稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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アイエエエエ!ニンジャ!?ニンジャナ……え?違うの?

 

 

「すまない、仁信はいるか?」

「ん? はいはい、今出ますよーっと」

 

 あのお祭り騒ぎから暫くが経った頃。人々はいつも通りの暮らしへと戻っていた。

 

 朝、気持ちの良い目覚めと共に起床した仁信。朝食の準備に取り掛かろうとすると家の扉が叩かれた。どうやら訪問者のようだ。

 

「お、忍じゃーん! おはよう、こんな朝からどったの?」

「ああ、おはよう。朝早くからすまないな。今日はあんたに依頼があって来たんだ」

 

 開けた扉の前にいたのは久岐忍。薄緑の髪に赤紫の細い目、露出した腰と太腿の横に模様の入った女性だ。何より目を引くのは、顔の下半分を隠す独特な面頬。また、忍び装束のような格好をしているが忍者ではない。

 

 彼女とはそれなりに長い付き合いであり、仁信は昔の忍を知る一人であった。

 

「依頼ね。オッケー、聞かせてもらおうか。あ、朝ご飯食べてく?」

「良いのか? なら頂こう」

 

 豆腐の味噌汁と白米、焼き魚に漬け物。スタンダードな朝食を、テキパキと手際良く二人分用意する仁信。準備が整うと、彼女は着けていた面頬を外し端正な素顔を晒した。

 

「いただきます」

「はい召し上がれ」

 

 朝食を囲む二人。温かな食事を口に運びながら、忍は要件を話し始めた。

 

「成程、忍がいない間の一斗達の監督ねぇ」

「頼めるだろうか? 何、親分達が問題を起こさないかを見ていてくれればそれで良い。仕事の内容自体は力仕事だから、親分達に任せておけ。なんせ、力は有り余ってる連中だからな」

 

 彼女は『荒瀧派』に所属する二番手。荒瀧派とは、鬼族の青年荒瀧一斗がトップを張る組織のことだ。荒くれ者が多く、以前までは問題行動が目立つ困った集団であった。

 

 しかし、忍が加入したことで『問題児の集まり』から『実力派集団』へとクラスチェンジ。彼女はその見事な手腕で劇的ビフォーアフターを成し遂げていた。

 

「俺も力仕事には定評ありますけどね。ま、忍が見てるだけで良いって言うんならそうする。いいよ、その依頼引き受けよう」

「助かる。……私もすぐに向かう。だからほんの少しの間だけで大丈夫だ」

「あいよ」

 

 だが、彼女のお蔭で多少改善されたとは言え根っこの気質が変わるはずもなく。彼らは今でも、トラブルを引き起こすことが多々ある。気苦労が絶えない彼女は、自身がいない間の彼らの目付け役を頼みに来たようだった。

 

 仁信も荒瀧派の連中とは親交があり、仕事を共にしたこともある。そのこともあり、忍の依頼を快諾した。

 

「ご馳走様。……本当にあんたは料理が上手いな」

「はい、お粗末様。どう? 俺、優良物件でしょ? 君さえ良ければお付き合いでも」

「今は親分達の世話で精一杯だ」

「んー、残念! フラれちゃったか」

 

 こういうところがなければ文句無いのに。唯一の欠点とも言える青年の軟派な性格に、忍は溜め息を零すのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 家を出た二人。忍とは道中で別れると、仁信は言われた通りの場所へと向かう。

 

「おはよう! 荒瀧派の諸君、元気してたかな?」

「ん? おお、仁信じゃねぇか! こんな所でどうしたんだ?」

「君達の見張り」

「あ? ……分かった、忍だな? アイツめ、余計な世話焼きやがって」

 

 現場に居た一際目立つ青年。長く伸びた白髪に屈強そうな肉体。頭からは、血筋を表す二本の赤角が生えていた。首元には岩元素の神の目。……彼こそが荒瀧派の頭領、荒瀧一斗であった。

 

 今回、彼らは建設に必要な資材を運ぶという依頼を受けている。確かにうってつけと言えるだろう。

 

 仁信が一斗や後から現れた三人の成員と話し込んでいると、現場の責任者である大工の棟梁が現れた。

 

「荒瀧派、準備は良いか? 建材はコッチだ、お前達は指示通りの場所に運んでくれればそれで良い。……んで、お前は何で居るんだ」

「おっす親方! 実は俺、有能な二番手さんから荒瀧派の監視を頼まれてまして」

「成程な」

 

 これまた知り合いの棟梁と挨拶を交わす青年。聞くところによると、どうやら新しく大御所様の神像を建てることになったらしい。どう考えても責任重大な仕事だ。どういう伝手で忍はこの仕事を持ってきたのだろうか。彼女の有能っぷりは止まるところを知らないらしい。

 

「つっても、神像自体はほぼできてる。あとはそいつを置くための場所を作って、未完成の部分を仕上げるだけなんだ」

「そういうことだったのね」

 

 時々指示を飛ばしながら棟梁は話してくれた。仁信の方も、荒瀧派の動向に目を光らせながら会話に興じている。

 

 意外にも作業は恙なく進行し、一時休憩と相なった。

 

「よっすお疲れさん」

「ありがとよ! だが、俺様達にはちと楽過ぎるな。ガッハッハッハ!」

 

 まだまだ余裕そうな一斗と愉快な仲間達。すると、遠くから見知った緑髪が近付いてきた。

 

「親分、皆。待たせたな」

「忍! 用事ってのは済んだのか?」

「ああ。……仁信、親分達は」

「今のところ大人しく資材を運んでるよ」

「なら良し」

「おいおい、なんだぁ? そのやり取りは。そんなに俺様達のことが信用ならないってのか?」

 

 用事を済ませ、合流した忍。そんな彼女に、暗に信用がないと言われた彼ら。頭領が食ってかかると、構成員達も野次を飛ばし始める。

 

「そうだぜ、忍の姉御!」

「こんな簡単な仕事で騒ぎなんか起こさねぇって」

「俺達も見くびられたもんだぜ」

「親分達の方こそ忘れたのか? つい先日も私が目を離した隙にトラブルを起こしそうになっていただろ。……未然に防げたから良かったが、下手をすればどうなっていたか」

 

 ここで忍からまさかの暴露。鋭い言葉のナイフが突き刺さる。仁信が呆れた目で一斗達の方を見れば、彼らは居心地が悪そうに目を逸らしていた。

 

「えぇ? 君達、またやらかしたの?」

「うぐッ!? あ、あの時は色々あってだな……」

「ふーん。色々、ねぇ……だから監視の目が強化されたってこと?」

「そういうことだ」

 

 頷く忍。彼女の気苦労は本当に絶えることがなさそうである。荒瀧派は天領奉行に投獄されることもしばしばあるため、いつも大変だろう。気の毒に思った仁信は、依頼が終わった後で何か奢ってやろうと考えた。

 

「さて、私は責任者と話をしてくるからまた席を外すぞ。仁信には悪いが、どうか頼んだ」

「うい、いってらっしゃい」

「そう不安になるな! この荒瀧・心配無用・一斗にかかれば、もう無用なトラブルは起きないぜ?」

「親分のそういうところが心配になるんだが……」

 

 終始不安気な態度を隠すことなく、忍は責任者の元へと向かって行った。……心配そうに一斗達をチラチラと見ながら。

 

「さて、そろそろ休憩も終わりじゃない?」

「そうだな。よし、野郎共!」

「「「応!」」」

 

 仁信は元気良く作業に戻って行く彼らを眺めながら、忍を何処へ連れて行くのか考えるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 やっとのことで作業を終えた荒瀧派。彼らの表情は清々しいものであった。

 

「お疲れ〜」

「お前、本当に見てるだけだったな……」

「ソレが仕事だったもんで」

 

 仕事終わりの一斗達の元へと向かう仁信。忍と棟梁が戻って来るまで時間を潰すことに。

 

 彼らの保護者とも言える、鬼婆婆のこと。花見坂の子供達と遊んだ時のこと等を話した。今度、オニカブトムシ相撲をする約束も取り付けた。

 

 取り止めのない雑談で盛り上がっていると。視線に敏感な仁信は、大工の若衆が此方をチラチラと見ていることに気が付く。偶然か故意かは知らないが、彼らは聞こえる声で会話している。

 

「荒瀧派って聞いてたから、どうなるかと思ってたぜ」

「何だ、アイツらも意外と使えるんじゃねぇか」

「どうだか。この前も騒ぎを起こして捕まってたらしいぞ?」

「所詮はゴロツキ共の集まりか」

 

 既に述べたが、荒瀧派は元々は迷惑集団として名を馳せていた。現在は改善されてきているものの、未だに良い目をされないことは多々ある。彼らもその一部なのだろう。

 

 一斗達の行いを擁護するつもりはないし、自業自得だとは思っている。だが、連中も連中なりに努力していることを知っている仁信は多少思うところがあったようだ。今日だって無用な騒ぎを起こさなかったのに……と。友人達を貶められて嫌にならない訳がない。

 

 当然一斗達にも聞こえていたため、馬鹿にされて苛立っていた。しかし彼らも成長していたようで、今にも飛び出しそうなのを堪えていた。

 

「…………」

 

 仁信は暫し思案すると。

 

「親分親分! あのヒョロガリ共、俺達のことを下に見てますぜ! かーっ、なんてふてぇ野郎共だ!」

 

 煽る仁信。ギョッとした目で若衆が此方を見た。目付け役の青年から、ゴーサインが出たことを察知した荒瀧派は勢いよく立ち上がる。

 

「何ぃ……? ソイツは聞き捨てならねぇ! おい、お前ら! 俺様達の底力を見せてやるぞ!」

「「「「へい、親分!」」」」

 

 荒瀧派に混じって喧嘩をふっかけようとする仁信。だが、騒ぎになる直前で……

 

「や・め・ろ!」

 

 ―――御詠鳴神刈山祭

 

「「「「「ナアアアアアア———ッ!!?」」」」」

 

 忍の強制ストップがかかった。繰り出される紫電に悲鳴を上げる野郎達。しかしそこは器用な彼女らしく、折檻に適した絶妙な加減であった。ワザマエ!

 

 体をビリビリと痺れさせ、五人は無様にも地に倒れ伏す。全身は黒焦げ、モクモクと口から黒煙を吐き出して満身創痍である。

 

 先程まで怯えていた若衆も、忍にお仕置きされる様子を見て好き放題言い始める。しかし、彼らの背後からヌッと人影が現れると。

 

「この若造共が……お前達みてぇなヒヨッコが、一丁前に人様の仕事にケチつけてんじゃねぇ!」

「っひい! お、親方……!」

 

 鬼の形相をした棟梁が叱りつけた。結局、未然だったことと若衆に責任があったことから、荒瀧派と仁信はお咎めなしで済んだのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇ 

 

 

 

「仁信、あんたには親分達の目付け役を頼んだ筈だが?」

「ごめんごめん! でも途中までちゃんとやってたから!」

「最後まで継続して欲しかったんだがな、そこは」

 

 全てが終わった後。仁信は忍を労わるため一斗達とは一旦別れ、二人で茶屋へと来ていた。

 

「責任は俺が全部取るから、一斗達を責めないであげてくれ。代わりと言っちゃあなんだけど、今回の依頼料はチャラで。あと奢るから何でも頼んで良いよ」

「……あんた、全部狙ってやっただろう。態と騒ぎを起こして、両成敗にするために」

「んー? 何のことやら。さっぱりだぜ」

 

 すっとぼけながら、お品書きに目を通す青年。教える気がないことを悟ると、「ありがとう」と一言だけ告げる忍。「なんか知らんがどういたしまして」とだけ返ってきた。

 

 忍にとって、荒瀧派は第二の家族も同然であった。そんな彼女にとって、家族の悪口を面と向かって言われるのは嫌なことであった……例え彼らが悪名高い集団だと分かっていても。それ故、どうにか庇おうとしていた仁信には感謝していた。

 

 以降は話題に出すことはなく、世間話をしながらお茶の一時を楽しんだ二人。腹を満たし茶屋を出ようと暖簾をくぐったその時、丁度忍の目の前を人が通りかかろうとしていた。

 

 ぶつかる……と思われた瞬間り忍の腕が掴まれ、体が後ろへと引っ張られた。

 

「おっと、大丈夫?」

「す、すまない。私の不注意で―――」

「あとお腹スベスベだね。一生触ってたいかも」

「……その手を離せ変態!」

「ぶげらッ」

 

 優しく引き寄せたついでに、忍の露出した腹を撫でるエロ小僧。キレの良いカウンターパンチが顔面にクリーンヒット。自業自得だ。

 

 ちょっと見直したと思ったらこうである。忍は呆れた。やはり最後で台無しにするのがこの男であった。

 

 やがて解散の時が近付くと、先を歩いていた忍は振り返り改めて礼を述べた。

 

「今日は助かった。ありがとう……また、頼らせてもらってもいいか?」

 

 後ろに回した手を組み、面頬で隠れて分かり辛かったが頬を染めていた忍。彼女にしては珍しいその様子に調子づいた仁信は……

 

「やっぱ俺とお付き合いしてみない? もしくは結婚」

「断る」

「くっ、駄目か……! 今はまだその時じゃないと?」

「後でも変わらない。言っただろ、親分達の世話で忙しいって」

 

 素っ気ない態度の忍。だが諦めの悪い男はアタックを仕掛け続ける。

 

「でも、そうだねぇ。何時かは君の可愛い素顔を俺が独り占め出来たら良いな……なんて」

「ッ気、気持ちの悪いこと言ってないで早く帰ってくれ……!」

「うわ酷い! んもう、分かりましたよ」

 

 だがしかし。自身の顔面偏差値に任せた気障な台詞攻撃も、有能な荒瀧派の二番手にはいなされてしまうのだった。―――彼女の顔が赤く見えたのは、きっと気のせいだろう。




オリ主:忍とはそれなりに長い付き合い。彼女の経歴を知る方々にはその理由が分かる筈。因みにクズ基準で忍は若干手を出し辛い相手。何故なら反撃が怖いから。

久岐忍:荒瀧派のナンバーツー。敏腕しごできニンジャ擬き。資格を多数取得し、留学経験もある有能すぎる女。その面頬の下には……とても可愛らしい素顔が隠されている。実は九条裟羅と仲良し。

荒瀧一斗:荒瀧派親分。鬼族の青年。問題ばかり起こすが、偏見にも負けない熱く優しい心を持つ漢の中の漢。歌がとっても上手。
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