英雄と美姫の物語   作:ながしながされ

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お久しぶりです。生存報告として、アップさせていただきます。
※こちらのお話は活動休止前の段階からストックされていたものです。

前回のあらすじ

モモンガ「サラダうまっ!?」


十七話『二人の旅行』~到着〜

 モモンとナーベの2人は早朝、再び王都へ向けて出発した。

 

 歩き続けて数時間、エ・ランテルを出てまだ4日目の夕方だというのに、既に王都に到着してしまう。

 モモンの推測として、アインザックに言われた“6日はかかる“というのは、一般人の基準なのだろう。途中で宿泊を挟みはしたが、休まず歩き続けられる2人にとって、想定よりも早く到着してしまった。

 少し道中を楽しみ足りなかった気もするが、着いてしまったのだし、そもそもの目的は王都だ。しかし、寄り道でもしておけばよかったか──そんな悔いも浮かぶ。

 それでもそれに関しては、特に気にするまでもないので、モモンはナーベを連れ、王都の冒険者組合へと向かう。

 

 それにしても──なんかメチャクチャ見られるぞ……?

 モモンはすれ違う人すれ違う人ほぼ全員に、自分たちが視線を浴びていることに少し疑問を覚えた。もちろんエ・ランテルでも、モモンとナーベはかなりの視線を感じてはいるのだが、王都はどこか視線の種類が少し違うような気がする。

 恐らくではあるが、王都の住民は、漆黒の2人を生で見た者は少ないのではないだろうか。

 それはつまり、アダマンタイト級冒険者への羨望の視線──というよりは、黒髪黒目の異邦人ということで見られているのだろう。

 また、隣を歩くナーベの存在だ。いくら異邦人とはいえ、その美しさには大抵の者が目を奪われてしまう。それらも相まり、これだけ見られてしまうのだろうと得心がいく。

 だからやけに、女性がモモンの方に視線を向けるのは、ナーベと一緒に歩く男はどういう奴なのかが気になるだけ──という訳では……ないだろう。

 モモンは自己評価が低い、それは自他ともに認める。しかしこれだけ周りから意識されてしまえば、流石にわかることもある。

 

 ナーベと同じように、自分もそう見られているのだろう、と。

 

 それでも自惚れはしない。そもそもこの見た目は、前の自分──鈴木悟──に似てはいるが、全くの別人だ。自分ではない以上、調子に乗るような無意味なことなどしない。

 

 モモンとナーベはそのまま歩を続け、冒険者組合に入る。そこの中でもやはり先程と同じか、いやそれ以上に人々がこちらを見てくるような気がする。

 ……まあ仕方ないか。ここにいる人たちは漆黒は知っていても、顔までは知らないんだからな。

 モモンは気にしないようにしながら、受付嬢に話しかけることにした。

 

 

「私たちはエ・ランテルから来た、漆黒のモモンとナーベなのですが、向こうの組合から依頼の連絡などは入っておりませんか?」

 

 

 モモンがそう発した瞬間。周りがざわつき始める。

 まさかこの2人がアダマンタイト級冒険者の漆黒の英雄モモンと美姫ナーベだとは思っていなかったのだろう。受付嬢もやや呆気にとられており、少しだけ固まるが、すぐさま動き始める。

 モモンの言葉の確認をとるため、資料を取り出し目を通す。

 そうして確認が終わると、モモンを再び見る。

 

「漆黒のお2人への連絡は今のところはございませんね」

 

 

 モモンは「そうですか」と返事をする。

 流石に、エ・ランテルをたかだか4日間空けたくらいでは、アダマンタイトが必要なレベルの事件は起こらないだろう。

 モモンは少しだけ安堵しつつ“王都ならアダマンタイト級冒険者の依頼はあるのだろうか“と気になり、再び受付嬢に問いかける。

 

 

 

「それでは王都で受けられる、アダマンタイト級冒険者の依頼はありますか?」

 

 

 

「それは──」

 

 

 

「今はないですよ」

 

 

 受付嬢の代わりに誰かが答える。モモンはその声の方向を向くと、1人の金髪の女性が立っていた。まあこの国の人たちはほとんどが金髪のだけれども。 

 その女性はモモンに目を合わせ、自己紹介をする。

 

 

「申し遅れました。私は蒼の薔薇のリーダー、ラキュース・アルベイン・デイル・アインドラと申します」

 

 モモンがその姿を目にした瞬間、視界の端でナーベがわずかに目を細めた。

 

 人間相手に「ゴミクズ」と言い放つことすらあるナーベだ。しかも今回は、同じアダマンタイト級冒険者が相手。そういう相手にまで過剰な警戒心を見せてしまえば、それこそ面倒なことになる。

──頼むから、何も問題を起こさないでくれ。

 だがナーベの表情に敵意の色はなさそうなので、モモンはひとまず胸をなで下ろす。

 

 そのラキュースという女性は、金糸のような髪を揺らしながら、上品に一礼する。その所作には、戦場で汗を流す者というより、貴族の舞踏会に似つかわしい気品が漂っているような気がする。

 蒼の薔薇──聞いたことがある。王都に2つあるアダマンタイト級冒険者チームの片方。そのメンバー全員が女性の5人組だ。

 この人がそのリーダーか。

 モモンはラキュースの姿をまじまじと見る。

 ナーベほどではないが、かなりの美人だ。それに、喋り方や仕草からも、いま目の前にいるのが冒険者だとはあまり思えない。……まあ、モモンとナーベがそれを言っていいのかは別として。

 モモンは、ラキュースが頭を上げるのを見届け、自分も名乗る。

 

 

「私は漆黒のモモン、それとこちらがナーベです。よろしくお願いします」

 

 

 ラキュースは、そんなモモンの言葉に微笑みながら口を開く。

 

 

「ええ、こちらこそ。お2人の活躍はこの王都にも届いておりますよ。聞くところによると、エ・ランテルをすでに二度も救ったとか」

 

 

「いえいえ。私が1人で救ったわけではありません。ほかの冒険者の方々の協力もあったおかげです。私がいなくとも彼らがいれば平気だったでしょう」

 

 

 ラキュースは目を丸くして、少し瞬きをする。

 

 

「本当に噂通りの謙虚な方なのですね。同じアダマンタイトとして、私たちも見習おうと思います」

 

 

 言い終えてから彼女は、目をやや斜め下に伏せる。その表情は何かを思索しているような素振りだ。

 そして再びモモンに目を向ける。

 

 

「ところで、お2人は王都にはどのようなご用事で?」

 

 

「ああ、単なる旅行ですよ。依頼もなかったので、私もナーベもエ・ランテル以外の街に行ってみたいということで、王都まで来たんです」

 

 

「そうだったのですね。どのくらい滞在されるのですか?」

 

 

 ──ん?モモンは会話の流れに、わずかに引っかかるものを感じた。あまりに自然すぎる誘導だ。何か目的がある?だとしたら一体なんだ?

 

 アダマンタイト級同士とはいえ、ただ見かけただけにしては、何か探りを入れられている気がする。

 それに、この話がしたいということは、それなりの事情がある──それも、厄介な部類の。

 モモンは前世の経験からラキュースが自分達に何かを頼もうとしているのではないだろうか、と考えた。

 モモンはとりあえず質問に答えることにして、その推察が当たっているのかどうかを確かめにいく。

 

 

「まだどのくらい滞在するのかは決めていませんが、何か厄介ごとでも?」

 

 

 それを聞き、ラキュースは諦めたように笑い、先程までの世間話をするような雰囲気から一変して、少し重い空気を漂わせながら答える。

 

 

「やはりわかってしまいますね。……この後お話しするお時間はありますか?」

 

 

  モモンは少しだけ考える。

 アダマンタイト級冒険者が、わざわざ同格の冒険者を見かけたというだけで声をかけてくる──それは、かなりの面倒事に違いない。

 しかも、おそらく人手不足が理由ではない。つまり、実力が必要とされる。

 それでいて、依頼を公に出すこともできない。

 つまりは、それだけデリケートな問題なのだろう。

 だが情報だけなら聞き出しておいてもいいかもしれない。面倒くさかったからやらないと言えばいいだけだ。

 モモンは軽く頷く。

 

「ええ、いいですよ」

 

 

 モモンが承諾するのを見て、ラキュースは先程とはまた違う笑いを見せる。

 

 

「良かったです。では少しお待ちいただけますか?」

 

 

 ラキュースはそう言って、受付嬢に何かを渡した後に再び戻ってくる。

 

 

「それでは行きましょうか。仲間達も集まっているので、そこで詳しいお話をします」

 

 

「ええ」

 

 

 モモンとナーベはラキュースの後ろをついていく。冒険者組合からはそこまで遠い場所ではないらしいので、すぐに着くはずだ。

 歩きながらラキュースは振り返る。

 

 

「すみません。お2人のお時間を邪魔するようなことをしてしまって」

 

 

「いえ、別に構いませんよ。むしろ先輩アダマンタイト級冒険者の方に声をかけていただけて嬉しい限りです」

 

 

 ラキュースは笑顔だけ返して、再び前を向く。それから少しだけ歩いた後、酒場に着く。宿屋に併設された酒場のようだ。

 漆黒の2人はラキュースの後に、その酒場の中に入って行き、1番奥の角の席まで案内される。そこにはすでに4人の女性が座っており、恐らくその4人が蒼の薔薇のメンバーなのだろう。

 1人はかなり体格の大きい戦士というか、もはやオーガだろ、と思うような体格の赤い鎧を着た女性。

 そしてやけに顔の似ている──多分双子──の忍者のような格好をしている2人。

 最後に、フードを被り謎の仮面をつけている、小さい体の多分、魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。

 

 そのメンバー達もこちらに気が付き、大きな体格の女が大きな声で話しかける。

 

 

「おう!ラキュースやっと来たか!あまりにも遅えんで、すでにおっ始めちまったぜ──ん?後ろ2人は誰だ?」

 

 

 ラキュースは小さくため息を吐いた後、モモンとナーベに「すみません」と謝る。そして、蒼の薔薇のメンバー達に2人のことを話す。

 2人の説明が終わると、大きな体格の女は値踏みをするようにモモンとナーベを見てから口を開く。

 

 

「ほう、お前達が噂の……まあ、座れや!話は呑んでからだ」

 

 

 その体格の大きい女は自身の座っているL字型のソファを詰めて、モモンとナーベが座れる場所を空けてくれた。

 その言葉に従ってモモンとナーベはそのソファに腰をかける。ラキュースはナーベの対面の椅子に座る。ちなみにモモンの対面は仮面をつけた体格の小さい女で、隣にはナーベと体格の大きい女、その斜め前が忍者のような格好の2人だ。

 座ったラキュースは改めて自己紹介をし始める。体格の大きい女がガガーラン、忍者のような格好の2人はティアとティナ、仮面をつけているのがイビルアイだそうだ。

 

 

「それでモモンさん、ナーベさん。ここまで来て頂いてこんなこと言うのも申し訳ないのですが──」

 

 

 ラキュースの2人を見る目が鋭い目に変わる。

 

 

「ここでお話しした事は絶対に他言無用です。それができないのであれば、お話しする事はできません」

 

 

 モモンは粗方予測はできていたので、迷う事なく頷く。

 

 

「それではお話しします」

 

 

 ラキュースが語った事は、この王国を裏で牛耳る「八本指」という組織についてだった。

蒼の薔薇は現在、その八本指を潰す、というのはすぐには無理ではあるが弱体化させる、という目的で動いているらしい。話によるとこれにはこの国の王女ラナーという人物も協力してくれているという話。

 もちろんモモンは王女の名前なんて知らないし、その八本指にもあまり興味はわかない。

 ラキュースの話はその八本指と戦うために協力してほしい、という事だった。特に八本指の警備部門「六腕」というのは6人で構成された八本指の警備部門らしく、1人1人がアダマンタイト級の強さなので蒼の薔薇だけでは不安が残る、という話だ。

 

 正直のところ──結構どうでもいい。

 他言無用という事は、名声を稼ぐのにも使えないし、金もいくら支払われるのかもよくわからない。しかも話によるとかなり時間のかかりそうな話だ。旅行をしに王都に来たのに、なぜそんなに面倒なことをしなくてはならないのか、という思いがモモンを悩ませる。しかしここで断ってしまえば、モモンは正義よりも実利を優先するタイプと言われかねない。そんな噂がたってしまえば、今までの名声が全て崩れ落ちてしまう可能性もある。

 モモンは1度ナーベと相談をする、と言ってこの場から離れ、店の外に出た後、人目の付かなそうなところでナーベと相談をする。

 

 

「ナーベ。この話どう思う?」

 

 

「はっ!蟻の戦争に付き合ってやる義理はないかと」

 

 

「俺もそれは思う。しかし今まで正義としてやってきた我々がこの話を断るのはおかしく感じないか?」

 

 

「であれば、何か利用方法を考えてみてはいかがですか?」

 

 

「利用方法?例えば?」

 

 

「八本指を潰す、のではなくむしろ八本指を利用すればよろしいのではないでしょうか?裏から操っている組織であれば、潰してしまうよりも利用価値の方が高いかと愚考致します」

 

 

 ナーベの提案にモモンは感激をする。

 彼女は普段はややポンコツ気味なところはあるが、人間──彼女の言うところの下等生物──を利用する、という点においてはモモンよりも頭が回る。これは完全に人間を見下していて、利用できるかできないかの2択で考えられるからなのだろう。

 モモンはその提案を受け入れて、この話を受ける事に決めた。

 

「なるほど…よし、わかった。その方向性でいこう。とりあえず、これ以上待たせるのも悪いから1度戻るぞ」

 

 

「はっ!」

 

 

 モモンとナーベは再び蒼の薔薇のところへ行き、先程の場所に腰をかける。

 

 

「ナーベと相談をしてきました。この話、私たちも協力させて頂きます。ただ我々はその八本指について何の情報も持っていませんので、もう少し詳しいお話をお聞かせ願えますか」

 

 

 モモンとナーベは八本指についての説明を受けた。

 八本指とは、麻薬・警備・密輸・奴隷売買・暗殺・窃盗・金融・賭博の八部門から成る大規模な裏組織である。

 

 ナーベの提案を受け入れるなら、まず警備部門──「六腕」を押さえるのが有効だろう。

 彼らを掌握できれば、武技やこの世界の強者に関する情報、さらにはレベルアップの手がかりも得られる。何より、八本指の主力戦力である六腕を制せば、組織全体を支配する足がかりになる。

 

 次に狙いたいのは密輸部門と金融部門。金や物資の流れを押さえれば、活動の自由度は大きく広がる。

 

 ただし、蒼の薔薇もこの二部門の実態は把握しきれておらず、現時点で明確な行動を起こせているのは麻薬部門の畑を焼き払った件のみ。

 その作戦の際、八本指の拠点に関する暗号を入手し、それをラナーが解読。襲撃に向けて戦力を募る中で、モモンとナーベにも協力の打診があった。日程はまだ未定のようだ。

 

 詳しい日程が決まり次第連絡するとのことなので、宿屋を教えてくれと言われた。

 

 

「ああ、すみません。まだこの都市に着いたばかりでして、宿はまだ決まっていないんですよ」

 

 

 モモンはそう言い、それにガガーランが反応する。

 

 

「それなら俺たちの宿屋でいいんじゃねえか?お前らだって安宿になんざ泊まりたくねえだろ?連絡も楽になるし、もっと同じアダマンタイトとして話しもしてみてえしな」

 

 

 特にそれを断る理由もないし、宿屋を探す手間も省けるのでモモンはそれを了承する。

 

 

「よしっ!それならお前らもこれから飲めるな!」

 

 

「えっ!?」

 

 

 ガガーランはモモン達の前に酒を出してくる。ラキュースはそれを止めようとするが、ガガーランは止まらない。

 

 

「いいじゃねえか一杯くらい。奢ってやるってんだから。それより俺はモモンに聞きてえんだが、お前童貞だろ?」

 

 

「えっ!?」

 

 

 この人なんかやばいんだけど…

 モモンは完全にガガーランの雰囲気に飲まれてしまい、いつもモモンらしさを失ってしまう。ナーベはというと、今すぐにでも殺しそうな勢いなので、モモンはナーベの肩に手を置きそれを止めると、ガガーランが反応する。

 

 

「何だよ、2人ともそういう関係だったんかよ」

 

 

 えっ!?何でそうなる?あ、俺が質問に対してナーベの肩に手を置いたからってこと?

 モモンは何と返そうか考えていると、イビルアイが口を開く。

 

 

「おい、ガガーランその辺にしておけ。お前が聞きたいのはそんなことではないだろう?」

 

 

「何だよイビルアイ。お前モモン狙いだったのか?それならそうと早く──」

 

 

「違えよ!!はぁ…もういい。私が聞こう。漆黒のモモンとナーベと言ったな──お前達は本当に強いのか?」

 

 

 イビルアイは単刀直入に聞いた。

 イビルアイの口ぶりからすると、ガガーランがあの態度で接してきたのも、本当はこのことが聞きたかったのかも知れない。

 しかしモモンは質問の意図がよくわからない。ここで、強いと宣言すればそれで認めてくれるのだろうか?それとも謙遜することで強いと思われるのだろうか?

 

 

「すみません、どういう意味でしょうか?もちろん自分の強さには自信がありますが、それをこの場で言って強さを認めてくれるのですか?」

 

 

 モモンはやや強気に言ってみると、イビルアイは首を振る。

 

 

「そういう意味ではない。私にはある程度強さがわかる。が、お前達2人からは何も感じない。強い弱い以前に、気配すら感じることができない。一応私たちは協力関係だ。そんな中で強さすら分からない奴をいきなり信用しろという方が無理がある」

 

 

 いや誘ってきたのそっちじゃないか!と思ったのだが、それよりも気になる発言があった──ある程度相手の強さがわかる。これは魔法によってなのか、それとも直感めいたもので判断しているのか。

 

 

「なるほど。──それは魔法的な探知によるものですか?それとも戦士としての直感でしょうか?」

 

 

「は?何を言っているんだ?もしかしてお前、相手の力量が分からないのか?だとしたらとんだアダマンタイトがいたものだが…まあいい。それでお前達は強いのかどうなのか証明できるのか?できないんだったら、悪いがこの話は降りてくれ。失敗が許される話じゃないないのでな」

 

 

 ややムカつく言い方をされるが、魔法を使わずにある程度強さが把握できるようだ。そして恐らく強さが分からないのはモモンもナーベもつけている、探知阻害の魔法のせいだろう。それを確かめるために、ナーベに指輪を外すように言う。

 

 

「では、あなたの言う通り強さを見せましょう。ナーベ、指輪を外せ」

 

「はっ」

 

 ナーベが静かに指輪を外す。

 もちろんモモンには特に変化は感じられない。

 

 ──だが、場の空気は確実に変わっていた。

 

 ラキュースが反射的に立ち上がり、背後に倒れた椅子が床を叩く。ガガーランは膝をテーブルにぶつけ、飲み物が跳ねてこぼれる。

 ティアとティナは無言のまま腰に手を伸ばし、刃を抜く。視線はまっすぐナーベに向けられていた。

 

 唯一、イビルアイだけがゆっくりと立ち上がり、仮面の奥から鋭くナーベを見据えている。

 

 

「お前……何者だ?」

 

 静かながら、刺すような声。

 当然ながら、ナーベは答えようとしない。ただ、何事もなかったように指輪を嵌め直そうとしていた。

 

 代わりに、モモンがその場を収めるように口を開く。

 

 

「強さを証明しろと言ったのはあなたですよ。これで分かっていただけましたか?」

 

 

 モモンの言葉によって、蒼の薔薇は少しだけ警戒を解いてくれたようで、再び皆座りイビルアイがナーベに向かって話しかける。

 

 

「確かに第五位階魔法を使えると言う噂は本当だったようだな。疑ってすまなかった」

 

 

 その謝罪に対して、やはりナーベは特に何も言わなかったので、モモンが代わりに、気にしない下さい──と言って、蒼の薔薇からこちらに伝えたいことはもう特にないらしいので、宿屋の場所を聞き、酒場を後にした。

 

 蒼の薔薇から教わった宿屋に向かい、途中道を間違えて路地裏に入ってしまったが、すぐに修正できたので無事に宿屋に着くことができた。

 2人部屋を希望した後、部屋に入る。流石はアダマンタイト級冒険者が宿泊している宿なだけあって、黄金の輝き亭と同等かそれ以上の部屋のように思える。それのせいで、一度宿屋に入る前に警備兵に呼び止められて、身分証の確認をされたりしたのだが、アダマンタイト級冒険者だと知り、すぐ通して貰った。

 それに関しては特に何も思ってはいないのだが、部屋に風呂がないのはいただけない。何で個室の風呂がないのかが甚だ疑問だ。いい加減風呂のある部屋に泊まりたい。

 そんなことを考えながらソファに腰をかけて、ナーベを呼ぼうとした瞬間──。

 

 

「偉大なりし我が主モモン様」

 

 

 半蔵が突然現れた。

 モモンは少しびっくりして叫び出しそうになってしまったが、なんとか抑えられたので、呼吸を整えてから半蔵を見る。

 その手には人間を持っている。血は出ていないようだが、生きてはいなそうだ。

 というか、誰だこの男?

 それはモモンには見覚えのある人間ではなかった。モモンはソファに座り直して呼吸を整えてから、半蔵に聞くことにする。

 ちなみにナーベは、突然現れた半蔵に切り掛かる寸前だったのだが、半蔵だと気がついて剣を止めており、何事もなかったようにソファに腰を下ろしている。

 

 

 

「一体何があったのだ?」

 

 

「はっ!実はこの人間がモモン様とナーベ様を襲おうとしていたので、殺して持って参った所存です」

 

 

 襲い掛かろうとしていた?随分と王都は治安が悪いな。

 

 

「なるほど。それで、その人間は誰だ?」

 

 

「わかりませぬ」

 

 

 殺す前に情報を引き出しておいてくれよ、と少し思ったのだが、襲おうとしていたのであれば、守ることを優先して気絶などさせずに、殺す方が確実だと半蔵は考えたのだろう。

 

 

「いつからつけていた?」

 

 

「つい先程でございます。モモン様とナーベ様が路地裏に入ってから付けていたようです。そしてお2人が宿屋に入るのを確認して、剣を抜いて突撃しようとしていたので殺しました」

 

 

 路地裏といえば確かにさっき通ったばかりだ。半蔵からすれば、尾行をしていた人物がたまたま同じ方向に向かっている人物なのだか、悪意を持った人物なのかの判別が付く前に、宿屋についてしまったのだろう。そして剣を抜いたから、確定だとして殺してしまった、というところだろうか。

 それで、この死んでる男の目的はなんだろうか?金銭目当て?いや、あまり目立つような格好はしていないはず。そもそも漆黒のモモンとナーベと知って襲おうとしていたのか、そうでないのか。

 しかし流石に半蔵もそこら辺は知らないはずだし、それを聞くためだけに蘇生もあまりしたくない。

 

 

「情報が欲しかったから殺すのは避けて欲しかったのだが、そういうことなら仕方がない。よくやったぞ半蔵」

 

 

「ははっ!ありがたき幸せにございます」

 

 

「ふーむ。それでその死体はどうしようか。ここに置いておくわけにもいかないだろうし、どこかに捨てて──いや。待てよ…」

 

 

 モモンはある可能性を思いついた。

 せっかくの死体であれば、アンデッド化させてしまって、自分の駒としたい。しかし、デスナイトとかを作ってしまえば、この王都は大混乱になってしまうだろう。では、見た目がデスナイトでは無かったら…?荒唐無稽な話になるかもしれないが、デスナイトにあの足輪を使ってみたらどうなる?人間になれるのか?その場合、忠誠心はあるのか、デスナイトにどういう意識があるのか、そういったところの実験にもなる。もし足輪が使えなかったとしても、それはそれで大切な情報だ。

 今思いついたことを実行するべく、半蔵に命令を下す。

 

 

「半蔵、絶対に人目につかない場所にその死体を運んで、位置を知らせろ。後から私とナーベも向かう」

 

 

「ははっ!かしこまりました。モモン様」

 

 

 半蔵はそう言い残して、この場から消える。

 

 

「ナーベ、半蔵から位置を教えられたら、フライで俺を運んでくれるか?」

 

 

「はっ!かしこまりました、モモンさん」

 

 

 それから少しすると、半蔵が帰ってきて、位置を教えてもらう。モモンとナーベはそのまま外に行き、モモンはナーベにフライでその場所に運んでもらった。

 そこはちょっとした森の中で、確かにこの時間から好き好んで森の中に入ってくる人間は恐らくはいないだろう。一応、半蔵に辺りを警戒させておき、モモンは自身の変身を解いて、死体をデスナイトに変えて、命令を出す。

 

 

「デスナイトよ。この足輪を使って、人間の姿になれ」

 

 

 デスナイトはモモンの命令通り、足輪を使って変身をする。

 おお!!やっぱり人間になれるのか────って、誰?

 足輪は効果を発揮して、デスナイトは人間の姿へと変わったは良いものの、顔がさっきの男とは比べ物にならないくらい、美化されていた。

 さっきまで顔は痩せてて、肌の色もそんなに良くなっただろ。なんか小汚かったし、何でこんな顔に変わるんだ?もしかして、足輪を使うと副作用として顔が美化されてしまうのか…?

 モモンは自分の姿もかなり美化されていたので、恐らくこの足輪の効果によって顔というか、姿全体が美化されてしまうのだろうと結論づけた。ただ、そんなことはさておき、ここからが本番だ。モモンは恐る恐る、デスナイトに話しかけてみる。

 

 

「デスナイトよ」

 

 

「ははっ!」

 

 

 デスナイトはその場で平伏して、まるで会った頃のナーベラルのような態度で接してきた。つまり、忠誠心はあるようだ。それに声なども違和感がないので、人間の声帯で喋っているのだろう。

 では次の確認作業だ。

 

 

「貴様は人間だった頃の記憶は持っているか?」

 

 

「はっ!持っております」

 

 

 モモンは内心ガッツポーズをする。それでこの男が何をしに来たのか確かめることもできるし、他にも選択肢がかなり広がる。殺してから忠誠心を無理矢理芽生えさせて情報を引き出すこともできれば、人間の姿のままなので、用がない時は人間社会に溶け込まさせることもできる。

 なんなら全ての人間を殺してアンデッドにすることができれば、世界征服も余裕で可能だ。まあ、あの1つしかない足輪を使うのはかなり面倒だし、全ての人間を殺せるのだったらそれ以外の方法で世界征服ができているだろう。

 とりあえずモモンは目の前の元デスナイトから情報を引き出すことにする。

 

 

「では、デスナイトよ。人間だった頃の名を名乗れ」

 

 

「はっ!サキュロントと申します」

 

 

「なぜ私たちを襲おうとした?」

 

 

「申し訳ございませんでした!この罪は私の命を持って──」

 

 

「構わん。ここで貴様に死なれるとわざわざ貴様を作った意味がないだろ?少しは考えろ!」

 

 

「ははっ!申し訳ございません。私が襲おうとした理由は、スタッファン・へーウィッシュという男に金を積まれ、至高の御方のお妃様を連れてこいと命じられた次第でございます」

 

 

「ん?き、妃?ナーベのことか?」

 

 

「その通りでございます」

 

 

「な、なるほど」

 

 

 別にナーベは妃ではないが、そんなことより、大体の事情は理解できた。つまり、こいつは元々傭兵か何かで、そのスタッファンというやつがナーベを一目見て惚れて、攫おうとした、というところだろう。そのスタッファンというやつは後で殺すとして──

 

 

「お前は人間だった頃は傭兵か何かだったのか?」

 

 

「はっ。私は八本指の警備部門、六腕の1人でございました」

 

 

「えっ」

 

 

 予想外だ。こいつが六腕の1人?それならかなり利用価値が高いぞ。それならこいつを利用して六腕を呼び出して、全員アンデッドにしてしまえば、ナーベの提案通りにすることができる。

 

 

「あー、サキュ…何だったか…もういい今日から貴様の名前はサキだ!」

 

 

「おぉ!!私如きに御自ら名を与えてくださるとはなんたる喜び!では私はこの時より、サキと名乗らせていただきます」

 

 

「う、うむ。それよりも、残りの六腕をここに呼び出すことは可能か?」

 

 

「はっ!ご命令とあらば必ずや!」

 

 

 なら、残りの六腕も殺して配下に置いてしまった方が良いだろう。サキが突然いなくなってしまえば、六腕の連中も彼を探し始めるだろうし、生かしておくよりも配下にした方がメリットは大きいはずだ。そのメリットは全然思いつかないけど…

 

 

「ではここに残りの六腕を呼び出せ。一応半蔵を連れて、抵抗するようなら死体だけ持ってこい」

 

 

「ははっ!」

 

 

「ただその前に──」

 

 

 顔が変わりすぎなんだよなあ。殺す前と同一人物だ、と言われても他人の空似としか思われないレベルになってるぞ。このまま、その六腕に会ったところで「誰だお前」と言われることは確定だろう。

 

 

「ナーベ!」

 

 

「はっ!」

 

 

「この男の顔を判別できないレベルまでボコボコにしろ。今は忠誠を誓っているとはいえ、ナーベを襲おうとしていたやつだ、徹底的にやれ!」

 

 

「お任せください。モモンさん」

 

 

 それからナーベはサキの顔を鞘が付いたままの剣でボコボコにする。サキは抵抗することなく、殴られまくっている。どんどん顔が膨れ上がっていき、瞼の辺りも腫れてしまい、目が開いているのかどうかすらわからない。前歯も何本も折れてしまい、血だらけだ。これなら何とか死ぬ前と今の美化された顔との差にも気付かれないだろう。

 それにしても、ダメージを負えばしっかりと血が出るのだな。新たな発見だ。これでこいつが六腕を呼び出して──ん?

 

 

「待てナーベ」

 

 

「はっ!」

 

 

 今気が付いたのだが、わざわざこいつに呼び出して貰わなくても、場所だけ教えてもらって半蔵に任せた方が楽ではないか?六腕は一応アダマンタイト並みの強さらしいし、サキのステータスだけデスナイトの状態じゃ殺される可能性もある。半蔵ならこいつを殺せたことから、他のやつも殺せるだろう。

 

 

「サキ、お前をボコボコにする意味は無かったようだ」

 

 

「ぃ、ぃえ、ムォモンしゃま、わたしあ、おんみを──」

 

 

「もう良い。わかったわかった」

 

 

 ボコボコにしすぎて全然喋れていないので、聞くに耐えずモモンは言葉を遮った。まあ、こいつも罰を欲しがっていたのだし、それで勘弁してもらおう。そして新たに思いついたことをサキに伝える。

 

 

「これから貴様に新たな命を与える。その六腕がいるところを半蔵に伝えて、半蔵に全て殺してもらい、ここまで持ってこい!」

 

 

「ふぁ!かしこまりましぇた!」

 

 

 サキはそう言って、半蔵に連れられながらこの場からいなくなる。

 

 

「路地裏に入ったのはこれが狙いだったのですね。流石は至高の御方──いえ、モモンさん」

 

 

 ナーベは嬉々として急に褒め始める。確かに、ナーベラルからしてみれば、モモンは場所を聞いていたのだ。道に迷うわけが無い。つまり何かしら狙いがあったということになる。その狙いはあの六腕を誘き寄せる為だった、という考えなのだろう。

 

 

「至高の御方とやらはとんでも無いな」

 

 

 あ、考え事してたら変なことを口走ってしまった。

 

 

「まさしく!流石はモモンさんでございます。もしやあの冒険者チームと会ったところから、いえ、この旅行をご計画された時からこのことをお考えだったのでしょうか?」

 

 

 旅行を計画立てたときからここまで考えていたら頭が良いとかそんなんじゃなく、未来視だろそれ。モモンはかねてよりナーベのこう言った勘違いを正そうとしているのだが、その兆しは中々見えない。

 それでも、ちゃんと言っておこう。

 

 

「いや、流石にそこまでは考えてはいなかった。路地裏に入ったのは道に迷ったからだし、サキがつけてきたのも本当に偶然だ。もちろんこの旅行もそんなことを考えていたわけでは無い」

 

 

「なるほど。ではそういうことにしておきます」

 

 

 今回も失敗だったようだ。しかし仕方がない、勘違いしている方が悪いのだ。

 モモンはそのままナーベと適当な話をして、時間を潰す。

 それから数分経ち、半蔵が戻ってくる。

 

 

「モモン様。六腕を連れて参りました」

 

 

 死体が目の前に5体置かれる。かなり綺麗な死体なので、一応顔だけ確認をしたあと、全てをデスナイトに変えようとするが、1人だけデスナイトにできなかった。なんでだろうか、と考えていると、サキが教えてくれる。

 

 

「その者は不死王デイバーノックという者でして、元がアンデッドなのです」

 

 

 その言葉にナーベが反応をする。

 

 

「不死王ですか。下等生物には過度な二つ名ですね。モモンさん、このような身の程を弁えることのできない下等な生き物にかける慈悲はないかと。この世で不死王と名乗って良いのはこの世でモモンさんお1人だけです」

 

 

 ナーベさんはかなりお怒りのご様子だ。

 慈悲をかけるも何も、死んでるから何もできないのだが…。とりあえず、整理してみると、アンデッドの死体は再びアンデッドとして蘇らせることはできないらしい。ただそれも当たり前の話で、アンデッドの死体を再びアンデッドにできるなら、何度でも復活可能な、絶対に死なない軍団が出来上がってしまう。チート技も良いとこだ。

 とりあえずこの死体は半蔵にどこかにやってもらい、今デスナイトに変えた奴らを、人間の姿に変えることにする。

 全てのデスナイトが人間の姿になった後、サキも含めて5人は モモンの前に平伏する。顔はやはり、かなり美化されていて、知っている人が見かけても六腕だとは思わないだろう。

 その5人のうちのハゲの大男が代表して口を開く。

 

 

「至高の御方であらせられるモモン様よ。どうか我らにご命令を!」

 

 

「ふむ。そうだな…」

 

 

 特に何も考えていなかった。まさかこんなに早く六腕を手中に収められるとは思ってもいなかったので、何も良い案が思い浮かばない。誰か代わりに考えてくれないかな…。ナーベも流石にこいつらをどうやって有効活用すればいいかまでは考えてはいないはずだし──では違うやつに考えて貰えばいいのでは?例えばだが、六腕にも頭の良い奴がいるかもしれない。

 

 

「お前らの中で知略に優れているものはいるか?もしくは知っているか?」

 

 

「我々の中で御方程知略に優れる者はいないかと。ただ、知略に優れる者であれば存じ上げております」

 

 

 だったら、そいつも半蔵に連れてきてもらって、そいつに丸投げするのはどうだろうか?凡人かそれ以下の知能しか持っていないモモンよりも、知略に優れている人物を部下にして、そいつにこいつらを操って貰った方がいいかもしれない。

 

 

「ではその知略に優れるものを半蔵と共に殺して連れてこい」

 

 

「ははっ!」

 

 

 5人と半蔵は再びこの場から去って行こうとする。ただ、サキにはまだ聞きたいことがあるので、彼だけ残ってもらい、残りのものを向かわせる。

 

 

「それでサキよ」

 

 

「はっ!」

 

 

「ナーベを襲おうとした経緯をもっと詳しく教えてもらおうか」

 

 

 サキは頭を下げて、ナーベを襲おうとした理由を語り始める。

 その内容は、モモンとナーベが路地裏に入った時、その路地裏には娼館があったらしい。その娼館からスタッファンという男はナーベを見かけたらしく、ぜひ欲しい、と。その時たまたま娼館にいた六腕の1人──サキ──にそれを頼み込んだ。いくらでも金を出すから連れて来いと。ナーベを攫いたい理由としては、そのスタッファンという男は、美人であればあるほどその顔をメチャクチャになるまで殴りながら犯したい、という性癖らしくナーベを一目見てその欲望が抑えられなくなったのだとか。恐らく、モモンとナーベがアダマンタイト級冒険者だということを知らなかったのだろう。

 だとしても、そのスタッファンという男は生かしておくべきではないだろう。あり得ないほどの苦痛を与えて、慈悲など一切なく殺してやる。

 

 モモンはサキの話を聞き終わると、半蔵が帰ってきて、2人の死体を抱えている。1人は兵士のような格好の少年、もう1人は少し豪華そうな服を着ている金髪の少女だ。

 

 

「モモン様。連れて参りました。残りの4人は遅すぎるゆえ、私だけ先に戻らせて頂きました」

 

 

「それは構わないが、なぜ2人いるんだ?」

 

 

「はっ!実はこの女が知略に優れる人物らしく、殺そうとした際、殺すのは構わないがこの男も連れて行けと言うものでして、一応連れて参った次第です」

 

 

 殺すのは構わないと言った?変な人間もいるものだな。

 モモンはとりあえず2人をデスナイトに変えた後に、人間に変えると、すぐに少女の方は平伏する。

 

 

「偉大なりしモモン様。私の忠誠を御身捧げます」

 

 

 今平伏している少女の顔はあまり変わらなかった。元がかなり美形だったのだろう。ナーベも足輪を使ってもどこも変わったところはなかったし、いじるところがなければこの世界の人間でも顔が変わらないのかもしれない。

 少女が平伏した後に、兵士のような格好の少年も平伏する。この少年は顔はそれなりに変わったが、ギリギリまだ同一人物だと認識できる。もしかすると、年齢が幼くてもあまり顔が変わらないのかもしれない。

 モモンは平伏している少女に問いかける。

 

 

「お前が知略に優れる人物か?」

 

 

「はい。モモン様程の御方には到底届くとは思いませんが、それなりに知略に優れていると自負しております」

 

 

「そうか。人間だった頃の貴様の名前は?」

 

 

「はい、私はリ・エスティーゼ王国第三王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ヴァイセルフという名でした」

 

 

「ええぇ!?!?」

 

 

 待て待て待て!!第三王女?とんでもない人物じゃないか。なんでそんなやつが八本指に────あ、そうかっ!言っていたのは()()()()()()()()、1度も八本指のメンバーとは言っていない。

 だとしても第三王女を連れてくるか普通!?これはかなりまずいぞ。こんなことがバレたらこの国どころか、周りの国にもいられなくなる。本当にこの少女が頭いいのかも知らないし。もう賭けるしかないぞ。

 

 

「そうか。では貴様に問おう。お前はこれからどうする?」

 

 

 モモンは自分でも何を聞いているのか分からない。ただ、こんな事態となってしまえば、モモンはお手上げ状態であり、何を言えばいいのか分からなかった結果、かなり抽象的に問うことしかできなかった。つまり──丸投げである。

  モモンの問いにラナーは少し顔を下げて、何かを考える素振りを見せた後、閃いたように顔を上げる。

 

 

「なるほど……そういうことでしたか」

 

 

「え…?」

 

 

 何を理解したんだこの子は?

 

 

「流石は至高の御身。まさに端倪すべからざるとはこの事かと」

 

 

「う、うむ」

 

 

 なんか聞いた事ないような言葉を言われたような気がするが、モモンは頷くことしかできない。

 

 

「そういう事ですと、私は第三王女として王宮に戻った方が良さそうですね。何かすぐ連絡手段が取れるものがあれば良いのですが」

 

 

 そういうことってどういうこと?ま、まあ、そのまま戻ってくれるのであればありがたい、か?なら彼女の言う通りにした方がいいのかもしれない。

 

 

「そういう事であればメッセージの巻物(スクロール)をいくつか渡しておこう」

 

 

「ありがとうございます。モモン様。それと今回の件に関しての、1番の目的をお教え下さい」

 

 

 今回の件の目的って何の話をされているんだ?

 なぜ頭の良いやつを配下に置いてまでこんなことをしたのか?ということだろうか。ならば六腕を操って欲しい、ということを伝えればいいのだろうか?

 

 

「今私は六腕を配下に置いている」

 

 

「はい。それは存じております。私が下等な生き物だった際に半蔵様よりお教えいただきました」

 

 

 え?知ってんの?なんで半蔵とそんな話をしてるんだ?ま、まあそれなら話が早いか。

 

 

「貴様にはその六腕に、今は5人となってしまったが、指示を出して欲しいのだ」

 

 

「六腕を使って指示を出す…。かしこまりました」

 

 

 指示を出して欲しいと言った瞬間に、ラナーは何かを考える素振りを一瞬だけ見せた後、得心がいったように了承した。そしてその後「六腕を操る目的は何でしょうか?」と続けた。

 が、それに関してはモモンは特に何も考えてはいない。六腕を操ることができるメリットがあるのはわかるのだが、何の目的か、と問われれば実はよく分からない。

 単純に八本指の中で1番利用価値がありそうなのが六腕だったというだけで、その利用方法、さらには目的まではよく考えてはいない。しかし、やはり最終的な目的といえば、名声のため、ということになるのかもしれない。

 

 

「め、名声だ」

 

 

「名声…つまり……なるほど…。かしこまりました」

 

 

 言い終わったラナーは再び何かを考える仕草を見せる。

 どこか怪しいが、どうにか大丈夫そうだ。どこか深読みもされていそうだがなんとかなる…だろう。

 ラナーは顔を急に上げて、モモンに向ける。

 

 

「でしたら、大変恐縮なのですが、私たちよりも強いアンデッドをお貸しいただけないでしょうか?」

 

 

 んー?一体どんな話になってきているんだ?

 もうモモンには何も分からない。ここで彼女にアンデッドを貸そうが貸すまいが、また新たな疑問が思い浮かびそうだ。

 とりあえず、ラナーが何を考えているのか一度全部教えてもらおう、とモモンは考えたのだが、絶対に会話だけでは分からないと思い、今回の計画書を提出してもらうことにする。

 

 

「待てラナー。計画書を一度出してくれないか?貴様が何を考えていて、何をしようとしているのか、全て書いてくれ。そのあとでアンデッドを貸し与えるとしよう。他にも要望があれば、計画書に書いておいてくれ」

 

 

 

「かしこまりました。でしたら、足輪だけお貸しいただけないでしょうか?」

 

 

「何でだ?」

 

 

「準備期間にデスナイトになる必要がありますので、どうかお願い致します」

 

 

 準備期間ということはやはり何かしら計画を立てているだろう。何の準備なのかは知らないが。

 しかし、足輪を貸すのは少し怖い。あのアイテムを失う訳にもいかないし、いくらステータスがデスナイトになったからといっても確実に安全という訳ではないだろう。ただ、おそらくだが、このラナーという少女はかなり頭が良さそうだ。頭の回転が相当早そうに思える。その分変な深読みをしている気がするが、そこは計画書で明らかとなるだろう。

 とりあえずは半蔵を1人足輪の護衛につけて、何かあれば報告でもしてもらえば、安全であるはずだ。

 モモンは足輪をラナーに渡すと、5日後に王城に冒険者モモンとして呼んでくれるらしく、その時に計画書を渡してくれるらしい。モモンは計画書が納得のいくものであれば、アンデッドを貸すとだけ伝えて、ラナーはクライムと共に半蔵に運ばれて行った。そういえば、六腕達はまだ帰ってきていないが、彼らのことも全てラナーに任せているので、もう帰っても問題ないだろう。

 この場に残っているサキにも、娼館の場所も犯人の名前と顔も教えて貰ったので、もう特に用はないから他の六腕と合流しろ、と伝えてモモンとナーベは2人きりになった。

 とりあえずはこれで万事解決だ。六腕と第三王女が配下になったのであれば、裏からも表からもモモンとナーベの名声を稼ぐことができて、色々と融通も効かせられるだろう。

 

 

「ナーベ、一旦帰るぞ」

 

 

「はっ!」

 

 

 モモンとナーベはフライで森から抜けたところで降りる。宿屋まで飛んでいかなかったのは、せっかく王都に着いたのに、まだ何も観光できていないからだ。地面に降りたモモンとナーベは街を歩くことにした。

 

 

「ナーベ、このまま歩いて宿屋まで帰るぞ」

 

 

「はっ!しかしモモンさん。今回のご計画は一体なにが狙いなのでしょうか?」

 

 

 ナーベは先程のモモンとラナーの話がよく分からなかったようで、モモンにそのことについて聞いてくるが、モモンにもそんなことはわからないので、正直に答える。

 

 

「いや知らん。とにかく名声を高めてくれるらしいぞ。あのラナーとかいう女は第三王女らしいから、かなりコネでもあるのだろう」

 

 

「おぉ!なるほど。それであの女を配下として従えたわけですね」

 

 

「いやあれはたまたまだ」

 

 

「流石はモモンさんです!」

 

 

 全然話が通じているような気はしないが、ナーベは納得してくれたらしい。

 

 

「よし、ではとりあえず宿に帰るぞ」

 

 

「はっ!」

 

 

 そのまま、モモンはナーベのフライで運んでもらい森から抜けていった。




誤字脱字チェックが少し甘いかもしれません。当時どうやって書いていたのかすらよく思い出せません。

というか、活動休止からもう半年も経ってしまいました。本当にすみません。創作修行だなどと言って飛び出してからの一次創作は本当に沼のようで。また休止中に転職などもしてしまい、時間の使い方をただいま模索中でおります。
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