が抜けた。

 急に重くなった男が俺に倒れ掛かり、剣が喉を貫通して男の頭が柄まで落ち、その重みに耐えきれずに俺は手を離した。

 

 俺の体に赤い血の跡を付けながら滑り落ち、地面に男が倒れこむ。

 

 男と出会う前に開いていたステータスウインドウが、【戦士】のレベルアップを告げた。

 

 

 そのばからおれはしばらくうごけなかった

 

 どうしていいのかわからない。

 おれのてがあかい。

 からだもあかい。

 おとこからながれてるちもあかい。

 うでにあいつをさしたかんしょくがある。

 

 ()()()()()()()()()()

 

 

 うそだ、これはげーむのはずだろ、なんでだ?

 

 そんなことばかりが頭の中でグルグルと回っていたから、俺は迫るナイフに気づけなかった。

 俺が殺した男の追手が放ったそれは、俺の喉に刺さり、出血と気管損傷で俺のHPを0にした。

 

 息が吸えず、体に力が入らない。

 

 男の体に重なるように倒れた俺は、最後に男の死体を視界に入れたまま消えていく。

 

 いやだ、それはみたくない。

 

 そう最後に思ったその時、俺の手の甲から何かが割れるような感触がして。

 

 おれのしかいはまっくらになった。

 

【致死ダメージ】

 

【パーティ全滅】

 

【蘇生可能時間経過】

 

【デスペナルティ:ログイン制限24h】

 

 ◇

 

 現実に戻った俺は、ゲームハードを顔からむしり取るよう外して投げると、トイレに駆け込み、吐いた。 

 吐けるもんが無くなった後も、胃液を絞り出すようにして吐いた。

 

 きもちわるくてしかたなかった。

 

 吐けなくなったら手を洗った。

 現実の手には何もついていないのに、瞬きをしたその時、目蓋の裏でその手が赤く染まっているように見えて、洗う手が止められなかった。

 

 てがずっとふるえていた。

 

 洗い続けて暫くして顔を上げ鏡を見る、

 鏡の俺は死んだ目で、死人のように青白い顔をしていた。

 

 そのかおはさっきのあいつがしんだときのかおににていた。

 

 小さく悲鳴をあげながら、這うようにトイレを出て己の部屋に帰ると、布団を体に巻き付けベッドで呻く。

 

 なんで。 どうしておれが。

 

 呻き、のたうち、時に頭を掴んで丸くなる。

 

 なんでこうなった。

 

 

 げーむだときいていたのに。

 

 

 ……その考えに至った時、俺は動きを止めた。

 

 

 ()()()。 そうゲームだ。 ()()()()()()()()()()()()()

 

 

 おかしくなりつつあった俺は、腕のあの感触も、目の前にちらつく赤色も吹っ切ってその考えに縋った。

 

 俺はゲームをしていただけだ、なにもおかしなことは事は無い、ちょっとリアルな描写でショックを受けたが、ゲームではある事だ。

 

 あのリアリティをもってちょっとリアル、なんていうのには無理があるなんて考えは、頭の向こうに追いやる。

 

 「大丈夫だ、あれはゲームだから大丈夫」

 

 そう何度も何度もつぶやいているうちに体力の限界が来て、俺は意識を失った。

 

 ◇

 

 それから1日後、おれはこのゲームにまたログインすることにした。

 

 これはゲームなんだと、確かめる為だ。

  

 戻ってすぐの場所にある噴水に己の姿を映して見る。

 その俺のどこにも血なんか付いていなかった。

 試しにその水を掬って手を洗ってみたが、その手が震えることは無かった。

 

 この世界の俺は死んだらキレイにリセットされると知った。

 

 王国の騎士団(俺は王国スタートだった)に「ティアンを殺害した」と自供したとき、騒ぎになりこそすれ捕まることも、【監獄】に行くことも無かった。

 

 この世界ではこちらに危害を加えた悪人は殺してよいのだと、その時知った。

 

 ウィンドウを見てみたとき、いつの間にかエンブリオが孵化しているのを見つけた。

 このゲームの売りだったのにすっかり忘れていたそれの説明を見ると、中に死体を入れて置けると書いてあった。

 

 死体は見なくてもこの中に放り込めばいいのだと知った。

 

 あの男を殺した時の【戦士】のジョブを捨てに転職のクリスタルへ向かったら、その中に【死霊術師】のジョブがあると知った。

 どうも死体を使うジョブらしく、ティアンの死体でもいいらしい。

 

 死体はアンデッドの材料として使えるモノなんだと知った。

 

 死んでから知ったいくつものことが、ここはゲームの世界なんだと俺にささやきかける。

 

 「ここはゲーム、俺はゲームを遊んでいるだけ……、あれはアンデッドの素材が手に入っただけ……」

 

 ブツブツとつぶやきながら、俺はこのゲームを続けていく事を決めた。

 

 

 

 ここで好きに遊んでいる限り、あの最初の殺人が、ゲームの中のほんの当たり前のことだと思い込むことが出来る。

 

 

 そんなことを考えながら。

 

 そんなわけはないのに。




  トリノベ
 ・ゲーム内でゲームから逃避している男。
 ・ゆうぎ派。
 ・悪人ティアンは人じゃないし、この世界はゲーム。
 ・殺人ももう平気だし、今では積極的に狙う事もできる。

 【盗賊】
 ・本当にたまたまトリノベを襲った死にかけの男
 ・トリノベがやらなくても死んでたし、追手も居たから助からなかった。
 ・ちゃんとこいつも殺人とかしてる悪人だったので、トリノベはお咎めなしだった。

  トリノベのエンブリオ
 ・当初はみたくないものをいれるばしょ
 ・いまは素材置き場兼アンデッド倉庫兼色々。
 ・いまもこの中に【盗賊】の死体が入っている

 
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