稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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鳴神島からの使者!セクハラ魔ッ!

 

 

 島の誰もが寝静まった夜。簡素な机と椅子に、書物が所狭しと並べられた棚が置かれた洞穴。行灯の仄かな光が内部を照らす。人気のない、まさに秘密基地の様な空間。其処に、『現人神の巫女』にして抵抗軍の現指揮官を務める少女―――珊瑚宮心海は居た。

 

(遂に始まってしまいました……幸い、あの人のお蔭で備えはあります。被害もずっと抑えられましたが……やることが山積みですね)

 

 うとうとと舟を漕ぐ心海。その顔には疲労の色が浮かんでいる。机に突っ伏せ、眠気に身を委ねようと……

 

「ハロー、こっこみ〜ん! 元気してたかい!」

 

 ……したところで、突如聞こえてきた声。顔を上げ声の出所を探すと一人の男と目が合った。親愛なる隣人の名で親しまれる蜘蛛男の如く、天井に逆さで貼り付く姿を視界に入れた心海は―――

 

「きゃあああああああああああ!!?」

 

 先程までの眠気を吹き飛ばす勢いで悲鳴を上げたのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「ごめん、ごめんって」

「本当に、本当に怖かったんですからね!? ああもう、心臓が止まるかと……」

「そうなったら人工呼吸してあげるね」

「茶化さないで下さい!」

 

 圧倒的不審者感丸出しで現れた青年―――仁信の胸を、顔を赤くしてぽかぽかと叩く心海。

 

「と言う訳で。改めて久しぶり! いやそんな久しぶりじゃない気も……? いいや、兎に角元気だった?」

「え、ええ。こちらは何とか……貴方の方は元気過ぎるくらいですね」

 

 何処からともなくやって来た彼は、「よっこいしょ」と心海の隣の椅子に腰を下ろす。少女も一先ず落ち着くと、先程まで座っていた椅子に再び腰を下ろした。……ところで青年の座っている椅子は何処から持って来たのだろうか。

 

 気にしたら負けだと思った彼女は考えるのを止め、別の疑問をぶつけた。

 

「先日お会いした時は、此方に来るのは厳しくなると言っていませんでしたか? 監査も今では一層厳しくなっている筈……」

「ほんの少しって言ったじゃん。やっぱあんなのザルだよザル」

 

 本当に宣言通りの『ほんの少し』だとは思わないし、まさかこの状況において単身で海祇島に来るとも思わないだろう。この男の行動力は一体どうなっているのだろうか。

 

 一々気にしていたら頭が痛くなりそうだ……と一人悩む心海を他所に、仁信は喋り始めた。

 

「聞いたよ。この前デカいドンパチがあったって」

「ええ。ですが、幕府軍は精強ですから我々も無策では挑みません。十全な準備の甲斐もあり、想定より被害は抑えられたかと。……また、貴方に助けられましたね」

「いーのいーの。本当は戦争なんて無い方が良いんだから」

「全くです」

 

 そっと目を伏せる心海。少女の顔に暗い影が差した。その様子を見て、仁信は何かを察した。

 

「……やっぱ犠牲は出ちゃったか」

「……はい……」

「そっ、かぁ……」

「貴方が気に病む必要はありません。多少の犠牲は承知の上です」

 

 そう。彼に感謝こそすれど、責めることは絶対にないのだ。暗くなりかけた雰囲気を変えようと、話題を逸らす。

 

「そう言えば、楓原さんのことですが……」

「万葉か! どう? アイツも元気してる?」

「はい。実力も申し分ありませんし、素行も問題ありません。彼の様な人材を紹介して頂けたことにも感謝しなくてはなりませんね」

「アイツも暫く身を置く所が必要だったし、お互い様でしょ。俺は仲介しただけだし、そこまで感謝される必要はないけどね」

 

 楓原万葉。紅葉色の瞳と白髪に一房瞳と同色のメッシュが入った容姿をしており、楓の意匠があしらわれた和装を着こなす青年だ。浪人だった彼は以前、天領奉行に指名手配されてしまったため逃亡生活を余儀なくされることに。その際に途中まで手を貸し、海祇島へと渡るようアドバイスを送ったのだ。どうやら目論見は成功したらしく、彼は現在抵抗軍に在籍していた。

 

「よーし、この後会いに行くかな。ゴローの顔も見たいし」

「それなら兵舎への道を後で教えましょう。それと、二人は気が合うみたいでよく一緒に行動しています。どちらかを見つけられれば、高い確率でもう一方にも会えるかと」

「サンキュー! もう仲良しなのか、良いことだ」

 

 縛られるのを嫌うが、和を乱すような人物でもない。上手くやっていけてる友人の様子に安堵する仁信。

 

 青年はホッと一息吐くと、椅子に深く背を預けながら。

 

「……何時まで続くんだろうね」

「……それは私にも分かりません。しかし目狩り令が続く限り、私達は戦い続けます。例え苦しくとも人々の神の目(願い)を奪う行いに屈する訳にはいきません」

「無理はしちゃ駄目よ」

「無理でも戦い続けなくては。弱音を言ってはいられませんから」

 

 唇をきゅっと強く結ぶ少女。その言葉は、自らに言い聞かせている様でもあった。

  

「偶にはガス抜きしなきゃ。出来てる?」

「ご心配なく。こうして時間を見つけては、この場所で休息を……」

「そうじゃなくて、もっと自分の気持ちを吐き出そうよ」

 

 心配になった仁信はストレートに言い放った。

 

「知っての通り、俺はすっっっごい眼が良いからさ。心海がどれだけストレス溜め込んでるか、顔色見ただけで分かっちゃうのよ。今の君は史上最低レベルにコンディションがガタガタ」

「…………」

「いつも通りの息抜きじゃ効果ないでしょ? 言っとくけど、俺の前で誤魔化しは効かないからね?」

「……敵いませんね、貴方には」

 

 判断が早い。脅す様な仁信の台詞に心海はあっさりと白旗を揚げた。しかし、最後の一線は守りたいのか食い下がる。

 

「ですが住民や兵士達に、私の愚痴を聞かせるなんて出来ません。海祇島の未来を背負う者として、はしたない姿を見せる訳には……」

「ゴローでも無理か」

「はい。彼は親身になってくれるでしょうが、これからの戦に余計な心配を掛けさせることは出来ません。彼は大将ですから、士気に悪影響です」

「ふーん。じゃあ俺で良くない?」

 

 何処までも強情な心海に、自分が居るだろうとハッキリ伝えるも……

 

「……それも無理です。これ以上貴方に迷惑を掛けるなど、私が耐えられません」

「本人が構わないって言ってんのに?」

 

 こくりと頷く。お互い引き下がる気のない様子。一歩も譲らない彼女に対し、仁信は頭をガリガリと掻いて呆れた様に言葉を紡ぐ。

 

「もうさ、正直に言っちゃいなよ。『しんどい』って。てか言え!」

「ですから……」

「此処に居るのは抵抗軍の兵士でも幕府軍の連中でもありまっセーン! 超強くて頼りになる只の一般通過イケメンなんだから! さあさあさあ!」

 

 痺れを切らした仁信はバンバンと机を叩き急かす。あまりの勢いに心海も狼狽えるしかなかった。そうこうしている内にも、青年の方はドンドンとヒートアップしていく。

 

「言っとくがこうなった俺はしつこいぜ! 例え火の中水の中草の中、君の部屋の中! 全部喋ってくれるまで何処までも粘着してやるからな!」

 

 火や水、草は百歩譲っても部屋の中まで行く必要はないだろう。思いやる気持ちは立派なのに、発言の所為で何もかもぶち壊しである。

 

 だがその真摯な気持ちは、少なくとも目の前の少女には伝わった様で。

 

「……良いのでしょうか」

「ああ」

「貴方になら、打ち明けても良いのでしょうか」

「良いとも!」

「本当の私を見せても、良いのでしょうか……」

「どんと来い! 全部受け止めてやんよ!」

 

 ―――そこからの心海は枷が外れたかの様に、自らの胸の裡を晒け出し始めた。

 

「とても……辛いです。万能な私を取り繕って、内気な『私』を隠し続けることが」

 

「島の皆の期待に応えるために神経を擦り減らし続けてきました。民に感謝を貰えると、その甲斐もあったと嬉しくなります」

 

「でも本当にやりたかったことは違います。私はただ、血筋から逃れられなかっただけなんです」

 

「最近は戦争も始まって……仲間が傷付く度に、胸が締め付けられる思いで一杯で。とても、苦しい……」

 

 震えた声で、正直な気持ちを吐き出した心海。其処には指導者としての姿はなく、一人の少女としての彼女が居た。

 

 仁信は椅子ごと彼女に近寄ると、そっと頭を抱き寄せた。

 

「実は俺も目狩り令に逆らった方でね。神の目の強制徴収を偽物で誤魔化したんだ。鳴神島でも将軍に懐疑的な人物達が密かに反抗している。幕府と戦っているのは君達だけじゃない」

 

 安心させる様に言い聞かせる。トントンと背中を優しく叩き、赤ん坊をあやす要領で一言告げた。

 

「安心して。一人じゃないよ」

 

 その一言で、押し留めていたものが決壊したのだろう。静かに嗚咽を漏らす心海。青年はその間にも、少女の背を叩き頭を優しく撫でていた。やがて泣き疲れたのか、彼の腕の中で眠りに就いた。

 

 すやすやと息を立てる安らかな寝顔。優しい瞳でソレを見詰めていた仁信は―――徐に、心海の長髪に顔を埋め始めた。

 

 更には深く息を吸い出し、寝ていて反応が薄いのを良いことにさわさわと全身を撫で回し始めた。最悪である。

 

女子(おなご)というのはどうしてこんなにも良い匂いがするのだろうか……肌もスベスベで柔らかいし。正に神秘だ。コレは人類が真理を究明するべき命題の一つでは?)

 

 シリアスは続かなかった。雰囲気を台無しにすることに定評のあるのがこの男。今までの流れは一体何だったのだろうか。やはりクズは、何処まで行こうとクズなのであった……

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 朝になり、心海が目を覚ますと……自身の頭が青年の膝の上にあることに気付いた。

 

「おーっす未来の名軍師! 良く眠れたかな」

「すすす、すいません! 一晩中こんな……!」

 

 どうやら、椅子を二つ並べて簡易的な寝台を作っていたらしい。慌てて跳ね起きる。少女の頬は恥ずかしさから、ほんのりと朱に染まっていた。

 

「ははは、気にしない気にしない……代わりに良いもの見せてもらったから」

 

 そう言って笑顔と共に、仁信は手に持っていた物を見せる。すると……ソレを見た心海は固まった。

 

「やっぱ心海は可愛いところあるよね、日記なんかつけちゃってさ。『今日は新しい兵法書が届いた、エネルギー+2。』」

 

 なんと、彼が持っていたのは心海の日記であった。パラパラとページを捲ると、内容を音読し始める。

 

「この日は大変だったねぇ……『島に新しくやって来た商人が大変なトラブルを起こした、エネルギー-3。』」

「あ、あわわ……」

「お? この日付ってもしかして! 『あの人が私に会いに来てくれた、+―――』」

 

 これ以上ない程赤くなった少女の、悲痛な叫びが辺りに木霊した。

 

「か、返して〜〜〜っっ!!!」




オリ主:シリアスブレイカーなクズ。人の日記を勝手に覗いた挙句読み上げる無神経なゴミ野郎。何故か心海に対しては寝ている間に悪戯することが多い。また、彼女に会う為しれっと違法行為をしている。

珊瑚宮心海:抵抗軍の指揮官。本来の性格は内気で、人前に立つのは苦手。自身の中に『エネルギー』と言う指標を設け活動の基準にしている。お労しいことに寝ている間のセクハラには気付いていない。やはり最後は辱めを受けてフィニッシュ。
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