鋼鉄の悪徳令嬢   作:レゾリューション

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息抜きに書きました。後、銃のチョイスは深く考えないでください


追放令嬢、鋼鉄を選ぶ

夜の帳が降りる頃、エーベルヴァイン侯爵家の広間に、一人の少女が立っていた。

 

「家族の名誉を守るためにしたことです。それが間違いだというのなら、わたくしは何を信じればよかったのでしょう?」

 

クラリス・フォン・エーベルヴァイン。貴族の名にかけて正義を貫き、家のために動いた17の少女。たとえその行いで周りから悪徳令嬢と言われたとしても貴族として、家族の誇りを守った。しかし今、それが仇となり、彼女自身が糾弾されていた。

 

父・エドモンド侯爵が、冷たい眼差しで告げる。

 

「お前のやり方があまりにも過激すぎたのだ。まさか、ここまで騒ぎになるとは思わなかった」

 

母も弟も、誰一人として彼女を庇おうとはしない。まるで厄介者を見るかのように視線を逸らしていた。

 

「……あなた方は、わたくしが全ての罪をかぶることで、この家が救われるとお思いなのですね」

 

クラリスは静かに言った。だがその言葉には怒りも悲しみもなかった。ただ、冷たく、全てを悟ったような光が宿っていた。

 

「クラリス・フォン・エーベルヴァイン、お前には家名を名乗る資格はない」

 

エドモンド侯爵の宣告が下る。

 

「今この場をもって、貴族籍を剥奪し、家を追放する」

 

クラリスは小さく笑った。家族のために動いた結果、家族に切り捨てられるとは。あまりに皮肉な運命だった。

 

「わかりました」

 

名を剥奪され、財産を没収され、彼女は夜の街へと放り出された。見送るものは誰1人としていなかった。

 

夜の冷たい風を受けながら街をさまよっていた彼女は、貴族街を離れ、平民たちが暮らす地区へと足を運ぶ。

 

「……このままでは、すぐに見つかってしますわね」

 

煌びやかな金の髪、上等なドレス。どれもこれも、彼女が貴族だった証だ。しかし今はただただ目立つ格好でしかなくどこかで服を変える必要があった。

 

冷たい風が吹き抜ける夜の街。貴族街を離れたクラリスは、暗がりの細い路地を進んでいた。

 

行く先は、この界隈に古くからある質屋。表向きはただの商店だが、裏では盗品や貴族から流れてきた品々も扱っていると噂される場所。

 

古びた木製の看板が揺れ、店の奥からは年老いた店主が彼女を見つめていた。

 

「クラリス嬢、こんな時間にどうしたのですか?」

 

クラリスは静かに前へ進み、持っていた小型のナイフを取り出した。そして、長く伸びた黄金の髪を手でかき上げると、その刃を根元へと添える。

 

「この髪を買い取ってほしいの」

 

店主の表情がわずかに動いた。

 

「……クラリス嬢、本気ですか?」

 

貴族の娘が、自らの髪を売る。それはすなわち、自らの身分を捨てることに他ならない。貴族の証を手放すということだ。

 

クラリスは一瞬だけ目を伏せた。

 

この髪は、彼女が生まれてからずっと大切にしてきたものだった。貴族としての象徴であり、家名の誇りそのものだった。

 

母はいつも言っていた。「この美しい金髪は、エーベルヴァイン家の誇りなのだ」と。

 

幼い頃から、母に梳かれてきた髪。貴族の社交界で褒められ続けた髪。幼き日の自分が誇らしげに胸を張っていた髪。

 

それを今、自らの手で捨てようとしている。

 

「……本気よ」

 

覚悟を決め、彼女は躊躇なく刃を入れた。

 

ざくり。

 

長い髪が、刃の下で断ち切られていく。

 

さらさらと流れるように床へと落ちる黄金の髪。軽やかな感触が消え、首筋に冷たい夜の空気が触れるのを感じた。

 

店主はそれを見つめ、無言のまま拾い上げる。

 

「……分かった。貴族の髪は高く売れるからな」

 

そう言いながら、店主は棚の奥から革袋を取り出し、中から数枚の金貨を取り出してクラリスへ差し出した。

 

「思ったよりいい値がついたな。これで足りるか?」

 

クラリスはそれを手に取り、少しの間、何も言わずに見つめた。

 

この金貨は、彼女の誇りと引き換えに得たもの。かつての自分が見たら、どう思っただろう。

 

「……ありがとう」

 

低く呟き、彼女はそのまま手に取った金貨を握りしめる。

 

そして、続けて今着ているドレスを指し示し、言った。

 

「この服も売るわ。代わりに、目立たない服がほしいの」

 

店主は苦笑した。

 

「随分と思い切ったな、クラリス嬢。いや……もう、嬢さんじゃないのか」

 

そう言いながら、彼は奥の棚から質素な服を取り出した。

 

「ほら、これでいいだろ。貴族街じゃ浮くだろうが、平民街なら気にされない」

 

クラリスはドレスを脱ぎ捨て、渡された服を手に取る。粗末な布地。貴族の頃なら絶対に袖を通さなかったような衣服。

 

だが、今の彼女にはそれが必要だった。

 

「……ええ、ちょうどいいわ」

 

着替えを終え、鏡に映るのは、もう貴族ではない自分。

 

「そうよ、わたくし……いえ、(わたし)は、もう貴族じゃない」

 

しかし、そう呟いた瞬間、強烈な喪失感が胸を締めつけた。

 

 “私は、一体何のために戦っていたの?”

 

家のため。家族のため。そう思って行動してきた。だが、その家族は彼女を簡単に切り捨てた。

 

「……全部、無駄だったの?」

 

かつての自分を守るために、どれだけのことをしたのか。どれほど努力したのか。しかし、そのすべては一夜にして崩れ去った。

 

「私は……何をしていたの?」

 

ふらふらと歩き、路地裏の石畳に座り込む。何もかもが虚しく思えた。今まで信じていたものが、すべて崩れ去ったのだ。

 

 “いいえ、それだけじゃない。”

 

クラリスは、自分の中に芽生えた違和感を無視できなかった。

 

「……私、本当に家族のために動いていたの?」

 

家族の名誉を守るために尽力し、誰よりも誇りを重んじた。けれど、その過程で、彼女はいつしか「自分こそが正しい」と信じ込むようになっていたのではないか?

 

思い返せば、周囲の意見を無視し、自分の価値観だけで物事を決めつけていたことがあった。貴族として、正しさを疑うことなく、平民や下位の貴族を見下していたこともあった。

 

「……私は、ただ家族の名誉を守ることに酔っていただけだったのかもしれない」

 

父や母に認められたくて、侯爵家の娘として完璧であろうとした。誰よりも正しく、誰よりも誇り高く。

 

だが、本当にそれが正しかったのだろうか?

 

「……違うわね」

 

クラリスは膝を抱え、嗚咽を漏らした。

 

彼女が守ろうとした家族は...父や母の視線には、常にどこか冷たいものがあった。彼女の功績を讃えながらも、それが「過剰」になりすぎていることに気づいていたのではないか。

 

それでも、彼らは何も言わなかった。

 

なぜなら、クラリスの存在は都合が良かったからだ。

 

彼女は貴族としての理想を体現していた。

誇り高く、妥協せず、家のためにすべてを捧げる娘。

 

それはまるで――

 

 “役目を終え、切り捨てられる道具”

 

最後まで彼女を庇いもしなかった。もし本当に大切に思われていたのなら、たとえ追放されることになっても、せめて最後に労いの言葉くらいはあったはずだ。

 

「私は……愚かだった」

 

全てを手放した今になってようやく、それを自覚できた。何もかもが遅すぎる。だけど、それでも。

 

「……私は生きなきゃ」

 

この愚かさを認めた上で、もう一度立ち上がらなければならない。誇りだけで突き進んでいた自分とは違う、新しい生き方を探さなければならない。

 

静かに立ち上がったクラリスの瞳には、先ほどまでの迷いが消えかけていた。今度こそ、自分自身のために生きると決めたのだから。

 

 

 

この世界はかつて、魔法が全てを支配していた。

 

貴族たちは生まれながらに魔法を操り、力を持つ者こそが支配者であると信じられてきた。しかし、時代は変わった。産業革命が起こり、蒸気機関と機械の発展が社会の在り方を変えた。そして、最も大きな変革は銃の誕生だった。

 

銃は元来、平民が貴族の魔法に対抗するために作り出した武器だ。改良が重ねられ、今では熟練した射手ならば、並の魔導士を討ち倒すこともできる。

 

だが、それでも魔法の力は依然として強大だった。ゆえに、貴族は依然として魔法を学び、平民は銃を扱うという区分が生まれたのだった。

 

そして、クラリスもまた、その「貴族」の一員として魔法を学ばされてきた。

 

しかし、幼い頃から心惹かれたのは、魔法ではなく銃だった。

 

「……私は魔法なんかより、銃を使うことに憧れていたのよ」

 

クラリスは幼少期に銃を使う平民の昔話を聞いた事があった。その平民は戦いの末に亡くなってしまうのだが、その「魔法とは違う強い存在」に憧れを抱いたのだ。

 

しかしクラリスは、貴族社会での厳格なしきたりや、家柄に基づいた役割に縛られて育った。

 

貴族としての誇りや家族の期待に従い、銃を使うことは自分の立場にふさわしくないと考えていた。貴族としてのしきたりや品位を守るため、銃のような「庶民的で野蛮な道具」を避けていたのだ。

 

貴族だった彼女には、銃に触れる機会などなかったが皮肉にも追放された今こそ、その道を選ぶ時とクラリスは決意したのだ。

 

しかし、まともな銃を手に入れるには資金が足りない。その為に、クラリスは一軒の酒場へと足を踏み入れた。

 

扉を開けると、湿った木の匂いと酒の蒸気が混ざった空気が鼻をつく。騒がしい喧噪の中、男たちの笑い声や賭け事の掛け声が響いていた。

 

ここは平民街の外れにある「レッド・バレル」。銃士(ガンスリンガー)や、ならず者たちが夜ごと集う場所だった。

 

店の奥では男たちがカードを交わし、傭兵風の男がテーブルに銃を置いて手入れをしている。壁際には戦場帰りらしき男が酒瓶を傾け、何かを呟いていた。

 

クラリスは目立たぬようにフードを深く被り、カウンターへ向かう。

 

「何を飲む?」

 

無愛想な酒場の主人が問いかける。

 

「水でいいわ」

 

主人は一瞬だけ眉をひそめたが、何も言わずにコップを置く。

 

クラリスは水を一口飲みながら、しばらく聞き耳を立てていると...

 

「最近、あの盗賊団黒狼(ブラック・ウルフ)のアジトが軍に討伐されたらしいな」

 

クラリスも聞いた事がある名前。平民の街道を荒らし、貴族の馬車などを襲撃し莫大な利益を得ていた盗賊団だ。

 

「確か、戦利品の中には、いい銃もあったとかって話しだろ?」

 

詳しい話を盗み聞きした後、クラリスは金を払い、討伐された盗賊団のアジトを訪れる事にした。

 

夜が更け、街は静けさに包まれていた。クラリスは、追放されてから初めて足を踏み入れた平民街の薄暗い路地裏を歩いていた。

 

寒さが肌に刺さり、時折、冷たい風が顔を撫でる。彼女はその冷たさに耐えながら、頭の中で自分の決意を繰り返していた。

 

「もう貴族じゃない。魔法なんか使わなくても、私は生きる」

 

自分の過去を捨て、銃を手に入れることを決めた。それは、ただの復讐ではない。彼女にとって、それは新しい生き方、人生を切り開くための第一歩だった。

 

問答しているうちに盗賊団のアジトに着き中に入る。中は荒れ果て、崩れた木箱や焦げた布が散乱していた。戦闘の跡が生々しく残っている。

 

しかし、奥へ進むと、まだ手付かずの部屋があった。

 

クラリスは慎重に扉を開ける。

 

そこには、盗賊たちが奪った財宝や武器が無造作に積まれていた。

 

「……これは?」

 

床の隅に、古びた皮のカバーが掛けられた何かが置かれていた。彼女は慎重に近づき、カバーを取り除くと、そこに現れたのは、一丁の立派なリボルバーと弾薬だった。

 

黒光りする金属、重厚なグリップ、そしてその堂々とした姿勢。見るからに威圧的で、力強さを感じさせる。

 

「……これは、S&W M500リボルバー?」

 

クラリスはその銃に見惚れた。一般的な平民の銃とは一線を画する、まさに異彩を放つ銃。

 

これこそが、強盗団の戦利品として放置されていた銃だった。

 

《S&W M500リボルバー》

 

クラリスはその名を耳にしたことがある。

 

驚異的な破壊力を持ち、狙いを定めた一撃で獲物を仕留め、凄まじい威力を誇る、世界最強の名に相応しい銃と。

 

クラリスは、銃を手に取った瞬間、その重さを感じた。グリップを握った手に、確かな力がみなぎる。引き金に指をかけると、しっくりと馴染み、まるで自分の手の一部のように感じられた。

 

「これが、私の……」

 

何もかもを失った今、彼女は初めて感じる真の力強さを得た。これで自分の手で運命を切り開くことが出来る。

 

クラリスは深く息を吸い込み、銃を強く握った。

 

廃屋の片隅に、S&W M500リボルバーを手にしたクラリスは、しばらくその銃を見つめていた。

 

強さと決意が込められた一撃で、彼女は過去を断ち切るつもりだった。この銃とともに歩む未来を、誰にも遮られない自分自身の道を選ぶ覚悟が決まった。

 

だが、それと同時に、クラリスは思った。

 

「私はもう、クラリス・フォン・エーベルヴァインじゃない」

 

彼女はその名前が重く感じられた。過去の栄光と義務に縛られた名前。家族の名誉を守るために奮闘した日々がある。けれど、

 

今はそれを背負いきれない自分がいた。家族に裏切られ、貴族としての誇りも全て捨てた。すべての過去を背負い続けるには、もう無理だと思った。

 

「新しい名前を……」

 

クラリスは銃を持つ手をしっかりと握りしめ、心の中で決意を新たにした。

 

「これから生きる私は、何もかも新しく始める。もう誰にも縛られない」

 

彼女の中で、名前を変えることが新たな出発の象徴だと感じた。そう思った瞬間、ふと心の中に言葉が浮かび上がった。

 

「ヴァルキア」

 

その名前は、どこか力強く、戦士のような響きがあった。大地を揺るがすような、そして風を切って疾走するような、そんな強さを感じさせる。

 

「クラリス・ヴァルキア……」

 

その名前を口にしたとき、クラリスは何かが心の中で解けるような感覚を覚えた。

 

過去を切り捨て、今ここに新たな自分を築くための第一歩を踏み出したのだと、はっきりと感じた。

 

「クラリス・ヴァルキア。これが、私の新しい名前」

 

彼女はその名をしっかりと自分のものとして受け入れた。もう後ろを振り返ることはない。過去を捨て、未来に向かって進むために選んだ名前だった。

 

それが誇り高き戦士の名か、死へと導く呪いとなるかは、まだ分からない。だが、もう迷うつもりはなかった。

 

そして、運命はその瞬間、牙を剥いた。突如として扉が蹴破られる。

 

クラリスは即座に反応し、扉に目を向ける。

 

暗がりの中、黒ずくめの男たちが部屋に踏み込んでくる、二人。

 

「……よう、お嬢さん」

 

一人が口元を歪めた。

 

低く、よく通る声。鋭い目つき、鍛えられた体躯──街のチンピラではない。プロの殺し屋か、盗賊の残党か、それに準ずる者たち。

 

「渡してくれねぇか、その銃」

 

「……断るわ」

 

クラリスは冷静に答えた。

 

その言葉と同時に、銃を構え、引き金を引く。凄まじい轟音とともに、衝撃が腕を貫いた。

 

銃身が激しく跳ね上がる。想像を遥かに超える反動。弾丸は男の肩をかすめ、背後の壁を砕いた。

 

「ちぃ……ッ、威力は本物か……!」

 

肩を押さえながら、男が忌々しげに呻く。

 

クラリスは痺れる指を動かしながら、深く息を吸った。この反動、まるで拳で勢いよく殴られたような衝撃。

 

“狙いがずれた……!”

 

男がナイフを抜き、一気に距離を詰める。クラリスは親指に力を入れ撃鉄を起こし、もう一度構える。

 

「今度は、外さないわ!」

 

再び引き金を引く。

 

轟音。

 

弾丸は男の腹を貫き、血飛沫が舞った。

 

「クソッ……!」

 

もう一人の男が懐から銃を抜こうとするもクラリスの方が速かった。三発目の銃声が響き、弾丸が男の胸を貫き絶命する。

 

しかし余りに強い反動にクラリスは後ろから倒れてしまう。

 

「……っ、はぁ……!」

 

痺れる腕を押さえながら起き上がり、クラリスは息を整え、部屋に静寂が戻る。

 

重苦しい硝煙の匂いが満ちる中、クラリスは手の中のリボルバーをじっと見つめた。

 

「……強いわね」

 

この銃を完全には扱えていない事をクラリスは痛感する。それでも前に進まなければならない。

 

「これこそが、私の武器」

 

クラリス・ヴァルキア

 

この名と共に、彼女は生き抜く。

 

 

 

 




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