稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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私からのささやかな贈り物です。楽しんで頂けたら幸いです。



番外編
バレンタインですってよ!……バレンタインって何ぞ?


「諸君! 本日はお集まり頂き、誠に感謝!」

 

 ―――花見坂・特設会場にて。住民達が集められ、何やらイベントが開かれようとしていた。

 

「ご存知の通り、一年には幾つかプレゼントを贈り合う特別な日が存在している! 今日はその内の一つな訳だが……先日、ソレに関するとある依頼を受けた!」

 

 一際目立つ小規模なステージ。其処で、今回のイベントの主催者である青年……仁信は司会・進行を務めていた。

 

 彼が受けた依頼とは『贈り物のチョコレートを用意したいけど、作り方が分からないから手伝ってくれ』というものだ。また、毎年似た様な物ばかり贈っていてマンネリ化が進行してきたのか、『斬新なアイデアが欲しい』といった依頼も続出。便利屋の仁信に対する花見坂住人の『とりあえずアイツに投げてみよう』の精神が表れた形だ。

 

「だがあまりにも多いモンだから俺は考えた。『じゃあもういっそ一気にやった方が早くね?』と。そんな訳で開かせてもらったのがこのお料理教室だ!」

 

 時期が来ると毎年受けることになる依頼。だが今年は輪にかけて多かったため、このような形をとったのだ。

 

 彼は過去に入手した異国の料理本や、かつて離島を訪れていた外国人から教わった多種多様なレシピを用意。更には材料や道具をポケットマネーで大量に購入。その上、会場の設営から近隣住民への宣伝、奉行所への申請に至るまで一人で全部行っていた。青年の化け物級の行動力と体力が成せる業であった。

 

「クソ美味いチョコ作りゃ贈る側も受け取る側も皆ハッピー! 手作りってだけで嬉しいモンだし、上手に出来りゃ贈る勇気にもなる! 今回はそのお手伝いをしようと言う訳だ!」

 

 盛り上がる参加者達。彼らの顔触れは様々で、男女問わず小さな子供から大人に老人まで多くが集まっていた。

 

「こないにぎょうさん人が集まるなんて、悩んでんのはうちだけやなかったんやなぁ」

「何時もお世話になっている大切な人だからこそ、良い贈り物と言うのが思い付かないのでしょう。私もお兄様に、どういったものを用意すれば良いのか悩んでいたところでしたから……この催しは渡りに船でした」

「聞けば、チョコレートに関する異国のレシピを用意してあるとか。勉強にもなるし実にありがたい。それはそれとして……コレを全部一人で準備したとか、オレは未だに信じられないよ……」

 

 そして参加者の中には、まさかの大物―――神里綾華も紛れていた。側には神里家の家司を務める金髪に緑眼の青年、トーマが控えている。元より花見坂の住人である宵宮と二人は知己であるため、三人で固まっていたのだった。

 

「―――ガッハッハッハ! 流石は仁信、特別な日にこんな祭りを開くとは粋なヤツだ。この機に俺様も、鬼婆婆に日頃の感謝ってのを伝えるべきかもしれんな」

「親分にしては珍しいな……だが良いことだ。私も出来る限り手伝おう」

 

 一方では、荒瀧派の二人―――荒瀧一斗と久岐忍の姿があった。一斗も、花見坂には子供達と遊ぶため訪れている。そのため、何処からか行事の開催を聞きつけてきたのだろう。因みに忍は一斗に連れて来られた形で参加していた。

 

「そして! 今回、皆にはただチョコ作りをしてもらうだけじゃない! お料理教室と並行してちょっとした大会を開くぞ!」

 

 その内容とは至ってシンプル。誰が一番美味いチョコレートを作れるかを競う、ただソレのみ。当然だが審査員は仁信である。

 

「ただし、自由参加だから自信のある人だけで良いぜ! 皆には楽しんでもらいたいからな……だが、大会と言うからには勿論景品も用意してある!」

 

 そう言うと、何やらお洒落な包装がされた長方形の箱を取り出した。

 

「じゃーん! 優勝賞品はコチラ、俺特製のチョコ詰め合わせです! 俺からのプレゼントだ、味は保証しよう。さ・ら・に〜……」

 

 ぴら、と一枚の紙切れを持ち出す。何だ何だと、見ている誰もが疑問に思ったその正体は……

 

「花見坂一の便利屋こと俺への仕事の依頼を、()()()一回タダにする券を贈呈しよう!」

 

 そう、タダ券である。一回分の商品券と菓子が今回の景品であった。

 

 すると、あることを疑問に思った参加者数名から野次が飛ぶ。

 

「何でもって何でもか?」

「ああ勿論!」

「本当にタダでやってくれんのか?」

「やってやんよ!」

「全裸で逆立ちしろって言ったら?」

「全裸で逆立ちしてやるよ!」

『うおおおおおお!!』

 

 文字通りの『何でも』と『タダ』宣言に沸き上がる参加者達。コレら二つの魔法の言葉は何時の時代も人々を熱狂させるのである。

 

 また、仁信への依頼は内容次第でかなりの高額になる。依頼自体は最高の形で遂行してくれるため、普段は依頼し辛い内容の仕事でもタダでやってくれるというのはお得以外の何物でもなかった。

 

 ―――その時、少女達に電流走る!

 

(何でも!? 今、何でもって言うたよな……? 仕事の依頼ってコトにすれば……)

(もしかして、あんなことやこんなことも……?)

(『何でも』か……いや違う、手に入れたタダ券は有効活用するだけだ。決して私利私欲で使ったりは……)

(日がな一日、虫相撲大会も夢じゃねぇってことか! 気前が良いな、兄弟!)

 

 何やら可笑しな雑念が混じっていたが……兎も角、コレはうら若き乙女達にとってある種のチャンスであった。彼女達の脳内フローチャートには既に勝利後のアレコレが。取らぬ狸の何とやらだ。

 

「今回は俺以外にも料理上手な人が何人かいるから、困った時はソイツ等を頼ってくれ! 当然俺でも可! ―――では、調理開始ィィィィィ!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 調理が始まると、仁信には方々からヘルプが飛んできており忙しくしていた。だが、飲食店を営む人物や料理上手な者をスタッフとして呼んでいたため、彼らにも手伝ってもらって何とか回すことが出来ていた。

 

 そうして一通り捌き終えた後、休憩していると……天領奉行の九条裟羅が現れた。

 

「お! やっほー、裟羅さんじゃん」

「問題が起きていないかを確認しに来た。開催を許可しているとは言え、一度は目を通さねばなるまい」

「大丈夫だって、此処には社奉行家も忍もいるんだから」

「だと良いが……」

 

 彼女は次いで、事前の申請と内容が異なっていないかチェックをしに来たと言う。

 

 ぐるりと辺りを見回し、幾つか簡単なやり取りを済ませる。持って来ていた書類に目を通し、何やら書き込みを行うと―――程なくして「問題なし」とお墨付きが出た。裟羅は任が終わったと踵を返し、足早に帰ろうとする。が、仁信がソレを引き止めた。

 

「おっとっと、ちょっとお待ちを。……はい、コレ」

「む。コレは……菓子か? 甘味は好かん」

「そう言うと思って甘さは控えめにしてあるよ。仕事の合間にでもどーぞ」

 

 裟羅が渡されたのは小包。催し物の内容から察するにチョコレートだろう。しかし、「口にすると気が抜ける」と言って甘味を苦手とする裟羅。彼女は受け取ろうか逡巡するも……

 

「いつもお仕事お疲れ様。労いの意味も込めて、俺から贈らせて欲しい」

 

 真っ直ぐな目で見られながら渡される。ソレを見た裟羅は一瞬、言葉に詰まる。

 

「……お前が渡すのはもっと先だろう」

「ソレはお返しの話では? あと俺は男が作って渡しても良いと思ってるから。……それとも、俺からの贈り物は嫌?」

「…………頂こう」

「ん、いいの?」

「お前の方から差し出したのだろう? それに、幾ら私でも純然な好意を無下にすることはしない」

「裟羅さん優しい人だもんねぇ。アザス!」

 

 受け取ることにした彼女は、小包を渡されると大事そうにソレを懐に仕舞った。「感謝する」と礼を一言告げると、会場の方から声が聞こえてきた。

 

「おうい、主催者! ちょっと味見手伝ってくれないか?」

「いいぞー! ……じゃ、ちょっと行ってくる。またね裟羅さん!」

「ああ」

 

 味見役に呼ばれた青年を見送ると、彼女は今度こそ踵を返し再び業務へと戻って行く。―――その足取りは、心なしか軽そうであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「おーい、コッチコッチ!」

「はぁい、今行きますよ〜」

 

 改めて会場内の見回りを再開した仁信。様々な要望を捌く途中、宵宮に呼ばれる。彼女の下へ向かうと、其処には綾華とトーマも居た。

 

「お疲れさん! ずっと会場内を駆け回ってて大変やない?」

「そりゃね。でも自分で開いたイベントだし、最後まで責任持ってやるさ。二人はどう?」

「此方は問題ありません。トーマの丁寧な指導の甲斐もあって滞りなく進められています」

「そうそう! さっすがトーマ先生って感じでな、手際がめっちゃええんよ」

「二人の飲み込みが早いからだよ。オレは少し手を貸しているだけさ」

 

 二人にはトーマが付きっきりで面倒を見ていてくれている様だ。流石、神里家の誇る敏腕家政である。

 

「なら良し! あと温度管理には気を付けて。専用の道具は沢山用意してあるしジャンジャン使ってくれ」

「ああ、助かるよ。そうだ、このレシピは持ち帰っても良いのかい?」

「勿論オッケーだ」

「重ねて助かるよ、ありがとう!」

 

 料理男子二人のやり取りは更に盛り上がる。女子をそっちのけにワイワイと楽しそうな彼らの様子に、宵宮は苦笑いし綾華は羨ましそうな視線を向ける。

 

「おっと、向こうから助けて欲しそうな声がするぞ。ちょっくら行ってくるわ!」

「行ってらっしゃい、コッチは任せておいてくれ」

「サンキュー!」

 

 ヘルプが掛かったため、再び駆け出して行く仁信。トーマは手を振り、その後ろ姿を見送ると。

 

「さて。オレ達も再開するとしよ……どうしたんだ、お嬢。そんな目でオレを見て」

「何でもありませんっ。トーマの気の所為では?」

「あちゃー……天下のトーマ先生も、綾華ちゃんの機嫌を損ねることがあんねんなぁ」

「……?」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 イベント進行は順調であり、会場内は盛況であった。若い男女が互いに作り合う様子、家族連れで参加するグループの和気藹々とした雰囲気……彼らの楽しそうな姿に思わず笑みを溢す。

 

 忙しい時間帯を切り抜け、再びの休憩時間。仁信が会場の隅に置かれた椅子に座っていると、隣に誰かが座る気配。どうせ参加者の誰かだろう、と見向きせずにいると……その人物が話しかけてきた。

 

「ふむ。花見坂の住人が集まって何をしているかと思えば……汝が集めたのか?」

「そだよ」

「ほほう、菓子作り教室兼大会か。また何とも面白そうな催しを開いておるな」

「まーね」

「今日という日に因んでいるとは、汝もよく考えたものよ。ところで何故妾を呼ばぬ?」

「だって鳴神大社に行くのってめんどい……し……」

 

 隣からはいやに聞き慣れた声と憶えのある口調。見れば、其処には桜色の長髪をした美女―――八重神子が居た。

 

「え……えっ? な、何で? 何で居るの?」

「何じゃその言い草は。妾が居るのがそんなに困るのか?」

 

 そりゃ来るとは思ってなかったんだから困ってるに決まってるだろ。……なんて、口が裂けても言えないのであった。

 

 挙動不審な青年の様子に、ジトッとした目を向ける神子。溜め息を一つ吐くと……

 

「まあ良い。材料や道具に余りは?」

「あるにはあるけど……」

「それは重畳。では、妾も参加するとしよう」

「う、マジで?」

 

 まさかの飛び入り参加を宣言した。彼女は仁信をジロリと睨み付けて。

 

「何か文句でも?」

「アリマセン……」

 

 やはり、仁信が彼女に逆らうことは不可能なのであった。彼は黙って神子のために準備に取り掛かる。更には「手が空いているのなら手伝うがよい」と言われ、付きっきりでサポートをすることに。神子ならちょっと教えたら出来るでしょ……と思うも、後が怖いので大人しく従うことにした。

 

 しかし、仁信は最初に道具やレシピの説明をしただけであり、その後の神子は自分でテキパキと調理を進めていった。彼は言われた器具の用意をするだけの機械と化し、内心『俺、要る?』と考えていた。

 

「―――うむ。一先ずコレで良し。ほれ、食うてみよ。あーん」

「え、いやあの、指で直接はちょっと」

「あーん」

「あ、あー……」

「美味いか?」

「とても美味しいデス……」

「フフン、当然じゃな」

 

 オマケに味見までさせる始末。参加者の中には神子の来訪に気付いている者もおり、何名かには二人の一部始終がバッチリ見られていた。

 

「…………」

「…………」

「お嬢、宵宮。手元に集中した方が良いよ」

「っ! す、すいません……」

「あ、あはは……」

 

「ん? あの狐耳は……ってどうしたんだ忍、俺様の後ろに隠れて」

「……何でもない。いいから調理を続けるぞ、親分」

「? お、おう」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ではでは……結果発表ォ〜〜〜!!!」

 

 全員分のチョコレートが完成し、イベントも終わりを迎え始めた頃。仁信も大量の作品を食し終え、遂に審査の結果が出た。

 

「えー皆さんね、大変良く頑張っていたかと思います。大会にエントリーした方も、ただ贈り物を作るために来ただけの人も一生懸命で……」

「無駄な前置きはいらぬ。疾く勝者を教えよ」

「ノリ悪いんだからもー。……では、優勝は―――」

 

 神子に話を遮られて不満気な様子の仁信。気を取り直し、結果発表に移る。

 

 緊張した面持ちの宵宮とやや不安気な綾華。意外にも少しソワソワする忍に、何処か自信あり気な神子と一斗……と参加者達の様子は様々であった。

 

 審査員から勝者の名が告げられる。果たして、結果は……?

 

「―――優勝はトーマです!! はい皆さん拍手ー! あとトーマは前に来てね」

 

 大きな拍手が沸き上がり、後ろ手に頭を掻きながら照れた様子のトーマが前へと進んで行く。一方でその様子を、女性陣はポカンと呆けた表情に。神子も彼女にしては珍しく、少々驚いた顔をしていた。尚、一斗は一瞬悔しそうにするもすぐさま清々しい笑顔に。

 

 この男、何時の間に……!? 呆けた表情から戻った面々がバッとトーマの方を見る。既に彼は壇上に立ち、景品の授与とインタビューを受けていた。

 

「優勝した感想をどぞ」

「大人気ないかもだけど、今回ばかりはオレも本気を出させてもらった。なんせ高額依頼がタダになるチャンスでもあるからね。神里家の経費も、節約できるところは節約しなきゃ」

「何その感想。主夫?」

「家司だよ」

 

 綾華と宵宮達の手伝いをしながらも、しれっと大会にエントリーしていたトーマ。予想だにしていなかった結果に、少女達のフローチャートがガラガラと音を立てて崩れる。

 

 ―――こうして、お料理イベントは幕を閉じたのだった。後日、トーマは綾華から暫く口を利いてもらえなかったと言う。




オリ主:過労とチョコの食べ過ぎで帰宅した瞬間倒れた人。

トーマ:神里家の家政。いきなりキングをとった人。綾華に口を利いてもらえなくなったことを綾人に相談したところ、苦笑いされたらしい。尚、真相は教えてもらえなかった模様。

女性陣:まさかの伏兵に驚きを隠せませんでした。
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