稲妻ぐらし! 作:しろくろ
今更ですがホワイトデー回(大遅刻)です。普段より短め。
ある日の花見坂でのこと。稲妻城の誰もが知る長野原花火屋の戸を、軽快に叩く音が響いた。
「長野原さん家の宵宮さんやーい! 居るかい!」
「はーい! 今行くー!」
元気な声と共に顔を出した目的の人物―――宵宮。少女を訪ねて来た青年―――仁信は片手を挙げて彼女と挨拶を交わす。
「よっ」
「いらっしゃい! どないしたん、うちに何か用?」
首を傾げる宵宮に対し、仁信は勿体ぶった感じで話し始めた。
「勿論そうなんだけど……さて、突然ですが問題です。今日は何の日でしょうか」
「え? 何の日、ってそりゃアレやろ? この前の贈り物のお返しする日」
そう。この日は世間一般で返礼に適した日とされており、以前多くの人から品物を貰った仁信はお返しを渡すため各地を走り回っていた。
「その通り! という訳で用意しましたコチラ、返礼品となります」
「そんな気にせんでええのに……すまんなぁ」
と言いつつも、実はほんのちょっぴり期待してもいたり。内心では朝からソワソワしていたのは秘密である。
渡されたのはラッピングのされた瓶。手でも持てるがそれなりのサイズだ。
贈り物を受け取った少女は嬉しそうにはにかんだ。「開けてもええ?」と訊くと、「どうぞ」と返ってくる。早速開封し中身を確認すると……
「飴ちゃん! しかもコレ、花火の柄? うわあ、綺麗やなぁ」
「俺の作った飴だ。因みに飴を返す時の意味は『君と甘い関係でいたい』らしい」
「へえ〜、そうなん?」
「……なんか反応薄くない?」
当たり前や。どうせ何時もの軽口やろうし、うちらそういう関係ちゃうし。宵宮は仁信そっちのけで瓶の中の飴を眺めていた。こうかは いまひとつの ようだ……
ちょっとした悪戯心から揶揄おうとしていた仁信は、期待してた反応と違い少し残念そうである。やはり長年の付き合いがあるだけに、彼女にこの手の技は通用しない模様。
「まあいいや。んじゃあ俺、この後別件だから。来て早々悪いけど、またな」
「おおきにな、大事に食わしてもらうわ。ほないってらっしゃい!」
「いってきまぁす!」
今回のミッションはスピードが命。交友関係の広い彼は渡す相手が多いため、話も程々に切り上げ次の現場へと向かうのであった。
「……ふう、危ない危ない。変に勘違いするとこやったわぁ……」
◇ ◇ ◇
「へい、綾華嬢!」
「きゃあ!!?」
場所は変わって神里屋敷のある一室。ターゲットが一人になったタイミングで、机の下から頭だけをニョキッと生やして登場。不審者感丸出しである。因みにこの男、屋敷に上がる許可は得ていない。
「仁信さん!? ど、どうしてその様な場所から……」
「ちょっとだけ君に用があったから。でもアポ取るの面倒だし、この方が手っ取り早いと思って」
「だとしても、今度からは普通にいらして下さいね……?」
「保証はしかねる」
何時もは普通に来てくれるのにどうして……綾華は途端に不安になった。
「本日はどういったご用件でしょうか?」
「おっとそうだったそうだった。ちょっと待って……よいしょ」
気を取り直して来訪の理由を尋ねると、漸く机の下から出てきた仁信。続いて懐から取り出したのは、白地に金色の模様の入った長方形の箱だった。見るからにお高そうである。
「それではコレをどうぞ。プレゼントフォーユー!」
「えっと、こちらの品は?」
「この前のお返し! ま、開けてみて」
言われるがままに高級感溢れる外装を剥がし箱を開けると、中には良い色に仕上がった焼き菓子が入っていた。蓋を開いた瞬間から、ほんのりと甘い香りが辺りに漂っている。
「まあ……! もしや、こちらは手作りですか? 珍しいお菓子の気がしますが……」
「稲妻じゃ見ないよね。異国のお菓子だよ、俺の持ってる料理本に載ってたんだ」
「やはりですか。流石の腕前ですね」
「いやー、それ程でも……あるかな!」
自信たっぷりにイラっとくるドヤ顔を披露する青年。この男はもう少し目の前の少女の謙虚さを見習うべきである。
そんな彼の態度に嫌な顔一つせず微笑む綾華。まさに聖人である。
「態々ありがとうございます。今日と言う日を考えるに、こちらは以前の返礼と言うことでしょうか……とても嬉しいです」
「察しが良いね! 因みにそのお菓子には『君は特別な人』という意味が込められてるらしい。俺のことを考えながら食べてくれると嬉しいな」
「…………えっ!?」
衝撃的な台詞に驚きの声を上げてフリーズする綾華。思わず表情が崩れる。数秒の硬直を経ると顔を赤らめておろおろと慌てふためき始め……その様子を見た仁信は満足そうであった。
(うひょー! コレだよ、コレ! こういう反応が見たかった!)
本日のノルマ達成。どう見ても少女の純情を弄ぶ最低な男である。クソ野郎は達成感に包まれながら、少女の可愛らしい姿を見遣ると……
「それではワタクシめはこれにて失礼。アディオス!」
一言告げて音もなく消え去った。不法侵入している自覚はあるため、綾華以外の人物に気付かれない内に退散するのだった。
一方で少女は仁信が帰ったことに気付かず、未だにわたわたとしたままであった。緊張のあまり周りのことは見えも聞こえもしていない。
特別。特別な人。私が。まさか……そういうコト?
「どっ、どどど、どうしましょう……!?」
◇ ◇ ◇
「たのもう!」
その後も一日中凡ゆる場所を駆け回っていた仁信。そんな彼が最後にやって来たのは鳴神大社。日も暮れて神社に勤める巫女達もすっかり帰宅し、人気のない境内……其処に、場所を考えない大声が響くと。
「―――何じゃ騒々しい。場所を考えんか」
「もう神子しか居ないんだから良いでしょ」
「何も良くないわ、阿呆が」
やがて神社の主たる八重神子が姿を現した。顔を顰めており、如何にも「迷惑です」と言った雰囲気。当然である。
スタスタと早歩きで近づいて来た神子は、手にした御幣を振りかぶり迷惑野郎の頭を叩こうとする。
「甘いぜ! 流石に俺を嘗め過ぎ―――」
見え見えのその動きに、仁信は後ろへと退がり回避を行おうとして……
「フン」
「アバーッ!?」
「甘いのは汝の方じゃ」
移動した先に小規模の落雷。彼女の狙いは最初からこうであったのだ。鼻を鳴らし、仁信を小馬鹿にする神子。相変わらず見通しの悪い男である。
髪の毛をチリチリにし、全身黒焦げの仁信。ケホ、と黒煙を吐き出して恨めしそうな表情であった。
「して、何用じゃ。よもや……斯様な下らぬ真似をしに来たのではあるまいな?」
「流石に違うよ。やるならもっと派手に嫌がらせする」
「馬鹿者が」
「あだっ」
今度こそ御幣の一撃が、小気味良い音を立てて仁信に喰らわされた。呆れた目の神子。そろそろ本題に入らないともっとキツいお仕置きの予感がする。
危険を察知した仁信は、懐から何やら紙に包まれた箱を取り出す。小綺麗な見た目をしており、質の良い包装紙を使用しているのが分かる。汚れ一つないところを見るに、どうやら落雷からは守られていたようである。
「ほれ。やるよ」
「む。コレは……」
「この前のチョコのお返し。流れでとは言え貰ったし、一応ね」
「ほう。殊勝な心懸けじゃな、良いではないか。……一言余計ではあるがな」
「お黙り」
仁信は「早めに食べるように」とだけ伝えると、そそくさと帰り支度を整えた。
「今日はソレだけだから。んじゃ」
「疾く去れ。汝にまた騒がれてはたまらん」
「オォン? 何だ何だ、もっとやってほしいってのか? ン?」
「出来るものならするが良い。ただし、その時はどうなるか……分かっておるな?」
「はい、さいならー!」
◇ ◇ ◇
室内へと戻った彼女は、包みを剥がし蓋を取った。
「……ほう、コレは……」
箱の中身は御萩や大福、団子等の和菓子の詰め合わせであった。見た目も凝っていて、見ているだけでも楽しめそうな一品である。神子も思わず感嘆の息を溢す。
では早速……と、数ある内から団子を手に取り口に入れた、その瞬間であった。
「……ッ!?」
彼女の舌を襲った、刺すような痛みと熱感。咄嗟に飲み込んでしまい、喉にもダメージが。予想だにしない刺激に咳き込んでしまう。
―――辛い。至って普通の団子の筈なのに、辛い? 神子が困惑していると……ふと目に入ったのは、先程剥がしたばかりの包み紙。その裏側には文字が書かれており、よく見るとソレは仁信からのメッセージであった。読んでみると、其処にはこの様な内容が書かれていた。
なんだかんだで世話になっている神子へ
俺からのお返しです。普通のじゃ味気ないので、ちょっとしたお楽しみ要素を入れました。どれか一つがアタリで、後は全部ハズレです。頑張って食べて下さい。
「…………」
お返しの意味が違う。とか、何故ハズレの方が多いんだ。等々……とにかくツッコミどころが多い。最早嫌がらせの類いでは? 「やるなら派手にやる」とは一体何だったのか。
逆ロシアンルーレットさながらの陰湿な中身に、おちょくられていると受け取った神子。端正な顔に底冷えする様な笑みを浮かべ、額に青筋を浮かべた彼女はグシャリと包み紙を潰すと、神社を出て何処かへ去って行った。
―――翌日の花見坂にて。自宅の前に、ボロボロの姿で磔にされていた青年が居たとか。
贈り物一覧
・飴……この日のために態々飴職人に習いに行った。変なところでガチるのはクズの習性である。
・焼き菓子……『特別』の意味合いは様々。だからと言ってあの言い回しは良くない。ワイトもきっとそう思っている筈。
・和菓子セット……手の込んだ嫌がらせサプライズの品。ただし贈る相手を間違えると大惨事になる(というかなった)。
・その他……今回の話で出てきた3人以外にもキチンと返礼はしました。クズは意外にも義理堅いのである。