えんじょいマスター腐れ風味   作:桂剥き

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それではさよなら

 □ アルター王国 とある村 【大死霊】トリノベ

 

 日の下のアンデッドは雑魚の象徴みたいなもんだ。

 極端な奴だと亜竜級の力がある個体が、お天道様の下なら下級職一人に負けるほどに弱体化する事さえありえちまうんだから、その評価の正しさがわかるってもんだろう。

 

 だから俺は普段日が落ちた時間に動くか、日光の射さねえ洞窟の中で作業なんぞをしているわけだが、今日は違った。

 

 わざわざ天高くにお日様が昇ってる時刻、それも空に雲一つない晴天。

 アンデッドには最悪のその天気の下、とある村の広場。

 そこで俺は胡坐をかいて座り込んでいる。 

 

 「…………」

 

 俺を無言で取り囲む、日光を受けてギラギラ輝く全身鎧の集団。

 ざっと見回せば大体十五人くれえは居るそいつらは、一人除いて全員が各々の武器を構えて俺に向けていた。

 

 その中にはあの六人の新人共も居る。

 つまりは、【へぶん騎士団】のやつらの前に俺は居た。

 

 洞窟に押し入ってきやがった時みてーだな。まあ今回は俺がそっちへ行ったわけだが。

 

 「それで」

 

 俺の目の前にいる、唯一俺に武器を向けていない一人。

 あの黄金鎧の奴が、口を開いた。

 

 「まあ確かに、これは私達が逃した者の首だな」

 

 はぁ、とイケボのため息を吐く黄金鎧。

 その手の中にはあの推定【影】の野郎のそれが収まっていた。

 

 俺が狩ったあの【影】の野郎が、【へぶん騎士団】のやつらが取り逃がしてた奴だったのか。

 それの確認に首ぶら下げて村に来てみたら、あれよあれよという間に囲まれちまったわけだ。

 

 「捉えた者達にも見せ、エンブリオ等の鑑定もした、間違いは無いだろう」

 「合ってて良かったぜ、間違ってたら指名手配食らうとこだ」

 「クエストの終了通知がいきなり来た時は何かと思ったぞ……」

 「すまねえなぁ生かしておけなかったもんでよ?」

 

 明るく言ってやったら、俺の目の前に槍が一本突き出て来た。

 俺に刺さんなかったのは手心とかじゃなくて、黄金鎧の奴が柄を掴んで止めたからだ。

 

 鎧の奴サンキュー! 

 

 「お……!お前っ!!」

 「あー……気持ちはわかるが抑えたまえ、この御仁はこういうスタンスだ」

 「へへへ、まあな?」

 「褒めてはいないのだが……それでな」

 

 何故貴殿はここへ来た?

 そう黄金鎧の野郎は言う。

 

 まあなぁ、人のクエストに首突っ込んで、首持って突っ込んでくるってちょっちアレだもんな。

 

 「取引だよぉ。そいつの首やるから体貰いてえ」

 

 幾つもの鎧の手が武器をその手に構えなおして、硬い音が鳴った。

 刺されそうだな……コワ。

 

 「上級職になれるティアンの死体ってのが欲しいんでよ、クエストの証明にはその首がありゃ十分だろ?」

 「勝手に首を突っ込んでそれとは……」 

 「まあ勝手だがよ? お前ら俺に貸しあるよな? 俺の拠点に勝手に突っ込んで来た奴だ」

 

 新人どもの武器が微妙に揺れて、首が少し下がった。

 黄金鎧も目線が少し揺れた。 

 効いてんな。まあそうだよな。

 

 状況と俺の説明がアレだったとあの場ではなったが、話も聞かずに殴りかかってきたのは向こうなんだよな。

 

 「こっちは話をする気だったがよ? そこのやつらは聞かなかったし、アンデッドもやられてんだ」

 

 言いがかりっちゃあ言いがかりなんだが、まあこれで押し通そう。

 

 「っていう話呑んでくれねえかね? そしたらここで綺麗に手打ちが出来るんだが?」

 「……どこまでもそちらに都合がいいな?」

 「そうだけどよ? お前らもここでずーっと揉めてぇってわけでもねえだろ? あいつら引っ立てなきゃなんねえんだろうし」

 

 村のとある家に目を向けてそう言ってやる。

 あんまり品の良くない声が漏れ出るそこは、今回奴らが捕まえた人攫いどもを拘留してる場所だ。

 

 そいつらを連れて、逃げねえよう監視しながらしかるべき場所へってのは人数が居ようと結構な手間だ。

 このゲームに居られる時間が限られてるマスターなら、さっさと終わらせてえ事だろう。

 そんな時に、マスター同士のトラブルなんていう面倒ごとに時間使いたくはねえだろ?

 

 「んで? どうする?」

 

 わざと威圧的に首を傾けながら言ってやる。

 ここに来た時点でやりたいことは終わってるから、決裂しても良いんでな。強気に行く。

 

 「仕方ないな……」

 「団長!?」

 

 黄金鎧の奴を、他の騎士連中が一斉に見た。

 

 「出発を延ばすわけにはいかん、いつまでも人攫いどもを村の中に置いておくわけにもいかんしな」

 「それは……」

 「それに、この御仁のおかげで早く解決できたとも言えるからな……まあこうして面倒ごとにはなったが」

 

 黄金鎧がやれやれと首を振って力なく肩を落とすと同時に、他の騎士連中も武器を引いた。

 納得はしていなさそうだが、今の状況なら仕方ないとあきらめたみてえだ。

 

 ありがたいね、揉めて戦闘にでもなったらデスペナだったろうしな。

 

 「んじゃあまぁこれでおさらばってやつだ」

 「ああ」

 

 挨拶もそこそこに、鎧の奴らのじっとりとした視線を受けながら、俺は足元の土を払って立ち上がる。

 

 おっと忘れるとこだった。

 

 懐から布袋型のアイテムボックスを二つ取り出すと、黄金鎧の方へ放り投げた。 

 何事かと、対応をとろうとして手の中の首を放ることが出来なかった黄金鎧の手の中にその二つはキレイに収まった。 

 

 「別にやべえもんじゃねえよ、両方金が入ってるだけだ」

 

 奴らが困惑して、動きが止まっている。

 だが、俺の言葉に嘘がねえことは《真偽判定》で分かってるだろうから続ける。

 

 「片方は迷惑料さあ、うまくいったらあんたらに渡すつもりだったんだ」

 

 流石に首渡して貸しなしで終わり!ってのはゲームプレイヤーとしてはあれだったんでな。

 金の一つも包んでおかねえとな?

 

 奴らに背を向けて、俺は村の出口へと歩き出した。

 その途中でも言葉は続ける。

 

 「もう片方はあのおじょーさんに渡してくれや!」

 「「「は?!」」」

 「あの洞窟の賃貸料だよぉ!!」

 

 俺は声を張り上げた。

 

 あのおじょーさんの誘拐現場に出会えたから、【忍者】のやつらを狩れたし、紹介してもらった洞窟の立地のおかげであの大騒ぎが聞けて、【影】の奴を追えたんだ。

 

 俺を殺しにくるNPC(悪人ティアン)は殺せばいいが、世話になったNPC(普通のティアン)には礼の一つもしないとな?

 ゲームのプレイヤーなんだ、そういう配慮もするさ。

 

 「ああそうだ人攫いは全滅したって言うんだぞ!!!」

 

 だからあのおじょーさんを攫おうとしてたやつらはもういねえと、ちゃんと伝わればいいってのも単なるNPCへのご機嫌取りだ。

 

 まあ、真昼間に首持った怪しい奴が突然来たんだ。

 村の奴らがあの騎士団連中に事情を聞くだろうし、その時に人攫いの全滅は村に伝わるだろうからいちいち言わなくても大丈夫だったろうがな。

 

 

 後ろの騎士団のざわつく声を無視しながら、俺はひらひらと手を振ってこの村の外へと出ていった。

 

 

 

 

 「さて、これからどこに行ってやろーかね?」

 

 山の中、木漏れ日に晒されて弱体化したステータスを今だけは無視して、下草を踏みつけながらおれは進む。

 元々のあてもなんもねえ旅の途中だ、こうして足止め食らったって別にどうってこともねえ。

 

 どうせ何をしたっていい世界なんだ、楽しむだけだ。

 

 アンデッド(人でなし)になって悪人NPC()素材にする(殺す)なんて現実じゃあできねえ、ゲームであるこの世界だけの遊びをエンジョイするだけだ。

 

 「博士のとこ行ってあの【影】やろー素材にしてなんか作ってもらうか……いや?減ったアンデッドの素材集めに、あいつに頼んでカルディナ行くってのも……」

 

 ブツブツとこの先の算段を立てる声といっしょに、俺は山の奥へと姿を消した。

 




 【へぶん騎士団】のみなさま
 ・新人集団「なんだこいつ……」
 ・団員達 「なんだこいつ……?」
 ・黄金鎧 「この御仁は……はぁ……」
 ・全員困惑した。


 【大死霊】トリノベ
 ・とりあえず彼らと村からサヨナラすべく首を携えて村に来たやべえ奴
 ・お金は結構な額
 ・独りよがりに礼も言う、独りよがりに話の清算もする、独りよがりに心配もする。
 ・彼は遊偽派
 ・彼の遊びは続く

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