稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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ここっこ こっここ ここここみん

 

 

 ―――近頃、稲妻幕府の政治情勢がどうにも怪しいようだ。仁信は先日、綾華と手合わせに神里家の屋敷へと赴いた際に彼女からこっそりと教えてもらっていた。

 

『鎖国?』

『はい、どうやら将軍様は嵐を以て海外との海路を塞ごうとしているらしく』

『それはまた豪快な。……こりゃあ……荒れるねぇ』

『貴方がそう仰るのなら間違いないのでしょう。残念なことに、将軍様にどういった神意があるのかは分かりませんが。……それと、どうかこのことはご内密に』

『勿論。信用してくれてるから話してくれたんだろ? ありがとね』

 

 この後、仁信は組み手中に綾華の尻をお礼の意を込めていつもの倍撫でていた。最低である。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「どんぶらこ〜どんぶらこ〜」

 

 仁信は首都を出て船を漕ぎ、海原へと飛び出していた。目的地は海祇島。鳴神島から遠く離れた場所であり、独自の自然環境や文化が発達した地である。

 

 入島の手続きを済ませ、美しい風景を楽しんでいると……見覚えのある獣耳を発見する。

 

「よっすゴロー! おひさ!」

「……ん? お前、仁信か!? ハハッ、久しぶりだな! 元気だったか?」

「おうよ! お前も元気一杯みたいだな!」

 

 そこにいたのは黄土色の中に所々白が混じった短髪をした、兵装に身を包む男性ゴロー。犬耳を特徴に持つ海祇島の兵士だ。弓を得意とし、仲間を思う熱い心と勇敢さを内に秘めている。

 

 彼とはかつて仕事でこの島を訪れて以降仲良くなり、仁信は島へ来る度に必ず会いに行く友人の一人であった。

 

「休憩中か?」

「ああ。だがそろそろ戻らなくては」

「そか。数日滞在する予定だから、どっかで遊ぼう」

「いいぞ、約束だ! そうだ、珊瑚宮様にも会って行かれるだろう?」

「うん。というか、今回の入島はお前と心海に会うのが本命だからな」

「そうなのか? 嬉しいな、きっとあの方も喜んでくれるはずだ! 珊瑚宮まで一緒に行こう」

 

 海祇島の中心である珊瑚宮まで到着する二人。ゴローが建物の中へと入って行くこと暫く……彼は一人の少女を伴って戻って来た。

 

「お久しぶりですね、仁信さん」

「おっす心海! 相変わらず可愛いね、会いたかったぜ!」

「あ、ありがとうございます……」

 

 開口一発目に口説き文句が飛び出した。そしてそれに頬を赤く染める彼女こそ、この島の最高指導者にして唯一の『現人神の巫女』―――珊瑚宮心海だ。淡いサーモンピンクの長髪に薄藍色の大きな瞳の可憐な少女であり、胸元に大きなリボンと所々に真珠があしらわれた衣装を纏っている。

 

「忙しいだろうに、すまんね」

「構いません。丁度、一段落したところでしたから……ゴロー、彼を連れて来てくれてありがとうございます」

「仁信は俺たちの大切な友人ですから! それに珊瑚宮様も、度々『会いたい』と仰られて……」

「〜〜〜!? こほん、彼と少々出かけてきます! 貴方は戻りなさい!」

「はい! ……じゃあ、またな仁信!」

 

 職務に戻るゴロー。仁信は手を振り、その後ろ姿を見送ると。

 

「……俺に会いたかったんだ?」

「っ! さ、さっきゴローが言っていたことはですね、その……!」

「いやぁ、俺たちってば相思相愛だね! この胸の内に飛び込んで来てもいいんだよ」

「そんな恥ずかしいことできません! ゆ、友人として『会いたい』と思うのは当然のことで……!」

「んもう、そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

 ニヤニヤとしながら心海を揶揄う仁信。その様子は何処かの誰かを彷彿とさせる。

 

「と・り・あ・え・ず! 折角いらしてくれたのですから、一緒に歩き回りませんか?」

「デートのお誘いかな? いいよ、どこまでも一緒に行こう」

「あ、貴方という人は……!」

 

 少女のペースは終始掻き乱されたまま、二人は歩き出した。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

  

 長閑な島を巡る二人。そんな道中では、心海の人望の厚さ故に多くの島民から声をかけられていた。

 

「ヒュー、相変わらず大人気だ」

「すみません、私といるばかりにあんな……」

「ンな後ろ向きなこと言っちゃ駄目さ。君は本当に凄いんだから、自信持ちなって」

「ふふ、ありがとうございます。相変わらず優しい方ですね」

「おべっかじゃないよ、紛れもない本心だ。あとやっぱ可愛いからつい声をかけたくなっちゃうんだろうね」

「そうやって歯の浮くような台詞をサラリと言うんですから……」

 

 呆れたように言いつつも、その表情は嬉しそうであった。いくら為政者として島を取り纏める立場にいようと、彼女も年頃の少女なのだ。褒められて悪い気はしない。

 

 暫くして、すっかり日も暮れた頃。二人は珊瑚宮や望瀧村から外れた浜辺に来ていた。寄り返す波の音に包まれ水平線に沈む夕陽を浴びながら、青年は少女に向き合った。

 

「さて、と。実はただ遊びに来たんじゃないんだよね今日は」

「? そうなのですか?」

 

 心海は仁信の表情が真剣味を帯びていることに気づいた。普段の彼らしくないその様子に困惑する。

 

「そ。君に……いんや、君()にとって大切な話だ」

「! 聞きましょう」

 

 ―――その一言で、彼女の為政者としてのスイッチが入った。表情が先程までのリラックスしたものから一転、引き締まったものになる。

 

「正確には、この国全体に関することなんだけど。結構キツめの未来が見えちゃってね。こりゃヤバいよ」

「……詳しくお聞きしても?」

「覚悟は出来てる?」

「はい。この島を護ることが、『現人神の巫女』としての私の務めですから」

「そっか。じゃあ話すけど……これから先、幕府軍と君達の間で戦が起きる。激しい内戦だ」

 

 ―――生まれつき仁信に備わっていた異能。元素力や仙術・法術等とは異なる力で、多くの事象や情報を可視化することができる。そしてその両眼には、凄惨な未来の光景が映っていた。幕府軍と海祇島の兵士と思しき人々が争うという光景が。

 

 先日、綾華から話を聞いたときに見えてしまったのだ。この国の行先に暗雲が立ち込めていることが。

 

「多くの兵士が傷付く、それも両軍共にだ。死者もいっぱい出る。だけど多いのは海祇島側だった。多分、心海にとっても辛い光景を沢山見ることになるだろうね」

「…………」

「具体的な時期、それと原因までは特定できない。この場合だと、多分戦いを直接見ていないと見通せないと思う……ごめんな」

「……いえ。十分すぎるくらいです。貴方のお蔭で、今の内から備えることが出来ますから。……本当に感謝してもしきれません」

 

 ほんの一瞬だけ見えた、痛みに耐える様な心海の表情。仁信は心が痛んだ。この少女の華奢な双肩に、かつてない大きな重責がかかってしまうことが。そしてそれを負担してやることの出来ない自分に、珍しく無力感を覚えた。彼はこの未来に対しこんな遠回りなやり方でしか介入出来なかった。

 

「俺が戦場で一暴れしてもいいんだけど……そうすると余計拗れそうでね。こうして事前に君に伝えることでしか、犠牲を減らせなさそうになかったんだ」

「それで態々こちらまで?」

「ん。多分戦が始まれば、こっちに来るのは少し厳しくなりそうだから。……ほんの少しだけだよ?」

「もう。強がらなくてもいいんですよ? ……ありがとうございます、仁信さん」

 

 おどけた調子の言葉にくすりと笑みを溢す。この人は本当に優しい。でも、甘えすぎては駄目だ……既に返しきれない程の恩があると言うのに。このまま頼り過ぎていてはきっと、珊瑚宮心海は『現人神の巫女』ではいられなくなってしまうだろう。

 

 弱気な自分を律する。良い加減切り替えなくては。

 

「そろそろ戻りましょう。都合がつけば、このまま食事でも……」

 

 そう言って踵を返した瞬間。不意に、心海の視界がぐらついた。

 

「…………っ」

「! ちょ、大丈夫か?」

「は、はい。ご心配なく……少々、立ち眩みが」

「全然大丈夫じゃねーじゃん! ごめん無理させて!」

「いえ、貴方が気にすることでは……」

 

 へたりとその場に座り込んでしまう。立ち上がろうにも力が入らない。頭も重くなってきた。

 

「メディック、メディーック! あああああしまった、ここ海辺じゃん!」

「はぁ、はぁ……」

「息まで荒く!? どっどどどうする、人工呼吸とかいる!?」

「そこまで、はぁ……する程では……」

「そうだよね違うよね! こういう時は心臓マッサージだっけか!?」

 

 ソレも違う。と言うか、息はあるのだからそこら辺の応急処置から離れて欲しい。

 

「ごめん、なさい……」

「心海!? 死ぬな、心海ぃぃぃ———!!」

 

 自身を抱き留める青年に体を預け、心海の意識は途切れた。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「……あれ……私、なんで布団に……」

「―――お? や、おはよう」

「仁信さん……? そうです、あの時倒れて……!」

 

 意識が戻った心海。目を覚ますとそこは知らない天井……などということはなく、見慣れた珊瑚宮の一室であった。慌てて体を起こそうとするもストップがかかる。

 

「おおっと、まだ起き上がっちゃあ駄目だぜ。心配せずとも、君の体に異常はないよ。どうやら過労で倒れたみたいでね」

「そうでしたか……」

「うん、目立った外傷もないのは俺の方で確認済みだ」

 

 ホッと安堵の息を漏らす。これなら何とか業務に戻れそうだ。

 

 話を聞くと、浜辺から背負って珊瑚宮まで戻った後。兵士や巫女に事情を説明し付きっきりで看病してくれていたようだ。心海は改めて仁信に礼を述べる。

 

「お手数をおかけしました。大変だったでしょう?」

「いや全然? 確かに倒れた時はクソ焦ったけど……全身を触診した感じ怪我はなかったし、病気かを診るのも俺の方で出来るから」

「重ね重ねありがとうございま……今なんと?」

 

 そういえば先程も『外傷がないのは確認済み』と言っていたが……()()()()()()()()()()()のだろうか?

 

「ん? どういうこと?」

「で、ですからその……今なんと仰られましたか、と……」

「? ……ああ、触診のこと? 医療行為の一環だから! やましい気持ちとかあんまりなかったから!」

「で、ですが! その……!」

 

 その言い分は全くもって余計であった。やはりこの男は紛うことなきカスである。

 

 顔が熱くなっているのを自覚した。心海は首や耳まで真っ赤になっていた。

 

「心配せずとも、大事なところまでは触ってないから」

「えっえっ、あぁぁぁ……!」

「あっでも、流石に胸とかお尻にはちょっと触っちゃった。あと服の中も少々拝見させていただきました」

「!!?!?」 

「緊急事態だったんだ、許して?」

 

 触られたし、見られた。医療行為の一環とは言え男性に、それも気になっている相手に……

 

「〜〜〜ッッ!!!」

 

 少女は声にならぬ絶叫を上げ、布団を深く被った。その後暫く出てくることはなかったと言う。クズは何処まで行こうとクズなのであった。




オリ主:寝ている相手にもセクハラをかます最低な男。ようやくまともな面を見せたと思ったら台無しである。ちょっとした特殊能力持ち。

珊瑚宮心海:クズの毒牙に掛った憐れな被害者三号。海祇島を統治する『現人神の巫女』にして名軍師。趣味は兵法書を読むこと。揶揄うと可愛い反応を返してくれる。ここみん可愛いよここみん

ゴロー:わんこ系大将。甘党男子。翌日クズと目一杯遊ぶ姿や美味しそうにケーキを頬張る姿が目撃され、羨ましがる上司がいたとか。
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