UC.0085年
サイド6に属するイズマコロニー内の鉄道。
電車の扉が開き、人が乗り降りを始める。アラキはいつも立っている場所に向かうと、アラキよりも頭1つ背の低い赤毛の少女……アマテ・ユズリハがスマホを片手に持ちながら、アラキに軽く手を振った。
「今日はちゃんと来るんだ」
「今日はってなんだよ今日はって……」
「たまに『やっぱ休むわ』とか言って、私に休みの申告を押し付けて行くじゃない」
「まぁ、確かに……それに関してはごめん」
アラキは少しバツの悪そうな顔をしながら顔を逸らす。
「ラキはお父さんやお母さんに怒られないの?」
「父さんは少しの小言だけ。母さんは知らん……なんか微笑んでる」
「お金払って行ってるのよね?」
「流石にそうだろ。払わずに受けられるか。とはいえつまんねぇし頭痛くなるんだよな。学校の応用とか無駄に多い問題集とか。だるくて仕方ない」
「それはそうよ。勉強なんてそんなもんでしょ」
それなりに離れた塾に通う為、2人は電車に乗っている。いつも通りの時間、いつも通りの場所、いつも通り軽い会話をしていた。
「そういえばさ、亡霊ってなんでクランバトルなんかしてるんだろう?」
クランバトルの記事を見ながらアマテは疑問をアラキに投げ掛ける。
「そりゃ、生きる為とか、機体の修理費とかじゃないかね?」
「ふーん」
実際はガンダムというMSを乗りこなす為にやっているなんて口が裂けても言えない。一応、勝者には賞金が貰えるのもあり、弾薬費や修理費に充てているのは事実である。
「やっぱり色々と高そう」
「MSなんてどれもそんなモノだぜ。一般人からすりゃ大き過ぎて金のかかる玩具と大して変わらん。だが簡単に人を殺せる」
「ぅ……いきなりそういうのは言わないでよ……」
「乗ってなくたってそれくらいは認知してろよ?このコロニーの周りだってMSがいるんだ。それに、いつ乗るかもわかったもんじゃないからな」
「ムー……なんか自分は乗ったことありますよーみたいな言い方して……」
「危機感のない猪突猛進女にはわからんか」
「誰が猪ですってー?」
「じゃあ単細胞女で」
「はぁー???」
ジト目で睨んでくるアマテをなぁなぁにあしらいながら、アラキは胸のざわめきで訴えてくる勘に少し警戒する。
(何が起きるかわかんねぇ……ただ、ろくにならないことが起こりそうってのはなんとなくわかる。大事に巻き込まれないようにしたいが……コイツが安心できない……)
アラキが言ったように、アマテは常人ならやらない事を突発的に行うことがある。過去にアラキも何回か被害にあっている。
「ねぇ私の事見て何考えてた?ねぇ?」
「はぁ〜……バカやらかしてくれなきりゃ良いが」
「私ってそんなに信用ない?」
「ない」
「……」
アラキはこの乗車中、アマテにジト目で睨まれることとなった。
塾が終わり帰路に着く。アラキは相変わらず量の多い課題と問題集にテストにウンザリな様子。少しフラフラになりながらも歩く。
「おーい、ラキー?」
「……」
「おーい?」
「……ん、なんだ?」
「最近体調悪い?」
「……いんや?」
「なんか顔色悪い気がしてさ」
「頭は回ってないな……苦手なとこやったからかねぇ、もうヤダヤダ」
頭を適当に叩きながら少し落ちていた意識を戻す。フラフラした足取りもしっかりとしたものになる。
「ったく、これだから勉強は嫌いだ」
「どこかで休む?」
「いや、すぐ帰る。すぐ寝る」
「ブレないわね」
「休むならそれが一番だろ。1回休憩入れたら辛いのもあるけどな」
「あー何となくわかるかも。動きたくないよね」
「ガチめに動きたくなくなる……早く帰りてー」
ぐだぐだと愚痴を吐きながらも帰路をなぞる。電車に揺られ、マンションの階段を登る。
エレベーターもあったが、この時間帯は塾帰りと被るため待つ必要があり、それくらいなら階段の方が早いとのことで毎回重い足を上げながら登っている。
「そういや、マチュの父さん何してんだろうな」
「単身赴任だから、何してるんだろうね。そういえばそっちは元々ラキのお父さんが単身赴任の予定だったんでしょ?」
「ああ。けど家族総出でこっちに移った。その結果生きてるんだけどな」
「どこ住みだったの?」
「サイド2」
「へぇー」
「棒読みかよコイツ……」
聞いてきたのはお前だろとアラキはため息を吐きながら肩を落とす。
一方アマテは、携帯の検索からサイド2の大事故大事件などを調べていた。
「……生きてるってそういうことだったんだ」
「なんて?」
「いや、……なんでも?」
「………………はぁ、真面目に調べんでも。気にしてもないし」
アラキはアマテの頭に手を置くと雑に頭を揺らす。
「やーめーてー!?だってここに来なかったらラキはいないってことでしょー!」
「んなもん結果論だろ。俺は今ここにいる、それで終わりだ。もしもの事なんか考えても仕方ないだろうが」
「それはそーだけどー!とりあえずやめてー!」
「はいはい」
アラキは頭から手を離す。その後にアマテはぐしゃぐしゃになった髪を手でそれなりに直す。
「どうした?そんなしおらしくなって。お前らしくない」
「……たまにホントのホントに体調悪くて早退したり、休んだりしてるってラキのお母さんから聞いてさ。もしかしたらなにか負ってるんじゃないかって」
アマテは俯いて呟く。相当心配されているようでアラキは少しもどかしくなる。
「それはー……昔からなんか感受性が豊からしくてなぁ。ふとした時に涙脆くなったりすんだよ。落ち込んだりとか……だから気にすんな」
「ほんとに大丈夫なんだよね?」
「おう。大丈夫だ」
「はぁー……なんか信用できない」
「えーそんなに信用がないか?」
「ないですー!あったら心配しないし」
「そりゃそうか、ははは!」
「笑い事じゃないでしょ!」
扉の前で言い合いをしていると後ろから足音が近付いていき、2人が反応して振り向く。
「ん?」
「?」
「あらあら〜2人してイチャイチャして〜そういうのならウチでしていきなさいな〜」
「アマテの貰い手がいてくれて本当に助かるわ〜」
「「ね〜」」
アラキとアマテの母親がいた。そう、一部始終を見られていたのである。
「ばッ……お、お母さん!?ち、ちちち違うし別にそんなんじゃないしッ…!!」
「母さん……いつから見てた……」
「うふふ〜そうねぇ。あなた達が階段を登ってるあたりかしら?」
「ほんとほんと、音立てて歩いていても振り向かないんだから。そこまでお熱なら向こうに泊まってきたら?どうせ途中まで一緒に歩いていくでしょ?」
「そういう問題以前にそんな関係でもないんだが?」
「そ、そうよ。私達は単なるお隣さんなんだから!」
「昔のお父さんと私を見ているみたいだわ〜。まぁ当時は私がお父さんのコロニーに移住したのだけれど」
「そうかい」
「アラキ君、遠慮せずにうちの娘貰ってくれない?ウチは女子校だから経験なさそうだし、アラキ君なら安心して送り出せるから」
「少なくとも今言うべきことでは無いと思うんですが?」
「今から言っておかないと絶対捕まえられないから」
「俺そこまで優秀でも優等生でも良い子でも無いですがね?」
「これくらいの方がこの子には合ってるから。あと知ってるわよ?学年じゃ上位キープしてること」
「……勘が殆どですし」
「勘が冴えているのはこのご時世ではとても重宝されるわ。政治家としてもいい線いけるわよ」
「……………………」
不味いな……引き出しがない、このレスバに勝てるほど俺は悪条件が無いと自己解析ができていないことを内心で嘆くアラキ。
これでは実質許嫁と変わらないのである。この2人、結束というか友情というか、繋がりがものすごく太い。8年でここまでなるか。いや、8年だとこうもなるか。
アラキはお隣さん同士の結束力は恐ろしいと感じた。
「我ながらにして良い息子に育ったわ〜、黒いことも平然とやれるくらいには度胸もあるし」
「おい、それは言うな母さん。目の前にいるのヤバい人だから」
「クランバトルでしょう?軍警が抑え込めない時点で半分諦めてるわ」
「…………」
「え、クランバトルしてるの?本当にモビルスーツに乗ってるの?」
「………………」
あっさりと母親2人に暴露されたアラキ。危機感無さすぎだろと思わずにいられないが、それよりもアマテに聞かれたことが一番まずかった。顔を背けるがアマテはアラキの方に向く。
「バカなことしてるのそっちじゃない!私に説教するくせにそっちは裏でやってたって説得力ないんだけど!」
「……」
「あら〜うふふ。女の子に危険な事をしちゃいけないって教えてるのね。まぁ〜良いわね〜」
「アマテ、アンタは余計な事するから言われてるだけよ」
「酷いお母さん!?」
何気なく娘に棘を放つアマテの母。それに大きなリアクションをするアマテ。
「あの、帰ってもいいですかね?」
「そうね〜。また今度かしら」
「いつでも良いからね?この子ったら危なっかしいから」
「お母さん!アラキも、気にしなくていいからね!」
「おう、気にしたくもない」
「なんだろう、そう言われると逆にイラつく……!」
「こらこら、噛みつかないの。またね、アラキ君」
「あ、はい。また」
「それじゃあ〜失礼します〜」
各々自分の家に着く。
「ただいまー」
「ただいま〜帰ったわ〜」
2人がそう言うと、奥の扉からそれなりに歳を取ったダンディーな男が現れる。アラキの父である。
「おかえり、外が少し騒がしかったな?」
「少し外で話していたのよ〜」
「……」
「ははは、またお隣さんと会話が弾んだか?」
「いや……別に……」
「ほんっとこの子奥手よね〜。あんな子直ぐに捕まえておけば安泰なのに」
「少なくとも君に言われたくはないと思うが」
「もうっ、なに〜?私が奥手だって言いたいのかしら?」
「それはもう……私が何度求婚したことか。たしか340……」
「待って流石に恥ずかしいからそれはなし……だいたいその時の貴方は身分があったでしょうに」
「そんなモノ、愛の前では無用の長物だ。それに、今の私が落ちぶれているとでも?」
「そんな事一度も思ったことないわ。貴方はいつでも誇り高い私の夫よ」
「それは良かったよ、マイハニー」
「もぉ、でもそんな所も素敵よダーリン」
「…………俺はあと何回、この夫婦漫才を見させられればいい。教えてくれ……妹よ……」
この異様に甘ったるい空間に胸焼けと親同士という気苦しさで、アラキは塾帰りで使った頭には頭痛が追加された。
食事を始めて少し、アラキの父が話を始める。
「そういえばだが、アラキ」
「?…っんぐ。どうしたんだ父さん」
「近頃……と言っても明確には明日頃だ。モビルスーツの運用には気を付けるように」
「はい?そりゃどうして……」
「ジオンの艦がこちらに来ているらしい」
「まぁ、急ね。どうしたのかしら」
「言っていいの?そんなの重要情報だろ」
「極秘情報というには隠れもしないらしい。実際、コロニー付近に巡回する形で来るとのことだ。少なくとも、輸送船や建築業の連中は見ることになる。隠しているのはここが中立だからと言う他にない。ジオンでも連邦でも、このコロニーに来るというのは厄ネタには変わらん。実際に見ない一般人には、無駄に混乱を招くだけだ」
「確かに……?でも、もし入港なんてしてくりゃ立場が悪くならないか?」
「そうなれば急遽の入港手続きを行ったとしか言えないな。とはいえ、無駄に混乱を招きたくないのが概ね上の考えだ。実際、私含め大方はそういう方針を取っている」
「ふーん……まぁそんな突然入ってくるなんて、それこそ向こう側だって面倒になることはしたくないだろうし…………これフラグかもしれない……なんか胸騒ぎがする」
アラキは今まであった胸騒ぎが少し大きくなった感覚を伝える。
「お前が言うと洒落にならないな……そうだな、対応できるように私から言っておく」
「ジオンさんも、こんな所に何の用かしら」
「噂程度だが、赤いガンダムを探しているようだ」
「あの一年戦争で、赤い彗星が駆っていた赤いガンダムのこと?」
ジオンの赤い彗星『シャア・アズナブル』。それはスペースノイドで知らぬものは殆ど居なく、ましてや月では知っておかなければ恥ずかしいとまで言われるグラナダの英雄である。
一年戦争終盤、連邦の『ソロモン落とし』の阻止作戦に参加、作戦は失敗かと思われたが、突如謎の光によりソロモンの一部が喪失。それにより軌道が逸れグラナダ基地は消滅をまぬがれたのである。
しかし、その光と共に赤い彗星は機体と共に姿を消した。
その機体が今、このイズマコロニーで目撃されているというのだ。
「あぁ、どうやら軍警の情報によると、例の亡霊の他に、赤いガンダムの目撃情報も出るようになったらしい」
「……赤いガンダムなんて見たことないぞ」
「お前も見ていないか……うむ、実際の目撃情報もそこまで多くない。これでは赤いの方が亡霊だな」
「そうだな……さしずめジオンの亡霊、赤い彗星の亡霊とも捉えられそうだけども……」
「亡霊なんてあちら側の付けたあだ名のようなものじゃない。この子のはちゃんと名前があるわ」
「1年間に何度も見られればもう亡霊とも言えないでしょ……いや、ガンダムなんてそうそう見ないか」
「ガンダムの存在自体、現存していることが異例だということだ。そういう意味では亡霊も的を得ているだろう。ただあちらは赤いガンダム。赤い彗星の亡霊として差別化されることは間違いない」
「まぁ、正直どっちでもいい話だわな」
「やだ、私達のコロニーはなんて物騒なのかしら」
「…………それ嫌味?嫌味で言った?」
「冗談よ〜もうアラキったら短気なんだから〜」
「どう聞いても嫌味にしか聞こえないんだが??」
「はいはい、この話はもうよそう。君は本当に無意識に煽りが出るな。昔はこうじゃなかったはずなんだが……」
「誰かさんのせいね〜」
「ぐっ……」
「…………父さんのせいかよ」
「悪かったな……ここまでになるとは思わなかったんだ」
「あら〜?今度は私の番かしら」
「はいはい、終わり!閉廷!さっさと食べる!」
アラキの急な折り方で食卓は落ち着くのであった。
「という訳で!アラキの情報を元にジオンの艦を撮影しよう!」
「えー…………」
「諦めなって……コイツミリタリージオニストだから」
「行くってなんで行くつもりだよ……まさか俺に行かせる気か?」
くそ……ふと思い出してメンバーに言ったらこれか……学校終わりってそれなりに辛いし、何よりまた塾休みを入れないといけないじゃねぇか。
「やっぱガンダムでしょ!軽キャノンとガンキャノンだと下手したら連邦と間違えられるし」
「ガンダムは亡霊扱いされてるから連邦所属じゃないってこと?」
「そうそう」
「そんな上手くいくとも思えないんだが」
「下手したら鹵獲されそうで怖いんだけど」
「その時は……頑張って!」
頑張ってニコッ!じゃねぇんだよなぁ??ほんまこいつジオンのことになれば他人を簡単に捨てやがる。ましてや鹵獲させろとか思ってそうなんだ。頭ジオンがよ!
「はぁぁ、少しだけだぞ」
「甘い、甘すぎるよアラキ……」
諦めないと無理無理。コイツは返答するならはいかYesしないとうるさいし拗ねる。主要メカニックが拗ねたら応急処置しか出来ないんだから。コイツほんとに面倒くせぇ。腕が良いから手放せないし。
「言質は取ったからな!」
「赤いガンダムも来るかも?」
「そうなりゃ面倒くさくなるぞ。赤い彗星が乗ってた機体を使える奴なんてそうそういないだろ」
「あぁ……(察し)」
「ウチだって最新技術を導入した快適コクピットぞ!動力系や関節部の強化も怠ってないし」
「いうて向こうは5年前の骨董品止まりだろうし……」
「禁止されてるサイコミュ技術が使われてるんなら話は別だけどさ」
「何も実物を見ないとわからん。その時はその時だ」
「言う張りますなぁ。流石、ウチらのリーダーだ」
「そのリーダーに無茶言ってる奴が言うことか?」
サイコミュ技術は一年戦争の時点で試作とはいえ実践に使える程度には確立されていた、とされるとサイコミュによる補助があることは想像にかたくない。
こちらは年々アップデートはしているが所詮は機動の高い機体止まり。どう対処するか。
「要観察……だな。後々に活かせるだろ」
「ミノフスキー粒子散布中域じゃなければある程度解析できるだろうから……まぁされると思うよ?」
「赤いガンダムの捜索、いければ鹵獲だろうしなぁ……」
面倒くさいことには変わらないな。まぁいいや。
「面倒事に顔突っ込むのは散々やってきたし、今更だよな」
「何を今更!」
「あーはいはい」
「アラキ……はぁ、やれるところまでやろう。ここに居ること自体共犯みたいなものだしね」
んじゃま決まったことだし、行こうか。目標はジオンの艦。次点で赤いガンダム。
嫌な予感はする。するが、出向いた方が良い気はする。事態に対して手が伸ばせる範囲に居れるのなら好都合だしな。
次回から本編入りですね。腕が試されます。