稲妻ぐらし!   作:しろくろ

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お待たせしました。そして再びのお知らせですが、今話の様に今後は既出のキャラが再度メインの話も書いていきます。未出演のキャラを楽しみにしている方には申し訳ありませんが、暫しお待ち下さい。楽しんで頂けるよう努めていきますので、どうかお付き合いの程よろしくお願いします。



祭りの日だからって自重はしないぜ!

 時刻は夕暮れ時、良い感じに陽も沈んできた頃。その日は花見坂だけでなく、紺田村や稲妻城内の住人も皆浮き足立っていた。鳴神島中が沸き立つその理由とは―――

 

「祭りじゃあああああ!!」

「いえ———い!」

 

 今年もこの季節がやって来た……そう、祭りである。稲妻城内やその近辺で食べ物や玩具、ちょっとした遊戯などの様々な屋台を出し、数日間どんちゃん騒ぎをすることになっている。

 

 今日はその一日目。既に城内の其処彼処から祭囃子が聞こえてくる。宵宮に誘われた仁信は彼女と待ち合わせ、二人で祭りへと繰り出していた。ハイテンションな彼らは、始まったばかりだと言うのにアクセル全開である。

 

「おっちゃん、串焼きくれ!」

「うちもうちも!」

「はいはい、元気で羨ましいよ若いの。合わせて四百モラだよ」

 

 屋台を片っ端から巡ろうとする二人。しかしその数は中々に多く、あちこちを駆け回ることになった。

 

「串焼き、焼きそば、団子……綿飴水飴林檎飴もか。俺達買いすぎじゃね? 特に飴類」

「あはは、うちも頑張って食うけど……食い切れんかったらうちの分も貰ってくれへん?」

「しゃーないのぉ。この俺に任せなさい!」

「おおきに!」

 

 両手いっぱいに屋台グルメを抱える二人。頭にはお面も着けている。下手をすれば、そこら辺の子供達よりずっと祭りを満喫していた。

 

「ありゃ、そろそろ花火の時間じゃね?」

「ほんま!? 時間が経つのもあっちゅーまやなぁ」

「高台がコッチにあるぜ。多分人もあんま来ない。静かに見れるだろうし、行ってみようか」

 

 そうこうしている間にも、本日の目玉である花火の打ち上げ時刻が迫っていた。因みにこの花火は当然、長野原花火屋が提供したものである。

 

 祭り会場からやや離れた場所にある高台。屋台の明かりからも遠いため薄暗く、人気もない。花火鑑賞にはもってこいの場所だった。

 

 二人が到着すると同時に、火薬の炸裂する音が響き始める。花火が鮮やかな閃光と共に、鳴神島の夜空を照らしていた。

 

 辺りに張られた柵に寄りかかり、頬杖を突きながら眺める宵宮。お喋り好きな彼女だが、花火を眺める時は必ず静かに眺める。そういう癖なのだ。そんな彼女の表情は、自分と花火だけの世界に浸っている様であった。

 

 当然、仁信もそんな宵宮を邪魔する無粋な真似はしない。昔から知っていることだ。話しかけることも、悪戯をすることもなく。彼は屋台で購入した食べ物を消化しながら、少女と大人しく花火を眺めるのであった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「はーっ! 満足、満足」

「今日の花火も宵宮と龍之介さんが卸したやつだろ? 流石だな、最高の出来栄えだったぜ」

「せやろ? えへへー、今回のは自信作やってん」

 

 鑑賞が終わった二人は感想を言い合っていた。自慢気な宵宮は褒められると、嬉しそうに笑うのであった。

 

「さぁて、まだまだ屋台巡りは終わってへん! うちも腹空いてきたし、続けよか」

「ちょっと待ってくれ、うぷ。流石に食い過ぎた……もうちょい待って……」

「さっき自信満々に『任せとけ!』って言うてはったのに?」

「見栄張りましたごめんなさい……」

 

 花火を見るため中断した屋台巡りの続きを促す宵宮だったが、仁信は食べ過ぎによりダウンしていた。宵宮が食べ切れない分も引き受けたため、二人前を一人で処理していたのだ。だが結果として、その場から動けなくなるという事態へ。

 

「まぁ、うちの分も食おうてもろてるし……しゃあない、待ったげるわ」

「……助かる……」

 

 流石の彼女も情けが勝った。あまりにも苦しそうな青年の表情を見て、少し申し訳なさを感じている。……それはそれとして、また後で押し付けるだろうが。

 

 暫し雑談に興じる二人。そして時間も経ち仁信の調子も整ってきたところで、今度こそ行動を再開させようとしたその時だった。

 

「……おとうさーん、おかあさーん! どこ〜……?」

「ん? ……あちゃあ、迷子かいな」

「どうやらそうらしい」

 

 まだ小さく年端もいかない幼女が、震えた声でうろついていた。人気もなく、暗いこの場所に放置しておくのは流石に不味い。幼女の潤んだ瞳を見た宵宮は、考えるよりも先に声をかけていた。

 

「こんばんは! なぁなぁ、お父ちゃんとお母ちゃん探しとるん?」

「! うん、手がね、手がね。つないでたんだけど、はなしちゃって……」

「ほほう。どうやらこの子は両親と来ていて……特に母親とは手を繋いでいたみたいだ。だけど人混みの勢いに飲まれて逸れた結果、彷徨ってここまで来たらしい」

 

 相変わらず便利な眼を使い、幼女の経歴を見通す。典型的な迷子の様だ。今日は特に賑わう日であるため人通りも多い。体の小さな彼女に、行き交う人々の荒波は酷であった。

 

「そら大変やったなぁ……でも安心せぇ。うちらが嬢ちゃんのこと助けたるさかい! このデカい兄ちゃんに任せとき。お父ちゃん達のこと見つけたる!」

「ほ、ほんと?」

「ほんまほんま! お姉ちゃんも一緒に連れてったるからな。ほしたら、手ぇ繋いで行こか? でも、今度こそ逸れたらあかんで!」

「うん!」

 

 明るく人懐っこい笑顔を見せて、あっという間に打ち解けた宵宮。花見坂で子供達に人気の彼女らしく、たったこれだけの会話で幼女と距離を詰めていた。

 

「流石だな、『宵宮お姉ちゃん』は」

「はいはい、いいから仁信も! ホラ、この子の空いてる手ぇ握ったって」

「ほーい。やあやあ小さなお嬢さん、デカいお兄さんだよ。俺も手を繋いで良いかな?」

「いいよ! はい!」

 

 二人は迷子の幼女を連れて、喧騒の中へ戻って行くのだった。

 

 

 

◇ ◇ ◇

 

 

 

「んー……と。見た感じコッチだな」

「あいよ! 寧々ちゃん、行くで〜」

 

 人探しチートな能力をフル活用し、幼女―――寧々の両親の元へと向かう一行。彼女の先程の不安気な表情も、今ではすっかり笑顔である。

 

「どんくらいで見つかりそうなん?」

「当然だがご両親もこの子を探してるからな、距離がある。それと見通した彼らの居場所も、屋台とか周りのものから少しずつ推測するしかない」

「つまり?」

「ちょいと時間がかかる。……ま、焦らずとも着実に近付いてはいるよ」

「ならええ。……そや、屋台巡りの続きでもしながら行かへん? この子も一緒に」

「ああ、良いんじゃない? よしお嬢さん、何か欲しい物は? お兄さんが買ってあげよう」

「いいの? えーと、りんごあめ!」

 

 軽快な会話を挟み、寧々を不安から遠ざけようとする二人。間に幼女を挟み、手を繋いで歩く様子はまるで……

 

「いやー、こうしてると宵宮と夫婦になったみたいだ」

「んなっ!? ちょ、ちょっと? 女の子にそういうこと、あんま言わんとええんちゃう?」

「俺との結婚は考えるって言ってくれるじゃん。今更では?」

「言うてるけど! 言うてるけどアレは……えと……もーっ!」

「幸せな家庭を築こうな! わはは」

「?」

 

 宵宮は恥ずかしさを誤魔化そうにも、寧々の前なので迂闊なことは出来ない。今はこの羞恥にただ耐えることしか出来なかった。

 

 仁信が宵宮を揶揄って遊んでいると、一旦の目的地へと到着。花火の前にも訪れた林檎飴の屋台である。

 

「いらっしゃ……お? 仁信と宵宮か。さっきも来てなかったか? またウチの林檎飴が食いたくなって……お前達、何時の間にガキこさえてたんだ」

「!? ちゃちゃちゃ、ちゃうて! この子は……」

「そうなんだよ! 実は俺達、既に娘が―――」

「変なこと言うな!」

 

 流石に我慢ならなくなった宵宮は寧々の目を咄嗟に隠すと、目にも止まらぬ速度の一撃を繰り出した。脇腹をド突かれ、悶絶する仁信。思わず膝を突く。

 

 彼女は青年に滅茶苦茶な嘘を吐かれる前に、屋台の男性へ状況をテキパキと説明すると。

 

「成程な。この子はお前らの子供じゃなく迷子だと。ま、お前達三人の年齢的にも流石にそうだわな。―――よし嬢ちゃん、林檎飴だ。持って行きな」

「おじさん、ありがと!」

「た、助かるぜ……コレ、代金……」

「おう、毎度。それとだな仁信。あんま調子乗ってると痛い目見るぞ」

「もう見てる、現在進行形で……」

 

 ジンジンと痛む脇腹を抑えつつモラを渡す。視線を二人に向けてみれば、後ろの方でキャッキャとはしゃいでいた。一連の流れを何も知らない、無邪気な寧々の笑顔が眩しい。

 

「よーし、林檎飴も()うたし出発や! おっちゃん、おおきに!」

「またね!」

 

 美味しそうに林檎飴を頬張りつつ手を振る寧々、礼を言う宵宮と顔色の悪い仁信は再び歩みを進め始める。

 

「お兄ちゃん、大丈夫?」

「だぁいじょうぶや。この兄ちゃんはさっきご飯を食い過ぎてな、ちょい苦しなってるだけや。なぁ?」

「お、おう……ソウダヨ……」

 

 仁信は思ったよりずっと重かった一撃により、痛みを引きずったままであった。寧々は心配そうに声をかけるも、有無を言わさない宵宮の笑顔に彼は痩せ我慢をするしかなかった。

 

 その後も寄り道をしながら、えっちらおっちらと祭り会場を進んで行く三人。

 

「お面、寧々ちゃんもいる?」

「いる!」

「はいはい、お面ね」

 

「たこやき! たこやき食べたいな! だめ?」

「勿論ええで! 今買うたげるからな……デカい兄ちゃんが」

「結局俺なのね」

 

「宵宮お姉ちゃん、あれは?」

「寧々ちゃんは見ちゃあかんで。ったく、だらしないわぁ……」

「こんなとこで寝ゲロかましてるとは。汚ねぇ……」

 

 道中、様々な出来事を経験しつつ。随分と歩き回った頃になると遂に……

 

「あ! おとーさん、おかーさん!」

「っ! 寧々!」

 

 遂に、寧々は逸れた両親と再会することが出来たのだった。仁信と宵宮の手を放し、一目散に母親らしき女性の元へ駆けて行く。

 

「良かった、本当に良かった! ……さ、お家に帰ろう?」

「うん!」

 

 緊張の糸が途切れたのか、ホッと安心した顔付きになる母親。抱きしめ合う親子の様子を眺めていると、父親と思しき男性が二人の元へ近づいて来た。

 

「ありがとうございます。どうやらお二人には娘がお世話になったようで……」

「気にせんといてや、うちらも寧々ちゃんと遊べて楽しかったし!」

「ええ、お父様とお母様が気にされる必要はありませんよ」

 

 手を合わせ、頭を深く下げる男性。彼によると、一家はそろそろ帰宅すると言う。

 

「ふむ、そうですか。……ここの人通りが更に多くなっています。また逸れては大変でしょうし、引き続き出口まで送って行きましょう」

「良いのですか? 何から何まで本当にすみません……」

「そんな、頭なんか下げんでええ! 目の前で困ってる人を助けるのは当然や」

 

 アフターケアを兼ねて、帰り道も付き合うことにした二人。両親も加えた賑やかな五人組は、雑談を交えながらも祭り会場の出口へと着いた。

 

「仁信さん、宵宮さん、大変お世話になりました」

「帰り道には気を付けてな〜」

「宵宮お姉ちゃん、ありがとう!」

 

 笑顔で手を振り、三人を見送ろうとする宵宮。寧々は仁信の元へ近付くと。

 

「かっこいいお兄ちゃんもありがとう! わたし、お兄ちゃんのこと大好きだよ!」

「おっとぉ、口が達者だねお嬢さん。俺も君のことが大好きだよ」

 

 恐らくその発言に他意はなく、幼子らしく素直に自分の気持ちを伝えただけなのだろう。そして仁信の方も、同じニュアンスで寧々へ言葉を返した。……しかし隣の宵宮は一連のやり取りを聞いた瞬間、ピキリと固まってしまっていた。

 

 そんな彼女を他所に、今度こそ別れの挨拶を終えた二人。そして一家の姿は、夜の闇の中へと溶けていった。

 

「よし、行ったか。……ってどしたん」

「……べっつにぃ? どうもせえへんけど?」

 

 どう言う訳か、不満気な表情の宵宮。先程までは明るい笑顔だったのに、どういうことだろうか。疑問に思う青年だったが……何やら察したようで、ニヤニヤと。

 

「何、嫉妬? ジェラシー感じちゃったの?」

「気のせいちゃうん? あんなちっちゃい子に妬いたりとか、そないな大人気ないことしません!」

「またまた〜、そんな分かりやすい嘘なんか吐いちゃってさ! 恥ずかしがらなくても良いんだぜ?」

「しーてーまーせーんー!」

「本当にござるかぁ? んもう、可愛いなぁ本当に! やっぱ俺達、本当に結婚しないか―――」

 

 テンションの上がった仁信。勢いに任せて少女を抱き寄せ、その尻を撫でると……

 

「ひゃ!? って触るなぁー!」

「はべらッ」

 

 顔面に拳が炸裂。調子こいたクズに制裁を下す。……そう、彼は学ばないタイプの男。今までのことは勿論、屋台での忠告さえもすっかり頭から抜け落ちているのだった。

 

 流れるようなセクハラを被った宵宮は、羞恥から顔を赤くする。……だがソレはきっと、クズのセクハラが恥ずかしかっただけではないだろう。少女は誤魔化すようにわざと大きな声で青年を急かした。

 

「ほら行こ! 早よせえへんと初日が終わってまう!」

「まだ回るのかぁ? 仕方ないのぉ……」

 

 少女は青年の手を引き、再び提灯の灯りの中へと飛び込んで行った。

 

 祭りはまだ、始まったばかりだ。

 




オリ主:流石に幼女には手を出しません。私は節度を守る変態ですから。……え? 変態な時点で節度もクソもないって?

宵宮:長野原花火屋の花火職人。別名『夏祭りの女王』。二人のやり取りに深い意味がないことは分かっていても、羨ましいものは羨ましいのである。言うならば、彼女も年頃の少女であるということだ。
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