□ とある山中 【大死霊】トリノベ
もう日も落ちた山の中。
俺はアンデッドの狼に跨って、かれこれ1時間ほど森を駆けていた。
フツーのとかテイムモンスターなら休憩でもさせなきゃなんねえかもしれねえが、この【いぬがみさん】はアンデッド、疲れなんざ感じない。
むしろその背に居た俺の方が、長時間の騎乗でちょい気疲れしちまった。
おかげで、頭にこびりついてたあの金色鎧の一言から、いらねーことを思い出しちまってちょいとおセンチになってたところだ。
おれのはじまりの思い出。
ひとを……
「あれは
ってとこまで考えて首を振り、魔法の呪文を呟いて、目線を左の手元に落とす。
手のひらサイズの懐中時計みてーな見た目。
だが、時計の文字の代わりに方位が刻まれ、その中心では針の代わりに青白い光を纏った指が浮いてる。
その指が刺すほうへ行けと、【いぬがみさん】の縫合痕の上にかかった手綱を引いて命令していた。
このへんなもんはダチと作ったアイテムで、コイツに死者の指と魂の一部を入れりゃ、指が入れた魂と絆の深い存在を指し示すって効果がある。
今こいつに入れてあるのはあの【忍者】の指と魂。
つまりはおれはあの【忍者】野郎の仲間を追ってるってわけだ。
◇
でっけえ音が聞こえた。
あの騎士団のやつらが行ってから、大体1日くらい過ぎた後。
解体も終わってもうやることも無くなったんでここを引き払おうと、片付けの準備をしていた時だった。
そんとき外は明るかったんで、洞窟の外へは行かなかったが、気にはなったんで入り口近くまで行って耳は澄ませ、アクセサリー握って聴力強化くれえはした。
結構な人数のやつらの罵声やら鬨の声やら、悲鳴やら。
そん中にあの鎧の奴に似た声が聞こえてっから、たぶんあの騎士団のやつらか。
意外と人攫いどものアジトが近えとこにあったのか。
それとも声がやたらでけえだけなのか。
「それにしても優秀だなあいつら、なんで俺ん時はああなったんだろうな?」
人攫いどもを1日で見つけて急襲したってこったろう。
日中なのは、相手の中にいる【忍者】どもが闇夜に紛れて逃げることを嫌ったか。
「こりゃ―出る幕ねーな」
新人どもはともかく、黄金鎧のあいつに、知らねえけど新人どもよりは強えだろうその仲間まで居る。
そいつら相手に真っ向から戦って人攫いどもが勝てるとは思えねえ。
なにせ俺一人に負けて数を減らしてる上に、人攫いの痕跡も隠せねえへぼ。
戦ったやつらが特別弱えんじゃなければジョブレベルの平均も高くはねえってこったろ。
そんな奴らがカンスト含むマスター達をなんとかできるかって聞く奴が居たら、頭の心配してやらぁ。
頭を掻きながら俺は外に背を向け、洞窟内へと歩こうとして。
「一人逃げたぞ追え!!」
あの黄金鎧の声がした。
「……へぇ」
俺はそのまま洞窟の中へ戻っていく。
あのアイテムどこのアイテムボックスに仕舞ったんだっけなと思いながら。
◇
その後俺はこの羅針盤もどきを引っ張り出し、日が落ちるのを待ってから俺は洞窟の闇から外へ出て、エンブリオから出した【いぬがみさん】に跨って森を疾走してるってわけだ。
あいつらが逃がしたっていう奴があの後捕まったかどうかは分かんねえし、この羅針盤もどきが指す奴がそいつなのかもわかんねえ。
だが運さえよけりゃあ、襲撃食らって弱ってるかもしんねえやつを俺がいただくチャンスでもある。
「【いぬがみさん】たのみましたよーってな」
俺を背に乗せ、走り続ける愛すべきアンデッドの頭を撫でてやりながら俺は呟いた。
そうして更に1時間経った頃、その場所で突然【いぬがみさん】が足を止めた。
空から明るい月光が降り注ぐ窪地。
木がねえからそこの先の斜面まで見通せるそこは、一見すると追ってる奴どころかモンスターすらいねえように見えた。
だが、俺の手の中の羅針盤もどきはその窪地の真ん中を指さして止まり、【いぬがみさん】もその声帯のねえ首をそっちへ向けて、音のねえうなり声をあげてやがった。
間違いねえ、いやがる。
「おーい、人攫いさんよぉ、そこにいるのはわかってんだ」
そのまま突撃かましても良かったが、万が一の人違いで善良な方のティアン殺すわけにもいかねえし、俺はあえて声をかけてやった。
「なあおい、諦めてお縄につく、ってんならよ、まあそのとおりにしてやってもいいんだぜ」
言葉を続ける。
別に急に愛に目覚めたってんじゃねえ、殺したくねえってわけでもねえ。
単なる確認だ。
そこに慈悲とかもねえ、捕まってくれとも思ってねえ。
「なぁおいそこの……」
俺の言葉を風切り音が遮り、咄嗟に出した痛覚の無い腕に衝撃が走ると、黒塗りの刃物が一本、俺の腕を半ばまで貫いた。
俺と話をする気も無ければ、投降する気もねえってことだろう。
だったらもう、死んでもらうしかない。
その思考と共に、辺り一面が真っ暗に染まった。
俺のエンブリオの第二段階の姿。
俺の事を外から見る奴が居たなら、窪地全体が夜の闇より暗いドームみてえな結界に覆われたのが見えたかもな。
羅針盤もどきの指がブレて、【いぬがみさん】が声なき声で吠えて駆け出す。
「逃げる気かぁ? どっかのだれかさんよぉ!!」
俺の声ガン無視。 ついでにガン逃げ。
姿が見えねえ、体動かした音もしねえ。で黒塗りの刃物で【忍者】混じりの人攫い。
ついでに向かってこねえってんなら【隠密】 ……いや、この隠れようなら一個上の【影】か?
まあ逃がさねえけど!!
「《
「「「AAAAAAAAAAAAWWWWWWWWAAAAA」」」
光の見えねえ結界の中、俺のスキル宣言と、アンデッドどもの声が響き渡る。
地から腐肉を垂らして湧き上がる【ウーンドゾンビ】
突如現れた剣を握り闇の中から現れた【スケルトンウォーリアー】
そいつらが結界中から際限なく湧き出すと、おそらく奴が居やがるだろう場所に向かって殺到する。
姿も気配もねえやつでも、実体はあるってんならこうして物量で塞いじまえば逃げられねえ。
モンスターの群れの中の一点で、ゾンビの首が突如歪み、スケルトンの肩が不自然に落ちた。
そこだな。
「やれぇ! 【いぬがみさん】!!」
背から飛び降りながらの俺の指示を受けた【いぬがみさん】の首が捻じれていく。
螺旋をのようにぐるりと首を回していく最中、首の縫合に使った糸が一本、また1本と解けていく。
そしてその首が完全に一回転したその時、ライフル弾のように【いぬがみさん】の首が飛び、アンデッドの群れの中に突っ込んだ。
【いぬがみさん】の首が地面を跳ね飛び、ゾンビの体液と肉、スケルトンの骨が飛ぶ中で、赤い傷が一つ闇に浮かぶ。
傷でスキルを維持できなくなったか、奴は姿を表した。
体液と肉で汚れた軽装の装備、こちらに向けた眼光鋭い顔には面皰。
傷は腕にあったが浅えのか、紋章のねえその手には今もしっかり小刀が握られている。
傷と状況の確認か一瞬動きを止めた奴に首なしの【いぬがみさん】の爪が迫る。
「《ソウル・スクラッチ》!」
畳みかけるべく、俺は魔法を唱えた。
《ソウル・スクラッチ》精神を犯す不愉快な引っ搔き音を響かせる魔法。
決まれば奴は【混乱】で動けねえ。
だが【いぬがみさん】の爪はその身のこなしで躱され、《ソウル・スクラッチ》の不快音は【隠密】系統の精神耐性で乗り越えられ、そいつは【いぬがみさん】抜いて俺へ迫ろうとする。
その真後ろから狼の牙が奴に襲い掛かった。
首が取れたら生き物は死んじまうが、アンデッドは別だ。
【いぬがみさん】は頭と胴体が別々に動けるように作ったアンデッド。
そしてその首は胴体より動きが早え。
不意を打ち、狼の頭がその顎に奴を捉えようとしたその時。
奴の手に赤い何かが現れた。
同時に赤い線が一本【いぬがみさん】の頭部に走る。
なんだ……!? と思う間もなく【いぬがみさん】の頭がその線に沿って割れ、その断面から激しく燃え上がった炎が溢れ出す。
暗い筈の結界が【いぬがみさん】の頭を燃料に燃え上がった紅蓮の炎で赤く染まった。
「火属性武器かよ!」
突如発生した炎の光灼かれた目を抑えて、俺は叫んだ。
アンデッドという種族にはいくつか欠点がある。
それは日光の下だと大きく弱体化するという特性だったり、あの黄金鎧みてえなアンデッドの特効が刺さるジョブ的不利だったりだが、それらよりももっとメジャーでデカい弱点が存在する。
特定の属性に極端に弱いことがそれだ。
一つは【聖騎士】とかが覚えている聖属性、そしてもう一つが火属性。
いま奴が使ってきた武器の属性だ。
カルディナと取引できるってんなら、威力が出せてメジャーなその属性の武器を持っててもおかしくなかったか!
油断のツケは俺の動揺と眩んだ視界。
ぼやけて見える燃え上がった炎の後ろから、影が俺へと真っすぐに突っ込んでくる。
「嘗めんな!」
【瞬間装備】で鉈を手の中に呼び、叩きつけるように迫ってくる影へと振り下ろす。
影はあっけなく二つに分かれ、そして
「あ?」
ティアンが消えるわけがねえ。
湧いた疑問から咄嗟に羅針盤もどきに目をやる。
指が俺の真後ろを差していた。
「っ!!」
《影分身の術》か! 炎で目をくらませた瞬間、分身を突っ込ませて自分は後ろに回り込みやがった!!
首だけは後ろを向くことが出来た俺の目に、赤い大刀を突きこもうとする奴が映る。
くそっ! 時間がねえ。
あいつの武器を止められるアンデッドを呼ぶ時間が……ねえ。
刀が迫る。
「《
だから俺はアンデッドじゃねえもんを呼んだ。
「!」
突きを放とうとしていた奴の足が止まる。
奴の頭の横を、空間から出現したあの【忍者】の首が通り過ぎて地面へ落ちていった。
「部下との再会だぜ? 喜べよ」
そりゃそうだろう、死んでも魂が絆を忘れねえほどの相手だ。
絆ってのは一方通行じゃねえ以上、おめえの方もこいつ見せれば動揺くれえはするだろうと思ったぜ。
ただ足を止められたのは一瞬だけ。
それまで感じられなかった殺気が奴から溢れ出し、刀に再度力が籠り、俺を刺さんと足を……
「ぐぅっ!?」
踏みだそうとしたその時、奴が初めて声を上げた、それも呻き声だ。
奴の足が白い牙に食らいつかれ、そこから動けなくなっている。
「骨と死体の特製トラバサミ、ってな」
俺のエンブリオは死体が使われてんなら椅子みてえなアイテムでも出し入れできる。
当然トラバサミみてえなトラップでもだ。
トラバサミはさっきの死体を出すとき、一緒にエンブリオから出しておいた。
普通なら危機察知に長けた【影】に通用はしなかっただろうが、頭に血が上ってんなら別。
賭けだったが、博打には勝ったみてえだな。
「このようなもの……!!」
その手の大刀で奴はトラバサミを突き壊そうとする。
簡易的な罠だ、【いぬがみさん】を切り捨てられるくれえの武器なら、あっさり壊されるだろ。
まあ壊してる時間があればな。
「ぐぁっ!??!!」
罠に武器を振り下ろさんとした奴の後ろから、三本の軌跡が走り奴の腕が武器ごと飛んだ。
足を止めていたその時間でこちらに帰ってきた、首のねえ方の【いぬがみさん】のファインプレー。
あとで代わりの首をやらねえとな。
腕ごと遠くへ飛んだ大刀を横目で見ながら、俺は奴へと迫る。
こいつを殺る。
俺を殺そうとした奴は殺してアンデッドの材料として扱う。
あの時から決めた事だ。
「糞っ!マスター……どもが!!」
腕も無くし、足に食らいついたトラバサミで、もはや動けない奴が叫ぶ。
「我らのお家再興の邪魔……」
俺は鉈を片手に近づく。
「散っていっ……の……」
何か喋ってやがるが気にしねえ。
「!……!!」
俺を殺そうとした奴なんか、モンスターと同じだ。
気にする必要もねえ、鳴き声を耳に入れる必要もねえ。
鉈を振り上げた。
「遊戯で我らを殺すか! 人でなしが!!」
なぜかそれだけハッキリ聞こえた。
「遊びだから殺すんだよ」
血飛沫が飛んだ。
俺のエンブリオの中に、死体が増えた。
トリノベ君
・素材を手に入れた
・アンデッドのうちいくつかと【いぬがみさん】の首を失った。
・遊びで人殺しをする人でなしの遊戯派。
【影】の人
・天地で滅びた家に使えてた人。
・犠牲を出しながら部下と天地を脱出し再興を誓ってカルディナに落ち延びた。
・奴隷商の依頼で王国の人間を攫う途中こうなったというがまあこの話だとただ死んだ人。
読んでいただきありがとうございました!