稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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拙作をお読み頂きありがとうございます。次話についてですが、更新まで数日空く予定です。今後も突発的に更新まで期間が空くことがありますが、その際は気長に待って頂けると幸いです。



あんたもけしからん格好だな!本当に警察ですか?

「さて、何か言うことは?」

 

 青年は俯かせていた顔を上げて一言。

 

「最高でした」

「よし、ソレが最後の言葉でいいな? ―――これから暫く、お前が陽の光を浴びることはないだろう」

「すいませんでしたあああああ!! でもアレは事故でしたよね!?」

「ああ、そうだな。あの後お前が手をすぐさま退けていたらの話だがな……!」

 

 細腕と大胆に露出した長い脚を組み、鋭い眼光で仁信を睨みつける濡羽色の髪の女性。彼女の名は九条裟羅……下駄を履き威圧感のある赤い仮面を着け、ボディラインがはっきり分かる服を着こなす長身の美女である。彼女の端正な顔は怒りに染まっていた。

 

 ここは天領奉行の詰め所、その一角。そして何を隠そう、裟羅は天領奉行のトップ九条家に名を連ねる者の一人。つまるところお偉いさんである。

 

 二人は小さめの個室で、机を挟んで椅子に向かい合って座っている。青年は後ろに回した手を縄で縛られていた。

 

 察しの良い者は気付いただろう。そう……稲妻一のセクハラ魔はついに、警察にしょっ引かれることとなったのだ―――

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

 事の経緯は数時間前。仁信が便利屋として、逃げ出した猫捜しを依頼に請け負っていた時のこと。

 

『ニャーン』

『や、やりおるなこの猫……!』

 

 特徴と一致するキジトラを見つけた仁信。しかし意外にもすばしっこく勘も鋭い。神の目を持つ彼でさえ苦戦する強者であった。

 

『……クァ』

『欠伸……!? 俺如きは相手にすらならないと……!?』

『なぁーお』

『かわゆす……じゃない、愛玩動物風情が舐めおって!』

『ゴロゴロ』

『アナタが初めてですよ……この私をここまでコケにしたおバカさんは……!』

 

 唯ならぬ雰囲気で対峙する両者。特に仁信は、某戦闘民族の宿敵たる宇宙の帝王の如き様相を呈していた。だが相手はあくまでも猫である。

 

 件の猫はちらりと青年を一瞥すると、ひょいと身を翻し逃走を再開。

 

『そっちがその気ならやっちゃるわい!』

 

 本気になった仁信は未来視を発動。対象を見失う前に視界に収めておいたことで行き先を特定。先回りすることで確実に捕えることにする。

 

 建物の陰に身を潜め、自身の存在感を極限まで薄くする。そして気配を逃さぬよう気を張り巡らせ―――今だ!

 

『捕まえたぞオラァ!』

 

 アンブッシュ! 華麗な逃げ足を誇るキャットもこれにてセイバイ! ……されたかに思えた。

 

 しかし、伸ばしたその手に伝わる感触は猫とは程遠いものであった。むにゅり、と大変柔らかい感触。黒い生地の上から形を変える双丘。意図していないπタッチ。待ち伏せていた角から現れたのはターゲットではなく……巡回中の九条裟羅であった。

 

 あらゆる物事を見通す眼には確かに猫が現れる光景が映っていた。しかし……それより前に彼女が通りかかることは確認出来ていなかったのである。

 

『…………』

『…………』

 

 一方で事情を知らない彼女からすれば、突如飛び出してきた知人に胸を触られているという状況。予想だにしない出来事に思わずフリーズ。場の空気は凍結反応を起こしていた。

 

 青年は突如湧いて出たラッキースケベに即座に順応。桃色の脳細胞によって体は無意識の内に、裟羅の豊満な胸の感触を楽しんでいた。揉み揉み。

 

『……どうやら死にたいらしいな』

『あ』

 

 ―――煌煌千道鎮式

 

 連続した雷撃が放たれる。普段はある程度安全マージンを確保してから事に及ぶクズだったが、今回は欲望を優先した結果失敗した。こうしてクズはお縄につくこととなったのである。

 

 尚、猫は一旦協力した二人によって確保され、飼い主の元へ無事返すことが出来たのであった。にゃんにゃん。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「クソォ! コレが天領奉行のやり方かよ! なんて卑劣で凶悪な罠なんだ……!」

「お前が勝手に痴漢を働いただけだ。私は何もしていない」

 

 被害者面をしているが、被害を全面的に被ったのは裟羅である。どちらが悪いのかは明白で、10:0でクズの圧倒的勝利である。それも不名誉な勝利。あと卑劣なのはお前だ。

 

 取調室の机にバン、と拳を叩きつけるクズ。無駄に真に迫った表情。だがこの場では逆効果である。反省の様子が微塵も見られないクズに裟羅は苛立ちを募らせる。

 

「っとそうだ、丁度良い。訊きたいことがあったんだ」

「何だ。言い訳ならもう聞かんぞ」

「いやそうじゃなくて」

 

 スンッと平時のテンションに戻る仁信。彼は切り替えの早い男であった。

 

 猛禽の様な鋭い目を細め、腕をギュッと強く組み直す裟羅。より強調された胸部に視線が誘導されかけるのをぐっと堪え、口を開いた。

 

「最近、天領奉行……というより奉行所が何処もピリピリしてない? 気のせい?」

「……お前には関係のないことだ」

「関係なくはないでしょ、俺だって国民の一人なんだからさ。将軍様がやろうとしていることと言い、一般市民への説明義務があるんじゃない?」

「…………やはり厄介だな。刹那仁信」

「ふーん? 教えてくれる気はない、と。仕方がない。ここは伝家の宝刀たるアレを使うしか……」

 

 ゴソゴソと自身の懐をまさぐり始める青年。裟羅がギョッとして見ていると……

 

「よいしょっと。裟羅さん、コレ知ってる? カツドゥンって言うんだけど」

「待て。今、一体何処から取り出した?」

「何処からって……いやん、言わせる気? んもう裟羅さんのエッチ!」

「また雷を喰らいたいのか?」

「調子乗りましたごめんなさい」

 

 その手には何故かホカホカのカツ丼と一膳の箸が。再びの裟羅の問いに対し仁信は『普通に懐からだ』と説明した。意味が分からない。普通とは何だ。裟羅は頭が痛くなった。

 

 そして仁信の方だが……良い機会だと思い、前から抱いていた疑問を裟羅にぶつけた。広い人脈をもつ彼は、便利屋として三奉行からちょっとした依頼を受けることもしばしば。神里家を始め幕僚や兵士にも伝手があった。そして最近仕事で彼らの職場に赴いた際、いつにも増して張り詰めた空気を感じとっていた。理由は何となく想像がつくが。―――だがこの際、青年は確証を得るために無理矢理首を突っ込むことにした。

 

「コレ食べていいからさ、教えてくれない?」

「いらん。あと、お前には言わない」

「そこを何とか!」

「駄目だ」

「あれー、おっかしいなぁ……前に読んだ娯楽小説では口を割ってたのに」

 

 当たり前だ。コレはフィクションではない、現実である。ましてや裟羅は自分に厳しい性格。賄賂など言語道断であった。

 

 自由奔放すぎる男に裟羅は頭を抱えた。思わず吐いて出た溜め息と共に目を閉じ、眉間に手をやる。……今更だが、どうやって縄を解いた?

 

「大体お前は……」

「はいどーん!」

「ムグッ!?」

「どう、美味しい?」

「…………。……流石の腕前だと言っておこう」

「やったぜ」

 

 説教をしようと開いた彼女の口に突っ込まれる、温かなカツと米。本当に、本当に業腹ではあったが……とても美味であった。飲食店でも中々味わえないレベルで完成度が高いカツ丼だった。

 

「いやあ、それにしてもやっちゃったね……間接キス」

「は?」

 

 丼を見る。その中身は明らかに自分が食べさせられた量より多く減っていた。

 

「……食べていたのか?」

「うん。俺も腹減ってたし」

 

 目を離したあの僅か一瞬で? あまりにも早業すぎる。裟羅は驚愕を隠せない。その間にも青年は箸を進めていた。

 

「裟羅さんにも俺のカツ丼食べてもらいたかったから、無理矢理突っ込んじゃった。でも箸はコレしかなくってね」

「いらないと言っただろう! 食べさせるにしてもやり方がある筈だ! 大体私と間接的だろうがキ……接吻をしたところでお前に得など……!」

「めっちゃありますけど? だって裟羅さん美人じゃん」

 

 ピタリと動きが止まる裟羅。その表情は困惑していた。

 

「……おべっかを使うのは止めろ。そんなこと言ったところで……」

「本心だけど? あんま自分を卑下しないでよ。いつも頑張ってるの知ってるよ。例え嫌われても公正さを貫くところとかね。そんな裟羅さんの姿勢は凄く素敵だと思うし、裟羅さんのそういうところ俺は好きだな」

「何を、言っているんだ。お前は……」

 

 面と向かって言われた歯の浮くような口説き文句。未だかつて経験したことのない状況に裟羅は戸惑っていた。

 

 徹底した滅私奉公を貫き、時には周りに疎まれることがあるのも自覚している。敵も多い。こんな堅物な女、面白くも何ともないだろうに。

 

「…………」

 

 言いたいことは全て吹き飛んでしまった。何もかも目の前の男のせいだ。真剣な目を見る限り、嘘ではなく本気であのようなこと思って発言したのだろう。余計タチが悪い。

 

 言葉に詰まっていると、扉をノックする音が。

 

「九条様。少々よろしいですか?」

「! 入れ」

 

 やって来たのは配下の兵士。どうやら緊急の様子。仁信が説明を聞く彼女の横顔をぼーっと眺めていると、いつの間にやら話が終わった様で裟羅は退室の準備をしていた。

 

「席を立て。急用が出来た……時間がない、今回は特例とする」

「! 釈放してくれるの!? よっしゃあ!」

「我々も最近は忙しい。お前の様な助平に構っている暇がないだけだ」

「またまたそんなこと言っちゃって! でもそういうところも大好きだぜ!」

「五月蝿い。さっさと部屋を出ろ」

 

 部屋を追い出され、詰め所の出口まで案内される。凝り固まった全身をバキバキと鳴らし、仁信は礼を告げた。

 

「ありがとねー、裟羅さん」

「フン。言っておくが、許した訳ではないからな」

「ええ〜? もうキスもした仲なのに?」

「……貴様!!」

 

 冗談混じりに放った言葉。彼にしてみれば、ほんの揶揄うつもりで言っただけだろう。……だが相手はあの九条裟羅。その一言は、彼女の逆鱗に触れるだけであった。

 

「その余計なことばかり宣う口をすぐに閉じろ! でないと撃つ!」

「あああ許して! 許して!!」

 

 何時の間にか取り出した弓に矢を番え、射撃準備。何時でも目の前の馬鹿を撃ち抜く用意は出来ていた。

 

「もう少しデリカシーと言うものを弁えろ! 何時になったら反省するのだ!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!! もうしません多分!」

「多分だと……!? やはりお前は一度更生させる必要があるな!!」

「ア゙———ッッ!!?」

 

 澄んだ青空の下に汚い絶叫が木霊する。この男は学習しないタイプの人間なのであった。




オリ主:取り調べ中に相手を口説き始めるとんでもない男。あと反省しないバカ。筆者も書いていて何時の間にか起きていた展開に大変困惑した。

九条裟羅:天領奉行所属。雷電将軍の厄介オタク。天狗の血を引き、九条家には養子として引き取られた。脚は出てるし服はパツパツだしでヤバい。
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