稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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荒瀧銀世天下一雪合戦、開催!

 

 

 ある日の朝。食事を済ませた仁信は仕事も無く、居間の炬燵に入り寛いでいた。

 

(あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!! 寒い゙寒い゙寒い゙!!)

 

 ―――否。余りの寒さにガタガタと震えていた。歯をガチガチと鳴らし、必死に暖をとっている。

 

 その原因は……雪である。鳴神島には大寒波が到来し、朝から雪が降っているのだ。居間の窓から見える外の景色は、辺り一面がすっかり銀世界と化していた。

 

 こんな日は家に引き篭もるに限る。……等と考えていれば、バンバンと乱暴に扉を叩く音。続いて聞こえてきたのはとても、とても大きな声であった。

 

「兄弟、居るか!」

 

 目も覚めるような大音量で響く男の声。この展開、前にも似た様なことがあったような……と、デジャヴを感じつつ此方も返事をする。

 

「何ですかー!? てかそもそも誰ですかー!!」

「俺様だ! 荒瀧一斗だ!」

 

 渋々廊下へ出て玄関の戸を開けると……その言葉通りに鬼族の青年、荒瀧一斗が居た。

 

 やや赤らんだ鼻頭を人差し指で擦る一斗。普段の格好より厚着をしてはいたが、やはり寒いのだろう。だと言うのにこの元気……流石である。

 

「へへっ、ちょいと邪魔するぜ」

「邪魔するなら帰ってー」

「おっとスマンスマン。じゃあな、また来るぜ……」

 

 元来た道の方へ振り返り、後ろ手にガラガラと閉められる引き戸。見届けた仁信が鍵をかけ踵を返すと、再びバンバンと扉が叩かれる音がした。

 

「ってオイコラ! 何すんだ開けろ!」

「分かった分かった、開けるから叩かないで」

 

 玄関へ入った彼に一先ず戸を閉めさせ、改めて声をかける。

 

「裟羅さんに負けて神の目を取られた割には元気そうじゃん」

「神の目なんざ無くともどうってこたぁねぇ。何せ俺様は、荒瀧・天下第一・一斗だからな! 後あの女とは、何時か再戦するつもりだ」

 

 そう言って自信満々な顔で見得を切る青年。今日も一斗節は絶好調の様だ。

 

「んで? 今日は何用?」

「ククク……今日はお前にとある大会の参加を持ちかけに来たんだ」

「大会」

 

 ニヤリと笑い、勿体ぶった口調で話し出す。彼は一拍置いて大きく息を吸うと、再びの大きな声で宣言した。

 

「その名も! 『荒瀧銀世天下一雪合戦』だ!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 会場―――例に漏れず近所である白狐の野。本日は雪原と化している―――へと辿り着くと、其処には既に参加者と思われる少年少女達が大勢集まっていた。人数的に稲妻城内だけでなく、紺田村からも来ている様子。これだけの人数をよくもまあ集めたものだ。しんしんと雪が降り積もる中、皆一様にはしゃいでいる。

 

「何で君達ガキンチョ共はこんな雪でも元気なんですかねぇ!!」

「ガーッハッハッハッ! そりゃお前、鍛え方が足りてないんじゃねぇか? ……ハ、ハーックション!」

「おう、誰の鍛え方が足りてないって?」

 

 子供と言うのは、雪を見るだけで何故こんなに元気になれるのだろうか。その純粋さがとても眩しい。コレが歳を重ねると『雪か……めんどくせぇ』と思う様になるのだから、人間とは不思議な生き物である。

 

 閑話休題。辺りを見回せば、集団に混じって荒瀧派の成員である忍、守、晃、元太の姿が。一斗だけでなく、彼の仲間も参加する様だ。

 

「お前等、準備運動だ! 取り敢えず練習試合でもやるぞ。何、いきなり本番を始める程俺様も鬼じゃねぇ」

「鬼なのに?」

「ええいやかましい! ともかく敵味方無しで、一回試合すんぞ!」

 

 楽しそうな声を上げて、雪玉を投げ合う参加者達。四方八方から攻撃が飛んで来る光景は壮観であった。

 

「ハハハハハ! 痛くも痒くもな……イテッ! オイ誰だ、雪玉ン中に石入れたのは!? ケガするだろ、って俺様ばかり狙うんじゃねぇ!」

 

 どうしてか、一斗だけが異様に狙われる羽目に。騒ぐ彼等を遠目に見つつ、仁信と忍の二人は会話していた。

 

「毎度毎度、親分がすまないな……」

「良いって良いって。忍も苦労してるの分かってるから」

「ありがとう。そう言ってもらえて助かるよ」

 

 忍が開幕謝罪から入るのはよくあることであった。本当に気にしてなさそうな仁信の雰囲気に、忍は安堵する。

 

「にしても忍が雪合戦とかやるなんて意外だったなぁ」

「私も自分から来た訳じゃない。親分達に無理矢理連れて来られたんだ。……本当は事務仕事を片付けたかったんだが……」

「つまり何時も通りってことね」

 

 そう言いつつも付き合ってあげている辺り、仲間に厳しくしつつも大切に想っている彼女の人柄の良さが垣間見える。

 

「……親分も成員達(アイツ等)も、あんたのことは気に入っているんだ。程々で良いから付き合ってくれるとありがたい」

「勿論」

 

 コレでこの話はお終い……となりかけたその時だった。

 

「ところで気になったんだけど、忍は? 君は俺のことどう思ってるのかな」

「…………。……良いヤツだとは思ってるよ」

「お、嬉しいなあ。でも本当にソレだけかい?」

「どう言う意味だ?」

 

 態とらしい笑みを浮かべながら、「何のことか分からない」と惚ける忍に何時ものちょっかいをかける仁信。非常にうざったい。

 

「またまた〜、分かってる癖に」

「……揶揄うのもソレぐらいにしろ。あまりしつこいと私も……」

「おい、忍も仁信も見てないでコッチ来てくれ!」

 

 ウザ絡みをかける仁信に忍がそろそろ手が出そうになっていると、限界が近づいていそうな一斗のSOSが聞こえてきた。

 

「ありゃ、呼ばれてら。ちょっくら行ってくるかな」

「私はアッチ側から行くとしよう。あんたは逆側から頼めるか」

「オッケー! それと寒くなったら何時でも俺の胸に飛び込んでおいで。俺の体温で直接温めてあげるからね!」

「気持ち悪いから遠慮しておく」

「辛辣ゥ……」

 

 別れ際、流れる様な動作で尻を撫でると透かさず後頭部を打たれた。地味に痛い。ヒリヒリする患部を手で抑えつつ、今にも雪像と化しそうな一斗の救援へと向かうのだった。

 

「待ってろ親分、今行くぜ!」

「頼むお前等、加勢が必よ……だから俺様ばかり狙ってんじゃねぇぞチビ共! 守も晃も元太も混じって投げるな!!」

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 集中砲火より助け出された一斗から、改めて大会の内容を説明された。

 

 一、勝負は団体戦。子供達のチーム・ちびっ子連合と荒瀧派に分かれて行う。

 ニ、決着はどちらか一方のチーム全員が、先に『参った』と言うまで。先に離脱した者は、その後勝負に参加してはならない。

 三、荒瀧派が勝利した場合、子供達は本日のおやつを荒瀧派に献上すること。逆にちびっ子連合が勝利した場合、荒瀧派は自腹でおやつを奢ること。

 

 以上三つのルールから成る、大会と言いつつも実際は至ってシンプルな雪合戦であった。

 

「俺は子供側につけば良いのかな」

「そうだ。バランスはしっかりとらなきゃな」

「数は圧倒的にコッチが多いけど、良いの?」

「構わん! 荒瀧派は少数精鋭……人数差なんてさして問題じゃねぇ。お前一人向こうに行ったところで、寧ろ丁度良いハンデだ」

 

 そう自信たっぷりに言い放つ一斗。続いて彼は、その場に居た全員の顔を見渡すと……高らかに宣言した。

 

「んじゃ、いくぜ? ……勝負開始だッ!」

 

 合図と共に、大量の雪玉が一斉に飛び交い始める。サイズは小さいと言えど、ちびっ子連合の雪玉の数は荒瀧派に比べ圧倒的に多かった。

 

「チッ。分かっちゃいたが、やはりこの数は面倒だな……。おい忍! 何か案出せ!」

「『良いハンデだ』とか言ってたのは何処の誰なんだ? 全く……親分が囮になっている間に、私達で攻めるのはどうだ?」

「却下だ却下! 俺様への負担がとんでもねぇだろ!?」

「我儘だな。分かった、ならこうしよう―――」

 

 すると指示を受けた男四人は、雪玉を体に当てられながらも雪を掻き集め高く盛り上げていく。あっという間に雪壁を形成し、彼等は壁の内側に身を隠すと……雪玉を作る係、壁を補強する係、投げる係と役割分担をして攻めかかってきた。

 

「おっ、頭脳プレーに出たか」

「便利屋の兄ちゃん、どうすれば良い?」

「数はコッチが勝ってる。構わず総攻撃だ!」

「分かったよ、スケベの兄ちゃん!」

「任せてよ、スケベの兄ちゃん!」

「スケベの兄ちゃんは止めてね」

 

 相も変わらずマンパワーに物を言わせ、猛攻を浴びせるちびっ子連合。しかし大の男が力に物を言わせ作った防護壁はビクともしなかった。

 

 高笑いを上げ壁の向こうから悠々と玉を投げつけてくるチーム荒瀧派。味方にも焦りが生じ始めた。

 

「どうしよう、全然効いてないよ!?」

「このままじゃ負けちゃう!」

「わたし達のおやつが……」

「……うーむ、どうしたものか……」

 

 顎に手を添え思案していると、ふと此方を刺す視線に気付いた。視線の主は―――敵チームの筈の忍。彼女は面頬をしているため、読唇は不可能であったが……目線の意味は『何とかしてくれ』と言ったところか。

 

 正々堂々の勝負の結果とは言えど、幼い子供からおやつを巻き上げるのは彼女も心が痛むのだろう。または保護者からの苦情を避けたい、或いはその両方でもありそうだ。とにかく忍からの要請を受け取った仁信は頭を高速回転させ……一つの作戦を思いつく。

 

「タイム、ターイム! ちょっと作戦会議させて」

「ああ? 作戦会議だぁ?」

 

 此方からも『何とかする』の視線を送り返すと、頷いてくれた。次いで、

 

「親分、良いんじゃないか? 私達にとっても悪くないだろう」

「姉御の言う通りだぜ! 休憩もとれるし」

「俺達は対策を立てれば良いのさ!」

「そうだろ、親分?」

「……そうだな、確かにそうだ。ガハハ、良いだろう! 俺様達を驚かせる様な作戦を期待してるぜ?」

「……言ったな? その言葉、後悔するなよ」

 

 良い具合に忍の援護射撃と意図しないオマケがついたお蔭で、一時休戦に持ち込めた。コレなら想定通りに事が運びそうだ。

 

「ちびっ子達よ、耳を貸しなさい。……ゴニョゴニョゴニョ……」

 

 相手に聞こえぬ様、小さな声で説明する。粗方話し終えると全員の顔を見遣った。

 

「作戦は以上だ。理解したか?」

 

 あちこちから元気な返事が飛んで来たのを確認すると、丁度良いタイミングで一斗から声がかかった。

 

「ソッチは終わったかぁ!? 俺様達は何時でも良いぜ!」

「コッチもオーケーだ! ……では、作戦開始!」

 

 試合が再開すると同時に、子供達も荒瀧派の様に壁を作り、雪玉を生産し始める。しかし、荒瀧派とは異なる点が見られた。

 

「何だ? アイツ等、あんなにデケェ雪玉なんか作りやがって。あんなサイズじゃ投げられやしないだろ」

「そうやって油断していると、足元を掬われるぞ」

「そうは言ってもよ……」

 

 彼等は通常のに加え、雪だるまでも作るのかと言わんばかりの大きなサイズの雪玉を作っていた。しかも攻撃を一切してこない。妙な光景に訝しんでいると一斗は、何故か仁信の姿が見えないことに気付いた。壁から頭だけを出し、必死に首を動かしていると。

 

「―――待たせたな、小さな勇者達よ! とっておきを用意して来たぜ!」

「……待て、ソイツは何だ!?」

 

 漸く姿を現した仁信。彼の側には、何やらこの場に似つかわしくない姿の何かがあった。

 

 白雪の中で一際目立つ黒光りするボディ。重厚感溢れる金属製の大きな筒に、車輪が付いたソレは……紛うことなき大砲であった。

 

「言っておくが、俺は遊びだろうとマジで勝ちを狙うタイプだ」

「だからってマジになりすぎじゃねぇか!?」

「一斗、そう言う君も俺と同じ筈だろう?」

「幾ら俺様でもそこまではしねぇよ!!」

 

 何と言うモノを持ち出しているのだろうか、この男は。……だがこの様な事態は想定されていないため、当然だが道具使用禁止のルールは存在しない。

 

「大昔の偉い人は言いました。『最終的に勝てばよかろうなのだ』と」

「……その言葉、真に受け取ってはいけない気がするが」

 

 呆れた様子の忍。だがそんな彼女のツッコミさえも既に聞こえてはいやしなかった。

 

「さあ、弾を込めろお前達!」

「……クソッ、こうなったら壁を更に強化して防ぐぞ! 気合い入れろよ野郎共!」

「「「応ッ!!」」」

 

 腹を括った親分の掛け声に、成員達は必死に雪を集めては固めて壁の強度を足そうとする。……しかし、所詮ソレは悪足掻きに過ぎなかった。

 

「ポチっとな」

「―――うぉおぉぉおおあ!!?」

「「「グワ———ッ!!」」」

 

 仁信がスイッチを押すと共に、勢い良く発射された大きな雪玉。子供達の努力の結晶はあっさりと壁を大破し、一斗達に直撃した。雪まみれで倒れ伏す荒瀧派の男四人。因みに忍はしれっと離脱し安全地帯へと避難していた。

 

「フハハハハハハハハ! まだまだストックはあるぞ、ブチかませ!」

「卑怯にも程があるだろおおおおおおお!!!」

 

 ―――その後。文明の利器を以て蹂躙するちびっ子連合と、意外にも粘り強く応戦する荒瀧派で勝負は白熱。勝敗はつかず引き分けとなり、子供達のおやつも荒瀧派の財布も守られる結果となった。

 

 そして後日。ヒートアップし過ぎた彼等は、軒並み風邪を引き数日間寝込んだと言う…………




荒瀧一斗:どうやら俺様達は〝親友〟の様だな……兄弟

オリ主:親友なのか兄弟なのかどっちなんだよ

久岐忍:…………(溜め息)

守&晃&元太:やっぱ荒瀧派最高!

大砲:クズが何時かの冬に作った玩具。雪玉しか発射出来ない完全に遊ぶためだけの兵器。スイッチ一つで動き、無駄に高性能。
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