英雄と美姫の物語   作:ながしながされ

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今回は勝利を祝う回です。
半蔵は前回の一件が終わった後はアインズ様のご命令によりバレないように全員ナーベラルの身辺警護しています。

勘違いしていたのですが、オバロの世界でも着替えって一瞬で切り替わるわけじゃなくて、ちゃんと着替えないといけないんですよね?そこら辺がわからなくて、とりあえずこの作品では着替えないといけない、という設定にしてあります。

前回のあらすじ
アインズ様「純粋な人間を利用するとはっ!!え?このタイミングなの!?」

この話でアンケートは終了させて頂きます。皆様本当にありがとうございました。


十話『祝宴会』

 ああ、なんと幸せな気持ちなのだろうか。アインズ様が私の頭を撫でてくださっている。足に力が入らない、この場で座り込んでしまいそう。虫どもの鳴き声がうるさいけれど、至高の御方がおられるこの場であれば、どこよりも価値のある場所になる。

 しかしそんな幸せもすぐ終わってしまう。頭からアインズ様の御手が離れてしまった。

 この瞬間が1番辛い。この幸せを知らなければ、ここまで辛く感じることもなかったはずなのに。でも悲しがる必要はないわナーベラル、私は今だけ撫でて頂けるわけではない、毎日撫でて頂けるのだ。そうお約束してくださった!これ以上求めるのは贅沢というものだわ。しかし、そろそろ日付が変わる。早速明日の分をお願いしようかしら。いや、今はこの余韻を楽しむ方がいいわね。

 

 ナーベは自身の欲求と戦っていた。

 

 モモンはそんなことは露知らず、嬉しそうに頭を撫でられるナーベの顔を見て、恥ずかしすぎるけどこんだけ喜んでくれるなら我慢しよう、と必死に恥ずかしさと戦っていた。

 

 ナーベを撫で終わり、恥ずかしさのピークも過ぎ初めて少し落ち着いた頃。

 

 

「モモンくん、ナーベ嬢!」

 

 

 聞いたことのある声がする。

 声の主を探そうと辺りを見ると、アインザックがそこに立っていた。こんな時間にも関わらずここにいるということは、冒険者組合の組合長という立場から起きていなくてはならなかったのだろう。

 

 

「どうされました?アインザック組合長」

 

 

「君達に感謝を伝えにね。本当に助かった。君たち二人がいなければ、このエ・ランテルはおろか、他の街の方にも被害が出ていたかもしれない。誠に感謝するよ。」

 

 

 この上なく感謝を表すかのように、アインザックは深々と頭を下げてお礼をする。そこにはモモンとナーベの二人にほとんど頼りっぱなしだったこと対する申し訳なさ、自分たちの不甲斐なさも含まれている気がする。

 ただ流石にここまで深いお辞儀をしてもらうのは居心地も悪いので、 モモンはアインザックに頭を上げるよう言う。

 

 

「頭を上げて下さい組合長。この街が襲われていたんです、対処するのは当然でしょう。それに私達だけではない、他の冒険者の方々にも手伝って頂いたので、彼らの協力がなければ今でも事件は解決していなかったと思います。感謝を述べるなら彼らにこそ相応しいでしょう。」

 

 

 モモンはそう言うが──アインザックは思った。他の冒険者達がいてもいなくても、この二人がいれば同じ結果になったはずだ。

 

 あれだけのアンデッドの軍勢を退けるだけでも、今いる冒険者達では少々荷が重い。被害が出る前にわかっていれば、ここまでの事態にならなかったかもしれないが、墓地の警備兵でさえ気が付かなかったのだ。それを被害が出る前から食い止めるのは不可能なこと。それでも甚大な被害にならなかったのは、今目の前にいる二人がいたからだ。

 アンデッドの軍勢だけではない、遠くからでも見えた光、そして天使。あれは人に成せるものではない。王都にいるアダマンタイト冒険者チームでも、あれを撃退までいけるかどうかはわからない。しかしこの二人はそれですらやってのけたのだ。

 

 しかもその武勲ですら傲る訳でもなく、むしろ感謝するのは自分達以外の協力してくれた冒険者だという。あまりにも謙遜するので、あのヘルムの下は人成らざる者なのではないかと疑ってしまうが、割れた箇所から見える漆黒の瞳が彼は人間だと物語っている。

 そう、本物の英雄なのだ。

 この事件は何年経った後でも、彼の十三英雄の御伽噺のように語り継がれるだろう。彼らの物語のその一端として。

 

 アインザックにはそのような思いがあったのだが、モモンはあまりそういう態度をして欲しくなさそうなので、すぐに頭を上げていつも通りの態度でモモンに接する。

 

 

「そうか。他の者にも礼を言っておこう。それでモモンくん、ナーベ嬢、君たちには明日、もう今日になるのか、朝冒険者組合に来てはくれないか?君達も疲れているだろうに申し訳ないのだが、今回の件で君達のランクを上げようと思うのだ。これは本当は今言ってはいけないことなのだが、君たちを新たなアダマンタイト級冒険者として登録することに決めた。」

 

 

 アインザックはそう言った。

 本来であれば、ランク昇格のために細かな調査や実績を審査しなくてはならないのだが、漆黒の活躍を見れば実績は火を見るより明らかだろう。今回のこの事件、正確な数はわからないが死者数は優に300人は越している。

 それも、ものの一瞬でだ。

 これだけの死者数、そして時間を考えれば敵がどれほど強大であったかがわかる。そんな敵をほぼ二人で一掃したのだ。なので特例として、ランクを一気にアダマンタイトまで昇格すると決めたのだった。

 

 

「わかりました。朝に向かいましょう。組合長もお疲れでしょうに、ありがとうございます。ああ、あと組合には向かいますが、明日は依頼は受けないつもりなので、依頼があれば明後日以降にお願いします。」

 

 

「ああ、わかった。流石に明日アダマンタイト級がしなくてはいけない依頼などないし、ゆっくり体を休めてくれ。それではまた朝に、よろしく頼む。」

 

 

 アインザックは一礼をしてこの場を去っていく。

 モモンは彼の背中を見送った後、視線を外す。

 周囲では人々の歓喜もようやく落ち着き始めていた。モモンとナーベは、皆の感謝や称賛の言葉を聞きながらこの場を去り、宿へと向かっていく。

 

 

「あっ!しまった!」

 

 

 モモンは宿に向かう途中(小さな声で周りには聞こえない程度だが)叫びだし自分の犯したミスに気付く。

 

 カルネ村に向かう途中に一泊したから、宿代一泊分無駄にしたあ!もったいねえええ!

 

 モモンはまさか泊まりがけの依頼を受けることになるとは考えてもいなかったので、宿はそのままだったのだ。そもそもお金は一銭たりとも払ってはいないのだが、もったいないことに変わりなく、自分の愚かさを責める。

 

 そのまま歩いて宿に着き、本当ならもう一泊分できたのになあ、と思いながら部屋に入り、魔法を解除して壊れかけの鎧を消す。

 実の話、鎧が壊れながらも戦っていた方がそれっぽいという理由で自分で色々な箇所を壊していたのだが、片目の部分も壊してしまったため、視界がおかしく気持ち悪いので早く脱ぎたかったのだ。

 

 ソファに座り、ナーベラルは突っ立ったままなので、座って良いと許可を出し、隣に座ってくる。もうこれに関しては諦めたので、それに関してアインズが特になにかを言うことはない。ナーベラルが座ったのを確認して、口を開く。

 

 

「さて、ナーベラル。お前の作戦は見事なものであった」

 

 

 今回これほどの名声を得られたのは、ナーベラルの立案した作戦のおかげであり、そのことに礼を言いたかった。

 

 

「はっ!身に余る光栄でございます。アインズ様。しかし御身であれば、より良い作戦を既に思い付いていたはず。にも関わらず私の愚案を採用していただき、この上ない喜びでございます。これも一重にアインズ様自らが行動なさった結果かと」

 

 

 ナーベラルはその場で頭を深々と下げる。

 

 どうやらそのアインズとやらならもっといい作戦だったらしい。あとでそのアインズとやらに聞いてみたいものだ。まさか突撃しか思い付いていないなんてことはないよな?

 

 

「何を言うナーベラル。お前のおかげでこれ程の名声を得ることができた。これで私たちは時の者となり、あれを目撃していなかった者にも噂が広まるだろう。お前のおかげだ。何か褒美をやらなくてはな」

 

 

 アインズは本当に褒美をあげたい気分だった。今回のこの作戦は求めていた、いやそれ以上の成果だったといえる。正義ロールプレイもとても楽しかったし、人間どもから称賛されるのも悪くない気分だった。

 しかしナーベラルは受け取ろうとはしない。

 

 

「お言葉ですがアインズ様。私は先日、既に褒美をいただいております。これ以上至高の御方から褒美を欲するなど、従者として失格かと」

 

 

「ナーベラル。私が褒美を与えようとしているのだ、そのように固辞することは美徳かもしれないが私にとって不快だと知れ。お前の望みは何だ。今思い付かないのであれば後ででもいい、褒美を与えさせてくれないか?」

 

 

 ナーベラルは顔を上げて、しまった、という顔をする。我が主人であるアインズ様を愚かにも不快にさせてしまった。

 だがしかし今のままでも十分幸せであるのに、これ以上何をアインズ様に欲すればいいのか。至高の御方に仕え、お側にいるだけでも幸せなのに。

 そう思ったナーベラルは、ふと思い付く、これ以上ないであろう褒美を。

 

 

「申し訳ございませんアインズ様。でしたら褒美として、今日一日ずっとお側にいさせては下さらないでしょうか?」

 

 

 やっと褒美を受け取る気になってくれたか、とアインズは思ったのだが疑問が残る。側にいるのが褒美なのも疑問ではあるのだが、そもそもナーベラルと出会ってから、ずっと一緒にいた気がする。一人で行動しようとすると止められてたし。

 

 

「それがお前の求めるものならば、そうしよう。しかし、一つ聞かせてくれないか?私はナーベラルと出会ってから一度も一人行動はした覚えがない。つまり、その褒美は今まで通りということではないのか?」

 

 

「いえ、アインズ様。私は一度、薬草のある家に行った際アインズ様のご命令により、あの人間を守るため一度お側から離れることがありました。」

 

 

 薬草のある家?多分バレアレ家のことだろう。そこで確かにリイジーを守れと命令した。でも離れることなんて──あ。もしかして、リイジーが一回ンフィーレアを探しに部屋を出た時に、ナーベラルもそれについて行ったからその時の事を言ってるのか?あれ10分も無かったと思うけど。

 そのことをナーベラルに聞くと、そうだと言われてしまったので、どうやら今日は1分たりとも1人行動はできないらしい。トイレに行かなくてはいけない体でなくて良かった。

 

 

「わかった。では今日は私の側を離れるな。それをお前への褒美とする。」

 

 

 ナーベラルはまたもや深々と頭を下げ感謝する。そしていつもの如く、朝になるまで二人で会話を楽しむのだった。

 

 

 現在時刻は午前10時。本当はもう少し早く組合に向かうつもりだったのだが、話し込んでしまい、今に至る。

 アインズは鎧を着て組合に行こうと思ったのだが、鎧は消してしまった為、昨日がどの程度壊れていたのか自分の姿を鏡で見たわけではないので分からず、魔法で再現することができない。

 昨日のモモンの姿を見ていた者がいれば、傷つき具合が昨日と違うのはおかしいと思われるかもしれない。

 というか壊れた鎧をわざわざ次の日にまた着ているのも流石におかしすぎる。

 

 それに今日は組合に向かうとはいえ、実質休暇だ。アインザックにもそう伝えているし、人間の姿のままでも問題はないだろう。

 

 服装はナーベラルの格好と似たようなもので、それの男バージョンのような感じだ。武器だけでも持っていくか、と思うのだがグレートソードは消してしまったし、この姿であんな大剣持ってるのもカッコ悪いしな、という理由でアイテムボックスから2本のダガーを出し、腰の後ろにつけ出発する。

 

 

 向かう途中、街行く人たちから「ナーベさんだ!」「まさしく美姫!」「ナーベ様、この街を救ってくれてありがとうございます!」などといった声を聞きながら組合に到着する。

 受付嬢にアインザックに呼ばれていると伝え、なんか不思議そうな顔で見られるが、こちらでお待ちくださいと言われる。座って待っているとアインザックが出てくる。

 

 

「待ってたよ。ナーベ嬢と──君は誰だね?もしかしてモモンくんか?」

 

 

 モモンは気づいていなかったが、組合に来る途中に聞こえた賛辞の言葉は全てナーベに向けられたものであり、その横を歩くモモンに対しては「隣の奴は誰だ?」「ナーベの彼氏か?」「あれで女なら惚れてた、いやもうどっちでもいい」など聞こえないように言われていたのだった。

 誰もモモンの中身があの姿だとは思わず、もっとガゼフのような歴戦の戦士を思わせる顔立ちだと思っていた。体つきもそうだ、あれだけの大剣を背負い、フルプレートを思わせない動きをするのだから、かなり筋骨隆々で大きな体格の持ち主だと思われていた。もちろん人間の姿のモモンも筋肉はあるし、身長も大きい。あれがモモンの中身だと言われてしまえば、納得はするのだが、イメージとのギャップが激しすぎたのだ。

 

 そんなことを思われていたとは知らないモモンは、そういえばヘルムは外したことなかったのか、と特に何も考えることはなくアインザックに答える。

 

 

「ええ、モモンです。鎧は壊れてしまったので置いてきました。どうせ休暇の予定ですし、必要はないでしょう。」

 

 

「そうだったのか。いやそれは失礼した。申し訳ない。では二人とも着いて来てくれ。」

 

 

 アインザックに連れられ着いていくと、そこはいつもの部屋ではなく組合長の部屋だった。かけてくれ、と椅子を勧められナーベとモモンは座る。

 

 

「さて、まずは昨日の今日で呼び出してしまってすまなかった。今回呼んだのは昨日も伝えた通り、君たちをアダマンタイトに昇格することに決めたからだ。それで、冒険者プレートを直接渡しておきたくてね。ラカロくんもいれば喜んだだろうに。」

 

 

 そう言いながら、アダマンタイトのプレートと昨日の報酬を差し出され、それを受け取り、そのラカロについて聞く──予想はできるが。

アインザックは語る。

 昨日の騒動で、この二人のアダマンタイト昇格を喜ぶもう1人は帰らぬ人となったのだと。しかしモモンは特に何も思いはしない、ラジオが壊れたくらいの感覚だ。ナーベはというと、何も感じないどころか誰の話をしているかすらわかっていない。

 

 

「そうでしたか、それは残念です。一番最初にナーベを評価したのもその人だったと聞いています。」

 

 

 

「すまないね、こんな暗い話をする為に呼び出した訳ではなかったのだが。二人を呼んだのはプレートを渡すのもそうなんだが、昨日の夜、勝利を祝って祝宴会を開きたいと他の冒険者達が言っていてね。ちょうど君たちに声をかける前の話なんだが、これだけ被害も出てしまって、死人も少なくない数が出てしまった。せめて少しでもこの街に、盛り上がる行事をしようということで、君たちに参加して欲しいんだ。殺された市民達への供養も兼ねて神官達も参加する。悲しい雰囲気で送り出したくない、そんな気持ちでこの祝宴会を冒険者主体で開くことに決めた。ただ急遽決まったことなので、そこまで大きなものではないのだがね。市長も理解を示してくれた。」

 

 

 別に今日の予定が決まっていた訳でもないので快く承諾する。

 詳しい話を聞くと、場所はこの大通りで近くの飲食店も参加する。お金は全て冒険者達で出し合ったそうで、モモンとナーベは何を飲んでも食べても無料だ。時間は午後三時からで、英雄の姿を一目見ようとたくさんの市民も来ることが予想されるから、開始の挨拶だけはモモンにお願いするとのこと。それさえ終われば宴会を楽しんでもいいし、帰ってもいいらしい。

 分かりました、と伝えて組合を後にする。

 

 さて3時まで暇だな。

 ということで、いい加減文字が読めないのは不便なので、文字の勉強でもしよう、と思い付き本屋に寄って、簡単そうな本や絵本などを買い込み、ナーベと一緒に勉強して過ごすのだった。

 

 

 14:00頃──勉強も飽きてきてしまった。

 そういえば祝宴会なら今の格好だと不適切ではないか?今の格好は良く言ってもそこら辺の旅人だ、そのことをナーベラルにも伝えるが、それは否定されてしまう。

 至高の御方が纏うものはその存在故、全て美しい。ということらしいのだが、そういうことではないので、着替えることに決める。

 アインズはナーベラルが持つ服装までは流石に把握しておらず、装備やアイテムしか覚えていなかったことに後悔しながら、彼女が持つ服装の中でメイド服以外のそれらしい服装に着替えてくれ、と伝える。

 

 女性が着替える場にはいてはいけないので、この場から離れようとするがナーベラルは着いてこようとする。そういえば今日はずっと側にいないとなんだっけ、と自身が出した褒美を思い出し、ナーベラルに背を向けて、彼女に着替えるように言う。

 後ろで着替えるナーベラルに意識を向けないように、音もなるべく遮断して、アイテムボックスから自分の服を選ぶことだけに集中する。ナーベラルが今どっちを向いているのかわからないが、アインズも着替えないといけない。別に見られたところで減るものもないし、と思いそのまま着替え始める。

 アインズは自分が着替える事だけに集中して、着替え終わったあとナーベラルに声をかける。

 

 

「ナーベラル、着替え終わったか?」

 

 

 後ろを向きたいが、向いていいのかどうかわからないのでナーベラルに尋ねる。変な服装ならまたナーベラルを着替えさせないといけない。

 

 

「はっ!ご命令通り、正装に着替えました。」

 

 

 別に正装に着替えろと言ったつもりはなかったのだが、まあ一応祝勝会のようなものだし、別に正装はダメという訳でもないだろう。

 着替え終わったそうなので、安心して後ろを向く。着替えたナーベラルを見た瞬間、時間が止まったようだった。

 弐式炎雷さん、あんたは────稀代の天才だっ!!!

 かつての友人を心の中で褒め称える。

 

 先のナーベラルではないが、彼女ならどんな服を着ようが美しく見え、むしろナーベラルが着るからこそ、その服も美しく見えるだろう。

 しかし、今のこの姿はどうだ。ナーベラルの為にあると言ってもいい、そう思わせてしまう程だ。

 

──それは着物だ。

 

 全体の色は少し赤みがかったピンクで、何重にも折り重ねられた生地でいて、一枚一枚の生地がそこまで厚くないので、ナーベラルの体を大きく見せることなく、むしろ全体を引き締めており彼女のスタイルの良さだけを感じさせ、そのシルエットは想像させない。

 また着物全体には様々な大きさの花が散りばめられており、色は白や黄色のパステルカラーによって暖かみを感じさせるが、薄い青色の花を一部に入れることによって暖かみだけでなく、涼しさを感じさせる工夫が施されており、それでいて主張し過ぎず、あくまでも主役はナーベラル自身だと思わせる。

 着物の繊維も見事なもので、少しの光を反射しその光沢によって、色以上に着物を明るく感じさせ、輝いているという錯覚さえ覚えてしまう。

 それらの着物を支えている帯はやや薄い黒でその中に小さな白い花を咲かせることにより、高級感を漂わせ、全体の雰囲気を変えており、より一層綺麗さを増大させている。

 そして普段のナーベラルの格好とは違い着物の襟から彼女の首筋が見えており、その肌の白さと着物の色によって清楚感を増していて、彼女に目が惹きつけられ、ナーベは髪飾りもしており、ポニーテールの結び目の部分に着物のピンク色に対抗して、白と青の花が飾られておりアクセントとしてそれを目立たせている。

 

 アインズは一瞬にして、これだけのことを頭に思い浮かべた。

 わずか5秒にも満たない時間でだ。

 

 正直に言おう、見惚れた。

 

 

「ナ、ナーベラル、とても、美しい、ぞ。」

 

 

 アインズは自分の顔が熱くなっていくのを感じる。

 しどろもどろではあるが、これは褒めなくてはならない。そうしなくてはならないのだ。

 もし褒めないやつがいるとしたら、感性が違う領域の者だろう。

 

 

「あ、ありがとう、ございます。」

 

 

 いつもならもっと感謝の言葉を述べるのだが、美しいとまで言われてしまい、あまり喋れなくなってしまうナーベラル。

 アインズは自分の服装を見る。こんな服装でナーベラルの隣を歩くのか、と思い「日本代々(だいだい)大大好き」イベントの時の着物を持っていたはずなので、ナーベラルに合わせる為に自分も着物を着る。全体は紺色でそれよりも薄い色の縦線が入っているだけのシンプルな着物だが、これならナーベラルと一緒に歩いても違和感はないだろう。

 

 二人の着替えも終わり、時間もいい頃合いなので、真っ赤な顔をした二人は宿を出ていく。

 その道中、二人の姿を見て立ち止まらなかった者はいない。まるでこの二人だけ異世界にいるのではないのか、そう思わせるほど二人の姿は輝いて見えていた。そんな視線も知らず、モモンとナーベはお互い会話することなく歩いていく。

 

 組合の通りまで来ると、午前とは様変わりしていて道路にはテーブルと椅子が並べられており、中心には簡単なステージのようなものがある。道路の橋には屋台も出ていて、人も集まっている。まるで祭りのようだ。モモンはアインザックの姿を見つけ出し、近くまで行く。モモンとナーベの姿を見て、固まるアインザックだったが、すぐ現実に戻って来てモモンに話しかける。

 

 

「初めてみる格好だが、二人ともよく似合っているよ。それはもしかして、モモンくんとナーベくんの祖国の秘宝か何かなのか?」

 

 

 モモンとナーベにはわからないが、今着ている着物はこの世界では類を見ないほどの高級品に見え、しかも文化的に馴染みのないものなのでアインザックは勘違いをしたのだろう。モモンはその問いかけに、伝統衣装のようなものです、と伝えて、それよりもこれからどういう流れになるのかを聞く。

 流れで言うと、まず冒険者の一人がどうしても司会がしたいと言うので、その人に司会を任せて、祝宴会が始まる前にモモンの紹介をする。その紹介があった後にモモンがステージに立って、開始の挨拶をする。というシンプルな流れだ。

 その際、すでにかなり目立ってしまってはいるが、サプライズみたいな感じで出て行った方がいいだろうと言われ、紹介があるまではステージ近くにあるテントで隠れててくれと言われ、声を大きくする為にアイテムを渡される。

 

 モモンは言われた通りナーベと共にテントの中に入り、名前が呼ばれるのを待つ。

 

 

 それから数分後。

 

 

「それではみなさん、大変お待たせいたしました!これより、昨夜のアンデッド事件を勝利したことを祝って、冒険者主催の祝宴会を開きます。司会はこの私×××が務めさせて頂きます。まず初めに、この方に挨拶して頂きましょう!もはやその名を知らぬ者はエ・ランテルにはいない、勝利の立役者、漆黒の英雄モモン様と美姫ナーベ様です!!!」

 

 

 ようやくモモン様とナーベ様を拝むことができる。

 司会者の言葉を聞き、一気に歓声と拍手が沸き起こる。それはそうだ、昨夜のモモン様とナーベ様はこの街の英雄なのだ。昨日の一件が無ければ、自分達もモモン様とナーベ様の名前を知ることはなかったかもしれないが、司会者の人も言っていた通り、今ではあの2人を知らない者はエ・ランテルにはいないかもしれない。

 漆黒の二人が登場するのを今か今かとワクワクしていると、ステージを登る二人が見えた瞬間、一気に歓声も拍手も止む。その代わりに周りの人達が息を飲む音が聞こえてくる。もしかしたら自分も息を飲んだかもしれない。

 

 見慣れない衣装で、昨日見たナーベ様とは打って変わり、服装のせいか色のせいか、はたまた全てのせいか、昨日よりも、より一段と美しく見える。

 しかしそれよりもナーベ様の前を歩く男だ。ナーベ様と同じ漆黒の瞳と漆黒の髪。見慣れないそれは神秘的にすら見える。勝手に目が惹きつけられてしまう。

 しかしその顔は普通の顔。悪く言えばそういう表現になるかもしれない。ただその普通が極大限まで綺麗で美しいのだ。絶対に誰も嫌いだとは言わない。普通であるが故に──欠点がない。

 ナーベ様とは違った美しさ。ナーベ様のお姿が好みだという人がいれば、100点満点中200点をつけるだろう。逆に好みでない人なら100点で収まるはずだ。しかしあの男は──誰が見ても150点をつける。全ての人が、限界を超えた点数をつけ、好き嫌いが分かれない、そんなような姿だ。

 100点満点なのに全てが100点以上になってしまったが、これは仕方がない。2人が美形すぎるのだ。

 その男の服装はとてもシンプルな色合いではあるが、どこか威厳のようなものを感じる。

 

 あの人は一体誰なんだ。今ステージに上がっているということは、そういうことなのだろうか。

 

 

「ご紹介に預かりました、漆黒のモモンです。」

 

 

 周りが一気にざわつき始める。

「あれがモモン様なの!?」「ふつくしい」「どこに売ってるんだあの服」「ナーベ様が羨ましい」「服もお似合いだわ」などの声が聞こえてくる。自分もそれらに同意する。

 まさかモモン様の鎧の中身がああいうお方だとは思っていなかった。腕は筋肉質だがそこまで太くなく、顔ももっと厳つい顔をしていると勝手に思っていた。英雄は、こういうところから人と違うのかもしれない。

 

 

 モモンは、ざわつきが収まりはじめたので続きを言う。

 

「まず初めに、この祝宴会を開催してくださった冒険者の方々、協力してくださった方々に心より感謝を述べたいと思います。ありがとうございます。

昨夜の事件で私はたくさんの冒険者や兵士、もしかしたら一般人もいたかもしれませんが、その方々に支えられながら辛くも勝利を収めることができました。しかし──っ!!被害は出てしまった。もう少し早く行動できれば、と悔いるばかりだ。だからこそ──っっっ!!私たちはより懸命に生きなくてはならない!死んでいった人たちに心配されぬよう、どんなにもがき苦しもうとも最後まで生きて、そして──────笑顔で送り出してやるのだ!!!

それでは皆の者グラスを持て!我らの勝利にっ!!!」

 

 

「「「乾杯!!」」」

 

 

 

 あー、緊張した。途中から自分でも何言ってるんだかわからないよ。生きろってアンデッドが言ってるし…

 自嘲しながら、ふと隣を見るとのナーベが微笑みかけてくれる。その顔を見てこちらも自然と笑顔になる。そのまま二人で壇上から降りて、どうやら席は確保しておいてくれているらしいのでその席に向かう。

 席に座るとナーベは椅子をずらして、隣に座る。

 どうやらテーブルの対面だと側ではないらしい。いや、側にいろと言わなくても勝手に隣に座っていたかもしれないが。

 座ったナーベとモモンを見てアインザックが近づいてくる。

 

 

「モモンくん。挨拶ご苦労だった。私はこの後、組合に戻ってまだやることがあるから失礼するが、ゆっくり、二人でゆっくり過ごしてくれたまえ。」

 

 

 モモンはアインザックにお礼をして、彼を見送る。せっかくの祝宴会だ。少し楽しもう、と思ったのだがアインザックがいなくなったのを見て、たくさんの人達がお礼の言葉を述べてくる。

 お礼なんていいから早く楽しみたいのに、と思うのであったが、皆お礼を述べた後にグラスや皿を持って来てくれて、料理も飲み物も持って来てくれた。

 見たことがない料理、見たことがない飲み物に興味をそそられながら、今は英雄、正義の使者、と自分に言い聞かせて、表情が緩まないように自分に喝をいれて、祝宴会を楽しむ。

 

 しかしナーベを見るとあまり楽しくなさそうだ。話しかけてくる人間をうざったそうして、料理にもあまり口をつけていない。

 そんな様子のナーベを見ながら、その姿を改めて見る。

 着物姿、7年程ナーベラルの装備やらアイテムやらを弄ってはきたが、こんな姿があるとは思ってもみなかった。とても似合っていて、とても綺麗だとは思う。しかし──

 

 

「たまにはナーベのメイド姿も見たいな」

 

 

 そう、この世界に来てから未だにメイド姿を見ていないのだ。

 つい思ったことをポツリと呟いてしまう。そしてそれは思ってたより声が大きかったようで、周りを取り囲む人たちが、一斉にモモンを見る。聞き間違いじゃなければ、メイド姿って言ったのか?という感じで、皆驚いているような表情だ。

 モモンは、あ、やばい、と思いすぐさま言葉を続ける。

 

 

「ああ、いや。今じゃないぞ」

 

 

 とりあえず、 モモンの命令ということでナーベは今すぐに着替えてしまうかもしれない、と思い、今は着替えるなと伝えるのだが、いくらナーベでもこのタイミングでは着替えないだろう、と後になって言った言葉を後悔する。

 

 ナーベはというと、つまらなそうな顔から一変して、とても嬉しそうな顔になり、椅子を更に近づけて、胸に手を当てて言う。

 

 

「はっ。それでしたら今夜にでも」

 

 

 あ、この流れは少しヤバいかもしれない。

 周りにいる人たちはナーベが本当はメイドだということを知らないのだ。つまりメイドではない者が今夜メイド服を着るということは──いや、ナーベはメイド服を着るのが当たり前であることを伝えればいいのだ。そう思い、フル回転させた頭で口を動かす。

 

 

「うん、たくさん奉仕してくれ」

 

 

 あ、終わった──。

 絶対言葉が違う。絶対おかしい。奉仕ってそういう意味じゃないだろこれ!!

 男女二人の冒険者チームで、男がこんなこと言ってたら考えられるのは一つだ。

 もう無理だ。ここから何を言ったとしても、今夜ナニをする話をしているだけにしか見えない。

 モモンは別に、周りから恋人同士と思われるのは構わなかったのだが、変態だと思われることは避けたかった。しかしそれももう無理だろう。自分が悪いのだが、低俗な輩どもめ、全てはそう思ってしまう人間どもが悪い、と勝手に責任転嫁をする。そのやりとりを見ていた周りの連中はヒソヒソ話に夢中だ。

 

「やっぱりモモン様とナーベ様って」「英雄色を好むっていうし、マシな方だろ」「ナーベ様のメイド姿俺も見たい」「いやむしろモモン様にメイド服を」

 

 一人変なのがいるが、そんな声が聞こえる。

 聞こえるように言うなよ。

 モモンはそれら全ての声を遮断し、笑顔になったナーベが、誠心誠意尽くさせて頂きます。と言うのを見ながら、まあ久々にナーベラルのメイド姿が見られるならいいか、と諦め、このまま帰りたい気持ちだが余計邪推されそうなので、ナーベと一緒に席を立ち、屋台や催しなどを見て、頃合いを測って宿に帰ろうと考える。

 

 それからしばらくして街も暗くなり始め、明かりが灯された頃、モモンはウキウキなナーベを連れて宿屋に戻り、扉を開けてもらって部屋の中に入る。

 

 最近は、扉は開けなくていいと言っていたせいか、ナーベが先回りして扉を開けることは少なくなっていた。だが今夜は、たくさん奉仕してくれと命令してしまったせいか、気合いが入っているのだろう。

 ナーベはモモンが部屋に入ったことを確認してから自分も部屋の中に入り、モモンに、メイド服に着替えます──と伝えて、メイド服に着替える。

 

 

「アインズ様。着替え終わりました。これからはご要望通り、メイドとしてご奉仕させて頂きます。」

 

 

 アインズはナーベラルの方を向く。

 ナーベラルのメイド姿を見るのは数日ぶりくらいのはずなのだが、初めて見た気分にさせられる。普段見てたナーベラルのメイド姿はゲーム内での話で、その頃のナーベラルは自由に動くこともなく、喋ることもなく、ただそこに立っているだけだった。しかし今は自分で意思を持ち、行動して、生きているのだ。

 アインズはひれ伏しているナーベラルを立たせて、近くまで歩いて行く。アインズは変身を解きアンデッドに戻り、服装もいつものローブに戻す。

 

 

「ナーベラル、頭を撫でても良いか?」

 

 

 アインズはいつもそうしていたように、ユグドラシルの頃のようにメイド姿のナーベラルの頭を撫でたかった。

 

 

「はっ!もちろんでございます。アインズ様。お、お願いし、ます。」

 

 

 照れながらも撫でやすいように頭を出して来るナーベラル。アインズはその頭を優しく撫でる。あの頃と同じ服装で、あの頃と同じように撫でているはずなのだが、やはり初めてのように感じる。違いと言えば、ナーベラルが生きていることなのだろう。

 この数日間、ナーベラルが生きていなかったという訳ではないが、どこか現実味を感じていなかった。まだゲームをやっているような気分だったのかもしれない。ここは現実だと知っていたはずなのに、ナーベラルの格好がいつもと違うというだけで、現実だと認識し切れていなかったのかもしれない。

 しかしこの姿──いつも見ていた姿で頭を撫でると、ユグドラシルの頃なら無表情のままどこか遠くをまっすぐ眺めていたはずが、今は目を瞑り、少し下を向きながら嬉しそうな顔で頭を預けている。

 

 しばらく撫でた後、頭から手を離すと少しシュンとした顔をして、すぐに顔を戻す。これはこっちの世界に来た時にいつも見るナーベラルだ。

 アインズはこのナーベラルのこの一連の動きを見て──ナーベラルは本当に生きているんだな、と本当の意味で理解したような気がした。

 

 今まで死んだらどうなるのかなんて考えたこともあったけど、恐らく、死んだら本当に死ぬんだろうな。ナザリックもないから復活もできない。もし俺が死んでしまったら、多分ナーベラルも──。

 

 アインズはその考えに思い至り、まだ情報がないうちは常に安全策を用意しておくべきだ、と自身の考えを改めた。

 そして嬉しそうな顔をしているナーベラルを見て、1度その思考を外して、健全な奉仕をたくさんしてもらうのだった。




本当はアインズ様とナーベラルをベロンベロンに酔わせた話を書いたのですが、二人が酔った勢いで甘々な雰囲気になってしてしまったのでそれは今の段階では許せませんでした。
酒の力に任せてそういう雰囲気になるのは許せんよなあ!!

次回はこれの次の日
『伝説VS伝説』
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