一話『友人からの頼み』
「モモンガさん。ナーベラルのことよろしくお願いします」
ナーベラルを横に置きながら、友人──弐式炎雷がゲームをやめる前に最後のお願いとしてモモンガにそう頼んだ。そんなにナーベラルが大事ならまだ続けてくれればいいのに、と思わないこともなかったのだが、なんでも子供が生まれるらしく、今までのようにゲームで遊んでられないのと目標であった、たっち・みーがゲームを辞めてしまったことでモチベーションの維持も難しくなったのだろう。
控えめな性格のモモンガは彼を止めるだけの言葉を持ち合わせてはおらず、またそれだけのわがままを言うこともできず、本心とは違う言葉を口から出すだけだった。
「任せてください。弐式炎雷さん。」
もっと言いたいことがあったはず──やめないでください。落ち着いたら復帰してください──しかし、そんな言葉が出ることはなく、彼の頼みを聞くことしかできなかった。
モモンガのその言葉を聞いた弐式炎雷は──
「じゃあナーベラル、あとはモモンガさんにお願いしたから。元気でな。」
そう残しログアウトしていった。
それから月日は流れ、ユグドラシルのサービス終了日、久々にログインするギルメン達を(あの日と同じように)呼び止めることもできなかったまま日付はそろそろ変わろうとしている。日付が変わってしまえば、ここにいるNPCや、仲間たちと集めたアイテム、仲間たちと作り上げたこのナザリックでさえ──思い出の中でしか残せない。
最後くらいは玉座で迎えよう──そう考えたモモンガはセバスやプレアデスがいるところへ移動し、名前やら設定やらを一読し、少しいじった後ナーベラルの顔を見る。
「結局、お願いしますと言われても何すれば良かったんだろうな。色々とやってはみたけど、弐式炎雷さんは満足してくれるかな?…って不満を言われたところで今日で終わりだからもうどうしようもできないけど」
その言葉は誰に向けたわけでもない、本心をただこの場で吐き出したいだけだった。自分は友人の頼み事を全うできたのだろうか、できていないのだろうか。その答えを教えてくれる人さえ、もうここには誰一人としていない。弍式炎雷、いやその他の人でもいい、自分は今まで──ユグドラシルの最終日まで上手くやって来られたのだろうか。
頼み事をされた日から、モモンガは律儀にも「よろしく」という曖昧な頼み事に応えようと、ログインする日は必ずナーベラルに関して何かをしようとしていた。
装備の見直しであったり、新たに入手したアイテムは使えるかどうか考えたり、弐式炎雷が残した装備をどうにかして
もしNPC達に自我があればナーベラルを贔屓していると言われる──そう思う程気にかけていた。それの極めつけとしては弐式炎雷が最後にナーベラルの頭に手をやっていたことから、モモンガもそれに倣い毎日ナーベラルの頭を撫でていた。
しかし、そんな思い出も今日でなくなってしまう。残るのは自分の頭の中だけ──形としては残せないのだ。
モモンガは弐式炎雷がいなくなる日に残した言葉を思い出していく。
「ナーベラルは俺の娘のようなものです。ですがモモンガさんになら任せられるので」
──そこから冒頭の言葉へと続く。
ナーベラルにとって弐式炎雷が父親だとしたらその父親に変わって今度は俺が父親になる──モモンガはそのように考えていたからこそここまでナーベラルを気にかけてやれたのかもしれない。自分が作ったNPCが黒歴史だからとかは関係ない…はず。
弐式炎雷の言葉を思い出しながら、いつものようにナーベラルの頭を撫でたあと、そういえば一度も動かしたことなかった──と思いつきモモンガは、セバスとプレアデスを従え玉座の間へと連れて行くことにする。そこに控えるアルベドの設定を読み「ちなみにビッチである」という一文を流石にこれはなあと思い「可愛いものに目がない」と書き換えておき──ギャップ萌えを狙うならこんだけ凛としててカルマ値がマイナスなのに可愛いものが好きって方がいいだろう。最後くらいは許してくれるはず。
そして玉座に座り、飾ってある旗を眺めながらギルメンへの思いを馳せていく。モモンガの青春の全てと言っても過言ではない、大切な仲間たちとの思い出。
悲しくないと言えば嘘になるかもしれないが、それは最後に相応しい感情ではないし、良いことではないだろう──仮にこのユグドラシルというゲームの存在すら無かったとしたら、今の──いや、ここ12年の人生はどうなっていたのだろうか。何にも楽しさを覚えることなく、ただ社会にこき使われ、生きる希望を感じていたのだろうか。
これから先──ユグドラシルが終われば、そう思う日が来るかもしれないが、そんなことなど今考える必要はない。
今思うことと言えば。
「…楽しかった。本当に楽しかったんだ。」
これが最後にナザリックに残す言葉である。
感謝とはまた違う、手放しにありがとうと言えるようなゲームでは無かった。色々と嫌なこともあったし、理不尽なこともあった。いくら課金しても無駄だったこともあった──しかし仲間たちと出会い、そして一緒に過ごした時間は先にも言ったように──楽しかった、この一言である。
ユグドラシル、そしてこのナザリックに別れの言葉を告げて、頭の中ではこの世界は既にないものとする。名残惜しさを感じてはいけない。そんなことを思ったとしても、自分の感情ではどうしようもなく──消えるだけ、このナザリックも、友人の頼み──ナーベラルでさえも。
サーバーが落ちたら早く寝よう。明日は4:00起きだし。
座ったまま日付が変わるのを待つ。
57…58…59…
日付が変わると思った瞬間、視界が真っ暗になる。
気絶していたのだろうか、はたまたただ視界が暗くなっただけなのかは定かではないが急に視界が開けてくる。
──そこは夜の森だった。周りに生き物の気配は無く、先ほどまでいた玉座の間はおろかナザリックすらどこにあるのかわからない──ログアウトしたのかそれともまだゲームの中なのか。そんな悩みは自分の手を見てすぐ明らかになる。骨のままだ。そして夜でも鮮明に見える事から、アンデッド特性が働いているのだろう。
つまりここはまだゲームの中のはずだ。
しかしそれを否定するものもある。先程から森林特有の土や植物の匂いがしているのだ。匂いは依存度を高くしてしまう故禁止されていたはず。そして先程から試しているチャットやGMコールも反応がなくコンソールすら開くことができない。
どういうことなのだろうか。
とりあえずここにいてもわかることは少ない──モモンガは森を抜けようと歩いていく。
すると足音が聞こえ、近くに寄ってみると話し声が聞こえる。
「あーちくしょう。いい女だったのになぁ」
「お前が無理矢理大量のヤク打って首絞めながらヤったからだろ」
「まさか死んじまうなんて思わねぇだろ」
声を頼りに近くに寄っていくと二人組の男と裸で倒れている女性が見える。さらに近くに寄り声をかける。
「──あの、すみません。」
その声に反応し男達がこちらを見た瞬間、一人は悲鳴をあげる。
「!?ひ、ひいぃ、ア、アンデッド!!?なんでこんなところに!!」
言いながら男はそのまま尻から落ちる。その男とは裏腹にもう一人の方は既に臨戦体制だ。
「アンデッドめ!」
腰につけている剣を引き抜き、今にも襲い掛かろうとしている。
まだ異業種狩りをしている人がいるのか。それとも再ブームというやつなのだろうか。サ終したゲームが終わらなかったからとりあえずPvPをしかけているだけなのだろうか。とりあえずは相手をするしかないだろう。
モモンガは
これでもし反撃が来る、もしくは効果なしであれば一旦撤退して立て直すしか──あれ?
男はその場で倒れるだけだった。
「こ、この野郎!!」
今度は先程まで腰を抜かしていた男が声をあげる。
目の前の男が倒れたことで、自分も戦おうと決めたのだろう。震える足で必死に立ち上がって襲って来ようとする。
次はさっきよりは弱い魔法、
「弱すぎだろ…」
思わず呟いてしまう。これは罠でもなんでもなく男2人はその場で絶命し、後には嫌な匂いがするだけ。
これらの事から、色々と察することができた。まずここはユグドラシルではないし、ゲームでもなく現実だと。人を殺したという感覚、そしてこの匂い。仮に匂いがゲーム内で許可されていたとしても、出せるものではないだろう──人の焼けた匂いなんて。近くに倒れている女性の死体も裸であり明らかに18禁だ。
さらに気づいたこととして、人を殺したにも関わらず
だとしたら疑問が残る。果たして、転移してきたのは自分だけなのだろうか。ナザリックはどこにいったのか。この世界はどうなっているのか。
とりあえずは今は状況が何もわからない為、森を抜ける為歩き出すしか無かった。
思ってたより書くの大変だった。このあとどうなるかは私にもわからない!!何でこの設定にしたのかも考えていません。書く前は原作と同じように転移する予定でしたが書いてる途中でなぜかこのような形の転移となってしまいました。何でナーベラルと別々にしたのかも謎です。分からないことだらけですが頑張ってまとめていきたいと思います。