稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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アイエエエエ!ニンジャ!?ニンジャナ……って寝とる!

 

 

「はっ、はっ、はっ……!」

 

 童女―――否。年齢的には立派な少女が、薄暗い森の中を駆けていた。彼女は必死の形相で、ある追手から逃げ回っている。持てる技術を総動員し木から木へと縦横無尽に跳び移り、時には茂みの中を突っ切って進行方向を惑わそうとした。

 

「早〜柚〜ちゃ〜ん! あーそびーましょー!」

「く、来るな!」

 

 しかし、件の追手にはそのどれもが無意味であった。少女並みの身軽さを披露し、身を隠そうにも一瞬で居場所が割れてしまう。奴から逃れるのは至難の業であった。

 

(拙はただ、寝ていたいだけなのに……!)

 

 事の発端は数刻前に遡る―――

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

   

 

「えー、奈々さん。貴女の依頼とは……何時も通りの()()ですね?」

「はい、何時もの()()です。あの子ったら本当に……」

 

 場所は鳴神大社。其処で、黒髪の青年―――仁信と一人の巫女が会話していた。

 

 巫女の名は鹿野奈々。巫女でありながら、『終末番』と呼ばれる秘密組織に所属してもいる。

 

「社奉行からの命で早柚の力が必要なのですが、姿が見当たらず……私も捜しに行きたいものの現在、少々手が放せない状況でして。神社に戻る途中で貴方に会えたのは僥倖でした」 

 

 仁信は影向山の麓で素材採集を行っていたところ、鳴神大社への帰路に着いていた奈々に遭遇。「丁度良いところに」と神社へ連れて来られ、ある依頼をされていた。

 

 その依頼とは、ズバリ人探し。対象の人物は早柚と言う。彼女は明るい蓬色のショートヘアに、赤みがかった瞳をしている。その瞳は眠たげであり、またムジナを模した服が特徴である。幼い見た目をしているが年齢は見た目よりずっと上である。

 

「その様子だと……やはり何時もの場所には居なかった感じで?」

「ええ。お手数ですが、仁信さんには何時も通りあの子を連れ戻して頂きたく……」

「了解しました。場所は此処で良いですか?」

「いいえ。時間もありませんし、本日は神里屋敷の方でお願いします。早柚に用が有るのは私でなく社奉行の方ですから」

「合点承知! 後のことは俺に任せて下さい」

「ありがとうございます」

 

 早柚も奈々同様に、終末番に所属している。しかも彼女は幼い頃から忍術を叩き込まれており、逃げ隠れに関してはエキスパートである。実力ある忍者であるため、並大抵の人物では捕えることは出来ない。

 

「それじゃあ奈々さん。早柚ちゃんの私物とかは……」

「ソレも用意してあります。元より、見つからなかったら貴方に頼もうと思っていましたから。……はい、あの子の手拭いです」

「助かります」

 

 早柚の私物から因果を辿り、彼女の現在地を探る。仁信の視界に映る景色がぐんぐんと移り変わっていく。暫くすると……目標を発見。相も変わらずサボって昼寝をしているらしい。木の上で体を丸めて寝ている姿を確認出来た。

 

「よし、見つけました。後は付近を探索するだけですね。では、行ってきます」

「お願いします。……あっ」

「どうかされました?」

 

 ふと何かを思い出したかの様に声を上げる奈々。

 

「こちらから急かしておいて何ですが、宮司様には」

「面倒臭いのでいいです。じゃ、今度こそ行ってきますね!」

「え? ちょ、ちょっと……」

 

 逃げる様に姿を消す青年。彼は余計なことが起きる前にさっさと出発するのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 まだ日が出ているにも関わらず、暗く鬱蒼とした森。鎮守の森と呼ばれる其処に、少女―――早柚は居た。

 

(何故だか眠れない……嫌な予感がする)

 

 先程までは気持ち良く眠れていたと言うのに。急に目が醒めてからと言うもの、妙に落ち着かない。長年鍛えた忍びの勘が騒ついていた。

 

 胸の騒めきの正体……ソレはすぐに知ることとなる。

 

「―――ドーモ、早柚=サン。通りすがりの便利屋です」

「! 主は……!」

 

 寝転がっていた木の下から聞こえてきた男のアイサツ。聞き憶えのある声に反応し、下を覗いてみると。其処には巫女姉さん(鹿野奈々)からの刺客である仁信が居た。彼は時々、監視役の奈々に代わって自身を捕まえに来るのだ。

 

「奈々さんからの依頼があって君を捕まえに来た。さあ、大人しくお縄につこうか」

「断る。何時も言っているが、拙は寝るので忙しいのだ」

「今捕まってくれるのなら、奈々さんに俺からの口添えをしてあげて良いけど」

「……こ、断る」

 

 早柚とて叱られるのは嫌である。少しでも説教を減らしてくれるなら……と甘い誘いに乗りかかるも、そもそも捕まらなければ良いと考え直す。

 

「今なら俺が握った握り飯も追加してあげよう。知ってるだろうけど、美味しいよ?」

「……せ、拙は物で釣られたりなどしない……!」

 

 しかし男の誘惑は止まるところを知らない。早柚も何度か食べさせてもらったことがあるが……アレは絶品であった。思わず涎が垂れそうになるが、ギリギリのところで踏み止まる。

 

 仁信は彼女が何度も逡巡していたのを知りつつも、最終的に誘いを全て蹴ったのを確認すると。

 

「仕方ない……こうなれば実力行使あるのみ」

「おのれ、拙の邪魔をするのか……!」

「へっへっへ、撒けるモンなら撒いてみるんだな早柚ちゃん!」

 

 早柚が居る木へにじり寄る仁信。彼女は見た目通りの年齢ではないが、側から見れば事案である。天領奉行さんコッチです。

 

 早柚は覚悟を決めると起き上がり、大胆に跳躍。枝から枝へと、身軽に跳び移った。

 

「待ちなさーい!」

「待たぬ!」

 

 一方の仁信も即座に反応し、早柚が逃げて行った方向に駆け出して行った。

 

(奴は拙の眠りを妨げるつもりだ……そんなの許さないぞ)

 

 かくして、烏呼流継承者VS花見坂一の便利屋のチェイスが始まったのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

  

 

 

 ―――そして話は冒頭へと戻る。邂逅から数刻経った今も尚続く逃亡劇。逃げ隠れに特化した早柚の忍術やテクニックを、男は生来の肉体や特別製の眼で以て真正面から打ち破るのであった。

 

「君とは今まで何度も追いかけっこをしたけど! 一度でも俺から逃げられたことがあったかな!?」

(っ! 悔しいが、拙が逃げれたことはない……)

 

 少女と青年の戦績は、少女の全敗。彼らは鳴神島の至る所で鬼ごっこを繰り広げてきたが、どんな状況であろうと彼女が勝てたことはない。

 

 だがソレが諦める理由にはならない。ピンチであろうと活路を見出し、突破してみせるのが忍者。

 

「ならば今日! 拙は主から逃げ切ってみせる!」

「その意気や良し!」

 

 早柚がかつて神の目を授かった時もそうだった。最悪の時にこそ、チャンスと言うものは訪れるのだ。過去からの教訓を胸に早柚は逃げ続ける。

 

(捕まってなるものか! 巫女姉さんに、巫女姉さんに叱られるのは嫌だ……!)

 

 説教を喰らうことだけは避けたい。その一心で走る早柚。すると目の前に、突如として横から飛び出してきた仁信。どうやら何時の間にか先を越されていた様だ。

 

「しかし回り込まれた!」

「なんのっ」

 

 小柄なその体躯を活かし、自身を捕らえようと伸ばされた腕をすんでのところですり抜け躱す。彼は振り返って再び手を伸ばすが、すかさずムジナを模した身代わりを出現させ撹乱を図る。

 

「俺に代わり身は通用しないぜ!」

「厄介すぎるぞ……!」

 

 しかし効果は今一つ……否、効果はないようであった。分かってはいたが、何時になっても引っかからないのは少し悲しくなる。惑わされることなく、真っ直ぐに追跡してくる追手に歯噛みした。

 

 そんな早柚の視界には光が差し込み始める。やがて薄暗い鎮守の森を抜けると、見えてきたのは太陽の光が降り注ぐ開けた道。朱色の鳥居を抜けた先の整備された石段……嫌に見覚えがある。だが他に道は無い。足を止めることは出来ず走り続けるも、気付いた時には既に遅かった。

 

「っ、此処は……!」

「気付いたかい? 君は知らず知らずの内に誘導されていたのさ……この神里屋敷にね」

 

 目に入った建物は神里屋敷……今回の目的地でもあり、早柚の苦手な場所でもあった。そして奇妙なことに代行はおろか護衛の姿さえも見当たらず、珍しく人の気配が感じられない。詰まるところ、現在この場には早柚と仁信の二人のみ。

 

「ま、まだだ!」

「いいやお終いさ。そう、君は! チェスや将棋で言う『詰み(チェックメイト)』に嵌ったのだッ!」

 

 嫌がらせなのだろうか、忍びである彼女に対し苦無を投擲。当てる気は感じられなかったものの、牽制され逃げ道を封鎖されてしまう。ジリジリと、屋敷の入り口近くの外壁へ追いやられる早柚。普段は眠たげな少女の瞳は、珍しくも潤んだものになっていた。

 

「誰か、誰か助けを……」

「おっと、そんなものは来ないよ? 皆が休憩で居なくなっている隙を狙ったからなぁ!」

「う、ううう……」

「へへへへへ、ははははは! さあ、どうしてくれようか!」

「や、止めろぉ……!」

 

 手をワキワキとさせる変態野郎。迫るピンチ。おお、ブッダよ! まだ寝ているのですか!

 

 しかし、追い詰められた早柚に救いの手を差し伸べたのはブッダなどではなく……

 

「……仁信さん……?」

 

 『白鷺の姫君』こと神里綾華だった。大きく目を見開き、ショックを受けた様な表情で体を震わせている。彼女には偶然、外出の予定があったのだろう。丁度、屋敷から出てきたところであった。

 

「さ、早柚ちゃんに一体何を……」

「ん? ……あっ」

 

 其処に居たのは、邪悪な笑みを浮かべる仁信と壁際に追い詰められ涙目の見た目幼女な早柚。辺りには苦無が突き刺さり、非常に危険な現場と化している。事情を知らない者から見れば、今にも男が幼女を襲おうとしている様ではないか。

 

 漸く自らを客観視出来たのか、間の抜けた声を上げる仁信。今は誰も居ないことが分かっていても、後から現れることは想定出来ていなかったらしい。己の能力に過信して現在の一場面だけを覗き、その後の光景を確認しなかった見通しの甘さが仇となった。

 

「待ってくれ綾華嬢、コレは違うんだ。決していかがわしいことに及ぼうとしていた訳ではなく―――」

「綾華お嬢様ぁ! ぐす、こ、怖かったああ……」

「嘘泣きィ!? な、なんて小賢しい真似を!」

 

 タタタッと綾華の元へ駆けて行く早柚。まるで幼子が庇護を求めるかの様にがばりと抱きつく。普段は子供扱いされるのを嫌がる彼女だが、この状況下では自身の容姿をフルに活用していた。

 

 状況の理解が済んだのか、綾華のスゥッと瞳からハイライトが失われる。確実に誤解された。彼女の纏う雰囲気の変化を察知した仁信……もとい、推定:変態ロリコン野郎は冷や汗を流して弁解する。

 

「おおお落ち着いてくれ! ちゃんと一から説明するから! マジで何もしてないから!!」

 

 綾華を中心に氷元素力が集まっていく。この場には三人しかいないため、神の目の力を行使しても問題ないと判断したのだろう。仁信は人気のないタイミングを選んだことを後悔した。

 

 ―――神里流・霜滅

 

「いやホントにちょっと待ってヤバい洒落にならなあああああああああああ!!!」

 

 尚。変態は制裁されるも結局、早柚はそのまま綾華に連れられ任務を受けることに。どんな形であれ、依頼はしっかりと遂行する便利屋なのであった。




オリ主:嫌らしい追跡技術を見せ、早柚を半泣きにさせたクズ。後に誤解は解けたものの、危うくロリコンと勘違いされるところだった。尚、早柚は神里兄妹の言うことに逆らえないことを考えれば、今回クズがやったことは無駄である。

早柚:外見詐称系忍者。合法かは不明。鹿野奈々の刺客として遣わされる際のクズは苦手だが、普段の彼には好意的である。偶にご飯をご馳走してもらったり、一緒に昼寝をしたりと基本的には仲が良い模様。仕事モードのクズは別人の様に見ている。

神里綾華:現場を目撃した時はショックで気を失いかけた。後にしっかりと説明を受け、クズが幼女趣味でないことに安堵した。

鹿野奈々:通称・巫女姉さん。早柚の追跡に関する専門家。
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