今回のアインズ様はかなり大変そうです。
注:イビルアイは母親と同じように第五位階魔法を使える才能がありましたが、あそこまでのレベルになれたのは長く生きているから、という私なりの独自解釈が入っております。
モモンとナーベは森から抜け出し、昼に通った路地裏を目指して歩く。全てはスタッファンという男を殺すためだ。
サキの話によれば、その娼館は違法なものであり、アダマンタイト級冒険者として正義を執行した──とでも言えば人を殺しても問題はないだろう。
しかしあまり拷問はできないか…。
少しばかりの苦痛しか与えられないことはやや不快ではあるが、だからと言って、拷問するためだけにその男を別の場所に連れ去るのも面倒だ。どこに連れ去ろうと、安心して拷問ができる場所などすぐすぐには見つからないだろうし、こればかりは仕方がないと諦めるしかない。
モモンとナーベはその問題の娼館に着く。
入口は少し錆びた鉄の扉で閉ざされており、割と厳重そうではある。だからと言ってわざわざ鍵を開けるアイテムなどは使わない。
こんな扉程度、モモンの腕力のみで開ける事ができるだろう。その前に──
「ナーベ、ここで待っていてくれないか?」
モモンとしてはナーベに違法娼館の中を見せたくはなかった。種族が違うとはいえ、ナーベの同性が物のように扱われている事だろう。例えナーベが傷つかないと知ってはいても、あまり見てもらいたくはない。
「いえ、私もご一緒します」
まあ、そうですよね。
ここで固辞してもどうせついて来るだろうし、一応は確認の為に言ったのだが返答は予想通りであった。そういうことであれば一緒に行くしかない。
一応モモンはナーベに、防御系のアイテムを使っておくように言ってから、それが発動された事を確認して、扉の隅に指を捻じ込んでいく。
ギィィという扉の悲鳴を聞きながら、指に力を入れていき、一気に扉を引っ張りドアが外れる。
そしてモモンは中の様子を見ると、男四人組がカードゲームで賭博のようなものをしている最中であった。
その男どもはこちらを呆気に取られたように見ているだけで、敵意は無さそうではあるが、どうせ腐った連中の仲間だ。殺しておいた方がいいだろう。
モモンは一気に部屋の中に飛び込み、その男どもの首を短剣で刎ねていく。4人は何も叫ぶ事はなく、またモモンの動きに反応する事もなく、一瞬にしてただの肉塊だ。
1人だけは首を跳ね損ねたが、短剣は深くまでめり込んでおり、即死だろう。
そもそも短剣で首を刎ねること自体難しいのだ、戦士としての技量があまりないモモンとしては3人飛ばせただけでも及第点と言える。
ナーベはモモンの後ろを歩いて追いかけて来ており、いつでも魔法を発動させる準備は整えさせてはいるが、今回に限っては魔法攻撃はあまりしてほしくない。
ナーベが屋内で魔法を使えば、例え第一位階魔法だとしても高威力で、この建物を倒壊させる恐れがあり、無駄に周りに目立たせたくはないし、そのスタッファンという男はこの手で殺してやりたいので、建物の倒壊で死亡など絶対にさせたくないからだ。
モモンは短剣についた血を振り払う素振りをしたあとに、奥の方へと進みながら、警備員らしき人間どもを殺したり、気絶させたりしながら進んでいく。
そして廊下のようなところに出てくると、少し薄暗く、衛生面もあまり良くないのかカビ臭く感じる。そこにはたくさんの扉が並んでおり、恐らくその中で違法な事が行われており、娼婦どもがあの手この手で歪んだ性癖のクズどもに犯されているのだろう。
虫唾が走る。
別にモモンは本気で正義の使者という訳ではないし、人間どもが何をしていようとどうでもいい事ではある。もはや今の自分の精神は人間ではなく、同族意識も皆無だ。しかし、だからこそ余計に──醜く感じてしまう。低レベルの者が、より低レベルの者を弄ぶ。なんと滑稽な事であろうか。
娼婦どもがどうなろうと知ったことではないが、生きているのであれば助けるに越したことはない。
とりあえずモモンは、1番手前の右側の扉から入る事にするが、この部屋はハズレだった。まず誰もいない。
その後、次の部屋に入り、ここには人がいたが目当ての人物ではないので、特に用はない。娼婦だけを助けて、男の方は気絶させるだけに留めておき、その次の部屋、また次の部屋へと進み、とうとうサキから聞いていた風貌と一致する人物の部屋に入る事ができた。
その男はモモンとナーベが入室して来た瞬間にこちらを向き、驚いた表情を見せるが、ナーベを見るなり口を開く。
「おお!!あの女を捕まえて来てくれたのか!サキュロントに頼んでいたはずだが、まあいい。お前は下がっていいぞ」
発言からしてやはりこの男が、スタッファンという事になりそうだ。脂ぎった顔で、見るも醜いほど肥え太っていて、「ひっひっひ」と下卑た笑いをしてはナーベを舐め回すように見ている。
その男の下には、あざだらけで、前歯も折れていて元がどんな顔だったのか分からないほど殴られている金髪の女性がベッドの上で横たわっている。
サキから聞いていた通りのろくでなしだ。
そして、仮にナーベが弱かったのであれば、今ベッドで横たわっている少女と同じ目に遭わされていた事だろう。想像するだけで反吐が出る。
モモンはゆっくりとその男に近づいていき、手の届く距離まで来る。
「おい、何をしているんだ、早くその女を置いて──」
「黙れ」
冷たい声でモモンは言い、これ以上スタッファンが喋れないように拳を振り上げ喉を潰す。
スタッファンはカハッという声にならない声を出し、苦しそうにしているがこの程度ではまだ足りない。モモンは更にスタッファンの髪を掴み、顔をこちらに向かせ、睨みつける。
「貴様の醜い声をこれ以上ナーベに聞かせるわけにもいかないのでな。それにしても、ナーベが欲しいだなどと、身の程を弁えない奴には困ったものだ」
髪を掴んでいる手に力を入れて、ブチブチと髪の毛が何本も抜けていく音が聞こえる。スタッファンは喉を潰されてはいるが、それでも全く声が出ない訳ではないので、気持ちの悪い呻き声を上げており、まるで豚のようであり、暴れ狂っている。
その様子を見て気持ち悪いと思ったモモンは良い事を思いつき、腰のから短剣を抜き、男の肩に刃を置く。
「貴様は太りすぎだからダイエットさせてやろう。そうだな…ナーベくらいのスタイルになれば満足じゃないのか?」
モモンはそう言ってゆっくりと、肩の肉に刃を入れ、肉を削ぎ落としていく。スタッファンは先程よりも更に暴れ狂うが、モモンの手から逃れる事はできない。スタッファンは悲鳴を上げ、外に聞こえる恐れがあるが大抵の人間は死んでいるか寝ているし、そこまで大きな声も出せていないので、問題はない。
刃は既に腕まで到達し、もう少しで第一陣の削ぎ落としが終わるところだ。
モモンは勢いよく短剣を振って、肉を切り落とす。グチュという音を立てて削ぎ落とした肉が床に落ちた。
スタッファンは既に気絶寸前だ。本当だったら全ての肉を削ぎ落としたかったのだが、これ以上は彼が持たなそうなので、せめて顔だけは痩せさせようと、次は刃を頬に当て、今度はゆっくりではなく、単純な作業として肉を削ぎ落としていく。
顔の肉を削ぎ落としている最中に悲鳴も上げなくなり、意識を保っているのが辛そうになって来ている。
治癒魔法をかけて更に追い込むか?とも考えたが、こんな男に治癒魔法は勿体無いと思ったモモンは、思い切り男の顔を床に投げつけて、完全に頭を潰す。
「すまないなナーベ。少し生ぬるかったかもしれないが、満足してくれるか?」
「もちろんです、モモンさん。私は満足しております」
ナーベは本当に満足そうな顔で、腰を曲げて深くお辞儀する。
モモンとしてはまだ足りない気持ちだったが、ナーベが満足してくれたのであればこれで良いだろう。
しかし問題としては、これが終わった後にモモンとナーベはアダマンタイト級冒険者としてこの事を報告しなくてはならないのだが…
この部屋はどう見てもやばい。死体の状態が酷すぎる。
どうしようか。
「ナーベ?」
「はっ!」
「この死体どうしたらいいと思う?」
「そのままでよろしいのでは?」
「流石にアダマンタイト級冒険者が拷問して殺すのはまずいだろう?だから聞いているのだ」
「でしたらこの建物ごと燃やしてしまうのはいかがでしょうか?」
「燃やす…か」
モモンは考える。どういう状況であればここを燃やす方向に持っていけるのか。ここを燃やすのは簡単だ。〈
では敵の中に〈
「ナーベ。〈
「おりませんでした。それが何か?」
「いや、それを使って来る敵がいれば良かったのだがな」
「なるほど。それならば作るのはいかがですか?」
作る…?そうか!下位アンデッド作成で
しかしその為には一度アンデッドの姿に戻らないとだ。そうなると、半蔵に頼んでラナーから足輪を貰ってきて貰うしかないか。
モモンは半蔵を呼び出し、足輪を取ってきて貰う。
その間に死体の1つ──スタッファンではない──を
それよりも──この娘。
モモンは記憶を見た際に、見覚えのある人物がこの娘の記憶の中にあること知る。それはモモン達と共に旅をした、漆黒の剣のメンバーの1人「ニニャ」。
ニニャと少し話をした時、夢があると言っていた。その夢が何だったのか今では知ることはできないが、今ここで横になっているこの娘──ツアレニーニャ・ベイロン──がニニャの姉だと分かれば、その夢も何であったのかは察しがつく。
モモンはニニャに関しては特に何も思ってはいない──がそれでも彼女の日記によってこの世界のある程度の常識や基準は知ることができた。
それならばこれは恩だ。その恩をモモンはニニャの姉、ツアレニーニャに返すことにする。
モモンは
彼女は様々な性病と怪我を負っており、更には妊娠までしていた。
彼女の記憶からこの妊娠が、本人の望んだ物ではないと言うのは想像に難くない。
「ニューロニストであれば、痛みを感じさせずに取り除くこともできたのだろうが、仕方がない」
モモンはツアレニーニャが記憶操作の時に気絶しているのを良いことに、
そして全てを治癒をしてやり、時が動き出す。
彼女を安全なところへ連れ出だすと、半蔵がちょうど帰ってきたので、モモンは人間の姿に戻り、再び半蔵に足輪をラナーに届けて貰う──便利な宅急便だ。
その後作成した
全ての娼婦を外に連れ出すと、見る見るうちに娼館は燃え初め、夜の路地裏だというのに人々が集まりはじめる。
「モモンさん!一体何が?」
話しかけてきたのは蒼の薔薇のラキュースだ。他の蒼の薔薇のメンバーもいて、この騒ぎに即座に駆けつけるのは流石はアダマンタイトといったところだろうか。
モモンは慌てたような口調で手短に説明する。
「話は後です!この中に六腕の1人、不死王デイバーノックがいるのです!力を貸してください!」
「なっ!?わ、わかりました!!協力させていただきます!」
「よっしゃ!俺も加勢するぜ!」
「じゃあガガーランその筋肉でこの火を止めてきて」
「ティナ、それどうやってやんだよ」
こういう状況でも瞬時に戦闘体制に入れて、しかも軽口まで叩けるのはいいパーティという証拠なのだろう。
モモンはそれを横目に剣を構えて、燃えている娼館を見る。
すると建物が崩れ始め、炎の中から人影が見え始める。
「我は不死王デイバーノック…我は不死王デイバーノック…我は不死王デイバーノック……」
…それはおかしいだろ。そう名乗れとは言ったが、そんなに連呼してたら怪しくてしょうがなくないか?
「とうとう姿を現したわね!六腕の1人、不死王デイバーノック!!」
あ、信じてくれた。
「あなた達の目的は一体何なの!王国を裏から操り、さらには街中でこんなことを起こしてまで、あなた達は何をしようとしているの!?」
「ふん。知れたことよ。我は死を司りし偉大なる御方に仕え、ここを燃やし尽くし、死体の山を積み上げては、それを御方に捧げるだけの存在」
「偉大なりし御方…?それが八本指の親玉?」
「ハッハッハ。だから貴様達は下等なのだ。八本指など偉大なりし御方にとって取るに足らぬもの。偉大なりし御方にかかればこの国は愚か、全ての生きとし生けるもの、その全てを統べられる絶対的な御方だ」
「つまり、八本指もその偉大なりし御方の手足ということ…?そんな人物が…」
おいやめろ。これ以上余計なこと言うな。確かに不死王デイバーノックの演技をしてくれとは頼んだが、そんなことを言えとは言っていないぞ。
いや、でも殆ど丸投げしてしまったのだし、責めるのはお門違いというものか…?
「その偉大なりし御方というのは何者なの!答えなさい!」
「偉大なりし御方ならそこ──」
「待て!ナーベ!大丈夫か!!貴様ああああ!!!」
デイバーノック(偽)がこちらを指を指そうとしたので、咄嗟にモモンは叫び、ナーベの背中を支えながら彼女を倒す。ナーベは何が起こったのか分からず、突然モモンに押し倒され体を抱えられてしまって顔が赤くなるが、これは未だ燃えている娼館による熱波によるものという事にしておこう。
これ以上デイバーノック(偽)に喋られては困るし、話している途中で攻撃するのは流石におかしいと思ったモモンはこうせざるを得なかったのだ。
「ナーベさん、大丈夫ですか!?」
ラキュースも心配してナーベの顔を窺う。
「だ、大丈夫じゃ、ない、れす」
ナーベはモモンとラキュースから顔を背けながらそう言った。まるで本当に何か攻撃を受けたかなような素振りだ。もしかしたらナーベも演技が上手くなってきたのかもしれない。
これに乗らない手はない。モモンはそのままの体制でデイバーノック(偽)に叫ぶ。
「貴様あ!!ナーベに何をした!!」
「えっ、あ、あっと、せ、精神的なあれだ!我の精神的なあれを受けて、おき…その女は倒れてしまったのだ!」
何だよ『あれ』って…。
しかしデイバーノック(偽)も説明してくれたのだし、これで何とかなったはずだ。
「バカを言うな!貴様から魔法が発動された形跡など無かったぞ!」
言ったのはイビルアイだ。
この女、実力を疑ってきたり、こうやって言ったり少し面倒くさいな。
何とかいい反論をしてくれデイバーノック。
「ぐう…」
おいっ!!せめて何か言えよ!!
「いえ、魔法ではなく、その…状況が……その…」
おお、ナーベも何かを言おうとしてくれているぞ!
「状況だと?何か特殊条件によって発動されるタレントみたいな何かがあるのか?」
「そ、その通りだ。あの状況は我にとって1番力が発揮できる瞬間だったのでな。に…1番厄介そうな女から対処させてもらったのだ」
…何とか耐えたか?
あの状況というのがなんだかわからないし、多分かなりの特殊条件になりそうではあるが…てかいつまで続くんだよこの会話。早くこの状況を何とかしないとだけどナーベを地面に横たわらせる訳にもいかないし…
「ナーベ、立てるか?」
「ひゃい」
本当に何か精神的なあれを受けてそうだが大丈夫だろうか?
モモンはナーベの体をゆっくり起こしてやり、ナーベを立たせる。なんだか少し足腰にも力が入っていなそうだが、大分演技に身が入っているのだろう。
あとはあのデイバーノックを倒すだけだ。こんな訳のわからない事になるとは想定外だ。早く終わらせてしまおう。
「行くぞデイバーノック!ここで滅びろ!!」
モモンはものすごい勢いでデイバーノックに飛びかかり、頭に短剣を刺す。
「ナーベ!やれ!」
ナーベに指示を出して、モモンは後ろに飛び退く。すぐさまナーベから〈
かなり呆気ない幕引きではあるが、これだけやってくれれば娼館の死体や気絶していた奴らも燃え尽きただろうし、モモンとナーベを疑う者などいないはずだ。
そしてその後、娼婦達を避難させて、火を消し止めるべく周りに集まっていた人達と協力しながら火を消していく。
そして鎮火が終わり、兵士たちも集まってきてくれたので、その人達に娼婦は任せ、兵士に事情を説明する。
それが終わった後、漆黒と蒼の薔薇は宿屋に帰りながら話をする。
最初に口を開いたのはラキュースだ。
「モモンさん、ナーベさん。一体何があったのですか?」
「先程兵士の方にも伝えたのですが、実は…あの裏路地を通った時にナーベを連れ去ろうとした輩がいまして、それを撃退した後、その者から情報を吐かせたらあの娼館は違法なものであると知ったので、いてもたってもいられず、私達だけで突入したのです。それで娼婦の方達を助けていたら、あのアンデッドが現れまして、戦闘になった際、奴は〈
ほとんど嘘は言っていない。少しだけ伝えてないことがあるだけだし、怪しまれることはないだろう。
「なるほど…そうだったのですか。しかし何故アンデッドであるデイバーノックが娼館に?アンデッドにもそういう感情が…?」
「あ、あるのではない、ですか?」
「あるぞ」
モモンが言い終わった瞬間にイビルアイが割り込む。
彼女も味方してくれるのであれば、デイバーノックが娼館にいた理由も不自然には思われないだろう。何故彼女がアンデッドに性欲のような感情があるのを知っているのかは知らないが。
「アンデッドにも恋や性欲がある奴も確かにいる。デイバーノックは会話も普通にできていたし、かなり知能が高いアンデッドだ。そういう感情もあったのだろう」
やけにアンデッドに詳しいなこの子。もしかして…アンデッドフェチ?ペロロンチーノさんもシャルティアにそんな設定つけていた気もするし、かなり特殊ではあるけどそういう人種なのかも知れない。
「にしてもモモンさん、先程は凄かったですね!」
「だな。凄え速度でブッ刺したもんな」
「暗殺者の才能ある」
話題は変わり、蒼の薔薇は口々にモモンを褒める。
「当然です」
ドヤ顔でナーベが何故かモモンの代わりに答えてくれる。
「私的にはナーベの〈
イビルアイはナーベを褒めてくれる。
しかしこの流れはあまり良くないような気もする。ナーベが実際に使えるのは第八位階であり、第五位階までしか扱えない魔法詠唱者よりも威力が格段に上がってしまう。
イビルアイはそれを少しばかり見抜いているのではないだろうか。
ここはむしろ情報を引き出すためにも話を掘り下げつつ、言い訳した方が良さそうだ。
「イビルアイさん。その魔法の練習というのはどのようにやればいいのかわかりますか?」
「あー、なるほどな。そういう事か」
ん?なんかラナーみたいな事言ってるぞ。大丈夫か?
「いや、私にもわかるぞ。ナーベは第五位階を使えるようになった後、第六位階の魔法を使えるにも関わらず、その魔法の習得方法がわからないのだな?第六位階なんて扱える人間は限られているからな」
大丈夫そうだった。むしろ都合のいい方に解釈してくれた。
「それこそ第六位階を行使できるのは帝国のフールーダ・パラダインとか、まぁそこら辺だけだからな。しかし、ナーベ、お前一体歳はいくつなんだ?」
えっ?確かにいくつなんだ?
見た目的には二十歳前後っぽいが…実際には11年とそこそこだし。ナーベラルが年齢なんて答えられる訳もないしなあ。でも代わりに答えるのもおかしいし、年齢くらいなら流石に詮索とも言えないしなあ…仕方ない…。
「あ、明日、19歳の誕生日だよな?」
「えっ?」
驚いて声を上げたのは他でもない、急遽明日が誕生日である事が確定してしまったナーベである。
いくら咄嗟に言ったからといって選りにも選って明日かよ!しかも19歳ってことは今18か?ヤバい設定が若すぎるた。
さ、流石におかしい…か?
「明日ということは、私より1つ歳下なのですね」
あぁ、大丈夫そうだった…。そういえば蒼の薔薇のラキュースも第五位階の蘇生魔法を使えるという噂があると聞いたこともあるし、その人の1つ下であればギリギリ許容範囲…かもしれない。
「19年でそこまでの力を付けたのか。ラキュースもそうだが、天才というのは恐ろしいな」
イビルアイにも19歳というお墨付きをもらったし、これからはナーベは19歳という事にしておこう。
モモンはナーベに耳打ちして謝る。
「すまないなナーベ。ナーベが創造された日付とは違う日になってしまった」
「いえ。明日が私の19歳の誕生日でございます」
ナーベの方も大丈夫らしい…というか嬉しそうな顔をしているように見えるが、後でもっとたくさん謝っておこう。
「では明日はナーベさんの誕生パーティですか?」
「え、ええ。2人しかいないのでパーティと言えるかはわかりませんが。じ、実は王都に来たのも、ナーベの誕生を祝ってなんですよ」
そ、そうだったのか?そういう理由で王都まで来たのか?──そんなわけないだろ。
モモンは自分で吐いた嘘に、更に嘘を重ねる事によって困惑してくる。
「素敵ですね!それでしたら、私もお祝いとして宿屋を訪ねても?」
「鬼リーダーそれはやめた方がいい。男女が2人で誕生日旅行に来てるなら、やる事は1つ」
「い、いえ!蒼の薔薇の皆さんも祝ってくださるのでしたらありがたいですしナーベも嬉しいよ、な?ナーベ?」
「は、はい」
やばいどんどん話が広がってきてる。
でもここで断ったら本当にやる事やってると思われちゃうし…。ナーベラルも人間と接するいい機会だと思うし、思えば今までナーベラルの誕生日も祝った事は無かったしな。
「では何かプレゼントを用意しないとですね」
そうだったあああ!誕生日と言えばプレゼント、プレゼントと言えば誕生日だ。ど、どうしよう。何も用意していないぞ、だってさっき明日が誕生日だって決まったんだもん!用意してる訳がない。
今からダッシュで用意するか?それともアイテムボックスから探すか?と、とりあえずそれは後で考えよう…ってそんな悠長にしてる時間なんてない!明日が誕生日なんだよ!別行動も許してくれないだろうし、プレゼントを買いに行く暇なんてない。アイテムボックスから喜びそうな物を探すしかないっ!!
「モ、モモンさんも私にプレゼントを用意して下さるのですか…?」
何でそんなこと聞くんだよ!!しかもそれ直接聞いちゃダメだろ!仮に用意してたとしたら、多分サプライズなんだし!いや、むしろここは申し訳ないが、用意していないと言うことで、期待を持たせないようにしてから、明日プレゼントを渡した方がいいか?それならば少しはプレゼントのハードルも下がるだろうし、サプライズにもなる。
「いや、すまないなナーベ。私は用意していない」
「い、いえ!モモンさんに謝罪して頂くような事ではございません」
口ではそうは言っているが、ナーベのポニーテールが一気に萎れたように見え、ショックを受けているように感じる。
彼女のこんな姿はあまり見たくはないが、せっかくプレゼントを用意するならサプライズにしてあげたい。心は痛むが…我慢しないと。
──でも可哀想だ。
だったらプレゼントを用意していると言って、最初にそれなりのプレゼントをして、その後に本命のプレゼントの方が良くないか?そうすれば今、ナーベラルを傷つける事もなく、サプライズにもなる…か?
「すまん、嘘だ。本当はナーベにプレゼントを用意してある」
「──っ!?そうなのなのですか!?」
ナーベは先程とは打って変わり、今度は顔に花が咲き、目が輝いているように見える。
前までは褒美を受け取るのですら嫌がっていたはずなのだが、無理矢理褒美やらを与え続けた結果、少しは期待するようになってしまったのだろうか。
モモンはこのナーベの変化に対して、プラスの感情を持っている。転移する前であれば、装備を与えても喜ぶ姿など見られなかったし、何が欲しいのかもわからなかった。
しかし今ならナーベラル・ガンマという1人の意思を持った者に対して、プレゼントを与える事もできるし、それを受け取って喜ぶ姿も見られる。
その事がモモン──アインズにとってもとても喜ばしい事であり、何ならプレゼントを嫌がってくれてもいい。あまり嫌がるプレゼントは贈りたくはないが、嫌がってくれるのであれば彼女の好みもわかるし、また新たな一面が見れるかもしれない。その事がアインズにとって、楽しみな事でもある。
「ああ、用意はしているが、ナーベは何か要望はないか?実はこれが欲しかったとか、そういうのがあればそれも贈るぞ?」
「いえ。モモンさんから頂けるのであれば、これ以上の喜びはありません」
そう言うと思った。
まあこれに関しては、急に欲しいものと言われてもすぐに思いつくものではないだろうし、仕方がない部分もある。それに、多分本当に欲しい物がないのではないだろうか?
今までのナーベラルの傾向からして、褒美で欲するものは基本的にアインズ関係であり、何かをして欲しいだとか、一緒に何かをやりたいとか、そういう系統であり、物を欲しがったことは一度たりともない。
だとしたら1つだけ、アインズにはやりたい事がある。それを明日の誕生日パーティの締めとしよう。
そう考えるとモモンは明日が楽しみになり、急遽決まった誕生日パーティなのだが、楽しく過ごせそうな気がする。
「ところで、明日は何時頃にお部屋にお伺いすればよろしいですか?」
ラキュースがモモンに尋ねる。
この聞き方からすると、ラキュースはモモンとナーベの部屋に訪れて、少しばかりのお祝いとプレゼントを渡すだけで終わりにするつもりだろう。
けれども、モモンとしてはせっかく明日が誕生日パーティなのであれば、今から準備できる範囲で最大限のものにしたい。
「明日蒼の薔薇の皆様にご予定が無いのであれば、折角ですし、一緒にナーベの誕生日会に来てくださいませんか?」
「それは構わないのですが…よろしいのですか?お2人のお時間の邪魔になってしまうのでは?」
「いえいえ。本来であれば私1人しかいなかったので、もう少し盛大にお祝いしたいと思っていたところです。それに──アダマンタイト級冒険者の皆様のお話ももっと聞きたいですし」
実を言うと、こっちの方が本命だったりもする。
レベルアップが可能とわかれば、アダマンタイト級冒険者まで登りつめた彼女達の知識が欲しい。先程イビルアイはラキュースのことを天才と呼んでいた。レベルアップに才能の有無が関係しているのは今までの事からも大体はわかってはいるのだが、もしモモンの今の状態──人間の姿で戦士化の魔法をかけておいた状態で、自分の得意とする死霊系魔法も使えるようになるのであれば、その方法が知りたい。幸い、魔法に関しての知識だけはユグドラシルでも随一だし、あとは習得方法だけわかれば、今よりも強くなれる。
六腕にも聞きたいところなのだが、聞くタイミングがあまりない。呼び出せばいつでも聞けはするのだろうが、六腕と会っている姿を周りに見せたくは無いし、ラナーにそこら辺を全て聞いておいてもらい、ラナーから教わった方が良いだろう。
「そういうことであれば参加させていただきます」
ラキュースが言ったことにより、蒼の薔薇のメンバーの参加も決まった。
ナーベは少し不満気な顔をしているが、蒼の薔薇にはお昼だけ参加してもらい、夕方ごろには解散させようとは思っているので、それまでは申し訳ないが我慢してもらおう。
モモンはラキュースに明日の朝10時に宿屋のロビーに集合と言って、ちょうどその宿屋に着いたので、そこで別れる。
そして部屋に帰ったモモンとナーベはいつもようにソファに腰をかけるのだが、モモンは誕生日パーティの予定を考えており、いつもよりも会話は少なかった。
◆◆◆◆
蒼の薔薇のメンバーはラキュースとガガーランの部屋に集合しており、今日あった出来事について話をしている。
「イビルアイ。あなたに聞きたいのだけれど、不死王デイバーノックについてどう思った?」
「正直、想定外の強さを持つ
「そうね。私も六腕を少し甘く見ていたみたい。でもデイバーノックが言っていた『偉大なりし御方』はそれより強いと言う事かしら」
「話振りからするとそうじゃねぇのか?まるで自分はその偉大なりし御方とやらの駒にしか過ぎない、みたいな言い方だったぜ」
「一体何者なの。八本指でさえ偉大なりし御方には取るに足らないとも言っていたのだし、もしや深淵より蘇りし…」
「ん?どうしたんだラキュース?」
「な、何でもないわガガーラン」
「ん?そうか?──まあでも、その偉大なりし御方とやらがいたとしても俺たちのやる事は変わらねえだろ。それにモモンとナーベとも交流が出来たんだ。あいつらもいれば八本指なんて屁でもねぇだろうよ」
「同感だな。あの2人、想像以上の強さだぞ」
「何だよイビルアイ。お前はナーベの方しか褒めてなかったじゃねえか」
「私は
「さあな。正直言って何も見えやしなかったぜ。あいつが叫んだかと思えば、気がついたら頭に剣をぶっ刺してやがった。ありゃ相当な身体能力だぞ。ティアとティナの方がわかんじゃねえのか?暗殺者としてどうとかって言ってたろ?」
「少なくとも暗殺術ではない」
「うん。多分モモンはただ飛んだだけ。私もよく見えなかったけど」
「マジかよ。漆黒のモモンとナーベ、とんでもねえバケモンだな」
「ああ、ナーベの方も第五位階魔法を扱えるしな」
「そういやイビルアイ、ナーベにもっと上の魔法を使えるって言ってたけどよ、ナーベなら第六位階も使えそうなのか?」
「私の予想だが…ナーベは第六位階よりも上の第七位階も使えるんじゃ無いかと思っている」
「第七位階!?そんなん御伽噺でしか出てこねえぞ?
「ああ。たたナーベの魔法の威力から考えるとそのくらいはあると思う。魔法が強化されるタレントとかを持っている訳じゃなければ、の話だがな」
「なるほどなあ。ま、明日また会うんだし、その時に色々とまた聞いてみるか」
「そうね。明日の誕生日パーティの時にモモンさんも私たちに聞きたい事があるって言ってたし、その時に私達からもお話ししてみたら良いんじゃ無いかしら?」
「だな。にしてもモモンが俺たちを誘って来るとは思わなかったぜ」
「確かにそうかもしれないわね。でもモモンさん、旅行しに来たって言ってたのに、私達の話を聞いてくれたり、娼館から娼婦を助けたり、本当に噂通りのいい人みたいね」
「あん?ラキュース、お前…モモンは辞めておいた方が良いと思うぞ。あいつナーベしか見えてねえぞ。ナーベが攻撃を受けた時の慌てよう見ただろ?ったく、俺の勘も鈍ったぜ。モモンは童貞じゃねぇだろうし、何ならあの2人、デキてる」
「な、そ、そうなのか?」
「は?何でお前が反応するんだイビルアイ」
「へっ!?あ、いや…私にはただの仲間にしか見えなかったのでな」
「イビルアイの目は節穴。ガガーランの言う通りモモンはナーベしか見えてない」
「だから鬼リーダーもモモンはやめた方がいい」
「私もそんなんじゃないわよ!!ただモモンさんのそう言うところを見習いたいって思っただけ。それにモモンさんがナーベさんしか見えてないのは私にも分かるわよ。私たちを誕生日パーティに参加する事になった時モモンさん喜んでたし、ナーベさんが精神攻撃?された時なんて本当に焦った顔してたしね」
「ありゃよっぽどお互いベタ惚れしてるよな。プレゼントの話の時もモモンのやつサプライズにしようとしてたみてえだが、ナーベが聞いちまったもんで『ない』って嘘ついてたし、それを聞いたナーベが悲しんでたらすぐに嘘だって言っちまったぐらいだし。てか、それよりラキュース。ナーベのプレゼントはどうするんだ?俺たちも何か送った方が良いのか?」
「流石に私たち全員から贈るのはナーベさんにも迷惑でしょ。今日会ったばかりなのだし、蒼の薔薇メンバー全員からって事で良いんじゃないかしら?」
「それもそうか。何を贈るんだ?」
「そうね、今日の明日じゃ、プレゼントを用意する時間もないし…ナーベさんは何を欲しがるのかしら?」
「プレゼントなら私がどうにかしよう」
「何かいいものでもあるの?イビルアイ」
「ああ。だからプレゼントは私に任せておけ」
「珍しいな!イビルアイがそんなことを言うなんてよ」
「先程ナーベにも言ったが彼女は間違いなく天才だ。だから少しばかり、私が力になってやろうと思ってな。何、変なものではないさ」
今回の話は私が1番訳わからなかったです。
何でこんな展開になったのか謎すぎて謎です。まさかの急遽誕生日パーティが決まったり、デイバーノック(偽)が余計な情報を与えたりと、本当に予定にない展開になってしまいました。そもそもラナーと六腕も配下にする予定なかったのですけどね。これからどうなるのか書くのが楽しみです。
誕生日パーティは少し長いので、割愛するかどうか悩み中です。
次回『二人の旅行』〜誕生日〜