稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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ちょっとこう、キツめの視線で踏んでもらってもいいですか?

 

 

 ―――稲妻は遂に閉ざされた国となった。先日、雷電将軍が公布した『鎖国令』と『目狩り令』は稲妻内外に大きく影響を及ぼした。

 

 特に『目狩り令』。この法令は、仁信を始めとする神の目の保有者にとって重くのしかかる問題。そんな彼や伝手のある幾人かは、正勝という職人の手を借りることに。精巧な偽物を天領奉行に渡すことで、何とか強制徴収を凌いだ。

 

 また、海祇島では『抵抗軍』が組織され稲妻幕府に正面から反抗。他にも将軍に異を唱えた人物が御前試合を申し込み、敗北の結果命を落とすという出来事があった。……その直後には友人の形見として、その人物の神の目を奪い去った浪人が指名手配されたりということも。兎にも角にも、国内の情勢は大きく変化することとなった。

 

「えええええ! フォンテーヌ行っちゃうのォ!?」

「声がデカいわよ! 静かにして」

 

 そして厳しくなった出入国管理。それを危惧したとある少女が、この国を旅立とうとしていた。

 

 彼女の名は千織。ダークブラウンの髪を結い上げ、アケビの花をモチーフにした簪を挿している。和服にスカートを融合させた独特な衣装を着こなし、紅色をした気の強そうな瞳が特徴である。

 

「本当に? え、本当の本当に?」

「しつこいわね。本当の本当よ」

「嘘だと言ってくれえぇぇぇ……」

 

 場所は小倉屋。小倉澪という女性が営む稲妻城内にある呉服屋で、千織が現在世話になっている店であった。

 

 本日、仁信は彼女と偶然にもすれ違った際に『どうせ暇でしょ。ちょっと来て頂戴』と連れて来られていたのだった。

 

「そこを何とか! 何とかなりませぬか!」

「ならないわよ。もう決めたことだもの……小倉屋には悪いと思うけどね」

 

 千織は稲妻中の様々な服飾店で修行ををするも、奇抜な発想や自分を曲げない性格が災いし多くの裁縫師から匙を投げられていた。そんな中で唯一受け入れてくれたのが、小倉屋だったと言う訳だ。

 

「クッソ、こうなったらヤケだ。綾華嬢と綺良々にゃんを呼んで三人で徹底抗議してやる!」

「止めなさい。君と違ってあの娘達は仕事で忙しいの」

「ちょっと、それだとまるで俺がニートみたいじゃないですかヤダー!」

「ニートまでいかなくてもフリーターなんだから暇人でしょ」

「便利屋と言ってくれせめて。あとフリーターとして頑張ってる世の皆さんに失礼じゃ……?」

 

 主に自分とか荒瀧派とか荒瀧派とか。……意外と皆定職に就いているのでは? 嘘、私浮いてる……?

 

 因みに綺良々とは、亜麻色のロングヘアーに頭の大きなリボン、猫の尾がトレードマークの少女だ。彼女は猫又であり、その尻尾は二つに分かれている。この場にいないのは、『狛荷屋』という運送会社で配達員をしているからである。彼女は千織にとてもよく懐いていた。

 

「でもさぁ、いくら何でも急すぎない? そりゃまたどうして突然出て行くなんて言い出したのさ」

「……コレよ」

「! そういうことね」

 

 こっそりと見せてもらったソレは、岩元素の神の目であった。この時世の中で、彼女はあろうことか神の視線を受けていたのだ。

 

「でも鎖国令と神の目(コレ)を手に入れたのは切っ掛けに過ぎないの。元々フォンテーヌに行きたいとは思っていたし、遅かれ早かれこの国を出てたわよ」

 

 フォンテーヌという国はファッションと流行の中心地。そして、千織は服飾デザイナーとして『テイワット中に自分のブランド名を広める』という大望を抱いている。彼女にとって、フォンテーヌへの進出は避けては通れぬ道だった。

 

 また、自身を置いてくれている澪にも恩義を感じているが……此処での活動も限界を感じていた。故に、稲妻を出る決断をしたそうだ。

 

「じゃあ分かったよ。俺も千織さんに付いてく!」

「来ないで」

 

 意味の分からないことを言い出す仁信。一体何が分かったと言うのだろうか。さっぱりである。

 

 その台詞は案の定バッサリと切り捨てられる。彼女は歯に衣着せぬタイプの女性であった。だが、彼も諦めの悪いタイプのクズ。ただで引き下がることはしない。

 

「家事とかやろうか? 忙しくなっても、俺がいれば生活水準はハイクオリティを維持出来るよ」

「いらない」

「お店の宣伝も出来るぜ! だって俺イケメンだし」

「モデルってこと? でも君、素材は良いんだけど中身がねぇ……」

「え? 見た目も中身もパーフェクトだって?」

「言ってないわよ」

「照れますねぇ。……どうです千織さん、この際俺とお付き合いを前提に結婚でも」

「はっ倒すわよ」

 

 溜め息を零す千織。彼女はジト目で「あのね」と続けた。

 

「仮に私の店で働くって言うならそれ相応の振る舞いを心懸けなさい。ウチのブランドに傷がつくなんて以ての外。君、可愛い女の子が居て大人しく出来るの?」

「無理っすね!」

「でしょう?」

 

 即答であった。彼はほぼ脊髄で返答していた。

 

 フォンテーヌは外国人への目が厳しいと言われている。そこで一から自分の店を立ち上げるとなると、相当な困難が待ち受けているのは想像に難くない。仁信が軽率な行動で台無しにしようものなら、千織は躊躇なく男の愚息をちょん切るだろう。……実際にやるかは分からないが、そう思わせる凄みがあった。

 

「え〜……じゃあ千織さんとはお別れかぁ」

「別に今生の別れって訳じゃないんだから」

「暫く会えないってだけでしんどい」

「自分は数日家を空けるなんてザラなのに?」

「ソッチは数日なんてレベルじゃないでしょ」

 

 がっくりと項垂れた様子の青年。しかし、疑問に思うことがあった。

 

「てかどうやって出国するの? もう既に監視の目は厳しいけど」

「神里家が協力してくれることになったの。裏で手を回して、こっそり逃がしてくれる予定よ」

 

 千織と神里家は幼い頃から親交がある。特に綾華とは、下の名前を呼び捨てにするくらいには仲が良かった。……兄には当たりが強いが。

 

「流石人情派一族。……あれ? となると、抗議の場に綾華嬢呼んでたら……」

「あの娘は私の味方したでしょうね」

 

 明かされる衝撃の事実。智将綾華の寝返りなど形勢不利にも程がある。危ないところだった。

 

「他の人達には挨拶したの?」

「……実はあまり出来てないのよ。今だって、君と偶々会うことが出来たから言えた訳だし」

「相当急いでるんだねぇ」

「ああでも、今までの師匠達には啖呵切ってきたわ」

「さ、流石っすね……」

 

 どこまでもブレない彼女らしい行動だ。ここまで強気だといっそ清々しいまである。

 

「本当は忙しい筈なのに、俺のために態々?」

「君には何度もお世話になってるしね。直接こうして話せるのも、暫く出来ないでしょうし……君のことは案外気に入ってるのよ」

「千織さん……!」

 

 そう言って薄く微笑む。千織は、良くも悪くも自分を曲げず正直に生きる青年のことを好く思っていた。

 

「じゃあさ、長いお別れの挨拶代わりに頼みたいんだけど」

「何?」

「その黒タイツ、脱ぎたてのやつ俺に頂戴……嘘嘘、やっぱナシで!」

「あら? 別にあげてもいいのよ。君のお見舞いの品としてね……!」

 

 しかし、このスケベな性格ばかりは直して欲しいと常々思っていた。折角の雰囲気が無に帰した。

 

 物騒な物言いと共に二振りの刀を構える千織。完全に入院させる気であった。

 

 彼女の目は据わっていた。呆れと蔑みがブレンドされた視線がドスドスと男に突き刺さる。仁信(ゴミ)は少し興奮した。気色悪いことこの上ない。

 

「まーでも、心配はあんましてないかな。どっちかと言うとこれから千織さんにボコボコにされる人達の方が心配」

「ちょっと、どういう意味?」

「ふぁ、ファッションのセンスでって意味ですよぉハハハ」

「……そう」

 

 彼女の突飛なアイデアは、稲妻の伝統的な価値観と相性が悪い。とは言えその腕は確かである。仁信の知り合いにも何人か彼女が手掛けた服を持つ者がいるが、どれも素人目で見ても素晴らしい出来栄えであった。

 

 一方で、その破天荒な性格の餌食になる人達が心配なのも本当であった。強く生きろよ……!

 

「千織さんぐらい芯の通った強い人なら、逆境の中でもブレないだろうし。貴女の素敵なところですよ」

「はいはいありがと」

「褒めてるんだよ? 素っ気なくない?」

「あら。いつもの口説き文句かと思ったから」

「否定はしない」

 

 ソレは彼の本心であった。とは言え、千織という少女の強さを知る人なら皆同じことを口にしただろう。

 

「でも、そうね……この国を出る前に運勢でも占っておこうかしら」

「お? 鳴神大社にでも行くのかい?」

「もう、分かってて言ってるでしょ。君にお願いしてるのよ」

「ははーん、やっぱり? そう来なくっちゃあね!」

 

 下手な占いやおみくじより確実性のある仁信の能力。そもそも知る人は限られているが、強力過ぎて神子からは商売で使うことを禁止されている。今回は特別だ。

 

「何が知りたい? 健康運? 金運? それとも……恋愛運? ソレなら運命の相手が目の前に」

「金運よ。……というより仕事運? 商売繁盛辺りかしら」

「つれないなぁ。はいはい良いですよ、商売繁盛ね。どれどれ……」

 

 ジッ……と千織の美麗な顔を見詰める。じっくりと舐め回す様なその視線に、彼女も僅かに顔を顰める。

 

「ほほうほうほう。これはこれは……」

「ちょっと、まだ?」

「まだですまだです……千織さんの綺麗な顔をガチ恋距離まで近付けてくれたらもっと見えると思う」

「お疲れ様。帰って良いわよ」

「あーっ待って待って! ジョークですよぉジョーク! イケメンジョーク!」

「内容はイケメンと程遠かったけど」

 

 仁信を帰そうとする千織。流石におふざけが過ぎたかと反省。咄嗟に誤魔化す。

 

「ン゙ン゙ッ、ではでは。ダラララララララ〜……ダン!」

 

 ドラムロール(セルフver.)を挟みつつ、占っ(見通し)た結果を告げる。

 

「始めの頃は、慣れないことも多いでしょう。生活も今よりずっと苦しい筈。ですが貴女はそんな状況ですら楽しむこと間違いなし。やがて自分の店を開き、地道な努力が認められるようになると……」

「なると?」

 

 勿体ぶるように溜める仁信。ニヤリと笑って締めの言葉を告げる。

 

「たちまちお店は大繁盛。貴女は自身の夢を叶えながらも、他人の夢を叶える側に立つことでしょう!」

「そう、それは素敵ね。……君のお墨付きか……なら、信じられるかも」

「でしょ?」

 

 茶目っ気たっぷりのウィンクを返す青年。ソレを見た少女の顔には、朗らかな笑みが浮かんでいた。

 

 ―――やがて楽しい時が過ぎ去り、名残惜しくも別れの時間が訪れると。

 

「さてと。こちらから呼びつけといて悪いけど、そろそろ仕事に戻らないとね」

「そしたら俺ももう行くよ。……またね千織さん。今度は俺から会いに行くぜ」

「あら、本当? ……その言葉、忘れないでね」

 

 そう言い合って、約束を交わした二人は背を向け合うのだった。




オリ主:ナイス視線。ご馳走様です。へへへ……

千織:未来のカリスマデザイナー。今はまだ花咲く前の蕾。邪魔する者は腕っぷしで解決するなど、かなり苛烈な性格をしている。当然怒らせたら怖いため、クズも手を出すのには慎重にならざるを得ない相手。
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