稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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子供の体力を舐めたらあかんで!

 

 

 ある日の朝。食事を済ませた仁信は仕事も無く、居間の炬燵に入り寛いでいた。

 

(あ゙〜……さっむ……)

 

 自作の暖房器具の上に置いた薬缶から甲高い音が鳴り出す。合図を受け取った彼は沸いた湯を湯呑みに注ぎ、熱々の緑茶で体を温める。

 

 ほう……と息を吐き、ぼーっと虚空を見詰めていると、ドンドンと元気良く家の扉が叩かれる音。何やら朝から来客の様らしい。

 

「はーい、どなたですかぁ!」

「うちや! ちょい出て来てー!」

 

 寒さに体を震わせながら声を張る。玄関は居間を出てすぐなため、声量次第では普通に外と会話出来るのだ。

 

 返事を聞いた仁信は玄関へ。鍵を開け引き戸をスライドさせると、其処には見知った少女が居た。長袖の上着に手袋と、冬の装いをした彼女はニカッと明るい笑顔を見せると、快活な挨拶をしてくれた。

 

「おはようさん! 今朝は一段と冷えるなぁ。……ところで、今日って時間空いとる?」

 

 訪問者は特徴的な訛りの入った話し方の少女―――宵宮であった。

 

「おはよう。今日は何も無いけど……どうした、仕事の依頼か? 上がってく?」

「あー、依頼っちゃ依頼かもなぁ……でも仕事やあらへんし。うーん……」

「?」

 

 物事は比較的スパッと言うタイプの彼女にしては珍しく、どっちつかずな内容……どうしたのだろうか。

 

「兎に角、来たら分かる。ちゃっちゃと服着替えたら、うちと来てもらえる? あ、動き易い服装でな」

「ええ、外出んの? まぁ良いけど……」

 

 一先ず彼女には中で待っててもらい、自室へ引っ込んだ。言われた通りに動き易い服に着替え、準備を整える。居間に戻ると、暖房の前で体を温める彼女に話しかけた。

 

「用意出来たぞー」

「おおきに〜。ほな、行こか!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「皆ー! すまん、待たせたなぁ」

「宵宮お姉ちゃん、やっと来た!」

「便利屋の兄ちゃん連れて来てくれたんだ! おーい!」

 

 宵宮に連れられて来た場所は、花見坂からやや離れた白狐の野。開けた草原には、近所の子供達が大勢居た。

 

「成程、そう言うこと」

「うん、そう言うこと! あんたへの依頼っちゅうことでも構へんから、うちと一緒にあの子達の相手してくれる?」

「流石にコレぐらいで金は取らんよ……ま、偶には良いかな」

 

 どうやら彼等彼女等きってのお願いだったらしい。確かに宵宮一人でこの数を相手するのは一人ではキツかろう。

 

「しっかしまあ、こんな寒い中ようはしゃぎおるわ」

「あはは! 子供は風の子、元気なのはええことや」

「この後、風邪の子になってなきゃ良いけどねぇ」

 

 既に辺りを駆け回る子供達。低気温にも関わらず、エネルギーに満ち溢れていて何とも羨ましい。

 

「じゃあ、まずは鬼ごっこねー」

「宵宮お姉ちゃん、鬼やって!」

「えー、おれは便利屋の兄ちゃんにやってほしいなあ」

「おれもおれも」

 

 鬼ごっこか。こうして体を動かすのも、偶には良さそうだ。体も温まりそうだし。

 

「スケベの兄ちゃん、お願い!」

「オーケーだ、覚悟しろよジャリ共。あとスケベの兄ちゃんは止めてね」

 

 自覚はあるが、子供に言われると複雑なのだ。何だか自分が教育に悪い存在みたいな気分がしてくるのである(実際悪い)。

 

「じゃあ、いくぞー! 一、ニ、三……」

 

 鬼役を引き受けた仁信は目を瞑り、十秒数える。十秒目に目を開けると、遠く離れた子供達目がけて走り出した。

 

「オラオラオラ、遅いぞ遅いぞ! そんなんで逃げ切れると思ってんのか!」

「きゃー!」

「わー! 逃げろー!」

「はやーい! あははははは!」

 

 幼い子が相手と言えど、程々に本気を出すのが仁信の流儀。遊びであっても容赦はしないのだ。

 

 あっという間に全員を捕まえた仁信。すぐに終わってしまった割には楽しそうな表情の子供達。だが、満足はしていない様で……

 

「もう一回! もう一回!」

「次は宵宮お姉ちゃんやって!」

「よしきた、任せとき!」

 

 今度は宵宮が鬼でスタートすることに。一回戦目でウォームアップは済んだのか、全員が先程よりも機敏な動きを見せていた。

 

「はい、ターッチ……」

「惜しいな、残像だ」

「!?」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「いーち、にーい、さーん……」

 

 鬼ごっこの次はかくれんぼ、と誰かが言い出したのをキッカケに次の遊びに移行した彼等。最初の鬼役の少年が両手で目を塞ぎ、カウントしているのを尻目に仁信は隠れる場所を探していた。

 

「お、良い場所はっけーん」

 

 冬でも葉を残す茂みを発見。青年の大柄な体格でも難なく隠せそうな其処には、既に先客が居た。……宵宮である。普通は別の場所に行きそうな気もするが、仁信はお構いなしに突撃した。

 

「お邪魔しまーす」

「……ちょ、ちょっと? うちがおんねんけど?」

「良いじゃん良いじゃん、此処しか良さげな場所なかったんだって」

 

 絶対嘘だ。宵宮は直感的にそう思ったものの、仁信は既に同じ茂みの中に入って来ていた。……何故か後ろから抱きつく形で。

 

「っ!?」

「シーッ、静かに。バレちゃうぜ」

 

 お互い上着越しではあるもののピッタリと密着している。少女には青年のゴツゴツとした、青年には少女の柔らかな体の感触が感じられた。吐息もハッキリと分かる程近く、宵宮の心拍数は急上昇していた。

 

「!?」

「ひゅー、柔け〜」

 

 突如として青年の手が脚や腹部と言った箇所を撫で始めた。いやらしい手付きに背筋をゾクゾクとした何かが這い上がる感覚が少女を襲う。思わず声が出そうになるも、素早く伸びてきた手が彼女の口を塞いだ。

 

「ー! ———っ!」

「宵宮? 駄目だよ暴れちゃあ。ジッとしてくれ」

 

 回された腕を掴み、抵抗を示すも効果は無く。至る所を撫で回す手の動きは益々加速する一方である。

 

 不味い。変な気分になってきた。冬場だと言うのに緊張感から汗が出てくる。何とか拘束を解こうと体を動かす宵宮。青年の力が僅かに強まった。

 

「〜〜〜ッッッ!!!」

「ちょっと? そんな身を捩るなって、音が立つ……」

 

 彼女は限界であった。精一杯の力を込め体を捩らせる。幸いにも青年が手加減してくれていたお蔭で、体に回されていた腕からは簡単に抜け出せた。

 

 するりと腕が解けた瞬間、少女の渾身の一撃が放たれる。

 

「ええ加減にせえっ!!」

「おぼふッ」

 

 仁信の腹に宵宮の肘鉄がグリっと刺さった。あまりの痛みに声を漏らすと、膝を突き患部を押さえて蹲った。

 

「ななな、何すんねん! 場所分かっとるん!?」

「な、何って……狭いとこ、隠れんだから、密着するのは、当然で……」

「変なとこ触りすぎや!」

 

 恥ずかしさから顔を真っ赤にした宵宮が苦言を呈す。一方で仁信は苦しそうにしつつも、ニヤニヤと笑いながら。

 

「変なとこって、何処だ? 俺、分かんないなぁ。ちょっと言ってみ?」

「はぁ!? 絶対分かっとる癖に!」

 

 チャージ率200%クラスの意地悪な質問にエネルギーが高速チャージされていく。宵宮の怒りは既にゲージ満タン。間も無く爆発しそうである。

 

 ぎゃいぎゃいと騒ぐ二人。隠れることを止め、茂みからは体が出てしまっていた。そんな状態で大きな声を出せば、当然……

 

「二人とも、みーっけ!」

「「あっ」」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 先に見つかり鬼側に加わっていたとある少女に、あっさりと見つかってしまった二人。その後は彼等も逃げ側を探す陣営に加わり、残った子供達を捕まえに行ったのだった。見つかった理由が理由なだけに、宵宮の方は終始不満そうであったが。

 

 そうして一頻り遊んだ後。昼食の時間になり子供達は腹を空かせていた。そんな中、折角だからと言う仁信の提案によって彼等は寒空の下で鍋を囲んでいた。ちょっとした宴会状態である。

 

 仁信は自宅から普通では見られない大きな鍋を持ち出し、大量の食材を煮込んでいる。しかし人数が多く、彼が準備した分だけでは到底足りなかった。そこで、一部の子供達の家庭からも、食材や鍋等の道具を借りることで何とか全員分を用意出来ていた。

 

「こんな大っきい鍋、何に使うん?」

「業務用だよ。前に依頼で手伝った飲食店でな、鍋を新調するってことで譲り受けたんだが……」

「……出番、無かったんやな……」

「ああ。実は今回が初出勤だ」

 

 グツグツと音を立て、食欲を唆る香りが辺りに舞う。既に何人かは待ちきれないと言った様子で、箸と取り皿を手に臨戦状態である。

 

「どうどう、落ち着いてぇな。鍋は逃げへんしちゃんと全員分あるさかい、ええ子で待つんや」

 

 幸いにも宵宮が宥めてくれるお蔭でフライングは阻止されていた。ありがたいものだ。子供の扱いが上手い。本当に面倒見が良いな、と仁信は思った。

 

 具材に火が通りきると、一人ずつ丁寧によそっていく。宵宮が「ちゃんと『いただきます』してな」と言えば、元気な返事の後に「いただきます」の大合唱。何とも微笑ましい光景であった。

 

「やはりこの季節は鍋を食うに限る」

「はふ、ほんまに……あぁ〜美味し」

 

 しみじみと呟く二人。元気一杯に遊んだ後の空腹が、最高のスパイスとしてその美味しさを後押ししていた。

 

「っちゅーか、貯蓄は大丈夫なん? 結構食材使ったやろ」

「そこら辺は後で考える。何とかなるだろ! 腐らせるよりかはよっぽどマシさ」

「ほんまに平気なん……? 一人暮らし何年目やっけ……?」

 

 他所からもお裾分けしてもらったとは言え、既に仁信一人で馬鹿にならない量の肉や野菜を持ち込んでいた。少なからず考えてはいるのかと思ったが、全然行き当たりばったりであった。あまりにも計画性の無いその発言に、宵宮は不安にならざるを得なかった。

 

「こらこら君達、具は逃げんよ。宵宮お姉ちゃんも言ってたろ? お代わりはしても良いから、ゆっくりお食べ。……君は少な過ぎだ、もっと食べなさい。ソッチの子は肉ばっか食い過ぎ、野菜も摂るんだよ」

 

 宵宮と会話をしつつも、子供達の様子を注意深く観察していた様だ。やはり何だかんだで面倒見が良いな、と宵宮は思った。

 

 青年の横顔をじっと眺める宵宮。すると、少女の視線に気付いた仁信は揶揄う様に。

 

「どうしたよ、俺の顔に熱視線なんか送っちゃって。俺の父性の高さに惚れちゃった?」

「あーはいはい、せやねぇ」

「なら俺のとこにお嫁さんとして永久就職しないか? 損はさせないよ」

「考えとくー」

 

 何時も通りな軽い調子のやり取り。……別に宵宮自身も何とも思わない訳ではないのだ。見た目良し、器量良しで悪くない相手ではある。ただ……

 

「後はスケベなとこ隠せれば完璧なんやけど」

「悪いが、誰が何と言おうと俺を止めることは出来ない。ありのままの姿を見せ続けるぜ」

「宮司様もさぞ苦労なされたんやろなぁ……」

 

 大正解。性なる欲望に忠実で、ソレを隠そうともしない態度。その一点で全てを台無しにするのがこの男であった。

 

(……こんなんでも、嫌いにはなれへんのがなぁ……)

 

 胸の奥の感情を自覚してしまっている分、余計タチが悪い。少女のモヤモヤとした心中とは裏腹に、鳴神島の冬空は何処までも晴れ渡っているのであった。




オリ主:今回も痛い目(物理)に遭った。やはり学習しないクズ。

宵宮:子供達の人気者。将来は絶対良いお母さんになること間違いなし。オラッ、お前がママになるんだよ!
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