稲妻ぐらし! 作:しろくろ
凄腕花火職人は自前の花火玉も立派!
刹那仁信。稲妻城下の町、花見坂に住む青年でちょっとした有名人である。ある時は料理人、ある時は発明家、ある時は大道芸人……と万屋の如く数多の顔を持つ男である彼は、人脈も広い。
「よっす宵宮。今日の依頼は花火の材料採集だったか?」
「せや! 貴重な男手、バンバン頼らせてもらうで〜。いつも通りよろしゅうな!」
「あいよー」
色白な肌に、明るいストロベリーブロンドの髪と金の瞳。左の腕や肩にはタトゥーが。何より目を引く、大きなしめ縄が特徴の少女。彼女の名は宵宮。長野原花火屋の一人娘にして凄腕の花火職人である。
「しっかしもう花火の季節か。早いな」
「夏と言えばうちの出番や。皆んなうちの花火を楽しみにしとるからなぁ、期待には応えてやらんと」
「俺も毎年楽しみにしてるよ。宵宮なら大丈夫さ……よっ、夏祭りの女王!」
囃し立てる仁信、自慢気に胸を張る宵宮。その時、二つの花火玉が揺れたのを仁信の目は逃さなかった。網膜にしっかりと焼き付け脳内フォルダに厳重保存。
二人は長閑な原野を歩き、深い森へと入って行く。こんな所に素材があるとは、宵宮の作る花火は奥が深そうだ。
世間話に花を咲かせる彼らには、外敵に対する警戒の様子は微塵もない。しかしそこは神の目の保有者。戦闘となれば並大抵の敵は相手にならない。
「おっと、ヒルチャール」
「うちがやったる。ほいっと」
「ナイス命中」
「それほどでも〜」
道中を阻もうとするヒルチャール。だが炎を纏った矢で射抜かれあっという間に消滅。慣れたものだ。
仁信も帯刀しており、戦えはするがこの様子では出番がなさそうだと判断。実際二人はよく素材集めに行っているが大抵の敵は弱く、宵宮が狙撃して終わりだった。そのため彼は前線に滅多に出ず、揺れる胸部装甲を眺めてばかりであった。彼女も彼女で仁信の邪な視線に気付かず、少しばかり隙を晒しすぎではある。とは言え男は一切の遠慮はしなかった。紛うことなきカスである。
「ほいほい、コレもアレも……ソッチの紫色のやつも採っといてな」
「はいよ」
「……うん、やっぱ一人より二人やな! 荷物持ってくれる人がも一人いるだけで段違いや」
「仁信さんは力持ちだからな。籠一杯でも
「その上料理に洗濯、掃除も出来て……ええなぁ一家に一人欲しいわ」
「残念ながら、人間国宝たる俺は唯一無二の存在なもので。……結婚でもするかい?」
「はいはい。考えといたるからコッチ来て手伝って?」
「おーん、素っ気ない。今行きまぁす」
お互い長い付き合いだからこそできる、軽口のやり取り。お喋り好きな宵宮だが、この男との会話は特に好きであった。自身がお喋り好きなのを理解して合わせてくれていることにいつも感謝していた。
「ふいー。お疲れさん、少し休憩してこか」
「そうだな……そい」
「ひゃわ!? コラー! また女の子のお尻触って!」
「ハハハ、良いお尻がそこにあったからつい……痛!」
だが、いくらなんでもセクハラは流石に恥ずかしいと思っていた。当然だ。
バシバシと叩かれるセクハラ男。なお本気で怒られない時と場所、相手を見極めてからやっているためタチが悪い。それと無駄に整いすぎた顔面でゴリ押ししている。『また』とあるように、コレが男の日常茶飯事であった。
「んもー、折角飴ちゃんやろうと思っとったのに」
「欲しい! 欲しいです! ギブミーキャンディ!」
「えっちぃことばかりする人にはあげませ〜ん」
「クソォ! でもやめられないんだ性分だから!!」
最低である。
「なんとかくれませんか! 俺も甘いもの食べたいです!」
「ざんね〜ん。今日はお預けや」
「そんな……」
自身の髪飾りから飴玉を取り出した宵宮。これ見よがしに口に入れる。仁信は悔しそうな、もの欲しそうな目で見る。捨てられた仔犬のようだ。宵宮の心がグラつく。鋼の意思で耐えていると、仁信もすぐ元通りに。彼は切り替えの早い男でもあった。
「なあなあ、終わったら家に来てご飯作ってくれへん? 父ちゃんが久々に食べたい言うとって」
「いいよ。お代は千モラね」
「金取るん!? 小さい頃からの仲やん、うちら!」
「親しき仲にも礼儀あり。今まではタダだったが、いい加減サービス期間は終了しなきゃな。コレでもかなりお得な値段だぞ? 俺の料理の評判は知ってるだろ? と言う訳で、この度から有料とさせていただきます。……もしモラが駄目なら体で直接」
「ちょっと???」
「冗談です言い過ぎました。ちょっと何言ってるか分からなかったですよねーやりますタダでやります」
「よろしい。せめて食材ぐらいはコッチで用意したるし、頼むで?」
「勿論」
温厚な宵宮にも堪忍袋は存在する。ちょっと緒が切れかけた彼女に流石のクズも腰が引けた。温厚な人程、怒ると恐いのだ。あと流石にあの言い分は無理があった。
この男は器用で、『中身以外は優良物件』と言われるだけあって何でも卒なくこなす。そのため飲食店にヘルプを頼まれることもしばしば。料理の腕はかなりのものであった。噂では、本気の料理を食べた者は美味しさのあまり服が破けるとか。意味不明である。
「すまん、ちょっと用を足してきても?」
「あいよ。気ぃつけてな」
「助かる!」
休憩もそろそろ終わり、帰る準備をしている宵宮に離脱の旨を伝える仁信。彼が戻るのをぼーっと待っていると、物音と複数の気配。
『ya!』
『ya! ya!』
「あちゃー、ヒルチャールかいな」
現れたのはやはりヒルチャール。仮面を着けた人型のモンスター。とは言え、行きでも見かけた一般的な弱い個体だ。ぞろぞろと群れで現れる。複数いようが宵宮の敵ではない。……しかし。
『———ッ!』
奥からは通常個体より大きく、戦闘力も高いヒルチャール・暴徒。斧を構え、襲いかかる気マンマンである。
(流石に荷物が心配やな……仁信には悪いけど、ちょっとこの場から離れよか)
宵宮は手始めに通常個体を弓で射抜くと、その場から走って離脱。雄叫びを上げ、自身を追いかけて来るのを確認する。一定の距離を取りながら、少しずつ雑魚を蹴散らし暴徒にダメージを与えていく。攻撃が通りにくい木々の間を抜けようとする。
「……げっ」
しかし、開けた場所に出たかと思えばそこはヒルチャールの集落。通常個体に射手、シャーマン。暴徒もいる。
(アカン、マズった……!)
前後を挟まれる宵宮。だが彼女も、伊達に神の目を保有していない。倒しやすい個体、遠距離攻撃が厄介な個体から着実に始末する。炎を纏い連射される矢に、ヒルチャール達は瞬く間に駆逐されていく。
『ッッッ!』
「ほいっと、危ない!」
ヒルチャール・暴徒の斧の一撃をスレスレで躱す。お返しと言わんばかりに矢を撃ち込む。隙を突くかのように、別個体が迫る。
「こんなん無理無理、退避!」
流石に数も減った。手負いの個体も撒けばそれで済むだろうと判断し、再び元の場所へ戻ろうとする。―――そこへ、更なる脅威が。
『オオオオオ———!!』
「…………」
一際巨大で、強力な個体。ヒルチャール・雷兜の王が姿を見せる。
「……なんでや———!!」
宵宮の悲鳴が木霊した。
◇ ◇ ◇
今日は厄日だ、間違いない。そんなことを思いながら茂みに身を潜めつつ、宵宮は元の場所へ戻ろうとしていた。だが―――
(迷った……!)
今まで経験したことのない窮地。いつも来ていた場所に、いつの間にか集落が出来ていたことによるイレギュラー。軽いパニックが彼女に苦難を強いていた。
「どうしよう、ホンマにどうしよう……」
平時の宵宮らしからぬ不安気な様子。ネガティブな感情は彼女の視野を狭めていた。……だからこそ、ふと差した影に気づくのが遅れた。
『———ッ!!!』
「っつ!」
慌ててその場から飛び退き直撃は回避したものの、衝撃で体勢を崩してしまう。すぐに立ち上がるも、目の前には強烈な勢いで突撃して来るヒルチャールが。
(あっヤバ―――)
―――瞬間、放心状態となった宵宮の元へ一陣の光が。その正体は、雷元素の力で加速し一瞬で宵宮の元へ駆けつけた仁信。刀を振るい、雷元素への耐性を無視した一撃で雷兜の王を両断。余波から宵宮を守るため、強く彼女を抱き寄せる。
「あ、ありがと……」
「いいっていいって、一人にした俺も悪かったし。怪我はないか?」
「うん……」
「そか。無事で良かったぜ本当に」
もうお前を離さないと言わんばかりに強く抱きしめられる。服の上からでも分かる筋肉質な胸板と、至近距離で感じる体温。そして匂いに包まれて、先程とは別の意味でドキドキが止まらない宵宮。
「さっき、宵宮の声が聞こえたんだ。『なんでやー!』ってやつ」
「うん……」
「アレが聞こえてなかったら危なかった。正直ヒヤッとしたよ」
「うん……」
「おーい、聞いてる?」
セクハラ好きで、可愛い女の子に見境のない男。どうしようもない奴だが、困った時はいつだって助けてくれる。ズルい男だ、目の前の彼は。でも、そんなところに自分は―――
◇ ◇ ◇
「あったー!」
「良かった。マジで良かった」
「あはは、数時間の努力がおじゃんになるところやったしなぁ」
無事に二人は休憩地点へと戻ることができ、採取した素材の回収に成功した。これで一安心。今年も美しい花火を届けることができる。
「さ、帰ろか!」
「うーい」
帰路に着く二人。特に宵宮にとってはどっと疲れた一日であった。あんな目に遭うのはもう懲り懲りだ。
近い内に、厄払いにでも行くべきか? そう思う彼女だったが、不意に先程のシーンがフラッシュバックし赤面してしまう。
(抱きしめられてた感触、まだ残ってる……顔も熱いしまともじゃいられへんわこんなん……)
だが、悪くはなかった。……うん、やっぱ今日のうちはツイてるかも。
突然黙り込む彼女に、普段の仁信なら『大丈夫か?』と声をかけていただろう。ところが一方で、彼の方も考え事に耽っていた。……最低な方向に。
(やはり宵宮っぱいは最高だな……尻もやわこいし実に良きかな)
この男、どさくさに紛れて宵宮の胸と空いた手で尻の感触をちゃっかり堪能していた。実に
◇ ◇ ◇
「この蓮根の肉詰め、美味いなぁ」
「何ぃ、『結婚』!? 宵宮お前、父ちゃん聞いてへんで!」
「言っとらんわ! 『蓮根』言うたんや!」
「お父さん、娘さんを僕に下さい!」
「よし持ってけ!」
「父ちゃん!?」
オリ主:本作主人公。美女美少女へのセクハラが生き甲斐の変態ゴミ野郎。こんなんでも持ち前の人柄の良さから人望は厚い。本当か?
宵宮:クズの毒牙に掛った憐れな被害者一号。きっと多くの旅人が目の保養にしているはず。おお、揺れる揺れる。
龍之介:宵宮父。ぶっちゃけ最後のくだりやるためだけに出演させた人。