英雄と美姫の物語   作:ながしながされ

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今回少し短いですが、次回の話は2話同時更新です。

前回のあらすじ
アインズ様「メイド服の話をしたやつは殺す」


十二話『剣の高み』

 あれから1週間。

 モモンとナーベは冒険者の依頼を受ける事はできないと伝えられていたので、崩れてしまった建物の瓦礫の運搬や、死体の片付け、道路の掃除などをしながら過ごしていた。

 また寄付金を送ったり、ボランティアもたくさんこなした。その間は市民からたくさん感謝され、モモンとナーベが手伝いをしたお店などには2人が許可を出し「チーム漆黒立ち寄り場所」という張り紙がされ、そのお店が繁盛するなど、歩くだけで影響力のある冒険者となっていった。

 その張り紙がされているお店に漆黒の2人が来店した際には、2人はかなり優遇され、飲食店であれば基本は無料、何かを売っている店であれば大抵のものは無料か、半額以下で買えてしまう。最早店はスポンサーのような感じになっており、モモンが懸念していた、金が底を尽きるというのは余程のことがない限りはあり得ないだろう…それでも黄金の輝き亭の料金は変わらないが。

 

 そしてようやく依頼を受けられるようになった日。モモンとナーベは1週間ぶりに冒険者組合に来ている。モモンは受付嬢に話しかけようとすると、受付嬢の方からモモンに話しをかけてきた。

 

 

「モモンさん。ヘルムの修理の件に関してなのですが、修理が終わったとの事で、明日モモンさんの宿泊する宿に届けられるそうです」

 

 

 何の話かといえば、1週間前。モモンが鎧を着ていない事に気がついた市民の1人が、彼の鎧を修理しようと金を募り、モモンはヘルムだけを修理に頼んでいたのだ。ヘルムだけは壊れ具合がまあまあわかっているので修理に出せたのだが、鎧の方の傷はどうなっていたのかわからないので、自分でそれなりに修理した、という事にしてある。

 

 

「そうですか。報告していただきありがとうございます。それで今日の依頼は──」

 

 

「この野盗化した傭兵団のアジトの調査って危険じゃない?武技を使える奴がいるって話でしょ?私は(アイアン)だし、あまり乗り気にはなれないなあ」

 

 

 モモンは隣の受付の話が聞こえてきて、喋るのを止める。

 武技が使える奴か。少し気になるな。

 モモンはこの世界には武技という、ユグドラシルには存在しなかったものに少し興味があった。もし仮にモモンにも武技が使えるのであれば、今よりも強くなれる可能性がある。

 その依頼について受付嬢に確認する。

 

 

「さっき聞こえた、野盗化した傭兵団のアジトの調査というのは?」

 

 

「そちらは情報も不確かで、調査のみの依頼となっていますので、(シルバー)級冒険者とその他の2チームへの依頼となっております。モモンさんが受ける程の依頼ではないかと」

 

 

 受付嬢はそう言うが、モモンにとってはその野盗が本当にいるのであれば何をしても別にいい人間ということなので、武技について知るチャンスだと考える。今まで武技について他の人達に聞かなかったのは、アダマンタイト級冒険者が今更になって武技を教えてほしい、というのも変だし、仮に使えなかった時に、正体がバレてしまう可能性があったからだ。

 だからもし武技について知れるのであれば、この依頼は受けておくべきだろう、とモモンは考えて、その依頼を受ける事にする。

 

 

「いや、その依頼私も受けよう。確かに低ランクの依頼ではあるが、情報は不確かなんだろう?それならどんな危険があるか分からないし、調査という名目なら人数も多い方がいい。何なら私たちに依頼料は払わなくてもいいから、その依頼に同行する許可がほしい」

 

 

「で、ですが──」

 

 

 受付嬢が言いかけたところで、隣でその依頼の話をしていた冒険者の女性が、先程の不安そうな声とは打って変わり、明るい声で受付嬢の話に割って入る。

 

 

「モモンさんも来てくれるの!?それなら私もこの依頼引き受けてやってもいいわよ。アダマンタイトの実力もその目で見てみたいし」

 

 

 ということなので、モモンも急遽この依頼に参加する事が決まった。受付嬢はやや不満そうな顔をしていたが、モモンは、私はランクは高いとはいえまだ新参者だから色々な依頼をしてみたいんだ、と伝えて無理矢理納得させ、その冒険者の女性に自己紹介する。

 

 

「既に知っているようですが私は漆黒のモモン、こちらはナーベです。よろしくお願いします」

 

 

「知ってるわよ。アンタ達を知らない冒険者なんてもうこのエ・ランテルにいる訳ないでしょ?私はブリタ。よろしくね」

 

 

 ブリタはランクが上の相手でも結構フレンドリーに接してくれるようだ。最近は、モモン様!みたいにまるでナーベと話ししているかのように市民から言われ続けていたので、結構新鮮な気分だ。

 

 

「待てナーベ!」

 

 

 モモンがこんなこと言ったのには理由がある。ナーベは既に剣を抜こうとしていたのだ。

 一体何度目だろうか、ナーベは多分ブリタの口調が気に入らなかったのだろう。モモンはナーベに耳打ちするように喋りかける。

 

 

「私が言っても既に説得力はないが、なるべく殺さないようにしてくれ。もし殺して欲しかったらお前にそう言うから」

 

 

「ですがモモンさ──ん。この女はモモンさんに対して無礼な口を──」

 

 

「構わん。むしろナーベにもこうやって私に話しかけて欲しいくらいだ。敬語は諦めるが、お前が目指すべき口調はあんな感じだ。できるか?」

 

 

「か、かしこまりました」

 

 

「──ちょっと?」

 

 

 モモンとナーベが2人でコソコソと話をしているのを見て不審に思ったのか、ブリタは声を掛けてきた。モモンはすぐさま謝罪する。

 

 

「す、すみません。なんでもありません。今回の依頼よろしくお願いします」

 

 

「こちらこそ」

 

 

 モモンは強引かもしれないが、ナーベとのやり取りなど無かったかのように手を出してブリタと握手する。

 それから3人で今回の依頼を共に行う冒険者達のところに行き、皆んなが驚きながらも喜びの声を上げているのを聞いた後、自己紹介を済ませて早速調査にでかける。

 その野盗のアジトがあるという場所は、ここからそれなりに遠いらしく、到着するのは夜の予定になると言われる。今回の依頼はモモンとナーベを含めて総勢12人で構成されており、目的地に着いたら何人かに分かれて捜索をするらしい。

 モモンは、武技が使えるやつがいたらいいなと考えながら組合から出て行った。

 

 

◆◆◆◆

 

 ここはある洞窟の中、1人の剣士──ブレイン・アングラウス──は今日も剣の修行をしていた。

 

 

「ふんっ!」

 

 

 剣を振った時のシュッという風切音が洞窟の中で響く。

 とうとう完成したのだ。この技を見切れるやつなどこの世には存在しないだろう──あの、ガゼフでさえ。

 

 

「流石ですねブレインさん。何かあった時はしっかり守ってくださいよ?」

 

 

 近くから見ていた男の1人がブレインに話しかける。

 馴れ馴れしい奴だ。対人戦ができて、金払いもいいからお前らのところにいるだけなのに、誰が楽しくてお前らなんかを守るか。自分の身は自分で守れ。

 ブレインは心の中ではそう言ったが、口には出さない。ただ無言で、剣を鞘に収めるだけだ。ブレインは現在『死を撒く剣団』という野盗化した傭兵団に所属している。しかしこの団にも団員達に対してもなんの思い入れもない。ただ自分が強くなりたいだけ。“剣の高み”ただそれだけを目指して、今日も修行をしているのだ。全てはあの男──ガゼフに勝つために。

 ブレインはガゼフとは御前試合で戦う機会があった。その日までは自分は剣の腕前だけは一流という誇りがあった。

 しかしほぼ互角だったとは言え、ガゼフに敗北した。いや、互角に思えたのはその試合を見ていた観客だけであろう。ブレインにとっては、あれは完膚なきまでの敗北だったと言える。完全に全ての能力が自分よりも上だった。ブレインはただそれに食らいついたというだけで、力量差は明らかだった。

 あの当時は、その敗北にかなりの悔しさを覚えたがそれ以上に、ガゼフに勝ちたい、俺が最強になりたい、という気持ちが強く、そのためであれば犯罪組織であろうとなんであろうと利用するだけだ。そしてついに──ブレインは完成させた。誰であろうと近寄らせず、誰であろうと反応させない最強の技を。

 

 知覚不能なものでさえ知覚することができる「領域」

 反応すらさせない不可視の超高速の斬撃「神閃」

 

 その2つを組み合わせる事により完成された秘剣「虎落笛」

 

 この技であれば超えられる。この技であれば最強になれる。

 ブレインはフッと笑みが溢れる。とうとうガゼフを倒せるかもしれない技が完成したのだ。嬉しくない訳がない。

 早くこの技を使いたい。早く試してみたい。早く人を斬りたい。

 別にブレインは快楽殺人者というわけではないが、技というものは、人を相手に試す事によって意味があると考えている。いくら藁を切ろうが、いくらいい音で素振りをしようが、人相手に使えないのであれば意味がないのだ。

 

 何か実験台がいればこの技ももっと洗練されるかもしれないのだが…

 ブレインがそんな事を考えていると、1人の団員が走ってこちらに向かってくる。

 

 

「ブレインさん!冒険者に俺たちのアジトがバレました!」

 

 

 ブレインは更に笑みが溢れる。

 実験台を探しているところに冒険者の方からやって来てくれるとはなんとも運がいい。ガゼフ程ではないにしろ、冒険者であればそれなりに腕も立つはずだ。相手にとって不足はない。

 

 

「俺が相手をしよう」

 

 

 ブレインはそう言い残して入り口の方まで歩いていく。すると、2人組の旅人のような格好をした冒険者が見えてくる。ブレインはその2人の顔を見て、目を奪われる。

 1人は男性で、もう1人は女性なのだが、顔の良い悪いなどよく分からない自分でも、見ただけで「美しい」という言葉が出て来る。2人とも黒髪黒目で肌はそれとは対照的に白く美しい。今まで見たことがないような美だ。

 とてもではないが、冒険者をやっているとは信じがたい。どこかの王宮でお茶でも飲みながら談笑をしていた方がまだ似合うだろう。

 

 だがブレインはすぐに思考を変える。

 これから殺す相手にそんな事を考えている場合ではない。

 やつらがここまで来られたということは入口を見張っている団員は既に倒されているということ。

 しかも未だにのんびりな足取りで2人は歩いている。こちらに気が付いていない訳ではないはずだ。相当自分の腕に自信があるとみえる。

 その2人がブレインと会話できる距離に近付いた時、冒険者の男は言葉を発する。

 

 

「ここは依頼にあった傭兵団のアジトで合ってるのか?この場合は討伐も依頼内容に含まれるのだろうか?」

 

 

 緊張感のない声でそんなことを言ってきた。依頼、と言ったという事はやはり本当に冒険者なのだろう。にしても戦う意志がないのか、2人ともその場で突っ立っているだけだ。剣を構えようともしない。

 ブレインは相手の姿を観察する。男の方は腰の後ろに短剣が2本ついていて、女の方は普通の剣を1本腰にかけているだけだ。

 2人とも剣士?

 珍しい組み合わせではあるが、それなら尚のこと好都合だろう。ブレインは、未だに戦う意志を見せない2人に殺気を込めながら名前を名乗る。

 

 

「ブレイン・アングラウスだ」

 

 

 それを聞いた男は、おっと失礼、とだけ言って向こうも名乗り始める。女の方は特に動きはなかった。

 

 

「冒険者のモモンという。今回の依頼は調査だけなので君達を捕まえに来たわけではない。何もしないのであれば見逃しても良い」

 

 

 その言葉は嘘でもなんでもなさそうで、完全に戦意もなさそうな声で男はそう言った。しかし、見逃しても良い?──完全にこちらを舐め腐っている。ならば、自分が強者だと驕り高ぶっているあの男に、秘剣を見せてやるしかないだろう。ブレインは「領域」を発動させて構えに入り、目を閉じる。

 

 

「そうか。まあなんか強そうだし、殺すのだけは辞めておこう」

 

 

 男は未だにこちらを舐め腐りながらそんなこと言っている。ブレインは足音が近付いて来るのを感じながら、極限の集中状態だ。

 モモンと名乗った男の足音だけが聞こえる。

 

カツ、カツ、カツ────カツ

 

 今だっ!!

 ブレインは「神閃」で相手の首を目掛けて超高速の斬撃を放つ。これで勝負アリ──そう思ったのだが、ブレインの剣は途中で()()()()()()()()

 何が起こった?

 ブレインは目を剣に向ける。

 

 

「なっ────!?」

 

 

 ブレインの剣は、モモンと名乗った男の短剣に防御されていたのだ。しかし、ただ防御されただけならここまで驚かなかったかもしれない。「神閃」を防御した時点でかなりの驚愕なのだが、それよりも──防御の仕方だ。

 ブレインの剣は、モモンの短剣の刃と自分の刀の刃が()()()()()()()()()()()()()止められている。

 1ミリでもズレれば、もしくは力の加減を間違えれば、ブレインの剣は止まらずにすり抜けていたはず。しかし、そんな事は起こらずに、ブレインの刀はモモンに届く前に止まってしまった。つまり、モモンには全て見えていて、しかもこんな刀の止め方をしたということは、かなり遅く見えていたのだろう。少しでも早いと感じていればこのように止めることなど不可能。

 それが実現してしまったということは、そういうことなのだ。

 

 

「ほお、これは刀か。レアかもしれないな」

 

 

 モモンはさっきまでと全く変わらない口調でそう言った。ブレインはそれに対して何も喋らない。いや、喋れない。頭が現状に追いついていない。誰がこんなことになると予想できたのだろうか。

 ブレインがそのままの体制で固まっていると、モモンは再び喋り出す。

 

 

「それにしても、今のは武技なのか?ただの居合斬りにしか見えなかったが、でも目を瞑りながら斬りかかって来たしな。間合いに入ると発動される武技か?それとも自分の意思…。あの居合斬りも相当な速度だったはずだから、それも武技だと考えると…間合いに入るとそれを認識する武技と高速で斬撃ができる武技の可能性があるな。だとしたら2つの武技の同時発動も可能…」

 

 

 コイツ──ヤバイ。

 ブレインは目の前でブツブツ言いながら分析してくる男を心の底から恐怖した。自分の武技も言い当てられ、それでもなお独り言を言いながら更に分析しようとしてくる男がマトモな人間ではない事は確かだ。絶望感──そんな言葉で片付けていいのかは分からないが、ブレインは確かに絶望を覚えた。自分が編み出した最強の技を防御され、それを全て目の前で分析するだけで、こちらには一切目もくれないという絶望と恐怖。

 

 

 

「バ、バケモノ…」

 

 

 ブレインは思わず呟いてしまった。今目の前にいる人間を、人間だと思っていないという訳ではないのだが、だからこそより一層──気持ち悪い。

 むしろこの相手が人間ではなく異業種であればまだ納得ができた。人間には届かない領域があるという事はブレインにもわかっている。しかしコイツ──モモンはどこからどう見ても人間なのだ。にも関わらずこれだけ能力を持ち合わせており、端的に言えば『人ならざる能力』これが恐怖であり、気持ちが悪い。

 

 ブレインは何も考えられず、ただ一心不乱にモモンに剣を振る。当たり前のことではあるが、それらは全て防御されており、この状態の中でモモンは隣の女と喋り始める。

 

 

「うーん。どれが武技なのかよく分からんなあ」

 

 

「では使っていないのではないでしょうか?」

 

 

「かもしれんな。もっと派手なやつがあればわかりやすいんだが…。なあ、お前、お前は本当に()()()使()()()()()()()?」

 

 

 ブレインはその言葉を聞いて剣を振る手を止めた。目の前の男は、ブレインが武技を使ったにも関わらず、それに気付いていないのだ。圧倒的な差。ガゼフとの差とは全く違う。努力で追いつくとか、いつかは追い越せるだとか、そんな話じゃない。遥かなる高み。このバケモノは、人間にはどの蟻が1番強いのかがわからないように、ブレイン程度の実力を測ることができないのだ。

 ブレインはその事に気が付いてしまい、涙が出てくる。

 そしてそのまま振り返り、背走する。殺されないようにするためなのか、これ以上実力差を見たくないからなのか、それはよく分からないが、あれ以上戦うという選択肢はできなかった。

 

 

◆◆◆◆

 

 

「あ、行っちゃった」

 

 

 モモンはブレインと戦いながら、色々と学んでいたのだが、急に後ろを向いたかと思ったらそのまま走ってどこかへ行ってしまった。

 

 

「殺しますか?」

 

 

「いや良い。多分だがあの男は武技を使える。そんなに悪い奴でも無さそうだったし、依頼でもないしな」

 

 

 モモンはブレインから、剣の振り方や狙う箇所など様々な攻撃をしてきてくれていたので、それを分析しつつ、もし今度会えたらその時に教えて貰おうと考えていた。

 自己紹介もしてくれたのだし、恐らくだが話せばわかる人だろう。それに、アジトを見つけたと他の冒険者にも報告しなければならないし、討伐は依頼内容には含まれていない。

 モモンとナーベは一旦アジトから出て行き、一緒に来た冒険者にアジトを発見したと報告して、それを組合に知らせるべくモモンとナーベはエ・ランテルに戻ろうとする。しかし他の冒険者達はもう夜なので、と野営を勧めて来る。

 本当は野営もしたいのだが、今回の旅は男の冒険者が多く、とにかくナーベに対する目が気に入らないので、冒険者たちの誘いを断り、モモンとナーベはエ・ランテルに帰ることにする。

 

 2人は帰る途中歩きながら会話する。

 

 

「さてナーベ。お前は先の戦いで武技について何か気づいた事はあったか?」

 

 

「申し訳ございません。分かりませんでした」

 

 

「いや、戦っている私でも分からなかったのだ。謝る必要はない」

 

 

「はっ!」

 

 

「というか組合を出る前に言ったと思うのだが、ナーベは喋り方は変えていたのか?」

 

 

「一応変えているつもりではござ──変えているつもりです」

 

 

「あ、ほんとだ。フッ。でもそれ、なんか違うのか?」

 

 

 モモンは思わず素で笑ってしまう。確かに今のを聞くと変えているということがわかるのだが、どちらも大差がないように思える。そのことが少しだけ面白くて、ついつい吹き出してしまってしまったのだ。モモンは笑ってしまったことをナーベに謝ろうとすると──

 

 

「ふふ、も、申し訳ございません」

 

 

 ナーベはモモンの笑いに釣られて笑い出してしまう──すぐにいつもの顔に戻ったが──もしかしたらナーベ自身もモモンと同じような感想を自分に抱いてしまい、笑ったのかもしれない。にしても、珍しいような気がする。

 

 少なくともナーベラルと再会してから、笑顔を見せてくれる事はあっても、1度もナーベラルが笑ったところは見た事が無かった。ひょっとすると、これはナーベラルと仲良くなってきた証拠なのかもしれない。もうすでに1週間以上はナーベラルと共に時間を過ごしているし、夜の間に関してはひたすら会話をしているのだ。しかも割と話も盛り上がる。

 

 そういうのも影響して、ナーベは思わず笑ってしまったのかもしれない。モモンはそんな事を考えながら無言でいると、ナーベは急に謝ってくる。

 

 

「申し訳ございません。モモンさん。モモンさんとお話ししている最中に笑ってしまうなど、醜い姿をお見せしました」

 

 

 どうやら笑ってしまった事で、モモンが不快感を覚えてしまったと思っているらしい。

 

 

「いや、気にしなくて良い。それに私は醜い姿だなんて思っていない。むしろ私はナーベが笑った顔は好きだぞ。つまらない時は笑う必要はないが、本当に面白いと思った時は笑ってくれた方が私も嬉しい」

 

 

 モモンがナーベに本心を伝えると、急に立ち止まったかと思えば、すぐに顔を逸らして、少し俯いてしまった。

 少しセクハラじみていたか?

 モモンは少し心配になる。彼女は今、モモンと顔を合わせないよう、こちらに少し背を向け、何だか小刻みに体が震えているように見える。

 やはり、やってしまったのだろうか。モモンがどうしようか考えながら、ナーベのその姿を見ていると、彼女は両手を顔の方に持って行き(多分だが)口を押さえた。

 

 

「フフッ」

 

 

 ナーベからそんな笑い声が聞こえてくる。つまり、彼女は笑うのを我慢して体を震わせていたのだろう。どこに笑う要素があったのかは分からないが、何かが面白かったのではないだろうか。もしかしたらナーベは笑いのツボが独特で、今まで笑える事が無かっただけなのかもしれない。何かが違うような気もするが、モモンはとりあえずそれで納得することにした。

 その後ナーベは笑い終わった後に、モモンの方を見る。その表情はいつもの涼しげな顔だ。ナーベは結構切り替えが上手いタイプらしい。

 

 

「申し訳ございません。モモンさん。お見苦しい姿をお見せしました」

 

 

 恐らく笑っていたことを言っているのであろう。さっきも「醜い姿」と言っていたことから、ナーベは自分が笑う姿が好きじゃないのかもしれない。それで今まであまり笑ってこなかった可能性もある。

 ただモモンはさっき彼女に伝えたように、ナーベの笑う姿がもっと見てみたいので、それをあまり隠して欲しくはない。

 

 

「いや、ナーベ。さっきも言ったが私は──」

 

 

「お待ちください!モモン様!!」

 

 

 ナーベはモモンの言葉を遮る。かなり必死な顔だ。いつもなら気をつけているはずの『様』まで復活している。

 

 

「そ、それ以上は仰らないで下さい。耐えられません…」

 

 

 かなり真剣な顔でナーベはそう言った。

 

 

「モモンさんの仰られたご命令は承りました。しかし、先程の笑いは本当にお見苦しい限りですので、モモンさんにお見せするわけにもいかず、御身から顔を逸らすという不敬な行為をしてしまったこと、どうかお許し下さい」

 

 

 深々と頭を下げて訴えかけてくるのでモモンは、許そう──とだけ言い、話題を変えて再び歩き出して、エ・ランテルに帰って行く。

 

 

 その次の日。

 ヘルムの修理も終わったらしいので、漆黒の鎧に身を纏い、今回はアンデッドの姿のまま、戦士化の魔法もかけず、討伐依頼を受ける事にした。今までは戦士化されていたステータスにより、剣士の戦い方など気にしたことも無かったのだが、ブレインという男と戦ったことで、その重要性を理解し、なるべくステータスに頼らない戦い方をしたかったのだ。

 本来であればアンデッドの姿になる必要も無かったのだが鎧を脱ぐことはないし、戦士としてのステータスが低い状態で強敵が現れた時に、いつでも魔法で対応できるようにしておきたいので、人間の姿にはなっていない。

 武技の練習としてこの日はオーガの討伐依頼を受けた。武技の見様見真似をしながらオーガを倒したが、武技を覚える事はできなかった。

 

 その次の日もモモンとナーベは討伐依頼があればそれを利用して、武技の練習をしようと思ったのだが、残念ながら漆黒の2人が受ける程の依頼はなく、かつて1回だけともに旅をした「漆黒の剣」のように適当なモンスターを狩る事にした。しかし、やはり武技は覚えられない。次の日も、その次の日も武技を習得する事は無かった。

 

 そしてそれから1週間経った夜。今でも武技の習得はできていない。

 モモンとナーベは宿屋でその事について話し合う。

 

 

「それにしても、やはり武技は覚えられないのか?それとも時間が足りないのか、私の才能がないのか」

 

 

「アインズ様に才能がないなどと、そのような事があろうはずがございません!!武技というのは、人間のような下等生物でしか扱えないものなのではないでしょうか?」

 

 

「なるほどな。その可能性もあるか。ナーベラルもまだ覚えられていないのだろ?」

 

 

「はい。お恥ずかしながら」

 

 

「いや、構う事はないさ。もしかしたらナーベラルの言う通り、種族が関係しているのかもしれない。私も人間の姿になれるとはいえ、本体はアンデッドだからな。その可能性は十分高い」

 

 

「1つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか?」

 

 

「武技に拘る理由か?」

 

 

「はい」

 

 

「話を聞いていると、この世界にはレベルという概念が存在していない可能性がある。ならばLv.100である私にも成長の余地があるのではないかと見込んでいたのだ。どうやらハズレのようだが」

 

 

「なるほど。納得いたしました」

 

 

「ただ、ナーベラルも覚えられないとなると、そもそも私達では武技を覚えるどころか、レベルアップすらしない可能性がある。あと1週間だけこれに付き合ってくれるか?1週間追加しても無理なら諦めよう」

 

 

「もちろんでございます。アインズ様のご命令とあれば地の果てでもお供致します」

 

 

「…地の果てってどこにあるんだ?」

 

 

「さ、さあ?私には分かりかねます」

 

 

「ははは!ナーベラルが言ったんだろ?」

 

 

「ふふっ、申し訳ございません」

 

 

「さて、一旦この話は終わりにして、今日はどの装備の話をしようか」

 

 

「それでしたら──」

 

 

 そのまま2人の夜は更けていった。

 

 この日の後に、また1週間武技の練習をカルネ村でハムスケと共にやったりもしたが、2人が武技を覚える事はついにはできなかった。




 あとでボランティアの内容とか、武技の修行の話とかも書こうかしら。
 本編に書くほどではないな、と思ったのと別に書いたいところでもなかったので、飛ばしました。気が向いたら書くかもしれません。

次回『初の依頼』
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